説明

フィルム

【課題】 冷水可溶性を有するフィルム、詳しくは、包装材としてのフィルム強度を有し、冷水に溶解しやすく、吸湿によるフィルム表面のべたつきや機械的強度の低下が少ないフィルムを提供する。
【解決手段】 アニオン性基を含有するビニル単位の共重合率が1〜10モル%、ケン化度が80〜89モル%、20℃における4質量%水溶液粘度が8〜20mP・sのポリビニルアルコールを含有するフィルム。アニオン性基が、カルボン酸エステル、カルボン酸及びカルボン酸金属塩からなる群のうちの少なくとも1種以上の官能性基であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコールのフィルムに係り、特に、水溶性のフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性のフィルムとしては、ポリビニルアルコールに特定量の両性界面活性剤を含有させたものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このフィルムの使用方法の一つとして、各種薬品を一定量ずつ密封包装し、その包装形態(以下、ユニット包装という)のまま水中に投入し、内容物を包装フィルムごと水に溶解又は分散して使用する方法がある。このユニット包装は、危険な薬品が人体に直接触れることなく使用できること、内容物の一定量が包装されているために計量が不要であること等の利点を有する。
【特許文献1】特開平6−088002号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、水の温度が20℃より低くても迅速に溶解、分解し、吸湿によるフィルム表面のべたつきや機械的強度の低下を防止できるフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意研究を重ねた結果、アニオン性基を含有するビニル単位の共重合率、ケン化度、20℃における4質量%水溶液粘度を特定したポリビニルアルコールを含有するフィルムを用いることにより、この課題を解決できることを見いだし本発明を完成させた。
【0006】
即ち、本発明は、アニオン性基を含有するビニル単位の共重合率が1〜10モル%、ケン化度が80〜89モル%、20℃における4質量%水溶液粘度が8〜20mPa・sのポリビニルアルコールを含有するフィルムである。
更に本発明は、アニオン性基が、カルボン酸エステル、カルボン酸及びカルボン酸金属塩からなる群のうちの少なくとも1種以上の官能性基であることが好ましく、アニオン性基を含有するビニル単位が、一般式(化4)〜(化6)からなる群のうちの少なくとも1種以上を重合又は共重合したものであることが好ましい。
【化4】

(但し、l、mは0〜5の整数、A、Bは水素又はアルキル基、V、Wは水素、アルカリ金属、アンモニウム基又はアルキル基を表す。)
【化5】

(但し、nは0〜5の整数、D、E、Fは水素又はアルキル基、Xは水素、アルカリ金属、アンモニウム基又はアルキル基を表す。)
【化6】

(但し、o、pは0〜5の整数、G、Iは水素又はアルキル基、Y、Zは水素、アルカリ金属、アンモニウム基又はアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0007】
本発明のフィルムは、水の温度が20℃より低くても、迅速に溶解、分解するという効果を有する。また、20℃、相対湿度65%の雰囲気下であっても、吸湿によるフィルム表面のべたつきや機械的強度の低下を防止できるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下本発明について詳しく説明する。なお、以下特に断りのない限り、「部」は「質量部」を意味する。
【0009】
アニオン性基を含有するビニル単位は、少なくとも1種以上のアニオン性基を含有するビニル単量体を重合又は共重合して得られるものである。アニオン性基を含有するビニル単量体としては、カルボン酸基含有ビニル単量体やスルホン酸基含有ビニル単量体等が挙げられるが、操作性、安全性の点で、カルボン酸基含有ビニル単量体を重合又は共重合したものが好ましい。
【0010】
カルボン酸基含有ビニル単量体としては、一般式(化4)〜(化6)に記載したものがあり、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸及びイソクロトン酸等の重合性モノカルボン酸やそのエステル、マレイン酸、フマル酸及びイタコン酸等の重合性ジカルボン酸、無水マレイン酸等の重合性ジカルボン酸無水物、脂肪族ビニルエステル等が挙げられる。
【0011】
カルボン酸基含有ビニル単量体の中では、20℃より低い温度の水に対する溶解性を向上させる効果が高いという点から、一般式(化4)及び/又は一般式(化6)からなるものが好ましい。
【0012】
これら一般式の中で、アルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどから選ばれるものが好ましく、アルキル基は炭素数1〜4のものが好ましい。また、一般式(化4)におけるA、Bは水素が好ましく、l=0、m=1のものが好ましい。一般式(化6)におけるG、Iは水素が好ましく、o、p=0のものが好ましい。
【0013】
スルホン酸基含有ビニル単量体としては、例えば、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−アクリルアミド−1−メチルスルホン酸、2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0014】
ポリビニルアルコール中の、アニオン性基を含有するビニル単量体の共重合率は、1〜10モル%であり、2〜5モル%がより好ましい。アニオン性基を含有するビニル単位の共重合率が1モル%より少ないと20℃より低い温度の水に対して溶解し難くなるおそれがあり、10モル%より多いとフィルムが吸湿してべたついたり、フィルムの機械的強度が得られないおそれがある。なお、ここでいうアニオン性基を含有するビニル単位の共重合率とは、得られたポリビニルアルコールの全単位を100モル%とした際のアニオン性基含有ビニル単量体の共重合率をいう。
【0015】
ポリビニルアルコールのケン化度は、80〜89モル%であり、83〜86モル%がより好ましい。ケン化度が80モル%より少ないとフィルムが吸湿してべたついたり、フィルムの機械的強度が得られないおそれがあり、89モル%より多いと20℃より低い温度の水に対して溶解し難くなるおそれがある。なお、ここでいうケン化度とは、JIS K 6276「3.5ケン化度」に準じて測定した値である。
【0016】
ポリビニルアルコールの20℃における4質量%水溶液粘度は、8〜20mPa・sであり、9〜15mPa.sがより好ましい。4質量%水溶液粘度が8mPa・sより小さいとフィルムの機械的強度が得られないおそれがあり、20mPa・sより大きいと20℃より低い温度の水に対して溶解し難くなるおそれがある。ここで、20℃における4質量%水溶液粘度は、BL型回転粘度計により、20℃、30rpmでポリビニルアルコール水溶液の粘度を測定した値である。なお、4質量%水溶液粘度は、ポリビニルアルコールの重合度や、ポリビニルアルコールを重合する際に添加されるメタノールの量によって調整することができる。
【0017】
ポリビニルアルコールの製造方法は特に限定するものではなく、例えば、脂肪族ビニルエステル単量体とこれらのアニオン性基を含有するビニル単量体を公知の重合方法により共重合した後、ケン化して得られるものである。
重合方法としては、例えば、メタノール、エタノールあるいはイソプロピルアルコール等のアルコールを溶媒とする溶液重合や、乳化重合、懸濁重合も可能である。かかる溶液重合において酢酸ビニル単量体、及び、アニオン性基を含有するビニル単量体の仕込み方法は、一括仕込み、分割仕込み、連続添加等任意の手段を用いて良い。重合反応は、アゾビスイソブチロニトリル、過酸化アセチル、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどの公知のラジカル重合触媒を用いて行われる。又反応温度は50℃〜反応混合物の沸点程度の範囲から好適に選択される。
【0018】
脂肪族ビニルエステル単量体としては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリル酸ビニル、パーサティック酸ビニル、パルミチン酸ビニル及びステアリン酸ビニル等の少なくとも1種以上を用いることができる。これらの中では、実用上の点で、酢酸ビニルが好ましい。
【0019】
本発明のフィルムを形成する方法は、ポリビニルアルコールの水溶液をドラム上やベルト上にキャストし、溶媒である水を乾燥させて得る方法や、溶融押出成膜法やブロー成形法等が用いられる。
【0020】
本発明のフィルムの厚みは、特に限定するものではないが、5〜200μmが好ましい。更に、本発明のフィルムは、その表面にエンボス加工や印刷をしてもよく、可塑剤としてグリセリン等を使用してもよい。
【0021】
以下、本発明について実施例を挙げて更に詳しく説明する。
【実施例】
【0022】
(実施例1)
酢酸ビニル70部、メタノール30部及び酢酸ビニルに対して0.08%のアゾビスイソブチロニトリルを重合缶に仕込み、窒素置換後加熱して、マレイン酸モノメチル2.4部を連続に添加しながら沸点で重合し、重合率80%に達した時点で重合を停止した。次いで常法により未重合の酢酸ビニルを除去し、得られた重合体を水酸化ナトリウムで常法によりケン化してポリビニルアルコールを得た。得られたポリビニルアルコールにおける、アニオン性基を含有するビニル単位の共重合率、ケン化度、20℃における4質量%水溶液の粘度を、それぞれ表1に示した。
【0023】
得られたポリビニルアルコールの4質量%水溶液を、表面が平滑なポリエチレンテレフタレート板上にキャストし、温度20℃、相対湿度60%の条件下で乾燥して厚さ60μmのフィルムを得た。このフィルムについて、機械的強度、冷水可溶性、べたつき性について評価した。結果を表1に示した。
【0024】
(試験方法)
アニオン性基を含有するビニル単位の含有率は、NMRの測定結果より算出したものであり、ケン化度は、JIS K 6276「3.5ケン化度」に準じて測定したものである。
【0025】
4質量%水溶液粘度は、BL型回転粘度計により20℃、30rpmの粘度を測定したものであり、機械的強度は、得られたフィルムを20℃、相対湿度65%で24時間放置後、オートグラフ(株式会社島津製作所製)で引張試験をし、その破断強度を測定したものである。
【0026】
冷水可溶性は、次のように測定した。20℃に設定した恒温槽に800mlの蒸留水を入れた1リットルビーカーを入れ、攪拌子を用いて、攪拌により生じる渦巻きの下端がビーカーの600mlのラインに位置するように攪拌した。ビーカー内の蒸留水が20℃になった後、窓の大きさが35mm×24mmであるスライドマウンドにフィルムを挟み、これを水中に浸漬し、浸漬してからフィルムが完全に溶解するまでの時間を測定した。
【0027】
べたつき性は、得られたフィルムを20℃、相対湿度65%で24時間放置した後、フィルムのべたつきの程度を指触により評価したものであり、べたつきが無かったものを○、少しべたつきがあったものを△、かなりべたつきがあったものを×とした。
【0028】
【表1】

【0029】
(実施例2及び3、比較例1〜4)
表1に示したアニオン性基含有ビニル単位、ケン化度、4質量%水溶液の粘度を有するアニオン性基含有ポリビニルアルコールを調整し、実施例1と同様の評価を行った。結果を表1に記載した。なお、表1において、アニオン性基含有ビニル単量体aはマレイン酸モノメチル、アニオン性基含有ビニル単量体bはマレイン酸ジメチル、アニオン性基含有ビニル単量体cはイタコン酸、アニオン性基含有ビニル単量体dはマレイン酸をそれぞれ表す。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のフィルムは、例えば、洗剤、殺虫・殺菌剤、漂白剤、除草剤及び肥料等の粉末や粒状の薬品を一定量ずつ包装した、ユニット包装材として好適に使用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基を含有するビニル単位の共重合率が1〜10モル%、ケン化度が80〜89モル%、20℃における4質量%水溶液粘度が8〜20mPa・sのポリビニルアルコールを含有するフィルム。
【請求項2】
アニオン性基が、カルボン酸エステル、カルボン酸及びカルボン酸金属塩からなる群のうちの少なくとも1種以上の官能性基である請求項1記載のフィルム。
【請求項3】
アニオン性基を含有するビニル単位が、一般式(化1)〜(化3)からなる群のうちの少なくとも1種以上を重合又は共重合したものである請求項1記載のフィルム。
【化1】

(但し、l、mは0〜5の整数、A、Bは水素又はアルキル基、V、Wは水素、アルカリ金属、アンモニウム基又はアルキル基を表す。)
【化2】

(但し、nは0〜5の整数、D、E、Fは水素又はアルキル基、Xは水素、アルカリ金属、アンモニウム基又はアルキル基を表す。)
【化3】

(但し、o、pは0〜5の整数、G、Iは水素又はアルキル基、Y、Zは水素、アルカリ金属、アンモニウム基又はアルキル基を表す。)

【公開番号】特開2006−63242(P2006−63242A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−249512(P2004−249512)
【出願日】平成16年8月30日(2004.8.30)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】