説明

フイルム延伸緩和方法及び溶液製膜方法

【課題】所望のレタデーションを有し、且つ光軸ずれや光学ムラのない高品質なポリマーフイルムを製造する
【解決手段】クリップテンタ14は、延伸エリア161においてフイルム20をZ2方向に延伸する。フイルム20の残留溶媒量は0.03重量%以上10重量%以下である。延伸エリア161を経たフイルム20は、緩和エリア162において緩和率Y(%)で延伸緩和される。緩和率Y(%)は(L2−L3)/L3で表される。延伸エリア161に入る5秒前のフイルム20の膜面温度をTp(℃)、延伸エリア161の長手方向中央部におけるフイルム20の膜面温度をTs(℃)、延伸エリア161を出て5秒後のフイルム20の膜面温度をTh(℃)とする。クリップテンタ14では、6≦((−1/12)・Tp)+((−1/5)・Ts)+((1/3)・Th)+(Y)≦18となるように、膜面温度Tp,Ts,Th及び緩和率Yが制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリマーフイルム、特に液晶表示装置に用いられるセルローストリアセテートフイルムの製造の際に用いられるフイルム延伸緩和方法及び溶液製膜方法に関する。。
【背景技術】
【0002】
セルロースエステル、特に58.0〜62.0%の平均酢化度を有するセルローストリアセテート(以下「TAC」という)から形成されるポリマーフイルム(以下「TACフイルム」という)は、その強靭性と難燃性から写真感光材料のフイルム用支持体として利用されている。また、TACフイルムは光学等方性に優れていることから、近年市場が拡大している液晶表示装置の偏光板に貼り合わされる位相差フイルムなどに用いられている。
【0003】
TACフイルムは溶液製膜方法により製造される。この溶液製膜方法は、溶融製膜方法など他の製造方法と比較して、光学的特性などの物性に優れたフイルムを製造することができる。溶液製膜方法では、まず、ジクロロメタンや酢酸メチルを主溶媒とする混合溶媒にポリマを溶解した高分子溶液(以下「ドープ」という)を調製する。そして、ドープを流延ダイから支持体上に流延して、流延膜を形成する。支持体上の流延膜は自己支持性を有するものとなった後に、支持体から湿潤フイルムとして剥ぎ取られる。剥ぎ取られた湿潤フイルムは、複数のローラが設けられた渡り部を介して、テンターに送られる。テンターでは、湿潤フイルムを幅方向へ延伸しつつ、乾燥を行う。これにより、フイルムが得られる。フイルムは、その後に再度乾燥され、巻取装置により巻き取られる。
【0004】
テンターでは、湿潤フイルムの幅方向への延伸により、その湿潤フイルムの分子主鎖を所定方向に配向する。これにより、所定のレタデーションを有する位相差フイルムが形成される。
【0005】
この湿潤フイルムを延伸する際には、その湿潤フイルムの両側端部を把持しながら延伸しているため、その中央部の延伸とその両側端部の延伸とが、同調しないことがある。湿潤フイルムの中央部と両端部の延伸が同調しなくなると、湿潤フイルムの幅方向に対する分子主鎖が弓なりの分布をとる現象、即ちボーイング現象が生じる。このボーイング現象により、湿潤フイルムの分子主鎖が幅方向に良好に配向しなくなるため、光軸ずれが生じるようになる。この光軸ずれが生じた位相差フイルムを液晶表示装置に組み込んだ場合には、表示ムラや光学ムラといった欠陥が生じることがある。
【0006】
また、延伸時の湿潤フイルムの膜面温度は、湿潤フイルムのレタデーションや分子主鎖の配向性に大きく影響を与えることが知られている。したがって、テンター内の温度条件によっては、所望のレタデーションを得ることができない場合や、湿潤フイルムの分子主鎖が一定方向に配向せず光軸がバラついてしまう場合がある。
【0007】
このボーイング現象に起因する光軸ずれを抑制するために、湿潤フイルムの幅方向への延伸に加えて、その湿潤フイルムの搬送方向に延伸緩和するものが知られている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2000−309051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、所望のレタデーションを付与し、且つ光軸ずれや光学ムラのない高品質な位相差フイルムを得るためには、上記引用文献1のように単に緩和工程を加えるだけでなく、テンター内における各種条件、例えば延伸率、緩和率、湿潤フイルムの膜面温度を最適なものに設定する必要がある。
【0009】
本発明は、所望のレタデーションを有し、且つ光軸ずれや光学ムラのない高品質なポリマーフイルムを製造するフイルム延伸緩和方法及び溶液製膜方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明は、残留溶媒量が0.03重量%以上10重量%以下の範囲まで乾燥させたセルロースエステルフイルムを予熱エリア、延伸エリア、緩和エリアを順に有するテンタにより、幅方向に延伸した後に延伸緩和するフイルム延伸緩和方法において、前記延伸エリアにおける延伸前フイルム幅をL1とし、延伸後フイルム幅をL2としたときに、延伸倍率X(%)をX=(L2−L1)/L1とし、前記緩和エリアにおける緩和前フイルム幅をL2とし、緩和後フイルム幅をL3としたときに、緩和倍率Y(%)をY=(L3−L2)/L2とし、前記予熱エリアのフイルム温度をTp(℃)とし、前記延伸エリアのフイルム搬送方向中央部におけるフイルム温度をTs(℃)とし、前記緩和エリアのフイルム温度をTh(℃)とし、前記テンタの全エリアでのフイルム最高温度をTmax(℃)とし、前記セルロースエステルフイルムのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、下記の条件(1)〜(7)を満たすことを特徴とする。
(1)0<X≦100
(2)0≦Y≦10
(3)Tg≦Tmax≦190
(4)100≦Tp≦190
(5)Tg≦Ts≦190
(6)50≦Th≦190
(7)6≦{(−1/12)×Tp}+{(−1/5)×Ts}+{(1/3)×Th}+Y≦18
【0011】
前記セルロースエステルフイルムの幅方向の光軸ずれが、前記フイルムの搬送方向に対して垂直な方向から±5°の範囲内であることが好ましい。
【0012】
本発明の溶液製膜方法は、上記記載のフイルム延伸緩和方法を用いて、セルロースエステルフイルムを製造することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所望のレタデーションを有するとともに、光軸ずれや光学ムラのない高品質なポリマーフイルムを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
図1に、本実施形態で用いる溶液製膜設備10の概略図を示す。溶液製膜設備10は、ストックタンク11、流延室12、ピンテンタ13、クリップテンタ14、乾燥室15、冷却室16、及び巻取室17を有する。
【0015】
ストックタンク11は、モータ11aで回転する攪拌翼11bとジャケット11cとを備えており、その内部にはフイルム20の原料となるドープ21が貯留されている。ストックタンク11内のドープ21は、ジャケット11cにより温度が略一定となるように調整されている。また、攪拌翼11bの回転によって、ポリマーなどの凝集を抑制しつつ、ドープ21を均一な品質に保持している。ストックタンク11の下流には、ギアポンプ25及び濾過装置26が設置されており、これらを介してドープ21が流延ダイ30に送られる。
【0016】
流延室12には、流延ダイ30、支持体としての流延ドラム32、剥取ローラ34、温調装置35,36、及び減圧チャンバ37が設置されている。流延ドラム32は図示を省略した駆動装置によってZ1方向に回転されており、この回転中の流延ドラム32の周面に向けて、流延ダイ30からドープ21が吐出され、流延ドラム32の周面に流延膜33が形成される。
【0017】
流延室12内及び流延ドラム32は、温調装置35,36によって、流延膜33が冷却固化(ゲル化)し易い温度に設定されている。そして、流延ドラム32が約3/4回転する間に、流延膜33は自己支持性を有するゲル強度に達し、剥取ローラ34によって流延ドラム32から剥ぎ取られる。
【0018】
剥ぎ取りは、流延膜33の残留溶媒量の高低に関わらず、流延膜33が搬送に十分な硬さとなっていれば行うことができる。しかし、残留溶媒量ができるだけ高いうちに、具体的には150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜33を流延ドラム32から剥ぎ取ることが好ましい。320重量%より高いときには、剥ぎ取りが事実上困難であるからである。一方、150重量%よりも小さくなってから剥ぎ取ろうとすると、流延膜33の乾燥空気の吹き付け等で乾燥せねばならない時間が長くなり、そのため、流延膜33の表面が粗くなってしまうことがある。このように残留溶媒量が高いうちに流延膜33を剥ぎ取ることにより、後工程、具体的にはクリップテンタ14によるセルロースアシレート分子の配向制御をより効果的に行うことができる。なお、残留溶媒量は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の重量をx、流延膜の重量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求められる値である。
【0019】
残留溶媒量ができるだけ高いうちに流延膜33を剥ぎ取るためには、流延膜33を流延ドラム32により冷却してゲル状にし、固化させることが好ましい。そして、流延膜33が自己支持性をもつようになったら、剥ぎ取りローラ34で支持しながら湿潤フイルム38として流延ドラム32から剥ぎ取る。生産速度を50m/分以上の高速とする場合には、残留溶媒量が250重量%以上でも剥ぎ取りが可能なように冷却を急速に行うことが好ましい。生産効率を考慮すると、冷却により流延膜33の露出面が十分に固まったならば、流延膜33の近傍に乾燥空気を流す等の手段を講ずることにより、剥ぎ取り後の搬送安定性を向上することができる。
【0020】
減圧チャンバ37は、流延ダイ30に対し、Z1方向上流側に配置されており、チャンバ37内を負圧に保っている。これにより、流延ビードの背面(後に、流延ドラム32の周面に接する面)側を所望の圧力に減圧し、流延ドラム32が高速で回転することにより発生する同伴風の影響を少なくし、安定した流延ビードを流延ダイ30と流延ドラム32との間に形成し、膜厚ムラの少ない流延膜33が形成される。
【0021】
流延ダイ30の材質は、電解質水溶液、ジクロロメタンやメタノールなどの混合液に対する高い耐腐食性、及び低い熱膨張率を有する素材から形成される。流延ダイ30の接液面の仕上げ精度は表面粗さで1μm以下、真直度はいずれの方向にも1μm/m以下のものを用いることが好ましい。
【0022】
流延ドラム32の周面は、クロムメッキ処理が施され、十分な耐腐食性と強度を有する。また、温調装置36は、流延ドラム32の周面の温度を所望の温度に保つために、流延ドラム32に伝熱媒体を循環させる。伝熱媒体は所望の温度に保持されており、流延ドラム32内の伝熱媒体流路を通過することにより、流延ドラム32の周面の温度が所望の温度に保持される。
【0023】
流延ドラム32の幅は特に限定されるものではないが、ドープの流延幅の1.1倍〜2.0倍の範囲のものを用いることが好ましい。流延ドラム32の材質は、ステンレス製であることが好ましく、十分な耐腐食性と強度とを有するようにSUS316製であることがより好ましい。流延ドラム32の周面に施されるクロムメッキ処理はビッカース硬さHv700以上、膜厚2μm以上、いわゆる硬質クロムメッキであることが好ましい。
【0024】
流延室12内には、蒸発している有機溶媒を凝縮回収するための凝縮器(コンデンサ)39と凝縮液化した溶媒を回収する回収装置40とが備えられている。凝縮器39で凝縮液化した有機溶媒は、回収装置40により回収される。回収された溶媒は再生装置で再生された後に、ドープ調製用溶媒として再利用される。
【0025】
流延室12の下流には、渡り部41、ピンテンタ13、クリップテンタ14が順に設置されている。渡り部41は、搬送ローラ42によって剥ぎ取った湿潤フイルム38をピンテンタ13に導入する。ピンテンタ13は、湿潤フイルム38の両端部を貫通して保持する多数のピンプレートを有し、このピンプレートが軌道上を走行する。この走行中に湿潤フイルム38に対して乾燥風が送られ、湿潤フイルム38が走行しつつ乾燥され、フイルム20となる。
【0026】
湿潤フイルム38は、ピンテンタ13で、残留溶媒量が0.1重量%以上10重量%以下となるまで乾燥することが好ましい。残留溶媒量が150重量%以上320重量%以下の範囲のときに流延膜33を剥ぎ取り、ピンテンタ13で残留溶媒量が上記範囲となるまで乾燥することにより、クリップテンタ14におけるセルロースアシレート分子の配向制御がさらに効果的に行われる。すなわち、クリップテンタ14での後述の工程での、遅相軸の方向制御効果と、Re、Rthを高める効果と、光学ムラの改良効果とが高まる。ただし、本発明ではピンテンタ13での乾燥は、残留溶媒量が上記の範囲となるまで実施せずともよい。つまり、残留溶媒量が10重量%よりも高い状態の湿潤フイルム38をクリップテンタ14に送り込んでもよい。
【0027】
クリップテンタ14は、フイルム20の両端部を把持する多数のクリップを有し、このクリップが延伸軌道上を走行する。この走行中のフイルム20に対し乾燥風が送られ、フイルム20はフイルム幅方向に延伸されながら乾燥される。この乾燥により、フイルム20の残留溶媒量を0.03重量%以上10重量%以下にすることが好ましい。また、フイルム20の延伸後には、フイルム20のフイルム幅方向に対する緩和処理が行われる。クリップテンタ14での所定条件下の延伸及び緩和処理によって、クリップテンタ14を出たフイルム20には所望の光学特性が付与される。
【0028】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14の下流にはそれぞれ耳切装置43が設けられている。耳切装置43はフイルム両端部の耳を裁断する。この裁断した耳は風送によりクラッシャ44に送られて、ここで粉砕され、ドープ等の原料として再利用される。
【0029】
乾燥室15には、多数のローラ47が設けられており、これらにフイルム20が巻き掛けられて搬送されることにより乾燥が行われる。乾燥室15には吸着回収装置48が接続されており、フイルム20から蒸発した溶媒が吸着回収される。
【0030】
乾燥室15の出口側には冷却室16が設けられており、この冷却室16でフイルム20が室温となるまで冷却される。冷却室16の下流には強制除電装置(除電バー)49が設けられており、フイルム20が除電される。さらに、強制除電装置49の下流側にはナーリング付与ローラ50が設けられており、フイルム20の両側縁部にナーリングが付与される。巻取室17には、プレスローラ52を有する巻取機51が設置されており、フイルム20が巻芯にロール状に巻き取られれる。
【0031】
次に、溶液製膜設備10によりフイルムを製造する方法の一例を説明する。ストックタンク11では、ジャケット11cの内部に伝熱媒体を流すことによりドープ21の温度を25℃〜35℃に調整するとともに、攪拌翼11bの回転により常に均一化している。適宜適量のドープ21を、ギアポンプ25によりストックタンク11から濾過装置26に送り込んで過することにより、ドープ21中の不純物を取り除く。そして、このドープ21を流延ダイ30から流延ビードを形成しながら、所定の表面温度になるように冷却した流延ドラム32の周面上に流延する。流延時のドープ21の温度は、30℃〜35℃の範囲内で略一定に保持されていることが好ましい。
【0032】
流延ドラム32は、駆動装置により軸32aを中心に回転している。この回転により、流延ドラム32の周面は、Z1方向へ一定速度(30m/分以上200m/分以下)で走行している。また、流延ドラム32の周面の温度は−10℃以上+10℃以下の範囲内で略一定になるように調整されている。このように冷却された流延ドラム32を用いると、流延膜33をゲル化させて自己支持性を持たせることができる。なお、周面の温度の管理は温調装置36により行われ、周面の温度を所定の値に保持する。流延膜33の冷却が進行すると、結晶の基になる架橋点が形成されて流延膜33のゲル化が促進される。
【0033】
ゲル化の進行により、流延膜33が自己支持性を有するものとなった後に、剥取ローラ34により流延ドラム32から剥ぎ取って湿潤フイルム38とし、この湿潤フイルム38を搬送ローラ42によりピンテンタ13に送り込む。
【0034】
流延室12の内部温度は、温調装置35により10℃〜57℃の範囲内で略一定となるように調整される。流延室12の内部には、流延されるドープ21や流延膜33中の溶媒が揮発して浮遊している。そこで、本実施形態では、この浮遊溶媒を凝縮器39により凝縮液化した後、回収装置40に回収し、さらに再生装置により再生して、ドープ調製用溶媒として再利用する。
【0035】
ピンテンタ13では、多数のピンを湿潤フイルム38の両側端部に差し込んで固定した後、この湿潤フイルム38を搬送する間に乾燥を促進させてフイルム20とする。そして、まだ溶媒を含んでいる状態のフイルム20をクリップテンタ14に送り込む。このとき、クリップテンタ14に送られる直前でのフイルム20の残留溶媒量は0.1重量%以上10重量%以下であることが好ましい。
【0036】
クリップテンタ14では、チェーンの動きによりエンドレスで走行する多数のクリップによりフイルム20の両側端部を挟持し搬送する間に、フイルム20の乾燥を行う。この乾燥により、フイルム20内に残留した溶媒のほとんどを蒸発させ、フイルム20の残留溶媒量を0.03重量%以上10重量%以下にする。また、対面するクリップ間距離(フイルム幅)を拡げてフイルム20の幅方向に張力を付与することでフイルム20を延伸する。その後に、クリップ間距離を狭くして、フイルム20を幅方向に緩和する。このように、フイルム20の幅方向への延伸及び緩和処理により、フイルム20中の分子が配向し、所望のレタデーション値をフイルム20に付与することができる。
【0037】
ピンテンタ13及びクリップテンタ14を出たフイルム20は、耳切装置43によって両側端部が裁断される。両側端部が裁断されたフイルム20は、乾燥室15と冷却室16とを経由し、巻取室17の巻取機51によって巻き取られる。また、耳切装置43によって切断された両側端部はクラッシャ44により粉砕されて、ドープ調製用チップとなり再利用される。
【0038】
巻取機51で巻き取られるフイルム20は、長手方向(流延方向)に少なくとも100m以上とすることが好ましい。また、フイルム20の幅が600mm以上であることが好ましく、1400mm以上2500mm以下であることがより好ましい。また、本発明は、2500mmより幅広の場合にも効果がある。さらに、厚みが20μm以上80μm以下の薄いフイルムを製造する際にも本発明は適用される。
【0039】
[フイルム延伸緩和方法]
クリップテンタ14におけるフイルム20の延伸緩和方法について、以下説明する。図2及び3に示すように、クリップテンタ14は、フイルム20の両側端部をクリップで把持した状態で幅方向Z2に延伸するとともに、乾燥風150〜153を用いて乾燥を行う。クリップテンタ14は、クリップ120、レール121,122、乾燥ダクト123、乾燥風供給部125を備えている。なお、図3では、図が複雑になるのを避けるために、複数のクリップのうちの一部に符号120を付している。
【0040】
クリップ120はフイルム20の両側端部を把持する。レール121,122はフイルム20の搬送路の両側に設置され、それぞれのレール121,122は所定の幅で離間している。このレール121,122の離間幅は、フイルム20の延伸率X及び緩和率Yに対応している。ここで、延伸前のフイルム20の幅をL1、延伸後または緩和前のフイルム20の幅をL2、緩和後のフイルム20の幅をL3とした場合に、延伸率X(%)は(L2−L1)/L1×100で、緩和率Y(%)は(L3−L2)/L2×100で表される。
【0041】
レール121,122に対して、多数のクリップ120が移動可能に取り付けられている。クリップ120は互いにチェーン(図示省略)で連結されており、そのチェーンはスプロケット128,129と噛み合っている。スプロケット128,129が回転することにより、クリップ120はレール121,122に沿って移動する。クリップ120がレール121,122に沿って移動することで、フイルムはZ1方向に延伸または緩和される。
【0042】
乾燥ダクト123は、フイルム20の搬送路の上方に設けられている。乾燥ダクト123の下面にはスリット130がZ2方向に沿って形成されており、これらスリット130はZ1方向に所定の間隔で複数設けられている。また、乾燥ダクト123内は、仕切り板132により第1〜第4給気室123a〜123dに区画されている。なお、図3では、図が複雑になるのを避けるために、複数のスリットのうちの一部のみに符号130を付している。また、乾燥ダクトをフイルムの搬送路の上方に設けたが、下方にも設けてもよい。
【0043】
乾燥風供給部125は、乾燥ダクト123の第1〜第4給気室123a〜123dに乾燥風を供給する。供給された乾燥風は、第1〜第4給気室123a〜123dにおいて所定の温度に加熱または冷却される。第1〜第4給気室123a〜123d内の乾燥風150〜153は、スリット130を介して、搬送中のフイルム20に対して吹き付けられる。
【0044】
クリップテンタ14には、予熱エリア160、延伸エリア161、緩和エリア162、冷却エリア163が形成されている。
【0045】
予熱エリア160では、第1給気室123a内の乾燥風150がフイルム20に対して吹き付けられる。この乾燥風150の吹き付けにより、延伸エリア161に入る5秒前のフイルム20の膜面温度Tpを100℃以上190℃以下にする。Tpが100℃未満であるとフイルム20の破断が生じて安定に製造することができず、一方、Tsが190℃を超えるとフイルム20の光学ムラが悪化する。
【0046】
また、予熱エリア160内のレール121,122の幅は一定とされている。したがって、予熱エリア160内のフイルム20は、幅がL1に保持された状態でZ1方向に搬送される。
【0047】
延伸エリア161では、フイルム20をZ2方向に延伸率Xで延伸する。延伸率Xは0%以上100%以下が好ましく、5%以上80%以下がより好ましく、10%以上70%以下が最も好ましい。Xが100%を超えるとフイルム20の破断が生じて安定に製造することができない。
【0048】
また、延伸エリア161では、第2給気室123b内の乾燥風151がフイルム20に対して吹き付けられる。この乾燥風151の吹き付けにより、延伸エリア161の長手方向中央部におけるフイルム20の膜面温度Tsを、Tg(℃)以上190℃以下にする。ここで、Tg(℃)はフイルム20のガラス転移温度とされ、140℃であることが好ましい。TsがTg(℃)未満であるとフイルム20の破断が生じて安定に製造することができず、一方、Tsが190℃を超えるとフイルム20の光学ムラが悪化する。
【0049】
緩和エリア162では、延伸エリア161を経たフイルム20の幅を縮小することで、そのフイルム20に残留した応力を取り除く。このフイルム20の残留応力の取り除きは、「緩和」と呼ばれている。緩和率Yは0%以上10%以下であることが好ましく、0%以上9%以下がより好ましく、0%以上8%以下が最も好ましい。Yが10%を超えると、フイルム幅方向に厚みムラや光学ムラが生じるようになる。
【0050】
また、緩和エリア162では、第3給気室123c内の乾燥風152がフイルム20に対して吹き付けられる。この乾燥風152の吹き付けにより、延伸エリア161を通過してから5秒後のフイルム20の膜面温度Thを、50℃以上190℃以下にする。Thが50℃未満であるとフイルム20の光軸ずれを制御する効果が無くなる。ここで、フイルム20の光軸ずれとはフイルム20の幅方向の光軸のずれをいい、このフイルム20の光軸ずれは、フイルム20の搬送方向、即ちZ1方向に対して垂直な方向からの光軸の角度で表される。フイルム20の搬送方向に対して垂直な方向は、フイルムの表面に対する法線方向であることから、以下、単に「フイルムの法線方向」という。一方、Thが190℃を超えるとフイルム20の光学ムラが悪化する。
【0051】
冷却エリア163では、乾燥ダクト123の第4給気室123d内の乾燥風153がフイルム20に対して吹き付けられる。この乾燥風153の吹き付けにより、冷却エリア163内のフイルム20の膜面温度を所定値にする。
【0052】
前述のクリップテンタ14内の各エリア160〜163におけるフイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)は、Tg(℃)以上190℃以下とされる。TmaxがTg未満の場合には、フイルム20の破断が生じる。一方、Tmaxが190℃を超えるとフイルム20の光学ムラが悪化する。
【0053】
さらに、クリップテンタ14では、光軸ずれを最小限に抑えるために、以下の(式1)に基づいて、フイルム20の膜面温度Tp,Ts,Th及び緩和率Yを制御している。
6≦((−1/12)×Tp)+((−1/5)×Ts)+((1/3)×Th)+(Y)≦18・・・(式1)
【0054】
(式1)は、実験により得られたTp,Ts,Th及びYとの関係に基づいて、導出される。図4に示すように、グラフ200は、膜面温度Ts(℃)を180(℃)に、膜面温度Th(℃)を165(℃)に固定した場合における緩和率Y(%)と膜面温度Tp(℃)との関係を示している。このとき、YとTpがエリア201の範囲内にある場合に、フイルム20の光軸ずれが、フイルム20の法線方向に対して±5°の範囲に、好ましくは±3°の範囲に、更に好ましくは1.5°の範囲に抑えられる。エリア161は、以下の(式2)及び(式3)で表される。
−13≦((−1/12)×Tp)+(Y)≦−1・・・(式2)
100<Tp<190・・・(式3)
【0055】
図5に示すように、グラフ203は、膜面温度Tp(℃)を160(℃)に、膜面温度Th(℃)を165(℃)に固定した場合における緩和率Y(%)と膜面温度Ts(℃)との関係を示している。このとき、YとTsがエリア204の範囲内にある場合に、フイルム20の光軸ずれが、フイルム20の法線方向に対して±5°の範囲に、好ましくは±3°の範囲に、更に好ましくは1.5°の範囲に抑えられる。エリア164は、以下の(式4)及び(式5)で表される。
−35.7≦((−1/5)×Ts)+(Y)≦−23.7・・・(式4)
Tg<Ts<190
【0056】
図6に示すように、グラフ206は、膜面温度Tp(℃)を160(℃)に、膜面温度Ts(℃)を180(℃)に固定した場合における緩和率Y(%)と膜面温度Th(℃)との関係を示している。このとき、YとThがエリア207の範囲内にある場合に、フイルム20の光軸ずれが、フイルム20の法線方向に対して±5°の範囲に、好ましくは±3°の範囲に、更に好ましくは1.5°の範囲に抑えられる。エリア207は、以下の(式6)及び(式7)で表される。
55.3≦((1/3)×Th)+(Y)≦67.3・・・(式6)
50<Th<190・・・(式7)
【0057】
そして、エリア201,204,207の範囲を示す(式1)〜(式7)に基づいて、フイルム20の膜面温度Tp,Ts,Th及び緩和率Yの制御式である(式1)が導出される。
【0058】
クリップテンタ14では、フイルム20が延伸及び緩和等されることにより、そのフイルム20に対して、面内レタデーションReが20nm以上80nm以下、厚み方向レタデーションRthが100nm以上300nm以下の位相差が付与される。
【0059】
なお、本実施形態では、クリップテンタにおいて、本発明のフイルムの延伸及び緩和を行ったが、これに限る必要はなく、本発明は、フイルムの残留溶媒量が極めて低くなった、例えば10重量%以下となった場合のフイルムの延伸及び緩和に有効である。例えば、ピンテンタに入る前のフイルムの残留溶媒量が10重量%以下となった場合には、ピンテンタで本発明を実施してもよい。また、図7に示すように、冷却室16と巻取室17との間にテンタ180を設置し、このテンタ180内で本発明を実施してもよい。ここで、テンタ180は、クリップテンタ14と同様の構成を備えている。また、図8に示すように、製造後のフイルムに対して延伸及び緩和を行うオフライン延伸装置300において、本発明を実施してもよい。
【0060】
オフライン延伸装置300は、供給部301と、テンタ部302と、乾燥部303と、冷却部304と、巻取部305とを備えている。供給部301には、図1に示す溶液製膜設備10で製造され、ロール状に巻き取られたフイルム20が収納されている。このフイルム20は、供給ローラ310により、テンタ部302に供給される。
【0061】
テンタ部302は、図2及び3に示すクリップテンタ14と同様の構成を備えている。このテンタ部302において、本実施形態と同様の延伸及び緩和を行うことにより、光軸ずれがフイルム20の法線方向に対して±5°の範囲に抑えられたフイルム20が得られる。
【0062】
テンタ部302と乾燥部303との間には耳切装置312が設置されており、この耳切装置312はフイルム20の両側端部(以下「耳部」という)を切断する。切断された耳部は、カットブロア314で細かく小片にカットされる。カットされた耳部は、図示しない風送装置によりクラッシャー316に送られ、粉砕されてチップになる。
【0063】
乾燥部303には多数のローラ318が設けられており、これらローラ318によりフイルム20は冷却部304まで搬送される。また、乾燥部303では、搬送中のフイルム20に対して乾燥風が吹き付けられる。冷却部304では、フイルム20が所定温度にまで冷却される。冷却されたフイルム20は、巻取部305に送られる。巻取部305には巻取ローラ320及びプレスローラ321が設けられており、フイルム20はプレスローラ321により押圧されながら巻取ローラ320に巻き取られる。
【0064】
以下、本発明においてドープ21を調製する際に使用する原料について説明する。
【0065】
本実施形態では、ポリマーとしてセルロースアシレートを用いており、セルロースアシレートとしては、セルローストリアセテート(TAC)が特に好ましい。そして、セルロースアシレートの中でも、セルロースの水酸基へのアシル基の置換度が下記式(I)〜(III)において、A及びBは、セルロースの水酸基中の水素原子に対するアシル基の置換度を表し、Aはアセチル基の置換度、Bは炭素原子数が3〜22のアシル基の置換度である。なお、TACの90重量%以上が0.1〜4mmの粒子であることが好ましい。ただし、本発明に用いることができるポリマーは、セルロースアシレートに限定されるものではない。
(I) 2.5≦A+B≦3.0
(II) 0≦A≦3.0
(III) 0≦B≦2.9
【0066】
セルロースを構成するβ−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位および6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、これらの水酸基の一部または全部を炭素数2以上のアシル基によりエステル化した重合体(ポリマー)である。アシル置換度は、2位、3位及び6位それぞれについて、セルロースの水酸基がエステル化している割合(100%のエステル化の場合を置換度1とする)を意味する。
【0067】
全アシル化置換度、すなわち、DS2+DS3+DS6の値は、2.00〜3.00が好ましく、より好ましくは2.22〜2.90であり、特に好ましくは2.40〜2.88である。また、DS6/(DS2+DS3+DS6)の値は、0.28が好ましく、より好ましくは0.30以上であり、特に好ましくは0.31〜0.34である。ここで、DS2は、グルコース単位における2位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「2位のアシル置換度」とする)であり、DS3は、グルコース単位における3位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「3位のアシル置換度」という)であり、DS6は、グルコース単位において、6位の水酸基の水素がアシル基によって置換されている割合(以下「6位のアシル置換度」という)である。
【0068】
本発明のセルロースアシレートに用いられるアシル基は1種類だけでもよいし、あるいは2種類以上のアシル基が用いられてもよい。2種類以上のアシル基を用いるときには、その1つがアセチル基であることが好ましい。2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基により置換されている度合いの総和をDSAとし、2位、3位及び6位の水酸基がアセチル基以外のアシル基によって置換されている度合いの総和をDSBとすると、DSA+DSBの値は、2.22〜2.90であることが好ましく、特に好ましくは2.40〜2.88である。
【0069】
また、DSBは0.30以上であることが好ましく、特に好ましくは0.7以上である。さらにDSBは、その20%以上が6位の水酸基の置換基であることが好ましく、より好ましくは25%以上であり、30%以上がさらに好ましく、特には33%以上であることが好ましい。さらに、セルロースアシレートの6位におけるDSA+DSBの値が0.75以上であり、さらに好ましくは0.80以上であり、特には0.85以上であるセルロースアシレートも好ましく、これらのセルロースアシレートを用いることで、より溶解性に優れたドープを作製することができる。特に、非塩素系有機溶媒を使用すると、優れた溶解性を示し、低粘度で濾過性に優れるドープを作製することができる。
【0070】
セルロースアシレートの原料であるセルロースは、リンター、パルプのいずれかから得られたものでもよい。
【0071】
本発明におけるセルロースアシレートの炭素数2以上のアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特には限定されない。例えば、セルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステル、芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどが挙げられ、それぞれ、さらに置換された基を有していてもよい。これらの好ましい例としては、プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレノイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などが挙げられる。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、特に好ましくは、プロピオニル基、ブタノイル基である。
【0072】
ドープを調製する溶媒としては、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエンなど)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、クロロベンゼンなど)、アルコール(例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ブタノール、ジエチレングリコールなど)、ケトン(例えば、アセトン、メチルエチルケトンなど)、エステル(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルなど)及びエーテル(例えば、テトラヒドロフラン、メチルセロソルブなど)などが挙げられる。
【0073】
上記のハロゲン化炭化水素の中でも、炭素原子数1〜7のハロゲン化炭化水素が好ましく用いられ、ジクロロメタンが最も好ましく用いられる。TACの溶解性、流延膜の支持体からの剥ぎ取り性、フイルムの機械的強度及び光学特性など物性の観点から、ジクロロメタンの他に炭素原子数1〜5のアルコールを1種ないし数種類混合することが好ましい。アルコールの含有量は、溶媒全体に対して2〜25重量%が好ましく、より好ましくは5〜20重量%である。アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノールなどが挙げられるが、メタノール、エタノール、n−ブタノール、あるいはこれらの混合物が好ましく用いられる。
【0074】
最近、環境に対する影響を最小限に抑えることを目的に、ジクロロメタンを使用しない溶媒組成も検討されている。この場合には、炭素原子数が4〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステル、炭素数1〜12のアルコールが好ましく、これらを適宜混合して用いる場合もある。例えば、酢酸メチル、アセトン、エタノール、n−ブタノールの混合溶媒が挙げられる。これらのエーテル、ケトン、エステル及びアルコールは、環状構造を有するものであってもよい。また、エーテル、ケトン、エステル及びアルコールの官能基(すなわち、−O−、−CO−、−COO−および−OH)のいずれかを2つ以上有する化合物も溶媒として用いることができる。
【0075】
セルロースアシレートの詳細については、特開2005−104148号[0140]段落から[0195]段落に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。また、溶媒及び可塑剤、劣化防止剤、紫外線吸収剤(UV剤)、光学異方性コントロール剤、レタデーション制御剤、染料、マット剤、剥離剤、剥離促進剤などの添加剤についても、同じく特開2005−104148号の[0196]段落から[0516]段落に詳細に記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0076】
本発明の溶液製膜方法では、ドープを流延する際に、2種類以上のドープを同時に共流延させて積層させる同時積層共流延、または、複数のドープを逐次に共流延して積層させる逐次積層共流延を行うことができる。なお、両共流延を組み合わせてもよい。同時積層共流延を行う場合には、フィードブロックを取り付けた流延ダイを用いてもよいし、マルチマニホールド型の流延ダイを用いてもよい。ただし、共流延により多層からなるフイルムは、空気面側の層の厚さと支持体側の層の厚さとの少なくともいずれか一方が、フイルム全体の厚みの0.5〜30%であることが好ましい。また、同時積層共流延を行う場合には、ダイスリットから支持体にドープを流延する際に、高粘度ドープが低粘度ドープにより包み込まれることが好ましく、ダイスリットから支持体にかけて形成される流延ビードのうち、外界と接するドープが内部のドープよりもアルコールの組成比が大きいことが好ましい。
【0077】
流延ダイ、減圧室、支持体などの構造、共流延、剥離法、延伸、各工程の乾燥条件、ハンドリング方法、カール、平面性矯正後の巻取方法から、溶媒回収方法、フイルム回収方法まで、特開2005−104148号の[0617]段落から[0889]段落に詳しく記載されており、これらの記載も本発明に適用することができる。
【0078】
以下、本発明のフイルムの延伸緩和方法について、実施例1〜6及び比較例1〜6を示しながら具体的に説明する。実施例1〜6及び比較例1〜6では、図2及び図3に示すクリップテンタ14における各種条件を変えて実施した。なお、フイルム20のガラス転移温度Tgは140℃であった。
【0079】
[実施例1]
フイルム20の延伸率X(%)を50%、緩和率Y(%)を4%とした。また、延伸エリア161に入る5秒前のフイルム20の膜面温度Tp(℃)を130℃と、延伸エリア161の長手方向中央部におけるフイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、延伸エリア161を出て5秒後のフイルム20の膜面温度Th(℃)を170℃とした。クリップテンタ14内のフイルムの最高膜面温度Tmax(℃)を180℃とした。このとき、光軸ずれの制御式((−1/12)・Tp)+((−1/5)・Ts)+((1/3)・Th+Y)の値(以下「光軸ずれ制御値」という)は、13.833であった。
【0080】
[実施例2]
フイルム20の延伸率X(%)を50%、緩和率Y(%)を0%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を132℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を180℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を183℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は13であった。
【0081】
[実施例3]
フイルム20の延伸率X(%)を50%、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を186℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を189℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を189℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は15.5であった。
【0082】
[実施例4]
フイルム20の延伸率X(%)を50%、緩和率Y(%)を9%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を110℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を135℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を180℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は8.8333であった。
【0083】
[実施例5]
フイルム20の延伸率X(%)を25%、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を135℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を165℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を180℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は11.75であった。
【0084】
[実施例6]
フイルム20の延伸率X(%)を25%、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を135℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を150℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を150℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を150℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は12.75であった。
【0085】
[比較例1]
フイルム20の延伸率X(%)を50%、緩和率Y(%)を12%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を160℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を180℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は14.333であった。
【0086】
[比較例2]
フイルム20の延伸率X(%)を50%、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を90℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を160℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を180℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は13.833であった。
【0087】
[比較例3]
フイルム20の延伸率X(%)を20%と、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を130℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を130℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を145℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を145℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は15.5であった。
【0088】
[比較例4]
フイルム20の延伸率X(%)を50%と、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を195℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を205℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を200℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を205℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は13.417であった。
【0089】
[比較例5]
フイルム20の延伸率X(%)を50%と、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を160℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を130℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を180℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は−2であった。
【0090】
[比較例6]
フイルム20の延伸率X(%)を50%と、緩和率Y(%)を4%とした。また、フイルム20の膜面温度Tp(℃)を110℃と、フイルム20の膜面温度Ts(℃)を180℃と、フイルム20の膜面温度Th(℃)を185℃とした。フイルム20の最高膜面温度Tmax(℃)を185℃とした。このとき、光軸ずれ制御値は20.5であった。
【0091】
実施例1〜6及び比較例1〜6では、製造後のフイルム20に対して、レタデーション及び光軸ずれの測定を、以下のように行った。なお、フイルム20の光学ムラの程度については、目視で検査した。
【0092】
[レタデーションの測定]
面内レタデーションRe(λ)については、KOBRA 21ADH(王子計測機器(株)製)により、波長λnmの光をフイルム法線方向に入射させて測定した。厚み方向レタデーションRth(λ)については、面内レタデーションRe(λ)と、面内の遅相軸(KOBRA 21ADHにより判断される)を傾斜軸(回転軸)としてフイルム法線方向に対して+40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレタデーション値と、面内の遅相軸を傾斜軸(回転軸)としてフイルム法線方向に対して−40°傾斜した方向から波長λnmの光を入射させて測定したレタデーション値とに基づいて、KOBRA 21ADHにより算出した。ここで平均屈折率の仮定値は、ポリマーハンドブック(JOHN WILEY&SONS,INC)、各種光学フイルムのカタログの値を使用することができる。平均屈折率の値が既知でないものについては、アッベ屈折計で測定することができる。平均屈折率の値を以下に例示する:セルロースアシレート(1.48)、シクロオレフィンポリマー(1.52)、ポリカーボネート(1.59)、ポリメチルメタクリレート(1.49)、ポリスチレン(1.59)である。これら平均屈折率の仮定値と膜厚を入力することで、KOBRA 21ADHは、nx、ny、nzを算出する。Nzファクターが必要な際には、さらに、この算出されたnx、ny、nzよりNz=(nx−nz)/(nx−ny)が更に算出される。
【0093】
[光軸ずれの測定]
光軸ずれの測定は、自動複屈折計(KOBRA 21DH、王子計測機器(株))により行った。フイルムの幅方向の全部にわたって等間隔で20点測定し、絶対値の平均値を求めた。また、遅相軸角度(光軸ずれ)のレンジとは、幅方向全域にわたって等間隔に20点測定し、軸ズレの絶対値の大きいほうから4点の平均と小さいほうから4点の平均の差をとった。
【0094】
[実施例及び比較例の結果]
【表1】

表1は実施例1〜6及び比較例1〜6の結果を示している。なお、レタデーションについては、実施例1〜6及び比較例1〜6のいずれの場合においても、Reが20nm以上80nmで、Rthが100nm以上300nm以下であった。
【0095】
ここで、「光軸ずれ」の評価のうち、「○」は光軸ずれがフイルム20の法線方向に対して±3°の範囲内(+3°及び−3°を除く)にある場合を、「△」はフイルム20の法線方向に対して±5°の範囲内(+5°及び−5°を除く)にある場合を、「×」はフイルム20の法線方向に対して±5°の範囲を超える場合を示している。
【0096】
また、「光学ムラ」の評価のうち、「○」は光学ムラが全く確認されなかったことを、「△」は光学ムラがかすかに確認されるが実用的には問題がないことを、「×」は光学ムラが従来と同程度であり高輝度ディスプレイには実用的でないことを示している。「破断」の評価のうち、「○」は製造中にフイルムが破断しなかったことを、「△」は製造中にフイルムが破断しなかったものの破断するおそれがあったことを、「×」は製造中にフイルムが破断したことを示している。
【0097】
また、「総合評価」は「光軸ずれ」、「光学ムラ」、及び「破断」の評価に基づいて評価され、「○」は光学特性が非常に優れており高輝度ディスプレイに実用的であることを、「△」は光学特性に多少の問題があるものの高輝度ディスプレイに実用的であることを、「×」は光学特性に問題があり高輝度ディスプレイには実用的でないことを示している。
【0098】
実施例1〜6及び比較例1〜4と比較例5,6とを対比して分かるように、光軸ずれ制御値が6以上18以下となるように、膜面温度Tp,Ts,Th及び緩和率Yを制御した場合には、光軸ずれをフイルム20の法線方向に対して±5°の範囲内に抑えることができた。また、実施例3及び比較例4を対比して分かるように、最高膜面温度Tmaxを190℃未満に抑えた場合には、光学ムラの悪化を抑制することができた。また、実施例1〜6及び比較例1,4〜6と比較例2,3とを対比して分かるように、膜面温度Tsをガラス転移温度Tg(=140℃)以上とすることで、フイルムの破断を防止することができた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】溶液製膜設備を示す概略図である。
【図2】クリップテンタを示す正面図である。
【図3】クリップテンタを示す上面図である。
【図4】緩和率Yとフイルムの膜面温度Tpとの関係を示すグラフである。
【図5】緩和率Yとフイルムの膜面温度Tsとの関係を示すグラフである。
【図6】緩和率Yとフイルムの膜面温度Thとの関係を示すグラフである。
【図7】冷却室と巻取室との間にテンタを設けた溶液製膜設備を示す概略図である。
【図8】オフライン延伸装置を示す概略図である。
【符号の説明】
【0100】
10 溶液製膜設備
14 クリップテンタ
20 フイルム
161 延伸エリア
162 緩和エリア
X (フイルムの幅方向に対する)延伸率
Y (フイルムの幅方向に対する)緩和率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
残留溶媒量が0.03重量%以上10重量%以下の範囲まで乾燥させたセルロースエステルフイルムを予熱エリア、延伸エリア、緩和エリアを順に有するテンタにより、幅方向に延伸した後に延伸緩和するフイルム延伸緩和方法において、
前記延伸エリアにおける延伸前フイルム幅をL1とし、延伸後フイルム幅をL2としたときに、延伸倍率X(%)をX=(L2−L1)/L1とし、
前記緩和エリアにおける緩和前フイルム幅をL2とし、緩和後フイルム幅をL3としたときに、緩和倍率Y(%)をY=(L3−L2)/L2とし、
前記予熱エリアのフイルム温度をTp(℃)とし、
前記延伸エリアのフイルム搬送方向中央部におけるフイルム温度をTs(℃)とし、
前記緩和エリアのフイルム温度をTh(℃)とし、
前記テンタの全エリアでのフイルム最高温度をTmax(℃)とし、
前記セルロースエステルフイルムのガラス転移温度をTg(℃)としたときに、下記の条件(1)〜(7)を満たすことを特徴とするフイルム延伸緩和方法。
(1)0<X≦100
(2)0≦Y≦10
(3)Tg≦Tmax≦190
(4)100≦Tp≦190
(5)Tg≦Ts≦190
(6)50≦Th≦190
(7)6≦{(−1/12)×Tp}+{(−1/5)×Ts}+{(1/3)×Th}+Y≦18
【請求項2】
前記セルロースエステルフイルムの幅方向の光軸ずれが、前記フイルムの搬送方向に対して垂直な方向から±5°の範囲内であることを特徴とする請求項1記載のフイルム延伸緩和方法。
【請求項3】
請求項1または2記載のフイルム延伸緩和方法を用いて、前記セルロースエステルフイルムを製造することを特徴とする溶液製膜方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−107272(P2009−107272A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−283674(P2007−283674)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】