説明

フェニルカルバゾール系化合物とその製造方法及び有機電界発光素子

【課題】赤色、緑色、青色、白色などのあらゆるカラーの蛍光および燐光素子に適した正孔注入材料、正孔輸送材料および/または発光材料として使用できるフェニルカルバゾール系化合物およびその製造方法と、該フェニルカルバゾール系化合物を含む有機膜を採用した有機電界発光素子の提供。
【解決手段】下記化学式2で表されるフェニルカルバゾール系化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルカルバゾール系化合物とその製造方法及び有機電界発光素子に係り、より詳細には、電気的な安定性及び高い電荷輸送能力を持ち、ガラス転移温度が高く結晶化を防止できるフェニルカルバゾール系化合物とそれを含む有機膜を採用した有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
電界発光(ElectroLuminescent:EL)素子は自発光型表示素子であって、視野角が広くてコントラストが優秀なだけでなく、応答時間が速いという長所を持つために、大きな注目を集めている。このEL素子には、発光層(EMitting Layer:EML)に無機化合物を使用する無機EL素子と有機化合物を使用する有機EL素子とがあり、このうち特に有機EL素子は、無機EL素子に比べて輝度、駆動電圧及び応答速度特性が優秀であり、多色化が可能であるという点で多くの研究がなされている。
【0003】
有機EL素子は、一般的にアノード/有機EML/カソードの積層構造を持ち、上記アノードとEMLとの間またはEMLとカソードとの間に正孔注入輸送層及び電子注入層(Electrion Injection Layer:EIL)をさらに積層して、アノード/正孔輸送層(Hole Transport Layer:HTL)/有機EML/カソード及び、アノード/HTL/有機EML/EIL/カソードなどの構造を持つ。
【0004】
上記HTLの形成材料として、ポリフェニル炭化水素またはアントラセン誘導体が知られている(例えば,特許文献1及び2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第6,596,415号明細書
【特許文献2】米国特許第6,465,115号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、これまでに知られているHTLの形成材料から形成されたHTLを備えた有機EL素子は、寿命、効率及び消費電力特性が満足すべきレベルに至らず、改善の余地が多かった。
【0007】
そこで、本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的は、電気的な安定性及び高い電荷輸送能力を持ち、ガラス転移温度が高く結晶化を防止することが可能な、新規かつ改良されたフェニルカルバゾール化合物とその製造方法、および有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、下記化学式2に示した構造式で表されることを特徴とする、フェニルカルバゾール系化合物が提供される。
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、上記化学式2において、R,R’,R,R’,RおよびR’は、互いに独立的に水素、フッ素、シアノ基、置換もしくは非置換のC1−C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基であり、Rは、水素、シアノ基、フッ素、非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基である。
【0011】
上記フェニルカルバゾール系化合物は、下記構造式で表示される化合物のいずれか、または、前記化学式2において、R,R’,R,R’,RおよびR’が水素であり、Rがフッ素である化合物であってもよい。
【0012】
【化2】

【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

【0015】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、化学式B’に示したカルバゾールと化学式C’に示したジアミン化合物とを反応させ、化学式2で表されるフェニルカルバゾール系化合物を得ることを特徴とする、フェニルカルバゾール系化合物の製造方法が提供される。
【0016】
【化5】

・・・(化学式C’)

【0017】
【化6】

・・・(化学式B’)

【0018】
【化7】

【0019】
上記化学式C’において、Xは、以下に示す置換基である。
【0020】
【化8】

【0021】
また、Arは、以下に示す置換基である。
【0022】
【化9】

【0023】
また、上記化学式B’および化学式2において、R,R’,R,R’,RおよびR’は、互いに独立的に水素、フッ素、シアノ基、置換もしくは非置換のC1−C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基であり、Rは、水素、シアノ基、フッ素、非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基であり、Yは、ハロゲン原子である。
【0024】
前記反応式1の反応は、Pd(dba)(dba=dibenzylideneacetone)、tert−ブトキシドナトリウム及びトリ(tert−ブチル)ホスフィンの存在下で行われ、反応温度は、50〜150℃であってもよい。
【0025】
上記課題を解決するために、本発明の更に別の観点によれば、第1電極と第2電極との間に位置する有機膜を備える有機電界発光素子において、上記有機膜は、上記フェニルカルバゾール系化合物を含むことを特徴とする有機電界発光素子が提供される。
【0026】
上記有機膜は、正孔注入層または正孔輸送層であってもよい。
【0027】
上記有機膜は、正孔注入及び正孔輸送の機能を共に有する単一膜であってもよい。
【0028】
上記有機膜は、正孔注入層または正孔輸送層であり、上記有機電界発光素子は、第1電極/正孔注入層/発光層/第2電極,第1電極/正孔注入層/発光層/正孔輸送層/第2電極または第1電極/発光層/正孔輸送層/第2電極の構造を備えてもよい。
【0029】
上記有機膜は、発光層であってもよい。
【0030】
上記発光層は、燐光または蛍光材料から形成されてもよい。
【0031】
上記発光層では、上記化学式2で表示されるフェニルカルバゾール系化合物が、蛍光または燐光ホストとして使用されてもよい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、優秀な電気的特性及び電荷輸送能力を持ち、蛍光及び燐光素子に適した正孔注入材料、正孔輸送材料及び/又は発光材料として利用が可能な、フェニルカルバゾール系化合物とその製造方法、および有機電界発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による有機EL素子の構造を示す図面である。
【図2】本発明に係る化合物1のUVスペクトルを示すグラフ図である。
【図3】本発明に係る化合物1のTGA分析結果を示すグラフ図である。
【図4】本発明に係る化合物1のDSC分析結果を示すグラフ図である。
【図5】本発明に係る化合物2のUVスペクトルを示すグラフ図である。
【図6】本発明に係る化合物2のTGA分析結果を示すグラフ図である。
【図7】本発明に係る化合物2のDSC分析結果を示すグラフ図である。
【図8】本発明の実施例1及び比較例1によって得た有機EL素子において、電流密度による輝度変化を示すグラフ図である。
【図9】本発明の実施例1及び比較例1によって得た有機EL素子において、輝度による電流効率変化を示すグラフ図である。
【図10】本発明の実施例2及び比較例2の有機EL素子において、同一電流密度下での駆動電圧値の比較結果を示すグラフ図である。
【図11】本発明の実施例2及び比較例2の有機EL素子において、同一電流密度下での電流効率値の比較結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0035】
本発明は、下記化学式1で表示される分子のうち少なくとも2つ以上のフェニルカルバゾール誘導体を側鎖として持つ新規構造の化合物及びその製造方法と、この化合物をHIL,HTL,EMLなどの有機膜形成材料として使用した有機EL素子を提供する。
【0036】
上記の有機EL素子は、フェニルカルバゾール系化合物から形成された有機膜を採用して、高効率、低電圧、高輝度、長寿命であるという特徴を有する。
【0037】
【化10】

【0038】
上記式中、Xは、例えば、置換または非置換のC1−C30のアルキレン基、置換または非置換のC2−C30のアルケニレン基、置換または非置換のC6−C30のアリーレン基、置換または非置換のC2−C30のヘテロアリーレン基または置換または非置換のC2−C30のヘテロ環を表し、R,R’,R,R’,RおよびR’は、例えば、それぞれ独立的に一置換または多置換された置換基であって、水素原子、置換または非置換のC1−C30のアルキル基、置換または非置換のC1−C30アルコキシ基、置換または非置換のC6−C30のアリール基、置換または非置換のC6−C30のアリールオキシ基、置換または非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換または非置換のC6−C30の縮合多環基、ヒドロキシ基、シアノ基、または置換または非置換のアミノ基を表し、R,R,RおよびR’,R’,R’のうち隣接した基が互いに結合して飽和または不飽和の炭素環を形成でき、Arは、例えば、置換または非置換のC6−C30のアリール基または置換または非置換のC2−C30のヘテロアリール基である。
【0039】
上記Arとして、例えば、置換または非置換のアリール基であり、フェニル基、エチルフェニル基、エチルビフェニル基、o−,m−もしくはp−フルオロフェニル基、ジクロロフェニル基、ジシアノフェニル基、トリフルオロメトキシフェニル基、o−,m−もしくはp−トリル基、o−,m−もしくはp−クメニル基、メシチル基、フェノキシフェニル基、(α,α−ジメチルベンゼン)フェニル基、(N,N’−ジメチル)アミノフェニル基、(N,N’−ジフェニル)アミノフェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、アセナフチルレニル基、フェナントレニル基、フルオレニル基、アントラキノリル基、メチルアントリル基、フェナントリル基、トリフェニレン基、ピレニル基、クリセニル基、エチル−クリセニル基、ピセニル基、フェリレニル基、クロロフェリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基、テトラフェニレニル基、ヘキサフェニル基、ヘキサセニル基、ルビセニル基、コロネリル基、トリナフチレニル基、ヘプタフェニル基、ヘプタセニル基、ピラントレニル基、オバレニル基、カルバゾリル基などを挙げることができる。
【0040】
上記Arは、望ましくは、フェニル基、低級アルキルフェニル基、低級アルコキシフェニル基、シアノフェニル基、フェノキシフェニル基、ハロフェニル基、ナフチル基、低級アルキルナフチル基、低級アルコキシナフチル基、シアノナフチル基、ハロナフチル基基、フルオレニル基、カルバゾリル基、低級アルキルカルバゾリル基、ビフェニル基、低級アルキルビフェニル基、低級アルコキシビフェニル基、チオフェニル基、インドリル基またはピリジル基である。前述した低級アルキル及び低級アルコキシの炭素数は1〜5の範囲が望ましい。さらに望ましくは、Arはフルオレニル基、カルバゾリル基、フェニル基、ナフチル基、フェナントレニル基から選択される単環、二環、三環のアリール基またはこれらの芳香族環にC1−C3の低級アルキル、C1−C3の低級アルコキシ、シアノ、フェノキシ、フェニルまたはハロゲンが1〜3個、望ましくは1個のハロゲンが置換されたアリール基などを挙げることができる。
【0041】
本実施形態に係る化学式1におけるArが持つことができる置換基には、例えば、C1−C10のアルキル基、C1−C10のアルコキシ基、ニトロ基、ハロゲン原子、アミノ基、C6−C10のアリール基、C2−C10のヘテロアリール基、シアノ基、ヒドロキシ基などがある。
【0042】
本実施形態に係る化学式1のフェニルカルバゾール系化合物は、強いカルバゾール基を構造中に持つためにガラス転移点や融点が高くなる。したがって、電界発光時に、有機層中、有機層の間、または有機層と金属電極との間で発生するジュール熱に対する耐熱性及び高温環境下での耐性が向上する。従って、これら化合物を有機EL素子のHIL、HTLや発光材料、EMLのホスト材料として使用した場合、高い発光輝度を示し、長時間発光させる時にも有利である。特に、本実施形態に係るフェニルカルバゾール系化合物は、分子内にこの強いカルバゾール基を2つ以上持つために、上記効果をさらに高めることができる。
【0043】
上記化合物が下記化学式2で表示される化合物であることが望ましい。
【0044】
【化11】

【0045】
上記式中、R,R’,R,R’,RおよびR’は、例えば、互いに独立的に水素、フッ素、シアノ基、または置換または非置換のC1−C30のアルキル基、または置換または非置換のC6−C30のアリール基、置換または非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換または非置換のアミノ基であり、Rは、例えば、水素、シアノ基、フッ素、または置換または非置換のC1−C30のアルキル基、または置換または非置換のC6−C30のアリール基、置換または非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換または非置換のアミノ基である。
【0046】
本実施形態に係る有機EL素子は、保存時及び駆動時の耐久性が高い。これは、本実施形態において用いられるフェニルカルバゾール誘導体のガラス転移温度(Tg)が高いためである。化学式1で表現される化合物は、正孔注入材料、正孔輸送材料及び発光材料としての機能を果たす。以下、本実施形態に係る新規なフェニルカルバゾール系化合物の代表的な構造を示すが、本発明がこれら化合物に限定されるものではない。
【0047】
【化12】

【0048】
【化13】

【0049】
【化14】

【0050】
以下、化学式1で表示されるフェニルカルバゾール系化合物の製造方法を説明する。
【0051】
下記反応式1に示すように、化学式1のフェニルカルバゾール系化合物は、カルバゾール(B’)とジアミン化合物(C’)とを反応させて得られる。
【0052】
【化15】

【0053】
上記式中、Xは、例えば、置換または非置換のC1−C30のアルキレン基、置換または非置換のC2−C30のアルケニレン基、置換または非置換のC6−C30のアリーレン基、置換または非置換のC2−C30のヘテロアリーレン基または置換または非置換のC2−C30のヘテロ環を表し、R,R’,R,R’,RおよびR’は、例えば、それぞれ独立的に一置換または多置換された置換基であって、水素原子、置換または非置換のC1−C30のアルキル基、置換または非置換のC1−C30アルコキシ基、置換または非置換のC6−C30のアリール基、置換または非置換のC6−C30のアリールオキシ基、置換または非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換または非置換のC6−C30の縮合多環基、ヒドロキシ基、シアノ基、または置換または非置換のアミノ基を表して、R,R,RおよびR’,R’,R’のうち隣接した基が互いに結合して飽和または不飽和の炭素環を形成でき、Arは、例えば、置換または非置換のC6−C30のアリール基または置換または非置換のC2−C30のヘテロアリール基である。
【0054】
上記反応時に、例えば、Pd(dba)(dba=dibenzylideneacetone)、tert−ブトキシドナトリウム及びトリ(tert−ブチル)ホスフィンの存在下で実施され、反応温度は例えば50〜150℃であることが望ましい。
【0055】
本実施形態に係る有機EL素子について説明すれば、化学式1のフェニルカルバゾール系化合物を含有する有機膜は、例えば、HILまたはHTLであってもよく、正孔注入及び正孔輸送の機能を共に有する単一膜であってもよい。
【0056】
また、上記有機膜は、例えば、HILまたはHTLであり、上記素子は、例えば、第1電極/HIL/EML/第2電極、第1電極/HIL/EML/HTL/第2電極または第1電極/EML/HTL/第2電極の構造であってもよい。
【0057】
上記EMLは、例えば、燐光または蛍光材料から形成されてもよい。
【0058】
また本実施形態に係る有機EL素子において、上記有機膜はEMLであってもよい。
【0059】
上記EMLで、化学式1で表示されるフェニルカルバゾール系化合物が蛍光または燐光ホストとして用いられても良い。
【0060】
以下、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法を説明する。
【0061】
図1は、本実施形態に係る有機EL素子の構造を示す断面図である。
【0062】
まず、基板上部に、大きい仕事関数を持つアノード電極用物質を蒸着法またはスパッタリング法により形成してアノードとして使用する。ここで、基板としては、通常的な有機EL素子で使われる基板を使用することができるが、機械的強度、熱的安定性、透明性、表面平滑性、取扱容易性及び防水性に優れた有機基板または透明プラスチック基板が望ましい。そして、アノード電極用物質としては、例えば、透明かつ伝導性に優れたインジウム−スズ酸化物(ITO)、インジウム−亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO)、酸化亜鉛(ZnO)などを使用することができる。
【0063】
次いで、このアノード電極の上部にHIL物質を真空蒸着法、スピンコーティング法、キャスト法、LB(Langmuir−Blodgett)法のような方法により形成できるが、均一な膜質を得やすく、またピンホールが発生し難いという点で、真空蒸着法により形成することが望ましい。
【0064】
真空蒸着法によりHILを形成する場合、その蒸着条件は、HILの材料として使用する化合物、目的とするHILの構造及び熱的特性によって異なるが、一般的に、例えば、蒸着温度50〜500℃、真空度10−8〜10−3torr、蒸着速度0.01〜100Å/sec、膜厚は通常10Å〜5μm範囲で適切に選択することが望ましい。
【0065】
上記HIL物質としては特別に制限されず、本実施形態に係る上記化学式1の化合物または米国特許第4,356,429号明細書に開示された銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物またはAdvanced Materials、6、p.677(1994)に記載されているスターバースト型アミン誘導体類であるTCTA、m−MTDATA、m−MTDAPBなどをHILとして使用できる。
【0066】
次いで、このHILの上部にHTL物質を真空蒸着法、スピンコーティング法、キャスト法、LB法などの方法により形成できるが、均一な膜質を得やすく、またピンホールが発生し難いという点で真空蒸着法により形成することが望ましい。真空蒸着法によりHTLを形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物によって異なるが、一般的にHILの形成とほぼ同じ条件範囲内で選択される。
【0067】
上記HTL物質は特別に制限されず、本実施形態に係る化学式1で表示されるフェニルカルバゾール系化合物を使用するか、HTLに使われている公知のものから任意のものを選択して使用できる。例えば、N−フェニルカルバゾール、ポリビニルカルバゾールなどのカルバゾール誘導体、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−N,N’−ジフェニル−[1,1−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジジン(α−NPD)などの芳香族縮合環を持つ通常的なアミン誘導体などが使われる。
【0068】
次いで、上記HTLの上部にEML物質を真空蒸着法、スピンコーティング法、キャスト法、LB法などの方法により形成できるが、均一な膜質を得やすく、またピンホールが発生し難いという点で真空蒸着法により形成することが望ましい。真空蒸着法によりEMLを形成する場合、その蒸着条件は使用する化合物によって異なるが、一般的にHILの形成とほぼ同じ条件範囲内で選択される。
【0069】
EML材料は特別に制限されず、蛍光または燐光ホストとして化学式1のフェニルカルバゾール系化合物を使用してもよく、この他に蛍光ホストとしては、トリス(8−キノリノラート)アルミニウム(Alq)などを使用できる。そして、ドーパントの場合、蛍光ドーパントとしては出光社製のIDE102、IDE105及び林原社製のC545Tなどを使用でき、燐光ドーパントとしては、緑色の燐光ドーパントIr(PPy)(PPy=2−phenylpyridine)、青色燐光ドーパントであるF2Irpic、UDC社製の赤色の燐光ドーパントRD61などが共通真空蒸着(ドーピング)されうる。
【0070】
ドーピング濃度は特別に制限されないが、通常的にホスト及びドーパント100質量部を基準として上記ドーパントの含有量は0.01〜15質量部である。
【0071】
EMLに燐光ドーパントを共に使用する場合には、三重項励起子または正孔が電子輸送層(Electron Transport Layer:ETL)に広がる現象を防止するために、正孔阻止層(Hole Blocking Layer:HBL)を更に真空蒸着法またはスピンコーティング法により積層させることが望ましい。この時に使用できる正孔阻止物質は特別に制限されず、HBLとして使われている公知のものから任意のものを選択して利用できる。例えば、オキサジアゾール誘導体やトリアゾール誘導体、フェナントロリン誘導体、またはJP11−329734(A1)に記載されているHBLなどを挙げられ、代表的にBalq、BCPなどが使われる。
【0072】
次いで、ETLが真空蒸着法、またはスピンコーティング法、キャスト法などの方法で形成され、真空蒸着法により形成されることが望ましい。このETL材料は、電子注入電極(カソード)から注入された電子を安定して輸送する機能を行うものであって、特別に制限されず、キノリン誘導体、特にAlqを使用できる。またETLの上部に陰極から電子の注入を容易にするEILが積層されてもよく、上記EILの形成材料は特別に制限されない。
【0073】
EILとしては、例えば、LiF、NaCl、CsF、LiO、BaOなどの物質を利用できる。上記HBL、ETL、EILの蒸着条件は使用する化合物によって異なるが、一般的にHILの形成とほぼ同じ条件の範囲内で選択される。
【0074】
最後にEILの上部にカソード形成用金属を真空蒸着法やスパッタリング法などの方法により形成し、カソードとして使用する。ここで、カソード形成用の金属としては、小さい仕事関数を持つ金属、合金、電気伝導性化合物及びそれらの混合物を使用できる。具体的な例としては、例えば、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム−リチウム(Al−Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム−インジウム(Mg−In)、マグネシウム−銀(Mg−Ag)などを挙げられる。また前面発光素子を得るためにITO、IZOを使用した透過型カソードを使用してもよい。
【0075】
本発明の有機EL素子は、図1に図示されたアノード、HIL、HTL、EML、ETL、EIL、カソード構造の有機EL素子だけでなく、多様な構造の有機EL素子の構造が可能であり、必要に応じて1層または2層の中間層をさらに形成することも可能である。
【0076】
上記化学式1の化合物は、発光特性及び正孔輸送特性に優れた発光材料であって、特にホストとして有効であり、その他に青色、緑色、赤色の蛍光及び燐光素子の正孔注入及び/または正孔輸送材料として使われうる。
【0077】
以下、本発明の化学式1で使われたグループのうち代表的なグループの定義を説明すれば、次の通りである。
【0078】
本実施形態において使用される置換基である、非置換のC1−C30のアルキル基の具体的な例として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、へキシル基などを挙げることができ、上記アルキルのうち一つ以上の水素原子はハロゲン原子、C1−C30のアルキル基、C1−C30のアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン、ヒドラゾン、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などの置換基に置換できる。
【0079】
本実施形態において使用される置換基である、非置換のC2−C30のアルケニル基の具体的な例としては、例えば、エチレン基、プロピレン基、イソブチレン基、ビニル基、アリル基などがあり、上記アルケニル基のうち一つ以上の水素原子は、ハロゲン原子、C1−C30のアルキル基、C1−C30のアルコキシ基、低級アルキルアミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、アミノ基、アミジノ基、ヒドラジン、ヒドラゾン、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基などの置換基に置換できる。
【0080】
本実施形態において使用される置換基である、非置換のC1−C30のアルコキシ基の具体的な例として、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソブチルオキシ基、sec−ブチルオキシ基、ペンチルオキシ基、イソアミルオキシ基、へキシルオキシ基などを挙げることができ、上記アルコキシのうち一つ以上の水素原子は、前述したC1−C20のアルキル基の場合と同じ置換基に置換可能である。
【0081】
本実施形態において使用される置換基であるアリール基は、一つ以上の環を含む炭素環式芳香族置換基を意味し、上記環はペンデント方法で共に結合されるか、または融合されうる。アリールという用語はフェニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基のような芳香族置換基を含む。また上記アリール基における一つ以上の水素原子は前述したC1−C20のアルキル基の場合と同じ置換基に置換可能である。
【0082】
本発明の化合物で使われる置換基であるヘテロアリール基は、N、O、PまたはSのうち選択された1、2または3個のヘテロ原子を含み、残りの環原子がCである1価単環式環化合物または上記環はペンデント方法で共に結合されるか、または融合されうる。上記ヘテロアリール基の例には、ピリジル基、チエニル基、フリル基などがある。
【0083】
上記ヘテロ環基は、N、O、PまたはSのうち選択された1、2または3個のヘテロ原子を含み、残りの環原子がCである1価単環式を意味し、上記シクロアルキル基の水素原子の一部が低級アルキル基に置換されたことを意味する。上記シクロアルキル基のうち一つ以上の水素原子は、前述したC1−C20のアルキル基の場合と同じ置換基に置換可能である。
【0084】
以下、本実施形態に係る化合物1、化合物2の望ましい合成例及び実施形態を具体的に例示するが、本発明が下記の実施形態に限定されるものではない。
【0085】
(合成例:化合物1の製造)
下記反応式2の反応経路を経て化合物1を合成した。
【0086】
【化16】

【0087】
(中間体Aの合成)
カルバゾール(16.7g、100mmol)、ヨードベンゼン(26.5g、130mmol)、CuI(1.9g、10mmol)、KCO(138g、1mol)、及び18−クラウン−6(530mg、2mmol)をDMPU(1,3−dimethyl−3,4,5,6−tetrahydro−(1H)−pyrimidinone)(500mL)に溶解した後、170℃で8時間加熱した。
【0088】
反応が完結した後、反応混合物を常温に冷やした後、固体物質をろ過してろ過液に少量のアンモニア水を添加した後、ジエチルエーテル(300ml)で3回洗浄した。洗浄されたジエチルエーテル層をMgSOで乾燥させた後、減圧乾燥して粗生成物を得てシリカゲルカラムクロマトグラフィで分離精製して、中間体Aを白色固体として22g(収率90%)得た。
【0089】
H NMR(CDCl、400MHz)δ(ppm)8.12(d、2H)、7.58−7.53(m、4H)、7.46−7.42(m、1H)、7.38(d、4H)、7.30−7.26(m、2H);13C NMR(CDCl、100MHz)δ(ppm)141.0、137.9、130.0、127.5、127.3、126.0、123.5、120.4、120.0、109.9
【0090】
(中間体Bの合成)
中間体A2.433g(10mmol)を80%の酢酸100mlに入れた後、これにヨード(I)1.357g(5.35mmol)とオルト−過ヨウ素酸(HIO)0.333g(1.46mmol)を固体状態で付加した後、窒素雰囲気で80℃、2時間攪拌した。
【0091】
反応終了後、エチルエーテル(50ml)で3回抽出する。集められた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒を蒸発させて得られた残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィで分離精製して、中間体Bを白色固体として3.23g(収率87%)得た。
【0092】
H NMR(CDCl、300MHz)δ(ppm)8.43(d、1H)、8.05(d、1H)、7.62(dd、1H)、7.61−7.75(m、2H)、7.51−7.43(m、3H)、7.41−7.35(m、2H)、7.27(dd、1H)、7.14(d、1H)
【0093】
(中間体Cの合成)
4、4’−ジブロモジフェニル3.12g(10mmol)、アニリン2.3ml(25mmol)、t−BuONa 2.9g(30mmol)、Pd(dba) 183mg(0.2mmol)、P(t−Bu) 20mg(0.1mmol)をトルエン30mlに溶解した後、90℃で3時間攪拌した。
【0094】
反応混合物を常温に冷やした後、蒸溜水及びジエチルエーテルで3回抽出した。有機層に存在する沈殿物をろ過した後、アセトン及びジエチルエーテルで洗浄して真空乾燥して中間体Cを0.3g(収率90%)得た。中間体Cの構造はHNMRで確認した。
【0095】
H NMR(DMSO−d、400MHz)δ(ppm)8.22(s、2H)、7.48(d、4H)、7.23(t、4H)、7.10(dd、8H)、6.82(t、2H);13C NMR(DMSO−d、100MHz)δ(ppm)145.7、144.3、133.7、131.4、128.7、121.2、119.2、118.9
【0096】
(化合物1の合成)
中間体B 912mg(2.47mmol)、中間体C 336.4mg(1mmol)、t−BuONa 300mg(3mmol)、Pd(dba) 40mg(0.02mmol)、P(t−Bu) 3mg(0.01mmol)をトルエン5mlに溶解した後、90℃で3時間攪拌した。
【0097】
上記反応が完結した後、常温に冷やし、これを蒸溜水及びジエチルエーテルで3回抽出した。集められた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒を蒸発させて得られた残留物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィで分離精製して、化合物1(上記化合物1〜24のうち化合物1)を黄色固体として570mg(収率70%)得た。
【0098】
H NMR(CDCl、300MHz)δ(ppm)7.99(d、2H)、7.95(s、2H)、7.61−7.57(m、8H)、7.48−7.32(m、12H)、7.27−7.19(m、8H)、7.18−7.10(m、8H)、6.96(t、2H);13C NMR(CDCl、100MHz)δ(ppm)148.4、147.3、141.3、140.4、138.0、137.6、133.9、129.9、129.1、127.4、127.1、127.0、126.1、125.6、124.3、123.0、122.9、122.8、121.7、120.5、119.9、118.5、110.7、109.9
【0099】
上記過程によって得た化合物1をCHClに0.2mM濃度で希釈してUVスペクトルを測定し、最大吸収波長351nmを得た(図2)。
【0100】
また、化合物1に対するTGA(Thermo Gravimetric Analysis)及びDSC(Differential Scanning Calorimetry)を利用した熱分析(N雰囲気、温度区間:常温〜600℃(10℃/min)−TGA、常温〜400℃−DSC、パンタイプ:1回使用のAlパン内のPtパン(TGA)、1回使用のAlパン(DSC))を通じて、Td 494℃、Tg 153℃を得た(図3及び図4)。
【0101】
UV吸収スペクトル及びイオン化ポテンシャル測定器であるAC−2を通じて、HOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)エネルギー準位5.16eV及びLUMO(Lowest Unoccupied Molecular Orbital)エネルギー準位2.16eVを得た。
【0102】
(合成例2:化合物2の製造)
下記反応式3の反応経路を経て、化合物2(上記化合物1〜24のうち化合物2)を合成した。
【0103】
【化17】

【0104】
(中間体Dの合成)
中間体B 3.69g(10mmol)、4−アミノベンゾニトリル1.42g(12mmol)、t−BuONa 1.44g(15mmol)、Pd(dba) 183mg(0.2mmol)、P(t−Bu) 40mg(0.2mmol)をトルエン50mlに溶解した後、90℃で3時間攪拌した。
【0105】
上記反応が完結した後、これを常温に冷やして蒸溜水およびジエチルエーテルで3回抽出する。集められた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒を蒸発させて得られた残留物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィで分離精製して、中間体D1.8g(収率50%)を得た。
【0106】
(化合物2の合成)
中間体D222mg(0.61mmol)、4,4’−ジブロモジフェニル78mg(0.25mmol)、t−BuONa 80mg(0.75mmol)、Pd(dba) 10mg(0.01mmol)、P(t−Bu) 2mg(0.01mmol)をトルエン5mlに溶解した後、90℃で3時間攪拌した。
【0107】
反応が完結した後、反応混合物を常温に冷やした後、蒸溜水及びジエチルエーテルで3回抽出した。このように集められた有機層を硫酸マグネシウムで乾燥して溶媒を蒸発させて得られた残留物を、シリカゲルカラムクロマトグラフィで分離精製して、化合物2を黄色固体として186mg(収率86%)得た。
【0108】
H NMR(CDCl、300MHz)δ(ppm)8.02(d、2H)、7.97(d、2H)、7.64−7.48(m、14H)、7.43−7.39(m、10H)、7.29−7.22(m、8H)、7.03(d、4H);13C NMR(CDCl、100MHz)δ(ppm)152.1、145.6、141.5、138.9、138.2、137.3、136.3、133.2、130.0、127.9、127.8、127.0、126.6、125.8、125.5、124.6、122.7、120.5、120.2、119.9、119.4、118.9、111.2、110.1、101.8
【0109】
上記過程によって得た化合物2を、CHClに0.2mM濃度で希釈してUVスペクトルを測定し、最大吸収波長351nmを得た(図5)。
【0110】
また、化合物2に対するTGA及びDSCを利用した熱分析(N雰囲気、温度区間:常温〜600℃(10℃/min)−TGA、常温〜400℃−DSC、パンタイプ:1回使用のAlパン内のPtパン(TGA)、1回使用のAlパン(DSC))を通じてTd 490℃、Tg 153℃、Tm 263℃を得た(図6及び図7)。
【0111】
UV吸収スペクトル及びイオン化ポテンシャル測定器であるAC−2を通じて、HOMOエネルギー準位5.30eV及びLUMOエネルギー準位2.37eVを得た。
【0112】
(実施例1)
アノードは、コーニング15Ω/cm(1200Å)ITOガラス基板を50mm×50mm×0.7mmサイズに切ってイソプロピルアルコール及び純水を利用して各5分間超音波洗浄した後、30分間紫外線を照射してオゾンに露出させて洗浄し、真空蒸着装置にこのガラス基板を設置した。
【0113】
上記基板の上部にまずHILとして化合物1を真空蒸着して、600Åの厚さに形成した。次いで、正孔輸送性化合物として4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(以下、NPB)を300Åの厚さに真空蒸着してHTLを形成した。
【0114】
上記HTLの上部に、公知の青色蛍光ホストであるIDE140(出光社製)及び公知の青色蛍光ドーパントであるIDE105(出光社製)を質量比98:2で同時蒸着して、200Åの厚さにEMLを形成した。
【0115】
次いで、上記EMLの上部にETLとしてAlqを300Åの厚さに蒸着した後、このETLの上部にハロゲン化アルカリ金属であるEILとしてLiFを10Åの厚さに蒸着し、Alを3000Å(陰極電極)の厚さに真空蒸着してLiF/Al電極を形成することによって、有機EL素子を製造した。
【0116】
この素子は、電流密度50mA/cmで駆動電圧7.1V、発光輝度3、214cd/mの高輝度を表し、色座標は(0.14、0.15)であり、発光効率は6.43cd/Aであった。
【0117】
(比較例1)
HILの形成時、上記化合物1の代わりにIDE406(出光社製)を利用したことを除いては、実施例1と同様にして有機EL素子を製作した。
【0118】
この素子は、電流密度50mA/cmで駆動電圧8.0V、発光輝度3、024cd/mを表して、色座標は(0.14、0.15)で同一であり、発光効率は6.05cd/Aであった。
【0119】
本発明による化合物1をHILの形成材料として使用した結果、電荷の注入能力の向上によって同一電流値で駆動電圧が1V程度低くなり、電流効率値が向上し、これによる輝度値の上昇が確認できた。
【0120】
同一電流密度下での輝度値及び電流効率値の比較結果を図8及び図9に示した。
【0121】
(実施例2)
アノードは、コーニング15Ω/cm(1200Å)ITOガラス基板を50mm×50mm×0.7mmサイズに切って、イソプロピルアルコール及び純水中で各5分間超音波洗浄した後、30分間紫外線を照射してオゾンに露出させて洗浄し、真空蒸着装置にこのガラス基板を設置した。
【0122】
上記基板上部にまずHILとして化合物1を真空蒸着して600Åの厚さに形成した。次いで、正孔輸送性化合物として4、4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPB)を300Åの厚さに真空蒸着してHTLを形成した。
【0123】
上記HTLの上部に、緑色蛍光ホストであるAlqと緑色蛍光ドーパントであるC545Tとを質量比98:2で同時蒸着して、250Åの厚さにEMLを形成した。
【0124】
次いで、ETLとしてAlqを300Åの厚さに蒸着した後、このETLの上部にハロゲン化アルカリ金属であるLiFを10Åの厚さに蒸着してEILを形成し、Alを3000Å(陰極電極)の厚さに真空蒸着してLiF/Al電極を形成することによって、有機EL素子を製造した。
【0125】
この素子は、電流密度50mA/cmで駆動電圧6.12V、発光輝度8、834cd/mを表し、色座標は(0.31、0.63)であり、発光効率は17.67cd/Aであった。
【0126】
(比較例2)
HILの形成時、上記化合物1の代わりにIDE406(出光社製)を利用したことを除いては、実施例2と同様にして有機EL素子を製作した。
【0127】
この素子は、電流密度50mA/cmで駆動電圧6.73V、発光輝度7、083cd/mを表し、色座標は(0.31、0.63)で同一であり、発光効率は14.17cd/Aであった。
【0128】
上記実施例2及び比較例2の有機EL素子において、同一電流密度下での駆動電圧値及び電流効率値の比較結果を図10及び図11に示した。
【0129】
図10及び図11を参照すれば、本実施形態に係る化合物1をHILの形成材料として使用した結果、電荷の注入能力が向上するにつれて同一電流値で駆動電圧が0.5V以上低くなり、電流効率値が大幅向上し、これによる輝度値の増加が確認できる。
【0130】
上記のように、本実施形態に係るフェニルカルバゾール系化合物は、赤色、緑色、青色、白色などのあらゆるカラーの蛍光と燐光素子に適した有機膜材料となる。
【0131】
このフェニルカルバゾール系化合物を利用して、上記のように、高効率、低電圧、高輝度、長寿命の有機EL素子を製作することが可能となる。
【0132】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明は、フェニルカルバゾール系化合物及びその製造方法と、上記フェニルカルバゾール系化合物を含む有機膜を採用した有機EL素子の関連技術分野に好適に用いられる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式2に示した構造式で表されることを特徴とする、フェニルカルバゾール系化合物。
【化1】

前記式中、R、R’、R、R’、R、およびR’は、互いに独立的に水素、フッ素、シアノ基、置換もしくは非置換のC1−C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基であり、
Rは、水素、シアノ基、フッ素、非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基である。
【請求項2】
化学式B’に示したカルバゾールと化学式C’に示したジアミン化合物とを反応させ、化学式2で表されるフェニルカルバゾール系化合物を得ることを特徴とする、フェニルカルバゾール系化合物の製造方法。
【化2】

・・・(化学式C’)

【化3】

・・・(化学式B’)

【化4】


前記化学式C’中、Xは、
【化5】


であり、Arは、
【化6】


である。
また、前記化学式B’および化学式2中、R、R’、R、R’、R、およびR’は、互いに独立的に水素、フッ素、シアノ基、置換もしくは非置換のC1−C30のアルキル基、置換もしくは非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基であり、
Rは、水素、シアノ基、フッ素、非置換のC6−C30のアリール基、置換もしくは非置換のC2−C30のヘテロ環、または置換もしくは非置換のアミノ基であり、
Yは、ハロゲン原子である。
【請求項3】
前記反応式1の反応は、Pd(dba)(dba=dibenzylideneacetone)、tert−ブトキシドナトリウム及びトリ(tert−ブチル)ホスフィンの存在下で行われ、
反応温度は、50〜150℃であることを特徴とする、請求項2に記載のフェニルカルバゾール系化合物の製造方法。
【請求項4】
第1電極と第2電極との間に位置する有機膜を備える有機電界発光素子において:
前記有機膜は、請求項1に記載のフェニルカルバゾール系化合物を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項5】
前記有機膜は、正孔注入層または正孔輸送層であることを特徴とする、請求項4に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記有機膜は、正孔注入及び正孔輸送の機能を共に有する単一膜であることを特徴とする、請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記有機膜は、正孔注入層または正孔輸送層であり、
前記有機電界発光素子は、第1電極/正孔注入層/発光層/第2電極、第1電極/正孔注入層/発光層/正孔輸送層/第2電極または第1電極/発光層/正孔輸送層/第2電極の構造を備えることを特徴とする、請求項5に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記有機膜は、発光層であることを特徴とする、請求項4に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記発光層は、燐光または蛍光材料から形成されることを特徴とする、請求項9に記載の有機電界発光素子。
【請求項10】
前記発光層では、前記化学式2で表示されるフェニルカルバゾール系化合物が、蛍光または燐光ホストとして使用されることを特徴とする、請求項8に記載の有機電界発光素子。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−222355(P2010−222355A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−68464(P2010−68464)
【出願日】平成22年3月24日(2010.3.24)
【分割の表示】特願2005−342448(P2005−342448)の分割
【原出願日】平成17年11月28日(2005.11.28)
【出願人】(308040351)三星モバイルディスプレイ株式會社 (764)
【Fターム(参考)】