説明

フェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物およびこれを利用した有機電界発光素子

【課題】新規複素環化合物およびそれを利用した有機電界発光素子の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるフェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物、およびそれを利用した有機電界発光素子。


(式(1)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜20の置換もしくは非置換の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基等であり、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、炭素数6〜30の置換もしくは非置換のアリール基、または炭素数2〜30の置換もしくは非置換のヘテロアリール基である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物およびこれを利用した有機電界発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
有機電界発光素子は、蛍光性またはリン光性の有機化合物薄膜(以下、単に「有機膜」とも称する)に電流を流すと、電子と正孔とが有機膜で結合しつつ光が発生する現象を利用した自発光型表示素子である。有機電界発光素子は、軽量化が可能であり、部品が簡素であって製作工程が簡単であり、高画質かつ広視野角を確保しているという長所を有する。また、動画を高画質および高色純度で具現でき、低消費電力および低電圧での駆動が可能であるので、携帯用電子機器に適した電気的特性を有している。
【0003】
イーストマンコダック社は、アルミニウムキノリノール錯体層とトリフェニルアミン誘導体層とを含む多層構造の有機電界発光素子を開発し(特許文献1参照)、有機発光層の形成時に低分子化合物を用いることによって、紫外線領域から赤外線領域に至るまでの多様な発光が可能になった(特許文献2参照)。
【0004】
発光素子は、自発光型素子であって、視野角が広く、コントラストに優れ、かつ応答時間が速いという長所を有している。前記発光素子には、発光層に無機化合物を使用する無機発光素子と、有機化合物を使用する有機発光素子(Organic Light Emitting Deveice:OLED)とがある。OLEDは、無機発光素子に比べて輝度、駆動電圧および応答速度に優れ、多色化が可能であるという点で多くの研究が行われている。
【0005】
OLEDは、一般的にアノード/発光層/カソードの積層構造を有するが、アノード/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/カソード、またはアノード/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層/カソードなどの多様な構造を有しうる。
【0006】
有機電界発光素子をディスプレイ装置に使用する場合、低消費電力化のためには、より低い駆動電圧で今までと同様の発光効率を得るか、または同じ駆動電圧で高い発光効率を得る必要がある。
【0007】
特許文献3で開示されている銅フタロシアニンなどのフタロシアニン化合物、または非特許文献1に記載されているスターバースト型アミン誘導体類であるTCTA、m−MTDATA、m−MTDAPBなどを正孔注入材料として用いることによって、駆動電圧が低くなる効果が得られている。
【0008】
また、特許文献4に記載された材料の場合、有機電界発光特性が既存の材料に比べて優秀な性能を示している。
【特許文献1】米国特許第4,885,211号明細書
【特許文献2】米国特許第5,151,629号明細書
【特許文献3】米国特許第4,356,429号明細書
【特許文献4】米国特許第6,541,129号明細書
【非特許文献1】Advanced Material,6,p.677(1994)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3および非特許文献1に記載の材料では、寿命、効率および消費電力特性が満足すべきレベルに達せず、改良の余地が多い。
【0010】
また、特許文献4に記載された材料は、低いガラス転移温度のために熱安定性の面において満足すべきレベルに達していない。
【0011】
さらに、従来の有機電界発光素子は、溶液塗布法で製造する場合に有機膜の安定性が低下するという問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、乾式プロセスおよび湿式プロセスに適用可能であり、有機電界発光素子の駆動電圧を低減させ、高いガラス転移温度および結晶化を防止できる優れた熱安定性だけでなく、優れた電気的安定性および高い電荷移動特性を有する化合物を提供することを目的とする。
【0013】
また、本発明は、前記のような化合物を含む有機膜を用いて高効率、低電圧、高輝度および長寿命の特性を有する有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記課題を解決するために、本発明は、下記化学式(1)で表されるフェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物を提供する。
【0015】
【化1】

【0016】
前記化学式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜20の置換されているかもしくは非置換であるシクロアルキル基、炭素数5〜20の置換されているかもしくは非置換であるヘテロシクロアルキル基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、炭素数6〜20の置換されているかもしくは非置換であるアラルキル基、炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基であり、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基である。
【0017】
前記の他の課題を解決するために、本発明は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される少なくとも1層の有機膜と、を備える有機電界発光素子であって、前記有機膜が前記化学式(1)で表される化合物を含む有機電界発光素子を提供する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によるフェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物は、乾式プロセスおよび湿式プロセスに適用可能であることから製造が容易であり、溶解性に優れており、優れた正孔注入特性を有し、熱的安定性に優れる。よって、これを有機膜材料として用いると、同じ電流密度で高い輝度および優れた電流効率を有する有機電界発光素子が得られる。さらに、本発明の化合物は、有機染料や非線形光学物質などの電子材料としても利用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0020】
本発明は、下記化学式(1)で表されるフェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物を提供する。
【0021】
【化2】

【0022】
前記化学式(1)中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜20の置換されているかまたは非置換であるシクロアルキル基、炭素数5〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロシクロアルキル基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、炭素数7〜30の置換されているかもしくは非置換であるアラルキル基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基であり、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基である。
【0023】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうるハロゲン原子の具体的な例としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子などが挙げられる。
【0024】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうるアルキル基は、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状または分岐状のアルキル基である。より具体的な例としては、例えば、メチル基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、iso−アミル基、tert−ペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基、3−メチルペンタン−2−イル基、3−メチルペンタン−3−イル基、4−メチルペンチル基、4−メチルペンタン−2−イル基、1,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブタン−2−イル基、n−ヘプチル基、1−メチルヘキシル基、3−メチルヘキシル基、4−メチルヘキシル基、5−メチルヘキシル基、1−エチルペンチル基、1−(n−プロピル)ブチル基、1,1−ジメチルペンチル基、1,4−ジメチルペンチル基、1,1−ジエチルプロピル基、1,3,3−トリメチルブチル基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、2−メチルヘキサン−2−イル基、2,4−ジメチルペンタン−3−イル基、1,1−ジメチルペンタン−1−イル基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イル基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イル基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イル基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イル基、1−メチルヘプチル基、2−メチルヘプチル基、5−メチルヘプチル基、2−メチルヘプタン−2−イル基、3−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−3−イル基、4−メチルヘプタン−4−イル基、1−エチルヘキシル基、2−エチルヘキシル基、1−プロピルペンチル基、2−プロピルペンチル基、1,1−ジメチルヘキシル基、1,4−ジメチルヘキシル基、1,5−ジメチルヘキシル基、1−エチル−1−メチルペンチル基、1−エチル−4−メチルペンチル基、1,1,4−トリメチルペンチル基、2,4,4−トリメチルペンチル基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピル基、1,1,3,3−テトラメチルブチル基、n−ノニル基、1−メチルオクチル基、6−メチルオクチル基、1−エチルヘプチル基、1−(n−ブチル)ペンチル基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチル基、1,5,5−トリメチルヘキシル基、1,1,5−トリメチルヘキシル基、2−メチルオクタン−3−イル基、n−デシル基、1−メチルノニル基、1−エチルオクチル基、1−(n−ブチル)ヘキシル基、1,1−ジメチルオクチル基、3,7−ジメチルオクチル基、n−ウンデシル基、1−メチルデシル基、1−エチルノニル基、n−ドデシル基、1−メチルウンデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、1−メチルトリデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、またはn−エイコシル基などが挙げられる。
【0025】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうるシクロアルキル基は、脂肪族環を有する炭素数3〜20の置換されているかまたは非置換であるシクロアルキル基である。より具体的な例としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロペンチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、シクロウンデシル基、シクロドデシル基、シクロトリデシル基、シクロテトラデシル基、シクロペンタデシル基、シクロヘキサデシル基、シクロヘプタデシル基、シクロオクタデシル基、シクロノナデシル基、またはシクロエイコシル基が挙げられる。
【0026】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうるヘテロシクロアルキル基は、前記シクロアルキル基中の少なくとも1つの炭素が窒素原子、酸素原子、硫黄原子、およびリン原子からなる群より選択される少なくとも1種に置換された基である。より具体的な例としては、例えば、オキシラニル基、ピロリジニル基、イミダゾリジニル基、ピラゾリジニル基、オキサゾリジニル基、イソオキサゾリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、モルホリニル基、チオモルホニリル基、テトラヒドロピラニル基、またはテトラヒドロフラニル基などが挙げられる。
【0027】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうるアルコキシ基は、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状または分岐状のアルコキシ基である。より具体的な例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチル−プロポキシ基、n−へキシルオキシ基、3−メチルペンタン−2−イルオキシ基、3−メチルペンタン−3−イルオキシ基、4−メチルペンチルオキシ基、4−メチルペンタン−2−イルオキシ基、1,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブチルオキシ基、3,3−ジメチルブタン−2−イルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、1−メチルヘキシルオキシ基、3−メチルヘキシルオキシ基、4−メチルヘキシルオキシ基、5−メチルヘキシルオキシ基、1−エチルペンチルオキシ基、1−(n−プロピル)ブチルオキシ基、1,1−ジメチルペンチルオキシ基、1,4−ジメチルペンチルオキシ基、1,1−ジエチルプロピルオキシ基、1,3,3−トリメチルブチルオキシ基、1−エチル−2,2−ジメチルプロピルオキシ基、n−オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、2−メチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,4−ジメチルペンタン−3−イルオキシ基、1,1−ジメチルペンタン−1−イルオキシ基、2,2−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、2,3−ジメチルヘキサン−2−イルオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−2−イルオキシオキシ基、2,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,4−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、3,5−ジメチルヘキサン−3−イルオキシ基、1−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプチルオキシ基、5−メチルヘプチルオキシ基、2−メチルヘプタン−2−イルオキシ基、3−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−3−イルオキシ基、4−メチルヘプタン−4−イルオキシ基、1−エチルヘキシルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−プロピルペンチルオキシ基、2−プロピルペンチルオキシ基、1,1−ジメチルヘキシルオキシ基、1,4−ジメチルヘキシルオキシ基、1,5−ジメチルヘキシルオキシ基、1−エチル−1−メチルペンチルオキシ基、1−エチル−4−メチルペンチルオキシ基、1,1,4−トリメチルペンチルオキシ基、2,4,4−トリメチルペンチルオキシ基、1−イソプロピル−1,2−ジメチルプロピルオキシ基、1,1,3,3−テトラメチルブチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、1−メチルオクチルオキシ基、6−メチルオクチルオキシ基、1−エチルヘプチルオキシ基、1−(n−ブチル)ペンチルオキシ基、4−メチル−1−(n−プロピル)ペンチルオキシ基、1,5,5−トリメチルヘキシルオキシ基、1,1,5−トリメチルヘキシルオキシ基、2−メチルオクタン−3−イルオキシ基、n−デシルオキシ基、1−メチルノニルオキシ基、1−エチルオクチルオキシ基、1−(n−ブチル)ヘキシルオキシ基、1,1−ジメチルオクチルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、n−ウンデシルオキシ基、1−メチルデシルオキシ基、1−エチルノニルオキシ基、n−ドデシルオキシ基、1−メチルウンデシルオキシ基、n−トリデシルオキシ基、n−テトラデシルオキシ基、1−メチルトリデシルオキシ基、n−ペンタデシルオキシ基、n−ヘキサデシルオキシ基、n−ヘプタデシルオキシ基、n−オクタデシルオキシ基、n−ノナデシルオキシ基、またはn−エイコシルオキシ基などが挙げられる。
【0028】
前記化学式(1)中のR〜R、ならびにArおよびArで用いられうるアリール基は、芳香族環を有する炭素数6〜30の1価の基であって、2つ以上の芳香族環を含んでもよい。2つ以上の芳香族環を含む場合、前記芳香族環は互いに結合または縮合された形態で存在しうる。より具体的な例としては、例えば、フェニル基、ペンタレニル基、インデニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、テトラヒドロナフチル基、アズレニル基、ヘプタレニル基、オクタレニル基、as−インダセニル基、s−インダセニル基、ビフェニレニル基、アセナフチレニル基、アセナフテニル基、フルオレニル基、フェナレニル基、アントラセニル基、メチルアントラセニル基、9,10−[1,2]ベンゼノアントラセニル基、フェナントリル基、1H−トリンデニル基、フルオランテニル基、ピレニル基、アセフェナントリレニル基、アセアントリレニル基、トリフェニレニル基、クリセニル基、テトラフェニル基、ナフタセニル基、プレイアデニル基、ピセニル基、ペリレニル基、ペンタフェニル基、ペンタセニル基、テトラフェニレニル基、ヘキサヘリセニル基、ヘキサフェニル基、ヘキサセニル基、ルビセニル基、コロネニル基、トリナフチレニル基、ヘプタフェニル基、ヘプタセニル基、またはピラントレニル基などが好ましく挙げられる。
【0029】
前記化学式(1)中のR〜R、ならびにArおよびArで用いられうるヘテロアリール基は、前記アリール基の1つ以上の炭素が、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子からなる群より選択される少なくとも1種で置換された、炭素数2〜30の1価の基である。より具体的な例としては、例えば、ピロリル基、イミダゾリル基、イミダゾリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、ピラゾリル基、チアゾリル基、イソチアゾリル基、オキサゾリル基、イソオキサゾリル基、フラザニル基、ピリジニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピリダジニル基、フラニル基、ピラニル基、チエニル基、ベンゾチオフェニル基、チオピラニル基、イソチオクロメニル基、チオクロメニル基、チオキサントレニル基、チアントレニル基、フェノキサチイニル基、ピロリジニル基、1H−1−ピリンジニル基、インドニジニル基、イソインドリル基、インドリル基、インダゾリル基、プリニル基、キノリジニル基、イソキノリニル基、キノリニル基、ナフチリジニル基、フタラジニル基、キノキサニリル基、キナゾリニル基、シンノリニル基、プテリジニル基、カルバゾリル基、β−カルボリニル基、フェナントリジニル基、アクリジニル基、ペリミジニル基、フェナントロリニル基、フェナジニル基、フェノチアジニル基、フェノキサジニル基、アンチジニル基、イソベンゾフラニル基、ベンゾフラニル基、イソクロメニル基、クロメニル基、キサンテニル基、パラチアジニル基、トリアゾリル基、またはテトラゾリル基などが挙げられる。
【0030】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうるアラルキル基は、アルキル基の少なくとも1つの水素原子がアリール基で置換された、炭素数7〜30の1価の基である。より具体的な例としては、例えば、ベンジル基またはフェニルエチル基などが挙げられる。
【0031】
前記化学式(1)中のR〜Rで用いられうる、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アラルキル基、ヘテロアリール基、シクロアルキル基およびヘテロシクロアルキル基が置換される場合の置換基の例としては、例えば、次のような置換基が挙げられる。フッ素原子;塩素原子;臭素原子;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、もしくはヒドロキシ基で置換されているかもしくは非置換である炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、もしくはヒドロキシ基で置換されているかもしくは非置換である炭素数1〜20の直鎖状もしくは分岐状の直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基;炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、もしくはヒドロキシ基で置換されているかもしくは非置換である炭素数6〜30のアリール基;炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、もしくはヒドロキシ基で置換されているかもしくは非置換である炭素数2〜30であるヘテロアリール基;炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、もしくはヒドロキシ基で置換されているかもしくは非置換である炭素数5〜20のシクロアルキル基;炭素数1〜20のアルキル基、炭素数1〜20のアルコキシ基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、シアノ基、ニトロ基、もしくはヒドロキシ基で置換されているかもしくは非置換である炭素数5〜30のヘテロシクロアルキル基;−N(G)(G)で表される基であり、この際、前記のGおよびGは、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜10の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、または炭素数1〜10のアルキル基で置換されているかもしくは非置換の炭素数6〜30のアリール基である。
【0032】
前記化学式(1)で表される本発明の化合物は、下記化学式(2)〜(13)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。しかし、これらに限定されるものではない。
【0033】
【化3】

【0034】
【化4】

【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
【化14】

【0045】
本発明によるフェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物は、非局在化した電子分布を有しており、正孔輸送能に優れている。加えて、本発明の化合物は、フェニルベンジジンの窒素原子にフェニルフェノキサジン基またはフェニルフェノチアジン基を結合させることによって、ガラス転移温度が高くなり、熱安定性に優れている。
【0046】
前記化学式(1)で表される本発明による化合物は、下記反応式(1)に示すように、下記化学式(14)で表されるフェニル基含有ブロモフェノキサジンまたはフェニル基含有ブロモフェノチアジンを、下記化学式(15)で表されるN,N−ジアリールベンジジンと反応させて製造することができる。
【0047】
【化15】

【0048】
前記化学式(1)、前記化学式(14)、および前記化学式(15)中、R、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20の置換されているかまたは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜20の置換されているかもしくは非置換であるシクロアルキル基、炭素数5〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロシクロアルキル基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、炭素数7〜30の置換されているかもしくは非置換であるアラルキル基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基であり、Xは、酸素原子または硫黄原子であり、ArおよびArは、それぞれ独立して、炭素数6〜30の置換されているかまたは非置換であるアリール基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基である。
【0049】
この際、フェニル基含有ブロモフェノキサジンまたはフェニル基含有ブロモフェノチアジンは、下記反応式(2)に示すように、フェノキサジンまたはフェノチアジンの窒素原子に結合している水素原子をフェニル基に置換した後、臭素化することによって製造することができる。
【0050】
【化16】

【0051】
前記反応式(2)中、RおよびXは、前記化学式(1)の定義と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0052】
前記化学式(1)で表される本発明による化合物、フェニル基含有ブロモフェノキサジン、およびフェニル基含有ブロモフェノチアジンのさらに詳細な合成経路、合成条件等は、後述の実施例に記載の反応式(3)または(4)を参照しながら、後で説明する。
【0053】
本発明の有機電界発光素子は、第1電極と、第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間に配置される有機膜と、を備える有機電界発光素子であって、前記有機膜が前記化学式(1)で表される化合物を少なくとも1種含むことを特徴とする。
【0054】
前記化学式(1)で表される化合物は、有機電界発光素子の有機膜、特に正孔注入層または正孔輸送層に用いられることが好ましい。
【0055】
溶液塗布法で製造する場合に有機膜の安定性が低下する従来の有機電界発光素子とは異なり、本発明による有機電界発光素子は、優れた溶解性および熱安定性を有し、かつ安定した有機膜の形成が可能な化合物を含み、優れた駆動電圧および優れた色純度などの優れた発光特性を提供することができる。
【0056】
本発明による有機電界発光素子の構造は、多様でありうる。すなわち、前記第1電極と前記第2電極との間に正孔注入層、正孔輸送層、正孔阻止層、電子阻止層、電子輸送層および電子注入層からなる群より選択される少なくとも1つの層をさらに備えうる。
【0057】
さらに具体的に、本発明による有機電界発光素子の一例を、図1に示す。図1に示す有機電界発光素子は、第1電極10/正孔注入層12/正孔輸送層14/発光層16/電子注入層18/第2電極20という構造を有する。このとき、前記正孔注入層12および正孔輸送層14の少なくとも一方は、本発明による化合物から形成されうる。
【0058】
本発明による有機電界発光素子の発光層は、赤色リン光ドーパントもしくは赤色蛍光ドーパント、緑色リン光ドーパントもしくは緑色蛍光ドーパント、青色リン光ドーパントもしくは青色蛍光ドーパント、または白色リン光ドーパントもしくはリン光ドーパントまたは白色蛍光ドーパントを含みうる。そのうち、前記のリン光ドーパントの具体的な例としては、Ir、Pt、Os、Ti、Zr、Hf、Eu、TbおよびTmからなる群より選択される少なくとも1種の元素を含む有機金属化合物が挙げられる。
【0059】
以下、本発明による有機電界発光素子の製造方法の一例を、図1に示す有機電界発光素子を参照して説明する。ただし、本発明は、これに制限されるものではない。
【0060】
まず、基板の上部に、蒸着法またはスパッタリング法などを用いて高い仕事関数を有する物質から第1電極10を形成する。前記第1電極10は、アノードでありうる。ここで、基板としては、通常有機電界発光素子で用いられる基板が使用されうるが、機械的強度、熱安定性、透明性、表面平滑性、取扱容易性および防水性に優れるガラス基板または透明プラスチック基板が好ましい。第1電極10を形成する物質としては、透明でありかつ導電性に優れるインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化スズ(SnO)、または酸化亜鉛(ZnO)などが用いられる。
【0061】
次いで、前記第1電極10の上部に真空蒸着法、スピンコーティング法、キャスト法、またはLB法など、多様な方法を用いて正孔注入層12を形成する。
【0062】
真空蒸着法により正孔注入層12を形成する場合、その蒸着条件は、正孔注入層12の材料として使用する化合物、目的とする正孔注入層12の構造および熱的特性などによって異なるが、一般的に蒸着温度は100〜500℃が好ましく、真空度は1.33×10−6〜0.133Pa(10−8〜10−3torr)が好ましく、蒸着速度は0.1〜10nm/sec(0.01〜100Å/sec)が好ましく、膜厚は1nm〜5μmの範囲であることが好ましい。
【0063】
スピンコート法により正孔注入層12を形成する場合、そのコーティング条件は、正孔注入層12の材料として使用する化合物、目的とする正孔注入層の構造および熱的特性によって異なるが、2000〜5000rpmの回転数が好ましく、コーティング後に溶媒を除去するための熱処理温度は、80〜200℃の温度範囲で適切に選択することが好ましい。
【0064】
前記正孔注入層を形成する物質は、前述の化学式(1)で表される化合物でありうる。前記正孔注入層の厚さは、好ましくは10〜1000nm(100〜10000Å)、より好ましくは10〜100nm(100〜1000Å)である。前記正孔注入層の厚さが10nm(100Å)未満である場合、正孔注入特性が低下する場合があり、前記正孔注入層の厚さが1000nm(10000Å)を超える場合、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0065】
次いで、前記正孔注入層12の上部に真空蒸着法、スピンコーティング法、キャスト法、またはLB法など、多様な方法を用いて正孔輸送層14を形成する。真空蒸着法およびスピンコーティング法により正孔輸送層14を形成する場合、その蒸着条件およびコーティング条件は、使用する化合物によって異なるが、一般的に正孔注入層12の形成とほぼ同じ条件が採用されうる。
【0066】
前記正孔輸送層14を形成する物質は、前記化学式(1)で表される化合物でありうる。前記正孔輸送層の厚さは、好ましくは5〜100nm(50〜1000Å)、より好ましくは10〜60nm(100〜600Å)である。前記正孔輸送層の厚さが5nm(50Å)未満である場合、正孔輸送特性が低下する場合があり、前記正孔輸送層の厚さが100nm(1000Å)を超える場合、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0067】
次いで、前記正孔輸送層14の上部に、真空蒸着法、スピンコーティング法、キャスト法、またはLB法などの方法を用いて発光層16を形成する。真空蒸着法およびスピンコーティング法により発光層を形成する場合、その蒸着条件およびコーティング条件は、使用する化合物によって異なるが、一般的に正孔注入層12の形成とほぼ同じ条件が採用されうる。
【0068】
前記発光層16を形成する物質は、前記化学式(1)で表される化合物でありうる。しかしながら、一部の場合には、当業者に公知である任意の蛍光ホスト材料が共に用いられるか、または当業者に公知である任意のドーパント材料が共に用いられる。ドーピング物質の濃度は、特に制限されないが、通常、ホスト材料100質量部を基準として0.01〜15質量部であることが好ましい。
【0069】
前記発光層16の厚さは、好ましくは10〜100nm(100〜1000Å)、より好ましくは20〜60nm(200〜600Å)である。前記発光層の厚さが10nm(100Å)未満である場合、発光特性が低下する場合があり、前記発光層の厚さが100nm(1000Å)を超える場合、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0070】
次に、発光層16の上部に、真空蒸着法などの方法を用いて電子注入層18を形成する。真空蒸着法により電子注入層18を形成する場合、その蒸着条件は、使用する化合物によって異なるが、一般的に正孔注入層12の形成とほぼ同じ条件が採用されうる。
【0071】
電子注入層18を形成する物質としては、LiF、NaCl、CsF、LiO、BaOなどのような電子注入層の形成材料として公知である任意の物質を利用できる。前記電子注入層18を形成するための蒸着条件は、使用する化合物によって異なるが、一般的に正孔注入層12の形成とほぼ同じ条件が採用されうる。
【0072】
前記電子注入層の厚さは、好ましくは0.1〜10nm(1〜100Å)、より好ましくは0.5〜5nm(5〜50Å)である。前記電子注入層の厚さが0.1nm(1Å)未満である場合、電子注入特性が低下する場合があり、前記電子注入層の厚さが10nm(100Å)を超える場合、駆動電圧が上昇する場合がある。
【0073】
最後に、電子注入層18の上部に、真空蒸着法やスパッタリング法などの方法を利用して第2電極20を形成する。前記第2電極20は、カソードとして用いられうる。前記第2電極20の形成に用いられる金属としては、低い仕事関数を有する金属、合金、導電性化合物およびそれらの混合物が使用されうる。具体的な例としては、例えば、リチウム(Li)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、アルミニウム−リチウム合金(Al−Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム−インジウム合金(Mg−In)、マグネシウム−銀合金(Mg−Ag)などが挙げられる。また、前面発光素子を得るために、ITOまたはIZOを使用した透明カソードを使用することもできる。
【実施例】
【0074】
以下、下記の実施例を通じて、本発明をさらに詳細に説明するが、下記の実施例および合成例は、単に説明の目的のためのものであり、本発明を制限するためのものではない。
【0075】
【化17】

【0076】
(合成例1)(上記反応式(3)参照)
1)中間体1の合成
1−ブロモトルエン 11.2g(65mmol)、フェノキサジン 9.8g(54mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 5.76g、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd(dba)) 0.732g、およびトリ(tert−ブチル)ホスフィン 0.2gをトルエン250mlに溶解させた後、80℃で12時間反応させた。
【0077】
反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、蒸留水200mlを添加して、トルエン:水=1:1(体積比)混合溶媒で抽出した。集めた有機層をMgSOで乾燥させた後濃縮して、トルエン:ヘキサン=1:2(体積比)混合溶媒を溶離液として用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィを実施した。ここで得た溶出液を濃縮、乾燥させて11g(収率:73.8%)の中間体1を得た。得られた中間体1のH−NMRスペクトルは、下記表1の通りであった。
【0078】
【表1】

【0079】
2)中間体2の合成
中間体1 4.5g(16.47mmol)をCHCl 150mlに溶解させた後、0℃に維持しつつ中間体1に対して1当量の臭素を徐々に添加した。薄層クロマトグラフィ(TLC)により、出発物質が消費されたかどうかを確認した。最終的に出発物質がすべて消費されたのを確認した後、臭素の添加を止め、反応混合物を10分間攪拌した後で反応を停止させた。
【0080】
反応混合物に少量のアセトンを添加して、臭素をクエンチした後、水:CHCl=2:1(体積比)混合溶媒を用いて抽出を実施した。集めた有機層をMgSOで乾燥させた後で濃縮して、メタノールで再沈殿させることによって、3.85g(収率:66%)の中間体2を得た。得られた中間体2のH−NMRスペクトルは、下記表2の通りであった。
【0081】
【表2】

【0082】
3)化学式(4)で表される化合物の合成
中間体2 3.0g(8.54mmol)、N,N−ジフェニルベンジジン 1.15g(3.42mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 1.0g、Pd(dba) 0.115g、およびトリ(tert−ブチル)ホスフィン 0.034gをトルエン250mlに溶解させた後、80℃で12時間反応させた。
【0083】
反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、蒸留水200mlを添加してトルエン:水=1:1(体積比)混合溶媒で抽出した。集めた有機層をMgSOで乾燥させた後で濃縮して、トルエン:ヘキサン=1:2(体積比)混合溶媒を溶離液として用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィを実施した。ここで得た溶出液を濃縮、乾燥して、2.8g(収率:93%)の化学式(4)で表される化合物(以下、単に「化合物(4)」とも称する)を得た。得られた化合物(4)のH−NMRスペクトルは、下記表3の通りであった。
【0084】
【表3】

【0085】
【化18】

【0086】
(合成例2)(上記反応式(4)参照)
1)中間体3の合成
1−ブロモトルエン 11.2g(65mmol)、フェノチアジン 10.7g(54mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 5.76g、Pd(dba) 0.732g、およびトリ(tert−ブチル)ホスフィン 0.2gをトルエン250mlに溶解させた後、80℃で12時間反応させた。
【0087】
反応終了後、反応混合物を室温まで冷却し、蒸留水200mlを添加してトルエン:水=1:1(体積比)混合溶媒で抽出した。集めた有機層をMgSOで乾燥させた後で濃縮して、トルエン:ヘキサン=1:2(体積比)混合溶媒を溶離液として用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィを実施した。ここで得た溶出液を濃縮、乾燥して、12g(収率:77%)の中間体3を得た。
【0088】
2)中間体4の合成
中間体3 4.5g(15.5mmol)をCHCl 150mlに溶解させた後、0℃に維持しつつ中間体3に対して1当量の臭素を徐々に添加した。薄層クロマトグラフィ(TLC)により、出発物質が消費されたかどうかを確認した。最終的に出発物質がすべて消費されたのを確認した後、臭素の添加を中止し、反応混合物を10分間攪拌した後で反応を停止させた。
【0089】
反応混合物に少量のアセトンを添加して臭素をクエンチした後、水:CHCl=2:1(体積比)混合溶媒を使用して抽出を実施した。集めた有機層をMgSOで乾燥させた後で濃縮して、メタノールで再沈殿させることによって、4.2g(収率:73%)の中間体4を得た。
【0090】
3)化学式(9)で表される化合物の合成
中間体4 3.13g(8.54mmol)、N,N−ジフェニルベンジジン 1.15g(3.4mmol)、ナトリウムtert−ブトキシド 1.0g、Pd(dba) 0.115g、およびトリ(tert−ブチル)ホスフィン 0.034gをトルエン250mlに溶解させた後、80℃で12時間反応させた。
【0091】
反応終了後、反応混合物を室温まで冷却させ、蒸留水200mlを添加してトルエン:水=1:1(体積比)混合溶媒で抽出した。集めた有機層をMgSOで乾燥させた後で濃縮して、トルエン:ヘキサン=1:2(体積比)混合溶媒を溶離液として用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィを実施した。ここで得た溶出液を濃縮、乾燥して、2.8g(収率:93.5%)の化学式(9)で表される化合物(以下、単に「化合物(9)」とも称する)を得た。得られた化合物(9)のH−NMRスペクトルは、下記表4の通りであった。
【0092】
【表4】

【0093】
(評価例:材料の物性評価)
前記化合物(4)および前記化合物(9)を、トルエンに対して1mMの濃度でそれぞれ溶解させて、それぞれの溶液の紫外・可視吸収スペクトル(UV/Visスペクトル)を測定した。その結果、前記化合物(4)および前記化合物(9)の最大吸収波長は、それぞれ357nmおよび356nmであり、紫外線吸収端からバンドギャップを計算したところ、それぞれ3.03eVおよび3.01eVであった。
【0094】
また、前記化合物(4)および前記化合物(9)を、TGA(Thermo Gravimetric Anaysis、熱重量測定)およびDSC(Differential Scanning Calorimetry、示差走査熱量測定)を用いた熱分析を行った(N雰囲気、温度範囲はTGAが常温〜600℃(昇温速度は10℃/min)、DSCが常温〜400℃(昇温速度は10℃/min))。パンは、TGAでは使い捨てのAlパン内のPtパンを使用し、DSCでは使い捨てのAlパンを使用した。その結果、化合物(4)の熱分解温度(Td)/ガラス転移温度(Tg)(℃)は、489℃/149℃であり、化合物(9)の熱分解温度(Td)/ガラス転移温度(Tg)は、490℃/164℃であった。
【0095】
イオン化ポテンシャル測定装置であるAC−2を用いて測定した化合物(4)および化合物(9)のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)のエネルギー準位は、それぞれ5.08eVおよび5.03eVであった。
【0096】
(実施例1)
【0097】
【化19】

【0098】
【化20】

【0099】
前記の化合物(4)を用いて正孔注入層を形成し、前記化学式(16)で表される化合物を用いて正孔輸送層を形成し、Alq3(前記化学式(17)参照)を用いて発光層を形成して、次のような構造を有する有機電界発光素子を作製した:ITO(第1電極、厚さ100nm(1000Å))/化合物(4)の層(正孔注入層、厚さ35nm(350Å))/前記化学式(16)で表される化合物の層(正孔輸送層、厚さ30nm(300Å))/前記化学式(17)で表される化合物の層(発光層、厚さ40nm(400Å))/LiF(電子注入層、厚さ0.7nm(7Å))/Al(第2電極、厚さ200nm(2000Å))。
【0100】
前記の第1電極(アノード)は、表面抵抗率が15Ω/cm(厚さ100nm(1000Å))であるITOガラス基板を50mm×50mm×0.7mmのサイズにカットして、アセトン、イソプロピルアルコール、および純水中で各15分間超音波洗浄した後、30分間UVオゾン洗浄して使用した。前記ITOガラス基板の上部に、化合物(4)(正孔注入層)および前記化学式(16)で表される化合物(正孔輸送層)をそれぞれ真空蒸着し、その後前記化学式(17)で表される化合物を真空蒸着して発光層を形成した。次いで、前記発光層の上部にLiF(電子注入層)とAl(カソード、第2電極)とを順次に真空蒸着して、図1に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。この素子は、電流密度50mA/cmで1300cd/mの緑色発光が得られ、電流効率は2.45cd/Aであった。電流密度と電流効率との関係を、後述の比較例の結果と共に図2に示した。また、この素子の発光スペクトルを、図3に示した。
【0101】
(実施例2)
正孔注入層として化合物(4)の代わりに化合物(9)を用いたことを除いては、前記実施例1と同様の方法で次のような構造を有する有機電界発光素子を作製した:ITO(第1電極、厚さ100nm(1000Å))/化合物(9)の層(正孔注入層、厚さ35nm(350Å))/化学式(16)で表される化合物の層(正孔輸送層、厚さ30nm(300Å))/前記化学式(17)で表される化合物の層(発光層、厚さ40nm(400Å))/LiF(電子注入層、厚さ0.7nm(7Å))/Al(第2電極、厚さ200nm(2000Å))。この素子は、電流密度50mA/cmで1500cd/mの緑色発光を示し、電流効率は2.68cd/Aであった。
【0102】
(比較例)
【0103】
【化21】

【0104】
正孔注入層の物質として、化合物(4)の代わりに前記化学式(18)の化合物を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で次のような構造を有する有機電界発光素子を作製した:ITO(第1電極、厚さ100nm(1000Å))/前記化学式(18)で表される化合物の層(正孔注入層、厚さ35nm(350Å))/前記化学式(16)で表される化合物の層(正孔輸送層、厚さ30nm(300Å))/前記化学式(17)で表される化合物の層(発光層、厚さ40nm(400Å))/LiF(電子輸送層、厚さ0.7nm(7Å))/Al(第2電極、200nm(2000Å))。この素子は、電流密度50mA/cmで1000cd/mの緑色発光が得られ、電流効率は1.8cd/Aであった。
【0105】
上記の結果から、本発明による化合物を正孔注入層として使用した有機電界発光素子は、比較例の化合物を正孔注入層として使用した有機電界発光素子よりも、同じ電流密度で輝度および電流効率がはるかに優れているということが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明は、有機電界発光素子関連の技術分野に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0107】
【図1】本発明の一実施形態による有機電界発光素子の積層構造を示す概略図である。
【図2】本発明の一実施形態による有機電界発光素子の電流密度と電流効率との関係を示すグラフである。
【図3】本発明の一実施形態による有機電界発光素子の発光スペクトルを示すグラフである。
【符号の説明】
【0108】
10 第1電極、
12 正孔注入層、
14 正孔輸送層、
16 発光層、
18 電子注入層、
20 第2電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で表されるフェニルフェノキサジン系化合物またはフェニルフェノチアジン系化合物:
【化1】

前記化学式(1)中、
、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜20の置換されているかもしくは非置換であるシクロアルキル基、炭素数5〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロシクロアルキル基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、炭素数7〜30の置換されているかもしくは非置換であるアラルキル基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基であり、
Xは、酸素原子または硫黄原子であり、
ArおよびArは、それぞれ独立して、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基である。
【請求項2】
前記化学式(1)で表される化合物は、下記化学式(2)〜(13)で表される化合物からなる群より選択される少なくとも1つであることを特徴とする、請求項1に記載の化合物:
【化2】

【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【化13】

【請求項3】
下記反応式(1)中の下記化学式(14)で表されるフェニル基含有ブロモフェノキサジンまたはフェニル基含有ブロモフェノチアジンを、下記反応式(1)中の下記化学式(15)で表されるN,N−ジアリールベンジジンと反応させることを特徴とする、下記化学式(1)で表される化合物の製造方法:
【化14】

前記化学式(1)、前記化学式(14)、および前記化学式(15)中、
、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ヒドロキシ基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルキル基、炭素数3〜20の置換されているかもしくは非置換であるシクロアルキル基、炭素数5〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロシクロアルキル基、炭素数1〜20の置換されているかもしくは非置換である直鎖状もしくは分岐状のアルコキシ基、炭素数6〜30の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、炭素数7〜30の置換されているかもしくは非置換であるアラルキル基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基であり、
Xは、酸素原子または硫黄原子であり、
ArおよびArは、それぞれ独立して、炭素数6〜20の置換されているかもしくは非置換であるアリール基、または炭素数2〜30の置換されているかもしくは非置換であるヘテロアリール基である。
【請求項4】
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置される少なくとも1層の有機膜と、
を備える有機電界発光素子であって、
前記有機膜は、請求項1または2に記載の化合物を含むことを特徴とする、有機電界発光素子。
【請求項5】
前記有機膜は、正孔注入層または正孔輸送層であることを特徴とする、請求項4に記載の有機電界発光素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−29807(P2009−29807A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−186193(P2008−186193)
【出願日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【出願人】(390019839)三星電子株式会社 (8,520)
【氏名又は名称原語表記】SAMSUNG ELECTRONICS CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】416,Maetan−dong,Yeongtong−gu,Suwon−si,Gyeonggi−do 442−742(KR)
【出願人】(590002817)三星エスディアイ株式会社 (2,784)
【Fターム(参考)】