説明

フェヌグリーク種子の分別、精製及び利用法

今までフェヌグリーク種子は、食用として、又、ガラクトマンナン、精油、オレオレジン、サポニン、タンパク、4ハイドロキシイソロイシン等の抽出原料として利用されてきた。しかし、それらは、すべて種子から行われてきた。化学的な抽出を行う場合、ガラクトマンナンと他の物質では、抽出溶媒が違うため、同時にすべての物質を抽出することが困難であった。更に、ガラクトマンナンの抽出に大量のアルコールが必要になり、グアーガムなどの他のガラクトマンナン系の増粘剤に比べて割高であった。
この発明は、種皮と胚乳の硬さの違いを利用して、挽き割り用の臼式粉砕機で、種皮と胚乳を分離し、次に衝撃式粉砕機又は気流式粉砕機で、胚乳を粉砕し、異なる大きさの粒子を作り、それを篩で分別することで高純度のガラクトマンナンを含む胚乳粉末を作る方法である。
その結果、物理的方法のみでガラクトマンナンを分離することが出来きるようになったので、種皮に含まれる有効成分を同時にすべて得られるようになると共に、フェヌグリークガラクトマンナンの製造コストの削減に成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、フェヌグリーク種子を胚乳と種皮(子葉を含む)に物理的に分別し、胚乳を物理的に精製し、高純度のガラクトマンナンを含む胚乳粉末を製造する方法とそれら物理的に分別されたフェヌグリーク種皮(子葉を含む)及び胚乳を抽出を含む種々の工業原料として利用する方法である。
【背景技術】
フェヌグリーク(Fenugreek:Trigonella Foenum Graecum)は、マメ科の1年草で、その種子は、古くから食用や薬用に用いられてきている。最も有名な利用方法は、カレーの原料としてカレーの香りと粘りを出すための香辛料として用いられる。フェヌグリーク胚乳の主成分は、ガラクトマンナン(図1参照)で、ガラクトース(図2参照)とマンノース(図2参照)が約1:1の比率で結合している高分子多糖類である。人が消化できない多糖類なので、一般的に食物繊維と言われている。ガラクトマンナンは、水に溶かすと水分を吸収しゲル化する性質があり、天然増粘剤として広く食品、化粧品、医薬品等の工業用原料として利用されている。他のガラクトマンナン系の天然増粘剤には、グアーガムやローカストビーンガムがあるが、これらのガム(増粘作用を持つ物質を英語でガムと言う)に比べてフェヌグリークガム(胚乳)は、ガラクトースの割合が最も高い。ガラクトマンナン中のガラクトースの割合が高くなるに従い水溶性、乳化性、安定性が向上する性質を持っている。ガラクトースとマンノースの割合は、グアーガムが1:2、ローカストビーンガムは、1:4であるのに対してフェヌグリークガムは、1:1である。他のガムが、溶解するときに加温したり、攪拌を長くする必要があるのに対して、フェヌグリークガムは、常温で素早く水に溶解し安定なゲルと作る優れた特性を持っている。その為各方面から原料素材として多くの注目を集めている。フェヌグリーク種子は、香辛料として食用にされてきただけでなく、薬用植物として滋養強壮、食欲増進、解熱、催乳促進、血糖降下などの目的で古くから使用されてきた。これらの作用は、胚乳に含まれるガラクトマンナンと種皮に含まれる各種成分により引き起こされる。中近東やインドで良く利用されている効果は、フェヌグリークの催乳促進作用である。フェヌグリークには、ステロイド系のサポニン(図3参照)が多く含まれており、その中に代表的なフロオスタノール型サポニンのジオスゲニンがある。ジオスゲニンは、工業的には、女性ホルモンのプロゲステロン合成の前駆物質で、フェヌグリーク種子を服用すると、体内でプロゲステロンに変換され、その結果催乳が促進すると考えられている。その為、中近東やインドでは、出産後の女性にフェヌグリーク種子を食べることが勧められている。サポニンは、このような薬効以外に、発泡剤、乳化剤としての工業的利用価値を持っている。フェヌグリーク種子は、それ以外に、コレステロール・中性脂肪低下作用や血糖降下作用を持っている。これらの研究報告は、多数発表されている。手元にある文献だけでも下記の物がある。
コレステロール低下作用:
R.D.Sharma,Hypercholesterolemic activity of fenugreek(T.foenum graecum)An experimental study in rats,Nutrition Report International,July 1984 Vol.30 No.1.
A.J.Evans,R.L.Hood,D.G.Oakenfull,G.S.Sidhu,Relationship between Structure and function of dietary fibre:a comparative study of effect of three galactmannans on cholesterol metabolism in the rat.
R.D.Sharma,An evaluation of hypercholesterolemic factor of fenugreek P.R.P.U.Rao,B.Sesikeran,P.S.Rao,A.N.Naidu,V.V.Rao,E.P.Ramachandran,Short term nutritional and safety evaluation of fenugreek,Nutrition Research Vol.16 No.9,pp 1495−1505,1996
A.Neeraja,P.Rajyalakshmi,Hypoglycemic effect of precessed fenugreek seed in human,J.Food Sci.Technol,1996,Vol.33,No.5,427−430
血糖降下作用:
R.D.Sharma,T.C.Raghuram,Hypoglycemic effect of fenugreek seed in non−insulin dependent diabetic subjects,Nutrition Research Vol.10,PP.731−739,1990.
G.Ribes,Y.Sauvaire,C.Da Costa,J.C.Baccou,Antidiabetic effects of subfractions from fenugreek seeds in diabetic dogs,Proceedings of the society for experimental biology and medicine,182,159−166,1986.
Z.Madar,Fenugreek(Trigonella Foenum Graecum)as a means of reducing postprandial clucose level in diabetic rats,Nutrition Reports International,June 1984 Vol.29 No.6
A.Bordia,S.K.Verma,K.C.Srivastava,Effect of ginger(Zingiber officinale Rosc.)and fenugreek(Trigonella foenum graecum L.)on blood lipids,blood sugar and platelet aggregation in patients with coronary artery disease,Prosaglandins,Leukotrienes and Essential Fatty Acids,1997,56(5),379−384
通常食物繊維は、多かれ少なかれコレステロールや中性脂肪の低下作用を持っているので、当然フェヌグリーク胚乳にもこれらの作用がある。フェヌグリーク種子にあって他の食物繊維に無い作用は、血糖降下作用である。当初多くの研究結果からフェヌグリーク胚乳に含まれるガラクトマンナンが血糖降下作用に関与していると考えられてきたが、最近になりフェヌグリーク種皮に4−ハイドロキシイソロイシン(図4参照)と言うアミノ酸が含まれていて、このアミノ酸がインシュリンの分泌を高め血糖を低下させる作用があることが発見された。
Y.Sauvaire,P.Petit,C.Borca,M.Manteghetti,Y.Baissac et.al.,4−Hydroxyisoleucine,A Novel Amino Acid Potentiator of Insulin Secretion,Diabetes,Vol.47,February 1998.
フェヌグリークのガラクトマンナンにも糖分の吸収抑制作用があると考えられるので、フェヌグリークには、複数の作用で血糖の上昇を抑えていると考えられる。更にフェヌグリーク種皮には、カレーの香料となる樹脂部分や多量のタンパクが含まれて、これらを抽出することで多くの分野で工業用原料として利用することが出来る。
フェヌグリーク種子は、胚乳と種皮では、まったく組成が違っていて、胚乳は、ほとんどがガラクトマンナンと言う多糖類から出来ているのに対して、種皮は、精油、オレオレジン、サポニン、タンパク、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどから出来ている。ガラクトマンナンは、マンノースの直鎖の高分子にガラクトースが側鎖でくっついている高分子多糖類で、水に溶かすと粘度を増加させる性格があるので、昔から増粘剤、安定化剤、乳化剤として食品、化粧品やその他の工業原料として広く使われている。しかし、フェヌグリークガラクトマンナンの利用は、他のガラクトマンナンに比べて少ない。それは、種子が小さいために中の胚乳を取り出すことが難しいためと独特の芳香と苦みがあるため食べ物に混ぜたときに食べ物の味と風味を変えてしまうからである。通常種子から、ガラクトマンナンを取り出す方法は、種子を粉末にしてから化学的な処理で取られている。これは、ガラクトマンナンが水に溶けるがアルコールには溶けない性質を利用した方法で、まず粉末にした種子を水に入れガラクトマンナンを溶出させる。次に、残渣をろ過、又は遠心分離で除去し、残ったガラクトマンナン水溶液にアルコール(主としてエタノール)を約50%濃度になるまで添加するとガラクトマンナンは沈殿を起こす。その溶液をろ過することでガラクトマンナンの沈殿物を得ることが出来る。生成したガラクトマンナンは、褐色に着色して臭いもするので、再度アルコールを使って、脱色と脱臭を行い白色のガラクトマンナンを得る。
この方法の欠点は、大量のアルコールが必要になる点である。ガラクトマンナンは、強い増粘作用を持っているので、3%溶液でゲル状になり溶液の流動性は無くなる。その為、残渣をろ過や遠心分離で取れなくなる。ろ過や遠心分離を行うには、流動性のある1−2%の濃度が限度になる。例えば、1Lの水にフェヌグリーク種子からガラクトマンナンを溶出させ2%のガラクトマンナン水溶液を得たとすると、ガラクトマンナンを沈殿させるためには、同じ1Lのアルコールが必要になる。そして得られるガラクトマンナンは、20gである。更に洗浄でアルコールを使用するので、実に得られるガラクトマンナンの50倍以上のアルコールが必要になる。この方法で製造すると製造コストに占めるアルコール、特にエタノールのコストが高くなり、商業ベースに乗せられるガラクトマンナンの製造は不可能である。(商業ベースとは、グアーガムやローカストビーンガムと対抗し得る価格のことである)
フェヌグリーク種子には、ガラクトマンナン以外にフェヌグリークオイル(精油)、フェヌグリークオレオレジン(樹脂)、サポニン、タンパクなどが含まれており、これらの物質の分離精製は、すでに既存の技術として各地で行われている。特にフェヌグリークオイルやフェヌグリークオレオレジンは、香料として広く使用されている。これらの抽出は、すべて種子を粉砕して行われている。又、最近話題になっているフェヌグリーク種子が持つ血糖降下作用に関与していると考えられるインシュリン分泌促進物質である4−ハイドロキシイソロイシンの抽出も種子から行われている。(US patent 5,470,879)
4−ハイドロキシイソロイシン製法特許によると、我々が従来行っていたサポニン等の抽出法と酷似している。我々が、行っているサポニン等の抽出方法のフローチャートは、図5に示す。これは、フェヌグリーク種子からヘキサンを溶媒として、フェヌグリークオイルを抽出し、残渣を70%エタノールで抽出し、濃縮後、95%エタノールに入れてサポニンを沈殿させ、ろ過することで、サポニンを取り、残留液を濃縮することで、フェヌグリークオレオレジンを得る。更に、残渣をアルカリ性の水溶液で抽出し、中和することでタンパクを沈殿させ、タンパクを取る一連の方法である。このすべての抽出が同時に行われている場合は、あまりないが、個々の抽出は、需要に基づいてフェヌグリーク種子から行われている。このような抽出法を記載した文献には、次のような物がある。
A.Benichou,A.Aserin,N.Garti,Steroid−Saponins from fenugreek seeds:Extraction,Purification and Surface properties,J.Dispersion Science and Technology,20(1&2),581−605,1999.
N.Garti,A.Aserin,B.Stemheim,Fenugreek Galactomannans ad Food Emulsifiers,Lebensm.−Wiss,u−Technol.,30,305−311,1997
W.S.Taylor,M.S.Zaman,Z.Mir,P.S.Mir,S.N.Acharya,Analysis of Steroidal Sapogenins from Amber Fenugreek(Trigonella foenum gracecum)by Capillary Gas Chromatography and Combined Gas Chromatography/Mass Spectrometry,J.Agric.Food Chem.1997,45,753−759.
P.R.Petit,Y.D.Sauvaire,D.M.Hillaire−Buy et.al.,Steroid saponins from fenugreek seeds:Extraction,purification,and pharmacological investigation on feeding behavior and plasma cholesterol,Steroids 60:674−680,1995
I.Blank,J.Lin,S.Devaud,R.Fumeaux,The Principal Flavor Compounds of Fenugreek(Trigonella foenum gracecum L.),1997 Ameican Chemical Society,Chapter 3.
M.K.Osman,L.S.Simon,Biochemical studies of some non−conventional sources of protein Part 5.Extraction and characterization of protein from fenugreek seed(Trigonella foenum L.),Die Nahrung 35,1991,3,303−308
4−ハイドロキシイソロイシンの抽出方法は、70%アルコール抽出溶液を陽イオン交換樹脂とシリカゲル吸着カラムを通すことで4−ハイドロキシイソロイシンを単離している。この抽出方法自体は、従来から一般的に使用されている方法で目新しさはない。4−ハイドロキシイソロイシンを単離した後、上記の方法を実行すれば、同様に、サポニン等を抽出することが出来る。
フェヌグリーク種子からすべての有効成分を化学的抽出する場合、ガラクトマンナンを抽出する方法とサポニンや4−ハイドロキシイソロイシン等を抽出する方法は、まったく異なる。ガラクトマンナンは、水による抽出であるが、サポニンや4−ハイドロキシイソロイシンは、アルコール溶液による抽出である。先にガラクトマンナンを水で抽出するとサポニンや4−ハイドロキシイソロイシンも抽出液に溶出してしまう。2%ガラクトマンナン水溶液にエタノールを加えて50%エタノール溶液にし、ガラクトマンナンを沈殿させ、残った大量の抽出液を70%エタノール溶液や95%エタノール溶液するためには、大規模な濃縮装置と大量のエタノールが再び必要になる。先にガラクトマンナンを水で抽出する方法では、工業的に安価にサポニンや4−ハイドロキシイソロイシン等を抽出する事は、無理である。結局フェヌグリーク種子から先にガラクトマンナンを抽出する場合は、サポニンや4−ハイドロキシイソロイシンは抽出できないことになる。
逆に、先にサポニンや4−ハイドロキシイソロイシン等を抽出してからガラクトマンナンを抽出する方法の方が良いように思われるが、その場合、ガラクトマンナンの抽出は、図5に記されているタンパクの抽出の前に行うことになる。しかし、水抽出を行うこと自体が大量のアルコールを必要とするので、安価にフェヌグリーク種子に含まれる有効成分を単離するという問題を解決していることにはならない。
結局、フェヌグリーク種子の処理過程で水を使うことは禁忌であると言う結論に達する。
【発明の開示】
我々は、水を使わないでガラクトマンナンを得る方法として、物理的処理による抽出方法を考えることにした。当初考えた方法は、種子の表面を削っていき、種皮が削れたら、胚乳が出てくるのではないか考えた。種皮を削ると同時に種皮が排出されなければ、胚乳だけが残らないので、種皮を削る方法として、円筒形の金網の底部にプロペラが設置されている図6のような装置(剥離装置)を作った。その中に種子を入れ、プロペラをモーターで回転させることで、種子が円筒形の金網の中で高速回転し、種子が、金網に接触することで表面の種皮が削られていくと考えた。金網の口径は、250ミクロンの60メッシュとした。これは、胚乳のサイズがこれ以上であると仮定した為である。削られた種皮(子葉を含む)は、250ミクロン以下になればこの金網から排出される。実験の結果、約2時間回転さすことで種皮と胚乳が分離した。これは、種皮と子葉、胚乳の硬さが違うためで、子葉が最も柔らかく、次に種皮、そして、胚乳が最も硬かった。種子を入れた後、剥離装置の円筒状の金網の中で種子を回転させることで、金網と種子が摩擦しあい、種皮が削れていき、種皮がある程度の薄さになったとき、種子同士がぶっつかりあったり、金網に衝突することで、種子が割れ、中の胚乳と子葉が飛び出し、削られた種皮や子葉が小さな粒子として金網の外に排出され、最後には、胚乳だけが金網の中に残ると言う原理で出来ている。胚乳は、硬いのでこの剥離装置で簡単に削ることが出来ないため、胚乳だけが残ってしまう。
次に考えたことは、種子を剥離装置に入れるのではなく、壊れた種子を入れた方が早く分離するのではないかと考えた。種子は、楕円形をしているので、抵抗が少ないが、壊れた種子は、でこぼこなので抵抗力があるので早く分離すると考えた。それで、種々の市販の粉砕機で種子の粉砕を試みた。ある粉砕機は、粉砕能力が高く、種皮も胚乳も細かく壊れてしまい、金網から出てしまうので剥離装置で選別することが出来なかった。別の粉砕機では、表面だけが削られ、ツルツルの状態になり、粉砕に非常に時間がかかった。幾度か実験を重ねた後、ある粉砕機(臼式の粉砕機)で、程良く粉砕でき、種皮と胚乳が分離された。粉砕された種子は、種皮と胚乳が混在している状態であった。この種子片を剥離装置に入れ、種皮と胚乳の分離を行った。その結果、約1時間の回転で種皮と胚乳を分離することが出来た。
大部分の種皮を胚乳から分離できても、種皮の一部が胚乳に付着している胚乳があり、それを取り除かないとガラクトマンナンの含有率の高い胚乳粉末を得ることが出来なかった。それで、更に剥離装置を回転させることで付着している種皮の一部を取ろうとした。更に100分ほど回転させるとある程度まで種皮を取ることが出来るが、処理時間が長くかかる欠点があった。それは、胚乳がレンズ状の形をしていて、凸の部分に種皮が付着している場合は、早く取れるが、凹の部分に種皮が付着しているとなかなか取れないためである。
それで、色彩選別機にかけて、胚乳を選別できないかと考えた。フェヌグリーク種皮は、褐色をしており、胚乳は、淡褐色をしている。その為、種皮が付着している胚乳は、色彩選別機で濃く写り、種皮が付着していない胚乳は、白く写り、色彩選別機で選別できる。色彩選別された種皮が付着していない胚乳は、剥離装置に入れ、30分ほど回転させ表面を薄く削ってやるとガラクトマンナンの純度が80%以上の上質の胚乳粉末を得ることが出来た。
色彩選別機にかける前の胚乳は、0.5mmから2mmぐらいの様々な大きさで混在している。色彩選別機は、それらの胚乳の1個1個をカメラで認識し、色の濃い胚乳を認識するとその胚乳だけをエアーガンで打ち落とす仕組みになっている。色彩選別機を使うと種皮が付着している胚乳と付着していない胚乳が分けられ、その後に行われる再度の剥離処理の効率が上昇する。問題は、色彩選別機の処理能力が低い点であった。処理能力(移動スピード)を上げると選別能力が低下し、処理能力を下げると選別能力が向上する。最適な選別能力で処理すると1時間に数kgの処理能力しか無なく、1ヶ月の生産能力は、おおよそ約700kgぐらいであった。種皮の一部が付着している胚乳を剥離装置で削っていく場合に、処理時間が長く必要だった。以上の様なことから、この方式で生産力を上げるためには、機械装置の改良、変更、増設などの何らかの対策をこうじなければならなかった。
別の解決手段は、胚乳を粉末化する工程で見つかった。我々のフェヌグリーク胚乳粉末の規格は、粒子サイズが100メッシュ(150μm)以下と当初規定していた。フェヌグリーク胚乳は、非常に硬くそして弾力を持っているため、臼式粉砕機や衝撃式粉砕機では、粉体にすることが出来なかった。それで、現在考えられている内で最も強力な気流式粉砕機により粉砕することにした。我々の使用したのは、増幸産業株式会社製のセレンミラー(商標)と言う気流式粉砕機である。(増幸産業株式会社:埼玉県川口市本町1−12−24)気流式粉砕機とは、円筒形の筒の中にローターブレートと言う高速回転する星形の金属板が複数枚内蔵されており、円筒内にジェット気流を吹き込むことと金属板の回転で、円筒内に超高速の空気の旋回渦流を発生させ、衝撃・剪断・圧縮・摩砕・高周波振動などの作用を引き起こし原料を微粉化する粉砕機である。このような作用をする粉砕機は、複数の会社から発売されている。(図7参照)しかし、この粉砕機を用いてもフェヌグリーク胚乳は、1回で30%しか、100メッシュ以下の粉体にならなく、すべて100メッシュ以下の粉体にするには、3回通す必要があった。
1回粉砕し100メッシュの篩に通し更に粉砕し、又100メッシュの篩に通す作業を繰り返している時、100メッシュの篩を通過した粉体と残った粉体では、色が違っていることに気づいた。これは、胚乳に付着している種皮部分が先に細かく粉砕され、胚乳部分が十分には粉砕されなかった結果である。これは、種皮部分と胚乳部分の硬さの違いによると考えた。
フェヌグリーク胚乳は、レンズ状の形をしており、凹凸がある。剥離装置で表面を剥離させるとき凸側は剥離しやすいが、凹側は、剥離しにくい。その為、剥離装置では、完全に種皮部分を除去できない。この問題を解決する方法として、胚乳を粉砕し粒子にしたとき、胚乳の粒子と種皮の粒子が作られ、種皮は柔らかいので、より小さな粒子になり、胚乳は種皮に比べて大きな粒子になる。その結果、種皮と胚乳が篩によって分けることが出来ることが判った。
次に色彩選別機で選別していない胚乳、即ち種皮部分が付着している胚乳が混在している胚乳を気流式粉砕機に弱い回転数で通してみた。出来た粉体を100メッシュの篩に通すと20%が篩を通過し80%が篩を通過しなかった。篩を通過した粉体のガラクトマンナン含有量は、40−60%であった。色は、褐色で臭いがあり、味は、苦かった。100メッシュを通過しなかった粉体を弱い回転数で再度気流式粉砕機に通すと10%が100メッシュの篩を通り、90%が篩を通らなかった。篩を通った粉体のガラクトマンナン含有量は、60−80%であった。そして、篩を通らなかった粉体のガラクトマンナン含有量は、80%以上であった。この結果、フェヌグリーク胚乳を粉砕し、その粒子サイズの違いにより分別することでガラクトマンナンを高純度で含有するフェヌグリーク胚乳粉末を作れることが確認された。この方法は、表面を剥離していく方法に比べて、明らかに効率が優れていた。最後に最大の回転数で粉砕すると90%が70メッシュを通過する粉体が出来、これを最終製品とすることにした。
気流式粉砕機は、粉砕能力は高いが処理能力が小さい欠点がある。最初と2回目の粉砕は、回転数を落として弱い粉砕を行っているので、気流式粉砕機より粉砕能力は低いが、処理量が大きい衝撃式粉砕機でも可能ではないかと考え、試してみることにした。衝撃式粉砕機は、原料に衝撃を与える事で原料を粉砕するもので、気流式粉砕機のようにジェット気流を吹き込まない。我々の使用した粉砕機は、円盤状の金属板の周囲に多数のハンマーが取り付けられており、その円盤が高速回転することでハンマーが原料にあたって粉砕する仕組みになっている。衝撃式粉砕機は、色んな構造の物が市販されている。(図8参照)
実験の結果は、1回目の粉砕では、100メッシュの篩を通過したのが、10%で、通過しなかった物は、90%であった。2回目の粉砕では、25%が100メッシュの篩を通過し、75%が通過しなかった。100メッシュを通過し割合は、気流式粉砕機で弱く粉砕した場合と同じ約30%であった。通過しなかった粉体のガラクトマンナン含有率は80%以上であった。この結果、衝撃式粉砕機でも種皮部分の除去に利用できることが判った。衝撃式粉砕機は、気流式粉砕機の5倍の処理量を持っているため、衝撃式粉砕機と気流式粉砕機を組み合わせることで飛躍的に処理量を向上させることができることが判った。又衝撃式粉砕機は、気流式粉砕機に比べて価格が安い利点がある。
残る問題は、種子から種皮と胚乳の分離である。この場合も種皮と胚乳の硬さの違いから分離できないかと考えた。しかし、粉砕機と言う物は、どの粉砕機も粉体を作る目的で作られている。いかに細かい粉体を作れるかでその性能が決まってくる。しかし、フェヌグリーク種子を粉砕するのは、種皮だけが壊れて、胚乳は、壊れないで出てきて、更にそれを分別出来ることが条件である。あまり高性能な粉砕機ではなくもっと単純な粉砕機の方が適しているのではないかと考えて、種々の粉砕機を検討する内に挽き割り用の臼型の粉砕機が見つかり、それで実験してみることにした。実験した機械は、株式会社西村製作所(大阪府八尾市松山町2−6−9)のスレートミル(商標)と言う機械で、原理は石臼とおなじである。2つの金属製の溝の付いた臼が一定の隙間をあけて向き合い、内側の臼が回転することで原料が粉砕されていき、粉砕された原料は、溝を通って外部に排出される仕組みになっている。(図9参照)
通常の石臼との違いは、石臼は、上下の臼が密着して回転して粉を作るのに対して、挽き割り用の臼は、上下の臼が一定の間隔をあけて設置されており、密着してない点である。一定の間隔をあけることで、その間隔以下の大きさの粒子が出来ない原理になっている。この粉砕機で粉砕すると粗挽きのコーヒー豆のような粒状の粉を作ることができる。この粉砕機に18−30メッシュ(0.5−0.85mm)の編み目の篩を連結して作業を行った。篩のメッシュサイズに幅を持たせたのは、メッシュサイズが小さくなるほど、排出される種皮の粒子が細かくなり、その為粉砕機を通す回数が増え、処理スピードも遅くなる。逆にメッシュサイズを粗くすると、粉砕機を通す回数が少なくなり、処理スピードが早くなるが、小さな胚乳が、篩を通過してしまい、歩留まりが悪くなる。篩のメッシュサイズの調整は、原料の種子の特徴と生産時の歩留まりに関係するので、随時調整する必要がある。我々の調べた所、最も小さな胚乳で0.5mmであったので、メッシュサイズを18−30メッシュの間とした。
実験では、0.7mmのメッシュサイズの篩で行ったが、挽き割り用粉砕機の処理量は、高く、我々の使用した機械は、1時間に120kgの種子を処理した。臼の間隔を最小の0.48mmにして処理したところ1回目の粉砕で40%の種皮と子葉が篩を通過し、胚乳は、全く壊れずに、レンズ状の形状のまま篩を通過せずに排出された。胚乳は、硬いが弾力があり、形状は、レンズ状であるので、幅はあるが、厚さがないので、横になって臼の間隙をすり抜けてしまうと考えられる。種皮は、柔らかくてもろいため粉砕されるが、胚乳は、弾力があるので粉砕されずにその形状のまま通過してしまうと考えられる。2回目の粉砕で、40%が又篩を通過し、篩を通過しなかった残りの60%は、すべて胚乳で、ほぼ完全に種皮と胚乳が分離されたことになる。この結果、以前に行っていた剥離装置による精製フェヌグリーク胚乳粉末の製造に比べて格段に処理能力の高い粉砕による製造方法が確立された。
種子から作られる胚乳粉末は、種子の20−25%で、その内ガラクトマンナンの含有率が80%以上の高純度の胚乳粉末は、その70%を占める。残りの75−80%が種皮と子葉である。このように水抽出を行わずに物理的な方法だけで種皮と胚乳を分離する方法は、大量のアルコール使う必要が無く、安価にガラクトマンナンを製造することが出来る。更に、副産物として取れる種皮には、ガラクトマンナンは、含まれていない。即ち、ガラクトマンナンの抽出をしないで、フェヌグリーク種子が持つ、多の有効成分フェヌグリークオイル、フェヌグリークオレオレジン、フェヌグリークサポニン、4−ハイドロキシイソロイシン、及びフェヌグリークタンパクを抽出することが可能になった。種子からではなく種皮から各種有効成分を抽出することにより、フェヌグリーク種子が含有するすべての有効成分を、効率よく安価に得られるようになった。種皮から有効成分を抽出する方法は、種皮と胚乳を分離する本発明が無ければ不可能なことであり、本発明に伴う新しい発明である。
又、種皮を粉砕して粉体にすることで、食品等にカレー風味を付ける着香料として使用することが出来きる。更に、フェヌグリークの持つ薬効は、種皮部分に多く含まれている物質により引き起こされるため、それを服用することにより、種々の健康増進効果が得られるので、種皮粉末を機能性食品・健康食品等の原料としても利用できる。機能性食品・健康食品等の原料としては、フェヌグリーク胚乳粉末も利用可能である。胚乳に含まれるガラクトマンナンは、水に溶かすと膨張してゲル化する性質があり、人が消化することが出来ない食物繊維である。食物繊維自体は、膨張性の下剤としての効果があり、便秘を治すことが出来るし、膨張することで満腹感が得られる為、食前に服用することで食事の摂取量を減らすことが出来るので、ダイエット食品の素材としても利用できる。この様に、フェヌグリーク種子を胚乳と種皮に分離することで、フェヌグリーク種子の利用価値を高め、多くの目的の工業原料として利用できる。
「フェヌグリーク胚乳粉末」規格及び試験方法
[性状]
胚乳粉末A:淡褐色の粉末で、わずかに穀物臭を持つ。
胚乳粉末B:淡褐色の粉末で、わずかにカレー臭を持つ。
[確認試験]A、B共通
(1)本品2gにイソプロピルアルコール4mLを加えて湿らせた後、激しくかき混ぜながら水200mLを加え、さらに均一に分散するまでかき混ぜるとき、粘性の液となる。この液を水浴中で約10分間かき混ぜた後、室温まで冷却するとき、その粘性は加熱前とほとんど変わらない。
(2)(1)で得た粘性の液10mLにホウ酸ナトリウム(1→20)2mLを加え、混和して放置するときゼリー状となる。
Aだけ
(3)本品0.5gを適量の水に溶かしたとき、5分以内に溶解する。溶解したゼリー状の物質には、におい及び苦みはない。
[純度試験]
(1)酸不溶物 A:3%以下 B:5%以下
本品約2.0gを精密に量り、水150mL及び硫酸1.5mLを入れたビーカーに入れ、時計皿で覆い、水浴上で6時間加熱する。時々ガラス棒でビーカーの壁に付着した試料を洗い落としながら、蒸発による水の損失を補う。冷後、予め105℃で3時間乾燥したろ過用ケイソウ土約500mgを正確に量って、この溶液に加え、よく混合した後重量既知のガラスフィルターを用いてろ過する。フィルター上の残留物を熱水で3回洗い、これを105℃で3時間乾燥した後秤量する。このとき得られた重量からガラスフィルター及びろ過用ケイソウ土の重量を差し引く。
(2)水不溶性物質 A:3%以下 B:5%以下
本品約1gを精密に量り、水199mLを加え、10分間激しく撹拌する。続いて3分間弱く撹拌する。この溶液を三角フラスコに入れ栓をしてから30℃の水浴上で3時間加温する。50gの溶液をとり、3000回転で30分間遠心分離する。上澄みを取り去り、50mLの精製水を加えて撹拌したのち、再度同条件で遠心分離する。この操作を2回繰り返す。上澄みを完全に取り除き、105℃で2時間乾燥し、残留物の重量を測定する。
(3)重金属 A、B共通 20ppm以下
本品1gをとり、日局13、一般試験法23、重金属試験法第2法により操作し試験を行う。比較液には鉛標準液2.0mLを加える。
(4)ヒ素 A、B共通 2ppm以下
本品1gをとり、日局13、一般試験法41、ヒ素試験法第3法により試料溶液を調製し、装置Bを用いる方法により試験を行う
[乾燥減量] A、B共通 10.0%以下(1g、105℃、5時間)
[粘度] (1w/v%溶液 極限粘度)
A:3000mPa・s以上
B:1000mPa・s以上
本品の1%溶液に対し、日局13、一般試験法36、粘度試験法より試験を行う
[粒度] 100メッシュ以下(B)70メッシュ以下(A)
[栄養物試験]
(1)タンパク質 5.0%以下
本品の乾燥物約0.15gを精密に量り、日局13、一般試験法31、窒素定量法により窒素の量を測定し、これに6.25を乗じてタンパク質の量を求める。

6.25:窒素タンパク質換算係数
(社)日本食品科学工業会編「新食品分析法」より
(2)デンプン 検出しない
本品0.1gに水10mLを加えて加熱し、冷却した後、ヨウ素試液2滴を加えるとき、青色を示さない。
(3)脂肪 1.0%以下
本品約10gを精密に量り、円筒ろ紙に入れる。試料の上に脱脂綿を軽く詰め、ソックスレー抽出管に入れる。受け器のフラスコは前もって100〜105℃の電気定温乾燥機で30分から1時間乾燥し、デシケーターに移し1時間放冷した後0.1mgまで量って恒量を求めておく。これにジエチルエーテル約2/3量を入れ、冷却管を連結して電気恒温水槽上で5時間抽出を行う。抽出終了後、抽出管を取り外して円筒ろ紙をピンセットで抜き出し、再び冷却管に連結して湯浴上で加温し、フラスコ中のエーテルがほとんど抽出管に移ったならばフラスコを取り出し、湯浴上でなお加温し、エーテルの残りを蒸発させる。フラスコの外側をガーゼ等で拭き、100〜105℃の電気定温乾燥機に入れ、乾燥し、デシケーターに移して放冷後秤量する。

S:試料採取量(g)
W:測定値(g)
:受け器の恒量(g)
(4)食物繊維 A:80%以上 B:70%以上
本品を乾燥し、その約1gを精密に量りとり、0.08Mリン酸緩衝液50mL及び耐熱性α−アミラーゼ溶液0.1mLを加えて、沸騰水浴中で30分間反応させる。室温まで冷却後、0.275M水酸化ナトリウム約10mLを加えながらpHメーターを用いてpH7.5±0.1に調整する。これにプロテアーゼ溶液0.1mLを加えて、60℃の水浴中で30分間反応させる。室温まで冷却後、0.325M塩酸約10mLを加えながらpHメーターを用いてpH4.5±0.2に調整する。これにアミログルコシダーゼ溶液0.3mLを加えて60℃の水浴中で30分間反応させる。この溶液にあらかじめ60℃に加温したエタノール200mLを加え、室温で1時間放置して食物繊維を沈殿させる。これをガラスろ過器(G2)を用いて吸引ろ過し、ガラスろ過器上に捕集された残渣を、78v/v%エタノール(20mL×3回)、95v/v%エタノール(10mL×2回)、アセトン(10mL×2回)で順次洗浄する。残渣はガラスろ過器ごと105±3℃で1夜乾燥し、デシケーター中で約1時間放冷した後、その重量を測定する。試料を含まない系で上記操作を行い、試薬ブランク値を求める。

R:残渣の重量
B:試薬ブランク
W:試料採取料
(5)カロリー
0.5kcal/g以下
上で求めたタンパク質、脂質の測定値(%)を元に以下の式により算出する。

*エネルギー換算定数:Atwaterの換算係数より
[灰分] A、B共通 1.5%以下
本品1gをとり、日局13、一般試験法16、強熱残分試験法により操作し試験を行う。
[定量] ガラクトマンナン A:80%以上 B:60%以上
(1)試薬及び試液
・β−マンナナーゼ(日本バイオコン(株))
・α−ガラクトシダーゼ(日本バイオコン(株))
・β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)(Sigma)
・ガラクトースデヒドロゲナーゼ(日本バイオコン(株))
・50mM−酢酸緩衝液(pH4.5)
酢酸ナトリウム試液8mLに希酢酸12mL及び水を加えて100mLとする。
・トリス緩衝液(pH8.6、200mM)
2−アミノ−2−ヒドロキシエチル−1,3−プロパンジオール2.42gを水100mLに溶かし、0.1M−塩酸を加えてpH8.6とする。
(2)試験法
1.本品約10mgを正確に量り、遠沈管に入れ、エタノール5mLを加えて85〜90℃で5分間インキュベートした後、遠心分離する(10分間、3500rpm/min)。上澄みを注意深く取り除く。これを2回繰り返す。
2.50mM−酢酸緩衝液(pH4.5)10.0mLを加えて撹拌の後、沸騰水槽に入れ5分間加熱した後40℃恒温水槽に移し、一晩(約12時間)放置する。
3.β−マンナナーゼ20μLを加え、40℃で180分間培養する。その間時々撹拌する。
4.遠心分離し(3500rpm/min、10分間)、上澄みの0.1mLをとる。50mM−酢酸緩衝液(pH4.5)0.2mLを加え、α−ガラクトシダーゼ20μLを加える。このセルを40℃で60分間培養する。
5.それぞれのセルに200mM−トリス緩衝液(pH8.6)2.5mL加え、さらにNAD(0.1g/10mL)0.1mL、ガラクトースデヒドロゲナーゼ8μLを加えて40℃で60分間インキュベートする。
6.この溶液の340nmにおける吸光度を測定する。
<計算式>

E:340nmにおける吸光度(試料溶液)
:340nmにおける吸光度(ブランク)
W:試料採取料(mg)
1384.6:ガラクトマンナン量への換算係数
[微生物限度試験] A、B通
1.一般生菌数
3×10/g以下
2.特定菌
大腸菌:検出しない
日局13、一般試験法41、微生物限度試験法により操作し試験を行う。
[残留農薬]
1.エンドリン及びディルドリン(アンドリンを含む):検出されない
2.BHC:0.2ppm以下
3.DDT:0.2ppm以下
(1)装置
電子捕獲型検出器(ECD)付きガスクロマトグラフィーを用いる。
(2)標準品
・α−BHC標準品:α−BHC99%以上を含む。融点は、157〜159℃
・β−BHC標準品:β−BHC98%以上を含む。融点は、308〜310℃
・γ−BHC標準品:γ−BHC99%以上を含む。融点は、112〜114℃
・δ−BHC標準品:δ−BHC95%以上を含む。融点は、137〜140℃
・pp’−DDD標準品:pp’−DDD98%以上を含む。融点は、108〜110℃
・pp’−DDE標準品:pp’−DDE99%以上を含む。融点は、88〜90℃
・op’−DDT標準品:op’−DDT98%以上を含む。融点は、73〜75℃
・pp’−DDT標準品:pp’−DDT99%以上を含む。融点は、102〜104℃
・アルドリン標準品:アルドリン97%以上を含む。融点は、103〜104℃
・エンドリン標準品:エンドリン98%以上を含む。融点を測定するとき、200℃で分解する。
・ディルドリン標準品:ディルドリン98%以上を含む。融点は、177〜179℃
(3)試料溶液の調製
粉末10gをとり、フラスコに入れ、ベンゼン150mLを加え、攪拌しながら一昼夜抽出する(約12時間以上)。これをろ過し、ろ液を取る。これに適量の無水硫酸ナトリウムを加え、ときどき振り混ぜながら1時間放置したのち、エバポレーター用フラスコ中にろ過する。次いで、減圧下で正確に20mLに濃縮する。
次いで、内径20mm、長さ300mmのカラムにカラムクロマトグラフィー用合成ケイ酸マグネシウム20g、次いでその上に無水硫酸ナトリウム約8gをヘキサンに懸濁したもの入れ、カラムの上端に少量のヘキサンが残る程度までヘキサンを流出させる。このカラムに上記の濃縮液を正確に5mL注入した後、ヘキサン・エーテル(17:3)を注入し、最初の流出液約300mLを採り、減圧下で正確に5mLに濃縮し、これを試料溶液とする。
(4)試験操作
1)定性
・カラム担体:ケイソウ土(標準網ふるい177−250μm)を6N塩酸で2時間還流して洗い、次いで蒸留水で流出液が中性となるまで洗ったのち乾燥し、メチルシラザン処理(ピリジン・ヘキサメチルジシラザン(特級)・トリメチルクロルシラン(特級)(5:3:1)に浸し、10分間水洗し乾燥する)を施す。
・カラム充填剤:カラム担体に対してガスクロマトグラフィー用シリコンを5%含ませる。
・カラム:内径3mm、長さ150−200cm、ガラス製
・カラム温度:180−210℃
・注入口温度:220−250℃
・検出器温度:250℃付近
・キャリアーガス:高純度窒素を用いる。アルドリンが約6分で流出する流速に調整する。
2)定量
適切な条件をもとに得られた試験結果をもととし、ピーク高法又はピーク面積法により定量を行う。特に多量に検出された場合は、内部標準法により測定する。内部標準法を行うときは、定性試験においてピークの認められなかった位置に保持時間を持つ標準品を内部標準品とする。
3)確認試験(薄層クロマトグラフィー)
本試験は、上記2)定量の結果が、食品衛生法に基づく残留農薬基準を越えた試験溶液についてのみ行う。
本試験に用いる薄層板は、ガラス板上に10%のセッコウを含む薄層クロマトグラフィー用シリカゲルを500μmの厚さに延ばし、130℃で約1時間加熱し、活性化したものとする。これを乾燥用シリカゲルを入れた容器中に保存し、1週間以内に使用する。
試料溶液の適量(10〜20μgの有機塩素剤を含む量)を減圧濃縮して数mLとし、小型遠心沈殿管に移し、乾燥空気又は窒素を送って約0.1mLに濃縮する。その10〜20μLをミクロピペット又は微量注射器でとり、薄層板に付ける。さらに100ppmの標準品及びn−ヘキサンそれぞれ10〜20μLを上記の薄層板にならべて付ける。n−ヘキサン:酢酸エチル(9:1)を展開溶媒として上昇法により約10cm上昇したときに薄層板を取り出し、約5分間風乾する。これに0.5%オルトトリジン・エタノール溶液を噴霧し、約5分間放置した後、殺菌灯(15W)を用いて数cmの距離から紫外線を約5分間照射すると褐色〜青色の斑点を生じる。試料溶液及び標準品の斑点について、両者を比較する。
本規格及び試験方法は、別に定めるもののほか、日局通則及び日局一般試験法を準用するものとする。
「フェヌグリーク種皮」規格及び試験法
[性状]褐色の粉末で特異臭を有し、味は苦い。
[確認試験]
サポニン
本品1gを水20mLに溶解し、ろ過する。そのろ液1μLをシリカゲル薄層版にスポットし、乾燥後、クロロホルム:メタノール:水=65:42.5:10の展開溶媒で展開する。薄層板を風乾後、三塩化アンチモン:6N−塩酸=1:1(w/w)溶液を噴霧し、105℃に保った電気炉中で10分間インキュベートするとき、Rf=0.4〜0.6に紫色のスポットを得る。
[乾燥減量]
10.0%以下(105℃、5時間)
[粒度]
70メッシュ(212μm)以下
[栄養物試験]
(1)タンパク質 20%以上
試験法は、胚乳粉末と同じ。
(2)でんぷん 検出しない
試験法は、胚乳粉末と同じ。
(3)脂肪 10%以下
試験法は、胚乳粉末と同じ。
(4)食物繊維 60%以上
試験法は、胚乳粉末と同じ。
(5)カロリー
試験法は、胚乳粉末と同じ。
[残留農薬]
1.エンドリン及びディルドリン(アンドリンを含む):検出されない
2.BHC:0.2ppm以下
3.DDT:0.2ppm以下
試験法は、胚乳粉末と同じ。
[徴生物限度試験]
1.一般生菌数
2×10/g以下
2.特定菌
大腸菌:検出しない
日局13、一般試験法41、微生物限度試験法により操作し試験を行う。
本規格及び試験方法は、別に定めるもののほか、日局通則及び日局一般試験法を準用するものとする。
【図面の簡単な説明】
図1:フェヌグリークガラクトマンナンの構造式
図2:フェヌグリークガラクトマンナンに含まれるガラクトースとマンノースの構造式
図3:フェヌグリーク種皮に含まれるフロスタノール型のステロイド系サポニンの構造式
図4:フェヌグリーク種皮に含まれる4ハイドロキシイソロイシンの構造式
図5:発明を実施するためのフローチャート
図6:剥離装置
口径250μm(60メッシュ)の金網中にフェヌグリーク種子又は胚乳を入れ、モーターで金網の中のプロペラを回転させる。種子又は胚乳同士が接触するか、回りの金網に接触する状態を作り出し、種子又は胚乳表面が摩擦と衝撃により剥離されていく。胚乳部分は硬いのであまり剥離しないが、種皮部分は、柔らかいので先に剥離していく。種子の場合、種皮の剥離が進むと、衝撃により種皮が割れ、中の胚乳が飛び出てくる。胚乳の場合は、回りに付着している種皮が剥離され、胚乳だけが残る。
図7:気流式粉砕機
この図は、気流式粉砕機の内部を描いたもので、容器の中に複数枚のロータリーブレード(回転する刃)があり、これが、高速回転する。外部からは、ジェット気流が吹き込まれ内部に旋回渦流が発生する。投入されたフェヌグリーク胚乳又は種皮は、衝撃・剪断・圧縮・摩砕・高周波振動などの複数の力が加わり粉砕される。
図8:衝撃式粉砕機
この図は、衝撃式粉砕機の内部を描いた物で、中心部の設置された円盤の回りにハンマーが取り付けられている。円盤が、高速回転し、ハンマーは、内蔵している容器の壁面と僅かな間隔で同じく高速回転する。投入されたフェヌグリーク胚乳は、ハンマーに当たり粉砕される。
図9:挽き割り用臼式粉砕機
この図は、臼式粉砕機に使われている臼だけを描いた物で、リング状の外臼と円錐形の内臼が表示されている。実際の機械は、外臼に内臼が入り込んで、水平に一定の隙間を空けて容器の中に設置されている。外臼は、固定されていて、内臼だけが回転する。円錐形の上部から投入したフェヌグリーク種子は、隙間を通るときに粉砕され、溝を通って円錐形の下部に排出される。
【発明を実施するための最良の形態】
種皮と胚乳の分離
発明を実施するための最良の形態は、図5にフローチャートとして表した。種子から種皮と胚乳を分離するのは、臼と臼の間に一定の間隔がある挽き割り用の臼型粉砕機に通し、種子を粉砕し、粉砕された種子を18から30メッシュの篩を通すことで分離する。完全に胚乳だけが残るまで、この作業を繰り返す。
胚乳の精製
衝撃式粉砕機で胚乳を粉砕する。衝撃式粉砕機で胚乳を100メッシュ以下に粉砕するのは難しいため、100メッシュ以下に粉砕されるのは、胚乳に付着している種皮部分である。これを篩を使って除去していく。この操作を複数回繰り返す。篩のメッシュサイズと粉砕機の回転数は、状況に応じて調節していく。篩を通過しない胚乳を水に溶かしたとき、胚乳の色が乳白色で、水が着色しない物を最終製品とする。篩を通過した物で、ガラクトマンナン含有率が60−80%の物を、Bクラスの胚乳粉末として商品にする。衝撃式粉砕機が無い場合は、気流式粉砕機で代用できる。
胚乳の粉砕
100メッシュを通過しなかった胚乳粉末を気流式粉砕機で粉砕する。70メッシュの篩を通過した物を加熱滅菌し、包装する。
種皮の利用
抽出原料として利用する場合。
フェヌグリークオイル
種皮をn−ヘキサンで抽出する。どのような抽出器を利用しても良い。溶媒をあまり使う必要が無いソックスレー抽出器が経済的である。抽出液をろ過し、種皮を取る。ろ過した抽出液から溶媒を留去するとフェヌグリークオイルが取れる。
4ハイドロキシイソロイシン
種皮中にn−ヘキサンが残らないように十分に乾燥させる。種皮を再び抽出器に入れ、70%エタノール溶液で抽出する。エタノール濃度は、適時調節する。70%エタノール溶液による抽出は、2回以上繰り返す。抽出液をろ過し種皮を取る。ろ過した抽出液を陽イオン交換樹脂カラムに通す。次にアンモニア溶液をカラムに通し、吸着した物質を溶出さす。アンモニア溶液の濃度は、適時調節する。溶出液を減圧で濃縮し、濃縮後凍結乾燥すると粗の4ハイドロキシイソロイシンが含まれる粉体が得られる。その粉体を包装する。
フェヌグリークサポニン
カラムからの流出液を減圧で濃縮する。濃縮物に95%エタノール溶液を加えるとサポニンが沈殿する。沈殿したサポニンをろ過して取る。95%エタノール溶液でサポニンを洗浄した後、真空乾燥させ、その粉体を包装する。
フェヌグリークオレオレジン
ろ液を減圧で濃縮するとフェヌグリークオレオレジンが残る。それを包装する。
フェヌグリークタンパク
残った種皮を乾燥させた後、アルカリ性の水で抽出する。抽出液をろ過して、残渣の種皮を取る。抽出液を酸で中和するとタンパクの沈殿が起こり、タンパクの沈殿物をろ過して取る。タンパクを真空で乾燥し、包装する。
種皮を着香料や健康食品の原料として使う場合。
種皮には、油分を大量に含むため、粉体にしてから加熱滅菌すると固まってしまって滅菌が出来ないため、粉体にする前に加熱滅菌をして、滅菌した後粉砕する。粉砕後、直ちに包装を行う。
【産業上の利用の可能性】
フェヌグリークは、カレーの香辛料として使われていて、日本人は、そのカレーを食べているから、ほとんどの日本人は、フェヌグリークを食べていることになるが、しかし、ほとんどの日本人は、フェヌグリークについて知らない。又、アメリカやカナダでは、家畜の飼料としてフェヌグリークが栽培されているが、その種子は、全く食用にされていない。食用としてフェヌグリークが栽培されているのは、インドと中近東ぐらいではないだろうか。しかし、フェヌグリークを栽培しようとすると、世界のどの地域でも可能である。
一方、ガラクトマンナン系の天然増粘剤の日本での需要は、年間約3000トンある。今まで、フェヌグリークガラクトマンナンが、増粘剤として使われていなかったから、これらは、すべてグアーガムとローカストビーンガムに対する需要である。グアーガムとローカストビーンガムは、産地が限定されているので、全量輸入に頼っている。世界的に考えた場合、日本での需要の10倍以上のガラクトマンナンの需要があると考えられる。フェヌグリークガムの物性は、グアーガムやローカストビーンガムより優れているので、グアーガムやローカストビーンガムの代替え品として使われる可能性は、高い。例えば、3000トンの1割、300トンが使われたとすると1200トンの種子が必要になる。(胚乳は、種子の約25%であるから)そのフェヌグリークを栽培するために、日本で新しい農業が起こる可能性を持っている。この可能性は、日本だけでなく世界中の国が共通に持ちうる可能性である。
フェヌグリークガムには、増粘剤としての特徴だけでなく、機能性食品としての特性を持っている。その為、別の需要が発生する可能性がある。そうなると、将来、大量の需要が発生したら、これは、1つの産業になる可能性を秘めている。フェヌグリークガムの需要が増大すると共に副産物として大量の種皮が発生する。種皮には、多くの有効成分が含まれている。これを抽出することで、医薬品原料、化粧品原料、香料、食品原料として利用できる。また、抽出後の種皮は、セルロース、ヘミセルロース、リグニンなどからなっており、木材と同じである。それも、バイオマスとして大量に発生する。これを燃料として利用し、発電などを行うとまさに循環型の環境を作ることができる。炭にすることで、水素ガス発生の原料に使うことも出来る。
この発明により、フェヌグリーク種子を種皮と胚乳に分離することで、農業を盛んにし、各種工業を発達させ、病気を治療し、エネルギーを得ることも夢ではない。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】




【図6】

【図7】

【図8】

【図9】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェヌグリーク種子を胚乳と種皮(子葉を含む)に物理的に分別し、胚乳を精製し、高純度のガラクトマンナンを含む胚乳粉末を製造する方法
【請求項2】
物理的に分別されたフェヌグリーク種皮(子葉を含む)及び胚乳を、抽出を含む種々の工業原料として利用する方法

【国際公開番号】WO2004/048419
【国際公開日】平成16年6月10日(2004.6.10)
【発行日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−554956(P2004−554956)
【国際出願番号】PCT/JP2002/013432
【国際出願日】平成14年12月20日(2002.12.20)
【出願人】(500453418)株式会社エアーグリーン (1)
【出願人】(306002065)
【出願人】(306002043)
【Fターム(参考)】