説明

フェノールの製造方法

フェノールを製造する方法において、シクロヘキシルベンゼンが酸化されてシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、次いで得られるシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドが開裂されてフェノール及びシクロヘキサノンを含む流出物流を生成する。次いで流出物流の少なくとも一部が少なくとも一つの脱水素化反応ゾーンに供給され、そこで流出物流の部分が流出物の部分中のシクロヘキサノンの少なくとも一部をフェノール及び水素に変換するのに有効な条件下で脱水素化触媒と接触させられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この出願は2008年8月29日に出願された先の米国仮特許出願第61/093,042号、及び2008年11月18日に出願された欧州特許出願第08169307.9号(これらの両方が参考として本明細書にそのまま含まれる)の利益を主張する。
本発明はフェノールの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノールは化学工業における重要な製品であり、例えば、フェノール樹脂、ビスフェノールA、ε-カプロラクタム、アジピン酸、及び可塑剤の製造に有益である。
現在、フェノールの製造のための最も普通の経路はホック方法である。これは最初の工程がクメンを製造するためのプロピレンによるベンゼンのアルキル化を伴ない、続いて相当するヒドロペルオキシドへのクメンの酸化次いで等モル量のフェノール及びアセトンを製造するためのそのヒドロペルオキシドの開裂を伴なう3工程方法である。しかしながら、フェノールについての世界の需要はアセトンについての需要よりも迅速に増大しつつある。加えて、プロピレンのコストが、プロピレンの発展する不足のために、おそらく増大する。こうして、供給原料としてプロピレンに代えて高級アルケンを使用し、アセトンではなく、高級ケトンを同時製造する方法が、フェノールの製造の魅力的な別の経路であるかもしれない。
例えば、シクロヘキシルベンゼンの酸化(クメン酸化と同様の)がアセトン同時製造の問題のないフェノール製造の別の経路を与え得る。この別の経路はシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを経由して進行し、これが開裂されて実質的に等モル量のフェノール及びシクロヘキサノンを生成する。
しかしながら、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂によりフェノールを製造する際の一つの問題はシクロヘキサノン及びフェノールが28質量%のシクロヘキサノン及び72質量%のフェノールを含む共沸混合物を生じることである。こうして、簡単な蒸留により開裂流出物を分離しようとするあらゆる試みがこの共沸混合物をもたらす。更に、シクロヘキサノンは増大する市場で有益な製品であるが、現在、シクロヘキサノンについての大きな世界中の貿易市場がない。殆どのシクロヘキサノンが中間体としてつくられ、スポットで消費される。それ故、或る場合には、シクロヘキシルベンゼンの酸化からの生成物混合物中のフェノールの量を増大し、又は更にはシクロヘキサノンを含まないで全フェノールを製造することが望ましいかもしれない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明によれば、最終生成物中のシクロヘキサノンの量の調節を促進するシクロヘキシルベンゼンからフェノールを製造するための統合された方法が提供される。
特に、本発明はシクロヘキシルベンゼンからシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドへの酸化続いてシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂によるフェノールの製造方法を提供し、この方法では開裂工程からの流出物の少なくとも一部が脱水素化工程にかけられる。その脱水素化は流出物部分中のシクロヘキサノンの少なくとも一部を追加のフェノールに変換するだけでなく、水素を副生物として発生し、これが、例えば、シクロヘキシルベンゼン供給原料を生成するための初期のベンゼンヒドロアルキル化工程に循環し得る。加えて、脱水素化工程にかけられる開裂流出物部分は生の流出物からのフェノール並びにライトエンド及びヘビーエンドの分離により生成された実質的に純粋なシクロヘキサノンフラクションであり得るが、この分離のコストを考えると、その方法はまた開裂工程で生成されたフェノールの一部又は全部を含む流出物部分に適用し得る。この方法では、最終フェノール流そして、存在する場合の、最終シクロヘキサノン流を精製する全コストが最小にし得る。
【0004】
一局面において、本発明はフェノールの製造方法にあり、その方法は
(a) シクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、
(b) (a)からのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを変換してフェノール及びシクロヘキサノンを含む流出物流を生成し、
(c) 前記流出物流の少なくとも一部を少なくとも一つの脱水素化反応ゾーンに供給し、そして
(d) 前記流出物流の前記少なくとも一部中のシクロヘキサノンの少なくとも一部をフェノール及び水素に変換するのに有効な約250℃〜約500℃の温度を含む脱水素化条件下で前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーン中で水素化触媒と接触させることを含む。
一実施態様において、前記脱水素化反応ゾーンに供給される前記流出物流の前記少なくとも一部が前記変換(b)により生成された流出物流と同じ組成を有する。
別の実施態様において、その方法が更に前記変換(b)により生成された流出物流を少なくとも一つの分離工程にかけることを含み、その結果、前記脱水素化反応ゾーンに供給される前記流出物流の前記少なくとも一部が前記変換(b)により生成する流出物流よりも少ないフェノールを含む。都合良くは、前記変換(b)により生成された流出物流が少なくとも一つの分離工程にかけられ、その結果、前記脱水素化反応ゾーンに供給される前記流出物流の前記少なくとも一部が50質量%未満、例えば、30質量%未満、例えば、1質量%未満のフェノールを含む。加えて、前記変換(b)により生成された流出物流が、前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーンに供給する前に、少なくとも一つの分離工程にかけられて(101kPaで測定して)155℃より下で沸騰する成分及び/又は(101kPaで測定して)182℃より上で沸騰する成分を除去してもよい。
都合良くは、(d)における前記脱水素化条件が約300℃〜約450℃の温度を含む。
都合良くは、(d)における前記条件が約0.01気圧〜約20気圧(1kPa〜2000kPa)、例えば、約1気圧〜約3気圧(100kPa〜300kPa)の圧力を含む。
都合良くは、水素が前記流出物流の前記少なくとも一部と一緒に前記脱水素化反応ゾーンに供給され、その結果典型的には、脱水素化反応ゾーンへの供給原料中の水素対シクロヘキサノンのモル比が約0:1から約4:1である。都合良くは、前記脱水素化反応ゾーンに供給される水素の少なくとも一部が前記接触(d)で生成された水素である。
【0005】
更なる局面において、本発明はベンゼンからのフェノールの製造方法にあり、その方法が
(a1)ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼンを生成し、
(a) (a1)からのシクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、
(b) (a)からのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを変換してフェノール及びシクロヘキサノンを含む流出物流を生成し、
(c) 前記流出物流の少なくとも一部を少なくとも一つの脱水素化反応ゾーンに供給し、
(d) 前記流出物流の前記少なくとも一部中のシクロヘキサノンの少なくとも一部をフェノール及び水素に変換するのに有効な脱水素化条件下で前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーン中で脱水素化触媒と接触させ、そして
(e) 前記接触(d)で生成された水素の少なくとも一部を前記接触(a1)に循環することを含む。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】窒素希釈剤及び水素の添加の有無の両方で大気圧(101kPa)におけるシクロヘキサノンの脱水素化に関する温度に対する転化率の、熱力学的計算に基づく、グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0007】
同時生成されたシクロヘキサノンが追加のフェノールに部分又は完全変換されることを可能にするフェノールの製造方法が本明細書に記載される。本方法において、一般にベンゼンの接触ヒドロアルキル化により生成された、シクロヘキシルベンゼンが酸化されてシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、次いでシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドが開裂されて実質的に等モル量のフェノール及びシクロヘキサノンを含む流出物流を生成する。次いで流出物流の少なくとも一部が脱水素化反応ゾーンに供給され、そこで前記流出物流の一部中のシクロヘキサノンを追加のフェノール及び水素(これはベンゼンヒドロアルキル化工程(存在する場合)に循環し得る)に変換するのに有効な脱水素化条件下で流出物流の一部が脱水素化触媒と接触させられる。
シクロヘキシルベンゼンの製造
本方法で使用されるシクロヘキシルベンゼンは、酸触媒、例えば、ゼオライトベータもしくはMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブの存在下におけるシクロヘキセンによるベンゼンのアルキル化を含む、あらゆる通常の技術、又はビフェニルへのベンゼンの酸化カップリング続いてビフェニルの水素化により製造し得る。しかしながら、実際には、シクロヘキシルベンゼンは一般にベンゼンをヒドロアルキル化触媒の存在下でヒドロアルキル化条件下で水素と接触させることにより製造され、それによりベンゼンが下記の反応(1)を受けてシクロヘキシルベンゼン(CHB)を生成する。
【0008】
【化1】

【0009】
あらゆる市販のベンゼン供給原料がヒドロアルキル化工程で使用し得るが、ベンゼンが少なくとも99質量%の純度レベルを有することが好ましい。同様に、水素の源が重要ではないが、水素が少なくとも99質量%の純度であることが一般に望ましい。
都合良くは、ヒドロアルキル化工程への全供給原料が1000ppm未満、例えば、500ppm未満、例えば、100ppm未満の水を含む。都合良くは、全供給原料が典型的には100ppm未満、例えば、30ppm未満、例えば、3ppm未満の硫黄を含む。都合良くは、全供給原料が典型的には10ppm未満、例えば、1ppm未満、例えば、0.1ppm未満の窒素を含む。
そのヒドロアルキル化反応は固定床、スラリー反応器、及び/又は接触蒸留塔を含む広範囲の反応器形態で行ない得る。加えて、そのヒドロアルキル化反応は単一反応ゾーン又は複数の反応ゾーン(少なくとも水素が諸段階の反応に導入される)中で行ない得る。好適な反応温度は約100℃〜約400℃、例えば、約125℃〜約250℃である。好適な反応圧力は約100kPa〜約7,000kPa、例えば、約500kPa〜約5,000kPaである。水素対ベンゼンのモル比に適した値は約0.15:1〜約15:1、例えば、約0.4:1〜約4:1、例えば、約0.4〜約0.9:1である。
そのヒドロアルキル化反応に使用される触媒はMCM-22ファミリーのモレキュラーシーブと水素化金属を含む二機能性触媒である。本明細書に使用される“MCM-22 ファミリー物質”(又は“MCM-22 ファミリーの物質” もしくは“MCM-22 ファミリーのモレキュラーシーブ”)という用語は、
・普通の第一級(first degree)結晶性ビルディングブロック単位セル(その単位セルはMWWフレームワークトポロジーを有する)からつくられたモレキュラーシーブ(単位セルは原子の空間配置であり、これは三次元空間中でタイルにされた場合に結晶構造を記載する。このような結晶構造が“ゼオライトフレームワーク型のアトラス”, 第五編, 2001(その全内容が参考として含まれる)に説明されている);
・一つの単位セル厚さ、好ましくは一つのc-単位セル厚さの単層を形成する、このようなMWWフレームワークトポロジー単位セルの2次元のタイリング(tiling)である、普通の第二級(second degree)ビルディングブロックからつくられたモレキュラーシーブ;
・一つ以上の単位セル厚さの層である、普通の第二級ビルディングブロックからつくられたモレキュラーシーブ(一つより多い単位セル厚さの層が一単位セル厚さの少なくとも二つの単層を積み重ね、充填し、又は結合することからつくられる。このような第二級ビルディングブロックの積み重ねは規則的な様式、不規則な様式、ランダム様式、又はこれらのあらゆる組み合わせであってもよい);及び
・MWWフレームワークトポロジーを有する単位セルのあらゆる規則的又はランダムな2次元又は3次元の組み合わせによりつくられたモレキュラーシーブ
の一つ以上を含む。
【0010】
MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブは一般に12.4±0.25、6.9±0.15、3.57±0.07及び3.42±0.07 Åにd-間隔最大を含むX線回折パターンを有する。その物質を特性決定するのに使用されるX線回折データは通常の技術により、入射放射線としての銅のK-α二重線及び収集システムとしてのシンチレーションカウンター及び関連コンピュータを備えたディフラクトメーターを使用して得られる。MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブとして、MCM-22 (米国特許第4,954,325号に記載されている)、PSH-3 (米国特許第4,439,409号に記載されている)、SSZ-25 (米国特許第4,826,667号に記載されている)、ERB-1 (欧州特許第0293032号に記載されている)、ITQ-1 (米国特許第6,077,498号に記載されている), ITQ-2 (国際特許公開WO97/17290に記載されている)、MCM-36 (米国特許第5,250,277号に記載されている)、MCM-49 (米国特許第5,236,575号に記載されている)、MCM-56 (米国特許第5,362,697号に記載されている)、UZM-8 (米国特許第6,756,030号に記載されている)、及びこれらの混合物が挙げられる。モレキュラーシーブは(a) MCM-49、(b) MCM-56 並びに(c) MCM-49 及びMCM-56のイソタイプ、例えば、ITQ-2から選ばれることが好ましい。
あらゆる既知の水素化金属がヒドロアルキル化触媒中に使用し得るが、好適な金属として、パラジウム、ルテニウム、ニッケル、亜鉛、スズ、及びコバルトが挙げられ、パラジウムが特に有利である。一般に、触媒中に存在する水素化金属の量は触媒の約0.05質量%〜約10質量%、例えば、約0.1質量%〜約5質量%である。一実施態様において、MCM-22ファミリーモレキュラーシーブがアルミノシリケートである場合、存在する水素化金属の量はモレキュラーシーブ中のアルミニウム対水素化金属のモル比が約1.5から約1500まで、例えば、約75から約750まで、例えば、約100から約300までであるような量である。
【0011】
水素化金属は、例えば、含浸又はイオン交換によりMCM-22ファミリーモレキュラーシーブに直接担持されてもよい。しかしながら、更に好ましい実施態様において、水素化金属の少なくとも50質量%、例えば、少なくとも75質量%、一般に実質的に全てがモレキュラーシーブとは別だが、モレキュラーシーブと複合された無機酸化物で担持される。特に、水素化金属を無機酸化物で担持することにより、触媒の活性並びにシクロヘキシルベンゼン及びジシクロヘキシルベンゼンへのその選択率が均等触媒(この場合、水素化金属がモレキュラーシーブで担持される)と較べて増大されることがわかる。
このような複合ヒドロアルキル化触媒中に使用される無機酸化物は、それがヒドロアルキル化反応の条件下で安定かつ不活性であることを条件として狭く特定されない。好適な無機酸化物として、元素の周期律表の2族、4族、13族及び14族の酸化物、例えば、アルミナ及び/又はチタニア、及び/又はジルコニアが挙げられる。本明細書に使用される周期律表グループについてのナンバリングスキームはChemical and Engineering News, 63(5), 27 (1985)に開示されているようなものである。
水素化金属は都合良くは含浸により無機酸化物に付着され、その後に金属含有無機酸化物が前記モレキュラーシーブと複合される。典型的には、触媒複合材料は同時ペレット化により生成され、その場合、モレキュラーシーブ及び金属含有無機酸化物の混合物が高圧(一般に約350kPa〜約350,000kPa)で、又は同時押出(この場合、モレキュラーシーブ及び金属含有無機酸化物のスラリーが、必要により別のバインダーと一緒に、ダイに押しやられる)によりペレットに成形される。必要により、付加的な水素化金属がその後に得られる触媒複合材料に付着し得る。
【0012】
好適なバインダー材料として、合成物質又は天然産物質だけでなく、無機物質、例えば、クレー及び/又はシリカ及び/又は金属酸化物が挙げられる。後者は天然産であってもよく、又はシリカ及び金属酸化物の混合物を含むゼラチン質の沈殿又はゲルの形態であってもよい。バインダーとして使用し得る天然産クレーとして、モンモリロナイトファミリー及びカオリンファミリーのクレー(これらのファミリーはサブベントナイトを含む)並びにディキシイクレー、マックナミイクレー、ジョージアクレー及びフロリダクレーとして普通知られているカオリン又はその他(その場合、主鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ジッカイト、ナクライト又はアナウキサイトである)が挙げられる。このようなクレーは初期に微粉砕され、又は最初に焼成、酸処理もしくは化学変性にかけられた生の状態で使用し得る。好適な金属酸化物バインダーとして、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、シリカ-アルミナ、シリカ-マグネシア、シリカ-ジルコニア、シリカ-トリア、シリカ-ベリリア、シリカ-チタニアだけでなく、3成分組成物、例えば、シリカ-アルミナ-トリア、シリカ-アルミナ-ジルコニア、シリカ-アルミナ-マグネシア及びシリカ-マグネシア-ジルコニアが挙げられる。
ヒドロアルキル化工程はシクロヘキシルベンゼンに対し高度に選択的であるが、ヒドロアルキル化反応からの流出物は通常若干のジアルキル化生成物だけでなく、未反応の芳香族供給原料及び所望のモノアルキル化種を含むであろう。未反応の芳香族供給原料は通常蒸留により回収され、アルキル化反応器に循環される。ベンゼン蒸留からのボトムは更に蒸留されてモノシクロヘキシルベンゼン生成物をジシクロヘキシルベンゼン及びその他のヘビーから分離する。反応流出物中に存在するジシクロヘキシルベンゼンの量に応じて、ジシクロヘキシルベンゼンを追加のベンゼンでトランスアルキル化して所望のモノアルキル化種の生成を最大にすることが望ましいかもしれない。
追加のベンゼンによるトランスアルキル化は典型的にはヒドロアルキル化反応器とは別の、トランスアルキル化反応器中で、好適なトランスアルキル化触媒、例えば、MCM-22ファミリーのモレキュラーシーブ、ゼオライトベータ、MCM-68(米国特許第6,014,018号を参照のこと)、ゼオライトY又はモルデナイト上で行なわれる。トランスアルキル化反応は典型的には少なくとも部分液相条件(これは好適には約100℃〜約300℃の温度及び/又は約800kPa〜約3500kPaの圧力及び/又は全供給原料につき約1hr-1〜約10hr-1の毎時の質量空間速度及び/又は約1:1〜約5:1のベンゼン/ジシクロヘキシルベンゼン質量比を含む)下で行なわれる。
【0013】
シクロヘキシルベンゼン酸化
シクロヘキシルベンゼンをフェノール及びシクロヘキサノンに変換するために、シクロヘキシルベンゼンが初期に相当するヒドロペルオキシドに酸化される。これは酸素含有ガス、例えば、空気をシクロヘキシルベンゼンを含む液相に導入することにより達成される。クメンと違って、触媒の不在下のシクロヘキシルベンゼンの大気空気酸化は非常に遅く、それ故、その酸化は通常触媒の存在下で行なわれる。
シクロヘキシルベンゼン酸化工程に適した触媒は米国特許第6,720,462号(参考として本明細書に含まれる)に記載されたN-ヒドロキシ置換環状イミド、例えば、N-ヒドロキシフタルイミド、4-アミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、3-アミノ-N-ヒドロキシフタルイミド、テトラブロモ-N-ヒドロキシフタルイミド、テトラクロロ-N-ヒドロキシフタルイミド、N-ヒドロキシヘト(het)イミド、N-ヒドロキシヒム(him)イミド、N-ヒドロキシトリメリットイミド、N-ヒドロキシベンゼン-1,2,4-トリカルボキシイミド、N,N’-ジヒドロキシ(ピロメリットジイミド)、N,N’-ジヒドロキシ(ベンゾフェノン-3,3’,4,4’-テトラカルボキシジイミド)、N-ヒドロキシマレイミド、ピリジン-2,3-ジカルボキシイミド、N-ヒドロキシスクシンイミド、N-ヒドロキシ(酒石酸イミド)、N-ヒドロキシ-5-ノルボルネン-2,3-ジカルボキシイミド、エキソ-N-ヒドロキシ-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプト-5-エン-2,3-ジカルボキシイミド、N-ヒドロキシ-シス-シクロヘキサン-1,2-ジカルボキシイミド、N-ヒドロキシ-シス-4-シクロヘキセン-1,2-ジカルボキシイミド、N-ヒドロキシナフタルイミドナトリウム塩又はN-ヒドロキシ-o-ベンゼンジスルホンイミドである。触媒がN-ヒドロキシフタルイミドであることが好ましい。別の好適な触媒はN,N’,N”-トリヒドロキシイソシアヌル酸である。
【0014】
これらの物質は単独で使用でき、又は遊離基開始剤の存在下で使用でき、液相、均一触媒として使用でき、又は不均一触媒を得るために固体担体で支持し得る。典型的には、N-ヒドロキシ置換環状イミド又はN,N’,N”-トリヒドロキシイソシアヌル酸はシクロヘキシルベンゼンの0.0001モル%〜15質量%、例えば、0.001〜5質量%の量で使用される。
酸化工程に適した条件は約70℃〜約200℃、例えば、約90℃〜約130℃の温度及び/又は約50kPa〜10,000kPaの圧力を含む。あらゆる酸素含有ガス、好ましくは空気が、酸化媒体として使用し得る。その反応はバッチ反応器又は連続流反応器中で起こり得る。塩基性緩衝剤が添加されて酸化中に生成し得る酸性副生物と反応し得る。加えて、水相が導入されてもよく、これが炭酸ナトリウムの如き塩基性化合物を溶解することを助け得る。
ヒドロペルオキシド開裂
フェノール及びシクロヘキサノンへのシクロヘキシルベンゼンの変換における最後の反応工程はシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂を伴ない、これは都合良くはそのヒドロペルオキシドを液相中で約20℃〜約150℃、例えば、約40℃〜約120℃の温度及び/又は約50kPa〜約2,500kPa、例えば、約100kPa〜約1000kPaの圧力で触媒と接触させることにより行なわれる。シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドはその開裂反応に不活性な有機溶媒、例えば、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、フェノール又はシクロヘキシルベンゼンで希釈されて、熱除去を助けることが好ましい。その開裂反応は都合良くは接触蒸留ユニット中で行なわれる。
開裂工程で使用される触媒は均一触媒又は不均一触媒であってもよい。
好適な均一開裂触媒として、硫酸、過塩素酸、リン酸、塩酸及びp-トルエンスルホン酸が挙げられる。塩化第二鉄、三フッ化ホウ素、二酸化硫黄及び三酸化硫黄がまた有効な均一開裂触媒である。好ましい均一開裂触媒は硫酸であり、その好ましい濃度は0.05質量%〜0.5質量%の範囲である。均一酸触媒について、中和工程がその開裂工程に続くことが好ましい。このような中和工程は典型的には塩基性成分との接触、その後の塩に富む水相のデカントを伴なう。
【0015】
シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドの開裂における使用に適した不均一触媒として、スメクタイトクレー、例えば、米国特許第4,870,217号(その全開示が参考として本明細書に含まれる)に記載されたような、酸性モンモリロナイトシリカ-アルミナクレーが挙げられる。
開裂流出物の後処理
開裂反応からの流出物は実質的に等モル量のフェノール及びシクロヘキサノンを含む。本方法は流出物流中のシクロヘキサノンの一部又は全部を反応(2)に従って追加のフェノールに変換するように開裂流出物の少なくとも一部を脱水素化触媒と接触させることにより初期のCHB又はベンゼン供給原料から生成されるフェノールの量を増大する有利な経路を与える。
【0016】
【化2】

【0017】
あらゆる好適な脱水素化触媒、例えば、米国特許第4,417,076号に記載された促進されたニッケル触媒が反応(2)に使用し得る。脱水素化工程に適した条件は約250℃〜約500℃の温度及び/又は約0.01気圧〜約20気圧(1kPa〜2000kPa)の圧力、例えば、約300℃〜約450℃の温度及び約1気圧〜約3気圧(100kPa〜300kPa)の圧力を含む。
上記温度範囲で、シクロヘキサノンの脱水素化が平衡限界にされる。図1はD. R. Stull, E. F. Westrum, 及びG. C. Sinke著The Chemical Thermodynamics of Organic Compounds (Robert E. Krieger Publishing Company, Malabar, Florida により発行(1987))中の自由エネルギーデータを使用してなされた熱力学的計算に基づく、設計条件下の、脱水素化反応の最大の程度を示すグラフである。標準熱力学的計算(例えば、R. E. Balzhiser, M. R. Samuels, 及びJ. D. Eliassen著 Chemical Engineering Thermodynamics; Prentice-Hall, Englewood Cliffs, NJ (1972) を参照のこと)がシクロヘキサノンからフェノールへの平衡転化率を推定するのに使用された。図1は、1気圧(101kPa)の全圧で純粋なシクロヘキサノン供給原料を用いて、シクロヘキサノンからフェノールへの少なくとも90%の転化率を得るために275℃以上で操作することが必要であることを示す。一層低い全圧で実施すること、又はその反応に不活性なガス、例えば、窒素及び/又はメタンで希釈することが、平衡転化率を増大し、一方、水素を同時供給することが平衡転化率を低下する傾向にある。しかしながら、水素を同時供給することはその他のプロセス工程、特に(任意の)ベンゼンヒドロアルキル化工程における使用のために脱水素化反応で生成された水素を抽出することを助け、そしてまた触媒安定性を頻繁に改良する。水素が脱水素化反応に同時供給される場合、水素添加の速度は典型的には脱水素化反応への供給原料中の水素対シクロヘキサノンのモル比が約0:1〜約4:1であるような速度である。
脱水素化プロセスに使用される反応器形態は脱水素化機能を有する固体触媒を含む一つ以上の固定床反応器を含む。シクロヘキサノンの通過当りの転化率は典型的には70%より大きく、好ましくは90%より大きい。好ましくはステージ間の熱交換器を備えた多くの断熱床により、吸熱反応熱の用意をすることができる。反応流の温度が夫々の触媒床にわたって低下し、次いで熱交換器により上昇される。好ましくは、3〜5の床が使用され、夫々の床にわたって30〜100℃の温度低下がある。一連の最後の床は一連の最初の床より高い出口温度で運転することが好ましい。
【0018】
前述されたように、シクロヘキサノン及びフェノールは28質量%のシクロヘキサノン及び72質量%のフェノールを含む共沸混合物を生じ、その結果、簡単な蒸留によりシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド開裂工程からの流出物を分離しようとする試みがこの共沸混合物をもたらす。しかしながら、分離の効率が蒸留を少なくとも部分真空下で、典型的には101kPa以下で行なうことにより高められる。更に、抽出蒸留プロセスがシクロヘキサノン及びフェノールを分離するために知られている。例えば、米国特許第4,021,490号、同第4,019,965号、同第4,115,207号、同第4,115,204号、同第4,115,206号、同第4,201,632号、同第4,230,638号、同第4,167,456号、同第4,115,205号、及び同第4,016,049号を参照のこと。それにもかかわらず、フェノール/シクロヘキサノン分離はコストのかかるプロセスに留まり、その結果、一実施態様において、脱水素化工程への供給原料が開裂流出物と同じ組成を有し、それにより初期の高価な分離工程の必要を回避する。シクロヘキサノン脱水素化の効率に応じて、最終生成物は実質的に全てのフェノールを含んでもよく、それによりフェノールを開裂流出物から分離する問題を少なくとも軽減する。
【0019】
別の実施態様において、開裂流出物が脱水素化の前に一つ以上の分離プロセスにかけられて流出物の一種以上の成分を回収又は除去する。特に、開裂流出物が都合良くは少なくとも最初の分離工程にかけられてフェノールの一部又は全部を流出物から回収し、典型的にはその結果、前記脱水素化反応に供給される流出物流が50質量%未満、例えば、30質量%未満、例えば、1質量%未満のフェノールを含む。フェノールの分離は都合良くは真空蒸留及び/又は抽出蒸留により行なわれる。追加の蒸留工程が流出物流を脱水素化反応に供給する前に、(101kPaで測定して)155℃より下で沸騰する成分、例えば、ベンゼン及びシクロヘキサン、及び/又は(101kPaで測定して)185℃より上で沸騰する成分、例えば、2-フェニルフェノール及びジフェニルエーテルを除去するのに使用し得る。
本脱水素化プロセスを使用することにより、シクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシド開裂流出物中の実質的に全てのシクロヘキサノンがフェノールに変換し得る。しかしながら、実際に、市場条件に応じて、おそらくシクロヘキサノン製品についてのかなりの需要がある。これは反応(2)の可逆的性質に頼ることにより、即ち、フェノールの少なくとも一部を逆にシクロヘキサノンに水素化することにより本方法を使用して直ぐに満足し得る。これは、例えば、フェノールを、例えば、約20℃〜約250℃の温度及び/又は約101kPa〜約10000kPaの圧力及び/又は約1:1〜約100:1の水素対フェノールモル比を含む条件下で、水素化触媒、例えば、白金又はパラジウムの存在下で水素と接触させることにより直ぐに達成し得る。
本発明が特別な実施態様を参照して記載され、説明されたが、当業者は本発明が本明細書に必ずしも説明されていない変化に適合することを認めるであろう。この理由のために、本発明の真の範囲を決める目的のために特許請求の範囲のみが参考にされるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノールの製造方法であって、
(a) シクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、
(b) (a)からのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを変換してフェノール及びシクロヘキサノンを含む流出物流を生成し、
(c) 前記流出物流の少なくとも一部を少なくとも一つの脱水素化反応ゾーンに供給し、そして
(d) 前記流出物流の前記少なくとも一部中のシクロヘキサノンの少なくとも一部をフェノール及び水素に変換するのに有効な250℃〜500℃の温度を含む脱水素化条件下で前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーン中で脱水素化触媒と接触させることを特徴とする上記方法。
【請求項2】
ベンゼンからのフェノールの製造方法であって、
(a1)ベンゼン及び水素をヒドロアルキル化条件下で触媒と接触させてシクロヘキシルベンゼンを生成し、
(a) 前記接触(a1)からのシクロヘキシルベンゼンを酸化してシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを生成し、
(b) 前記酸化(a)からのシクロヘキシルベンゼンヒドロペルオキシドを変換してフェノール及びシクロヘキサノンを含む流出物流を生成し、
(c) 前記流出物流の少なくとも一部を少なくとも一つの脱水素化反応ゾーンに供給し、
(d) 前記流出物流の前記少なくとも一部中のシクロヘキサノンの少なくとも一部をフェノール及び水素に変換するのに有効な脱水素化条件下で前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーン中で脱水素化触媒と接触させ、そして
(e) (d)で生成された水素の少なくとも一部を前記接触(a1)に循環することを特徴とする上記方法。
【請求項3】
前記脱水素化条件が250℃〜500℃の温度を含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記脱水素化反応ゾーンに供給される前記流出物流の前記少なくとも一部が前記変換(b)により生成された流出物流と同じ組成を有する、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記変換(b)により生成された流出物流を少なくとも一つの分離工程にかけることを更に含み、その結果、前記脱水素化反応ゾーンに供給される前記流出物流の前記少なくとも一部が前記変換(b)により生成された流出物流より少ないフェノールを含む、請求項1から3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記変換(b)により生成された流出物流を少なくとも一つの分離工程にかけることを更に含み、その結果、前記脱水素化反応ゾーンに供給される前記流出物流の前記少なくとも一部が50質量%未満、好ましくは1質量%未満のフェノールを含む、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記変換(b)により生成された流出物流を前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーンに供給する前に少なくとも一つの分離工程にかけて(101kPaで測定して)155℃より下で沸騰する成分を除去することを更に含む、請求項1から3、5及び6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記変換(b)により生成された流出物流を前記流出物流の前記少なくとも一部を前記脱水素化反応ゾーンに供給する前に少なくとも一つの分離工程にかけて(101kPaで測定して)182℃より上で沸騰する成分を除去することを更に含む、請求項1から3、5から7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
前記脱水素化条件が300℃〜450℃の温度を含む、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記脱水素化条件が1kPa〜2000kPa(0.01気圧〜20気圧)の圧力を含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
圧力が100kPaから300kPaまで(1気圧から3気圧まで)である、請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記供給(c)において、水素を前記流出物流の前記少なくとも一部と一緒に前記脱水素化反応ゾーンに供給する、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記供給(c)で前記脱水素化反応ゾーンに供給される水素の少なくとも一部が前記接触(d)で生成された水素である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
脱水素化反応ゾーンへの供給原料中の水素対シクロヘキサノンのモル比が0:1〜4:1である、請求項12又は13記載の方法。
【請求項15】
前記流出物流の前記少なくとも一部を直列に連結された複数の脱水素化反応ゾーンに供給する、請求項1から14のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2011−525196(P2011−525196A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−516901(P2011−516901)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【国際出願番号】PCT/US2009/050497
【国際公開番号】WO2010/024975
【国際公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(599134676)エクソンモービル・ケミカル・パテンツ・インク (301)
【Fターム(参考)】