説明

フェノール樹脂成形材料及び成形品

【課題】 部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化が小さい成形品を形成することができるフェノール樹脂成形材料を提供する。
【解決手段】 フェノール樹脂に充填材を配合したフェノール樹脂成形材料に関する。充填材が下記(1)式又は(2)式の構造でmが1〜10の整数であるアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料を用いたものである。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱部品として用いられる成形品及びそれを製造するためのフェノール樹脂成形材料に関するものであり、特に、自動車のエンジン部周辺に搭載される電装部品に用いられるモーターコンミテータなどの耐熱部品を形成する際に好適に用いられるフェノール樹脂成形材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、フェノール樹脂成形材料は耐熱性、寸法安定性、成形性に優れ、自動車の電装用モーターコンミテータやその周辺の構造部品に使用されてきた実績がある(例えば、特許文献1参照)。最近では、地球環境保全等の観点から自動車の低燃費化を目的とした各ユニットの電動化が盛んであり、油圧による制御からモーターによる電動化への変更により、モーター需要も増えており、また、その品質面での向上が求められている。
【0003】
特に、モーターの品質面では、車内環境の快適性追求の自動車の静音化ニーズへの対応が求められている。コンミテータは摺動部品であるために、その寸法精度はモーター騒音に大きな影響を与えるものであり、このため、モーターに使用されるコンミテータを形成する成形材料としては、部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化の少ない材料が求められている。
【0004】
しかし、従来のフェノール樹脂成形材料から形成される成形品では、モーターの特性面において充分要求品質を満たしているが、部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化が大きいという問題があり、モーター駆動時の発生音が大きくなることがあった。
【特許文献1】特開平6−345853号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化が小さい成形品を形成することができるフェノール樹脂成形材料を提供することを目的とするものである。また、本発明は部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化が小さい成形品を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のフェノール樹脂成形材料は、フェノール樹脂に充填材を配合したフェノール樹脂成形材料において、充填材が下記(1)式又は(2)式の構造でmが1〜10の整数であるアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料を用いたものであることを特徴とするものである。
【0007】
【化1】

【0008】
また、本発明は、充填材が表面にグラフト層を有することが好ましい。
【0009】
また、本発明は、グラフト層がアクリルニトリル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステルのいずれかであることが好ましい。
【0010】
また、本発明は、充填材の配合量が0.5〜10質量%であることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、フェノール樹脂の配合量が25〜35質量%、充填材の配合量が0.5〜10質量%、熱可塑性エラストマーの配合量が0.1〜5質量%、ガラス繊維の配合量が40〜65質量%、無機鉱物の配合量が1〜15質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明の成形品は、上記フェノール樹脂成形材料を加熱プレスにより成形して成ることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、成形後に実施されるアニール処理などの際に、弾性を有する充填材により硬化後のフェノール樹脂の収縮を抑えると同時に膨張させることが可能となり、また、熱雰囲気環境下においても成形品の寸法変化を抑えることが可能となり、この応力緩和作用により成形品からの部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化を小さくすることができるものである。
【0014】
また、充填材の表面のグラフト層により、成形材料中での充填材の分散性を高めることができ、充填材による成形品の寸法変化低減に対する効果を大きくすることができるものである。
【0015】
また、グラフト層がアクリルニトリル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステルとすることにより、充填材の耐衝撃性や摩耗性を高くすることができるものである。
【0016】
また、充填材の配合量を0.5〜10質量%とすると、充填材により成形品にかかる応力を緩和しやすくなるものである。
【0017】
また、フェノール樹脂の配合量が25〜35質量%、充填材の配合量が0.5〜10質量%、熱可塑性エラストマーの配合量が0.1〜5質量%、ガラス繊維の配合量が40〜65質量%、無機鉱物の配合量が1〜15質量%とすると、モータのコンミテータとしての性能を得やすくなるものである。
【0018】
また、上記フェノール樹脂成形材料を加熱プレスにより成形することによって、部品加工時及び加工後の力学的負荷や熱履歴による寸法変化が小さい成形品を得ることができるものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。
【0020】
本発明で用いるフェノール樹脂は、特に限定されず、ノボラック型フェノール樹脂とレゾール型フェノール樹脂をそれぞれ単独で用いたり併用したりすることができる。また、フェノール樹脂としては重量平均分子量が2000〜4000のものを用いるのが好ましい。
【0021】
本発明で用いる充填材は、上記(1)又は(2)に示す構造を有するアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料を用いて形成したものであって、弾性を有するものである。上記(1)又は(2)に示す構造の繰り返し数mは1〜10の整数である。mが1未満であると、寸法変化を抑制する十分な効果が得られないという問題が生じる恐れがあり、mが10より大きくなると、フェノール樹脂に対する分散性が悪くなり、成形物の外観が悪くなるという問題が生じる恐れがある。また、上記(1)又は(2)に示す構造の繰り返し数nは特に限定されないが、実際の分子量は10000〜300000程度と考えられるので、nは100〜300程度と推定される。また、本発明の充填材は、上記(1)又は(2)に示す構造のみを有するアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料で形成することができるが、上記(1)又は(2)に示す構造とエチレン、アクリロニトリルゴム、ジメチルシロキサンなどとの共重合体をアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料として形成することもできる。尚、上記(1)又は(2)に示す構造のみを有するアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料で形成した場合は、上記(1)又は(2)に示す構造の末端は水素(H)である。
【0022】
本発明の充填材は略球状の粒状物であって、その粒径は平均粒径2μm〜1mmのものを使用することができる。また、本発明の充填材としては、表面にグラフト層を設けたものを使用することができる。この充填材はコア部の全表面をグラフト層で覆って形成されるものである。この場合、コア部は上記アクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料で形成することができ、グラフト層はアクリルニトリル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステルのいずれかで形成することができる。グラフト層で使用するメタクリル酸アルキルエステルはコア部と同様の上記(2)の構造を有するものである。
【0023】
本発明ではフェノール樹脂と充填剤の他に、熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、無機鉱物、硬化剤、滑剤、染料などを必要に応じて配合することができ、特に、コンミテータ用のフェノール樹脂成形材料を調製する場合は熱可塑性エラストマー、ガラス繊維、無機鉱物を配合するのが好ましい。熱可塑性エラストマーとしては、特に限定されないが、ポリエステル樹脂類、ポリウレタン樹脂類、ポリアミド樹脂類、ポリブタジエン、スチレン−ブタジエン−スチレン共重合体、ポリ酢酸ビニル樹脂、スチレン−イソプレン共重合体などをそれぞれ単独で用いたり併用したりすることができる。ガラス繊維としては、特に限定されないが、繊維径が9〜13μm、繊維長が90〜150μmmのものを使用することができる。無機鉱物としては、特に限定されないが、ウォラストナイト、炭酸カルシウム、タルク、カオリン、マイカ、クレー、シリカ、水酸化カルシウムなどをそれぞれ単独で用いたり併用したりすることができる。硬化剤としては、特に限定されないが、ヘキサメチレンテトラミンなどのフェノール樹脂硬化剤を用いることができる。
【0024】
そして、本発明のフェノール樹脂成形材料は、上記フェノール樹脂と充填材及びその他の材料を2軸の混練機等で混練して調製することができる。また、混練後に冷却粉砕し造粒しても良い。ここで、充填材の配合量はフェノール樹脂成形材料の全量に対して0.5〜10質量%にするのが好ましい。充填材の配合量が0.5質量%未満であると、本発明の効果を得ることが難しくなり、充填材の配合量が10質量%を超えると、成形性を確保することが難しくなる恐れがある。尚、成形性の確保とは、射出成形やトランスファ成形などの成形時において、成形材料の硬化速度又は成形材料の粘度が適当な範囲にあり、未充填やカスレなどの成形不良なく成形することができることをいう。また、コンミテータ用のフェノール樹脂成形材料の場合は、フェノール樹脂成形材料の全量に対して、フェノール樹脂の配合量が25〜35質量%、充填材の配合量が0.5〜10質量%、熱可塑性エラストマーの配合量が0.1〜5質量%、ガラス繊維の配合量が40〜65質量%、無機鉱物の配合量が1〜15質量%とするのが好ましい。フェノール樹脂の配合量が上記範囲を逸脱すると、成形品であるコンミテータの強度が低下したり均一に混練するのが難しくて材料化が困難になる恐れがある。熱可塑性エラストマーの配合量が0.1質量%未満であると、力学的負荷や熱履歴による成形品の寸法変化を小さく抑えにくくなり、熱可塑性エラストマーの配合量が5質量%超えると、均一に混練するのが難しく、材料化が困難になる恐れがある。ガラス繊維の配合量が40質量%未満であると、成形品であるコンミテータの強度が低下する恐れがあり、ガラス繊維の配合量が65質量%を超えると、均一に混練するのが難しく、材料化が困難になる恐れがある。無機鉱物の配合量が1質量%未満であると、均一に混練するのが難しく、生産性が低下する恐れがあるという問題が生じる恐れがあり、無機鉱物の配合量が15質量%を超えると、機械強度が低下し製品特性を満足しなくなる恐れがあるという問題が生じる恐れがある。
【0025】
上記フェノール樹脂成形材料を用いてコンミテータやその周辺の部品などの成形品を製造するにあたっては、フェノール樹脂成形材料を加熱プレスにより成形する。成形方法としては射出成形、トランスファ成形、圧縮成形などを採用することができるが、これに限定されるものではない。成形条件は射出成形の場合、温度150〜190℃、圧力88〜137MPa(900〜1400kgf/cm2)、時間20秒間以上とすることができるが、これに限定されるものではない。尚、他の成形方法の場合もこの成形条件に準じて成形することができる。
【0026】
上述のように、自動車の静音化ニーズにより各部品の寸法面での要求レベルが高くなっており、特に自動車部品の中でも、摺動部品であるコンミテータは、コンミテータ加工後の実装時や自動車搭載後の使用で生じる寸法変化が原因で発生する異音の低減が求められている。コンミテータ加工後の実装時に発生する寸法変化の要因としては、成形加工時の成形収縮及び加工後に実施されるアニール処理時の寸法変化によるものがあり、これにより、コンミテータの成形品(樹脂)と銅セグメントとに隙間が生じることがある。従来の成形材料ではこの隙間が大きく発生し、実装工程にて実施されるヒュージング処理による端子部への局部的な力学的負荷及び電気的・熱的な負荷により、コンミテータとしての真円度の悪化やモーター回転時の遠心力によって成形品と銅セグメントとの間の段差の悪化が起こり、モーター駆動時の異音を増加させている。
【0027】
また、自動車搭載後に発生するコンミテータの寸法変化の要因としては、自動車のエンジン部から受ける熱やモーター駆動時に自身が発熱することによって発生する熱による寸法変化がある。従来の成形材料では成形品の熱雰囲気環境下での寸法変化が大きく発生し、自動車への実装後に受ける熱履歴によってコンミテータの成形品と銅セグメントとの間に発生する段差の悪化をもたらし、モーター駆動時の異音を増加させている。
【0028】
そこで、本発明のフェノール樹脂成形材料では上記のような充填材を配合するものであり、これにより、コンミテータの成形後に実施されるアニール処理などの際に発生する硬化後のフェノール樹脂(成形品)の収縮を抑えることが可能となり、また同時に膨張させることが可能となることもあり、この結果、コンミテータの加工時に成形品と銅セグメントとの間に発生する隙間を抑えることが可能となるものであり、また、熱雰囲気環境下においても成形品の寸法変化を抑えることが可能となり、コンミテータの実装後の真円度の悪化や自動車搭載後の段差の悪化を大幅に改善することができるものである。従って、この2点からモータ駆動時の異音の発生を抑えることが可能となるものである。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0030】
表1に示す材料を所定量配合し(単位は質量%)、1分間混合した。次に、この混合物を2軸混練機で3分間、品温100〜110℃で混練した。この後、混練物を冷却粉砕し、造粒して実施例1〜15及び比較例1〜3のフェノール樹脂成形材料を得た。使用した材料は以下の通りである。
【0031】
ノボラック型フェノール樹脂…昭和高分子(株)製のBRP590P
レゾール型フェノール樹脂…松下電工株式会社製、ホルムアルデヒドFとフェノールPのモル比がF/P=1.84で、これらを酢酸亜鉛触媒を用いて110℃で6時間反応させ、減圧脱水して得られたものであって、分子量がGPCで数平均分子量650のもの
熱可塑性エラストマー…日本ゼオン製、SBR
熱可塑性エラストマー…日本ゼオン製Nipiol1411、NBR
無機鉱物(無機充填材)…NYCO社製、ウォラストナイトNYAD400
ガラス繊維…日東紡績社製CS3E−479S(繊維径平均φ12μm、繊維長3mm)
硬化剤…三井東圧株式会社製S−4、ヘキサメチレンテトラミン
滑剤…カルナバワックス、大日化学工業株式会社製カルナバF−1
染料…ソルベントブラック、オリエント化学工業株式会社製SAP−L
充填材A(グラフト層なし)…根上株式会社製パラクロン、アクリル酸アルキルエステル、繰り返し数m=4
充填材B(グラフト層なし)…根上株式会社製パラクロン、アクリル酸アルキルエステル、繰り返し数m=10
充填材C(グラフト層なし)…三菱レーヨン株式会社製スミペックス、メタクリル酸アルキルエステル、繰り返し数m=1
充填材D(グラフト層あり)…三菱レーヨン株式会社製SRK−200、メタクリル酸酸アルキルエステル、繰り返し数m=4、グラフト層の種類アクリロニトリルゴム、ジメチルシロキサン共重合体
上記で得たフェノール樹脂成形材料を用いて試験片を作製した。試験片はJIS曲げ試験形状の試験片金型を用いて射出成形により成形した。この時の金型温度は170℃、硬化時間90秒、射出圧力128MPaとした。
【0032】
上記のフェノール樹脂成形材料及び試験片を用いて以下の性能を評価した。
【0033】
(1)アニール時の寸法変化(収縮率)
試験片のアニール後の金型寸法に対する寸法変化率を測定した。この値は絶対値が小さい方が好ましい。アニール条件は180℃×3時間後、210℃×7時間とした。
【0034】
(2)高温放置後の寸法変化
(1)にてアニール処理した試験片を200℃×500時間処理し、処理前後の寸法変化率を測定した。
【0035】
(3)成形性(押切り時間s)
押出し式流れ性試験[JIS K 6911]を実施した。実施条件は40g/160℃/29.4MPaとした。この評価は実成形加工性において60〜80秒であることが好ましい。
【0036】
(4)成形品強度(曲げ強さ)MPa
強度評価はJIS曲げ強さ[JIS K 6911]を実施した。この評価は製品特性上150MPa以上が好ましい。
【0037】
結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、実施例1〜15のフェノール樹脂成形材料では比較例1〜3のものよりも、アニール時の寸法変化や高温放置後の寸法変化が小さくなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂に充填材を配合したフェノール樹脂成形材料において、充填材が下記(1)式又は(2)式の構造でmが1〜10の整数であるアクリル酸アルキルエステル系材料又はメタクリル酸アルキルエステル系材料を用いたものであることを特徴とするフェノール樹脂成形材料。
【化1】

【請求項2】
充填材が表面にグラフト層を有することを特徴とする請求項1に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項3】
グラフト層がアクリルニトリル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステル/スチレン共重合体、メタクリル酸アルキルエステルのいずれかであることを特徴とする請求項2に記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項4】
充填材の配合量が0.5〜10質量%であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項5】
フェノール樹脂の配合量が25〜35質量%、充填材の配合量が0.5〜10質量%、熱可塑性エラストマーの配合量が0.1〜5質量%、ガラス繊維の配合量が40〜65質量%、無機鉱物の配合量が1〜15質量%であることを特徴する請求項1乃至4のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載のフェノール樹脂成形材料を加熱プレスにより成形して成ることを特徴とする成形品。

【公開番号】特開2006−36937(P2006−36937A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−219322(P2004−219322)
【出願日】平成16年7月27日(2004.7.27)
【出願人】(000005832)松下電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】