説明

フェノール樹脂組成物

【課題】
振動吸収性、低摩耗性に優れ、熱劣化の少ない成形品等を得るためのバインダーとして好適なフェノール樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ノボラック型フェノール樹脂及びその硬化触媒、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を必須成分として含有することを特徴とするフェノール樹脂組成物であって、前記熱可塑性樹脂が、シリコンゴム(VMQ)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)およびフッ素系ゴム(FKM)からなる群より選ばれた1種または2種以上であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェノール樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂は優れた機械特性、電気特性及び接着性などを有する材料である反面、フェノール樹脂を使用した成形物は堅くて脆いという欠点を持つ。フェノール樹脂の脆さを改良し強靱化する方法としてゴムなどのエラストマーによる変性法が有効とされ、多くの検討が行われている。例としてアクリル酸エステル含有エラストマー等によって変性されたエラストマー変性フェノール樹脂がある(例えば特許文献1参照)。しかし、エラストマーで変性することによりフェノール樹脂の耐熱性が損なわれるという欠点がある。
【特許文献1】特開平10-007815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、振動吸収性、低摩耗性に優れ、熱劣化の少ない成形品等を得るためのバインダーとして好適なフェノール樹脂およびフェノール樹脂組成物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このような目的は、下記の本発明[1]〜[4]により達成される。
[1]ノボラック型フェノール樹脂及びその硬化剤、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を配合してなることを特徴とするフェノール樹脂組成物。
[2]前記熱可塑性樹脂が、シリコンゴム(VMQ)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)およびフッ素系ゴム(FKM)からなる群より選ばれた1種または2種以上である[1]項記載のフェノール樹脂組成物。
[3]前記熱可塑性樹脂の合計が、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して、3〜35重量%である、[1]又は[2]に記載のフェノール樹脂組成物。
[4]前記架橋剤が、熱可塑性樹脂に対して0.1〜20重量%である[1]〜[3]項のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、振動吸収性、低摩耗性に優れ、熱劣化の少ない成形品等を得るためのバインダーとして好適なフェノール樹脂およびフェノール樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明のフェノール樹脂組成物について説明する。
本発明のフェノール樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂及びその硬化触媒、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を必須成分として含有することを特徴とする。
【0007】
本発明のフェノール樹脂組成物に用いられるノボラック型フェノール樹脂としては特に限定しないが、一般に酸性物質を触媒として、フェノール類とアルデヒド類を反応させたものが好ましく用いられる。ノボラック型フェノール樹脂の原料となるフェノール類としては特に限定しないが、例えば、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール等のクレゾール、2,3−キシレノール、2,4−キシレノール、2,5−キシレノール、2,6−キシレノール、3,4−キシレノール、3,5−キシレノール等のキシレノール、o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール等のエチルフェノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、p−tert−ブチルフェノール等のブチルフェノール、p−tert−アミルフェノール、p−オクチルフェノール、p−ノニルフェノール、p−クミルフェノール等のアルキルフェノール、フルオロフェノール、クロロフェノール、ブロモフェノール、ヨードフェノール等のハロゲン化フェノール、p−フェニルフェノール、アミノフェノール、ニトロフェノール、ジニトロフェノール、トリニトロフェノール等の1価フェノール置換体、および1−ナフトール、2−ナフトール等の1価のフェノール類、レゾルシン、アルキルレゾルシン、ピロガロール、カテコール、アルキルカテコール、ハイドロキノン、アルキルハイドロキノン、フロログルシン、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ジヒドロキシナフタリン等の多価フェノール類などが挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、フェノール、クレゾールが多く用いられる。
【0008】
次に、ノボラック型フェノール樹脂の原料となるアルデヒド類としては特に限定しないが、例えば、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、トリオキサン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ポリオキシメチレン、クロラール、ヘキサメチレンテトラミン、フルフラール、グリオキザール、n−ブチルアルデヒド、カプロアルデヒド、アリルアルデヒド、ベンズアルデヒド、クロトンアルデヒド、アクロレイン、テトラオキシメチレン、フェニルアセトアルデヒド、o−トルアルデヒド、サリチルアルデヒド等が挙げられる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができるが、通常、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒドなどのホルムアルデヒド類が多く用いられる。
【0009】
上記フェノール類(P)と、アルデヒド類(F)とを反応させる際の反応モル比[F/P]としては特に限定されないが、0.5〜0.9とすることが好ましい。
反応モル比を上記範囲にすることにより、反応中に樹脂がゲル化することなく、未反応のフェノール樹脂類の量が少なく、好適な分子量を有するノボラック型フェノール樹脂を合成することができる。
【0010】
次に、ノボラック型フェノール樹脂の触媒となる酸性物質としては、例えば、シュウ酸などの有機酸や塩酸、硫酸、燐酸などの鉱物酸、パラトルエンスルホン酸、パラフェノールスルホン酸などを使用することができる。またこれらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0011】
本発明に用いられるノボラック型フェノール樹脂の未反応フェノール類の含有量は、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して5.0重量%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.0重量%以下である。こうすることで、未反応フェノールに起因する樹脂加工時の臭気を低減でき、作業環境を良好なものにすることができると共に緒物性を良好に維持することができる。
また、ノボラック型フェノール樹脂の重量平均分子量は1000〜100000が好ましく、更に好ましくは3000〜20000である。ノボラック型フェノール樹脂の分子量をこの範囲とすることで、フェノール樹脂組成物を調製したとき好ましい特性を得ることができる。
本発明に用いるノボラック型フェノール樹脂の硬化剤としては特に限定しないが、例えばヘキサメチレンテトラミン、エポキシ樹脂などを用いることができる。
ヘキサメチレンテトラミンの含有量としては特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、5〜20重量部であることが好ましい。さらに好ましくは7〜17重量部である。
ヘキサメチレンテトラミンの含有量を上記範囲とすることで、特に機械的強度や摩耗特性に優れた成形体を得ることができる。
ヘキサメチレンテトラミンの混合方法としては特に限定されないが、通常の粉砕装置を用いて、前記ノボラック型フェノール樹脂と共に粉砕しても良いし、ノボラック型フェノール樹脂を粉砕した後で混合しても良い。
【0012】
本発明に用いられる熱可塑性樹脂は特に限定されないが、例えば、シリコンゴム(VMQ)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)、フッ素系ゴム(FKM)などを用いることができる。これらを単独または2種類以上組み合わせて使用することができる
【0013】
上記熱可塑性樹脂は、最終的に得られる組成物のノボラック型フェノール樹脂分全体に対して、3〜35重量%であることが好ましく、更に好ましくは5〜30重量%である。
熱可塑性樹脂の含有量を上記範囲とすることで、柔軟性や強度、摩擦係数のバランスの取れた成形体が成形可能なフェノール樹脂組成物を得ることができる。
熱可塑性樹脂の添加方法としては特に制限されないが、ノボラック型フェノール樹脂を製造する際に、フェノール類にあらかじめ溶解しても良いし、ノボラック型フェノール樹脂製造中に加えても良いし、粉砕する際に添加してもよい。
これにより、ノボラック型フェノール樹脂及びその硬化剤、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を配合してなることを特徴とするフェノール樹脂組成物が得られ、また、前記ノボラック型フェノール樹脂は、一部が前記熱可塑性樹脂で変性されたものであるフェノール樹脂組成物を得ることができる。
本発明のフェノール樹脂組成物には、加える熱可塑性樹脂の熱硬化を目的として、その熱可塑性樹脂に対する架橋剤を含有させることができる。該架橋剤の含有量については特に限定されないが、熱可塑性樹脂100重量部に対して、0.2〜10重量部添加することができる。
本発明に用いられる架橋剤としては、例えば、硫黄系化合物、有機過酸化物、トリアジンチオール化合物、チウラムモノサルファイド、ジチオカルバミン酸金属塩、多価アミン化合物又、多価ヒドラジド化合物、多価エポキシ化合物、多価イソシアナート化合物、アジリジン化合物、塩基性金属酸化物、有機金属ハロゲン化物から選ばれるものを好適に用いることができる。
【0014】
本発明のフェノール樹脂組成物は、このほか、硬化促進の目的で有機酸を含有することができる。含有量については特に限定されないが、ノボラック型フェノール樹脂100重量部に対して、0.2〜4重量部であることが好ましい。
該有機酸としては、例えば、酒石酸、琥珀酸、マロン酸、フマル酸、安息香酸、及び、フタル酸から選ばれるものを好適に用いることができる。
【0015】
本発明のフェノール樹脂組成物は、通常のノボラック型フェノール樹脂を用いて調製したフェノール樹脂組成物と比較して振動吸収性、低摩耗性に優れる成形体が得られる。また他の熱可塑性樹脂で変性したノボラック型フェノール樹脂を用いて調製したフェノール樹脂組成物と比較して熱劣化の少ない成形体が得られる。
【実施例】
【0016】
以下、本発明の組成物を摩擦材に用いた実施例により詳細に説明する。
表1に、摩擦材(ブレーキ材)の調製に用いた配合材の配合量を示す。単位は全て重量部を表す。
【0017】
【表1】

【0018】
(実施例1)
攪拌装置を備えたフラスコに、フェノール1000重量部、蓚酸10重量部を仕込んだ。これに538重量部の37%ホルムアルデヒド水溶液を1時間半かけて加え(F/P比=0.725)、更に1時間還流させ、反応によって生じる水の常圧除去、遊離フェノールが1%未満になるまで真空除去を行ない、メチルエチルケトンに溶解した93重量部のアクリルゴムを添加し、メチルエチルケトンを真空除去して反応を終了し、アクリルゴム変性ノボラック型フェノール樹脂を得た。
得られたアクリルゴム変性ノボラック型フェノール樹脂を、アクリルゴム変性ノボラック型フェノール樹脂に対して10phrのヘキサメチレンテトラミンと、同じく1phrの2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン、3phrの酸化マグネシウムとともに粉砕混合し、フェノール樹脂組成物を得た。
このフェノール樹脂組成物80重量部、硫酸バリウム400重量部、炭酸カルシウム420重量部、カシューダスト50重量部、アラミド繊維50重量部を用い、アイリッヒミキサーで混合して混合物とした。
これを、温度150℃、圧力30MPaで9分間成形し、85×60×18mmの成形品を得た。得られた成形品をさらに200℃で5時間焼成して摩擦材(ブレーキ材)を得た。
【0019】
(比較例1)
実施例1と同様にしてアクリルゴム変性ノボラック型フェノール樹脂を得た。
得られたノボラック型フェノール樹脂を10phrのヘキサメチレンテトラミンとともに粉砕混合し、フェノール樹脂組成物を得た。
このフェノール樹脂組成物80重量部、硫酸バリウム400重量部、炭酸カルシウム420重量部、カシューダスト50重量部、アラミド繊維50重量部を用い、アイリッヒミキサーで混合して混合物とした。
これを、温度150℃、圧力30MPaで9分間成形し、85×60×18mmの成形品を得た。得られた成形品をさらに200℃で5時間焼成して摩擦材(ブレーキ材)を得た。
【0020】
(比較例2)
攪拌装置を備えたフラスコに、フェノール1000重量部、蓚酸10重量部を仕込んだ。これに538重量部の37%ホルムアルデヒド水溶液を1時間半かけて加え(F/P比=0.725)、更に1時間還流させ、反応によって生じる水の常圧除去、遊離フェノールが1%未満になるまで真空除去を行ない、反応を終了し、ノボラック型フェノール樹脂を得た。
これを比較例1と同様の方法でヘキサメチレンテトラミンと粉砕混合し、フェノール樹脂組成物を得た。
このフェノール樹脂組成物を用いて、実施例1と同様の方法で摩擦材(ブレーキ材)を得た。
【0021】
組成物の調製及び摩擦材(ブレーキ材)の製造で用いたものは以下のとおりである。
(1)アクリルゴム:日本ゼオン株式会社製 AR71
(2)2,4,6−トリメルカプト−s−トリアジン:東京材料株式会社製 ZISNET F
(3)酸化マグネシウム:協和化学工業株式会社製 キョウワマグ30
(4)硫酸バリウム(平均粒子径 20μm):堺化学株式会社製 BF−1H
(5)炭酸カルシウム(平均粒子径 20μm):白石工業株式会社製 Vigot15
(6)ヘキサメチレンテトラミン:Caldic Europoprt B.V.
(7)カシューダスト(平均粒子径 250μm):東北化工株式会社製 FF−1081
(8)アラミド繊維(繊維長 2mm):東レ・デュポン株式会社社製 ドライパルプ
【0022】
上記実施例及び比較例により作製したブレーキ材を評価用試料として以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0023】
【表2】

【0024】
表の注:評価方法
(1) ロックウェル硬度:JIS K 7202「プラスチックのロックウェル硬さ試験方法」に準拠して測定した。
【0025】
(2)曲げ強度:JIS K 7203「硬質プラスチックの曲げ試験方法」に準拠して測定した。状態曲げ強度は室温で、熱処理後の曲げ強度は350℃で4時間熱処理をしてから室温で測定した。
【0026】
(3)摩擦係数:JASO C 406 に準拠して、1/10スケールダイナモテスターにより測定した。測定条件は、制動初速度50km/h、減速度0.3G、制動回数1000回とし、制動温度は100℃、200℃、300℃の3水準で行なった。
【0027】
(4)摩耗量:マイクロメーターを用いて、摩擦係数測定前後のテストピースの厚さを計測し、各制動温度の摩耗量とした。
【0028】
実施例1は、アクリルゴム変性フェノール樹脂を用いて、アクリルゴムの架橋剤とともに粉砕して調製した組成物であるが、未変性ノボラック型フェノール樹脂を用いた比較例2と比較してロックウェル硬度やtanδの値から柔軟性が高いといえ、また、アクリルゴム成分の架橋剤を用いなかった比較例1と比較して熱処理を行なったあとの状態測定値に対する保持率が高い。また摩擦係数はあまり他と変わらないが、比較例2に比べて摩耗量が少ないことが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノボラック型フェノール樹脂及びその硬化剤、熱可塑性樹脂及びその架橋剤を配合してなることを特徴とするフェノール樹脂組成物。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂が、シリコンゴム(VMQ)、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、エチレン−プロピレンゴム(EPDM)、アクリルゴム(ACM)およびフッ素系ゴム(FKM)からなる群より選ばれた1種または2種以上である請求項1記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂の合計が、ノボラック型フェノール樹脂全体に対して、3〜35重量%である、請求項1又は2に記載のフェノール樹脂組成物。
【請求項4】
前記架橋剤が、熱可塑性樹脂に対して0.1〜20重量%である請求項1〜3のいずれか1項に記載のフェノール樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−63440(P2008−63440A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−242778(P2006−242778)
【出願日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【出願人】(000002141)住友ベークライト株式会社 (2,927)
【Fターム(参考)】