説明

フェノール類含有廃液からのフェノールの回収法

【課題】フェノール樹脂の製造工程から排出される廃液からフェノールを回収する方法において、そのプロセスで回収フェノールを迅速に使用する方法を提供する。
【解決手段】フェノール樹脂製造工程から排出されるフェノール類含有廃液からフェノールを回収する方法において、該フェノール類含有廃液を第1沈降分離槽で樹脂状物を沈降分離させて除去した後、30℃以下に冷却し、次いで第2沈降分離槽で、第1沈降分離槽との温度差を2〜15℃にして、フェノールを沈降分離させてから回収フェノールタンクに保管し、樹脂製造プロセスへ使用する、フェノールの回収方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフェノール樹脂製造工程から排出される廃液からフェノールを経済的に回収し、安定的に利用する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェノール樹脂製造において脱水、濃縮工程から排出される廃液には未反応フェノール分が含まれ、通常フェノール濃度5〜30重量%の廃液が排出される。従来、廃液の処理は、所定の処理を施した後、産業廃棄物取扱業者に引渡したり、工場内で生物による分解処理を行い放流をしていたが、産業廃棄物の処理には慎重を要すると共に、近年、特に処理費が高騰している。また、フェノールは有害な環境汚染物質であるので、水質汚濁防止法で定められた基準値以下の濃度に処理しなくてはならないため、処理コストが嵩む。そこで、フェノール成分を回収して再利用する方法が種々検討されている。
【特許文献1】特開昭60−6628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
フェノール成分を回収する方法とすれば、例えば、特開昭60−6628号公報等が開示されている。フェノール樹脂の製造工程から排出される廃液をタンク1で不純物を沈降分離させて除去して後、30℃以下に冷却し、次いでタンク2でフェノールを沈降分離させて、フェノール濃度の低下した上澄み液をタンク1へ戻す工程と、フェノール濃度が向上した沈降液を回収する工程とを備える方法及び該方法を実施する処理装置が開示されているで。この方法で得られる回収フェノールのフェノール濃度は70重量%前後と高く、工業原料として再利用が可能であるが、タンク2とタンク3の温度条件が変動すると、更に分離してしまい、フェノール濃度も変化してしまう。そのため回収フェノールの使用に当たりフェノール濃度の再測定等が必要になる。このため保管された回収フェノールを直接プロセスで利用する点妨げとなってしまう。
【0004】
このような問題を解決するため、タンク1とタンク2の温度差を好ましくは、2〜30℃付ければよい。但し、30℃の温度差を付けるには大量の冷却水等が必要になり、エネルギー経済的に非常に不利になってくる。また、2℃以下の温度差になってしまうと保管タンクであるタンク3で、大量の分離が発生してしまう。これらの点よりタンク1とタンク2の温度差は、2〜15℃の冷却とする。
【0005】
冷却が十分であった場合では、タンク2とタンク3では水とフェノールの分離は起きないが、外気温等でタンク2とタンク3で水とフェノールの分離が生じることがある。そこで、タンク2とタンク3のフェノール濃度と、水とフェノールの分離状況を簡易に測定できる方法を探索した。
本発明は、フェノール樹脂の製造工程から排出される廃液からフェノールを回収する方法において、そのプロセスで回収フェノールを迅速に使用する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フェノール樹脂の製造工程から排出される廃液からフェノールを回収する方法において、該廃液を静置分離した後、温度測定及び導電率測定を行うことにより、フェノール濃度を計算で求め、プロセスで回収フェノールを迅速に使用する方法を提供する。本発明により回収フェノールの温度と電気導電率を測定すれば、濃度が決定された回収フェノールを簡易に回収し、使用できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明の詳細を以下に述べる。
(1)フェノール樹脂製造工程から排出されるフェノール類含有廃液(以下、廃液と略す)からフェノールを回収する方法において、該廃液を第1沈降分離槽(以下、タンク1と略す)で樹脂状物を沈降分離させて除去した後、30℃以下に冷却し、次いで第2沈降分離槽(以下、タンク2と略す)で、第1沈降分離槽(タンク1)との温度差を2〜15℃にして、フェノールを沈降分離させてから回収フェノールタンク(以下、タンク3と略す)に保管し、樹脂製造プロセスへ使用することを特徴とするフェノールの回収方法。
(2)フェノール樹脂製造工程から排出される廃液を処理する第1沈降分離槽(タンク1)と、熱交換器の後工程に位置する第2沈降分離槽(タンク2)と、回収フェノールタンク(タンク3)のフェノール回収系に設置される温度計と電気導電率計を備えることで、簡易にフェノール濃度を測定することを特徴とする(1)記載のフェノールの回収方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、廃液をタンク1で不純物を沈降分離させて除去して後、30℃以下に冷却し、次いでタンク2でフェノールを沈降分離させて、フェノール濃度が向上した沈降液を、タンク3へ回収する場合、通常、フェノール濃度は70重量%前後と高いが、保管時においても温度条件が変動すると再び分離するため、フェノール濃度がばらつく。このときタンク2とタンク3の回収フェノール温度と、電気導電率を簡易且つ迅速に測定することで、フェノール濃度を把握することができ、安定したフェノール濃度の回収フェノールをプロセスで使用することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明のフェノールの回収方法は、例えば、樹脂状物を沈降分離させて除去する工程(タンク1)、30℃以下に冷却し沈降分離槽でフェノールを沈降分離させる工程(タンク2)、それらを回収し保管する工程(タンク3)、およびフェノール濃度を簡易に測定することを組み合わせる。タンク1及びタンク2の温度は低温である方が回収フェノールの濃度が高くなり、使用においては有効である。そのためタンク1では、空冷によりある程度温度を下げ、更にタンク2に移送する段階で2〜30℃温度を下げるのが好ましい。2℃以下の場合には、冷却の実質的効果が少なく装置費用が無駄に終わる可能性があり、30℃以上の場合には大量の冷却水等が必要になり、エネルギー経済的に非常に不利になってくる。更に好ましくは5〜15℃の温度差が生じるように冷却することが好ましい。これにより、エネルギー消費はあまり必要とせず、安定した濃度のフェノールを回収できるため、工業的利点が高い。冷却が十分であった場合では、タンク2とタンク3では水とフェノールの分離は起きないが、外気温等でタンク2とタンク3で水とフェノールの分離が生じることがある。そこで、タンク2とタンク3のフェノール濃度と、水とフェノールの分離状況を簡易に測定できる方法を見いだし、本発明を完成するにいたった。
【0010】
本発明は、図1に示す水−フェノール2成分系の相互溶解度曲線温度に着目したことで、可能となったものであり、2相に分かれた点Aの水が溶媒となった飽和フェノール溶液と、点Bのフェノールが溶媒となった飽和水溶液の、電気伝導率の違いに着目した。タンク1で処理した回収フェノールは、タンク2へ移送中、30℃以下の任意の温度にする。これにより分離された回収フェノールのフェノール濃度は70重量%前後になる。しかし外気温によりタンク2とタンク3の温度が変動すると、タンク3での保管時において再分離を起こし、フェノール濃度が均一にならない。そこで、タンク2とタンク3において、回収フェノールの温度と電気導電率を測定することで、フェノール濃度を把握することができる。また、これらの測定値をコンピュータにフィードバックすることで、自動的に既知濃度の回収フェノールのみ、回収、使用することが可能となった。
【0011】
次に本発明のフェノール回収装置について説明する。該フェノール回収装置はフェノール樹脂製造工程から排出される廃液を処理するタンク1と、熱交換器の後工程に位置するタンク2と、タンク3と、タンク2とタンク3のフェノール回収系に設置される温度計及び電気導電率計を備えるものである。
【0012】
原料となる廃液は、フェノール樹脂製造工程の例えば脱水、濃縮工程から排出される廃液であって、フェノールを、5〜30重量%含有する。またこの廃液にはモノマーの他に若干ポリマーを含んでもよい。
【0013】
本発明の実施の形態におけるフェノール回収装置を、図2を参照して説明する。本実施の形態におけるフェノール回収装置は、図2に示すように濃縮釜1におけるフェノール樹脂合成後、縮合水を除去するため脱水濃縮工程に入る。本工程で生じる蒸発ベーパーをコンデンサー2で凝縮させ、その凝縮液(廃液)を受液槽4へ送り、フェノール回収を行う。廃液は受液槽4からタンク1(7)へ50〜80℃の廃液が移送されるが、20Hr放置すると廃液中の樹脂状物が底部へ沈降してくる。そこでこれを除去する。
【0014】
次いで、廃液は熱交換器9を介して定量ポンプ8にてタンク2(10)へ移送される。タンク2(10)ではフェノールが分離除去された上澄液がオーバーフローし、回収フェノールは底部より抜き出されるが、タンク2(10)底部に設置された公知の電気導電率計11で電気導電率が測定され、コンピュータ13で演算処理して表示器12で電気導電率が表示される。また予めコンピュータ13に設定した電気導電率により、遮断バルブ14を自動で開閉することで一定電気導電率以上の回収フェノールのみ、つまり一定のフェノール濃度の回収フェノールのみ、タンク3(15)へ抜き出される。一方、タンク2(10)の上部からオーバーフローした上澄液は、タンク1(7)へ再度移送される。
【0015】
次いで、タンク3(15)に抜き出された回収フェノールは、プロセスで使用するまで保管されるが、温度条件が変動すると再び分離し、フェノール濃度がばらつくことになる。このため、タンク3(15)の底部に設置された電気導電率計16で電気導電率を測定し、コンピュータ18で演算処理して表示器17で電気導電率が表示され、またフェノール濃度異常警報装置によりプロセスで使用されないよう、送液ポンプ20の自動停止や、ブザー及びランプによる発報を行う。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、単に例示であって本発明を制限するものではない。
(実施例1)
前記実施の形態におけるフェノール回収装置6を使用して、次のような実験を行った。すなわち、フェノール樹脂製造工程から排出されるフェノール濃度5〜30重量%の廃液を、タンク1(7)へは50〜80℃の温度で移送されるが、20Hr放置すると廃液中の不溶樹脂状物が底部へ沈降してくる。そこでこれを除去する。次いで、廃液は熱交換器9を介して定量ポンプ8にてタンク2(10)へ移送される。
実施例では、熱交換器9の入口で、36℃出口で22℃であった。タンク2(10)はフェノールを沈降分離させるもので、槽断面積はフェノールの沈降速度により一定以上の値を有するものが必要である。本実施例では供給液300kg/hrに対し2mの断面積である。
【0017】
タンク2(10)ではフェノールが分離除去された上澄液がオーバーフローし、回収フェノールは底部より抜き出され、プロセスで使用するまでタンク3(15)に保管する。タンク3(15)ではフェノール濃度が70重量%前後になるが、保管時においても温度条件が変動し、冬場では約10℃まで低下する。そのため回収フェノールと水が再分離するが、タンク3(15)に設置した温度計と電気導電率計で測定すると、回収フェノールの温度が15℃となり、電気導電率は16.4μΩ/cmとなる。上部に分離した水の温度は15℃と同じあるが、電気導電率は1470μΩ/cmになり、水と回収フェノールの分離層が測定できる。
【0018】
図1は水−フェノール2成分系の相互溶解度曲線温度を示す図で、本発明で温度によりフェノール濃度を簡易に解るようにし、また電気導電率で飽和フェノール溶液と飽和水溶液の分離状態を解るようにしたものである。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】水−フェノール2成分系の相互溶解度曲線を示す図である。
【図2】本発明の実施形態における回収フェノール装置の概略図を示す。
【符号の説明】
【0020】
1 濃縮釜
2 コンデンサー
3 切替バルブ
4 受液槽
5 送液ポンプ
6 フェノール回収装置
7 第1沈降分離槽(タンク1)
8 定量ポンプ
9 熱交換器
10 第2沈降分離槽(タンク2)
11 電気導電率計
12 表示器
13 コンピュータ
14 遮断バルブ
15 回収フェノールタンク(タンク3)
16 電気導電率計
17 表示器
18 コンピュータ
19 フェノール濃度異常警報装置
20 送液ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノール樹脂製造工程から排出されるフェノール類含有廃液からフェノールを回収する方法において、該フェノール類含有廃液を第1沈降分離槽で樹脂状物を沈降分離させて除去した後、30℃以下に冷却し、次いで第2沈降分離槽で、第1沈降分離槽との温度差を2〜15℃にして、フェノールを沈降分離させてから回収フェノールタンクに保管し、樹脂製造プロセスへ使用することを特徴とするフェノールの回収方法。
【請求項2】
フェノール樹脂製造工程から排出されるフェノール類含有廃液を処理する第1沈降分離槽と、熱交換器の後工程に位置する第2沈降分離槽と、回収フェノールタンクのフェノール回収系に設置される温度計と電気導電率計を備えることで、簡易にフェノール濃度を測定することを特徴とする請求項1記載のフェノールの回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249373(P2009−249373A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−103468(P2008−103468)
【出願日】平成20年4月11日(2008.4.11)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】