説明

フェライトコアの磁気特性回復方法

【課題】電源用トランスやノイズ対策部品として用いられているフェライト系磁性材料が、高温で長時間保持された際に生じる磁気特性の劣化を、簡便な方法で確実に回復する方法を提案する。
【解決手段】主成分組成がFe:50〜85mol%、ZnO:0〜20mol%、CoO:0〜1mol%、NiO:0〜10mol%、残部MnOからなり、添加成分として、SiO:0.005〜0.05mass%、CaO:0.02〜0.2mass%を含有する劣化したフェライトコアを、そのコアのキュリー点以上の温度で5分〜4時間加熱することを特徴とするフェライトコアの磁気特性回復方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチング電源等の電源トランスやノイズ対策部品等に広く用いられているフェライト系磁性材料が、高温で長時間保持された場合に生じる磁気特性の劣化を回復する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フェライトと称される酸化物磁性材料は、Ba系フェライト、Sr系フェライトなどの硬質磁性材料と、Mn−Zn系フェライト、Ni−Zn系フェライトなどの軟質磁性材料とに分類されている。このうち、軟質磁性材料は、非常にわずかな磁場に対しても十分に磁化する特性を有するため、電源や通信機器、計測制御機器、コンピュータなど、多方面にわたって使用されている。さらに、軟磁性材料には、その他さまざまな要求に応じるため、保磁力が小さく初透磁率が高いこと、飽和磁束密度が大きいこと、磁気損失が低いことなど、多くの特性に優れることが求められている。
【0003】
なお、軟磁性材料には、上記フェライト系以外に、金属系の磁性材料がある。この金属系軟磁性材料は、飽和磁束密度が高いという特長を有している反面、電気抵抗が低いため、高周波帯域で使用する場合には、渦電流に起因する損失が大きくなり、低損失を維持することができなくなるという欠点がある。そのため、金属系磁性材料は、電子機器の小型化、高密度化にともなって、使用周波数帯域の高周波化が進む今日では、例えば、スイッチング電源等に用いられている100kHz程度以上の周波数帯域では、渦電流損による発熱が大きく、使用することはできない。このような背景から、100kHz程度以上の高周波帯域で用いられている電源トランスの磁心材料としては、現在のところ、酸化物系フェライト、中でもMn−Zn系フェライトが主に用いられている。
【0004】
しかしながら、このフェライト系の磁性材料、中でも基本成分としてFeを50mol%以上含むMn−Zn系フェライトは、高温で長時間保持すると、損失が増大したり、初透磁率が低下したりするといった磁気特性の劣化が生じることが知られている。この問題に対して、例えば、特許文献1には、100℃以上、特に、150℃近辺での高温下における飽和磁束密度が高く、かつ高温下における磁気特性の劣化、特に、コアロスの劣化が少なく、磁気的安定性に優れるフェライトコアを提供することを目的として、Feが56〜57mol%、ZnOが5〜10mol%、NiOが3〜6mol%、残部MnOからなるフェライトコアを製造する際の焼成を、1250℃以上の温度で、かつ、酸素濃度を0.05〜0.8%とした雰囲気中で行う技術が提案されている。
【特許文献1】特開2003−142328号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
確かに特許文献1には、200℃で2000時間保持した場合のコアロスの劣化率を50%以下に低減できることが開示されている。しかしながら、この技術は、損失が小さく初透磁率が高いというフェライト本来の特性をある程度犠牲にしたものであり、また、この技術でも、磁気特性の劣化を完全に防止できているわけではない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、電源用トランスやノイズ対策部品として用いられているフェライト系磁性材料が、高温で長時間保持された際に生じる磁気特性の劣化を、簡便な方法で確実に回復する方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者らは、種々の成分組成を有するフェライトコアを、高温で長時間保持することによって人工的に磁気特性の劣化を起こさせ、その磁気特性の劣化を回復する方法について鋭意検討を重ねた。その結果、そのコアが有するキュリー点以上の温度で短時間加熱保持する熱処理(回復処理)を施すことにより、磁気特性、特に損失や初透磁率を、フェライトコアの焼成直後の値までほぼ回復できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、主成分組成がFe:50〜85mol%、ZnO:0〜20mol%、CoO:0〜1mol%、NiO:0〜10mol%、残部MnOからなり、添加成分として、SiO:0.005〜0.05mass%、CaO:0.02〜0.2mass%を含有する磁気特性が劣化したフェライトコアを、そのコアのキュリー点以上の温度で5分〜4時間加熱することを特徴とするフェライトコアの磁気特性回復方法である。
【0009】
本発明における上記フェライトコアは、添加成分としてさらに、Ta:0.005〜0.1mass%、ZrO:0.01〜0.15mass%、Nb:0.005〜0.05mass%、V:0.001〜0.05mass%、HfO:0.005〜0.05mass%、Bi:0.003〜0.03mass%、MoO:0.003〜0.03mass%、TiO:0.01〜0.3mass%、SnO:0.01〜2.0mass%のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フェライトコアが、100℃以上の高温に長時間保持された場合に生じる磁気特性の劣化を、簡便な方法で確実に回復することができるので、電子部品中のフェライトコアを、廃却することなく再利用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明が対象とするフェライトコアを構成する主成分組成について説明する。
Fe:50〜75mol%
本発明が対象とするフェライトコアの主成分であるFeの組成範囲は、50〜75mol%の範囲とする。
フェライトの磁気損失を支配する因子としては、磁気異方性定数Kならびに飽和磁歪定数λが知られており、例えば、Mn−Zn系フェライトでは、主成分であるMnO,ZnOおよびFeの組成範囲は、これらのパラメータが最も小さくなるように成分設計されている。つまり、MnO−ZnO−Fe三元系フェライトにおいて、磁気損失が小さくなる組成領域とは、電源用トランスの動作温度(80℃以上)において、磁気異方性定数Kならびに飽和磁歪定数λがともに小さくなる領域である。また、ノイズ対策部品などのように、室温で高い初透磁率を必要とするフェライトコアも、同様な観点から成分設計がなされており、磁気損失を重視するフェライトと初透磁率を重視するフェライトの相違は、それらの特性がどの温度範囲で最も良好かという点に過ぎない。
【0012】
上記のような観点から、MnO−ZnO−Fe三元系フェライトが、80〜100℃の温度範囲で最も良好な磁気損失を示すFeの組成範囲は、52〜54mol%の付近である。また、電源用トランスには、飽和磁束密度が高いことが求められるため、このために、Feを60mol%以上に増やす成分設計がなされることもある。しかし、Feが75mol%を超えると、損失が最小となる温度が高くなって、100℃付近における損失が増大するため、Feの上限は75mol%とする。一方、Feが50mol%未満の組成を有するフェライトでは、高温保持による特性劣化はほとんど生じない。よって、本発明のフェライトでは、Feの組成範囲は50〜75mol%の範囲とする。磁気損失をより低減するという観点からは、好ましくは、52〜62mol%の範囲である。
【0013】
ZnO:0〜20mol%
上述したように、損失や初透磁率が良好となるためには、磁気異方性や磁歪定数が小さいことが好ましく、MnO−ZnO−Fe三元系において、この条件を満たすZnOの組成範囲は10〜20mol%である。しかし、飽和磁束密度を高めるためには、ZnOはより少ない方が好ましく、また、1MHz以上の高周波帯域における損失を低減するためには、さらに、ZnO量を減じることが好ましく、場合によっては、ZnOを全く含まない組成範囲を選択することもあり得る。一方、室温で高い初透磁率を実現するためには、ZnOが多い方が好ましい。そこで、本発明のフェライトでは、ZnOの組成範囲は0〜20mol%とする。低磁気損失、高初透磁率を実現する観点からは、好ましくは6〜20mol%の範囲である。
【0014】
CoO:0〜1mol%
CoOは、損失や初透磁率の温度変化を小さくする目的で添加される主成分である。ただし、含有量が多すぎると、磁気異方性が大きくなり、損失を著しく増大したり、初透磁率を低下したりするので、1mol%以下とする。なお、CoOは、原料コストを削減するため、添加しない場合もあるので、下限は0mol%とする。
【0015】
NiO:0〜10mol%
NiOは、高温、例えば100℃における飽和磁束密度を大きくする効果があり、また500kHz以上の高周波帯域での損失を低減する効果があるため、10mol%を上限として主成分に加えられる。なお、NiOは、原料コストを削減するため、添加しない場合もあるので、下限は0mol%とする。
【0016】
本発明が対象とするフェライトは、上記以外の主成分の残部はMnOからなるが、さらに、添加成分として、SiO、CaOを下記の範囲で含有する。
SiO:0.005〜0.05mass%
SiOは、焼結を促進する効果があり、この効果を得るために、0.005mass%以上添加する。一方、過剰に添加すると、異常粒成長を起こし易くなるため、上限は0.05mass%とする。
【0017】
CaO:0.02〜0.2mass%
CaOは、SiOとともに、粒界を高抵抗化して、磁気損失を低減する効果を有する。この効果を得るためには、0.02mass%以上添加する必要がある。一方、0.2mass%を超えると、焼結性を害するようになるため、CaOの上限は0.2mass%とする。
【0018】
本発明が対象とするフェライトは、各種特性の向上を目的として、上記主成分、添加成分の他にさらに、Ta、ZrO、Nb、V、HfO、Bi、MoO、TiOおよびSnOのうちから選ばれる1種または2種以上を下記の範囲で添加することができる。
Taは、SiO,CaOの共存下で比抵抗の増加に有効に寄与するが、含有量が0.005mass%未満では、その効果に乏しく、一方、0.1mass%を超えると、逆に磁気損失の増加を招く。よって、Taは0.005〜0.1mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0019】
ZrOは、SiO,CaO,Taの共存下で、粒界の比抵抗を高めて高周波帯域での磁気特性の低減に有効に寄与する成分である。Taと比較して、抵抗増加の効果は小さいが、損失低減の効果が大きく、特に、磁気損失が最小となる温度付近から高温側における損失低減に効果がある。含有量が0.01mass%未満では、その効果に乏しく、一方、0.15mass%を超えると、逆に磁気損失の増加を招く。よって、ZrOは0.01〜0.15mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0020】
Nbは、SiO,CaOと粒界相を形成し、粒界抵抗を高めて磁気損失を低減するのに寄与するが、含有量が0.005mass%未満では、その効果に乏しく、一方、0.05mass%を超えると、逆に磁気損失の増加を招く。よって、Nbは0.005〜0.05mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0021】
、HfOは、ともに異常粒成長を抑制し、粒界抵抗を高める働きがある。その効果は、添加量が少なすぎると改善効果が小さく、また、多過ぎると磁気損失が増大するため、それぞれ、V:0.001〜0.05mass%、HfO:0.005〜0.05mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0022】
Bi、MoOは、結晶粒内の応力を緩和する働きがあり、磁気損失の低減に寄与する。その効果は、添加量が少なすぎると改善効果が小さく、また、多過ぎると磁気損失が増大するため、それぞれ、Bi:0.003〜0.03mass%、MoO:0.003〜0.03mass%の範囲で添加するのが好ましい。
【0023】
TiOは、粒界にも一部存在し、焼成後の冷却過程で粒界再酸化を助長することにより、磁気損失を低下する効果がある。その効果は、0.01mass%以上の添加で得られるが、逆に多過ぎると、異常粒成長を引き起こすため、0.3mass%を上限とするのが好ましい。一方、SnOは、0.01mass%以上添加することで、損失低減に有効に寄与する。しかし、TiOほどの異常粒成長を起こさないため、2.0mass%まで添加することができる。
【0024】
次に、本発明が対象とするフェライトコアの磁気特性の劣化について説明する。
上記成分組成を有するフェライトコアは、通常、80〜100℃で使用されるが、周囲の部品の発熱等により、100〜150℃まで昇温することがある。100℃以上の温度で長時間保持した場合、具体的には、100時間から10000時間保持した場合には、損失が増大すると共に初透磁率が低下して、BHカーブの形が「へび型」を呈するようになる。このような磁気特性の劣化は、損失が最小となる温度以上の温度あるいは初透磁率がピークを示す温度以上で顕著となる。すなわち、磁気異方性定数Kがゼロとなる温度以上の温度で生じる。そして、その劣化の度合いは、保持する温度が高いほど、また、保持する時間が長いほど大きくなるという傾向がある。
【0025】
発明者らは、このような磁気特性の劣化について、さらに検討を重ねた。その結果、上記磁気特性の劣化は、そのフェライトコアが有するキュリー点以上の温度で保持した場合には起こらないことを見出した。なお、キュリー点(温度)は、フェライトの成分組成によって異なり、ZnO量が多く、Feの少ないほど低くなる傾向にある。劣化は、保持温度が高い場合は短時間で進み、逆に、保持温度が低い場合は長時間を経た後に初めて劣化の兆候が現れる。この磁気特性の劣化が起こる原因は、まだ十分に明らかとなっていないが、フェライトの主相であるスピネル化合物を構成する各イオンの価数や占有する結晶学的位置が長時間のうちに変化し、磁区構造が変化するためと考えている。
【0026】
さらに、発明者らは、上記磁気特性の劣化は、キュリー温度以上の温度で、数分から数時間の熱処理(回復処理)を施すことにより、損失、初透磁率の値がともに劣化する前の値、すなわちフェライトコアを焼成した直後の値まで回復することを見出した。因みに、後述する損失劣化率が2%程度まで回復するのに要する処理時間は、(キュリー温度〜キュリー温度+5℃)程度の温度では約4時間、キュリー温度より30℃程度高い温度では約15分である。この回復処理は、短時間であるため、大気中で行っても、その効果に特に悪影響はない。磁気特性が回復する機構は、現時点ではまた明確とはなっていないが、高温長時間の保持で変化した磁区構造が、磁気的相互作用、とくに超交換相互作用が働かない温度範囲で、熱擾乱の作用を受けることによって、焼成直後の状態に戻ったものと推測している。
【実施例1】
【0027】
焼成後のフェライトの主成分組成、即ち、最終成分組成が、Fe:53.4mol%、ZnO:8.8mol%、MnO:37.8mol%となるように、それぞれの原料酸化物を秤量して配合し、ボールミルを用いて湿式混合し、乾燥し、その後、この混合粉を大気雰囲気下で940℃×3時間の仮焼を行ない仮焼粉とした。この仮焼粉に対して、SiO、CaCO、Ta、NbおよびZrOを、それぞれSiO:0.0075mass%、CaCO:0.11mass%、Ta:0.012mass%、Nb:0.006mass%およびZrO:0.01mass%となるよう添加し、再度、ボールミルを用いて湿式混合し、粉砕し、乾燥して粉末とし、この粉末に、バインダーとして、ポリビニルアルコール5mass%水溶液を10mass%加えて造粒した。次いで、この造粒した粉末を用いて、外径:30mm、内径:18mm、高さ:12mmのリング状の成形体を成形し、この成形体を、酸素分圧を5vol%に制御した窒素+空気混合雰囲気中で、1320℃×3時間の焼成を施し、焼結体試料(フェライトコア)とした。
【0028】
このようにして得たフェライトコアの各々に、1次側5巻、2次側5巻の巻線を施し、交流BHトレーサーを用いて、周波数:100kHzで最大磁束密度:200mTの条件下で、40〜120℃の温度範囲における損失を測定した。続いて、同じフェライトコアに、10巻の巻線を施し、0.5Aの電流を流した時の0〜150℃における初透磁率を測定した。
さらに、これらのフェライトコアを、150℃、180℃、200℃、220℃、250℃の各温度に保持した大気雰囲気の恒温槽中に100時間〜10000時間保持し、その後、上記と同様の条件で、損失と初透磁率の変化を調べた。
因みに、このフェライトコアのキュリー点(温度)を測定したところ、250℃であった。
【0029】
図1および図2は、200℃×1000時間保持する前後の損失と初透磁率の温度依存性を示したものである。これから、高温保持したことにより、損失、初透磁率、共に劣化していることがわかる。
【0030】
そこでさらに、高温保持したことによる損失劣化率を、下記(1)式;
損失劣化率(%)=100×(P−P)/P ・・・(1)
ここで、P:高温保持前の100℃における損失
:高温保持後の100℃における損失
で定義し、それぞれの保持温度における損失劣化率の経時変化を調べた。
また、同様に、初透磁率劣化率を、下記(2)式;
初透磁率劣化率(%)=100×(μ−μ)/μ ・・・(2)
ここで、μ:高温保持前の100℃における初透磁率
μ:高温保持後の100℃における初透磁率
【0031】
図3は、上記損失劣化率の経時変化を、横軸に時間の対数をとって示したものである。この結果から、保持温度がキュリー温度(250℃)以下の場合には、損失劣化率は、保持時間の対数にほぼ比例して増大し、また保持温度が高いほど短時間で損失劣化率が増大しているが、保持温度がキュリー温度の場合には、損失の劣化はほとんど認められないことがわかる。
【0032】
また、図4は、初透磁率劣化率の経時変化を示したものである。図3と比べると明らかなように、損失劣化率と同様の経時変化を示している。
【0033】
次に、上記の試験の結果で、200℃×1000時間保持後の損失劣化率が29%であったフェライトコアを複数個準備し、230℃、260℃、280℃の各温度で15分〜6時間加熱する回復処理を施してから、上記と同様の条件で損失を測定し、回復処理後の100℃における損失を(1)式のPとして、損失劣化率の変化を調べた。
【0034】
結果を、図5に示した。図5から、フェライトコアのキュリー温度(250℃)以上の温度で回復処理した場合には、高温であるほど短時間で、損失劣化率が低下している、即ち、損失が回復していることがわかる。例えば、260℃の熱処理では約4時間、さらに高い280℃では約1時間以内で、ほぼ損失劣化率が2%以下まで回復している。これに対して、230℃の温度では、6時間の回復処理でも、損失劣化率の低下は小さく、初期の損失まで回復していない。
【0035】
同様に、200℃×1000時間保持後の初透磁率劣化率が31%であったフェライトコアを複数個準備し、上記と同様の条件で回復処理を施してから初透磁率を測定し、回復処理後の100℃における初透磁率を(2)式のμとして、初透磁率劣化率の変化を調べた、この結果を図6に示した。やはり、損失劣化率と同様の傾向を示している。
【実施例2】
【0036】
焼成後のフェライト主成分の最終組成が、表1の試料No.1〜4となるように、それぞれの原料酸化物を秤量して配合し、実施例1と同様にして仮焼粉とし、この仮焼粉に対して、SiO、CaCO、VおよびNbを、それぞれSiO:0.008mass%、CaCO:0.13mass%、V:0.02mass%、Nb:0.01mass%となるよう添加し、再度、ボールミルを用いて湿式混合し、粉砕し、乾燥して粉末とした。その後、実施例1と同様にして、成形体を成形し、酸素分圧を4vol%に制御した窒素+空気混合雰囲気中で、1340℃×2時間の焼成を施し、焼結体試料(フェライトコア)とした。
【0037】
このフェライトコアについて、実施例1と同様にして、損失ならびに初透磁率の温度特性を測定した。その後、150℃に維持した恒温槽で2000時間保持し、保持後の損失を測定し、損失劣化率を求めた。さらに、高温保持後のフェライトコアに対して、同じく表1に示した回復処理を、大気雰囲気中で施し、実施例1と同様にして、回復処理後の損失劣化率の変化を調べた。
【実施例3】
【0038】
焼成後のフェライト主成分の最終組成が、表1の試料No.5〜7となるように、それぞれの原料酸化物を秤量して配合し、実施例1と同様にして仮焼粉とし、この仮焼粉に対して、SiO、CaCOを、それぞれSiO:0.006mass%、CaCO:0.15mass%となるよう添加し、再度、ボールミルを用いて湿式混合し、粉砕し、乾燥して粉末とした。その後、実施例1と同様にして、成形体を成形し、酸素分圧を5vol%に制御した窒素+空気混合雰囲気中で、1320℃×2時間の焼成を施し、焼結体試料(フェライトコア)とした。
【0039】
このフェライトコアについて、実施例1と同様にして、損失ならびに初透磁率の温度特性を測定した。その後、180℃に維持した恒温槽で2000時間保持し、保持後の損失を測定し、損失劣化率を求めた。さらに、高温保持後のフェライトコアに対して、同じく表1に示した回復処理を、大気雰囲気中で施し、実施例1と同様にして、回復処理後の損失劣化率の変化を調べた。
【実施例4】
【0040】
焼成後のフェライト主成分の最終組成が、表1の試料No.8〜14となるように、それぞれの原料酸化物を秤量して配合し、実施例1と同様にして仮焼粉とし、この仮焼粉に対して、SiO、CaCOおよびNbを、それぞれSiO:0.0075mass%、CaCO:0.135mass%、Nb:0.02mass%となるよう添加し、再度、ボールミルを用いて湿式混合し、粉砕し、乾燥して粉末とした。その後、実施例1と同様にして、成形体を成形し、酸素分圧を5vol%に制御した窒素+空気混合雰囲気中で、1370℃×2時間の焼成を施し、焼結体試料(フェライトコア)とした。
【0041】
このフェライトコアについて、実施例1と同様にして、損失ならびに初透磁率の温度特性を測定した。その後、250℃に維持した恒温槽で1000時間保持し、保持後の損失を測定し、損失劣化率を求めた。さらに、高温保持後のフェライトコアに対して、同じく表1に示した回復処理を、窒素雰囲気中で施し、実施例1と同様にして、回復処理後の損失劣化率の変化を調べた。
【実施例5】
【0042】
焼成後のフェライト主成分の最終組成が、表1の試料No.15〜16となるように、それぞれの原料酸化物を秤量して配合し、実施例1と同様にして仮焼粉とし、この仮焼粉に対して、SiO、CaCO、NbおよびBiを、それぞれSiO:0.0075mass%、CaCO:0.03mass%、Nb:0.02mass%、Bi:0.02mass%となるよう添加し、再度、ボールミルを用いて湿式混合し、粉砕し、乾燥して粉末とした。その後、実施例1と同様にして、成形体を成形し、酸素分圧を5vol%に制御した窒素+空気混合雰囲気中で、1360℃×2時間の焼成を施し、焼結体試料(フェライトコア)とした。
【0043】
このフェライトコアについて、実施例1と同様にして、損失ならびに初透磁率の温度特性を測定した。その後、100℃に維持した恒温槽で2000時間保持し、保持後の損失を測定し、損失劣化率を求めた。さらに、高温保持後のフェライトコアに対して、同じく表1に示した回復処理を、窒素雰囲気中で施し、実施例1と同様にして、回復処理後の損失劣化率の変化を調べた。
【0044】
上記実施例2〜5の結果を、表1中に併記して示した。この結果から、Feが50mol%以上のフェライトコアは、100℃以上の温度に保持することにより、磁気損失が大きく劣化するが、キュリー温度以上の温度で短時間保持する回復処理を施すことにより、いずれも損失劣化率が2%以下まで低下し、フェライト焼成直後に近い損失まで回復していることがわかる。一方、Feが50mol%未満のフェライトコア(試料No.16)では、磁気特性の劣化は認められない。
【実施例6】
【0045】
実施例4で作成したコアのうち、表1の8〜10の組成のコアについて、同様に、250℃で1000時間、大気中で保持して損失の劣化率を調べた。これらのコアをさらに、窒素雰囲気中で、250℃×1時間の回復処理を施し、損失劣化率の変化を調べた。結果を、表1に併記して示した。これから、キュリー温度以下の温度で回復処理したものは、さらに劣化率が増加することがわかる。
【0046】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】フェライトコアの損失の温度特性を200℃×1000時間保持前後で比較して示したグラフである。
【図2】フェライトコアの初透磁率の温度特性を200℃×1000時間保持前後で比較して示したグラフである。
【図3】フェライトコアを高温で保持したときの損失劣化率の経時変化を示したグラフである。
【図4】フェライトコアを高温で保持したときの初透磁率劣化率の経時変化を示したグラフである。
【図5】劣化したフェライトコアの損失の回復に及ぼす処理温度の影響を示したグラフである。
【図6】劣化したフェライトコアの初透磁率の回復に及ぼす処理温度の影響を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分組成がFe:50〜85mol%、ZnO:0〜20mol%、CoO:0〜1mol%、NiO:0〜10mol%、残部MnOからなり、添加成分として、SiO:0.005〜0.05mass%、CaO:0.02〜0.2mass%を含有する磁気特性が劣化したフェライトコアを、そのコアのキュリー点以上の温度で5分〜4時間加熱することを特徴とするフェライトコアの磁気特性回復方法。
【請求項2】
上記フェライトコアは、添加成分としてさらに、
Ta:0.005〜0.1mass%、
ZrO:0.01〜0.15mass%、
Nb:0.005〜0.05mass%、
:0.001〜0.05mass%、
HfO2:0.005〜0.05mass%、
Bi:0.003〜0.03mass%、
MoO:0.003〜0.03mass%、
TiO:0.01〜0.3mass%、
SnO:0.01〜2.0mass%
のうちから選ばれる1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載のフェライトコアの磁気特性回復方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−150006(P2007−150006A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343133(P2005−343133)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(501349181)JFEフェライト株式会社 (17)
【Fターム(参考)】