説明

フェライト焼結体およびこれを備えるノイズフィルタ

【課題】 透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率の絶対値が小さいフェライト焼結体およびこれを備えるノイズフィルタを提供する。
【解決手段】 Fe,Zn,Ni,Cuを含有し、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下、ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下、NiをNiO換算で14モル%以上16モル%以下、CuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量部に対し、TiをTiO換算で0.05質量%以上0.15質量%以下含有
し、Fe−Zn−Ni−Cu結晶の粒界に前記Tiを含む化合物が分散して存在しているフェライト焼結体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト焼結体およびこのフェライト焼結体に金属線を巻きつけてなるノイズフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
インダクタ,変圧器,安定器,電磁石,ノイズフィルタ等のコアとして、Fe,Zn,NiおよびCuを含有するフェライト焼結体が広く使用されている。
【0003】
特に近年、電気自動車やハイブリッドカーなどの複雑な制御系を有する車の登場により、車に搭載される制御装置などに組み込まれる電気回路は複雑なものとなっており、電気回路が複雑になるのに伴い、電気回路から発せられるノイズが増加して回路上の電子部品に悪影響を及ぼすのを防ぐため、電気回路にはノイズ除去用として、Fe,Zn,NiおよびCuを含有するフェライト焼結体をコアとしたノイズフィルタが多数使用されるようになっている。
【0004】
このような車載用ノイズフィルタのコアに使用されるFe,Zn,NiおよびCuを含有するフェライト焼結体として、例えば特許文献1には、モル%でFe47〜50%,NiO14〜20%,ZnO26〜33%,CuO4〜7%,MnO0〜1.0%(ただし、0を含
まず。),TiO0〜2.0%,MgO0〜2.0%(ただし、TiO,MgOがともに0の場合を除く。)の組成範囲からなる高抵抗率で低損失のフェライト焼結体が提案されている。
【0005】
また、特許文献2には、Fe,Ni,Zn,CuをFe換算で48〜51モル%,ZnO換算で15モル%以上30モル%未満,NiO換算で7〜35モル%,CuO換算で2〜7モル%それぞれ含有する主成分100重量部に対し、TiをTiO換算で0.16〜1.0重量部含有したフェライト焼結体が提案されている。
【0006】
また、特許文献3には、主組成としてFeが49.0mol%〜50.0mol%,NiOが10.0mol%〜15.0mol%,CuOが5.0mol%〜8.0mol%,残部がZnOであるフェライト焼結体において、副成分としてTiをTiO換算で0.1重量%以下(0
を含まず)を含有するフェライト焼結体が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭64−53509号公報
【特許文献2】特開2004−269316号公報
【特許文献3】特開2002−321971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1〜3で提案されたフェライト焼結体は、透磁率やキュリー温度等に優れたものであるものの、今般更なる特性向上が要求されており、高い透磁率および高いキュリー温度を有するとともに、透磁率の温度変化率を小さくしなければならないという課題があった。
【0009】
本発明は、上記課題を解決すべく案出されたものであり、透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率の絶対値が小さいフェライト焼結体およびこれを備えるノイズ
フィルタを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のフェライト焼結体は、Fe,Zn,NiおよびCuを含有し、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上16モル%以下,CuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下それぞれ含有するフェライト焼結体であって、前記含有物の合計100質量部に対し、
TiをTiO換算で0.01質量%以上0.15質量%以下含有し、Fe−Zn−Ni−Cu結晶の粒界に前記Tiを含む化合物が分散して存在していることを特徴とするものである。
【0011】
また、本発明のノイズフィルタは、上記構成のフェライト焼結体に金属線を巻きつけてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフェライト焼結体によれば、Fe,Zn,NiおよびCuを含有し、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上16モル%以下,CuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下それぞれ含有するフェライト焼結体であって、前記含有物の合計100質量部に
対し、TiをTiO換算で0.01質量%以上0.15質量%以下含有し、Fe−Zn−Ni−Cu結晶の粒界にTiを含む化合物が分散して存在していることにより、透磁率が1300以上であり、キュリー温度が160℃以上であり、透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下
に抑えることができるので、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタのコアとすることができる。
【0013】
また、本発明のノイズフィルタによれば、上記構成のフェライト焼結体に金属線を巻きつけてなることにより、コアとなるフェライト焼結体の透磁率およびキュリー温度が高く、透磁率の温度変化率が小さいので、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本実施形態のフェライト焼結体の一例を示す、(a)はトロイダルコアの斜視図であり、(b)はボビンコアの斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本実施形態のフェライト焼結体およびこれを備えるノイズフィルタの実施の形態の例について説明する。
【0016】
本実施形態のフェライト焼結体は、このフェライト焼結体をコアとして金属線を巻きつけることによって回路のノイズ除去に用いるノイズフィルタとなり、DC−DCコンバータや各種電源のトランス等に好適に使用されるものである。
【0017】
このようなノイズフィルタのコアとなるフェライト焼結体は、様々な形状のものがあり、例えば、図1(a)の斜視図に示すリング状のトロイダルコア10、図1(b)の斜視図に示すボビン状のボビンコア20がある。
【0018】
そして、フェライト焼結体には、透磁率(μ)およびキュリー温度(Tc)が高く、透磁率の温度変化率が小さいことが求められる。ここで、透磁率とは、LCRメータを用いて周波数100kHzの条件で試料を測定した測定値であり、試料としては、例えば、外径
が13mm,内径が7mm,厚みが3mmの図1(a)に示すフェライト焼結体からなるリング状のトロイダルコア10を用いて、トロイダルコア10の巻き線部10aの全周にわたって
線径が0.2mmの被膜導線を10回巻きつけたものを用いる。
【0019】
また、透磁率の温度変化率は、同様の試料を用いて、恒温槽内の測定治具に接続する。なお、測定治具はLCRメータに接続されており、100kHzの周波数で測定し、25℃で
の透磁率をμ25、25℃から−40℃まで降温したときにおける最も低い透磁率をμ−40、25℃から150℃まで昇温したときにおける最も高い透磁率をμ150とし、低温部側の
透磁率の温度変化率X−40〜25を(μ−40−μ25)/μ25×100の計算式で、
高温部側の透磁率の温度変化率X25〜150を(μ150−μ25)/μ25×100の
計算式で求めることができる。さらに、キュリー温度は、同様の試料を用いて、LCRメータを用いたブリッジ回路法により求めることができる。
【0020】
そして、このようなノイズフィルタのコアとなる本実施形態のフェライト焼結体は、Fe,Zn,NiおよびCuを含有し、Fe,Zn,NiおよびCuを、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下,ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下,NiをNiO換算で14モル%以上16モル%以下,CuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量部に対し、TiをTiO換算で0.01質量%以上0.15質量%以下含有し、Fe−Zn−Ni−Cu結晶(以下、主結晶という。)の粒界にT
iを含む化合物が分散して存在していることを特徴としている。
【0021】
ここで、主成分の組成を上述した範囲としたのは、電気抵抗が大きく、透磁率およびキュリー温度の高いフェライト焼結体を得ることができるからである。これに対し、FeがFe換算で48モル%未満では、透磁率が低くなる傾向があり、51モル%を超えると電気抵抗値の低下が生じる。また、ZnがZnO換算で29モル%未満では、透磁率が低くなる傾向があり、31モル%を超えるとキュリー温度が低下する傾向がある。
【0022】
また、NiがNiO換算で14モル%未満では、キュリー温度が低下する傾向があり、17モル%を超えると透磁率が低くなる傾向がある。また、CuがCuO換算で5モル%未満では透磁率が低くなる傾向があり、7モル%を超えるとキュリー温度が低くなる傾向がある。
【0023】
そして、主成分の組成が上述した範囲であることにより、透磁率が1300以上であり、キュリー温度が160℃以上のフェライト焼結体とすることができる。
【0024】
また、本実施形態において、主成分100質量部に対し、TiをTiO換算で0.01質量
%以上0.15質量%以下含有し、主結晶の粒界にTiを含む化合物が分散して存在していることにより、透磁率を高めることができるとともに、透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下に抑えることができる。また、Tiを含む化合物が、主結晶の粒界に分散して存在していることにより、ピンニング効果で主結晶の粒成長が抑制されるので、フェライト焼結体の強度を高めることができる。
【0025】
ここで、本実施形態における分散とは、波長分散型X線マイクロアナライザ装置(日本電子製JXA−8100)を用いて、フェライト焼結体の任意の表面のTi元素のマッピング画像の50μm×50μmの観察領域において、主結晶の粒界に相当するところに3箇所以上のTi元素が確認される状態をいう。
【0026】
なお、TiをTiO換算での含有量が主成分100質量部に対して0.01質量%未満では
、透磁率を高める効果が少なく、透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下の範囲内とすることができない。また、TiをTiO換算での含有量が主成分100質量部に対して0.15質量%を超えると、キュリー温度が低下するとともに、主結晶の粒界の一部にTi成分
の凝集した化合物が存在し易くなり、透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下の範囲内
とすることができない。
【0027】
また、本実施形態のフェライト焼結体は、主結晶の粒界に存在するTi元素のカウント数αと、主結晶中に存在するTi元素のカウント数βとの比率β/αが0.5以上3.0以下であることが好ましい。この比率β/αの値が0.5以上3.0以下の範囲内であるときには、フェライト焼結体の体積抵抗率を上げることができ、フェライト焼結体に金属線を巻きつけてノイズフィルタとして用いたときに、生じた渦電流でフェライト焼結体が発熱することによる渦電流損失を低減することができる。
【0028】
なお、主結晶の粒界に存在するTi元素のカウント数αと、主結晶中に存在するTi元素のカウント数βとの比率β/αは次のように算出する。まず、測定する試料を機械加工により複数に細かく切断し、切断された試料表面を機械研磨し、その表面をイオンミリング装置(Technoorg Linda社製IV3)により加工する。そして、透過電子顕微鏡(JEOL製 JEM2010F)を用いて、加工後の試料表面をTEM分析にて、倍率5000〜10万倍、加速電圧200kVの条件下で観察する。そして、特定の観察視野において、複数の粒界部分と複数
の主結晶部分を、エネルギー分散型X線分光分析装置(サーモエレクトロン製 NSS)に
より、スポット径1nm、測定時間50secおよび測定エネルギー幅0.14〜20.48keV
の条件で測定し、得られたチャート(縦軸:元素カウント、横軸:測定エネルギー幅)から、それぞれの測定箇所のTi元素のカウント数を得る。その後、複数の粒界部分におけるTi元素のカウント数の平均値をα、複数の主結晶部分におけるTi元素のカウント数の平均値をβとし、比率β/αを算出すればよい。
【0029】
また、本実施形態のフェライト焼結体は、CaまたはSiのうち少なくともいずれかの酸化物を含み、CaO,SiO換算での含有量の合計が前記主成分100質量部に対し、0.01質量%以上0.2質量%以下であることが好ましい。上述した範囲を満足するものであるときには、フェライト焼結体の体積抵抗率を上げることができる。なお、Caの酸化物とSiの酸化物においては、Siの酸化物の方がフェライト焼結体の体積抵抗率を上げることができる。
【0030】
また、本実施形態のフェライト焼結体は、Mnの酸化物を含み、MnO換算での含有量が0.05質量%以上0.3質量%以下であることが好ましい。Mnの酸化物を含み、MnO
換算での含有量が0.05質量%以上0.3質量%以下であるときには、透磁率を高めること
ができる。この理由は明らかではないが、上述した量のMnの酸化物を含むことで、Feの酸化物の3価から2価への価数変化によって結晶磁気異方性定数が減少することによると考えられる。
【0031】
また、本実施形態のフェライト焼結体は、Zrの酸化物を含み、ZrO換算での含有量が0.15質量%以下(但し、0質量%を含まず。)であることが好ましい。Zrの酸化物は電気絶縁性が高いので、フェライト焼結体の体積抵抗率を上げることができる。
【0032】
また、本実施形態のフェライト焼結体は、平均結晶粒径(D50)が10μm以下であることが好ましい。これにより、透磁率が高く、透磁率の温度変化率が小さいことに加え、優れた機械的特性を有するフェライト焼結体とすることができる。なお、平均結晶粒径は、周知のプラニメトリック法にて測定して得られる値である。すなわち、まず、試料表面をSEMにより倍率1000倍にて写真撮影する。次に得られた写真上で面積が既知の円を描き、円内の粒子数および円周にかかる粒子数をカウントして、以下のように平均結晶粒径を算出する。
【0033】
Aを円の面積、Ncを円内の粒子数、Njを円周にかかった粒子数、Mを倍率としたとき、単位面積当たりの粒子数Ngは、(Nc+(1/2)×Nj)/(A/M)で表さ
れるため、円の面積A、円内の粒子数Nc、円周にかかった粒子数Nj、および倍率Mを得ることにより、単位面積当たりの粒子数Ngを得ることができる。
【0034】
また、1個の粒子の占める面積は、1/Ngで表されるため、単位面積当たりの粒子数Ngを得ることにより、1個の粒子の占める面積を求めることができる。ここで、1/√(Ng)が平均結晶粒径に相当するため、単位面積当たりの粒子数Ngを得ることにより、平均結晶粒径を求めることができる。
【0035】
そして、本実施形態のフェライト焼結体は、透磁率が1300以上であり、キュリー温度が160℃以上であり、透磁率の温度変化率が−40%以上40%以下の特性を有していることか
ら、金属線を巻きつけてノイズフィルタとして用いた場合に、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタとすることができる。
【0036】
また、本実施形態のフェライト材料は上記成分以外のものとして、例えば、S,Cr等をいずれも0.05質量%以下の範囲で含んでもよい。
【0037】
次に本実施形態のフェライト焼結体の製造方法について以下に詳細を示す。
【0038】
本実施形態のフェライト材料の製造方法は、まず、主成分となる平均粒径が0.5〜1μ
mのFe,Zn,Niの酸化物、平均粒径が1〜3μmのCuの酸化物あるいは焼成によりこれらの酸化物を生成する炭酸塩,硝酸塩等の金属塩を用い、これらを所望のモル比となるように主成分の各原料を秤量し、ボールミルや振動ミル等で粉砕混合した後、700℃
以上750℃以下の温度で2時間以上仮焼して仮焼体を得る。このように、700℃以上750℃
以下の温度で2時間以上仮焼して得られた仮焼体は粉砕し易いので、粉砕後に均質な仮焼粉体を得ることができ、仮焼粉体に添加するTi成分を凝集することなく分散させることができる。なお、仮焼温度が700℃未満ではフェライト材料としての合成が不十分となり
、750℃を超えると合成後の仮焼体の硬度が増し均質に粉砕することが困難となる。
【0039】
次に、平均粒径が0.5〜1μmのTiの酸化物あるいは焼成によりTiの酸化物を生成
する炭酸塩、硝酸塩等の金属塩を用い、仮焼粉体100質量部に対して0.01質量%以上0.15
質量%以下の範囲内となるように加え、ボールミルや振動ミル等で混合した後、さらに所定量のバインダを加えてスラリーとし、噴霧造粒装置(スプレードライヤ)を用いて造粒した球状顆粒を得る。次に、この球状顆粒を用いてプレス成形して所定形状の成形体を得る。なお、Ti成分を仮焼前に添加したときには、Ti成分が主結晶に固溶し易く、1300以上の透磁率を得ることが困難となる。
【0040】
また、渦電流損失を低減したい場合には、仮焼粉体に所定量のCaOおよびSiOのうち少なくとも一方を添加すれば良い。また、より高い透磁率を得たい場合には、仮焼粉体に所定量のMnOを添加すれば良い。また、仮焼粉体に所定量のZrOを添加することによっても渦電流損失を低減することができる。
【0041】
その後、成形体を脱脂炉にて400〜800℃の範囲で脱バインダ処理を施して脱脂体とした後、これを焼成炉にて1000〜1200℃の最高温度で2〜5時間保持して焼成することにより本実施形態のフェライト焼結体を得る。このとき焼成工程において、最高温度までの昇温速度を100℃/h以上300℃/h以下とすることにより、主結晶の粒界に存在するTi元素のカウント数αと、主結晶中に存在するTi元素のカウント数βとの比率β/αの値を0.5以上3.0以下の範囲内とすることができる。
【0042】
以下、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるもので
はない。
【実施例1】
【0043】
主成分が表1に示すモル比となるフェライト焼結体を製造し、Tiを含む化合物の分散性の確認、透磁率やキュリー温度の測定、透磁率の温度変化率の算出を行なった。
【0044】
まず、主成分としてFe,ZnO,NiO,CuO粉末を表1に示したモル比となるように秤量し、ボールミルで粉砕混合した後、表1に示す温度で仮焼して仮焼体を得た。そして、仮焼体を粉砕して仮焼粉体を得た。次に、仮焼粉体100質量部に対して、表
1に示す量のTiOを添加し振動ミルにて粉砕した後、バインダを加えてスラリーとし、噴霧造粒装置(スプレードライヤ)にて造粒して球状顆粒を得た。そして、この球状顆粒を用いプレス成形法により圧縮成形して、図1に示すトロイダルコア1の形状の成形体を得た。
【0045】
次に、この成形体を脱脂炉にて昇温速度75℃/時間で600℃に昇温した後、5時間保持
して脱バインダ処理を施して脱脂体を得た。しかる後、脱脂体を耐火材からなる焼成棚板上に並べ、ブロック状の耐火材を用いて脱脂体を完全に覆った状態で大気雰囲気の焼成炉にて1000〜1200℃で2時間保持して焼成した。その後、必要に応じて研削加工を施し、外径13mm、内径7mm、厚み3mmのトロイダル形状の試料No.1〜18を得た。
【0046】
また、試料No.19については、仮焼前にTiOを添加すること以外は、試料No.6と同様の組成および製造方法により作製した。
【0047】
そして、各試料の巻き線部10aの全周にわたって線径が0.2mmの被膜銅線を10回巻き
付けてLCRメータを用いて周波数100kHzにおける透磁率を測定した。
【0048】
また、透磁率の測定と同様の試料を用いて、恒温槽内の測定治具に接続した。なお、この測定治具はLCRメータに接続されており、100kHzの周波数で測定し、25℃での透
磁率をμ25、25℃から−40℃まで降温したときにおける最も低い透磁率をμ−40、25℃から160℃まで昇温したときにおける最も高い透磁率をμ160とし、低温部側の透磁
率の温度変化率X−40〜25を(μ−40−μ25)/μ25×100の計算式で、高温
部側の透磁率の温度変化率X25〜150を(μ150−μ25)/μ25×100の計算
式で求めた。さらに、透磁率の測定と同様の試料およびLCRメータを用いて、LCRメータを用いたブリッジ回路法によりキュリー温度を求めた。
【0049】
また、Tiを含む化合物の分散性については、波長分散型X線マイクロアナライザ装置(日本電子製JXA−8100)を用いて測定し、各試料の任意の表面のTi元素のマッピング画像の50μm×50μmの観察領域において、主結晶の粒界に相当するところに3箇所以上のTi元素が確認されている試料は○とし、3箇所未満を×とした。結果を表1に示す。
【0050】
なお、各試料について、蛍光X線分析装置を用いて、各金属元素量を求めてFeをFeに換算し、ZnをZnOに換算し、NiをNiOに換算し、CuをCuOに換算し、この酸化物に換算した値を用いてモル%に換算し、表1に記載のモル%となっていることを確認した。また、Tiについては、TiOに換算し、この値を用いて、Fe,ZnO,NiO,CuOを100質量部としたときに対する比率を百分率で表すことによ
って、表1に記載の質量%となっていることを確認した。
【0051】
【表1】

【0052】
表1の結果から、主成分組成が、Feを48モル%以上51モル%以下、ZnOを29モル%以上31モル%以下、NiOを14モル%以上16モル%以下、CuOを5モル%以上7モル%以下の範囲から外れる試料No.1,4,5,8は、透磁率が1300以下またはキュリー温度が160℃以下であった。また、主成分100質量部に対し、TiをTiO換算での含有量が0.01質量%未満である試料No.9は、透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下に抑えることができなかった。また、主成分100質量部に対し、TiをTiO換算で
の含有量が0.15質量%を超える試料No.14は、キュリー温度が160℃未満であり、透磁
率の温度変化率も−40%以上40%以下に抑えることができなかった。
【0053】
また、仮焼温度が700℃未満である試料No.15は、仮焼時の合成が不十分なため、透
磁率が1300未満であった。また、仮焼温度が750℃を超える試料No.18は、仮焼体の硬
度が高く均質な粉砕が困難であったため、密度を上げることができず透磁率が1300未満であり、Ti成分の凝集が見られ透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下に抑えることができなかった。大きくなる傾向があるので、透磁率は比較的に低くなる傾向がある。さらに、TiOを仮焼前に添加した試料No.19については、Ti成分の主結晶への固溶が進んでおり、主結晶の粒界に存在するTiを含む化合物が少なすぎることから、同じ組成の試料No.6と比較すると、透磁率が低く、透磁率の温度変化率を−40%以上40%以下に抑えることができなかった。
【0054】
これに対し、主成分組成が、Feを48モル%以上51モル%以下、ZnOを29モル%以上31モル%以下、NiOを14モル%以上16モル%以下、CuOを5モル%以上7モル%以下であり、主成分100質量部に対し、TiをTiO換算で0.01質量%以上0.15質量
%以下含有し、主結晶の粒界にTiを含む化合物が分散して存在している試料No.2,3,6,7,10〜13,16,17については、透磁率が1300以上であり、キュリー温度が160
℃以上であり、透磁率の温度変化率が−40%以上40%以下と良好な値を示した。
【実施例2】
【0055】
次に、焼成時の昇温速度を表2に示すこととした以外は、実施例1の試料No.6と同様の組成および製造方法で試料No.20〜28を作製した。
【0056】
なお、透磁率および透磁率の温度変化率は実施例1と同様の方法により測定を実施した。また、試料の体積抵抗率については、JIS C2141−1992に準拠した測定用試料をそれぞれ作製し測定を実施した。
【0057】
また、主結晶の粒界に存在するTi元素のカウント数αと、主結晶中に存在するTi元素のカウント数βとの比率β/αについては、以下のようにして求めた。まず、試料を機械加工により複数に細かく切断し、切断された試料表面を機械研磨し、その表面をイオンミリング装置(Technoorg Linda社製IV3)により加工し、測定試料を得た。次に、透過電子顕微鏡(JEOL製 JEM2010F)を用いて、加工後の試料表面をTEM分析にて、倍率25000倍,加速電圧200kVの条件下で観察した。そして、特定の観察視野において、複数の粒界部分と複数の主結晶部分5箇所ずつを、スポット径1nm、測定時間50secおよび測定エネルギー幅0.14〜20.48keVの条件で、エネルギー分散型X線分光分析装置(サー
モエレクトロン製 NSS)により測定し、得られたチャートから、複数の粒界部分のTi
元素のカウント数の5箇所の平均値をα、複数の主結晶中のTi元素のカウント数の5箇所の平均値をβとし、βとαの比率β/αを算出した。結果を表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2の結果から、β/αの値が0.5以上3.0以下である試料No.21〜27については、高い透磁率を有し、体積抵抗率が向上できることがわかった。
【実施例3】
【0060】
次に、仮焼粉体に表3に示す含有量となるようにCaO,SiOを添加したこと以外は、実施例1の試料No.6と同様の組成および製造方法で試料No.20〜28を作製した。および製造方法で試料No.29〜39を作製した。
【0061】
なお、透磁率および透磁率の温度変化率は実施例1と同様の方法により測定を実施した。また、試料の体積抵抗率については、JIS C2141−1992に準拠した測定用試料をそれぞれ作製し測定を実施した。結果を表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の結果から、CaO,SiO換算での含有量の合計が主成分100質量部に対し、0.01質量%以上0.2質量%以下である試料No.31〜37は、高い透磁率を有し、体積抵抗率が向上できることがわかった。
【実施例4】
【0064】
次に、仮焼粉体に表4に示す含有量となるようにMnCOを添加したこと以外は、実施例3の試料No.34と同様の組成および製造方法で試料No.40〜45を作製した。
【0065】
なお、透磁率および透磁率の温度変化率は実施例1と同様の方法により測定を実施した。結果を表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
表4の結果から、MnO換算での含有量が主成分100質量部に対し、0.05質量%以上0.3質量%以下である試料No.40〜44は、優れた透磁率の温度変化率を有しつつ、透磁率を向上できることがわかった。
【実施例5】
【0068】
次に、仮焼粉体に表5に示す含有量となるようにZrOを添加したこと以外は、実施例4の試料No.41と同様の組成および製造方法で試料No.46〜50を作製した。
【0069】
なお、透磁率および透磁率の温度変化率は実施例1と同様の方法により測定を実施した。また、試料の体積抵抗率については、JIS C2141−1992に準拠した測定用試料をそれぞれ作製し測定を実施した。結果を表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
表5の結果から、ZrO換算での含有量が主成分100質量部に対し、0.15質量%以下
である試料No.46〜49は、優れた透磁率および透磁率の温度変化率を有しつつ、体積抵抗率を向上できることがわかった。
【0072】
以上の結果から、本実施形態のフェライト焼結体は、優れた透磁率、キュリー温度および透磁率の温度変化率を有していることから、金属線を巻きつけてノイズフィルタとして用いた場合に、低温域から高温域にわたる広範囲な温度域において、安定したノイズ除去性能を有する優れたノイズフィルタとすることができることがわかった。
【符号の説明】
【0073】
1:トロイダルコア
1a:巻線部
2:ボビンコア
2a:巻線部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透磁率が1300以上であるフェライト焼結体であって、Fe,Zn,NiおよびCuを含有し、FeをFe換算で48モル%以上51モル%以下、ZnをZnO換算で29モル%以上31モル%以下、NiをNiO換算で14モル%以上16モル%以下、CuをCuO換算で5モル%以上7モル%以下の組成範囲からなる主成分100質量部に対し、TiをTiO換算で0.01質量%以上0.15質量%以下含有し、Fe−Zn−Ni−Cu結晶の粒界に前記Tiを含む化合物が分散して存在していることを特徴とするフェライト焼結体。
【請求項2】
前記結晶の粒界に存在するTi元素のカウント数αと、前記結晶中に存在するTi元素のカウント数βとの比率β/αが0.5以上3.0以下であることを特徴とする請求項1に記載のフェライト焼結体。
【請求項3】
CaまたはSiのうち少なくともいずれかの酸化物を含み、CaO,SiO換算での含有量の合計が前記主成分100質量部に対し、0.01質量%以上0.2質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェライト焼結体。
【請求項4】
Mnの酸化物を含み、MnO換算での含有量が前記主成分100質量部に対し、0.05質量%以上0.3質量%以下であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載のフェライト焼結体。
【請求項5】
Zrの酸化物を含み、ZrO換算での含有量が前記主成分100質量部に対し、0.15質量%以下(但し、0質量%を含まず。)であることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載のフェライト焼結体。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれかに記載のフェライト焼結体に金属線を巻きつけてなることを特徴とするノイズフィルタ。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246343(P2011−246343A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99597(P2011−99597)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000006633)京セラ株式会社 (13,660)
【Fターム(参考)】