説明

フェライト系コンポジットシート及びその製造方法及びそれを使用した携帯端末用通信装置

【課題】リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナと携帯端末筐体セルの金属面との間にフェライト系コンポジットシートを挿入した携帯端末用通信装置において、最大の通信機能が発現されるフェライト系コンポジットシート及びその製造方法及びそれを使用した携帯端末用通信装置を提供することを目的とする。
【解決手段】フェライト系粒子11と樹脂12により構成されたコンポジットシートであり、フェライト系粒子11が3次元的に連結した骨格を有し、骨格の間隙が樹脂12により埋設されたことを特徴とするものである。さらに、フェライト系粒子11の平均粒子径及び充填率を限定したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系コンポジットシート及びその製造方法及びそれを使用した携帯端末用通信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナより成る13.56MHz帯通信装置(ICタグ、ICカードによる無線通信)は、国内においてはフェリカとして普及しており、ICタグを薄い樹脂製カードに組み込んだ構造体としてコンビニエンスストア仕様電子マネーカード等に適用されている。また、近年爆発的に普及した携帯端末に13.56MHz帯通信装置を搭載する取り組みが本格化している。さらに、13.56MHz帯通信装置のNFC(海外用フェリカ)への展開も進行しており世界的な規模で市場が形成されようとしている。
【0003】
13.56MHz帯通信装置は、リーダー/ライターと無線タグの双方に備えられたスパイラルアンテナ間に生じる電磁誘導で電力供給と交信を行っている。
【0004】
しかしながら、当該13.56MHz帯通信装置を携帯端末に搭載するべく多方面において検討が成されていたが、薄い樹脂製カードに組み込む場合と異なり、携帯端末の交信用スパイラルアンテナの近傍に位置する筐体セルの金属面により、その通信機能が著しく損なわれていた。すなわち、スパイラルアンテナに発生した磁束が金属面を貫通すると、ファラデーの法則により磁束を軸とした渦電流が金属面に流れるが、その回転方向はスパイラルアンテナを流れる電流の向きと反対の向きに流れる。つまり、スパイラルアンテナに発生した磁束が金属面に発生した渦電流による反対方向の磁束により打ち消されるため通信装置の通信機能が大きく減衰してしいた。そこで、このような事態を未然防止するためにフェライト系や金属系をベースにした透磁率を有する磁性体が適用されている。すなわち、スパイラルアンテナと筐体セルの金属面との間にフェライト系や金属系の透磁率を有する磁性体を挿入することにより、スパイラルアンテナに発生した磁束が金属面を貫通する前に当該磁性体により磁束を集束させて金属面でのうず電流の発生を抑制して良好な通信機能を取得するものである。
【0005】
例えば、(特許文献1)には樹脂と磁粉からなる磁性層の厚さが100μm以下のノイズ抑制シートが開示されている。これによると、磁粉の充填率が30vol%以上60vol%以下で、透磁率が70以上のノイズ抑制シートであり、パソコンや携帯電話等の電子機器内部で発生する不要な輻射性電磁波ノイズを吸収するものである。
【0006】
また、(特許文献2)には表面に絶縁膜が形成されたパーマロイ、またはスーパーパーマロイ系の扁平状軟磁性金属粉が圧接接合されて層状に積層された複合磁性体が開示されている。これによると、複合磁性体に対する軟磁性金属相の占積率は60〜90%であり、特にEMC規格を満たすために問題となる100〜400MHz帯域のノイズ減衰効果に優れた複合磁性体である。
【0007】
さらに、(特許文献3)には、Fe23、NiO、及びZnOからなるNi−Zn系フェライト粉末においてSiO2を含有したフェライト粉末が開示されており、当該フェライト粉末を1100〜1300℃で焼成したフェライト焼成体をインダクタンス素子へ適用する例が記載されている。
【特許文献1】特開2007−281074号公報
【特許文献2】特開2006−100848号公報
【特許文献3】特開2007−145703号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来のノイズ抑制シートや磁性体を本件の技術分野であるフェリカ規格及びNFC規格の通信装置に適用した場合、当該規格を満足する通信機能が得られない。シートや磁性体の製造において制御し得ない条件のばらつき等により通信機能が大きく変動する。さらに、シートや磁性体の製造コストが高い。などの課題を有していた。
【0009】
(特許文献1)に開示されているノイズ抑制シートは、磁粉の充填率が60vol%以下であるため磁粉の3次元的な連結構造の形成が困難となり所望の透磁率が得られず、通信装置に適用した場合、規格を満足する通信機能を取得するのが困難であった。そして、ドクターブレード工法により作製されるシートであるため、磁粉の均一分散が困難となり、さらに磁粉の充填率を60vol%以上に向上させることが困難となるため、取得される通信機能に限界があると同時に大きく変動する懸念があった。例えば、磁粉の充填率が60vol%のシートを用いて通信装置を構成したが、その通信機能はフェリカ規格に及ばないことを実験により確認した。また、磁粉のスラリー調整工程が入るため、溶剤処理等の環境上の問題があった。
【0010】
(特許文献2)に開示されている複合磁性体は、非常に高価な扁平状軟磁性金属粉で構成されたものであるため、製造コストの高騰を招き、経済性管理の面で課題があった。また、当該複合磁性体は、それを構成しているパーマロイ、またはスーパーパーマロイ系扁平状軟磁性金属粉の熱処理条件の制御し得ないばらつきや、保管中の酸化によりその性能が大きく変動していた。さらに、携帯端末の軽薄短小化の流れの中で、本文献に記載されている様な扁平状軟磁性金属粉をステンレス基板上に堆積させた後のロール圧延工法では、形成された複合磁性体の薄膜化に限界があった。
【0011】
(特許文献3)に開示されているフェライト焼成体は、Fe23、NiO、及びZnOからなるNi−Zn系フェライト粉末にSiO2を含有させたものを1100〜1300℃で焼成したものである。SiO2添加と高い焼成温度により焼結が進行して結晶粒子が大きく成長した緻密質な微細構造を有する高透磁率のフェライト焼成体である。当該焼成体を通信装置に適用した場合、過度に成長した結晶粒子による緻密質微細構造のため高い透磁率が取得されるものの、13.56MHzの高周波帯域において導電率が高くなり、スパイラルアンテナに発生した磁束の集束効果が発揮されず、十分な通信機能が取得できない恐れがあった。また、通信装置に適用するシート状のフェライト焼成体を製造する際、スラリー調整、ドクターブレード成形、反り防止のための低速昇温焼成が必要となるため、製造工程が煩雑になり、製造コストの高騰や不良率増大等のリスクが潜在していた。
【0012】
この様に従来の技術によるノイズ抑制シートや磁性体は、それらを製造する際、製造条件や製造コスト等に関する課題を有していた。また、それらをフェリカ規格及びNFC規格の通信装置に適合した場合、製造条件の制御し得ないばらつきに起因して、通信性能が大きく変動していた。
【0013】
そこで、本発明は以上のような課題を解決するものであり、NFCやフェリカに代表されるリーダー/ライター交信用スパイラルアンテナより成る携帯端末用通信装置において、良好な通信機能を確保するために搭載されるフェライト系コンポジットシートを提供することを目的とする。さらに、前記携帯端末用通信装置において、良好な通信機能を確保するために搭載されるフェライト系コンポジットシートの製造方法を提供することを目的とする。さらに、前記フェライト系コンポジットシートを適用した携帯端末用通信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この目的を達成するために、本発明のフェライト系コンポジットシートは、フェライト系粒子と樹脂により構成されたコンポジットシートであり、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、前記骨格の間隙が前記樹脂により埋設されたことを特徴とするものである。そして、前記フェライト系粒子の平均粒子径及び充填率、前記樹脂の軟化温度を規定したものである。
【0015】
さらに、フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機を使用して前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合することによりコンポジットバルクを得る工程、前記コンポジットバルクを解砕した後整粒することによりコンポジット粉末を得る工程、そして前記コンポジット粉末を加熱成形して所定の膜厚を有するコンポジットシートを得る工程とを順次行うことを特徴とするフェライト系コンポジットシートの製造方法である。また、フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機を使用して前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合しながら所定のギャップを有するダイスより押出し成形することを特徴とするフェライト系コンポジットシートの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
以上の様に本発明によれば、60vol%以上80vol%未満の充填率を有するフェライト系粒子同士が3次元的に連結した骨格を有し、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された構造を有するフェライト系コンポジットシートを得ることができる。さらに、当該フェライト系コンポジットシートの製造方法を実現することができる。さらに、当該フェライト系コンポジットシートを適用することにより、良好な通信機能を有する通信装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0018】
図1は、本発明の請求項1乃至3に相当するフェライト系コンポジットシートの微細構造を示す図である。本発明のフェライト系コンポジットシートは、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有しており、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造を有している。これにより、リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナより成る携帯端末用通信装置において、リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナと携帯端末筐体セルの金属面との間に前記フェライト系コンポジットシートを挿入することにより、良好な通信機能を取得することができる。また、前記フェライト系粒子の平均粒子径を50μm〜200μmとし、その充填率を60vol%〜80vol%とすることにより、さらに高レベルの通信機能を取得することができる。フェライト系粒子の充填率が60vol%未満になると、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格の形成が困難となるため、シートの透磁率が低下して所望の通信機能が発現されない。一方、フェライト系粒子の充填率が80vol%を超えると、フェライト系コンポジットシートの製造方法において、シートの成形が困難になるという問題点が生じる。フェライト系粒子の平均粒子径が50μm以下になると、粒子同士が凝集傾向となり、流れ性や樹脂との均一混合に課題が生じる。一方、平均粒子径が200μmを超えると作製したコンポジットシート表面の凹凸が激しく、安定した厚みを有するシートが得られず、透磁率や通信機能のばらつきが発生する。以上の様に、フェライト系粒子と樹脂により構成されたフェライト系コンポジットシートにおいて、フェライト系粒子の平均粒子径及び充填率を限定することによりフェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造が得られる。
【0019】
図2は、本発明の請求項4乃至5に相当するフェライト系コンポジットシートの製造方法を説明するための図である。フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機に投入しながら前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合・混練することによりフェライト系粒子と熱可塑性樹脂より成るコンポジットバルクを作製する工程、前記コンポジットバルクを解砕した後所定の粒度に整粒することによりコンポジット粉末を作製する工程、そして前記コンポジット粉末を前記熱可塑性樹脂の軟化温度で加熱しながら成形して所定の膜厚を有するコンポジットシートを作製する工程とを順次行うものである。フェライト系粒子より成る粉末は、Fe23を主成分として、少なくともNiO、ZnO及びCuO等より成る副成分を含有しており、その平均粒子径は50μm〜200μmである。そして、前記副成分と主成分であるFe23との固溶体を形成させるために、あらかじめ700〜1100℃の温度で仮焼した方が望ましい。フェライト系コンポジットシートの製品規格における耐熱温度が120℃であるため、熱可塑性樹脂としては、120℃以上の軟化温度を有するものが必要である。したがって、シクロオレフィン系の熱可塑性樹脂が望ましい。また、適用する樹脂は、フェライト系粒子より成る粉末との均一な混合・混練を達成するために、凍結粉砕法等により微粉末としたものが望ましい。本発明のフェライト系コンポジットシートを製造するために使用する混練機は、スクリュー部の温度調節が可能で、2本あるいは4本のスクリューを有する多軸混練押出し機である。スクリューが多軸になるとスクリューが1本の単軸に比べて、強力なせん断力で混練されるため、フェライト系粒子と樹脂のように比重差が大きい材料同士の均一な混合が容易となる。さらに、フェライト系粒子の充填率が高い領域においても均一な混合が実現される。以上の様な製造方法により、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造を有するフェライト系コンポジットシートが得られる。
【0020】
図3は、本発明の請求項6に相当するフェライト系コンポジットシートの製造方法を説明するための図である。フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機に投入しながら前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合・混練しながら、所定のギャップを有するダイスより押出し成形することによりフェライト系コンポジットシートを製造するものである。フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、混合・混練しながら直接成形してフェライト系コンポジットシートを製造する方法であるため、工数が少なく製造コスト低減が図られる。以上の様な製造方法により、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造を有するフェライト系コンポジットシートが少ない工数で得られる。
【0021】
図4は、フェライト系コンポジットシートが適用された携帯端末41の断面斜視図である。これによると、携帯端末筐体セル42と交信用スパイラルアンテナ43との間にフェライト系コンポジットシート44が挿入された構成となる。
【0022】
また、図5は、フェライト系コンポジットシートを搭載していない通信装置の概略図、図6は、フェライト系コンポジットシートを搭載した通信装置の概略図である。図5の通信装置は、携帯端末筐体セル51と交信用スパイラルアンテナ52により構成された通信装置において、交信用スパイラルアンテナ52に侵入した磁束53は携帯端末筐体セル51の金属表面に発生したうず電流による反対方向の磁束54により打ち消されて通信機能が大きく減衰する。これに対して、図6の通信装置は、交信用スパイラルアンテナ62と携帯端末筐体セル61の金属面との間にフェライト系コンポジットシート64が挿入されたものである。これにより、交信用スパイラルアンテナ62に侵入した磁束63が当該フェライト系コンポジットシート64により集束されて携帯端末筐体セル61の金属表面のうず電流が抑制されて、通信機能が大幅に改善されるものである。
【0023】
本発明の携帯端末用通信装置は、前記フェライト系コンポジットシート64の微細構造を図1に示した様にフェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有しており、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造としたものである。また、前記フェライト系コンポジットシート64の微細構造において、フェライト系粒子の平均粒子径を50μm〜200μmとし、充填率を60vol%〜80vol%とすることにより、通信機能の改善効果はさらに大きくなる。
【実施例】
【0024】
次に本発明の具体例を説明する。
【0025】
(実施例1)
実施例1においては、本発明のフェライト系コンポジットシートの製造方法において、コンポジットパウダーの加熱成形によりコンポジットシートを得る方法について述べる。図2は、本実施例のフェライト系コンポジットシートの製造方法を説明するための図である。
【0026】
46.0〜50.0モル%のFe23、18.0〜22.0モル%のNiO、18.0〜22.0モル%のZnO及び8.0〜12.0モル%のCuOより成る組成物をロータリーキルンにより880℃の温度で加熱処理した後、乾式ロッドミル及び湿式アトラクションミルで粉砕することにより0.5〜1.5μmの平均粒子径を有するNi−Zn系フェライト粉末を合成した。合成した粉末は、Fe23−NiO−ZnO−CuO系の固溶体であることを粉末X線回折により確認した。また、合成粉末の比表面積値を窒素ガス吸着法により測定したところ3.000〜5.500m2/gの値を有していた。そして、スプレードライヤーを使用して前記Ni−Zn系フェライト粉末の造粒粉粉末を作製した後、890℃の温度で熱処理した。熱処理後の造粒粉末の平均粒子径は、120μm程度であった。
【0027】
次に、直径が15φのスクリューを2本搭載した多軸混練機を使用して、前記造粒粉末とシクロオレフィン系の熱可塑性樹脂とを混合・混練した。すなわち、Ni−Zn系フェライトの造粒粉末が70VOL%、熱可塑性樹脂が30VOL%の比率になるように、混練機に投入される各々の質量速度を調節しながら混合・混練した。なお、スクリュー部の温度は熱可塑性樹脂の軟化温度に設定する必要があり、シクロオレフィン系の場合は280℃とした。
【0028】
以上の製造方法により、Ni−Zn系フェライトの造粒粉末と熱可塑性樹脂より成るコンポジットバルクを作製した。
【0029】
次に、作製したコンポジットバルクを解砕して加熱成形用のコンポジットパウダーを作製した。すなわち、解砕機や粉砕機を使用してコンポジットバルクを細かく解砕した後、所定の目開きを有するふるいを通過させてコンポジットパウダーを作製した。
【0030】
そして、作製したコンポジットパウダーを加熱成形して所定の厚みを有するフェライト系コンポジットシートを作製した。すなわち、作製したコンポジットパウダーの所定量を5cm角の乾式プレス用金型に投入して予備成形した後、280℃の温度で加熱しながら100Kg/cm2の成形圧力で成形して所定の膜厚保を有するフェライト系コンポジットシートを作製した。なお、シートの厚みは、金型への投入量を変えることにより調整した。製造品質0%をコンポジットパウダーをシート成形用金型にセットした後、280℃の温度で加熱成形した。コンポジットパウダーの金型充填量を変えることにより、シート厚みを調整した。
【0031】
作製したフェライト系コンポジットシートの微細構造を金属顕微鏡、及び走査型電子顕微鏡で観察した。その結果、図1に示した様にフェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有しており、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造を有していた。
【0032】
(実施例2)
実施例2においては、本発明のフェライト系コンポジットシートの製造方法において、押出し成形によりコンポジットシートを得る方法について述べる。図3は、本実施例のフェライト系コンポジットシートの製造方法を説明するための図である。
【0033】
実施例1と同様の方法で、Ni−Zn系フェライト粉末の造粒粉粉末を作製した後、870℃の温度で熱処理した。熱処理後の造粒粉末の平均粒子径は、90μm程度であった。
【0034】
次に、直径が15φのスクリューを2本搭載した多軸混練機を使用して、前記造粒粉末とシクロオレフィン系の熱可塑性樹脂とを混合・混練した。すなわち、Ni−Zn系フェライトの造粒粉末が65VOL%、熱可塑性樹脂が35VOL%の比率になるように、混練機に投入される各々の質量速度を調節しながら混合・混練した。なお、スクリュー部の温度は熱可塑性樹脂の軟化温度に設定する必要があり、シクロオレフィン系の場合は280℃とした。そして、混合・混練しながら所定のギャップを有するダイスより押出し成形して所定の厚みを有するフェライト系コンポジットシートを作製した。
【0035】
シートの厚みは、ダイスのギャップを変えることにより調整した。作製したフェライト系コンポジットシートの微細構造を金属顕微鏡、及び走査型電子顕微鏡で観察したところ、図1に示した様にフェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有しており、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造を有していた。
【0036】
(実施例3)
次に、実施例1及び実施例2の製造方法により作製されたフェライト系コンポジットシートを適用して図4と類似の構成による成る携帯端末用通信装置の通信機能を評価した。すなわち、作製したフェライト系コンポジットシート64を図6に示した交信用スパイラルアンテナ62と携帯端末筐体セル61の金属面との間に挿入した携帯端末用通信装置の通信機能を測定した。ここで、通信機能としての測定項目は、タグとリーダ/ライタ間の通信距離である。すなわち、作製したフェライト系コンポジットシートの両面にテープを貼り付けて通信距離測定用のサンプルとした。サンプルの寸法は、30mm×25mmで厚みが400μmであった。測定用サンプルと同サイズの銅版とスパイラルアンテナとの間にフェライト系コンポジットシートのサンプルを挿入したものをタグとしてセットして、13.56MHzの共振周波数におけるリーダ/ライタとの通信距離を測定した。
【0037】
その結果、通信距離のフェリカ規格である100mmを超える通信距離を有していた。
【0038】
以上、本実施例の携帯端末用通信装置は、平均粒子径と充填率が限定されたフェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、且つ骨格の間隙が樹脂により埋設された微細構造を有することを特徴とするフェライト系コンポジットシートを適用することにより、良好な通信機能が取得されるものである。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のフェライト系コンポジットシート及びその製造方法及びそれを使用した携帯端末用通信装置は、良好な通信距離を確保できるため、リーダ/ライタ交信用スパイラルアンテナを有する通信装置や通信端末、特に携帯端末に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明のフェライト系コンポジットシートの微細構造を示す図
【図2】本発明のフェライト系コンポジットシートの製造方法を説明するための図
【図3】本発明のフェライト系コンポジットシートの製造方法を説明するための図
【図4】フェライト系コンポジットシートが適用された携帯端末の断面斜視図
【図5】フェライト系コンポジットシートを搭載していない通信装置の概略図
【図6】フェライト系コンポジットシートを搭載した通信装置概略図
【符号の説明】
【0041】
11 フェライト系粒子
12 樹脂
41 携帯端末
42 携帯端末筐体セル
43 交信用スパイラルアンテナ
44 フェライト系コンポジットシート
51,61 携帯端末筐体セル
52,62 交信用スパイラルアンテナ
53,63 交信用スパイラルアンテナに侵入する磁束
54 うず電流による反対方向の磁束
64 フェライト系コンポジットシート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェライト系粒子と樹脂により構成されたコンポジットシートにおいて、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、前記骨格の間隙が前記樹脂により埋設されたことを特徴とするフェライト系コンポジットシート。
【請求項2】
50μm〜200μmの平均粒子径を有するフェライト系粒子と180℃〜280℃の軟化温度を有する熱可塑性樹脂により構成されたコンポジットシートにおいて、フェライト系粒子が3次元的に連結した骨格を有し、前記骨格の間隙が前記樹脂により埋設されたことを特徴とするフェライト系コンポジットシート。
【請求項3】
フェライト系粒子の充填率が60vol%〜80vol%の範囲内であることを特徴とする請求項1及び2記載のフェライト系コンポジットシート。
【請求項4】
フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機を使用して前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合することを特徴とするフェライト系コンポジットシートの製造方法。
【請求項5】
フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機を使用して前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合することによりコンポジットバルクを得る工程、前記コンポジットバルクを解砕した後整粒することによりコンポジット粉末を得る工程、そして前記コンポジット粉末を加熱成形して所定の膜厚を有するコンポジットシートを得る工程とを順次行うことを特徴とするフェライト系コンポジットシートの製造方法。
【請求項6】
フェライト系粒子より成る粉末と熱可塑性樹脂とを、複数のスクリューを有する混練機を使用して前記熱可塑性樹脂の軟化温度で均一に混合しながら所定のギャップを有するダイスより押出し成形することを特徴とするフェライト系コンポジットシートの製造方法。
【請求項7】
リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナより成る携帯端末用通信装置において、当該リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナと携帯端末筐体セルの金属面との間に請求項1乃至3記載のフェライト系コンポジットシートを挿入したことを特徴とする携帯端末用通信装置。
【請求項8】
リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナより成る携帯端末用通信装置において、当該リーダー/ライター交信用スパイラルアンテナと携帯端末筐体セルの金属面との間に請求項4乃至6記載の製造方法で製造したフェライト系コンポジットシートを挿入したことを特徴とする携帯端末用通信装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−147218(P2010−147218A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−322152(P2008−322152)
【出願日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】