説明

フェライト系ステンレス鋼板のTIG溶接方法

【課題】本発明は、コストを抑制可能であり、酸化を抑制するためのシールド効果を高めることが可能であり、かつ十分な溶け込み深さを得ることの可能なフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法を提供することを課題とする。
【解決手段】第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用い、第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secの範囲内で設定すると共に、第2のシールドガスとして、アルゴンガスを用い、第2のシールドガスの第2の流速Sを0.05m/sec≦S≦1.51m/secの範囲内で設定して、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板のTIG溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タングステン電極と、タングステン電極を囲む第1のシールドノズルと、第1のシールドノズルの外側に配置された第2のシールドノズルと、を有し、第1のシールドノズルの内側から第1のシールドガスを供給すると共に、第1のシールドノズルと第2のシールドノズルとの間から第2のシールドガスを供給する二重シールド構造とされた溶接トーチを用いたTIG(Tangsten Inert Gas Welding)溶接が行なわれている(例えば、特許文献1〜3参照。)。
一般的に、TIG溶接では、溶融プールを保護する観点からシールドガスとしてアルゴンを用いる。
【0003】
特許文献1には、被溶接物の開先にタングステン電極を挿入しシールドガスを流しながらかつタングステン電極の通電部に電圧を印加し、被溶接物とタングステン電極との間で溶接アークを発生させて溶融プールを形成し、該溶融プールに溶接ワイヤを挿入し溶接トーチを走行させて溶接するティグ溶接方法において、タングステン電極の周囲からその先端部まで流し込む内側シールドガスと、該内側シールドガスの外側から開先に向けて流れる溶融プールの酸化防止の流れと共に被溶接物の外側からの空気中の酸素の巻き込み防止の流れを有する外側シールドガスと、を用いて溶接を行なうティグ溶接方法が開示されている。
【0004】
また、特許文献1には、溶け込み深さを深くするために、内側シールドガス及び外側シールドガスとして、2〜10vol%水素入りアルゴンガス、または10〜80vol%ヘリウム入りアルゴンガスを用いることが開示されている。
【0005】
特許文献2には、タングステン電極を囲む1次シールドガス、及び1次シールドガスを囲む2次シールドガスを用いて溶接する2重シールドTIG溶接において、1次シールドガスとしてHeガスを流量6〜10リットル/min、2次シールドガスとしてArガスを流量10〜30リットル/minで使用して溶接するTIG溶接法が開示されている。
【0006】
特許文献3には、二重シールドティグ溶接用トーチの内側ノズルより噴射する内側シールドガスの流量密度を一定範囲内の値に調整した後、電極にアークを発生させて溶接部を溶接する二重シールドティグ溶接方法が開示されている。
また、特許文献3には、内側シールドガスの流量密度を0.1〜0.2L/min・mmの範囲内にすることで、溶け込みの深さバラツキが0.5mmの範囲内におさまることが開示されている。
【0007】
なお、上記内側シールドガスの流量密度の値を0.1L/min・mmとした場合、0.1L/min・mmを変換することで得られる内側シールドガスの流速Vは、
V=(0.1×1000×1000)/(60×1000)≒1.66(m/sec)となる。
また、上記内側シールドガスの流量密度の値を0.2L/min・mmとした場合、内側シールドガスの流速Vは、3.3m/secとなる。
【0008】
上記二重シールド構造とされた溶接トーチを用い、溶け込み深さを深くしてフェライト系ステンレス鋼板をTIG溶接する場合、水素脆化や低温割れの観点から、シールドガスとして特許文献1記載の水素入りアルゴンガスを用いることが困難であるため、ヘリウム入りアルゴンガスを用いる。
また、フェライト系ステンレス鋼板は、他のステンレス鋼板と比較して、安価であるという特徴がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−10943号公報
【特許文献2】特開平7−227673号公報
【特許文献3】特開平6−297149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1記載のヘリウム入りアルゴンガスを内側シールドガス及び外側シールドガスに使用した場合、ヘリウムが高価なため、TIG溶接のコストが増大するという問題があった。
【0011】
また、ヘリウム入りアルゴンガスを内側シールドガス及び外側シールドガスに使用した場合、ヘリウムの影響により内側シールドガス及び外側シールドガスの比重が小さくなるため、シールド不良が発生しやすい。該シールド不良を抑制するためには、大量のヘリウム入りアルゴンガスを供給する必要があるため、フェライト系ステンレス鋼板をTIG溶接する際のコストがさらに増大するという問題があった。
【0012】
また、特許文献2には、タングステン電極を囲む1次シールドガスとしてHe(ヘリウム)ガスを用いることが開示されているが、ヘリウムはイオン化ポテンシャルが高い。
このため、アークを発生させることが困難であり、ヘリウムの混合割合がヘリウム単体に近ければ近いほど、タングステン電極直下のアーク温度が高くなり、タングステン電極の消耗が大きくなってしまう。
これにより、フェライト系ステンレス鋼板をTIG溶接する際のコストがさらに増大するという問題があった。
【0013】
また、特許文献3に記載のように、内側シールドガスの流速を1.66〜3.33m/secの範囲内に設定すると、内側シールドガスの流速が速くなりすぎるため、不正ビードが発生する虞があった。
さらに、特許文献3には、外側シールドガスの流速について、なんら記載されておらず、例えば、外側シールドガスの流速が速すぎると、アーク部分でのヘリウム濃度が適正な値とはならず、かなり低い値となる。
また、外側シールドガスの流速が遅すぎると、シールド能力不足により、ビード外観が悪化し、酸化等が発生する。
【0014】
そこで本発明は、第1及び第2のシールドガスを供給可能な二重シールド溶接トーチを用いた溶接方法であって、コストを抑制可能であり、酸化を抑制するためのシールド効果を高めることが可能であり、かつ十分な溶け込み深さを得ることの可能なフェライト系ステンレス鋼板のTIG溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、アークを発生させる先端を備えた電極、該電極を囲む第1のシールドノズル、及び該第1のシールドノズルの外側に配置された第2のシールドノズルを有し、前記第1のシールドノズルの内側から前記電極の先端に第1のシールドガスを供給すると共に、前記第1のシールドノズルと前記第2のシールドノズルとの間から前記電極の先端側に第2のシールドガスを供給する溶接トーチを用いたフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法であって、前記第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用い、前記第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secにすると共に、前記第2のシールドガスとして、アルゴンガスを用い、前記第2のシールドガスの第2の流速Sを0.05m/sec≦S≦1.51m/secとしたことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法が提供される。
【0016】
また、請求項2に係る発明によれば、前記第1の流速Sを0.35m/sec≦S≦1.58m/secにすると共に、前記第2の流速Sを0.24m/sec≦S≦1.21m/secとしたことを特徴とする請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法が提供される。
【0017】
また、請求項3に係る発明によれば、前記混合ガスに含まれる前記ヘリウムガスが20〜90体積%であることを特徴とする請求項1または2記載のフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法が提供される。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法によれば、第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用いることで、第1のシールドガスとしてヘリウムのみを用いた場合と比較して、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接のコストを低減することができる。
【0019】
また、第1のシールドガスとしてアルゴンガスと20〜90体積%のヘリウムガスとの混合ガスを用いることで、電極の直下に形成されるアークの温度が高くなりすぎることがなくなるため、電極の消耗が抑制可能となるので、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接のコストを低減できると共に、十分な溶け込み深さを得ることができる。
【0020】
また、第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secにすることで、第1の流速Sが適度な値となり、不整ビードの発生を抑制可能となるため、フェライト系ステンレス鋼の溶接を精度よく行なうことができる。
【0021】
さらに、第2のシールドガスとして、アルゴンガスのみを用いることで、第2のシールドガスとして、ヘリウムとアルゴンガスとが混合されたシールドガスを用いた場合と比較して、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接のコストを低減することができると共に、シールド効果を向上させることができる。
【0022】
また、第2のシールドガスの第2の流速Sを0m/sec<S≦1.51m/secとすることで、アーク部分でのヘリウム濃度を適正な値にすることができ、また、酸化を抑制するためのシールド効果を十分に得ることが可能となるので、良好なビード外観を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法に適用する二重シールド溶接トーチの主要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して本発明を適用した実施の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、本発明の実施形態の構成を説明するためのものであり、図示される各部の大きさや厚さや寸法等は、実際の二重シールド溶接トーチの寸法関係とは異なる場合がある。
【0025】
(実施の形態)
図1は、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法に適用する二重シールド溶接トーチの主要部の断面図である。
【0026】
始めに、図1を参照して、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法に適用する二重シールド溶接トーチ10の構成について説明する。
二重シールド溶接トーチ10は、電極15と、第1のシールドノズル16と、第2のシールドノズル17と、を有する。
【0027】
電極15は、アークを発生させる先端15Aを有する。電極15としては、タングステン電極を用いることができる。
第1のシールドノズル16は、筒状とされており、電極15の外側に配置されている。第1のシールドノズル16と電極15との間には、第1のシールドガスを電極15の先端15Aに供給するための第1の流路21が形成されている。
【0028】
第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用いる。
これにより、第1のシールドガスとしてヘリウムガスのみを用いた場合と比較して、フェライト系ステンレス鋼のTIG溶接のコストを低減することができる。
【0029】
また、より好ましくは、第1のシールドガス(混合ガス)に含まれるヘリウムガスを25〜75体積%にするとよい。このように、第1のシールドガス(混合ガス)に含まれるヘリウムガスを25〜75体積%にすることで、安定した十分な深さとされた溶け込み深さを得ることができ、かつアークを安定して発生させることができる。
なお、ここでの「十分な深さとされた溶け込み深さ」とは、裏波の幅が2mm以上の場合のことをいう。
【0030】
また、第1のシールドガスとしてアルゴンガスと20〜90体積%のヘリウムガスとの混合ガスを用いることで、電極15の直下に形成されるアークの温度が高くなりすぎることがなくなるため、電極15の消耗が抑制可能となるので、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接のコストを低減でき、かつ十分な溶け込み深さを得ることができる。
【0031】
第1のシールドガスの第1の流速Sが0.175m/secよりも遅いと溶融池の安定した攪拌が得られず、十分な溶け込み深さを得られない。また、1.75m/secよりも大きいと溶融池が過度に攪拌されて乱れるため、不整ビードが発生してしまう。
【0032】
したがって、第1のシールドガスの第1の流速Sは、0.175m/sec≦S≦1.75m/secの範囲内で設定するとよい。これにより、第1の流速Sが適度な値となり、不整ビードの発生を抑制可能となるため、フェライト系ステンレス鋼11の溶接を精度よく行なうことができる。
【0033】
第2のシールドノズル17は、第1のシールドノズル16を囲むように、第1のシールドノズル16の外側に配置されている。第2のシールドノズル17と第1のシールドノズル16との間には、第1のシールドガスを電極15の先端15A側に供給するための第2の流路22が形成されている。
【0034】
第2のシールドガスとしては、アルゴンガスのみを用いる。このように、第2のシールドガスとしてアルゴンガスのみを用いることで、第2のシールドガスとしてヘリウムとアルゴンガスとが混合されたシールドガスを用いた場合と比較して、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接のコストを低減できると共に、酸化を抑制するためのシールド効果を向上させることができる。
【0035】
第2のシールドガスが流れていない場合すなわち、第2の流速Sが0.05m/secよりも遅いとビードを保護するガスが少ないため、シールド効果を十分に得ることが出来ない。結果、ビードが酸化し、電極も消耗してしまう。
また、第2のシールドガスの第2流速Sが1.51m/secよりも大きいと、第1のシールドガスに混入し、始端が揃わないような不整ビードが発生してしまう。
【0036】
したがって、第2のシールドガスの第2の流速Sは、0m/sec<S≦1.51m/secの範囲内で設定するとよい。
このように、第2のシールドガスの第2の流速Sを0m/sec<S≦1.51m/secの範囲内で設定することにより、アーク部分でのヘリウム濃度を適正な値にすることができ、また、シールド効果を十分に得ることが可能となるので、良好なビード外観を得ることができる。
【0037】
また、より好ましくは、第1の流速Sを0.35m/sec≦S≦1.58m/secにすると共に、第2の流速Sを0.24m/sec≦S≦1.21m/secにするとよい。
このように、第1の流速Sを0.35m/sec≦S≦1.58m/secにすると共に、第2の流速Sを0.24m/sec≦S≦1.21m/secにすることで、安定した溶け込み深さが得られると共に、綺麗にシールドされた安定したビード始端を得ることができる。
【0038】
本実施の形態では、上記構成とされた二重シールド溶接トーチ10を用いて、第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用い、第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secの範囲内で設定すると共に、第2のシールドガスとして、アルゴンガスを用い、第2のシールドガスの第2の流速Sを0m/sec<S≦1.51m/secの範囲内で設定して、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行なう。
【0039】
本実施の形態のフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法によれば、第1のシールドガスとして、アルゴンガスと20〜90体積%のヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用いることで、第1のシールドガスとしてヘリウムのみを用いた場合と比較して、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接のコストを低減することができる。
【0040】
また、第1のシールドガスとしてアルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスを用いることで、電極15の直下に形成されるアークの温度が高くなりすぎることがなくなるため、電極15の消耗が抑制可能となる。これにより、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接のコストを低減できると共に、十分な溶け込み深さを得ることができる。
【0041】
また、第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secにすることで、第1の流速Sが適度な値となり、不整ビードの発生を抑制可能となるため、フェライト系ステンレス鋼11の溶接を精度よく行なうことができる。
【0042】
さらに、第2のシールドガスとして、アルゴンガスのみを用いることで、第2のシールドガスとして、ヘリウムとアルゴンガスとが混合されたシールドガスを用いた場合と比較して、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接のコストを低減することができると共に、酸化を抑制するためのシールド効果を向上させることができる。
【0043】
また、第2のシールドガスの第2の流速Sを0m/sec<S≦1.51m/secとすることで、アーク部分でのヘリウム濃度を適正な値にすることができ、また、酸化を抑制するためのシールド効果を十分に得ることが可能となるので、良好なビード外観を得ることができる。
【0044】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【0045】
以下、本発明の効果を、実施例及び比較例を用いて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0046】
<第1のシールドガスに含まれるヘリウムガスの割合が溶接結果に及ぼす影響についての比較例1、実施例1〜5、及び比較例2の評価>
比較例1として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態(アークのスタート性)についての評価を行なった。
【0047】
このとき、第1のシールドガスとしてAr−15%体積He(アルゴンと15体積%のヘリウムガスよりなる混合ガス)、第1の流速Sとして0.35m/sec、第2のシールドガスとしてAr(アルゴンガスのみ)、第2の流速Sとして0.60m/secとした。表1に、比較例1の評価結果を示す。
【0048】
【表1】

【0049】
比較例2として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
比較例2では、第1のシールドガスとしてAr−95%体積Heとした以外は、比較例1と同じ溶接条件を用いた。表1に、比較例2の評価結果を示す。
【0050】
実施例1として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
実施例1では、第1のシールドガスとしてAr−20%体積Heとした以外は、比較例1と同じ溶接条件を用いた。表1に、実施例1の評価結果を示す。
【0051】
実施例2として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
実施例2では、第1のシールドガスとしてAr−25%体積Heとした以外は、比較例1と同じ溶接条件を用いた。表1に、実施例2の評価結果を示す。
【0052】
実施例3として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
実施例3では、第1のシールドガスとしてAr−50%体積Heとした以外は、比較例1と同じ溶接条件を用いた。表1に、実施例3の評価結果を示す。
【0053】
実施例4として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
実施例4では、第1のシールドガスとしてAr−75%体積Heとした以外は、比較例1と同じ溶接条件を用いた。表1に、実施例4の評価結果を示す。
【0054】
実施例5として、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
実施例5では、第1のシールドガスとしてAr−90%体積Heとした以外は、比較例1と同じ溶接条件を用いた。表1に、実施例5の評価結果を示す。
【0055】
ここで、表1の評価結果の見方について説明する。
溶け込み深さについては、溶け込みの深さが浅く裏波がでない場合を×と判定し、溶け込みに伴い生じる裏波が0より大きく1mm未満の範囲内を△と判定し、裏波が1mm以上2mm未満の範囲内を○と判定し、溶け込み深さが2mm以上の場合を◎と判定した。
【0056】
また、ビードの酸化の有無については、ビードの酸化が確認できた場合を×と判定し、ビードの酸化が確認できない場合を○と判定した。ビードの酸化の有無については、目視で確認を行なった。
また、電極15の消耗の有無については、目視するとともに、アークが発生しない場合を×と判定し、アークの発生に時間を要する場合を△と判定し、瞬時に安定してアークが発生する場合を○と判定した。
また、アークの発生状態については、アークが発生しない場合を×と判定し、アークの発生に時間を要する場合を△と判定し、瞬時に安定したアークが発生する場合を○と判定した。
【0057】
表1を参照するに、比較例1では、十分な溶け込み深さを得ることができなかった。また、実施例1では、やや浅いが、溶接を行なうことの可能な溶け込み深さを得ることができた。また、実施例2,3では、十分な溶け込み深さを得ることができた。また、ヘリウムガスが75%体積以上含まれる第1のシールドガスを用いた場合、溶け込み深さはさらに、深くなることが確認できた。
【0058】
このことから、溶け込み深さは、ヘリウムガスの割合が高くなると、深くなることが確認できると共に、第1のシールドガスに含まれるヘリウムガスの割合が20体積%以上のときに、十分な溶け込み深さを得ることができることが確認できた。
【0059】
ビードの酸化については、比較例1、実施例1〜5、及び比較例2の全てについて観察されることはなく、良好な結果が得られた。
電極15の消耗については、比較例2のみが少し電極15の消耗が確認された。このことから、電極15の消耗の観点から、第1のシールドガスに含まれるヘリウムガスの割合は、15〜90体積%の範囲内にする必要があることが確認できた。
【0060】
アークの発生状態は、比較例1及び実施例1〜実施例4で良好な結果が得られた。実施例5では、ややアークの発生状態がよくなかったが溶接に大きな影響を及ぼす程ではなかった。また、比較例2では、アークが発生しなかった。よって、アークの発生状態の観点から、第1のシールドガスに含まれるヘリウムガスの割合は、15〜90体積%の範囲内にする必要があることが確認できた。
【0061】
上記表1に示す評価結果から、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスである第1のシールドガスに含まれるヘリウムガスを20〜90体積%のガスとすることで、ビード及び酸化がなく、かつバラツキが少なく、十分な溶け込み深さを得ることができることが確認できた。
また、アルゴンガスと20〜90体積%のヘリウムガスとの混合ガスである第1のシールドガスに含まれるヘリウムガスを25〜75体積%とすることで、溶け込み深さが十分な深さとされ、ビードの酸化がなく、電極15の消耗もなく、良好なアーク発生状態とされた溶接を行なうことが可能なことが確認できた。
【0062】
<第1及び第2のシールドガスの第1及び第2の流速S,Sを変化させた際の溶接評価>
次に、図1に示す二重シールド溶接トーチ10(電極15としてタングステン電極を備えた溶接トーチ)を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。
【0063】
このとき、第1のシールドガスとしてAr−20%体積Heを用い、第2のシールドガスとしてAr(アルゴンガスのみ)を用いると共に、第1の流速Sとして0m/sec、0.175m/sec、0.35m/sec、0.526m/sec、0.702m/sec、0.877m/sec、1.05m/sec、1.23m/sec、1.40m/sec、1.58m/sec、及び1.75m/secを用い、各第1の流速Sに対して、第2の流速Sを変化させた際の評価を行なった。
【0064】
また、第2の流速Sとしては、0m/sec、0.01m/sec、0.05m/sec、0.18m/sec、0.24m/sec、0.30m/sec、0.60m/sec、0.91m/sec、1.21m/sec、1.51m/sec、1.81m/secを用いた。
【0065】
表2に、上記評価結果を示す。また、表2は、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を総合的に判断した結果を示している。また、表2では、評価結果がフェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する上で問題のないレベルである場合を○と判定し、評価結果がフェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接できないレベルの場合を×と判定し、非常に良好な評価結果を◎と判定した。
【0066】
【表2】

【0067】
第1のシールドガスとしてAr−25%体積Heを用いた以外は、表2に示す実験と同様な条件を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。この結果を表3に示す。
【0068】
【表3】

【0069】
第1のシールドガスとしてAr−50%体積Heを用いた以外は、表2に示す実験と同様な条件を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。この結果を表4に示す。
【0070】
【表4】

【0071】
第1のシールドガスとしてAr−75%体積Heを用いた以外は、表2に示す実験と同様な条件を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。この結果を表5に示す。
【0072】
【表5】

【0073】
第1のシールドガスとしてAr−90%体積Heを用いた以外は、表2に示す実験と同様な条件を用いて、フェライト系ステンレス鋼11として厚さ2mmのSUS430の溶接を行い、溶け込み深さ、ビードの酸化の有無、電極の消耗の有無、及びアークの発生状態についての評価を行なった。この結果を表6に示す。
【0074】
【表6】

【0075】
(第1の流速Sを0m/secで固定し、かつ第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2〜表6に示すように、第1の流速Sが0m/secで、第2の流速Sを0〜1.81m/secの範囲内で変化させた場合は、アークの発生が不安定となり、安定したビードを得ることができなかった。これにより、良好な結果を得ることができなかった。
【0076】
(第1の流速Sを0.175m/secで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2及び表3を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積HeまたはAr−25%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.18m/secの範囲内、及び0.91〜1.81m/secの範囲内では、裏波の安定した良好なビードが得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0077】
また、第1のシールドガスとしてAr−20%体積HeまたはAr−25%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.24〜0.60m/secの範囲内では、ビードが少し不整であったが、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行なう上で問題ないレベルであった。
【0078】
表4を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.05m/secの範囲内、及び0.91〜1.81m/secの範囲内では、裏波の安定した良好なビードが得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
また、第1のシールドガスとしてAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.18〜0.60m/secの範囲内では、ビードが少し不整であったが、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行なう上で問題ないレベルであった。
【0079】
表5及び表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び0.91〜1.81m/secの範囲内では、裏波の安定した良好なビードが得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
また、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.05〜0.60m/secの範囲内では、ビードが少し不整であったが、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行なう上で問題ないレベルであった。
【0080】
(第1の流速Sを0.35m/secで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2及び表3を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積HeまたはAr−25%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.05m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0081】
また、第1のシールドガスとしてAr−20%体積HeまたはAr−25%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.18m/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積HeまたはAr−25%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.24〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0082】
表4を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−50%体積HeまたはAr−25%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0083】
また、第1のシールドガスとしてAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.05〜0.18m/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.24〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0084】
表5及び表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0085】
また、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.05m/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.18〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0086】
(第1の流速Sを0.526m/secで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.05m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0087】
また、第1のシールドガスとしてAr−20%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.18m/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.24〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0088】
表3及び表4を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−25%体積HeまたはAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0089】
また、第1のシールドガスとしてAr−25%体積HeまたはAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.05〜0.18m/secの範囲内及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−25%体積HeまたはAr−50%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.24〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0090】
表5及び表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0091】
また、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.05/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.18〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0092】
(第1の流速Sを0.702m/secで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2〜表4を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、及びAr−50%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0093】
また、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、及びAr−50%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、第2の流速Sが0.05〜0.18m/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、及びAr−50%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、第2の流速Sが0.24〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0094】
表5及び表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0095】
また、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.05/sec及び1.51m/secでは、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
さらに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.18〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0096】
(第1の流速Sを0.877m/secで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2〜表4を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、及びAr−50%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、第2の流速Sが0.702m/secのときと同様な結果が得られた。
つまり、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secの条件では、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接できず、第2の流速Sが0.05〜0.18m/sec及び1.51m/secでは、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであり、第2の流速Sが0.24〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0097】
表5及び表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.702m/secのときと同様な結果が得られた。
つまり、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接することができず、第2の流速Sが0.05/sec及び1.51m/secの場合、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであり、第2の流速Sが0.18〜1,21m/secの範囲内では、非常に良好な結果が得られた。
【0098】
(第1の流速Sを1.05m/sec、1.23m/sec、1.40m/sec、1.58m/secのいずれかで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2〜表4を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、及びAr−50%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、第2の流速Sが0.702m/secのときと同様な結果が得られた。
【0099】
また、表5及び表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−75%体積HeまたはAr−90%体積Heを用いた場合、第2の流速Sが0.702m/secのときと同様な結果が得られた。
【0100】
(第1の流速Sを1.75m/secで固定し、かつヘリウム濃度及び第2の流速Sを変化させた際の評価結果)
表2〜表6を参照するに、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、Ar−50%体積He、Ar−75%体積He、及びAr−90%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、第2の流速Sが0〜0.01m/secの範囲内、及び1.81m/secでは、連続した裏波が得られなかった。つまり、フェライト系ステンレス鋼11をTIG溶接する際に使用できない条件であった。
【0101】
また、第1のシールドガスとしてAr−20%体積He、Ar−25%体積He、Ar−50%体積He、Ar−75%体積He、及びAr−90%体積Heのうち、いずれかのガスを用いた場合、
第2の流速Sが0.05〜1.51m/secの範囲内では、細い裏波ではあるが、裏波は安定して得られているため、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行う上で問題ないレベルであった。
【0102】
上記評価結果から、図1に示す二重シールド溶接トーチ10を用いて、第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用い、第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secの範囲内で設定すると共に、第2のシールドガスとして、アルゴンガスを用い、第2のシールドガスの第2の流速Sを0.05m/sec≦S≦1.51m/secの範囲内で設定して、フェライト系ステンレス鋼11のTIG溶接を行なうことで、コストを抑制でき、酸化を抑制するためのシールド効果を高めることができ、かつ十分な溶け込み深さを得ることができることが確認できた。
【0103】
また、第1の流速Sを0.35m/sec≦S≦1.58m/secにすると共に、第2の流速Sを0.24m/sec≦S≦1.21m/secにすることで 第1及び第2の流速S,Sが適正な範囲内に保たれるため、アークの集中性が増し、連続した良好な裏波を得られることが確認できた。
なお、第2(外側)の流速Sがある一定以上速くなると、第1(内側)の流速Sに乱入し、十分な裏波(溶け込み)を得ることができない。
【産業上の利用可能性】
【0104】
本発明は、コストを抑制可能であり、酸化を抑制するためのシールド効果を高めることが可能であり、かつ十分な溶け込み深さを得ることの可能なフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0105】
10…二重シールド溶接トーチ、11…フェライト系ステンレス鋼、15…電極、15A…先端、21…第1の流路、22…第2の流路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アークを発生させる先端を備えた電極、該電極を囲む第1のシールドノズル、及び該第1のシールドノズルの外側に配置された第2のシールドノズルを有し、前記第1のシールドノズルの内側から前記電極の先端に第1のシールドガスを供給すると共に、前記第1のシールドノズルと前記第2のシールドノズルとの間から前記電極の先端側に第2のシールドガスを供給する溶接トーチを用いたフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法であって、
前記第1のシールドガスとして、アルゴンガスとヘリウムガスとの混合ガスで、かつ該混合ガスに含まれるヘリウムガスが20〜90体積%のガスを用い、前記第1のシールドガスの第1の流速Sを0.175m/sec≦S≦1.75m/secにすると共に、
前記第2のシールドガスとして、アルゴンガスを用い、前記第2のシールドガスの第2の流速Sを0.05m/sec≦S≦1.51m/secとしたことを特徴とするフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法。
【請求項2】
前記第1の流速Sを0.35m/sec≦S≦1.58m/secにすると共に、前記第2の流速Sを0.24m/sec≦S≦1.21m/secとしたことを特徴とする請求項1記載のフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法。
【請求項3】
前記混合ガスに含まれる前記ヘリウムガスが20〜90体積%であることを特徴とする請求項1または2記載のフェライト系ステンレス鋼のTIG溶接方法。

【図1】
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【公開番号】特開2013−86136(P2013−86136A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−229533(P2011−229533)
【出願日】平成23年10月19日(2011.10.19)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】