説明

フェリ−スクシニルカゼインの製造方法

本発明は、フェリ−スクシニルカゼインの新規な製造方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェリ−スクシニルカゼイン(ferri−succinylcasein)の新規な製造方法に関する。
【0002】
GB−A−2115821は、鉄含有スクシニル化タンパクの製造方法を開示している。前記製造方法においては、乳粉、乳タンパク、卵タンパク、牛血清タンパク、豚レバータンパクあるいは大豆タンパクを、アルカリ環境下で無水コハク酸と反応させ、結果として生じたタンパク溶液を遠心分離あるいは濾過し、酸性化した直後に沈澱させる。沈澱物を、再度、遠心分離あるいは濾過によって分離し、水中に再懸濁させる。その後、分離した沈澱物を、弱アルカリ性の環境下で溶解し、溶液を遠心分離あるいは濾過し、再度、酸性化させ、スクシニル化タンパクの沈澱物を生成する。鉄塩との反応のため、前記沈澱物を、再度、弱アルカリ性の環境下で溶解する。GB−A−2115821に記載の方法は、精製を目的として、スクシニル化タンパクを沈澱、再沈澱させるという面倒な精製工程を行うが、それにも関わらず、特に、除去困難な、粘液状の不溶の誘導体が生成されるという欠点があった[EP−A2−0939083]。GB−A−2115821記載の方法の、こうした欠点を克服するため、ヨーロッパ特願EP−A2−0939083には、スクシニル化カゼインの鉄錯体が記載されている。前記スクシニル化カゼインの鉄錯体は、食品グレードのカゼインから得られ、鉄欠乏に関連する病理的症状の治療に使用されている。フェリ−スクシニルカゼインは、カゼインを無水コハク酸と反応させて、スクシニルカゼインを生成させ、次に、スクシニルカゼインを塩化第二鉄と反応させるという、複雑な合成によって生成される。第一の工程におけるスクシニルカゼインの沈澱の後、得られたスクシニルカゼインを、面倒な分散(dilaceration)をしつつ、再度溶解する。分散とは、単なる機械的攪拌では除去できない、懸濁した固体の凝集物を除去するための、ポンプの使用を特徴とする、高い機械的エネルギーを必要とする工程である。分散工程は、特殊な分散ポンプを使用して実行される工程であり、プロペラの運動が切削ギアの運動に連動する。分散後に得られたスクシニルカゼインの水溶液を、次に、塩化第二鉄と反応させる。得られたスクシニルカゼインもまた、面倒な分散をしつつ溶解させる。よって、EP−A2−0939083による方法は、これらの分離、分散工程のために、プロセス全体を、複雑で、及び、時間、コストかつエネルギーを要するものとしまう欠点がある。さらに、この方法においては、目的物質を適度な収率で得るために、比較的大量の無水コハク酸を使用しなければならない。また、GB−A−2115821の方法は、工業的に使用するにはとりわけ非常に不都合である。なぜならば、この方法は、鉄塩と反応させる前に、スクシニル化タンパクを沈澱、再溶解、再沈澱及び再溶解させる必要があるからである。
【0003】
EP−A1−0319664もまた、酵素で劣化させた、スクシニルポリペプチドの鉄錯体を生成するための方法を開示している。ここで出発物質として使用されるスクシニル化ポリペプチドの生成については、前記GB−A−2115821の対応特許であるIT1150213が援用されている。
【0004】
本願の優先日後に公開されたWO2006/021843には、鉄スクシニルカゼインの製造方法が開示されている。EP−A2−0939083及びGB−A−2115821と同様に、この文献には、アルカリ溶液中で、カゼインを無水コハク酸と反応させてスクシニルカゼインを生成させることが実施例に記載されている。次いで、スクシニルカゼインを、塩酸の添加により沈澱させる。沈澱したスクシニルカゼインは、次に、再度、完全に溶解させ、濾過し、塩化鉄と反応させる。すなわち、WO2006/021843の方法もまた、スクシニルカゼイン中間体の溶液(懸濁液よりはむしろ溶液)を塩化鉄と反応させる前の、スクシニルカゼイン中間体の濾過による単離、洗浄、湿造粒、溶解、濾過といった、付加的な工程を開示している。さらに、WO2006/021843は、再溶解工程の前に沈澱したスクシニルカゼイン中間体を付加的に造粒させて、鉄塩と反応させるスクシニルカゼイン溶液を得ることを特徴としている。
【0005】
ゆえに、関連する従来技術が、スクシニルカゼイン中間体の再溶解及び再沈澱といった付加的な工程が鉄スクシニルカゼインの製造にとって不可欠であり、そしてさらに、スクシニルカゼイン中間体の懸濁液よりはむしろ溶液を塩化鉄と反応させることが不可欠であると考えていることは明白である。
【0006】
本願の優先日後に、オーストラリア特許庁が実施したパテントサーチにおいて、さらに下記の追加従来技術文献が特定されているが、重要性において劣るか、全く重要ではないことが判明した。
AU 652021 B、EP 0739634 B1、EP 0243322 B1、US 6994876 B1、GB 1475577 A、US 2006/147552、WO 2006/001429、WO 2006/001430
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述に鑑み、本願の目的は、
−ワンポット反応、
−中間体の単離、精製及び/又は分散工程の不要、
−工程時間の短縮、
−より高い体積効率につながる濃度増加、
−無水コハク酸の量の削減、
−侵食性を低下させたpH値(less aggressive pH values)による、材料の高抵抗化
を特徴とする、
フェリ−スクシニルカゼインの新規な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願は、目的とする製品品質を高い収率で得ることができる、より単純で、かつ、時間、コスト、エネルギーを節減した製造方法に関する。よって、得られるフェリ−スクシニルカゼイン錯体は、正確かつ再現可能な量の鉄を、副作用なしで投与可能にする。本発明者らは、フェリ−スクシニルカゼインが、より簡単な方法で製造でき、その結果、スクシニル化タンパク中間体に対する、中間の単離工程、精製工程、特に再沈澱工程、あるいは分散工程を不要とすることを示すことができる。
【0009】
よって、本発明のフェリ−スクシニルカゼインの新規な製造方法は、
(a)カゼインを少なくとも1つのスクシニル化剤、好ましくは無水コハク酸と反応させ、スクシニルカゼインの水性懸濁液を生成し、および
(b)工程(a)で得られたスクシニルカゼインの水性懸濁液を、少なくとも1つの鉄塩と反応させ、フェリ−スクシニルカゼインを生成することを含む。
【0010】
上述したように、本発明の方法は、沈澱、溶解、再沈澱及び再溶解によって得られたスクシニル化タンパクの溶液を鉄塩と反応させるのではなく、カゼインを無水コハク酸と反応させ、続いて酸性化させて得られた水性懸濁液を、直接、すなわち、分散及び/又は精製なしで、すなわち、再沈澱工程なしで、鉄塩と反応させる点において、GB−A−2115821に記載の方法と異なる。
【0011】
同様に、本発明の方法は、特に、スクシニルカゼインの溶液ではなく、スクシニルカゼインを生成させる工程(a)の、酸沈澱によって得られるスクシニルカゼインの懸濁液を鉄塩と反応させるという点で、EP 0939083 A2とも異なる。したがって、工程(a)で得られたスクシニルカゼインを溶液化するための、時間、エネルギー、ひいてはコストのかかる分散工程が、なんの不都合も伴わず、驚くほど完全に不要となる。水溶液に対し、水性懸濁液とは、濾過によって分離できる不溶物を含有する懸濁液を意味する。
【0012】
上述の通り、本発明とは異なり、上記二つの従来技術文献(EP−A2−0939083及びGB−A−2115821)においては、スクシニル化タンパクの懸濁液ではなく、むしろ溶液が鉄塩と接触している。さらに、二つの従来技術文献においては、分散による(EP−A2−0939083)及び再沈澱による(GB−A−2115821)、スクシニル化タンパクのさらなる精製工程を必要とするが、本発明においては、これらは実施されない。よって、本発明は、従来技術に比べると、特に工業的生産において、非常に有利である。
【0013】
すなわち、スクシニル化剤をカゼインと反応させた直後の、工程(a)で得られたスクシニル化カゼインの水性懸濁液が、(直接)鉄塩の反応に供される。
特に、工程(a)におけるスクシニル化剤とカゼインの反応と、工程(b)におけるスクシニル化されたカゼインと鉄塩の反応の間において、スクシニル化カゼインの分離及び/又は単離工程、及び再沈澱や分散工程のような精製工程は実施されない。
【0014】
本発明の工程(a)の好適な実施態様は、下記の副工程のいずれかを含む。
(a1)カゼインを水に、好ましくは高濃度で懸濁させる(EP−A2−0939083及びGB−A−2115821とは対照的)。
(a2)必要ならば、水性懸濁液のpH値を少なくとも6に調節する。
(a3)少なくとも1つの塩基を添加することによって、懸濁液のpH値を少なくとも6に保ちつつ、少なくとも1つのスクシニル化剤、好ましくは無水コハク酸、を添加する。
【0015】
工程(a1)において、カゼインの水に対する重量比は1:1から1:100、好ましくは1:2から1:15、より好ましくは1:4から1:8(m/m)の範囲で調節される。驚くべきことに、本発明の方法においては、水の初期量が最小量まで削減でき、それによって、工程の体積効率が顕著に向上できることが確認された。
【0016】
カゼインを水中で攪拌すると、pH値は約5となる。
よって、本発明のプロセスは、通常、水中でのカゼインの水性懸濁液のpH値を少なくとも6、好ましくは少なくとも7(工程(a2))に調節する工程を含む。この調節は、通常、1つ以上の塩基を添加することによって達成できる。塩基の例としては、水酸化物、酸化物及び/又は炭酸塩といったアルカリもしくはアルカリ土類金属塩が挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムといったアルカリ金属水酸化物、特に水酸化ナトリウムが好適である。工程(a2)において、pH値はより好ましくは少なくとも7.5、さらに好ましくは約8に調節される。希望するpH値のカゼインの水性懸濁液を生成した後、少なくとも1つの塩基を添加することによって、懸濁液のpH値を少なくとも7に保ちつつ、スクシニル化剤、好ましくは無水コハク酸を、工程(a3)において添加する。塩基は、好ましくは工程(a2)において使用したものと同様である。無水コハク酸は通常、粉状で添加される。無水コハク酸はカゼインに、継続的あるいは断続的に、たとえば、1回あるいは1回より多い時間的に分離された部分(portion)として添加できる。「時間的に分離された」とは、二回の添加の間の時間間隔が好ましくは少なくとも30秒、より好ましくは少なくとも60秒、さらに好ましくは少なくとも300秒であることを意味する。驚くべきことに、本発明の方法においては、無水コハク酸の必要量を削減できることが確認できた。かくして、本発明の工程(a)において、無水コハク酸のカゼインに対する、最低の重量比は好ましくは少なくとも3.5:1、より好ましくは少なくとも4:1、さらに好ましくは少なくとも5:1である。本発明の好ましい実施態様において、カゼインの無水コハク酸に対する重量比は、好ましくは最大12:1、より好ましくは最大10:1、さらに好ましくは最大8:1である。通常、ガスクロマトグラフィー[Cremonesi P.&Caramazza.l(1993)、 International Journal of Clinical Pharamacology、Therapy and Toxicology、31:40−51]で決定したコハク酸の含有量約7.5%[m/m]に対応して、カゼイン中に含まれるアミノ酸残基のすべてを実際にスクシニル化することが望まれているため(すなわち、置換度90%以上;ニンヒドリン法による[Yemm、 Cocking;Succinylation reaction、 Analyst 80、 209]、カゼインの無水コハク酸に対する重量比は、約1:12である。
【0017】
本発明によると、食品グレードのカゼイン、すなわち、食品用に使用されるカゼインを使用することが好ましい。「食品グレードのカゼイン」という表現は、厳しく統制された繁殖牧場に由来するミルクから得られたカゼインを意味する。これらの製品は、バクテリアに対する細菌学的純度が10UFC/g未満のレベルであり、カビに対する細菌学的純度が10UFC/g未満のレベルである。
食品グレードのカゼインを使用すると、通常の乳タンパクから得られる類似の複合種に比べ、特に純粋な製品が得られる。
【0018】
さらに、無水コハク酸は、少なくとも10分間、より好ましくは少なくとも15分間、さらに好ましくは少なくとも20分間かけてカゼインに添加する。
【0019】
無水コハク酸添加後の反応時間は、通常60分未満、好ましくは45分未満、より好ましくは30分未満である。
【0020】
工程(a)の反応は、通常、温度が約10℃から40℃で実施され、好ましくは室温程度(15℃から25℃)で実施される。
【0021】
無水コハク酸とカゼインの反応後、生成したスクシニル化カゼインは、一般に、得られた溶液に適当な酸を添加して、pHを2から7、好ましくは2.5から6.5、より好ましくは3.0から4.5とすることによる酸性化によって沈澱する。pHが2から7、好ましくは2.5から6.5、より好ましくは3.0から4.5となる(工程(a4))。使用できる酸の具体例としては、塩酸及び硫酸の水溶液が挙げられるが、塩酸が最も好ましい。
【0022】
よって、工程(a)においては、通常、pH値が好ましくは7以下、より好ましくは6以下である、スクシニルカゼインの酸懸濁液が得られる。
【0023】
本発明の方法においては、上記工程(a)で得られた通常のスクシニルカゼインの酸水性懸濁液は、一般に、さらなる単離、精製及び分散の工程を踏まずにそのまま、次の工程(b)における鉄塩との反応に使用される。特に、工程(a)で得られた、沈澱したスクシニルカゼインは、鉄塩と反応させる前に、とりわけ面倒な分散工程による溶液化はさせない。
【0024】
このように、工程(b)においては、工程(a)において得られた、pH値7未満、より好ましくは6未満のスクシニルカゼインの酸性水性懸濁液は、少なくとも1つの鉄塩と直接反応する。すなわち、特にさらなる単離、精製及び/又は分散の工程を経ない。これと対照的に、EP 0939083 A2及びGB−A−2115821の方法では、複雑な工程を経て精製されたスクシニルカゼインのアルカリ溶液に鉄塩が添加される。この方法だと、アルカリ性pH値で沈澱した不溶の水酸化鉄が大量に生成され、それらを再度分離しなければならないため、プロセスにおける鉄の損失が生じる。
【0025】
本発明の工程(b)においては、沈澱したスクシニル化カゼインは、少なくとも1つの鉄源、好ましくは、塩化第二鉄、及び、硫酸塩、アスパラギン酸塩、フマル酸塩、クエン酸塩、グルコン酸塩、グリシン酸塩、乳酸塩及び蓚酸塩などのその他の鉄(III)含有塩から成る群から選ばれる少なくとも1つの鉄塩と、直接反応する。最も好ましいのは、塩化鉄(III)(塩化第二鉄)である。
【0026】
通常、本発明の方法の工程(b)において、鉄塩は水溶液として使用される。
【0027】
塩化第二鉄が工程(b)において鉄源として使用された場合、スクシニルカゼインと塩化第二鉄との反応は、好ましくは、鉄含有量が0.5から20%(m/m)、より好ましくは1から15%(m/m)の塩化第二鉄溶液を使用して実施される。工程(b)において、投与時間の短縮化及び体積効率の向上のため、塩化第二鉄の濃度は高い方がよい。塩化第二鉄溶液のスクシニルカゼイン懸濁液への投与時間は、好ましくは1分から40分、より好ましくは2分から20分、最も好ましくは3分から15分である。
【0028】
本発明の方法の工程(b)における鉄源の添加中、適量の塩基を反応媒体に添加し、pHを、好ましくは2から6の間、より好ましくは2.5から5.0、及びさらに好ましくは3から4に保ち、鉄錯体の生成を促進する。好適な塩基としては、上述したものが挙げられるが、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。水酸化鉄の生成を避けるため、pH値が高くならないようにする。
【0029】
スクシニルカゼイン懸濁液への鉄源の添加後、結果として生じる混合物を好ましくは、室温(15℃から25℃)程度で攪拌する。
【0030】
その後、好ましくは工程(c)において、少なくとも1つの塩基を添加することによって、水性懸濁液中に得られるフェリ−スクシニルカゼインを溶解させる。これにより、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物が生成する。工程(c)において、反応混合物のpHは、好適な塩基を添加することにより、一般に少なくとも7.0、好ましくは7から11、より好ましくは7.5から9.5に調節される。好適な塩基としては、上述したものが挙げられるが、水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。
【0031】
同時に、懸濁液は好ましくは室温もしくは、好ましくは最大50℃、より好ましくは最大45℃、最も好ましくは最大40℃までわずかに高めた温度で、好ましくは約10分から120分、より好ましくは20分から100分、最も好ましくは30分から80分、攪拌する。
【0032】
通常、残った不溶物は、好ましくは濾過によって、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物から分離し、その結果、通常のアルカリ性のフェリ−スクシニルカゼイン水溶液が得られる(工程(d))。
【0033】
EP 0939083 A2とは対照的に、本発明の方法は、アルカリ性の生成物溶液を得るために、フェリ−スクシニルカゼイン懸濁液を、時間とコストを要する単離及び/又は分散工程にかける必要はない。よって、本発明の好ましい態様においては、フェリ−スクシニルカゼインのアルカリ性溶液を得るための、単離及び/又は分散工程も省略される。
【0034】
さらなる工程(e)では、好ましくは、少なくとも1つの酸を添加することによってフェリ−スクシニルカゼインを水溶液中に沈澱させ、得られたフェリ−スクシニルカゼインを回収する。工程(e)におけるフェリ−スクシニルカゼインの沈澱は、好ましくはpH2から6、より好ましくは3から5で実施される。EP 0939083 A2及びGB 2115821とは対照的に、pH値の範囲は3、もしくは3を超える値さえまで高めることができる。それによって、生成懸濁物の侵食性を低減でき(less aggressive product suspension)、結果として、ステンレススチール製の装置の使用が可能になる。より高いpH値は不都合である。その理由は、高いpH値でのフェリ−スクシニルカゼインの溶解性は、収率を低下させる可能性があるからである。
【0035】
工程(e)におけるフェリ−スクシニルカゼインの沈澱に使用される前記酸は、好ましくは、濃度が約15重量%から25重量%に希釈された塩酸である。あるいは、硫酸、酢酸、マロン酸、リンゴ酸、クエン酸、酒石酸、乳酸が使用できる。
【0036】
本発明によれば、フェリ−スクシニルカゼインを含む粗生成物は、通常、濾過あるいは遠心分離、洗浄(例:水洗)および、例えば、ロータバップや真空乾燥機による乾燥によって回収される。特に、乾燥は、減圧下、たとえば10から200mbar、好ましくは20mbarから150mbar、及び室温より高い温度、たとえば50℃から100℃、好ましくは60℃から90℃、より好ましくは70℃から80℃で、数時間、たとえば2時間から50時間、好ましくは10から40時間実施する。残った水の含量は、通常、約10重量パーセント未満である。
【0037】
得られたフェリ−スクシニルカゼイン錯体は、通常、鉄(III)を基準とした鉄の含有量が約4から6重量パーセント、好ましくは約5重量パーセントである。
【0038】
好ましい実施態様においては、得られたフェリ−スクシニルカゼインを乾燥する代わりに、湿った状態のものを、直接、経口投与用の薬剤、好ましくは、液状の薬剤に製剤することが可能である。
【0039】
本発明の方法は、好ましくはワンポットプロセスであり、好ましくは、下記の工程を含む。
(a)カゼイン(好ましくは、高濃度、すなわち、水に対する重量比が1:2から1:15、より好ましくは1:4から1:8のカゼイン)を、無水コハク酸と反応させてスクシニルカゼインの水性懸濁液を生成する。
(b)工程(a)で得られたスクシニルカゼインの水性懸濁液を直接、すなわち、中間の単離、精製及び/又は分散工程を経ずに、少なくとも1つの鉄塩と反応させ、好ましくは不溶の水酸化鉄を実質的に含まないフェリ−スクシニルカゼインを生成する。
(c)少なくとも1つの塩基を添加することにより、フェリ−スクシニルカゼインを、好ましくは中間の単離、精製及び/又は分散工程を経ずして溶解し、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物を生成する。
(d)前記水性組成物から、不溶物を分離し、フェリ−スクシニルカゼインの水溶液を得る(特に濾過によって行われるこの分離は、主として、製薬的な必要性のために行われる)。
(e)好ましくは、生成懸濁物の侵食性を低下させるような高いpH値において、少なくとも1つの酸を添加することによって、前記水溶液にフェリ−スクシニルカゼインを沈澱させ、得られたフェリ−スクシニルカゼインを回収する。
(f)前記フェリ−スクシニルカゼインを乾燥させるか、あるいは湿った状態のフェリ−スクシニルカゼインを直接、薬剤に、好ましくは液状の薬剤に製剤する。
【0040】
好ましい実施態様において、本発明の方法は、実質的に、上述の工程(a)から(f)から成る。
【0041】
本発明の方法は、断続的(すなわちバッチ式)及び/又は部分的に連続的に実施される。
【0042】
このことは、従来技術に比較しての顕著な単純化という点から、少なくとも部分的には連続して実施できるという、本発明の方法のさらなる利点を表している。
【0043】
好ましい実施態様において、特に、上述した工程(c)、すなわちフェリ−スクシニルカゼインを、少なくとも1つの塩基の添加によって溶解させた後のワークアップ(work−up)は、連続的に実施される。より具体的には、工程(c)後、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物は、反応器から連続的に排出され、好ましくは、静的パイプミキサーにおいて、水で希釈される。
【0044】
水による希釈の最適な条件は、特に、体積比(工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物の温度に依存する。工程(c)で得られた水性組成物)の温度が35℃、あるいは40℃を超える場合(例えば50℃)、希釈に使用される水は、好ましくは、工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物の温度に近い温度であることが好ましい。特に、希釈に使用される水の温度は、好ましくは、工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物の温度の±5℃であることが好ましい。体積比[(工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物)/(希釈に使用される水)]は、好ましくは約1:1から1:10の範囲、より好ましくは1:2から1:6の範囲、最も好ましくは1:4である。
【0045】
工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物の温度が35℃未満(例えば30℃)である場合、希釈に使用される水の温度は特に25±5℃であり、体積比[(工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物)/(希釈に使用される水)]は、好ましくは約1:2から1:10の範囲、より好ましくは1:4から1:8の範囲、最も好ましくは1:6である。
【0046】
工程(c)で得られた、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物を水によって希釈した後、得られる希釈した水性組成物から、好ましくは、濾過によって、不溶物を除去する(工程(d)に対応する)。
【0047】
その後、好ましく濾過され、希釈された、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物は、好ましくは、さらなる静的パイプミキサーにおいて酸性媒体と接触し、フェリ−スクシニルカゼインを沈澱させる(工程(e)に対応する)。好ましくは希釈した塩酸(15から25重量パーセント)である、前記酸性媒体は、pHが好ましくは2から6、より好ましくは2.5から5、より好ましくは3から4に調節されるように、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性組成物と接触する。
【0048】
沈澱後、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含む水性懸濁液は、通常、濾過あるいは遠心分離によって回収され、洗浄される(例えば、水で)。実験レベルでは、これらの工程は好ましくは断続的に実施され、工業生産レベルでは、単離および洗浄はデカンタあるいは遠心分離機をそれぞれ使用して連続して実施される。乾燥は、たとえば、上記(工程(f))のロータバップあるいは真空乾燥機を使用して実施される。この工程は、好ましくは、実験レベルでも工業生産レベルでも断続的に実施される。
【0049】
上述した、連続的なワークアップの利点としては下記が含まれる。
−大きいバッチサイズが可能である(所定の体積の反応器で合成を行い、ワークアップは反応器外で行う)。
−ワークアップ手順は、バッチサイズと関係ない。
−沈澱物の粘性が向上する(べとつきが少ない)。
【0050】
本発明によれば、好ましくは、上述した工程(a)から(c)は、断続的(すなわちバッチ式に)に行われ、上述した工程(d)から(f)は、連続的に行われる。本発明によれば、1つ以上のバッチ反応器を組み合わせることが可能である。そこでは、工程(a)から(c)が断続的に1つの連続したワークアップライン(工程(d)から(f))と共に行われ、連続したワークアップラインを、なんら中断することなく実施できるように、バッチ反応器をスイングモードで運転することが可能である。
【0051】
本発明の方法によれば、残渣や、水に不溶あるいは難溶であるところの、鉄の誘導体を含まないフェリ−スクシニルカゼインを得ることが可能である。特に、この生成物は、中性あるいはアルカリ性のpH値(すなわち、腸管の典型的なpH値)において、完全に可溶であることが判明した。これによって、腸での吸収を目的とした、鉄の生物学的利用可能性が保証される。
【0052】
本発明によるフェリ−スクシニルカゼイン錯体は、一定の組成を有しており、鉄のキャリヤとしてのその挙動とリンクした、優れた薬理学的作用を示し、よって、副作用を引き起こす可能性は非常に低い。本生成物の治療目的での使用は、公知の鉄含有化合物の不具合(特に、胃の疾患)を伴わない。さらに、本発明の生成物は、適宜配合して、経口投与に特に適する製剤とすることができる。
【0053】
このように、本発明の方法は、好ましくは、上記のプロセスで得られたフェリ−スクシニルカゼインから薬剤を製造する工程をさらに含み、前記薬剤が、通常、経口投与用の形状であることを特徴とする。
【0054】
そのようなプロセスは、通常、フェリ−スクシニルカゼインを、少なくとも1つの好適な、薬理学的に安全な助剤、希釈剤、あるいはキャリヤと調剤する工程を含む。経口投与に適した助剤、希釈剤、キャリヤの例としては、たとえば、微結晶セルロース、ホスホン酸カルシウム、けい藻土、ラクトース、デキストロースあるいはマンニトールといった糖類、タルク、ステアリン酸、スターチ、重炭酸ナトリウム及び/又はゼラチンが挙げられる。組成物はまた、好適な保存剤、安定剤、界面活性剤、可溶化剤、甘味料及び着色剤、香料を含んでもよい。
【0055】
経口投与用の好適な形状としては、たとえば、錠剤、被覆錠剤、カプセル、ドラッジ、エリクシール、トローチ、ペレット、粉体、溶液、懸濁液、シロップ、飲用バイアル、ジュースなどが挙げられる。この薬剤組成物は、必要ならば、持続リリース型に調剤してもよい。
【0056】
一日の投与量は、もちろん、治療の対象である特定の患者および、治療されるべき症状および疾患に依存する。たとえば、平均的な一日の投与量としては、一日当たり鉄10から500mgである。たとえば、鉄欠乏症の患者の場合、100mgの鉄を一日2回から3回、妊婦の場合は60mgの鉄を一日1回から2回摂取する。
【0057】
本発明の方法は、好ましくは、さらに、得られたフェリ−スクシニルカゼインを、鉄欠乏に由来する何らかの症状に苦しむ患者の治療に使用する薬剤の製造に使用する工程を含む。
【0058】
このような症状としては、疲労感、活力の欠乏、集中力の低下、効率の低下、言葉がうまく出てこない、もの忘れ、皮膚の色が異常に青白い、イライラする、脈が早まる(頻脈)、舌が痛むか腫れる、脾臓が肥大する、変わったものを異常に食べたくなる(異食症)、頭痛、食欲不振、感染しやすくなる、うつ不快感などが挙げられる。
【0059】
本発明は、好ましくは、さらに、得られたフェリ−スクシニルカゼインを、鉄欠乏性貧血、特に、妊娠中の鉄欠乏性貧血、子供や若者に潜在する鉄欠乏性貧血、胃腸疾患による鉄欠乏性貧血、失血、たとえば、胃腸疾患に由来する出血(例:潰瘍、悪性腫瘍、痔、炎症性疾患、アセチルサルチル酸の摂取などによる出血)、月経時の出血、怪我による出血、スプルーによる鉄欠乏性貧血、食餌中の鉄の摂取が減少することによる鉄欠乏性貧血、鉄欠乏に関係した免疫不全、鉄欠乏に関係した大脳機能の損傷、あるいはむずむず脚症候群(RLS)の治療薬としての使用をさらに含む。
【実施例】
【0060】
下記の実施例は、例示のためのものであり、本発明はこれらになんら限定されない。
【0061】
(別途記載がない限り、すべてのパーセントはm/mパーセントである)
【0062】
フェリ−スクシニルカゼインの製造
実施例1
120gのカゼインを、温度20℃で1620gの水に懸濁させる。9.8mlの30%水酸化ナトリウム溶液を40分以内で添加してpH値を8に調節する。22gの無水コハク酸を4つに分別して20分以内で添加する。その間、35.3mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を8に維持する。pHを8に維持しつつ、得られた溶液を30分間攪拌する。66.1mlの20%塩酸溶液によってpH値を4に調節し、フェリ−スクシニルカゼインを沈澱する。32.3mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を4に維持しながら、57.2gのFeCl溶液(12%)を10分以内で添加し、得られた懸濁液をpH値4で1時間攪拌し、次いで、20分以内で30℃まで熱する。27.6mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加して、pH値を6に調節する。30mlの水に溶解する、2.45gのプロピルパラヒドロキシベンゾエートおよび9.14gのメチルパラヒドロキシベンゾエートを添加する。19.7mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を9に調節する。温度30℃およびpH値9で、溶液を1時間攪拌する。濾過後、pH値が3.6になるまで、82.2mlの20%塩酸溶液を添加することによって、生成物を沈澱させる。生成物を濾過し、1lの水で洗浄し、次いで、ロータバップにて、温度75℃および圧力50mbarで5時間乾燥させる。生成物をさらに、真空乾燥機にて、温度75℃から80℃および圧力125mbarで15時間乾燥させる。その結果、127gのフェリ−スクシニルカゼインを得る。
【0063】
実施例2
120gのカゼインを、温度20℃で1622gの水に懸濁させる。9.8mlの30%水酸化ナトリウム溶液を40分以内で添加してpH値を8に調節した。20gの無水コハク酸を4つに分別して20分以内で添加する。その間、32.8mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を8に維持する。pHを8に維持しつつ、得られた溶液を30分間攪拌する。60.5mlの20%塩酸溶液によってpH値を4に調節し、スクシニルカゼインを沈澱させる。32.9mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を4に維持しつつ、57.2gのFeCl溶液(12%)を10分以内で添加する。得られた懸濁液をpH値4で1時間攪拌し、次いで、25分以内で30℃まで熱する。45.0mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加して、pH値を9に調節する。温度30℃およびpH値9で、溶液を1時間攪拌する。濾過後、pH値が3.6になるまで、70.5mlの20%塩酸溶液を添加することによって、生成物を沈澱させる。生成物を濾過し、1lの水で洗浄し、次いで、ロータバップにて、温度75℃および圧力50mbarで5時間乾燥させる。生成物をさらに、真空乾燥機にて、温度75℃から80℃および圧力125mbarで15時間乾燥させる。その結果、133gのフェリ−スクシニルカゼインを得る。
【0064】
実施例3
120gのカゼインを、温度20℃で810gの水に懸濁させる。9.3mlの30%水酸化ナトリウム溶液を40分以内で添加してpH値を8に調節した。20gの無水コハク酸を4つに分別して20分以内で添加した。その間、29.4mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を8に維持する。5mlの30%水酸化ナトリウムを添加することによってpHを8に維持しつつ、得られた溶液を30分間攪拌する。64.0mlの20%塩酸溶液によってpH値を3.8に調節し、フェリ−スクシニルカゼインを沈澱させた。32.2mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を3.8に維持しつつ、57.2gのFeCl溶液(12%)を10分以内で添加する。得られた懸濁液をpH値3.8で30分間攪拌し、次いで、30分以内で50℃まで熱する。46.8mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加して、pH値を9に調節した。溶液を1時間、温度50℃およびpH値9で攪拌する。溶液を水(50℃に予熱した水)で、体積比1:4(反応溶液:水)に希釈し、50℃で5分間攪拌する。濾過後、pH値が3.6になるまで、74.2mlの20%塩酸溶液を添加することによって、生成物を沈澱させる。生成物を濾過し、1lの水で洗浄し、次いで、真空乾燥機にて、温度75℃および圧力125mbarで24時間乾燥させる。その結果、130gのフェリ−スクシニルカゼインを得る。
【0065】
実施例4
(下記の実施例は、集中的な合成と部分的に連続的なワークアップを組み合わせた好ましい態様を示すものである)
600gのカゼインを、温度20℃で4050gの水に懸濁させた。46mlの30%水酸化ナトリウム溶液を40分以内で添加してpH値を8に調節した。100gの無水コハク酸を4つに分別して20分以内で添加した。その間、124mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を8に維持する。pH値を8に維持しつつ、得られた溶液を30分間攪拌する。280mlの20%塩酸溶液によってpH値を3.8に調節し、フェリ−スクシニルカゼインを沈澱させる。170mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を3.8に維持しつつ、286gのFeCl溶液(12%)を10分以内で添加する。得られた懸濁液をpH値3.8で30分間攪拌し、次いで、25分以内で50℃まで熱する。215mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加して、pH値を9に調節する。溶液を50℃、pH値9で1時間攪拌する。
【0066】
連続したワークアップのため、静的パイプミキサーを使用し、反応液の半分を50℃の水で体積比1:4(反応溶液:水)に希釈する。液を蠕動性のポンプに移し、その結果、静的パイプミキサーにおける混合液の流量が3.0から3.5l/minになる。静的パイプミキサーから、希釈した溶液を直接濾過器に移し、濾過を行う。濾過された溶液を、直接、第二の静的パイプミキサーに移し、280mlの20%塩酸を比例的(proportioned)に添加し、生成物の懸濁液のpHを3.2から3.8に調節して、沈澱させる。生成物の懸濁液流を直接濾過器に移し、濾過する。生成物を、2lの水で洗浄し、温度75℃および圧力125mbarで、真空乾燥機で48時間乾燥する。その結果、257gのフェリ−スクシニルカゼインを得る。
【0067】
実施例5
100gのカゼインを、温度20℃で500gの水に懸濁する。8.3mlの30%水酸化ナトリウム溶液を40分以内で添加してpH値を8に調節する。16.7gの無水コハク酸を4つに分別して20分以内で添加する。その間、25.3mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を8に維持する。1.9mlの30%の水酸化ナトリウムを添加することによって、pHを8に維持しつつ、得られた溶液を30分間攪拌する。49.8mlの20%塩酸溶液によってpH値を3.8に調節し、フェリ−スクシニルカゼインを沈澱させる。28.6mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加することによってpH値を3.8に維持しつつ、47.7gのFeCl溶液(12%)を10分以内で添加する。得られた懸濁液をpH値3.8で30分間攪拌し、次いで、30分以内で30℃まで熱する。32.8mlの30%水酸化ナトリウム溶液を添加して、pH値を9に調節する。温度30℃およびpH値9で、溶液を1時間攪拌する。溶液を水(室温)で、体積比1:6(反応溶液:水)に希釈し、5分間攪拌する。濾過後、pH値が3.6になるまで、43.8mlの20%塩酸溶液を添加することによって、生成物を沈澱させる。生成物を濾過し、0.8lの水で洗浄し、次いで、真空乾燥機にて、温度75℃および圧力125mbarで20時間乾燥させる。その結果、78gのフェリ−スクシニルカゼインを得る。
【0068】
下記の表は、実施例1から5において合成した材料の分析結果を示す。比較のために、EP 0930983に記載の生成物の分析結果も示してある。
【0069】


【0070】
実施例1から5で得られた材料のIRスペクトル(KBr中)を観察したところ、生成物がフェリ−スクシニルカゼインの構造を有していることが判明した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)カゼインを少なくとも1つのスクシニル化剤と反応させ、スクシニルカゼインの水性懸濁液を生成し、および
(b)工程(a)で得られたスクシニルカゼインの水性懸濁液を、少なくとも1つの鉄塩と反応させることを含む、フェリ−スクシニルカゼインの製造方法。
【請求項2】
前記工程(a)が、
(a1)カゼインを水に懸濁させ、
(a2)必要ならば、前記水性懸濁液のpH値を少なくとも6に調節し、および
(a3)少なくとも1つの塩基を添加することによりpH値を少なくとも6に維持しながら、少なくとも1つのスクシニル化剤を添加することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記工程(a)が、さらに、
(a4)スクシニル化剤を添加終了後、pH値を約2から7.0に調節することにより沈澱させ、pH値約2から7.0を有するスクシニルカゼインの水性懸濁液を得ることを含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(b)が、
(b1)スクシニルカゼインの水性懸濁液に少なくとも1つの鉄塩を添加することを含む、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
工程(b)において、前記少なくとも1つの鉄塩と反応させるスクシニルカゼインの水性懸濁液が、pH値約2から6を有する、請求項1から4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記工程(b)が、
(b2)少なくとも1つの塩基を添加することにより前記スクシニルカゼインの水性懸濁液のpH値を少なくとも2に維持しながら、スクシニルカゼインの水性懸濁液に少なくとも1つの鉄塩を添加して、フェリ−スクシニルカゼインを得ることを含む、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの塩基の添加中、pH値が約3から6の範囲に維持されている、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
(c)少なくとも1つの塩基を添加することによって得られたフェリ−スクシニルカゼインを溶解し、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含有する水性組成物を生成することを含む、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
工程(c)において、pH値が少なくとも7.0に調整されることを特徴とする、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
(d)溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含有する水性組成物から不溶物を分離し、フェリ−スクシニルカゼインの水溶液を得、
(e)少なくとも1つの酸を添加することによってフェリ−スクシニルカゼインを前記水溶液から沈澱させ、得られたフェリ−スクシニルカゼインを回収し、および
(f)得られたフェリ−スクシニルカゼインを乾燥させるか、あるいは湿った状態で得られたフェリ−スクシニルカゼインをさらに直接薬剤に加工する工程をさらに含む、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
(a)カゼインを少なくとも1つのスクシニル化剤と反応させ、スクシニルカゼインの水性懸濁液を生成し、
(b)工程(a)で得られたスクシニルカゼインの水性懸濁液を、少なくとも1つの鉄塩と反応させ、フェリ−スクシニルカゼインを生成し、
(c)得られたフェリ−スクシニルカゼインを、少なくとも1つの塩基を添加することによって溶解し、溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含有する水性組成物を生成し、
(d)溶解したフェリ−スクシニルカゼインを含有する水性組成物から不溶物を分離し、フェリ−スクシニルカゼインの水溶液を得、
(e)少なくとも1つの酸を添加することによってフェリ−スクシニルカゼインを前記水溶液に沈澱させ、得られたフェリ−スクシニルカゼインを回収し、および
(f)得られたフェリ−スクシニルカゼインを乾燥させるか、あるいは湿った状態で得られたフェリ−スクシニルカゼインをさらに直接薬剤に加工することを含む、請求項1から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
工程(a)において、前記カゼインに、スクシニル化剤を少なくとも2つの時間的に分離した部分で添加する、請求項1から11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
前記カゼインが食品グレードのカゼインである、請求項1から12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
工程(b)において、少なくとも1つの鉄塩の水溶液が添加される、請求項1から13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
前記鉄塩が塩化第二鉄である、請求項1から14のいずれかに記載の方法。
【請求項16】
前記スクシニル化剤が無水コハク酸である、請求項1から15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
得られたフェリ−スクシニルカゼインから、薬用投与物を製造する工程をさらに含む、請求項1から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記薬用投与物が経口投与用である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記薬用投与物が、飲用バイアル、シロップ、エリクシール、溶液、懸濁液、ジュースなどの、液状製剤である、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
請求項1から16のいずれかに記載の方法で得られたフェリ−スクシニルカゼインの、薬剤製造への使用。
【請求項21】
鉄欠乏の症状を呈する患者の治療用薬剤製造への請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記症状が、疲労感、活力の欠乏、集中力の低下、効率の低下、言葉がうまく出てこない、もの忘れ、皮膚の色が異常に青白い、イライラする、脈が早まる(頻脈)、舌が痛むか腫れる、脾臓が肥大する、変わったものを異常に食べたくなる(異食症)、頭痛、食欲不振、感染しやすくなる、うつ不快感を含む、請求項21に記載の使用。
【請求項23】
鉄欠乏性貧血、特に、妊娠中の鉄欠乏性貧血、子供や若者に潜在する鉄欠乏性貧血、胃腸疾患による鉄欠乏性貧血、失血、たとえば、胃腸疾患に由来する出血(例:潰瘍、悪性腫瘍、痔、炎症性疾患、アセチルサルチル酸の摂取などによる出血)、月経時の出血、怪我による出血、スプルーによる鉄欠乏性貧血、食餌中の鉄の摂取が減少することによる鉄欠乏性貧血、鉄欠乏に関係した免疫不全、鉄欠乏に関係した大脳機能の損傷、あるいはむずむず脚症候群(RLS)の治療薬の製造への、請求項20に記載の使用。


【公表番号】特表2009−518350(P2009−518350A)
【公表日】平成21年5月7日(2009.5.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−543769(P2008−543769)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【国際出願番号】PCT/EP2006/068994
【国際公開番号】WO2007/065812
【国際公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【出願人】(505150084)ヴィフォー・インターナショナル・アーゲー (10)
【Fターム(参考)】