説明

フェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法

【課題】NiO、V25およびFe23を含む石油系燃焼灰からフェロニッケル及びフェロバナジウムを個別に、高効率かつ安価に製造する方法の提供。
【解決手段】NiO、V25及びFe23を含む石油系燃焼灰、炭素質還元剤、及びスラグ形成剤を混合して混合物を得る混合工程S1、混合物を1350〜1550℃で溶融して溶融物とし、溶融物中にフェロニッケルを生成させるフェロニッケル生成工程S2、フェロニッケルを凝集させた溶融物を冷却した後、フェロニッケルとV25含有スラグに分離するフェロニッケル分離工程S3、V25含有スラグと鉄源を混合して1500℃以上で溶融した後、金属還元剤を加えて再溶融物とし、再溶融物中にフェロバナジウムを生成させるフェロバナジウム生成工程S4、フェロバナジウムを生成させた再溶融物をフェロバナジウムとスラグに分離するフェロバナジウム分離工程S5を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化ニッケルおよび酸化バナジウムを含有する石油系燃焼灰からフェロニッケルおよびフェロバナジウムを製造するフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バナジウムを含む合金鉄、すなわち、フェロバナジウムの製造方法としては、主にテルミット法と電気炉法があり、現在ではテルミット法が主な製造方法として用いられている。
ここで、フェロバナジウムの製造原料は、含チタンバナジウム磁鉄鉱等から抽出された五酸化バナジウムであり、この五酸化バナジウムを得るには、まず、含チタンバナジウム磁鉄鉱にコークスと石灰石を混合し、ロータリーキルンで予備還元し、電気精錬炉で還元してバナジウムを含む銑鉄を製造する。その後、酸化精錬してバナジウムを含むスラグに炭酸ナトリウムまたは塩化ナトリウムを混合して酸化焙焼した後、水を加えてバナジン酸ソーダ液を得る。そして、さらにpH調整剤と塩化アンモニウムを加えてバナジン酸アンモニウムとし、乾燥と溶融を行って五酸化バナジウムとする。
【0003】
テルミット法によるフェロバナジウムの製造方法では、例えば、酸化バナジウム、鉄源、フェロシリコン粉およびアルミニウム粒等の還元剤と、鉄鉱石、ミルスケール等の媒溶剤との混合物を混合して混合物とし、テルミット反応炉を用いてフェロバナジウムを製造する技術が提案されている(非特許文献1参照)。
【0004】
現在、電気炉法はあまり用いられていないが、電気炉法によるフェロバナジウムの製造方法では、バナジウム鉱石等のバナジウム原料、鉄源、還元剤および媒溶剤を混合して混合物とし、電気炉を用いてフェロバナジウムを製造する。ここで、還元するときにフェロシリコン、アルミニウム等の還元剤を用い、スラグ分を分離させるために微振動を与えることが提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
一方、ニッケルおよびバナジウムを含有する石油系燃焼灰から、バナジウムおよびニッケルを含む合金鉄(Fe−Ni−V合金)を製造する方法も提案されている。例えば、石油系燃焼灰を溶融炉でフェロシリコンやアルミニウムを用いて還元してNi−V合金鉄を得る方法(特許文献2参照)、石油系燃焼灰を粉砕してサイクロンで加熱後、さらにフェロシリコンやアルミニウムで還元して、ニッケル、モリブデンおよびバナジウムを含む合金鉄(Fe−Ni−Mo−V合金)を得る方法(特許文献3参照)が提案されている。
【0006】
また、石油系燃焼灰と還元剤および鉄源を混合して、必要に応じてブリケット等に成形し、1150℃〜1350℃で還元し、混合物もしくは成形物を炉底出鋼型電気炉に装入して、通電・溶融する方法が提案されている(特許文献4参照)。この方法では、石油系燃焼灰中のニッケル、モリブデン分は燃焼灰中のカーボンおよび別途装入されたスクラップ等の鉄源により優先還元され、ニッケルおよびバナジウムを含む合金鉄(Fe−Ni−Mo合金)となる。そして、回収されたスラグを還元することによってバナジウムを含む合金鉄(Fe−V合金(フェロバナジウム))を得ることができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】日本鉄鋼協会編、鉄鋼便覧、第3版、第2巻、発行所:日本鉄鋼協会、平成14年7月30日発行、第7章第3節第5項
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭54−46116号公報
【特許文献2】特開2001−316732号公報
【特許文献3】特開2001−98339号公報
【特許文献4】特開2004−270036号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、非特許文献1および特許文献1〜4に記載の合金鉄の製造方法には、以下に示す問題がある。
【0010】
非特許文献1に記載のテルミット法では、テルミット反応後のフェロバナジウムの冷却処理や破砕処理に費用がかかることが指摘されており、経済性に劣るという問題がある。また、ロータリーキルンは、ダスト発生量が多く、キルン内にダムリングが生起しやすいという問題や、原料の滞留時間にばらつきが生じるため過剰な処理搬送路の長さを必要とし、設備の設置面積が大きくなるという問題、キルンの表面積が大きくなり、熱放散量が多いため、燃料消費量が高くなる等の問題もある。
【0011】
特許文献1に記載の電気炉法では、還元に高価なフェロシリコンやアルミニウムを使用し、また、得ようとするフェロバナジウムを溶融させるため、電気炉で高温にして処理する必要があり、製造コストが高くなる問題がある。
【0012】
また、非特許文献1および特許文献1に記載の製造方法では、原料としてバナジウム鉱石等を使用するため、近年のバナジウム鉱石の高騰により、経済性に劣るという問題がある。
特許文献2に記載の製造方法では、還元に高価なフェロシリコンやアルミニウムを使用するため、製造コストが高くなるという問題がある。
【0013】
特許文献3に記載の製造方法では、石油系燃焼灰をサイクロンに装入して加熱、溶解させた後、還元剤と共に反応炉に装入し、金属成分を還元することによって合金鉄を得るものである。また、特許文献4に記載の製造方法では、原料の還元を行った後、溶解し、回収されたスラグを還元して合金鉄を得るものである。
したがって、特許文献3および特許文献4に記載の製造方法では、工程が複雑で経済性に劣るという問題がある。
【0014】
本発明は、前記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、酸化ニッケル、酸化バナジウムおよび酸化鉄を含む石油系燃焼灰からフェロニッケルおよびフェロバナジウムを個別に、高効率かつ安価に製造することのできるフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、石油系燃焼灰に炭素質還元剤を添加し、これを異なる特定の温度範囲で2回溶融することでフェロニッケルおよびフェロバナジウムを個別に、高効率かつ安価に製造することができることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0016】
請求項1に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、石油系燃焼灰からフェロニッケルおよびフェロバナジウムを製造するフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法であって、酸化ニッケル、酸化バナジウムおよび酸化鉄を含む石油系燃焼灰、炭素質還元剤、およびスラグ形成剤を混合して混合物を得る混合工程と、前記混合工程で混合した混合物を1350〜1550℃で加熱、溶融して溶融物とし、当該溶融物中に生成したフェロニッケルを凝集させるフェロニッケル生成工程と、前記フェロニッケルを凝集させた溶融物を冷却した後、前記フェロニッケルと酸化バナジウム含有スラグとに分離するフェロニッケル分離工程と、分離された前記酸化バナジウム含有スラグと鉄源を混合して1500℃以上で加熱、溶融した後、金属還元剤を加えて再溶融物とし、当該再溶融物中にフェロバナジウムを生成させるフェロバナジウム生成工程と、前記フェロバナジウムを生成させた再溶融物を、前記フェロバナジウムとスラグとに分離するフェロバナジウム分離工程とを含むことを特徴としている。
【0017】
このような製造方法によれば、混合工程で混合された混合物中の酸化ニッケル(NiO)および酸化鉄(Fe23)が、フェロニッケル生成工程で1350〜1550℃という特定の温度範囲で溶融することで、混合物中の炭素質還元剤に含まれる炭素(C)によって還元反応が生じる。その一例を次式(1)に示す。
Fe23+NiO+4C→2Fe+Ni+4CO ・・・(1)
つまり、酸化鉄と酸化ニッケルは炭素によって一旦金属鉄と金属ニッケルに転換され、その後さらに炭素と反応することによってフェロニッケル(Fe−Ni合金)が生成される。フェロニッケル生成工程で生成された酸化バナジウム含有スラグ(V25含有スラグ)は、1350〜1550℃という温度範囲では、溶融して液体ないしは軟質体となるため、生成したフェロニッケルは粒状に凝集することができる。そのため、フェロニッケル分離工程で冷却した後、物理的衝撃を与えるなどしてこれらを分離させることで、歩留りを下げることなくフェロニッケルのみを得ることができる。
【0018】
なお、溶融物に含まれている酸化バナジウム(V25)は、前記式(1)の還元反応によっては還元されずスラグ中に残留する。しかし、次のフェロバナジウム生成工程にて鉄源を混合し、1500℃以上という特定の温度以上で溶融した後、金属還元剤を加えることによって還元反応を行うことができる。その一例を次式(2)に示す。これにより、酸化バナジウムをフェロバナジウム(Fe−V合金)として得ることができる。なお、次式(2)では、金属還元剤としてAlを用い、鉄源として供給される鉄が酸化鉄ではない場合を示している。
Fe+3V25+10Al→Fe+6V+5Al23 ・・・(2)
生成したフェロバナジウムおよびここで生成されたスラグは、1500℃以上では、共に溶融した状態、つまり液体となっており、比重差によってフェロバナジウムが下層に、スラグが上層にそれぞれ分かれた状態となっている。そのため、フェロバナジウム分離工程でこれらを二つに分離することによってフェロバナジウムのみを得ることができる。
【0019】
請求項2に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記スラグ形成剤としてCaO供給物質およびSiO2供給物質のうちの少なくとも1種を用いて、前記混合物中のCaOとSiO2の比率(CaO/SiO2)が質量比で0.2〜1.65となるようにすることを特徴としている。
このような製造方法とすれば、フェロニッケル生成工程において温度が低い場合であってもスラグを確実に溶融させることができる。また、石油系燃焼灰に含まれている硫黄(S)がフェロニッケル中に移行することを防止することができる。
【0020】
請求項3に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記混合物中の炭素量と、前記酸化鉄および前記酸化ニッケルに含まれる酸素量との比率(C/O)がモル比で1以上であり、かつ前記炭素質還元剤に含まれる炭素が、生成するフェロニッケル中に6質量%以下残留するように前記炭素質還元剤を配合することを特徴としている。
このような製造方法とすれば、フェロニッケル生成工程において酸化鉄と酸化ニッケルの還元反応を十分に行うことができる。また、生成したフェロニッケルに炭素が浸炭するため、フェロニッケル生成工程で炭素質材料を用いた保持容器を使用した場合であっても、保持容器の炭素が反応して保持容器が溶損してしまうのを防止することができる。
【0021】
請求項4に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記CaO供給物質として、炭酸カルシウム、生石灰および消石灰のうちの少なくとも1種を用いることを特徴としている。
このような製造方法とすれば、CaO供給物質として炭酸カルシウム、生石灰および消石灰のうちの少なくとも1種を用いることで効率良くCaOを供給することができる。
【0022】
請求項5に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記フェロニッケル生成工程において、前記混合物を溶融するための保持容器として炭素質材料の成形体を用いることを特徴としている。
このような製造方法とすれば、保持容器からのスラグの取り出しが容易になる。
【0023】
請求項6に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記フェロニッケル生成工程において、前記混合物を溶融するために回転炉床炉を用いることを特徴としている。
このような製造方法とすれば、回転炉床炉を用いているので、より効率的にフェロニッケルを製造することができる。
【0024】
請求項7に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記フェロニッケル生成工程において、前記混合物を前記回転炉床炉の炉床上へ装入する前に、当該炉床上に炭素質粉末を敷いておくことを特徴としている。
このような製造方法とすれば、炉床上に敷いた炭素質粉末によって炉内を高い還元ポテンシャルに維持することができるので、金属化率を一段と高めることができる。また、炉床に用いる耐火物素材の溶損を防止することができる。
【0025】
請求項8に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記炭素質粉末を前記炉床上に2mm以上の厚みで敷いておくことを特徴としている。
このような製造方法とすれば、炉床上に炭素質粉末を敷いておくことによる作用を確実に得ることができる。
【0026】
請求項9に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記金属還元剤がAlおよびFe−Si合金のうちの少なくとも1種であることを特徴としている。
このような製造方法とすれば、金属還元剤としてAlおよびFe−Si合金のうちの少なくとも1種を用いているので、酸化鉄および酸化バナジウムを確実に還元させることができる。
【0027】
請求項10に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、前記金属還元剤としてAlを用いた場合において、前記酸化バナジウム含有スラグに含まれる酸化バナジウム量に対して前記Alを質量比で0.5となるように添加することを特徴としている。
このような製造方法とすれば、金属還元剤としてAlを用いた場合において、酸化バナジウム含有スラグに含まれる酸化バナジウム量に対してAlを質量比で0.5となるように添加しているので、酸化バナジウムを全量還元することができる。また、高価なAlを添加し過ぎたり、過剰となったAlがフェロバナジウムに混入したりするのを防止することができる。
【発明の効果】
【0028】
請求項1に係る発明によれば、フェロニッケル生成工程およびフェロバナジウム生成工程におけるそれぞれの溶融温度を特定の範囲とすることでフェロニッケルと酸化バナジウム含有スラグ、およびフェロバナジウムとスラグをそれぞれ分離可能としているため、フェロニッケルおよびフェロバナジウムを個別に、高効率かつ安価に製造することができる。
【0029】
請求項2に係る発明によれば、スラグを確実に溶融させることができ、硫黄のフェロニッケルへの移行を防止することができ、フェロニッケル中のS濃度を抑制することができるので、純度の高いフェロニッケルを得ることができる。
請求項3に係る発明によれば、酸化鉄と酸化ニッケルの還元反応を十分に行うことができるので、高い収率でフェロニッケルを得ることができる。
請求項4に係る発明によれば、炭酸カルシウム、生石灰および消石灰のうちの少なくとも1種を用いているので、効率良くCaOを供給することができる。また、安価にフェロニッケルを製造することができる。
【0030】
請求項5に係る発明によれば、回転炉床炉を用いているので、より効率的にフェロニッケルを製造することができる。そのため、より安価にフェロニッケルを製造することができる。
請求項6に係る発明によれば、容易に保持容器からフェロニッケルを取り出すことができる。
請求項7に係る発明によれば、金属化率を一段と高めることができるので、フェロニッケルの純度(回収率)を向上させることができる。また、炉床に用いる耐火物素材の溶損を防止することができるので、より安価にフェロニッケルを製造することができる。
請求項8に係る発明によれば、炉床上に炭素質粉末を敷いておくことによる作用を確実に得ることができるので、より純度を向上させることができるとともに、より安価にフェロニッケルを製造することができる。
【0031】
請求項9に係る発明によれば、酸化バナジウムを確実に還元させることができるので、フェロバナジウムを高い純度で得ることができる。
請求項10に係る発明によれば、酸化バナジウムを全量還元することができ、過剰となったAlがフェロバナジウムに混入したりするのを防止することができるので、より高い純度でフェロバナジウムを製造することができる。また、高価なAlを添加し過ぎるのを防止することができるので、より安価にフェロバナジウムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法のフローを示す図である。
【図2】本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法の各工程における物質のフローを示す図である。
【図3】回転炉床式加熱還元炉を模式的に示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
次に、図面を参照して本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法について詳細に説明する。
本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、図1に示すように、混合工程S1と、フェロニッケル生成工程S2と、フェロニッケル分離工程S3と、フェロバナジウム生成工程S4と、フェロバナジウム分離工程S5とを含むものである。
【0034】
混合工程S1は、図1および図2に示すように、石油系燃焼灰、炭素質還元剤、およびスラグ形成剤を混合して混合物を得る工程である。ここで、石油系燃焼灰の組成の一例を下記表1に示す。表1に示すように、石油系燃焼灰は、酸化ニッケル(NiO)、酸化バナジウム(V25)および酸化鉄(Fe23)と、その他の物質として二酸化ケイ素(SiO2)、酸化カルシウム(CaO)、アルミナ(Al23)、酸化マグネシウム(MgO)、硫黄(S)、炭素(C)、水分および不純物とを含んでいる。
本発明は、かかる組成を有する石油系燃焼灰に含まれているNiOおよびV25をそれぞれ個別に合金鉄の状態、すなわち、フェロニッケル(Fe−Ni合金)およびフェロバナジウム(Fe−V合金)にして得るとともに、その他の物質をスラグや排ガスにして廃棄するものである。
【0035】
【表1】

【0036】
なお、表1に示すように、石油系燃焼灰は水分を多く含んでいることがあるので、そのような場合は混合工程S1で混合する前に乾燥させておくとよい。乾燥の度合いは、図2に示す造粒機による造粒性を考慮して適宜決定すればよいが、例えば、石油系燃焼灰に含まれる水分量が10質量%以下となるようにした後、造粒することができる。
【0037】
炭素質還元剤は、Fe23およびNiOを還元するものである。炭素質還元剤としては、固定炭素を含むものであればよく、石炭、コークス、木炭、廃トナー、バイオマスの炭化物等を用いることができる。もちろん、これらを複数混合して用いてもよい。
混合物中における炭素質還元剤の配合率は、混合物中の炭素(C)量と、Fe23およびNiOに含まれる酸素(O)量との比率(C/O)がモル比で1以上であり、かつ炭素質還元剤に含まれる炭素が、生成するフェロニッケル中に6質量%以下(0質量%を含む)、好ましくは0.2質量%以下残留するように配合するのが好ましい。C/Oがモル比で1以上となるようにすると、石油系燃焼灰に含まれるFe23およびNiOが還元されることによって金属Feと金属Niを生成し、フェロニッケルを生成することができるようになる。詳しいことは、後記するフェロニッケル生成工程にて説明する。
【0038】
炭素質還元剤を用いると、生成したフェロニッケルに炭素が浸炭するため金属としての融点が低下し、生成したフェロニッケルが凝集し易くなる。そのため、比較的低温であってもニッケル濃度の高いフェロニッケルを得ることができるようになる。また、既にCがフェロニッケル中に存在することから、後記するフェロニッケル生成工程において保持容器を炭素質材料の成形体とした場合であっても、当該保持容器のCが酸化ニッケルやフェロニッケルと反応することがなくなり、保持容器の溶損を防止することが可能となる。従って、C/Oは前記したようにモル比で1以上となるようにすることが好ましい。C/Oがモル比で1未満となると、前記した効果を十分に得ることができない。また、Cが少な過ぎるためFe23およびNiOが還元され難くなってしまうだけでなく、フェロニッケルの融点が低くなり難くなってしまうため、フェロモリブデンの歩留まりが悪くなる傾向にある。従って、炭素質還元剤は、生成するフェロニッケル中に6質量%以下残留するように配合するのが好ましい。
【0039】
スラグ形成剤は、スラグを形成させ、当該スラグ中にSを固定化するために配合するものである。スラグ形成剤としては、CaO供給物質およびSiO2供給物質のうちの少なくとも1種を用いることができる。
【0040】
CaO供給物質としては、例えば、炭酸カルシウム(石灰)および生石灰のうちの少なくとも1種を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、混合物中にCaOを供給することのできる物質であればどのようなものでも用いることができる。例えば、消石灰等も用いることができる。なお、CaO供給物質中にSiO2以外の不純物を含むものであれば、CaOの含有量を考慮して配合量を決定するとよい。
【0041】
SiO2供給物質としては、例えば、けい石やけい砂を用いることができるが、これらに限定されるものではなく、混合物中にSiO2を供給することのできる物質であればどのようなものでも用いることができる。例えば、Wollasteniteも用いることができる。WollasteniteはSiO2とCaOを同時に含有する鉱物である。なお、これらを用いる場合は、100μm程度以下となるように粉砕処理してから用いるとよい。
【0042】
ここで、炭素還元剤としてコークス等を用いた場合には、CaOやSiO2を不純物として含み得る。また、CaO供給物質として炭酸カルシウム等を用いた場合には、SiO2を不純物として含み得る。さらに、SiO2供給物質としてWollastenite等を用いた場合も、CaOやSiO2を不純物として含み得る。
炭素還元剤、CaO供給物質およびSiO2供給物質に不純物として含まれるCaOやSiO2は微量であるが、これらを含めて混合物中のCaOとSiO2の比率(CaO/SiO2)が質量比で0.2〜1.65となるようにするのが望ましい。
【0043】
CaO/SiO2が質量比で0.2未満となると、Sをスラグ中に固定し難くなるのに加え、スラグの融点が上昇し、混合物が溶融し難くなるため好ましくない。一方、CaO/SiO2の質量比が大きな値となるほどSを固定する能力が大きくなるため好ましいが、1.65を超えると0.2未満の場合と同様にスラグの融点が上昇し、混合物が溶融し難くなるため好ましくない。
【0044】
図2に示すように、混合工程S1における石油系燃焼灰、炭素質還元剤、およびスラグ形成剤を混合してこれらの混合物を得るためには、混合機を用いるのが好ましい。混合機は、例えば、スクリュー型ミキサー等を用いることができる。これらの混合機を用いると、均一な混合物を迅速、容易且つ確実に得ることができる。
【0045】
また、図2に示すように、混合工程S1においては、混合物を得た後、造粒機で塊成化することが好ましい。混合物を塊成化することにより、加熱炉からのダスト発生量が減るとともに、加熱炉内における混合物内部の反応の結果生成するCOガスが移動し易くなる。そのため、このCOガスによって混合物がダストとなることを防止することができる。造粒機としては、例えば、ブリケットプレス等の圧縮成形機やパンペレタイザー等の転動造粒機のほか、押出成形機を用いることができる。なお、造粒機で塊成化しなくてもよいことはいうまでもなく、造粒機で塊成化するにあたり混合物が乾燥し過ぎている場合は水分を添加してもよい。
また、塊成化した混合物に水分が多く含まれている場合は、加熱炉に装入する前に乾燥してもよい。
【0046】
次に行うフェロニッケル生成工程S2は、図1および図2に示すように、混合工程S1で混合した混合物を1350〜1550℃で加熱、溶融して溶融物とし、当該溶融物中に生成したフェロニッケルを凝集させる工程である。混合物には炭素質還元剤が含まれているため、1350〜1550℃に加熱して溶融させることにより、Fe23およびNiOを還元して金属Feおよび金属Niとすることができる。混合物の加熱は、回転炉床炉(RHF)、直線炉、多段炉等の移動炉床炉を使用すると被加熱物である混合物が炉床上に静置されるためダスト等の発生が少なく好ましい。中でも、RHFはコンパクトであり、ロータリーキルン等に比べて設備費、設置面積を節減できるため特に好ましい。なお、混合物の加熱はこれらに限定されるものではなく、電気炉、抵抗加熱炉、誘導加熱炉等の坩堝を備えた炉を使用して行うことができる。
【0047】
フェロニッケル生成工程S2で混合物を1350〜1550℃に加熱して溶融させることにより生じるFe23およびNiOの還元反応の一例を次式(1)に示す。なお、石油系燃焼灰に含まれているV25は下記式(1)の還元反応によっては還元されずスラグ(V25含有スラグ)中に残留する。スラグ中に残留したV25は、後記するフェロバナジウム生成工程S4で還元される。詳しくはフェロバナジウム生成工程S4で説明する。
Fe23+NiO+4C→2Fe+Ni+4CO ・・・(1)
式(1)に示すように、CによってFe23およびNiOは一旦金属Feおよび金属Niとなる。その後、さらにCと反応することによって歩留まりを下げることなく、Cを含んだ状態のFe−Ni合金を製造することができる。
【0048】
ここで、フェロニッケル生成工程S2の温度が1350℃未満であると、混合物を溶融することができない。また、フェロニッケル生成工程S2の温度が1550℃を超えると、酸化バナジウムが溶融するおそれがあるため、フェロニッケルの純度および後に生成するフェロバナジウムの収率の観点から好ましくない。さらに、混合物を溶融するにあたって加熱時に混合物を保持する保持容器が必要である電気炉等を使用する場合は、溶融後の溶融物を当該保持容器から容易に取り出すために炭素質材料の成形体を用いる必要があるが、温度が1550℃を超えると生成したフェロニッケルが保持容器のCと反応してフェロニッケルに含まれるC濃度が高くなってしまうおそれがある。さらに、スラグ形成剤がSiO2を含む場合には、加熱温度が高いとフェロニッケルと共存するV25含有スラグに含まれるSiO2が、保持容器の炭素で還元される。その結果、フェロニッケル中にSiが歩留まって、フェロニッケルのSi濃度が上昇する。これらに加えて、使用電力量の増大を防止する観点からも好ましくなく、また、炭素質の保持容器を用いた場合であっても、当該保持容器のCが反応することで、保持容器が溶解することが防止され、保持容器の損耗(溶損)が防止される。従って、前記したようにフェロニッケル生成工程S2における混合物の加熱温度(最高到達温度)は1350〜1550℃の範囲とする。
【0049】
フェロニッケル生成工程S2で製造されるフェロニッケルは、溶融したスラグ内にフェロニッケル粒子として生成されるものであるが、前記した範囲の加熱温度においては、このフェロニッケル粒子は固体もしくは液体である。このため、前記した範囲の加熱温度で保持している間に、フェロニッケル粒子は溶融しているスラグと共存しながら凝集し、フェロニッケルが塊となってスラグとフェロバナジウムが物理的に分離した状態となる。RHFなどの移動炉床炉を使用する場合には炉床を移動させることで、また、保持容器を使用する電気炉などの加熱炉を使用する場合には、溶融物を所定時間保持容器内で保持することで、生成したフェロニッケルを凝集させることができる。通常、前記した範囲の加熱温度で炭素質の保持容器に積層して装入する場合は30分から1時間、RHFなど処理する場合は1分から5分間保持することで生成したフェロニッケルの凝集を十分に行わせることができる。
【0050】
なお、フェロニッケルが生成されるのと同時に生成されるV25を含有するスラグ(V25含有スラグ)が前記した範囲の加熱温度で溶融していなければ、生成されたフェロニッケルが凝集することができないため、V25含有スラグが溶融するように配慮しなければならない。例えば、1550℃を超えない範囲で可能な限り加熱温度を上げたり、炭素質還元剤を、生成したフェロニッケル中に6質量%を超えない範囲で可能な限り添加したりすることによって、V25含有スラグの溶融を促すことが可能である。
【0051】
ここで、フェロニッケル生成工程S2で使用される加熱炉として回転炉床炉(RHF)を使用した場合について軽く説明する。
図3に示すように、RHF10では、まず、混合工程S1で混合した混合物が原料投入ホッパー1を通して、回転炉床2上へ連続的に装入される。なお、混合物の装入に先立って、原料投入ホッパー1から回転炉床2上に炭素質粉末を敷き詰めておき、その上に混合物を装入するようにしてもよい。RHF10のように保持容器を用いない場合は、回転炉床2に耐火物素材を用い、その上に炭素質粉末を敷き詰め、混合物を装入して加熱するようにするとよい。このようにすれば、耐火物素材が溶損するのを防止することができ、金属化率を一段と高めることもできる。なお、この場合、炭素質粉末は、炉床上に2mm以上の厚さで敷いておくことが好ましい。炭素質粉末の厚さを2mm以上とすることで、前記効果が発揮され易くなる。一方、炭素質粉末の厚さが厚過ぎると混合物を回転炉床2上に装入し難くなり、前記効果も飽和するため、7.5mm以下とするのが好ましい。
【0052】
図3に示す回転炉床2は半時計方向に回転し、操業条件によって異なるが、通常は8〜16分程度で1周する。回転炉床2の上方側壁および天井部のうちの少なくとも一方には、燃焼バーナー3が複数個設けられており、燃料を供給することで燃焼させた燃焼バーナー3の燃焼熱あるいはその輻射熱によって炉床部に熱が供給される。
【0053】
耐火物素材で構成された回転炉床2上に装入された混合物は、回転炉床2上でRHF10内を周方向へ移動する際に、燃焼バーナー3からの燃焼熱や輻射熱によって加熱され、当該RHF10内の加熱帯を通過する間に、混合物内のFe23およびNiOが還元されて金属Feおよび金属Niとともに生成されるスラグ(V25含有スラグ)と共存しながら、かつ混合物内に残余する炭素質還元剤からの浸炭を受けて軟化しながら粒上に凝集してフェロニッケル粒子となり、フェロニッケルの塊とV25含有スラグが互いに密着した状態の金属塊(還元固化物)4となる。なお、RHF10における加熱温度は前記したように1350〜1550℃とする。
【0054】
生成された金属塊4は、RHF10の下流側ゾーンで冷却固化された後、スクリュー等の排出装置5によって回転炉床2上から排出ホッパー6へ排出される。なお、回転炉床2上から排出ホッパー6へ排出した後に冷却してもよい。このようにして生成されたフェロニッケルとV25含有スラグからなる金属塊4は、後記するようにフェロニッケル分離工程S3でフェロニッケルとV25含有スラグに分離される。なお、RHF10内で発生したCOや水蒸気等の排ガスは、排ガスダクト7から排出される。
【0055】
次に行うフェロニッケル分離工程S3は、図1および図2に示すように、フェロニッケルを凝集させた溶融物を冷却した後、フェロニッケルとV25含有スラグとに分離する工程である。なお、還元されて生成された金属塊4の冷却は、金属塊4が固体を維持できる温度まで下げるだけでよい。次工程のフェロバナジウム生成工程S4でV25含有スラグを再び溶融するため、温度が高い方が生産効率およびコストの点で有利だからである。金属塊4の冷却は、RHF10を使用する場合には、炉に設けられた冷却機構により行うことができる。また、保持容器を使用する加熱炉を使用する場合には、金属塊4を所定時間、保持容器内で保持しておくことにより行うことができる。
【0056】
冷却された金属塊4は、図2に示すように、回転炉床2から排出装置5によって排出ホッパー6へ排出される。排出された金属塊4はその後、破砕機にかけられて破砕され、図3に示すようにフェロニッケルと、実質的にNiを含有しなくなったV25含有スラグとに分離される。そして、分離されたフェロニッケルとV25含有スラグは、篩(スクリーン)にかけられることによってそれぞれを別々に得ることができる。
【0057】
得られたV25含有スラグは、その後さらに目開きの細かなスクリーンにかけることによってV25含有スラグと、これに付着した炭素質粉末とを分離することができる。ここで分離された炭素質粉末は、フェロニッケル生成工程S2で使用するRHF10の炉床上に再び敷き詰められて使用される。スクリーンにかけられたV25含有スラグは、次工程のフェロバナジウム生成工程S4に供される。なお、得られたV25含有スラグは磁選や浮選等の手段によりメタル分を回収することができる。
【0058】
次に行うフェロバナジウム生成工程S4は、図1および図2に示すように、分離されたV25含有スラグと鉄源を混合して加熱炉にて1500℃以上で加熱、溶融した後、金属還元剤を加えて再溶融物とし、当該再溶融物中にフェロバナジウムを生成させる工程である。フェロバナジウム生成工程S4では、還元に有利なように雰囲気の調整ができる加熱炉を使用することが望まれる。例えば、チャンバーを有する誘導加熱炉を好適に使用することができる。加熱炉内は、例えば、窒素ガス雰囲気やアルゴンガス雰囲気とすることで、添加したAlが大気と反応することを防ぐことができるので、還元効率の低下を防止することができる。
【0059】
鉄源は、Feを供給することのできるものであればどのようなものでも用いることができる。例えば、鉄スクラップや製品製造時に生じた鉄屑、酸化鉄などを用いることができる。なお、金属還元剤の添加量を減らす観点から酸化鉄ではないものを用いることが好ましい。
【0060】
金属還元剤は、AlおよびFe−Si合金のうちの少なくとも1種を用いることができるがこれらに限定されるものではなく、V25や酸化した鉄を還元できるものであればどのようなものでも用いることができる。ただし、還元力やフェロバナジウムのSi濃度の増加防止を図る観点からAlを用いることが好ましい。
金属還元剤としてAlを用いた場合は、V25含有スラグに含まれるV25量に対してAlを質量比で0.5となるように添加するのが好ましい。酸化バナジウムを全量還元することができるからである。かかる質量比が0.5未満であるとV25の還元反応が十分に行われないおそれがあり、フェロバナジウムの回収率が低くなるので好ましくない。また、かかる質量比が0.5を超えると、過剰となったAlがフェロバナジウムに混入するため、フェロバナジウムの純度が低くなるおそれがある。さらに、高価なAlを添加し過ぎるためコストの点で好ましくない。
【0061】
フェロバナジウム生成工程S4でV25含有スラグを1500℃以上に加熱して溶融させることにより生じる還元反応の一例を次式(2)、(3)に示す。なお、下記の還元反応は、鉄源として供給される鉄の状態によって種々変化する。次式(2)は鉄源として供給される鉄が酸化鉄ではない場合の一例であり、次式(3)は鉄源として供給される鉄が酸化鉄(Fe23)である場合の一例である。
Fe+3V25+10Al→Fe+6V+5Al23 ・・・(2)
Fe23+3V25+12Al→2Fe+6V+6Al23 ・・・(3)
式(2)、(3)に示すように、CによってV25およびFe23が一旦金属Vおよび金属Feとなる。その後、さらにCと反応することによって歩留まりを下げることなく、Cを含んだ状態のFe−V合金を製造することができる。
【0062】
ここで、フェロバナジウム生成工程S4の温度が1500℃未満であると、V25含有スラグを溶融して還元反応を生じさせることができない。また、フェロバナジウム生成工程S4の温度が1700℃を超えると、生成したフェロバナジウムと炭素質材料の成形体でなる保持容器のCと反応してフェロバナジウムに含まれるC濃度が高くなってしまうおそれがあり好ましくない。さらに、使用電力量の増大を防止する観点からも好ましくなく、また、炭素質の保持容器を用いた場合であっても、当該保持容器のCが反応することで、損耗(溶損)してしまうおそれがあり好ましくない。従って、前記したようにフェロバナジウム生成工程S4における再溶融物の加熱温度(最高到達温度)は1500℃以上とし、より好ましくは1600℃以上とし、その上限温度は1700℃とする。
【0063】
フェロバナジウム生成工程S4で再溶融された再溶融物は、還元反応で生成したフェロバナジウムと、同じく還元反応で生成したAl23およびその他の物質からなる、実質的にニッケルとバナジウムを含まないスラグとを含んでいる。なお、フェロバナジウムとスラグをともに溶融した状態とした場合、比重差によって二層に分けることができる。つまり、比重の重いフェロバナジウムを下層とし、比重の軽いスラグを上層として分けることができる。
【0064】
次に行うフェロバナジウム分離工程S5は、フェロバナジウムを生成させた再溶融物を、フェロバナジウムとスラグとに分離する工程である。前記したように、再溶融物を溶融した状態とした場合、下層のフェロバナジウムと上層のスラグとに分かれているので、再溶融物を加熱炉から取鍋に移した後、上層のスラグをかき出し、フェロバナジウムとスラグを別々の鋳型に入れて鋳造することができる。このようにすることによって、フェロバナジウム塊とスラグ塊とを得ることができる。なお、底に取出口を有する取鍋を用いた場合は、フェロバナジウムを当該取出口から鋳型に入れ、残ったスラグを別の鋳型に入れることによってフェロバナジウム塊とスラグ塊とを鋳造することができる。なお、フェロバナジウム分離工程S5で生成されたスラグも、前記したV25含有スラグと同様に、磁選や浮選等の手段によりメタル分を回収することができる。また、廃棄してもよい。
【0065】
本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法は、以上に説明したとおりであるが、本発明を実施するにあたり、前記した各工程に悪影響を与えない範囲において前記各工程の間あるいは前後に、例えば、各原料を粉砕する原料粉砕工程や、ごみ等の不要物を除去する不要物除去工程や、得られたフェロニッケルとフェロバナジウムを収容する収容工程等、他の工程を含めてもよい。
【0066】
以上に説明した製造方法によれば、石油系燃焼灰から、例えば、Ni含有量が41.4〜42.3質量%、V含有量が0.2〜1.0質量%、S含有量が0.08〜0.28質量%、C含有量が0.18〜6.14質量%であり、残部がFeおよび不可避的不純物とするフェロニッケルと、V含有量が49.6〜50.6質量%、Ni含有量が0.2〜0.4質量%、S含有量が0.1〜0.3質量%、C含有量が0.2〜0.5質量%であり、残部がFeおよび不可避的不純物とするフェロバナジウムとを製造することができる。
【実施例】
【0067】
次に、本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法について、本発明の要件を満たす実施例と本発明の要件を満たさない比較例とを比較して具体的に説明する。
【0068】
[第1実施例]
本発明の混合原料の還元状況を把握するため、実験室規模の小型加熱炉を用いて以下の還元実験を実施した。
【0069】
配合原料としては、石油系燃焼灰として、オイルコークスを用いたボイラーから回収された灰を湿式造粒にて炭素分を分離したEP灰造粒後残渣、炭素質還元剤としてコークス粉(固定炭素分86.3質量%)(関西熱化学社製)、およびスラグ形成剤として、副生成するスラグの組成を調整するため、炭酸カルシウム(石灰石)を混合した。なお、用いたEP灰造粒後残渣、コークス粉、炭酸カルシウムの成分を表2に示す。また、EP灰造粒後残渣、コークス粉、炭酸カルシウムの配合割合を表3に示す。
【0070】
コークス粉は、混合物中の炭素量(EP灰造粒後残渣およびコークス粉に含まれる炭素量)と、石油系燃焼灰中の酸化ニッケルおよび酸化鉄に含まれる酸素量との比率(C/O)がモル比で1以上であり、かつ、生成するフェロニッケル中に残留する炭素が、計算上、表3の目標C濃度となるように配合した。これにより、コークス粉が、生成するフェロニッケル中のニッケルの合計量に対してモル比で1以上となるように配合される。
【0071】
なお、表3において、(目標Ni濃度)は、EP灰造粒後残渣中のニッケル量×EP灰造粒後残渣の配合割合/(EP灰造粒後残渣中の鉄量×EP灰造粒後残渣の配合割合+EP灰造粒後残渣中のニッケル量×EP灰造粒後残渣の配合割合)である。(目標V濃度)は、EP灰造粒後残渣中のV量×EP灰造粒後残渣の配合割合/(EP灰造粒後残渣の鉄量+EP灰造粒後残渣の配合割合+EP灰造粒後残渣中のV量×EP灰造粒後残渣の配合割合)である。(目標C濃度)は、コークス粉中のC濃度×コークス粉の配合量+EP灰造粒後残渣中のC濃度×EP灰造粒後残渣の配合量−(EP灰造粒後残渣中のNi濃度×0.225+EP灰造粒後残渣中のNi濃度×0.161)×EP造粒後残渣の配合量/((EP灰造粒後残渣中のNi濃度+EP灰造粒後残渣中のFe濃度)×EP灰造粒後残渣配合量+コークス粉中のC濃度×コークス粉の配合量+EP灰造粒後残渣中のC濃度×EP灰造粒後残渣の配合量−(EP灰造粒後残渣中のNi濃度×0.225+EP灰造粒後残渣中のNi濃度×0.161)×EP造粒後残渣の配合量)である。
【0072】
混合は、適量の水分を添加して直径600mmの小型パンペレタイザーで造粒し、直径約13mmのペレットを作製した。このペレットを105℃で24時間乾燥したもの1000gを、炭素質からなる内径130mm、深さ150mmである坩堝を備えた小型誘導加熱炉中にバッチ装入した後、雰囲気温度一定の下で保持時間30分間の加熱を行い、還元溶融後、冷却しV25含有スラグ分とフェロニッケル分を分離した。得られたフェロニッケルを化学分析して、Ni、V、Cの含有量(Ni濃度、V濃度、C濃度)を求めた。雰囲気は窒素雰囲気とし、加熱温度(最高加熱温度)は、1300、1350℃、1450℃、1550℃の4水準として、加熱を開始し、最高加熱温度に到達後30分間温度を保持した(焼成)。この加熱実験で得られた結果を表3に示す。また、この加熱実験で生成されたV25含有スラグの組成を表4に示す。
【0073】
なお、表3において、フェロニッケルの回収率(%)は、フェロニッケル量×Ni濃度/装入Ni量である。ここで、装入Ni量とは、EP灰造粒後残渣中のNi濃度×配合割合である。表4中のT.Feは、酸化物中に含まれる金属鉄の濃度である。
【0074】
評価としては、フェロニッケルの回収率を求め、回収率が80%以上のものを優良、回収率が50%以上80%未満のものを良好、50%未満のものを不良とした。また、焼成後のサンプルの溶融状態を調べた。溶融状態は、焼成後サンプルが溶融状態を呈しているものを○(優良)、溶融状態は呈しているがスラグと合金鉄が容易に分離しないものを△(良好)、溶融していないものを×(不良)とした。
なお、表2〜4において、成分を含有していないもの、または、混合物が溶融せずフェロニッケルとV25含有スラグが分離できずに成分を測定できなかったものについては「−」で示す。また、本発明の構成を満たさないもの等については、数値に下線を引いて示す。
【0075】
【表2】

【0076】
【表3】

【0077】
【表4】

【0078】
表3および表4の結果から、実施No.1〜9、13〜15は本発明の要件を満たす実施例である。実施No.1〜9は、フェロニッケルの回収率が優良であり、また、焼成後のサンプルの溶融状態についても優良であった。実施No.13は、CaO/SiOの値が好適範囲の下限値未満であり、実施No.14、15は、CaO/SiOの値が好適範囲の上限値を超えるため、V25含有スラグの融点が高くなり、混合物は溶融状態を呈しているが、フェロニッケルがV25含有スラグから容易に分離しなかった。そのため、フェロニッケルの回収率が実施No.1〜9に比べて低下したが、良好であった。
【0079】
一方、実施No.10〜12は本発明の要件を満たさない比較例である。実施No.10〜12は加熱温度が下限値未満のため、混合物が溶融せず、フェロニッケルがV25含有スラグから分離しなかった。そのため、フェロニッケルを回収できず、フェロニッケルの回収率は不良であった。
【0080】
次に、実施No.1〜9で得られたV25含有スラグ各5.0kgを真空誘導炉内に装入し、併せて表5に示す量の鉄スクラップを装入し、1650℃まで加熱した後、粒状のアルミニウムを表5に示す量でそれぞれに添加した。
こうして得られた再溶融物は取鍋に移してスラグをかき出した後、生成されたフェロバナジウムとスラグをそれぞれの鋳型に入れて鋳造し、フェロバナジウム塊とスラグ塊を得た。この加熱実験の鉄スクラップ投入量とアルミの投入量および得られた結果を表5に示す。
【0081】
ここで、表5において、フェロバナジウムの回収率(%)は、フェロバナジウム量×V濃度/装入V量である。ここで、装入V量とは、EP灰造粒後残渣中のV濃度×配合割合である。
【0082】
評価としては、フェロバナジウムの回収率を求め、回収率が80%以上のものを優良、回収率が50%以上80%未満のものを良好、50%未満のものを不良とした。
【0083】
【表5】

【0084】
表5の結果から、実施No.1〜9は本発明の要件を満たす実施例である。実施No.1〜9は、フェロバナジウムの回収率が優良であった。
【0085】
[第2実施例]
次に、図3に示す回転炉床式加熱還元炉を用いて以下の実験を実施した。
配合原料は、第1実施例と同様のものを使用した。配合は実施No.3と同様の配合割合とした。
【0086】
混合は、適量の水分を添加して小型パンペレタイザーで造粒し、直径約13mmのペレットを作製した。このペレットを105℃で24時間乾燥したもの1000kgを使用した。回転炉床式加熱還元炉において、ペレットを装入する前に、炉床上に粉末状の石炭を厚さ2mmとなるように敷いてからペレットを装入し、炉内の最高温度を1450℃として12分間の加熱処理をした後、炉外へ排出して冷却し、スクリーンでV25含有スラグとフェロニッケルを分離回収した。
【0087】
そして、分離回収したV25含有スラグうちの一部5.0kgを真空誘導炉内に装入し、併せて鉄スクラップ0.86kgを装入し、1650℃まで加熱した後、粒状のアルミニウム0.63kgを添加した。こうして得られた再溶融物は取鍋に移してスラグをかき出した後、生成されたフェロバナジウムとスラグをそれぞれの鋳型に入れて鋳造し、フェロバナジウム塊とスラグ塊を得た。
得られたフェロニッケルとフェロバナジウムの回収率を、前記第1実施例に示したのと同様にして求めた結果、フェロニッケルの回収率は98%、フェロバナジウムの回収率は95%であった。
【0088】
他方、分離回収したV25含有スラグうちの一部5.0kgを真空誘導炉内に装入し、併せて鉄スクラップ0.86kgを装入し、1450℃で加熱したところ、鉄スクラップが溶融せず、フェロバナジウムを回収することができなかった。
また、分離回収したV25含有スラグうちの一部5.0kgを真空誘導炉内に装入し、併せて鉄スクラップ0.86kgを装入し、1500℃で加熱して鉄スクラップを溶融した後、粒状のアルミニウム0.63kgを添加したところ、フェロバナジウム塊を得ることができた。得られたフェロバナジウムの回収率を、前記第1実施例に示したのと同様にして求めた結果、フェロバナジウムの回収率は93%であった。
なお、分離回収したV25含有スラグからフェロバナジウムを回収するにあたって、1650℃を超えるものについては、使用電力量が増大し過ぎてしまいコストの点で不利であった。
【0089】
以上、本発明に係るフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法について最良の実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されるものではない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0090】
S1 混合工程
S2 フェロニッケル生成工程
S3 フェロニッケル分離工程
S4 フェロバナジウム生成工程
S5 フェロバナジウム分離工程
1 原料投入ホッパー
2 回転炉床
3 燃焼バーナー
4 金属塊
5 排出装置
6 排出ホッパー
7 排ガスダクト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石油系燃焼灰からフェロニッケルおよびフェロバナジウムを製造するフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法であって、
酸化ニッケル、酸化バナジウムおよび酸化鉄を含む石油系燃焼灰、炭素質還元剤、およびスラグ形成剤を混合して混合物を得る混合工程と、
前記混合工程で混合した混合物を1350〜1550℃で加熱、溶融して溶融物とし、当該溶融物中に生成したフェロニッケルを凝集させるフェロニッケル生成工程と、
前記フェロニッケルを凝集させた溶融物を冷却した後、前記フェロニッケルと酸化バナジウム含有スラグとに分離するフェロニッケル分離工程と、
分離された前記酸化バナジウム含有スラグと鉄源を混合して1500℃以上で加熱、溶融した後、金属還元剤を加えて再溶融物とし、当該再溶融物中にフェロバナジウムを生成させるフェロバナジウム生成工程と、
前記フェロバナジウムを生成させた再溶融物を、前記フェロバナジウムとスラグとに分離するフェロバナジウム分離工程と、を含む
ことを特徴とするフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項2】
前記スラグ形成剤としてCaO供給物質およびSiO2供給物質のうちの少なくとも1種を用いて、前記混合物中のCaOとSiO2の比率(CaO/SiO2)が質量比で0.2〜1.65となるようにすることを特徴とする請求項1に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項3】
前記混合物中の炭素量と、前記酸化鉄および前記酸化ニッケルに含まれる酸素量との比率(C/O)がモル比で1以上であり、かつ前記炭素質還元剤に含まれる炭素が、生成するフェロニッケル中に6質量%以下残留するように前記炭素質還元剤を配合することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項4】
前記CaO供給物質として、炭酸カルシウム、生石灰および消石灰のうちの少なくとも1種を用いることを特徴とする請求項2に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項5】
前記フェロニッケル生成工程において、前記混合物を溶融するための保持容器として炭素質材料の成形体を用いることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項6】
前記フェロニッケル生成工程において、前記混合物を溶融するために回転炉床炉を用いることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか1項に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項7】
前記フェロニッケル生成工程において、前記混合物を前記回転炉床炉の炉床上へ装入する前に、当該炉床上に炭素質粉末を敷いておくことを特徴とする請求項6に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項8】
前記炭素質粉末を前記炉床上に2mm以上の厚みで敷いておくことを特徴とする請求項7に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項9】
前記金属還元剤がAlおよびFe−Si合金のうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。
【請求項10】
前記金属還元剤としてAlを用いた場合において、前記酸化バナジウム含有スラグに含まれる酸化バナジウム量に対して前記Alを質量比で0.5となるように添加することを特徴とする請求項9に記載のフェロニッケルおよびフェロバナジウムの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−229525(P2010−229525A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80483(P2009−80483)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】