説明

フェンタニルまたはその類似化合物を投与するための経皮治療システム

本発明は、経皮的に有効成分を投与する経皮治療システムであって、(a)裏打ち層と、(b)有効成分、ポリイソブチレン、ゲル形成剤、および可塑剤を含む、裏打ち層に備えられたリザーバとを含み、リザーバ中の有効成分の一部が不溶粒子の形態であること、リザーバ中のゲル形成剤の含有量が、リザーバの総重量に対して4重量%以下であること、および有効成分がフェンタニルまたはその類似化合物であることを特徴とする経皮治療システムに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、フェンタニルまたはその類似化合物を経皮投与して治療するためのシステムを提供することを目的とする。
【背景技術】
【0002】
フェンタニルおよびその類似化合物、特にアルフェンタニル、カルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニル、スフェンタニル、トレフェンタニルおよび関連化合物は、強力な合成オピオイドである。フェンタニルおよびその類似化合物は高い効能を有し、急速に代謝される。フェンタニルの問題点として、治療係数が比較的狭いことが挙げられる。閾値を超えた場合、望ましくない副作用を引き起こす。特に、呼吸抑制が起こった場合、適切な処置が取られなければ死亡につながる。また、これらの有効成分は比較的高価であり、乱用される危険性が高い。これらの理由により、フェンタニル貼付剤に含まれる有効成分の放出を正確にかつ確実に制御しなければならない上、乱用を防ぐため、有効成分を簡単に取り出せないように製品を設計すべきである。
【0003】
一般に、経皮貼付剤とは、送達する有効成分を含有した小型の粘着包帯である。このような貼付剤には様々な形や大きさのものがある。最も単純なタイプとしては、担体上に有効成分貯蔵層(リザーバ)を含む粘着式の一枚型のものが挙げられる。一般に、リザーバは、有効成分を含む薬学的に許容できる感圧粘着剤で構成されている。しかしながら、皮膚接触面に適切な粘着剤の薄層を備えた、非粘着性材料で構成することもできる。このような貼付剤を用いた有効成分の患者への投与速度は、有効成分の皮膚への浸透性に応じて、個人ごとや皮膚部位によって特定の範囲内で変動する。
【0004】
さらに複雑なタイプの貼付剤としては、(必要に応じて液体に溶解することも可能な)有効成分の貯蔵層を有する、多層の積層体または貼付剤であって、有効成分の放出を制御する膜がリザーバと皮膚に接触する粘着剤との間に配置されたものが挙げられる。この膜は有効成分の放出を制御し、貼付剤からの有効成分の送達速度をインビトロおよびインビボにおいて遅延させることにより、皮膚浸透性の変化から生じる影響を必要に応じて軽減する。
【0005】
経皮貼付剤のリザーバには、貯蔵層中に完全に溶解した状態で有効成分を含有させることも、あるいは飽和濃度以上の過剰量の有効成分を不溶解の状態で含有させることもできる(デポー(depot)貼付剤)。しかしながら、不溶解の有効成分や他の成分が貼付剤中に含まれると、安定性に関する問題および他の問題を保管時および使用時に引き起こすことがある。さらに、送達された有効成分を補うように固形デポーから十分な量の有効成分を確実に溶出させることも困難である。当技術分野において、有効成分の固形粒子を含むリザーバを有する有効成分含有貼付剤は、不都合と考えられることが多い。
【0006】
当技術分野において、フェンタニルを投与するための経皮貼付剤として種々のものが知られている。国際公開第02/074286号パンフレットには、フェンタニルを含有するリザーバを有する経皮貼付剤が記載されており、このリザーバはポリマー組成物、好ましくは、不溶解の有効成分を含まない均一相状態にあるポリアクリレートである。この場合、過飽和を避けるべきである。
【0007】
ポリイソブチレンからなるマトリックス層を基剤としたフェンタニル貼付剤を調製する実験も数多くなされている。このような実験はフェンタニル貼付剤に関する基本特許である米国特許公開第4,588,580号明細書に既に記載されている。この文献では、ポリイソブチレンマトリックスと鉱油とを用いた、フェンタニルを2%含有する経皮治療システムが開示されている。しかしながら、ポリイソブチレンマトリックスから離れた開発の後、ポリイソブチレンマトリックスが使用されれば、有効成分をポリイソブチレンマトリックスに完全に溶解する試みがなされてきた。
【0008】
ポリイソブチレンマトリックスを用いた経皮治療システムは、Royらによる、Journal of Pharmaceutical Sciences,Vol.85,No.5,May 1996,pp491〜495に記載されている。この文献によると、ポリイソブチレンマトリックス中のフェンタニルの濃度が4%を超えると、有効成分が析出する。Royらはこの現象を明らかに不都合とみなした。Royらは、完全に溶解されたフェンタニルを含有する、フェンタニル投与用のマトリックス貼付剤を提案している。
【0009】
欧州特許第1 625 854号明細書、米国特許第2007/0009588号明細書および米国特許第2006/0013865号明細書はポリイソブチレンマトリックスに関しており、ポリイソブチレンマトリックスが有効成分を完全に溶解した状態で含むよう注意しなければならない場合があることを示唆している。マトリックス中に生じる結晶は、不都合と考えられる。これらの文献では、時間依存性の放出速度を示すシステムが開示されており、患者の血中フェンタニル濃度が投与後最初の20時間以内は上昇する。しかしながら、その後少なくとも2日間、好ましくは少なくとも3日間にわたり血中濃度が安定することが望ましいにもかかわらず、血中濃度は安定せずに2〜3日以内で降下する。このような貼付剤は、例えば7日間といった長期間に及ぶフェンタニル投与には特に適さない。
【0010】
独国特許第198 37 902号明細書は、クロニジン投与に特に適したポリイソブチレンを基剤とする経皮治療システムを開示している。しかしながら、有効成分としてフェンタニルも記載されているにもかかわらず、本文献にはフェンタニル貼付剤の実施例は記載されていない。また、開示された貼付剤に含まれる有効成分を固形にすべきであるという指摘も記載されていない。さらに、貼付剤からの有効成分の放出に関するインビボにおける研究も本文献には記載されていない。なお、このような貼付剤のポリイソブチレン層は、充填剤を少なくとも5重量%含む。
【0011】
上記のような実験にもかかわらず、有効成分の放出および血漿中濃度の維持に関して認可当局の要件を満たすような、ポリイソブチレンを基剤とする貼付剤は現在に至るまで開発されていない。したがって、このような貼付剤は市場性があると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
従来技術をふまえ、本発明の目的は、従来技術でみられた問題点を有さず、ポリイソブチレンを基剤とした、フェンタニルまたはその類似化合物を経皮的に投与するための経皮治療システムを提供することである。とりわけ、本発明の貼付剤は、ポリイソブチレンを用いたシステムにおける従来技術でみられたような時間依存性の放出速度を示さずに、できる限り短い遅延時間を有し、特に長時間安定してフェンタニルまたはその類似化合物を放出可能であるべきである。血漿中濃度は、可能な限り長時間、好ましくは投与後約30〜70時間を超えて、より好ましくは70時間を超えて、可能な限り一定に保たれるべきである。特に、貼付剤は、投与後3日を超えて、特に4〜7日間、より好ましくは約7日間にわたり、鎮痛効果を供するのに適するべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
したがって、本発明の目的は、
経皮的に有効成分を投与する経皮治療システムであって、
(a)裏打ち層と
(b)有効成分、ポリイソブチレン、ゲル形成剤、および可塑剤を含む、裏打ち層に備えられたリザーバと
を含み、
リザーバ中の有効成分の一部が不溶粒子の形態であること、
リザーバ中のゲル形成剤の含有量が、リザーバの総重量に対して4重量%以下であること、および
有効成分がフェンタニルまたはその類似化合物であること
を特徴とする経皮治療システムを提供することである。
【0014】
本発明に記載のフェンタニルに加え、フェンタニルの類似化合物、例えば、アルフェンタニル、カルフェンタニル、ロフェンタニル、レミフェンタニル、トレフェンタニル、スフェンタニルなどが好ましい。この中でも特に有効成分がフェンタニルまたはスフェンタニルであることが好ましい。以下において、実質的にはフェンタニルに関して本発明を説明する。しかしながら、フェンタニルの類似化合物についても同様に実施形態を適用するものとする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1は好ましい経皮治療システムの構造を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
好ましい経皮治療システムの構造の断面図を図1に示す。経皮治療システムは、被覆層によって覆われている。裏打ち層(1)は、貼付剤の端部の、使用時に皮膚の反対側となる面に設ける。リザーバ(2)は、裏打ち層(1)の、使用時にヒトの皮膚に面する面に設ける。好ましい実施形態において、経皮治療システムは膜(3)を有してもよい。この膜(3)は、リザーバ(2)と貼付剤が貼付される皮膚との間に配置される。膜(3)を設ける場合は、膜(3)と皮膚との間に有効成分を含まない粘着層(4)を設けると好ましい。あるいは、好ましくはないが、粘着層を膜の隣に配置させることもでき、例えば、粘着層で膜を環状に囲むこともできる。
【0017】
さらに、粘着層(4)の、リザーバ(2)とは反対側の面に剥離層(5)を設ける。経皮治療システムを使用する前にこの剥離層(5)を剥がす。
【0018】
経皮治療システムの好ましい実施形態において、リザーバ(2)の、裏打ち層とは反対側の面に膜(3)が設けられ、この膜(3)により有効成分の放出を制御する。膜を設ける主な目的は、貼付剤からの有効成分の放出速度をインビボおよびインビトロにおいて低下させることである。これにより、有効成分の皮膚浸透性の変化を安定化させることができる。膜は微多孔膜が好ましい。
【0019】
好適とされる膜は当技術分野において公知である。好ましい実施形態において、膜はポリプロピレンまたはポリエチレン酢酸ビニルを含むことができ、あるいはこれらから構成されていてもよい。とりわけ膜として好ましい材料は、微多孔性ポリプロピレンフィルムである。
【0020】
膜の厚さは特に限定されないが、例えば、10〜100μm、好ましくは50μm未満、例えば約25μmとすることができる。膜孔の径は、0.001〜0.025μm、例えば0.002〜0.011μm、特に約0.005μmが好ましい。膜孔の形態も特に限定されないが、長方形が好ましい。
【0021】
したがって、好適とされる代表的な膜としては、厚さ約25μm、膜孔が約0.12μm×0.04μmの微多孔性ポリプロピレンフィルムが挙げられ、Celgard LLC(米国、シャーロット)からCelgard 2400の商品名で販売されている。
【0022】
必要に応じて、公知の方法によって膜を前処理することができる。
【0023】
膜と剥離フィルムとの間には、有効成分を含まない粘着層(4)を設けることが好ましく、この粘着層により貼付剤が皮膚に接着する。あるいは、粘着層を膜の周囲に配置することもできる。粘着層は、種々の自体公知の感圧粘着剤から構成することができる。感圧粘着剤としてはポリイソブチレンが好ましいが、ポリブテン、鉱油生成物から得られる種々の樹脂、好適なポリアクリレートなどの他の物質を使用することもできる。感圧粘着剤としてポリイソブチレンを粘着層に使用した場合、使用したのと同じポリイソブチレンをリザーバにも使用するのが好ましい。粘着層には、有効成分を含む貼付剤の粘着層に従来から用いられている添加剤を含有させることができる。粘着層の厚さ(乾燥時の厚さ)は、約10〜300μmの範囲内とすることができるが、約70〜140μmであることが好ましい。粘着層の重量は、貼付剤の面積当たりの重量と関連づけると、(すぐに使える状態(ready−to−use)のもの、すなわち乾燥させた貼付剤の場合)約10〜50mg/10cmが好ましく、特に約20〜40mg/10cmが好ましい。
【0024】
粘着層上または膜を有さない自着性リザーバ上には、図1において参照番号5で示される剥離層(リリースライナー)を設ける。剥離層は、必要に応じて金属被覆することもできる高分子材料で調製することが好ましい。好ましい高分子材料としては、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、および、このようなポリマーを用いて必要に応じて表面が被覆される紙が挙げられる。剥離層は、片面または両面をフッ素またはシリコーンで処理したものが好ましい。片面をシリコーン処理した市販品である、Primeliner 100μmおよびPerolsic LF 75μm(Loparex社(オランダ)およびPerlen Converting AG(スイス))のような、フッ素またはシリコーンで処理した市販のポリエステルフィルムが特に好ましい。
【0025】
リザーバ(3)は、好ましくはフェンタニルである有効成分、ポリイソブチレン、ゲル形成剤、および可塑剤を含む。リザーバ中では、有効成分(フェンタニル)の一部が不溶粒子の形態でもリザーバに含まれるようにそれぞれの成分が調整されており、リザーバ中のフェンタニルの含有量が飽和溶解度を超えるため、フェンタニルがすべて溶解しているわけではない。これは、室温すなわち約25℃において当てはまるが、室温および貼付温度(皮膚温)すなわち(皮膚温は体温よりもいくらか低めになるため)約34℃のいずれにおいても当てはまることが好ましい。
【0026】
可塑剤は、当技術分野において、経皮治療システムで可塑剤として用いられる基本的に公知の化合物である。可塑剤は、有効成分の皮膚への浸透を高めるようにも設計されることが好ましく、特に好適な実施形態では、溶液中の有効成分の量が一定になるように、リザーバ中の有効成分の溶解度を調節する。
【0027】
好ましい可塑剤としては、鉱油、アマニ油、パルミチン酸オクチル、スクアレン、スクアラン、シリコーンオイル、ミリスチン酸イソブチル、イソステアリルアルコール、およびオレイルアルコールが挙げられ、これらのうち特に鉱油が好ましい。流動パラフィンとも称される鉱油は、無色透明で炭化水素を含む。鉱油は、石油留分を300℃を超えて沸騰させることによって得られ、次いで冷却することによって固形の炭化水素から分離される。得られた鉱油は、溶媒を用いた抽出ならびに漂白土および/または硫酸を用いた処理によって精製される。化学的にも生物学的にも安定しており、細菌の増殖を抑制する鉱油が好適である。適切な分留により、ほぼ体温すなわち約35〜37℃においては液体で、それよりも低い温度、特に20℃未満においては固体である鉱油が得られる。液化点が約30〜35℃である鉱油を選ぶことが好ましい。
【0028】
リザーバ中の可塑剤の含有量は、(リザーバの総重量に対して)好ましくは10〜60重量%、より好ましくは25〜50重量%、特に30〜40重量%である。
【0029】
本発明の経皮治療システムにおいて、ヒトの体内で鎮痛効果をもたらし、その効果を(貼付剤を投与した時点を基準として)少なくとも2日間、好ましくは少なくとも3日間、より好ましくは少なくとも4日間、特に約7日間持続するのに十分な量のフェンタニルまたはその類似化合物がリザーバに含まれていなければならない。鎮痛効果をもたらし、その効果を少なくとも3日間、特に3〜7日間、特に好ましくは約7日間維持するのに十分な量のフェンタニルまたはその類似化合物がリザーバに含有されていることが好ましい。
【0030】
本発明の貼付剤には有効成分の一部が不溶解の状態で含まれているため、本発明の貼付剤は、3日間をも超えて、例えば7日目までの非常に長期間の使用に特に適している。すなわち、有効成分の含有量を容易に増やすことができる。しかしながら、有効成分が完全に溶解した状態で貼付剤中に含有されている場合、有効成分の含有量を増やすことはできない。このような貼付剤において、飽和溶解度を超えてフェンタニルの含有量を増やそうとする場合、有効成分が結晶化し、このようなシステムにおける有効成分の放出に悪影響が生じることを予想しておかなければならない。
【0031】
使用する有効成分の絶対量は、様々な要因、特に使用する貼付剤の大きさと使用期間によって決まる。本発明の経皮治療システムは、リザーバの総重量に対して有効成分を5〜30重量%、好ましくは5〜20重量%、より好ましくは5〜15重量%含有する。これに基づいて、単位面積当たりでは、好ましくは20〜100g/m、より好ましくは25〜80g/m、特に30〜70g/mである。リザーバの厚さ(乾燥時の厚さ)は、好ましくは20〜400μm、より好ましくは30〜200μm、特に40〜100μmである。
【0032】
本発明の貼付剤のリザーバは、ゲル形成剤も含有している。このゲル形成剤は、表面に高濃度の極性基を有する粒子構造を持つものであることが好ましい。このような構造のため、極性基は上記の油類に対して高い界面張力を引き起こし、この界面張力の一部を打ち消すように粒子同士が凝集してゲル骨格をなす。したがって、油類とゲル形成剤の表面との間の極性の差が大きくなればなるほど、ゲル骨格は強くなる。本発明によれば、ゲル形成剤として高分散シリカまたはコロイダルシリカを使用することが好ましい。ゲル形成剤の粒径は、ナノ領域、例えば400〜1500nm、特に500〜1000nmであることが好ましい。例えば、コロイダルシリカはCab−O−Sil(登録商標)という名称で市販されており、鉱油の増粘剤として知られている。また別の好適なゲル形成剤としては、ベントナイトが挙げられる。ゲル形成剤として公知のカルボマーナトリウムもまた使用できる。ゲル形成剤の使用量は、リザーバの総重量に対して、0.1〜4.0重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜2.0重量%である。
【0033】
好ましい実施形態において、リザーバのポリイソブチレンは、分子量が異なる2種類のポリイソブチレンからなる。すなわち、一方のポリイソブチレンが持つ分子量分布のピークが、他方のポリイソブチレンが持つ分子量分布のピークと異なる。したがって、これら2種類のポリイソブチレンの平均分子量(重量平均分子量:Mw)が異なる。一方のポリイソブチレン(高分子量ポリイソブチレン)の平均分子量は、好ましくは150,000〜10,000,000、特に好ましくは500,000〜10,000,000であり、他方のポリイソブチレンの平均分子量はより低く(低分子量ポリイソブチレン)、15,000〜100,000であり、20,000〜80,000であることが好ましい。一般に、重量平均分子量(Mw)はGPCによって測定される。特に、低分子量ポリイソブチレンは貼付剤の粘性を左右する。分子量が異なる2種類のポリイソブチレンは、混合することができる。その際の高分子量ポリイソブチレンと低分子量ポリイソブチレンとの比率は、好ましくは0.05:1〜20:1、特に好ましくは0.5:1〜2:1、特に約1:1である。しかしながら、分子量が異なるポリイソブチレンの混合物は市販もされている。特に好適な市販品として、National Starch社のDuro Tak(登録商標)87−616Aが挙げられる。
【0034】
好ましい実施形態において、粘着層もまたポリイソブチレンからなる層であり、リザーバと同様に、分子量が異なる2種類のポリイソブチレンの混合物を使用することが好ましい。しかしながら、粘着層中の、分子量が異なる2種類のポリイソブチレンの比率は、リザーバ層中のこれらの比率とは異なることが好ましい。リザーバに使用したのと同じポリイソブチレンを、リザーバに使用したときとは異なる比率で粘着層に使用することが特に好ましい。したがって、粘着層中の、低分子量ポリイソブチレンと高分子量ポリイソブチレンとの比率は、好ましくは20:7〜2:1、より好ましくは15:1〜5:1、特に約10:1〜9:1である。
【0035】
また、粘着層には従来の賦形剤および添加剤をさらに含有させることができる。経皮治療システムが膜を有する場合、具体的には、可塑剤および/またはゲル形成剤をも粘着層に含有させることができる。
【0036】
リザーバの総重量に対するポリイソブチレンの割合、好ましくは分子量が異なる2種類のポリイソブチレンを合わせた割合は、リザーバの総重量に対して、好ましくは30〜80重量%、例えば40〜65重量%、好ましくは50〜60重量%である。
【0037】
本明細書において、「リザーバの総重量」またはリザーバなどの量は、別段の記載があるまたは明らかである場合を除いて、乾燥時の重量、すなわち、すぐに使える状態(ready−to−use)の貼付剤のリザーバの重量を指す。
【0038】
本発明の経皮治療システムにおいて、有効成分の粒子がリザーバ中に含まれるように、リザーバが十分な量の有効成分を含有していることが重要である。
【0039】
本発明の貼付剤の製造において、有効成分は微粒子化した形態で使用されることが好ましく、その平均粒径は50μm以下、好ましくは20μm以下である。また、貼付剤のリザーバ層(マトリックス層)中には、有効成分が微粒子化した形態で含まれるが、貼付剤を保管する間に、転位反応により粒径にわずかなばらつきが生じる可能性がある。貼付剤に含まれる有効成分粒子の平均粒径は、好ましくは100μm未満、より好ましくは50μm未満、特に約20μm以下である。本発明の貼付剤の製造において、平均粒径が1μm以上の微粒子化したフェンタニルを使用することが好ましく、より好ましくは平均粒径が2μm以上である。さらに、製造された貼付剤中に、この平均粒径の粒子が最終的に存在することが好ましい。経皮治療システムのリザーバ層中に含まれる有効成分粒子の粒径および粒度分布は、従来の光学顕微鏡法で測定することができる。測定結果は、一般に、使用する顕微鏡に適した従来のコンピュータプログラム(画像処理システム)で評価する。別段の記載があるまたは明らかである場合を除いて、粒径とは粒子直径である。
【0040】
微粒子化したフェンタニルの出発原料として、それ自体が臨床応用に適した市販のフェンタニルを使用する。通常、このようなフェンタニルは、100%径が675μm未満であるような粒度分布を示す。約90%径は約90μm未満であり、50%径は約25μm未満である。
【0041】
本発明によれば、所望の粒径が得られる公知の微粒子化方法であればどのような方法を利用してもよい。従来の「ジェットミル」、例えばHosokawa Alpine AGのAS型ジェットミルを用いて微粒子化されたフェンタニルを使用することが好ましい。
【0042】
本発明に記載の微粒子化方法によって、フェンタニルの粒径を上記の範囲の平均粒径にすることが好ましい。また、100%径が50μm未満、特に20μm未満であると好ましい。微粒子の約90%径が12μm未満であり、約50%径が6μm未満であると好ましい。
【0043】
有効成分の粒径および粒度分布を測定する方法には種々のものがある。例えば、「マルバーン MasterSizer X」などのマルバーン社の機器で使用されている光散乱法;AVICEL PH(登録商標)製品の粒度分布を測定するために、FMC社で使用されている機械式振動ふるい法;および、ALPINE(登録商標)「air jet」model 200を用いて行うことのできる「エアジェット」ふるい分析が挙げられる。粒径および粒度分布の測定は、光学顕微鏡法と適切な画像処理ソフトウェアとによって顕微鏡的に行うことが好ましい。
【0044】
別段の記載がある場合を除いて、(平均)粒径および粒度分布はそれぞれ、光学顕微鏡、それに備え付けられたカメラ、および自動評価ソフトウェアを用いて測定する。この場合、通例、顕微鏡メーカーによってあらかじめ定められた所望の試験条件を満たさなければならない。
【0045】
平均粒径および粒度分布によって有効成分を規定する場合、本発明において使用される微粒子化された有効成分の平均粒径は20μm以下であることが好ましく、有効成分の粒径分布としては、25μm以上の粒子が10%未満であり、かつ1μm以下の粒子が10%未満であるような粒径分布(粒度分布)であることが好ましい。平均粒径が15μmである有効成分がさらに好ましい。このような有効成分の粒子径としては、20μm以上の粒子が2%未満であり、かつ5μm以下の粒子が50%未満であるような粒径分布であることが好ましい。有効成分の粒径分布はできる限り狭くするべきである。
【0046】
リザーバの、使用時にヒトの皮膚の反対側となる面には、裏打ち層が設けられ、好ましい実施形態においては密封性、すなわち末端に位置する。好ましい実施形態において、このような裏打ち層は、ポリオレフィン、特にポリエチレンで構成することができ、またはポリエステルやポリウレタンでも構成することができる。また、種類の異なるポリマーを数枚積層させた層を用いると有利である。裏打ち層に用いるのに特に好ましい材料としては、Mylan Technologies Inc.からMediflex(登録商標)1000という名称で市販されているポリオレフィンが挙げられる。他の好適な材料としては、セロファン、酢酸セルロース、エチルセルロース、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマーを含有する可塑剤、エチレン/酢酸ビニルコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニリデン、エチレン/メタクリレートコポリマー、必要に応じて被覆される紙、編織布、アルミニウムフィルム、ポリマー/金属複合材料が挙げられる。特に好ましいのは、ポリエチレンテレフタレートフィルムのようなポリエステルフィルムである。裏打ち層の厚さは、例えば10〜50μmであり、例えば、当技術分野において一般的な呼び厚さの約20μmである。
【0047】
特に、少量のポリイソブチレンまたは粘着剤が滲出した場合に、貼付剤が包装に付着するのを防げるように、貼付剤の裏打ち層上に被覆層を設けることが好ましい。被覆層は裏打ち層上に固定されずに配置され、静電気により保持されることが好ましい。このような被覆層は、当技術分野において公知であり、例えば、欧州特許第1 097 090号明細書が挙げられ、この明細書に記載の内容は、参照することによりその全体が本明細書に組み込まれる。被覆層は非粘着性であり、例えば、少なくとも裏打ち層に接する面はシリコーンまたはフッ素で処理されている。
【0048】
好ましい経皮治療システムの製造法を以下に示す。リザーバに含まれる成分、すなわちフェンタニルとゲル形成剤とを、ヘプタンのような有機媒体中に分散させる。これとは別の好ましくは前記と同一の有機媒体中で、鉱油とポリイソブチレンとを混合する。次に、フェンタニルとゲル形成剤と分散させたものを、ポリイソブチレンと鉱油との混合物中に分散させる。なお、リザーバの製造において、揮発性有機媒体、例えばヘプタンなどを使用するのが好ましい。次に、この混合物を裏打ち層上に均一な層になるように塗布し、乾燥させる。膜を設けたい場合は、リザーバの、裏打ち層とは反対側の面に設ける。
【0049】
別途の工程において、(有効成分を含まない)粘着層を必要に応じて剥離フィルムに塗布し、乾燥させる。
【0050】
膜を設ける場合、次に、各加工工程で得られた構成部品を、粘着層が膜に設けられるように積層する。膜を設けない実施形態においては、(粘着層を設ける場合)粘着層をリザーバに直接積層する。次に、この最終積層フィルムを所望の大きさにダイカットし、包装する。
【0051】
それぞれの加工工程において、ポリイソブチレンを溶解し他の成分を分散するために必要とされた有機溶媒は、温度を上げ必要に応じて減圧することにより取り除く。
【0052】
本発明の経皮治療システムを用いれば、血漿中濃度を非常に上手く調節できる。したがって、本発明によれば、本出願で開示かつ請求項に記載されているように、経皮治療システムが患者に投与された場合、血漿中濃度が、200〜500pg/ml、好ましくは250〜350pg/ml(pg=ピコグラム)の範囲で安定する。以下に記載の事項が適用され、かつ本出願で開示され、特許請求の範囲に記載されているような経皮治療システムが特に好ましい。
【0053】
30〜70時間の範囲で(少なくとも5時間毎に1回測定して)血漿中濃度値の回帰曲線を引いた場合、30時間における回帰曲線上の血漿中濃度値と、70時間における回帰曲線上の血漿中濃度値との差は、10%以下である。
【0054】
上記は、本発明の処方によってフェンタニルの血漿中濃度値を非常に安定したものにできることを示している。
【0055】
下記の実施例により本発明を説明するが、これらに限定されない。
【実施例】
【0056】
<実施例1>
本発明の経皮治療システムの製造に際し、平均粒径が20μmのフェンタニル(Gesellshaft fur Mikronisierung mbH、ジェットミル、AS型、Hosokawa Alpine AG)を、ポリイソブチレン(Duro Tak(登録商標)87−616A)、ゲル形成剤としてのシリカ(Cab−O−Sil M−5P)、および可塑剤としての鉱油「Klearol」とともに、ヘプタンに分散させた。単位面積当たりの重量が約55g/mになるように、得られた混合物を薄層状に裏打ち層に塗布し、乾燥させた。次に、膜として微多孔性ポリプロピレンフィルム(Celgard 2400)を設けた。
【0057】
これと同時に、単位面積当たりの重量が約30g/mになるように、ポリイソブチレン(Duro Tak(登録商標)87−616A、ヘプタンに溶解したもの)のみを、薄層状に剥離層に塗布し、乾燥させた。単位面積当たりの重量許容誤差は10%であった。
【0058】
上記の層をいずれも乾燥させた後、両者を重ね合わせた。膜は、適度な圧力を用いてリザーバに接合させた。
【0059】
次に、角を丸くした10cmの長方形の貼付剤にダイカットし、被覆フィルムとともに包装した。最終製品の組成を以下に示す。
【0060】
【表1】

【0061】
実施例において使用した成分を、さらに詳しく以下に説明する。
【0062】
【表2】

【0063】
<実施例2>
実施例1に記載の手順に従って調製した経皮貼付剤を、予備実験により評価した。
【0064】
予備実験では6人の健常ボランティア被験者を用いた。全体で2種類の貼付剤を試験した。対照群として、ポリアクリレートからなるマトリックスを有する一枚型の経皮治療システムである、Durogesic SMAT 25μg/hという名称の従来品を使用した。この貼付剤を、実施例1に記載されている、本発明の貼付剤と比較した。この実験において、フェンタニルの公称放出量は1時間につき25μgである。
【0065】
貼付剤を被験者に貼付した後、血中フェンタニル濃度を測定した。6人の血中濃度を測定した平均値を、図2の放出曲線に示す。
【0066】
図2の放出曲線から、本発明の貼付剤(-◆-本発明)を貼付した被験者の血漿中フェンタニル濃度が明らかに高いこと、および、完全に安定した放出はできないが市販の医薬品として承認されている、ポリアクリレートからなる貼付剤と同様に約3日間以上、さらに安定してその濃度を維持したことが分かる。
【0067】
また、面積が上記実施形態の65%しかない本発明の貼付剤を貼付した場合、被験者の血漿中濃度は従来品の貼付により示される値に相当し、ポリアクリレートからなる貼付剤を使用した場合と同様に優れた安定性を示した。これらの値も図2に示す。
【0068】
本実施例により、本発明の経皮貼付剤の放出量が、従来品と比較して大幅に改善されたことが明白に示された。したがって、小型の本発明の貼付剤でも、当従来分野において公知の大型の貼付剤と同様の効能を有することができる。その上、血中濃度曲線において、有効成分がさらに効率的に使われることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0069】
さらに、驚くべきことに、本発明の貼付剤では、従来技術によるポリイソブチレンからなる貼付剤について記載された効果、すなわち投与後最初の3日間における時間依存性の放出はむしろ見られず、血漿中濃度が、最初の20時間における初期の急速な増加の後、緩やかに降下することなく、少なくとも3日間にわたり安定した。このことは、驚くべきことであり、本発明のポリイソブチレン貼付剤において並外れて有利である。したがって、本発明のポリイソブチレン貼付剤は、現在市販されているポリアクリレートを基剤としたフェンタニル貼付剤よりもさらに優れている。
【図1】

【図2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経皮的に有効成分を投与する経皮治療システムであって、
(a)裏打ち層と
(b)有効成分、ポリイソブチレン、ゲル形成剤、および可塑剤を含む、裏打ち層に備えられたリザーバと
を含み、
リザーバ中の有効成分の一部が不溶粒子の形態であること、
リザーバ中のゲル形成剤の含有量が、リザーバの総重量に対して4重量%以下であること、および
有効成分がフェンタニルまたはその類似化合物であること
を特徴とする経皮治療システム。
【請求項2】
前記有効成分がフェンタニルまたはスフェンタニルであることを特徴とする、請求項1に記載の経皮治療システム。
【請求項3】
前記リザーバの、前記裏打ち層とは反対側の面に膜が備えられ、この膜が微多孔膜であることを特徴とする、請求項1または2のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項4】
剥離層(リリースライナー)を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項5】
前記リザーバに、鎮痛効果をもたらし、その効果を3〜7日間持続するのに十分な量のフェンタニルまたはその類似化合物が含まれることを特徴とする、請求項4に記載の経皮治療システム。
【請求項6】
前記可塑剤が鉱油であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項7】
前記ゲル形成剤がコロイダルシリカまたはベントナイトであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項8】
前記リザーバ中の前記有効成分粒子が、平均粒径50μm以下、特に20μm以下に微粒子化されていることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項9】
前記ポリイソブチレンが、分子量が異なる2種類のポリイソブチレンポリマーの混合物であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項10】
前記裏打ち層の、リザーバとは反対側の面に、被覆層を備えることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項11】
前記裏打ち層が密封性裏打ち層であることを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項12】
前記リザーバ中の前記有効成分の濃度が、前記リザーバの総重量に対して、3〜20重量%であることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項13】
前記リザーバ中の可塑剤の含有量が、前記リザーバの総重量に対して、10〜60%であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項14】
前記リザーバ中のポリイソブチレンの含有量が、前記リザーバの総重量に対して、30〜80%であることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項15】
不溶解の有効成分を含まない粘着層を有することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか一項に記載の経皮治療システム。
【請求項16】
前記粘着層がポリアクリレートまたはポリイソブチレンであることを特徴とする、請求項15に記載の経皮治療システム。
【請求項17】
前記粘着層が占める面積と前記リザーバが占める面積とが一致することを特徴とする、請求項15または16に記載の経皮治療システム。

【公表番号】特表2011−518795(P2011−518795A)
【公表日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−505435(P2011−505435)
【出願日】平成21年4月24日(2009.4.24)
【国際出願番号】PCT/EP2009/003010
【国際公開番号】WO2009/130039
【国際公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【出願人】(510002350)アシノ アーゲー (7)
【Fターム(参考)】