説明

フォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバとその製造方法及びファイバレーザ

【課題】コアの屈折率プロファイルを制限することなくフォトダークニングを効果的に抑制したYb添加光ファイバ及び該ファイバを用いたファイバレーザの提供。
【解決手段】コアとそれを囲むクラッドとを有し、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバを用意し、該Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射する第1の工程と、次いで、該Yb添加光ファイバを水素を含む雰囲気中で水素添加処理し、フォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを得る第2の工程と、を有することを特徴とするフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。この製造方法により得られたフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバ。該ファイバを用いたファイバレーザ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ファイバレーザやファイバアンプ(ファイバ増幅器)などに光増幅媒体として用いられるYb添加光ファイバに関し、特に、高出力のファイバレーザを長時間使用する際に、出力パワーが経時的に低下するフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバとその製造方法及び該ファイバを用いたファイバレーザに関する。
【背景技術】
【0002】
イッテルビウム(Yb)を添加した光ファイバを用いたファイバレーザにおける課題の1つとして、フォトダークニングの抑制が挙げられる。フォトダークニングとは、Yb添加光ファイバに光(励起光)を照射すると、レーザ出力が経時的に低下していく現象である(非特許文献1〜4参照)。
【0003】
この経時的な出力低下は、希土類添加光ファイバの中でも、Yb添加光ファイバに特有の現象である。たとえば、ファイバアンプに用いられるEr添加光ファイバでは、濃度消光による初期増幅特性の低下が課題となっているが、本発明で課題としているフォトダークニング(経時的な出力低下)は問題となっていない。つまり、Er添加光ファイバアンプの初期増幅特性の低下と、本発明の課題であるフォトダークニングとは、全く別の現象と言える。
【0004】
フォトダークニングの発現機構は、現時点では明らかにされていないが、それについての研究例が幾つか報告されている。以下に、Yb添加光ファイバのフォトダークニングに関する研究例を示す。
【0005】
(研究例1)
カラーセンタの生成がフォトダークニングに関与している。カラーセンタ生成における光イオン化は、7つの3価のYbイオンが関与している(非特許文献1)。
【0006】
(研究例2)
同じ波長の励起光を用いた場合、その励起光強度が強いほど、フォトダークニングによる劣化速度が大きくなる(非特許文献2)。
【0007】
(研究例3)
フォトダークニングには、シリカガラス中のカラーセンタの生成が影響している。カラーセンタの生成は永久的なダメージであり、可視域に吸収波長の中心を持つ、カラーセンタの吸収ピークは可視域であるが、その吸収帯はブロードであり、吸収の裾が赤外領域にも影響を与える。したがって、カラーセンタの生成により励起光にもレーザ発振光にも損失を与え、ファイバのパワー変換効率を低下させる(非特許文献3)。
【0008】
(研究例4)
フォトダークニングの原因は、光ファイバガラスのシリカネットワークが永久的にダメージを受けることによる。そのようなダメージは、励起光や信号光の多光子吸収過程による光イオン化などにより発生する。希土類元素としてYbが添加されたシリカガラスのバンドギャップの一例は5.2eV(238nm)程度であり、添加物の無いシリカ結晶(9eV)よりも小さくなる。この238nmというバンドギャップは、励起光や信号光の波長(1000nm程度)に対し、約4倍のエネルギーであるため、4光子吸収が関与している可能性が考えられる(非特許文献4)。
【0009】
前記研究例1〜4のように、フォトダークニングのメカニズムとして、励起光や信号光により生成したガラス中のカラーセンタ(いわゆる欠陥)が関係していると推測する例が多い。しかし、いずれの報告も、フォトダークニングの原因を特定できるほどの情報ではなく、未だ明確なことは分かっていない。
【非特許文献1】Photodarkening in ytterbium-doped silica fibers, Proc. SPIE5990, 72-81(2005)
【非特許文献2】T. Kitabayashi, et al., “Population Inversion Factor Dependence of Photodarkening of Yb-doped Fibers and its Suppression by Highly Aluminum Doping", OFC2006, Anaheim, USA, paper OThC5, 2006
【非特許文献3】L. B. Glebov, Linear and Nonlinear Photoionization of Silicate Glasses, Glass Science and Technology, Vol. 20, No.24, 1995
【非特許文献4】Liekki White Paper, Photodarkening: Understanding and Mitigating
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
フォトダークニングによる経時的な出力低下は、Ybを高濃度添加するほど顕著となる。特に、波長976nmでのYb吸収率が100dB/m以上になると、フォトダークニングが特に顕著に発生する。波長976nmでのYb吸収率が100dB/mとなるYbの添加濃度は、コア中の濃度分布にも依存するものの、約0.2質量%程度である。Yb吸収量の上限は、製法上の制限や屈折率プロファイル形成上の制限から、2000dB/m程度が上限となるのが一般的である。このため、フォトダークニングは、Ybの添加量が、波長976nmでのYb吸収率が100〜2000dB/mとなるように調整されている光ファイバにおいて問題となる。
【0011】
フォトダークニングを抑制する手段の1つとして、Yb元素とともに、アルミニウム(Al)を共添加することが有効であることが示されている。非特許文献2によれば、Al添加濃度を高くするほど、フォトダークニング抑制効果が高いことが示されている。
しかしながら、Alを高濃度添加した場合でも、フォトダークニングは完全に無くなるわけではなく、少なからずフォトダークニングが生じてしまう。したがって、フォトダークニングを更に抑制できる手法が求められていた。
【0012】
また、別の観点から、Yb添加光ファイバにAlを高濃度添加することに対しては問題がある。ファイバレーザ向けのYb添加光ファイバを例とすると、光ファイバのコアにはYbとAlを添加するのが通常である。シリカガラス中にAlを添加すると、Al濃度1質量%当たり比屈折率差Δを約0.2%上昇させる。ファイバレーザの特性を考えると、レーザ発振光のビーム品質の観点から、信号光(レーザ発振光)の伝搬条件をシングルモードにすることが望ましい。一方では、高強度のレーザ発振光を得るためには、光ファイバのモードフィールド径をある程度大きくして非線形光学効果を低減させることが望ましい。Alを高濃度に添加した場合、前述したシングルモード条件とモードフィールド径の拡大とを両立するうえで、望ましい屈折率プロファイルを形成することが制限されてしまう。このような観点からも、Alを高濃度添加することによる問題が生じてしまう。
【0013】
本発明は、前記事情に鑑みてなされ、コアの屈折率プロファイルを制限することなくフォトダークニングを効果的に抑制したYb添加光ファイバ及び該ファイバを用いたファイバレーザの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記目的を達成するため、本発明は、コアとそれを囲むクラッドとを有し、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバを用意し、該Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射する第1の工程と、
次いで、該Yb添加光ファイバを水素を含む雰囲気中で水素添加処理し、フォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを得る第2の工程と、を有することを特徴とするフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法を提供する。
【0015】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法において、第1の工程でYb添加光ファイバに照射するガンマ線、X線、電子線のいずれかの総照射線量が1×10R〜1×10Rの範囲であることが好ましい。
【0016】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法において、第2の工程での水素添加処理が、水素1atm以上、温度80〜100℃の雰囲気中にYb添加光ファイバを60時間以上曝す条件で行われることが好ましい。
【0017】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法において、第1及び第2の工程を経たYb添加光ファイバは、波長1430nmにおける透過損失が80dB/km以上であることが好ましい。
【0018】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法において、Yb添加光ファイバは、コアのホストガラスが石英ガラスであることが好ましい。
【0019】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法において、Yb添加光ファイバは、コアの直径が6μm以上であることが好ましい。
【0020】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法において、Yb添加光ファイバが、コアの周囲に屈折率が異なる少なくとも2層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバであることが好ましい。
【0021】
また本発明は、コアとそれを囲むクラッドとを有し、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバにおいて、波長1430nmにおける透過損失が80dB/km以上であることを特徴とするYb添加光ファイバを提供する。
【0022】
また本発明は、前述した本発明に係る製造方法により得られたものであることを特徴とするフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを提供する。
【0023】
また本発明は、前述した本発明に係るYb添加光ファイバと、該Yb添加光ファイバを励起する励起光を出射する励起光源とを少なくとも有することを特徴とするファイバレーザを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明の製造方法は、Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射する第1の工程と、次いで、該Yb添加光ファイバを水素を含む雰囲気中で水素添加処理する第2の工程とを施すことで、フォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを製造することができる。
本発明の製造方法は、第1及び第2の工程とも大量のYb添加光ファイバを同時に処理することができるので、低コストで実施でき、フォトダークニング抑制効果を付与したYb添加光ファイバを安価に提供できる。
本発明の製造方法は、被覆を有するYb添加光ファイバに対して、第1及び第2の工程を問題なく行うことができるので、処理に際してファイバ被覆除去や処理後の再被覆形成などの余分な作業が不要であり、また裸ファイバを取り扱う際のファイバ損傷などの不具合を未然に防ぐことができる。
【0025】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバは、前述した本発明の製造方法により得られ、ファイバレーザやファイバアンプの光増幅用ファイバとして使用した際に、フォトダークニングが抑制され、長期間に渡ってレーザ出力の低下が少ない優れた光増幅特性を持つ。
本発明のYb添加光ファイバは、コアに対するAl添加量を多くしなくても優れたフォトダークニング抑制効果が得られるので、Al高濃度添加によって望ましい屈折率プロファイルの形成が制限される、という問題を解消でき、良好な光学特性を有するファイバを得ることができる。
【0026】
本発明のファイバレーザは、前述した本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを光増幅用ファイバとして用いたものなので、高出力レーザ光を出力する運転条件でもフォトダークニングの発生が抑制され、ビーム品質が良好で、長期に渡り安定したレーザ出力が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法は、コアとそれを囲むクラッドとを有し、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバを用意し、該Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射する第1の工程と、
次いで、該Yb添加光ファイバを水素を含む雰囲気中で水素添加処理し、フォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを得る第2の工程とを有することを特徴とする。
【0028】
この製造方法に用いるYb添加光ファイバは、ファイバレーザやファイバアンプ(ファイバ増幅器)などに光増幅用ファイバとして用いられ、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバであればよく、コアとクラッドの材質、コア径、屈折率分布、比屈折率差、モードフィールド径などは特に限定されないが、コアのホストガラスが石英ガラスであり、コアの直径が6μm以上であるYb添加光ファイバを用いることが好ましい。また、コアを囲むクラッドは、1層であっても2層以上であってもよいが、励起光源からの励起光を内側クラッドに入射してコア中のYbイオンを励起可能なダブルクラッド構造とすることが好ましい。
【0029】
このYb添加光ファイバにおいて、コアに添加するYbの濃度は、ファイバレーザやファイバアンプの光増幅用ファイバとして使用可能であればよく、特に限定されないが、本発明の製造方法は、特に、フォトダークニングの発生が問題となっているYbの添加量、すなわち、波長976nmでのYb吸収率が100〜2000dB/mとなるように調整されているYb添加光ファイバに対して有効であることから、この範囲のYb添加量であることが好ましい。
このYb添加光ファイバにおいて、コアに添加するAlの濃度範囲は特に限定されないが、所望のコア屈折率が得られる濃度範囲とすることができる。
このYb添加光ファイバには、YbとAl以外に、コア屈折率を調整するためのドーパント、例えばF、Ge、Pなどを必要に応じて添加することもできる。
【0030】
本発明の製造方法における第1の工程は、前述したYb添加光ファイバに、ガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射する。
ガンマ線、X線、又は電子線照射の総照射量は、1×10R〜1×10R(レントゲン)の範囲とすることが好ましく、1×10R〜1×10Rがより好ましい。ガンマ線、X線、又は電子線照射の総照射量が1×10R未満である場合は、十分なフォトダークニング抑制効果が得られない。また、総照射量が1×10Rを超えるガンマ線、X線、又は電子線照射を行うことは、コスト的、時間的な面からも現実的でない。
【0031】
次に、第2の工程として、第1の工程においてガンマ線、X線、又は電子線を照射したYb添加光ファイバを、水素を含む雰囲気中で水素添加処理する。この水素添加処理する際の処理条件は、水素1atm以上、温度80℃〜100℃、60時間以上の条件であることが好ましい。
【0032】
第2の工程において、水素を含む雰囲気で前記照射後のYb添加光ファイバを水素添加処理することの理由は、第1の工程で意図的にフォトダークニングを発生させたYb添加光ファイバの透過損失特性を回復させる効果が得られるためである。
【0033】
このようにして処理したYb添加光ファイバは、実際にファイバレーザの光増幅用ファイバとして使用する際、フォトダークニングが抑制される。
なお、前記第2の工程で水素添加処理を終えたYb添加光ファイバは、ファイバ中に水素分子が残留しており、水素分子が光ファイバ中に残留すると波長1μm付近で光吸収が生じ、光ファイバの伝送特性を劣化させる恐れがある。この残留する水素分子を除去するため、第2の工程で水素添加処理を終えたYb添加光ファイバを、水素を含まないガス中、例えば、窒素雰囲気中、室温以上、好ましくは50〜100℃程度の温度で長期間保管する脱水素処理を施すことが好ましい。
【0034】
本発明の製造方法において、Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、又は電子線を照射後に水素添加処理を行うことによりフォトダークニングを抑制できる理由は明確ではないが、第1の工程によって、フォトダークニングの原因となる欠陥の前駆体をガンマ線、X線、又は電子線照射により欠陥化した後、第2の工程の水素添加処理によりその欠陥を終端することで、新たな欠陥の生成が抑制されるためと考えられる。
【0035】
第1の工程において、Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射することの要点は、Yb添加光ファイバに高エネルギーの照射を行い、Yb添加光ファイバ中の欠陥前駆体を欠陥化して、あらかじめフォトダークニングを発生させておくことである。つまり、Yb添加光ファイバをファイバレーザの光増幅用光ファイバとして用いる際に使用する励起光や発生するレーザ光よりも高エネルギーのガンマ線、X線、又は電子線を照射することで、予めYb添加光ファイバ中にフォトダークニングを発生させる。
【0036】
また、ガンマ線、X線、又は電子線を照射することの他の利点は、これらは一度に大面積の照射が可能であり、Yb添加光ファイバを短時間で大量に処理できることである。ガンマ線、X線、又は電子線は、光ファイバの被覆材として一般に用いられているUV硬化樹脂を透過するため、光ファイバの側面から照射することで、コアを一度に照射処理することができる。このとき、ガンマ線、X線、又は電子線照射による被覆材の劣化は見られない。一方、紫外線を照射に用いた場合、光ファイバの被覆が光を吸収するため、光ファイバのコアに対し効率的に処理することができない。コアに到達するように紫外線の照射強度を上げると、被覆材に劣化が生じる。このため、光ファイバの端面から光を入射することも考えられるが、この方法だと一度に多数本のYb添加光ファイバを処理することができないため、処理コストが高くなるという欠点がある。
【0037】
また、第2の工程の水素添加処理に関して、本発明者らは、AlとYbを共添加した光ファイバにおけるフォトダークニングの原因に関する調査を行い、損失増加の原因となる欠陥はAl−OHCであることを明らかにした。Al−OHCの吸収波長は、紫外〜可視域の広い範囲に渡っており、フォトダークニングで問題となる励起光波長やレーザ発振波長における損失増加の原因となっている。
このAl−OHCは、水素添加処理により終端され、Al−OH基となる。Al−OH基の主な吸収波長は、波長1430nmにあり、Yb添加ファイバレーザのレーザ発振波長である1060nmよりも長波長側に位置するため、Yb添加ファイバレーザの実用上の問題とならない。
【0038】
本発明の製造方法において、得られたYb添加光ファイバが十分なフォトダークニング抑制効果を有しているかどうかを調べるためには、第1及び第2の工程後に該Yb添加光ファイバの透過損失スペクトルを測定し、波長1430nmにおける損失が80dB/km以上であることを確認することにより行うことができる。波長1430nmにおける透過損失が80dB/km未満である場合は、第1の工程における総照射線量又はAlの添加濃度が不足しているため、フォトダークニング抑制効果が十分に得られなくなる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0040】
[実施例1]
MCVD法により出発石英管の内側にシリカスートを堆積させ、次いで液浸法によりYbとAlを添加した。液浸法においては、AlClとYbClの混合水溶液を用いてシリカスートに溶液を含浸させた。その後、乾燥・脱水を行い、焼結することでシリカスートをガラス化した。次いでバーナを移動させながら焼結体を加熱してコラップスし、中実化した。得られた光ファイバ母材に適切な量のシリカガラスを外付け法により堆積させた後、紡糸することで、ファイバレーザ用Yb添加光ファイバを得た。得られたYb添加光ファイバの一部は、そのままの状態で比較用のオリジナルサンプルとした。
【0041】
作製したYb添加光ファイバは、電子線マイクロアナライザ(EPMA)を用いてコア中に添加されたAlとYbの濃度を測定した。
本実施例では、液浸溶液のYb,Al濃度を変えて3種類のYb添加光ファイバを作製した。これら3種類(サンプル1〜サンプル3)のYb添加光ファイバのコア中に添加されたAlとYbの濃度は、それぞれ0.28質量%、1.72質量%(サンプル1)、1.58質量%、0.69質量%(サンプル2)、1.31質量%、5.03質量%(サンプル3)であった。
【0042】
第1の工程として、前記の通り作製したYb添加光ファイバにガンマ線を照射した。このガンマ線照射においては、放射線源としてコバルト60(エネルギー1.17MeVおよび1.33MeV)を用い、照射線量率1×10〜1×10R/h(レントゲン毎時)で1時間照射を行い、総照射線量1×10〜1×10R(レントゲン)のガンマ線照射を行った。
【0043】
第2の工程として、第1の工程を終えたYb添加光ファイバの水素添加処理を行った。水素添加処理においては、コア中心まで十分に水素が拡散するように、水素1atm、80℃、60時間の添加条件で処理を行った。次いで、水素添加処理を停止し、該光ファイバを窒素雰囲気中、80℃、2週間放置することにより、該光ファイバ中の水素を拡散、放出させ、該光ファイバから水素分子を除去した。該光ファイバから水素分子を除去する目的は、水素分子が光ファイバ中に残留すると波長1μm付近で光吸収が生じるため、これを防ぐために行う。
【0044】
第1及び第2の工程を経たサンプル1〜3のそれぞれのYb添加光ファイバの透過損失スペクトルを測定して、波長1430nmにおける透過損失を評価した。
また、第1及び第2の工程を経たサンプル1〜3のそれぞれのYb添加光ファイバのコアに、波長976nm、パワー400mWの励起LD光を100分間入射した後にフォトダークニング量を評価した。フォトダークニング量は、波長800nmにおける透過損失の増加量(dB)で定義した。
サンプル1のYb添加光ファイバの透過損失及びフォトダークニング量の測定結果を図1にまとめて示し、サンプル2のYb添加光ファイバの透過損失及びフォトダークニング量の測定結果を図2にまとめて示し、サンプル3のYb添加光ファイバの透過損失及びフォトダークニング量の測定結果を図3にまとめて示す。
【0045】
図1〜3に示す結果から、総照射線量が1×10〜1×10Rの範囲、かつ波長1430nmにおける透過損失が80dB以上の領域でフォトダークニング量が大きく減少することがわかった。また総照射線量が1×10〜1×10Rの範囲においてフォトダークニング量が最も少なかった。
【0046】
[実施例2]
この実施例2で前記実施例1と異なる点は、第1の工程におけるガンマ線照射ではなく、X線照射を行った点である。使用したX線は、波長0.2nm(6.2keV)のX線を用い、照射線量率1×10R/hで1時間照射を行い、総照射線量1×10RのX線照射を行ったこと以外は、実施例1のサンプル1と同じ方法で第1及び第2の工程を施してサンプルを作製した(サンプル4)。
【0047】
このサンプル4についても、実施例1と同様に励起LD光を入射した後にフォトダークニング量を評価した。サンプル4の波長1430nmにおける透過損失とフォトダークニング量は、それぞれ83dB/km、1.8dBであり、実施例1のサンプル1とほぼ同じ値であった。したがって、第1の工程においてX線照射を用いた場合でも、ガンマ線照射を用いた場合と同じように、フォトダークニングを抑制できることがわかった。
【0048】
[実施例3]
この実施例3で前記実施例1および実施例2と異なる点は、第1の工程においてガンマ線やX線照射ではなく、電子線照射を行った点である。使用した電子線は2MeVのエネルギーであり、照射線量率1×10R/hで1時間照射を行い、総照射線量1×10Rの電子線照射を行ったこと以外は、実施例1のサンプル1と同じ方法で第1及び第2の工程を施してサンプルを作製した(サンプル5)。
【0049】
このサンプル5についても、実施例1と同様に励起LD光を入射した後にフォトダークニング量を評価した。サンプル4の波長1430nmにおける透過損失とフォトダークニング量は、それぞれ89dB/km、1.5dBであり、実施例1のサンプル1とほぼ同じ値であった。したがって、第1の工程において電子線照射を用いた場合でも、ガンマ線照射を用いた場合と同じように、フォトダークニングを抑制できることがわかった。
【0050】
実施例1〜3の結果から分かるように、第1の工程における照射線源をガンマ線、X線、電子線と変えた場合でも、その総照射線量が同じであれば、得られるフォトダークニング抑制効果はほぼ等しいことを見出した。
また、照射線源を変えても、その総照射線量が同じであれば、第1及び第2の工程後のYb添加光ファイバにおける波長1430nmでの透過損失値がほぼ等しいことを見出した。
つまり、いずれの照射線源を用いた場合でも、総照射線量をコントロールすることにより、波長1430nmでの透過損失値をコントロールすることができ、ひいてはフォトダークニングの低減効果もコントロールすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明によれば、Yb添加光ファイバにおいて問題であったフォトダークニングを抑制することができ、ファイバレーザ等の光増幅用ファイバとして用いた際に長期信頼性を高めることができる高性能のYb添加光ファイバを提供できる。本発明によれば、ビーム品質が良好で高出力のファイバレーザを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】実施例1で作製したサンプル1のYb添加光ファイバにおけるフォトダークニング量と透過損失とガンマ線照射量との関係を示すグラフである。
【図2】実施例1で作製したサンプル2のYb添加光ファイバにおけるフォトダークニング量と透過損失とガンマ線照射量との関係を示すグラフである。
【図3】実施例1で作製したサンプル3のYb添加光ファイバにおけるフォトダークニング量と透過損失とガンマ線照射量との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとそれを囲むクラッドとを有し、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバを用意し、該Yb添加光ファイバにガンマ線、X線、電子線のいずれかを照射する第1の工程と、
次いで、該Yb添加光ファイバを水素を含む雰囲気中で水素添加処理し、フォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバを得る第2の工程と、を有することを特徴とするフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項2】
第1の工程でYb添加光ファイバに照射するガンマ線、X線、電子線のいずれかの総照射線量が1×10R〜1×10Rの範囲であることを特徴とする請求項1に記載のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項3】
第2の工程での水素添加処理が、水素1atm以上、温度80〜100℃の雰囲気中にYb添加光ファイバを60時間以上曝す条件で行われることを特徴とする請求項1又は2に記載のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項4】
第1及び第2の工程を経たYb添加光ファイバは、波長1430nmにおける透過損失が80dB/km以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項5】
Yb添加光ファイバは、コアのホストガラスが石英ガラスであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項6】
Yb添加光ファイバは、コアの直径が6μm以上であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項7】
Yb添加光ファイバが、コアの周囲に屈折率が異なる少なくとも2層のクラッドが設けられたダブルクラッドファイバであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバの製造方法。
【請求項8】
コアとそれを囲むクラッドとを有し、コアに少なくともYbとAlとが添加されたYb添加光ファイバにおいて、
波長1430nmにおける透過損失が80dB/km以上であることを特徴とするYb添加光ファイバ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の製造方法により得られたものであることを特徴とするフォトダークニングを抑制したYb添加光ファイバ。
【請求項10】
請求項8又は9に記載されたYb添加光ファイバと、該Yb添加光ファイバを励起する励起光を出射する励起光源とを少なくとも有することを特徴とするファイバレーザ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−123791(P2010−123791A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−296707(P2008−296707)
【出願日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】