説明

フォトマスク用基板、フォトマスク、フォトマスク用基板セット、フォトマスクセット、フォトマスクの製造方法、及びパターン転写方法

【課題】近接露光を行う際にパターンの転写精度を向上させる。
【解決手段】主表面に転写用パターンを形成してフォトマスクとなすためのフォトマスク用基板であって、主表面上のパターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxが、8.5(μm)以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトマスク用基板、フォトマスク、フォトマスク用基板セット、フォトマスクセット、フォトマスクの製造方法、及びパターン転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータや携帯端末等が備える液晶表示装置は、透光性基材上にTFT(薄膜トランジスタ)アレイを形成したTFT基板と、透光性基材上にRGBパターンを形成したカラーフィルタ(以下、CFともいう)とが貼り合わせられ、その間に液晶が封入された構造を備えている。カラーフィルタは、透光性基材の一主表面上に、色の境界部を構成するブラックマトリックス層を形成する工程と、ブラックマトリックス層に区切られた透光性基材の一主表面上へ赤フィルタ層、緑フィルタ層、青フィルタ層等のカラーフィルタ層(以下、色層或いは色版ともいう)を形成する工程とを、順次実施することで製造される。上記TFTも、カラーフィルタも、フォトマスクを用いたフォトリソグラフィを適用して製造することができる。
【0003】
一方、フォトマスクを露光機にセットし、パターン転写を行う際に、フォトマスクが自重により若干撓むことから、この撓みを軽減するための露光機の支持機構が、特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−306832号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶表示装置に求められる性能向上の期待は益々大きくなっている。特に、携帯端末など、寸法が小さく、高精細画像を必要とする表示装置は、いくつかの点で従来品を超えた性能を求められる。色彩の鮮鋭性(色濁りが無いこと)、反応速度、解像性などである。こうした要請のため、TFTやCFを製造するフォトマスクには、パターン形成の精度が従来に増して求められる。
【0006】
例えば、TFT形成用のフォトマスクにおいては、液晶表示装置の反応速度を上げるために、TFTパターンそのものが微細になったり、主TFTとともにより微細なTFTを組み合わせて用いたりするなど、フォトマスクへのパターン形成に際しては、微細寸法の線幅を精緻に形成しなければならない。また、TFTとCFとは、重ね合わせて使用されるものであるところ、フォトマスク上のそれぞれのパターンの座標精度とともに、転写時の位置決めが極めて精緻に制御されなければ、両者の間に位置ずれが生じ、液晶の動作不良が生じるリスクがある。
【0007】
他方、CF形成用のフォトマスクにおいても、以下の点でやはり難題がある。上記のとおり、ブラックマトリックス層と色層とは重ね合わせて使用されるものであるところ、マスク上のパターン形成が精緻になされるとともに、転写時のパターン面形状の変動やばらつきなどにより座標ずれが生じると、色濁り等の不都合が生じる。
【0008】
フォトマスクを用いて、透光性基材上にブラックマトリックス層やカラーフィルタ層を形成するには、近接(プロキシミティ)露光を適用することが最も有利である。これは、投影(プロジェクション)露光に比べて露光機の構造に複雑な光学系を必要とせず、装置コストも低いことから、生産効率が高いためである。しかしながら、近接露光を適用すると、転写の際に歪みの補正を施すことが困難であるため、投影露光に比べて転写精度が劣化しやすい。
【0009】
近接露光では、レジスト膜が形成された被転写体とフォトマスクのパターン面とを対向させて保持し、パターン面を下方に向け、フォトマスクの裏面側(パターン面とは反対側の面)から光を照射することで、レジスト膜にパターンを転写する。このとき、フォトマスクと被転写体との間には所定の微小間隔(プロキシミティギャップ)を設ける。なお、フォトマスクは、透明基板の主表面に形成された遮光膜に所定のパターニングがなされてなる転写用パターンを備えている。
【0010】
一般に、フォトマスクを近接露光用露光機にセットする場合、転写用パターンが形成された主表面上であって、転写用パターンが形成された領域(パターン領域ともいう)の外側を、露光機の保持機構によって保持する。ここで、露光機に搭載されたフォトマスクは自身の重量によって撓むことがあるが、係る撓みは、露光機の保持機構によってある程度補正することができる。例えば、特許文献1の方法では、フォトマスクを下方から支える保持部材の支持点の外側において、マスクの上方から所定圧の力を加えることが記載されている。
【0011】
しかしながら、フォトマスクの撓みによる、パターン転写上の影響を軽減することが有用であっても、それだけでは、上記用途の精密な表示装置の製造には十分でないことが本発明者等によって見出された。例えば、上述の近接露光を行うと、フォトマスクが備える転写用パターンの形成精度は充分に高く基準範囲内であるにも関わらず、被転写体上に形成される転写パターンの重ね合わせ精度が不十分となり、液晶表示装置の動作上の不都合や、色濁りなどが生じる可能性があることが判明した。液晶表示装置の高精細化が進むにつれ、こうした転写用パターンの重ね合わせ精度の劣化が許容できなくなりつつある。
【0012】
本願発明は、フォトマスク上に形成された転写用パターンを近接露光により被転写体に転写する際に、パターンの転写精度を向上させることを目的とする。特に、複数枚のフォトマスクを順次用いて同一の被転写体に転写する際に、パターンの重ね合わせ精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の態様によれば、
主表面に転写用パターンを形成してフォトマスクとなすためのフォトマスク用基板であって、
前記主表面上のパターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxが、8.5(μm)以下であるフォトマスク用基板が提供される。
【0014】
本発明の第2の態様によれば、
前記高さ変動の最大値ΔZmaxは、前記パターン領域に所定の離間距離Pをおいて等間隔に設定した各測定点の基準面に対する高さをZとするとき、前記Zの最大値と最小値との差である第1の態様に記載のフォトマスク用基板が提供される。
【0015】
本発明の第3の態様によれば、
前記離間距離Pが5(mm)≦P≦15(mm)である第2の態様に記載のフォトマスク用基板が提供される。
【0016】
本発明の第4の態様によれば、
第1〜第3のいずれかの態様に記載のフォトマスク用基板を用意し、前記フォトマスク用基板の主表面に光学膜を形成し、前記光学膜にパターニングを施すことにより転写用パターンを形成する工程を含むフォトマスクの製造方法が提供される。
【0017】
本発明の第5の態様によれば、
主表面に転写用パターンが形成されたフォトマスクであって、
前記主表面上のパターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxが、8.5(μm)以下であるフォトマスクが提供される。
【0018】
本発明の第6の態様によれば、
前記高さ変動の最大値ΔZmaxは、前記パターン領域に所定の離間距離Pをおいて等間隔に設定した各測定点の基準面に対する高さをZとするとき、前記Zの最大値と最小値との差である第5の態様に記載のフォトマスクが提供される。
【0019】
本発明の第7の態様によれば、
前記離間距離Pが5(mm)≦P≦15(mm)である第6の態様に記載のフォトマスクが提供される。
【0020】
本発明の第8の態様によれば、
近接露光用である第5〜第7のいずれかの態様に記載のフォトマスクが提供される。
【0021】
本発明の第9の態様によれば、
前記パターン領域にカラーフィルタ製造用パターンを備えた第5〜第8のいずれかの態様に記載のフォトマスクが提供される。
【0022】
本発明の第10の態様によれば、
第5〜第9のいずれかの態様に記載のフォトマスクを近接露光用の露光機にセットし、被転写体へのパターン転写を行うパターン転写方法が提供される。
【0023】
本発明の第11の態様によれば、
被転写体に転写される転写用パターンを主表面に形成して第1フォトマスクとなすための第1フォトマスク用基板と、前記転写用パターンと重ね合わせて前記被転写体に転写される転写用パターンを主表面に形成して第2フォトマスクとなすための第2フォトマスク用基板と、を備えたフォトマスク用基板セットであって、
前記第1フォトマスク用基板の主表面上のパターン領域内に設定した任意の点Mの、基準面に対する高さをZmとし、
前記第2フォトマスク用基板の主表面上のパターン領域内の前記第1フォトマスク用基板上の点Mに対応する位置にある点Nの、前記基準面に対する高さをZnとし、
前記Zmと前記Znとの差Zdを求めたとき、
前記パターン領域内において、該Zdの最大値ΔZdmaxが17(μm)以下であるフォトマスク用基板セットが提供される。
【0024】
本発明の第12の態様によれば、
被転写体に転写される転写用パターンが主表面に形成された第1フォトマスクと、前記第1の転写用パターンと重ね合わせて前記被転写体に転写される転写用パターンが主表面に形成された第2フォトマスクと、を備えたフォトマスクセットであって、
前記第1フォトマスクの主表面上のパターン領域内に設定した任意の点Mの、基準面に対する高さをZmとし、
前記第2フォトマスクの主表面上のパターン領域内の前記第1フォトマスク上の点Mに対応する位置にある点Nの、前記基準面に対する高さをZnとし、
前記Zmと前記Znとの差Zdを求めたとき、
前記パターン領域内において、該Zdの最大値ΔZdmaxが17(μm)以下であるフォトマスクセットが提供される。
【0025】
本発明の第13の態様によれば、
第12の態様に記載の前記第1フォトマスクの有する転写用パターンと、第12の態様に記載の前記第2フォトマスクの有する転写用パターンとを、同一の被転写体に、近接露光用の露光機を用いて重ね合わせて転写するパターン転写方法が提供される。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、フォトマスク上に形成された転写用パターンを近接露光により被転写体に転写する際に、パターンの転写精度を向上させることが可能となる。特に、複数枚のフォトマスクを順次用いて同一の被転写体に転写する際に、パターンの重ね合わせ精度を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本実施形態に係るカラーフィルタの製造工程の概略を例示するフロー図である。
【図2】(a)は本実施形態に係るカラーフィルタの製造工程において近接露光を行う様子を例示する側面図であり、(b)はその平面図である。
【図3】(a)は本実施形態に係るフォトマスクの平面構成を例示する平面図であり、(b)はその変形例を例示する平面図である。
【図4】パターンを重ね合わせて転写する被転写体上においてパターンの転写精度が劣化する様子を例示する模式図であり、(a)はブラックマトリックス層を形成する第1フォトマスクの断面拡大図を、(b)は赤フィルタ層を形成する第2フォトマスクの断面拡大図を、(c)はレジスト膜にパターンが転写される様子をそれぞれ示している。
【図5】本実施形態に係るフォトマスクの製造工程を例示するフロー図である。
【図6】レーザ光を入射することで平坦度を測定する様子を例示する模式図である。
【図7】フォトマスク用基板の重ね合わせと座標ずれとの関係を示す図である。
【図8】主表面の平坦度プロフィールを例示する図である。
【図9】パターンを重ね合わせて転写する被転写体上においてパターンの転写精度が劣化する様子を例示する模式図であり、(a)は所定の平坦度傾向を示す第1フォトマスクの断面拡大図を、(b)は第1フォトマスクと同一の平坦度傾向を示す第2フォトマスクの断面拡大図を、(c)はレジスト膜にパターンが転写される様子を示している。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明の一実施形態について説明する。
【0029】
(1)カラーフィルタの製造工程
まず、液晶表示装置等に用いられるカラーフィルタの製造工程について、図1〜図3を参照しながら説明する。図1は、本実施形態に係るカラーフィルタの製造工程の概略を例示するフロー図である。図2(a)は、本実施形態に係るカラーフィルタの製造工程において近接露光を行う様子を例示する側面図であり、図2(b)はその平面図である。図3(a)は、本実施形態に係るフォトマスクの平面構成を例示する平面図であり、図3(b)は、その変形例を例示する平面図である。
【0030】
図1に示すように、液晶表示装置用のカラーフィルタ10は、透光性基材11の一主表面上へ色の境界部を構成するブラックマトリックス層12pを形成する工程(図1(a)〜(e))と、ブラックマトリックス層12pに区切られた透光性基材11の一主表面上へ赤フィルタ層14p、緑フィルタ層15p、青フィルタ層16p等のカラーフィルタ層を形成する工程(図1(f)〜(j))とを、順次実施することで製造される。以下に、各工程ついて説明する。
【0031】
(ブラックマトリックス層の形成)
まず、透光性樹脂やガラス等からなる透光性基材11を用意し、透光性基材11の一主表面上に遮光材膜12を形成し、遮光材膜12上にレジスト膜13を形成する(図1(a))。
【0032】
そして、ブラックマトリックス形成用の第1フォトマスク100と、被転写体としての遮光材膜12及びレジスト膜13が形成された透光性基材11とを、近接露光用の露光機500内に配置する(図1(b)、図2)。
【0033】
なお、図3(a)に平面構成を例示するように、第1フォトマスク100は、透明基板101の一主表面(図1(b)では下側の面)に形成された遮光膜が所定のパターニングをなされて形成された転写用パターン112pをもつパターン領域133を備えている(以下、転写用パターン112pが形成された領域のほか、形成される予定領域もパターン領域133とすることがある)。転写用パターン112pの形状は、後述のブラックマトリックス層12pを形成するように例えば格子状とされる。また、第1フォトマスク100の透明基板101の一主表面には、パターン領域133の外側であって、透明基板101の主表面外周を構成する対向する二辺のそれぞれの近傍に露光機500の保持(支持)部材503と当接する保持部(支持領域)103が設けられている。保持部103には、遮光膜が形成されていてもよく、透明基板101の一主表面が露出していてもよい。
【0034】
図2(a)に示すように、保持部103が、露光機500の保持部材503によってそれぞれ下方から支持されることで、第1フォトマスク100は水平姿勢で露光機500内に配置される。そして、第1フォトマスク100が備える転写用パターン112pと、透光性基材11上に形成されたレジスト膜13とが対向し、例えば10μm以上300μm以内のプロキシミティギャップ距離に近接して配置される。
【0035】
第1フォトマスク100と、遮光材膜12及びレジスト膜13が形成された透光性基材11とが近接露光用の露光機500内に配置され、それぞれ位置合わせが完了したら、光源501及び照射系502を用い、第1フォトマスク100の裏面側(すなわち透明基板101の第2主表面側)から紫外線などの光を照射し、転写用パターン112pを介してレジスト膜13を露光して、レジスト膜13の一部を感光させる(図1(c)、図2(a))。露光にはi線、h線、g線を含む波長域の光源を用いることができる。
【0036】
そして、第1フォトマスク100と、遮光材膜12及びレジスト膜13が形成された露光後の透光性基材11と、を露光機500から取り外す。そして、レジスト膜13を現像して、遮光材膜12を部分的に覆うレジストパターン13pを形成する(図1(d))。
【0037】
そして、形成したレジストパターン13pをマスクとして遮光材膜12をエッチングし、透光性基材11の一主表面上にブラックマトリックス層12pを形成する。ブラックマトリックス層12pが形成されたら、レジストパターン13pを除去する(図1(e))。
【0038】
(赤フィルタ層の形成)
続いて、ブラックマトリックス層12pが形成された透光性基材11の一主表面上に、例えば感光性樹脂材料からなる赤レジスト膜14を形成する(図1(f))。
【0039】
そして、赤フィルタ層形成用の第2フォトマスク200と、ブラックマトリックス層12p及び赤レジスト膜14が形成された被転写体としての透光性基材11とを、近接露光用の上述の露光機500内に配置する(図1(g))。
【0040】
なお、図3(a)に平面構成を例示するように、第2フォトマスク200は、透明基板201の一主表面(図1(g)では下側の面)に、遮光膜が所定の転写用パターンに加工されてなる転写用パターン212pをもつパターン領域233を備えている。なお、転写用パターン212pの形状は、赤フィルタ層14pを形成するための形状とされ、第1フォトマスク100の転写用パターン112pとは異なる形状となる。また、第2フォトマスク200の透明基板201の一主表面には、パターン領域233の外側であって、透明基板201の外周を構成する対向する二辺のそれぞれの近傍の領域に、露光機500の保持部材503が当設する保持部(支持領域)203が設けられている。保持部203には、遮光膜が形成されていてもよく、透明基板201の一主表面が露出していてもよい。
【0041】
図2(a)に示すように、保持部203が、露光機500の保持部材503によってそれぞれ下方から支持されることで、第2フォトマスク200は水平姿勢で露光機500内に配置される。そして、第2フォトマスク200が備える転写用パターン212pと、透光性基材11上に形成された赤レジスト膜14とが対向し、上述のプロキシミティギャップ距離に近接して配置される。
【0042】
第2フォトマスク200と、ブラックマトリックス層12p及び赤レジスト膜14が形成された透光性基材11とが近接露光用の露光機500内に配置され、それぞれ位置合わせが完了したら、光源501及び照射系502を用い、第2フォトマスク200の裏面側から紫外線などの光を照射し、転写用パターン212pを介して赤レジスト膜14を露光して、赤レジスト膜14の一部を感光させる(図1(h))。
【0043】
そして、第2フォトマスク200と、赤レジスト膜14が露光された透光性基材11と、を露光機500から取り外す。そして、赤レジスト膜14を現像して余分な赤レジスト膜14を除去し、残留している赤レジスト膜14をベークして硬化させることで赤フィルタ層14pを形成する(図1(i))。
【0044】
(緑フィルタ層及び青フィルタ層の形成)
続いて、緑フィルタ層15p及び青フィルタ層16pの形成を赤フィルタ層14pの形成と同様に行い、ブラックマトリックス層12pに区切られた透光性基材11の一主表面上へ赤フィルタ層14p、緑フィルタ層15p、青フィルタ層16p等のカラーフィルタ層を形成する工程を終了する(図1(j))。
【0045】
(ITO電極の形成)
その後、図示しないがブラックマトリックス層12p、赤フィルタ層14p、緑フィルタ層15p、青フィルタ層16p等のカラーフィルタ層の上面を覆うようにITO膜を形成して透明電極とし、カラーフィルタ10の製造を終了する。
【0046】
(2)パターンの転写精度について
上述したように、カラーフィルタ10を製造するには、ブラックマトリックス層12p、赤フィルタ層14p、緑フィルタ層15p、青フィルタ層16pを形成するフォトマスク等を用い、近接露光による複数回の露光を行う。しかしながら、近接露光を行うと、各フォトマスクが備える転写用パターンの加工精度は充分に高く基準範囲内であるにも関わらず、転写用パターンの重ね合わせの結果として、転写精度が不十分となりえることが見出された。
【0047】
発明者等の鋭意研究によれば、係る転写精度の劣化は、個々のフォトマスクにおける、パターン領域のわずかな高さ変動に起因する転写座標変動によって生じることが判明した。更に、この転写精度の劣化は、複数のフォトマスクの転写パターンを被転写体上で重ね合わせることによって増幅し得ることを考慮しなければ、最終製品の機能に影響する場合があることが判明した。図4は、近接露光を続けて行う際にパターンの転写精度が劣化する様子を例示する模式図であり、(a)はブラックマトリックス層を形成するフォトマスク100’の断面拡大図を、(b)は赤フィルタ層を形成するフォトマスク200’の断面拡大図を、(c)はレジスト膜13,14にパターンが転写される様子をそれぞれ示している。もちろん、これらは他の層の形成に用いられるフォトマスクでも良い。
【0048】
図4(c)に示すように、露光機500からフォトマスク100’,200’を介してレジスト膜13,14に照射される露光光は、フォトマスク100’,200’の一主表面に垂直に入射されることが前提である。しかしながら、現実にはこの入射角はわずかに傾斜する場合が完全には排除できず、所定の角度(例えばθ)傾いて入射される場合がある。現実には、θの上限が1度程度である。係る場合、レジスト膜13,14に転写されるパターンの位置は、斜めに投影されることによって、露光光の傾きθの大きさに応じて水平方向に所定量ずれることとなる。図4(c)には、露光光がフォトマスク100’,200’の一主表面の法線に対して角度θ傾いて入射されることで、パターンの転写位置が水平方向にS0だけずれる様子を示している。
【0049】
上述の転写ズレは、発生したとしても、ズレ量S0がレジスト膜13,14の全面に渡り一定であれば転写精度の劣化に殆ど影響を与えない。しかしながら、発明者等の鋭意研究によれば、ズレ量S0は、透明基板101’,201’の一主表面の平坦度に応じて局所的に変化することが分かった。そして、このズレ量S0の変動に伴って、パターンの転写精度の局所的な劣化が生じていることが分かった。特に、ズレ量の局所的な変動量が各フォトマスク単体ではそれぞれ許容範囲内であったとしても、複数枚のフォトマスクを順次用いてパターンを重ね合わる際に、所定の重ね合わせ位置での変動方向が互いに異なっていれば(例えば、一方のフォトマスクでは所定の重ね合わせ位置でズレ量が大きくなるように変動し、他方のフォトマスクでは係る位置でズレ量が小さくなるように変動していれば)、重ね合わせた時の変動量の累積値が、局所的に転写精度の許容範囲を超えてしまう場合があることが見出された。
【0050】
図4(a)は、転写用パターン112p’内における透明基板101’の一主表面に、深さZmの凹構造が存在するフォトマスク100’の断面拡大図を示している。このようなフォトマスク100’を用いて近接露光を行った場合、図4(c)に示すように、凹構造内に形成された転写用パターン112p’の高さ位置(Z位置)は、他の平坦な領域の転写用パターン112p’の高さ位置(Z位置)に比べて、最大で(M点において)Zm分だけ高くなる。その結果、露光光が角度θ傾くことで生じる凹構造部分のズレ量S1が、上述の平坦部のズレ量S0に比べて局所的に大きくなる(S1>S0)。
【0051】
一方、図4(b)は、転写用パターン212p’内における透明基板201’の一主表面に高さZnの凸構造が存在する第2フォトマスク200’の断面拡大図を示している。図4(c)に示すように、このような第2フォトマスク200’を用いて近接露光を行った場合、凸構造上に形成された転写用パターン212p’の高さ位置(Z位置)が、他の平坦な領域の転写用パターン212p’の高さ位置(Z位置)に比べて、最大で(N点において)Zn分だけ低くなる。その結果、露光光が角度θ傾くことで生じる凸構造部分のズレ量S2が、上述の平坦部のズレ量S0に比べて局所的に小さくなる(S2<S0)。
【0052】
なお、上述のパターンの転写精度の劣化は、1枚のフォトマスクを単独で用いた1回の近接露光で生じる課題であるが、発明者等の鋭意研究によれば、ズレ量S0の変動は、特に、複数枚のフォトマスクを順次用いて同一の被転写体に近接露光を行う際により大きな影響をもたらし、パターンの転写精度をより大きく劣化させる場合があることが分かった。すなわち、例えば図4(c)に示すように、第1フォトマスク100’に存在する凹構造と、フォトマスク200’に存在する凸構造とが垂直軸上で重なる場合には、近接露光を続けて行うことで、凹凸構造の部分におけるブラックマトリックス層および赤フィルタ層の転写用パターンの座標位置が、局所的に最大|S1−S2|(=|−Zm−(+Zn)|・tanθ)だけずれる。すなわち、単独のフォトマスクとしての座標精度が基準内であったとしても、転写パターンを重ね合わせて使用するフォトマスクセットを構成するフォトマスクにおいては、上記要素を考慮して、加工や選別を行わなくてはならない。また、フォトマスクセットを構成するフォトマスクを製造する可能性のあるフォトマスク用基板においては、その平坦度においてより厳格な評価を行う必要があることが明らかになった。
【0053】
発明者等は、鋭意研究の結果、近接露光を行う際のパターンの転写精度を向上させるには、パターン領域における透明基板の一主表面の高さ変動を制御することが有効であるとの知見を得た。
【0054】
係る知見が適用された本実施形態によると、主表面に転写用パターンを形成してフォトマスクとなすためのフォトマスク用基板であって、前記主表面上の、パターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxが8.5(μm)以下であるようなフォトマスク用基板を用いる。
【0055】
すなわち、上記でいう|−Zm−(+Zn)|のパターン領域における最大値ΔZmaxが8.5μm以下であるようなフォトマスク用基板を用いる。これを超えると、同一の被転写体に重ね合わせ露光するためのフォトマスクがもつパターン領域の高さ変動との組み合わせによって、被転写体上に生じる座標ずれが許容範囲を超えることがある。尚、ここでいう座標ずれの許容範囲については後述する。
【0056】
本実施形態のフォトマスク用基板は、透明基板の精密研磨により、さらに基板の選別により得ることができる。但し、この数値が過度に小さいと、基板の表面加工に際して、加工装置の能力を超えたり、過大な加工時間を要したりすることがある。従って、パターン領域における最大値ΔZmaxは、1μm以上であることが好ましい。
【0057】
パターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxは、パターン領域内における任意の点についての基準面に対する高さZを求めたとき、その最大値と最小値との差とすることができる。
【0058】
尚、任意の点とは、例えば以下のように定めて、基準化することが可能である。すなわち、前記パターン領域に所定の離間距離Pをおいて等間隔に設定した点を任意の点とすることができる。例えば、前記フォトマスク用基板のパターン領域に、所定の離間距離P(好ましくは5mm以上15mm以下であって、例えば10mm)間隔でXY方向に格子を描いたときのすべての格子点について高さZを測定点としたとき、その最大値と最小値との差を、最大値ΔZmaxとすることができる。
【0059】
ここで高さZは、後述するように、平面度測定機を用いて測定することができ、装置の規定する基準面を用いて求めることができる。尚、パターン領域の各点における高さZを測定する際には、フォトマスク用基板を鉛直にし、自重による撓みの影響を実質的に排除した状況で測定を行うことが好ましい。
【0060】
このようなフォトマスク用基板の平坦度制御によると、以下の利点がある。
【0061】
液晶表示装置のデバイスパターンは、微細化が進んでいる。カラーフィルタに使用されるブラックマトリックス(以下、BMともいう)にも、細線化の要望が特に強い。従来、10μm程度で十分と見なされていたBM幅が、最近では8μm、或いは6μm程度を期待されるようになり、製造技術の難度は一層大きくなっている。
【0062】
例えば、6μm又はそれ以下のBM幅を有するBMを形成しようとする場合を考える(図7(a))。BMに色版を重ね合わせたときに、一方に(たとえばBMに。以下同様)許容される座標ずれの最大値は3μmである(図7(b))。これは、色版同士(たとえばレッドとブルー)の境界がBMの幅をはみ出すと、色濁り等の不都合が生じるからである。更に、色版自身の線幅誤差があること、およびBM自身の線幅誤差があることを考慮すると、一方の座標ずれは(3μm×1/2×1/2=)0.75μm以内としなければならない(図7(c))。
【0063】
ところで、描画装置のもつ描画再現性は0.15μm程度であるから、フォトマスク用基板側のマージンは、(0.75−0.15=)0.60μmである。これが、フォトマスク起因の座標ずれの許容値である(図7(d))。
【0064】
但し、フォトマスク用基板に起因する座標ずれの要因は、フォトマスクの主表面の平坦度(高さ変動)によるものだけではない。発明者等の検討によると、複数の因子があり、有意なもの(因子として無視できないもの)として、他に、露光機500の保持部材503とフォトマスクとの当接による転写用パターンの歪みや、パターン領域に対応する第2主表面(裏面)の形状といった要素がある。ここで、第2主表面の形状は、転写用パターンの描画時に生じる座標ずれと関係することから、無視できないものである。
【0065】
従って、許容できる座標ずれ量を、上記した主要3因子に分配し(図7(e))、かつ、Cpk(工程能力指数)1.3を満たすためには、パターン領域の高さ変動に起因する許容ずれ量は、単品のフォトマスクにおいて0.15μm以内(従って、2枚のフォトマスクの組み合わせによって生じるずれ量は0.3μm以内)としなければならない(図7(f)、図4(c)のS1−S2)。
【0066】
上記したように、ずれ量は〔ΔZmax・tanθ〕であり、θの上限が1度であるから、
ΔZmax・tanθ≦0.15(μm)
ゆえに ΔZmax≦8.59(deg)
であり、高さ変動の最大値ΔZmaxとしては、8.5μm以下を基準とすれば、この要素に起因する座標ずれを、BMの性能に影響させない程度に抑えることができる。
【0067】
尚、より好ましくは、パターン領域の高さ変動最大値ΔZmaxが7.5(μm)以下である。この場合、ブラックマトリックス線幅が5.5μm程度となる次期液晶表示装置の座標精度を充足できる。
【0068】
複数の測定点は、主表面のパターン転写領域に、所定の離間距離Pをおいて等間隔に設定することができる。本実施形態の主な目的は、パターン領域における不均一な面形状に起因する転写時の座標精度の劣化を抑止することであり、測定点の離間距離は、大きすぎると、得られる高さ変動値の精度が下がる。但し、フォトマスク用の透明ガラス基板は、精密研磨を経た段階で、周期の小さい凹凸は除去されているから、5mm以上の離間距離で測定点を設定することにより十分な高さ変動プロフィールが得られる。具体的には、測定点の離間距離は、5≦P≦15(mm)とすることができる。例えば、10mm幅の格子の格子点を、測定点とすることが好適である。
【0069】
(3)フォトマスクの製造方法
以下に、本実施形態に係るフォトマスクの製造方法について、図5、図6を参照しながら説明する。図5は、本実施形態に係るフォトマスクの製造工程を例示するフロー図である。図6は、レーザ光を入射することで平坦度を測定する様子を例示する模式図である。なお、以下の説明では、ブラックマトリックス形成用の第1フォトマスク100を製造する場合を例に挙げて説明するが、カラーフィルタ層形成用の第2〜第4フォトマスクの製造も、第1フォトマスク100の製造と同様に行うことができる。
【0070】
(透明基板の用意及び平坦度の検査)
まず、フォトマスク用基板としての透明基板101を用意する(図5(a))。なお、図3(a)にも例示したように、透明基板101は、平面視が長方形の板状であり、その寸法は、例えば長辺L1が600〜1400(mm)、短辺L2が500〜1300(mm)、厚さTが6〜13(mm)程度とすることができる。透明基板101は、例えば石英(SiO)ガラスや、SiO,Al,B,RO,RO等を含む低膨張ガラス等から構成することができる。透明基板101の一主表面(図5(a)では上側の面)には、上述の転写用パターン112pの形成予定領域が設けられている。また、転写用パターン112pの形成予定領域の外側であって、透明基板101の外周を構成する対向する二辺(本実施形態では長辺L1)のそれぞれの近傍にある保持部103には、露光機500の保持部材503が当接する。
【0071】
透明基板101の主面(表面及び裏面)は、研磨されてそれぞれ平坦且つ平滑に構成されている。透明基板101の一主表面の平坦度は、上述したように、パターン領域133の高さ変動の最大値ΔZmaxが8.5(μm)以下となるように精密研磨を行う。又は、透明基板101として、該基準を満たすものを選別する。
【0072】
平坦度の測定は、以下のように行う。高さ変動の最大値ΔZmaxを求めるため、各測定点の高さZを測定する。各点の高さZは、主表面上に複数の測定点を定めたとき、各測定点と基準面との距離となる。また、高さZの面内ばらつきが上述の高さ変動となる。例えば、平面度測定器を用いて上記距離を測定するとき、該測定器のもつ基準面を、上記基準面とすることができる。例えば、図6に示すように、支持領域内における一主表面にレーザ光を入射する方法等を用いて検査することができる。例えば黒田精工株式会社製の平面度測定機FFT−1500(登録商標)や、特開2007−46946号公報記載のものを用いて行うことができる。
【0073】
このようにして得られた、フォトマスク用基板としての透明基板101のパターン領域133における高さ変動のプロフィールを、図8に例示する。
【0074】
測定点としては、上記したとおり、パターン領域133の全体にわたり、離間距離P(好ましくは5mm以上15mm以下であって、例えば10mm)間隔の格子点とし、すべての測定点の高さZを得る。そして、高さ変動の最大値ΔZmaxを求める。このとき、ΔZmaxが8.5μm以下のフォトマスクのみを組み合わせて、同一の被転写体に露光しても、パターン領域133の高さ変動に起因する座標精度の劣化は実質的に問題とならない。他方、8.5μmを超える場合であっても、組み合わせて使用する他のフォトマスクの高さ変動の挙動が同一であれば、マスクセットとして使用することができる。この点については後述する。
【0075】
(遮光膜及びレジスト膜の形成)
続いて、透明基板101の主表面上に、例えばCrを主成分とする遮光膜112を形成する(図5(b))。遮光膜112は、例えばスパッタリングや真空蒸着等の手法により形成することができる。遮光膜112の厚さは、露光機500の照射光を遮るのに十分な厚さであって、例えば90〜140nm程度とすることができる。なお、遮光膜112の上面には、例えばCrO等を主成分とする反射防止層を形成することが好ましい。また、遮光膜112は、保持部103上には形成しなくてもよい。
【0076】
そして、遮光膜112上にレジスト膜113を形成する(図5(b))。レジスト膜113は、ポジ型フォトレジスト材料或いはネガ型フォトレジスト材料により構成することが可能である。以下の説明では、レジスト膜113がポジ型フォトレジスト材料より形成されているものとする。レジスト膜113は、例えばスピンコートやスリットコート等の手法により形成することができる。
【0077】
(パターニング工程)
続いて、レーザ描画機等によりレジスト膜113に描画露光を行い、レジスト膜113の一部を感光させる。その後、スプレー方式等の手法により現像液をレジスト膜113に供給して現像し、遮光膜112の一部を覆うレジストパターン113pを形成する(図5(c))。
【0078】
そして、形成したレジストパターン113pをマスクとして、遮光膜112の一部をエッチングする。遮光膜112のエッチングは、クロム用エッチング液をスプレー方式等の手法により遮光膜112上に供給することで行うことが可能である。その結果、透明基板101の一主表面上に、遮光膜112がパターニングされてなる転写用パターン112pが形成される。そして、レジストパターン113pを除去して第1フォトマスク100の製造を終了する(図5(d))。
【0079】
尚、上記した平坦度の測定は、フォトマスク形成後に行っても良い。方法は上記と同様とすることができる。
【0080】
<本発明の他の実施形態>
上述の実施形態では、高さ変動の最大値ΔZmaxが8.5(μm)以下という要件を満たすフォトマスク用基板を用いる場合について説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されず、以下に述べるようなフォトマスク用基板セットを用いることができる。
【0081】
すなわち、
被転写体に転写される転写用パターンを主表面に形成して第1フォトマスクとなすための第1フォトマスク用基板と、前記転写用パターンと重ね合わせて前記被転写体に転写される転写用パターンを主表面に形成して第2フォトマスクとなすための第2フォトマスク用基板と、を備えたフォトマスク用基板セットであって、
前記第1フォトマスク用基板の主表面上の、パターン領域内に設定した任意の点Mの、基準面に対する高さをZmとし、
前記第2フォトマスク用基板の主表面上のパターン領域内の、前記第1フォトマスク用基板上の点Mに対応する位置にある点Nの、前記基準面に対する高さをZnとし、
前記Zmと前記Znとの差Zdを求めたとき、
前記パターン領域内において、該Zdの最大値ΔZdmaxが、17(μm)以下であるようなフォトマスク用基板セットを用いることができる。
【0082】
これにより、座標精度の優れた液晶表示装置等を製造することが可能である。すなわち、たとえフォトマスク用基板単体では「高さ変動の最大値ΔZmaxが8.5(μm)以下」という基準を満たしていなくても、複数のフォトマスク用基板セットが上述の高さ変動のプロフィールを得たとき、すなわち、高さ変動の挙動が共通しているフォトマスク用基板を複数組み合わせることで「セットとしての高さ変動の最大値ΔZdmaxが17(μm)以下」という基準を満たしたとき、これらのフォトマスク用基板を、同一の被転写体上にパターンを重ね合わせるためのフォトマスク用基板セットとして、良好に使用することができる。
【0083】
例えば図9に示すとおり、同一の被転写体に転写パターンを重ね合わせて露光しようとする第1フォトマスク100’用基板と、第2フォトマスク200’用基板とについて、少なくともいずれかが「高さ変動の最大値ΔZmaxが8.5(μm)以下」という基準を満たしている場合のほか、例えば両者のパターン面がいずれも凹形状であったとき、これらのフォトマスク用基板セットとしての「高さ変動の最大値ΔZdmaxを17μm以下」とすることができる。これは、パターン領域の高さ変動に起因する許容ずれ量が、単品のフォトマスクにおいて0.15μm以内(従って、2枚のフォトマスクの組み合わせによって生じるずれ量は0.3μm以内)という、上記説明により成り立つ(図4(c)のS1−S2)。すなわち、組をなす相手のフォトマスクの平坦度プロフィールがわかれば、個々のフォトマスクの高さ変動ΔZmaxが8.5μmを超えていても許容される。これにより、フォトマスク用基板単体での平坦度の要求基準を緩和することができ、座標精度を劣化させずに、フォトマスクの生産コストを下げることが可能となる。
【0084】
なお、上記において同一の被転写体とは、パターニングしようとする薄膜が積層されるもの、或いは、パターニングの過程で積層されるものであって、個々のフォトマスクのもつ転写パターンを位置合わせして、順次重ね合わせて転写する対象となるものである。例えば、ブラックマトリックスや色版用のフォトマスクを順次重ね合わせて被転写体に転写することでカラーフィルタを製造したり、これに更に薄膜トランジスタ用フォトマスクを重ね合わせて被転写体に転写することで液晶表示装置を製造したりできる。なお、被転写体は、パターニングのためのマスクとなるレジスト膜を塗布した状態のものも含む。
【0085】
フォトマスク用基板セットを構成する第1フォトマスク100’用基板と第2フォトマスク200’用基板との高さの差(Zd=|−Zm−(−Zn)|)の最大値ΔZdmaxを求める方法は、上記と同様とすることができる。
【0086】
すなわち、第1フォトマスク100’用基板上には、複数の測定点M1,M2,M3・・・を設定する。この測定点M1・・・は、第1フォトマスク100’用基板上のパターン領域に、等間隔に複数設定する。例えば、該パターン領域に、所定間隔(たとえば10mm)で、XY方向に格子を描いたときの格子点とすることができる。そして、M1、M2、M3・・・について、基準面に対する高さZm1,Zm2、Zm3・・・の値を得る。他方、第2フォトマスク200’用基板においても、同様に、第1フォトマスク100’用基板と対応する位置に、格子点N1,N2,N3・・・を設定したとき、それらの基準面に対する高さZn1,Zn2,Zn3・・・を得る。そして、対応する位置にある両基板の高さの差(Zd=|−Zn−(−Zm)|)から最大値ΔZdmaxを求めることができる。
【0087】
また、これらのフォトマスク用基板にそれぞれ転写パターンを形成して作成したフォトマスク群においても、上記と同様の評価が行える。ゆえに、本発明は、本実施形態と同様に、以下に述べるようなフォトマスクセットを用いることができる。
【0088】
すなわち、
被転写体に転写される転写用パターンが主表面に形成された第1フォトマスクと、前記転写用パターンと重ね合わせて前記被転写体に転写される転写用パターンが主表面に形成された第2フォトマスクと、を備えたフォトマスクセットであって、
前記第1フォトマスクの主表面上のパターン領域内に設定した任意の点Mの、基準面に対する高さをZmとし、
前記第2フォトマスクの主表面上のパターン領域内の、前記第1フォトマスク上の点Mに対応する位置にある点Nの、前記基準面に対する高さをZnとし、
前記Zmと前記Znとの差Zdを求めたとき、前記パターン領域内において、Zdの変動の最大値ΔZdmaxが、17(μm)以下であるようなフォトマスクセットを用いることができる。
【0089】
なお、上述のフォトマスク用基板セットおよびフォトマスクセットにおいては、ΔZdmaxが15(μm)以下であることがより好ましい。
【0090】
更に、本実施形態では、これらのフォトマスクセットを用いた転写方法を行うことができる。すなわち、第1フォトマスクの有する転写用パターンと、第2フォトマスクの有する転写用パターンとを、同一の被転写体に、近接露光用の露光機を用いて重ね合わせて転写する。これにより、座標精度に優れた液晶表示装置などの電子デバイスを得ることが可能である。
【0091】
例えば、カラーフィルタ製造は、ブラックマトリックスと上述の3つの色版を用いて行われるところ、これら用途の為の4つのフォトマスク(或いはこれにフォトスペーサ用を加えた5つのフォトマスク)において、いずれの組み合わせによる2枚のフォトリソグラフィ工程であっても、上記基準(ΔZdmaxが15(μm)以下)を満たすものとすれば、重ね合わせ精度が高く、しかも歩留の高い製造工程とすることが可能である。
【0092】
<本発明のさらに他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0093】
例えば、保持部103,203は、上述の実施形態のように一対設けられる場合に限らず、フォトマスクの周囲に沿ってより多数設けられていてもよい。すなわち、図3(b)に示すように、平面視が長方形である透明基板101,201の一主表面に、パターン形成領域133の外側であって、透明基板101,201の外周を構成する4辺(L1,L2)のそれぞれの近傍の領域内に、4つの帯状の保持部103,203が設けられていてもよい。例えば、4つの保持部103,203は、パターン形成領域133の外側であって、フォトマスク100,200の外周を構成する4辺のそれぞれから10mm離間した直線と、4辺のそれぞれから50mm離間した直線とに挟まれた、4辺にそれぞれ平行な4つの帯状の領域として構成することができる。更に、保持部103,203は、透明基板101,201の第2主表面側に設けることもできる。
【0094】
また例えば、ブラックマトリックス層12pは、Cr等の金属材料を主成分とする場合に限らず、遮光性を有する感光性樹脂等により形成してもよい。感光性樹脂を用いる場合、ブラックマトリックス層12pは、カラーフィルタ層のように、露光、現像、ベークを順次実施することにより形成可能である。
【0095】
更に、上述の実施形態では、フォトマスク用基板として、石英等を研磨して製造した透明ガラス基板を用いる場合について説明したが、本発明は係る形態に限定されない。例えば、フォトマスク用基板として、該透明ガラス基板に光学膜やレジストなどのいずれかを形成したフォトマスクブランクを用いたり、該フォトマスクに所定の転写パターンを形成する工程におけるフォトマスク中間体などを用いたりする場合にも、本発明は好適に適用可能である。
【0096】
本発明により、重ね合わせ転写に用いる各フォトマスク用基板の転写性能を、転写用パターン形成に先立って透明基板の段階から評価することが可能となった。また、パターン領域の高さ変動の分析から、個々のフォトマスクの性能評価と、組み合わせて用いるフォトマスクセットの性能評価をそれぞれ用い、量産上のメリットを提供することができた。このメリットは、カラーフィルタに限らず、薄膜トランジスタや有機ELなど、近接露光を適用可能な製品の製造に、有用に用いられる。
【符号の説明】
【0097】
100 第1フォトマスク
101 透明基板(第1フォトマスク用基板)
103 支持領域
112p 転写用パターン
133 パターン領域
200 第2フォトマスク
201 透明基板(第2フォトマスク用基板)
203 支持領域
212p 転写用パターン
233 パターン領域
500 露光機
503 支持部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主表面に転写用パターンを形成してフォトマスクとなすためのフォトマスク用基板であって、
前記主表面上のパターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxが、8.5(μm)以下であることを特徴とするフォトマスク用基板。
【請求項2】
前記高さ変動の最大値ΔZmaxは、前記パターン領域に所定の離間距離Pをおいて等間隔に設定した各測定点の基準面に対する高さをZとするとき、前記Zの最大値と最小値との差であることを特徴とする請求項1に記載のフォトマスク用基板。
【請求項3】
前記離間距離Pが5(mm)≦P≦15(mm)であることを特徴とする請求項2に記載のフォトマスク用基板。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載のフォトマスク用基板を用意し、前記フォトマスク用基板の主表面に光学膜を形成し、前記光学膜にパターニングを施すことにより転写用パターンを形成する工程を含むことを特徴とするフォトマスクの製造方法。
【請求項5】
主表面に転写用パターンが形成されたフォトマスクであって、
前記主表面上のパターン領域の高さ変動の最大値ΔZmaxが、8.5(μm)以下であることを特徴とするフォトマスク。
【請求項6】
前記高さ変動の最大値ΔZmaxは、前記パターン領域に所定の離間距離Pをおいて等間隔に設定した各測定点の基準面に対する高さをZとするとき、前記Zの最大値と最小値との差であることを特徴とする請求項5に記載のフォトマスク。
【請求項7】
前記離間距離Pが5(mm)≦P≦15(mm)であることを特徴とする請求項6に記載のフォトマスク。
【請求項8】
近接露光用であることを特徴とする請求項5〜7のいずれかに記載のフォトマスク。
【請求項9】
前記パターン領域にカラーフィルタ製造用パターンを備えたことを特徴とする請求項5〜8のいずれかに記載のフォトマスク。
【請求項10】
請求項5〜9のいずれかに記載のフォトマスクを近接露光用の露光機にセットし、被転写体へのパターン転写を行うことを特徴とするパターン転写方法。
【請求項11】
被転写体に転写される転写用パターンを主表面に形成して第1フォトマスクとなすための第1フォトマスク用基板と、前記転写用パターンと重ね合わせて前記被転写体に転写される転写用パターンを主表面に形成して第2フォトマスクとなすための第2フォトマスク用基板と、を備えたフォトマスク用基板セットであって、
前記第1フォトマスク用基板の主表面上のパターン領域内に設定した任意の点Mの、基準面に対する高さをZmとし、
前記第2フォトマスク用基板の主表面上のパターン領域内の前記第1フォトマスク用基板上の点Mに対応する位置にある点Nの、前記基準面に対する高さをZnとし、
前記Zmと前記Znとの差Zdを求めたとき、
前記パターン領域内において、該Zdの最大値ΔZdmaxが17(μm)以下である
ことを特徴とするフォトマスク用基板セット。
【請求項12】
被転写体に転写される転写用パターンが主表面に形成された第1フォトマスクと、前記転写用パターンと重ね合わせて前記被転写体に転写される転写用パターンが主表面に形成された第2フォトマスク用基板と、を備えたフォトマスクセットであって、
前記第1フォトマスクの主表面上のパターン領域内に設定した任意の点Mの、基準面に対する高さをZmとし、
前記第2フォトマスクの主表面上のパターン領域内の前記第1フォトマスク上の点Mに対応する位置にある点Nの、前記基準面に対する高さをZnとし、
前記Zmと前記Znとの差Zdを求めたとき、
前記パターン領域内において、該Zdの最大値ΔZdmaxが17(μm)以下であることを特徴とするフォトマスクセット。
【請求項13】
請求項12に記載の前記第1フォトマスクの有する転写用パターンと、請求項12に記載の前記第2フォトマスクの有する転写用パターンとを、同一の被転写体に、近接露光用の露光機を用いて重ね合わせて転写することを特徴とするパターン転写方法。

【図1】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図9】
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【図2】
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【図3】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−230368(P2012−230368A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−89395(P2012−89395)
【出願日】平成24年4月10日(2012.4.10)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】