説明

フタル酸モノ−2−エチルヘキシル(MEHP)エステラーゼおよびその使用

【課題】 MEHP分解活性を有する酵素の提供。
【解決手段】フタル酸モノ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有する酵素であって、上記酵素は、同一のサブユニット2つからなるホモ二量体構造を有し、上記サブユニット各々の分子量は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した場合に約32kDaである、酵素。上記サブユニットは、N末端配列PSSSITQKFHTVDを含むアミノ酸配列を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なフタル酸モノ−2−エチルヘキシル(本明細書中で以後、MEHP)エステラーゼに関する。本発明のMEHPエステラーゼは、フタル酸エステルを分解する微生物に由来し、詳細には、Gordonia属細菌に由来し、より詳細には、Gordonia sp.P8219株)に由来する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境ホルモンと総称される物質が、社会的に大きな問題を引き起こしている。環境ホルモンは、内分泌撹乱物質とも呼ばれ、極微量であっても、人間をはじめとする動物の体内で内分泌系を撹乱する作用を有する、人工または植物由来の化学物質である。環境ホルモンは、人間をはじめとする動物に対して明白な毒性効果を有することが指摘されている。環境ホルモンの作用によって、動物では、性転換、精子密度の減少等の生殖器官形成の異常が起きる。これらの異常は種の絶滅に繋がりかねない。それゆえ、自然環境から環境ホルモンを除去することが重要な課題となっている。
【0003】
環境ホルモンの中でも、フタル酸エステル(例えば、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(本明細書中で以後、DEHP))は、プラスチックを製造する際の可塑剤として用いられ、多量に製造および使用される。DEHPは環境中に放出されても生物分解されにくく、動物に対して長期にわたって影響を及ぼし続ける。それゆえ、自然環境からのDEHPの除去が重要な課題となっている。
【0004】
本発明者らは、以前に、フタル酸エステルを分解する能力を有するGordonia polyisoprenivorans P8219株を単離し、2000年11月8日付けで、産業技術総合研究所特許生物寄託センター(旧工業技術院生命工学工業技術研究所)受託番号FERM P−18102号として寄託した(特許文献1)。
【0005】
DEHPをフタル酸に分解する経路として現在までのところ2種類の経路が提唱されている。まず一つは、DEHPから直接フタル酸に加水分解する経路である。微生物ではRhodococcus erythropolis S−1が産出する菌体外酵素のみが知られている(非特許文献1)。R.erythropolis S−1の産出する酵素は菌体外酵素で分子質量は15kDaで、最適pH 8.6、最適反応温度42 ℃である。この酵素はCa2+で活性化され、Hg2+のようなその他の金属イオンでは阻害をうける。比活性は最終2,920 unit/O.D280である。
【0006】
第2は、DEHPをフタル酸モノ−2−エチルヘキシル(MEHP)に加水分解し、別の酵素でMEHPをフタル酸に分解する経路である。フタル酸ジエステルをフタル酸モノエステルに加水分解する酵素がヒトの唾液4)や、豚の肝臓に局在するカルボキシルエステラーゼ(E.C 3.1.1.1)(非特許文献2)、および小麦の細胞(非特許文献3)から精製されている。そのDEHP分解経路およびDEHP分解酵素の性質を、以下の表1および表2に示す。
【0007】
【表1】

【0008】
【表2】

【特許文献1】特願平2000−341214
【非特許文献1】Kurane,R.ら、Ann.N.Y.Acad.Sci.829,118−34,1997
【非特許文献2】T.Niinoら、Journal of Health Science 49(1)76−81,2003,
【非特許文献3】Hans−willi KRELLら,Eur.J.Biochem.143,57−62,1984
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在まで、MEHP分解活性を有する酵素は、単離されていない。本願は、MEHP分解活性を有する酵素の単離およびその特徴付けを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
・(項1) フタル酸モノ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有する酵素であって、上記酵素は、同一のサブユニット2つからなるホモ二量体構造を有し、上記サブユニット各々の分子量は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した場合に約32kDaである、酵素。
・(項2) 項1に記載の酵素であって、上記サブユニットは、N末端配列PSSSITQKFHTVD(配列番号1)を含むアミノ酸配列を有する、酵素。
・(項3) 項1または2に記載の酵素であって、産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM P−18102号として寄託されたGordonia polyisoprenivorans P8219株により産生される、酵素。
・(項4) 項1〜3のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、上記酵素の反応最適温度は約45℃である、酵素。
・(項5) 項1〜4のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、上記酵素の反応最適pHは7.0〜8.0である、酵素。
・(項6) 項1〜5のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、上記酵素は、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有さない、酵素。
・(項7) 項1〜6のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、上記酵素は、20重量%のメタノールの存在下で90%以上の活性が保持される、酵素。
・(項8) 項1〜7のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、上記酵素の活性化エネルギーは約63kJ/molである、酵素。
・(項9) 項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素をコードする核酸。
・(項10) フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを除去するかまたは減少させるための方法であって、
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含むことが疑われる物質を、項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と接触させ、上記酵素がフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを加水分解するに十分な条件下で十分な時間、インキュベートする工程
を包含する、方法。
・(項11) フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを除去するかまたは減少させるためのキットであって、
項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と、
上記酵素の使用方法を指示する指示書と、
を含む、キット。
・(項12) フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを除去するかまたは減少させる組成物であって、
項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素
を含む、組成物。
・(項13) フタル酸モノ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有する酵素を精製するための方法であって、
産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM P−18102号として寄託されたGordonia polyisoprenivorans P8219株を、フタル酸ジ−2−エステルの存在下または非存在下で培養する工程、ならびに
上記培養物を、DEAE−Celluloseカラムクロマトグラフィー、疎水カラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーに順次供する工程、
を包含する、方法。
・(項14) フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を検出するための方法であって、
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含むことが疑われる物質中の初期フタル酸量を測定する工程、
上記物質を、項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と接触させて、上記酵素がフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを加水分解するに十分な条件下で十分な時間、インキュベートする工程、および
上記インキュベート後の物資中のフタル酸量を測定する工程、
を包含し、
上記初期フタル酸量と比較した上記インキュベート後の物質中のフタル酸量の減少は、上記物質におけるフタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を示す、方法。
・(項15) フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を検出するためのキットであって、
項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と、
上記酵素の使用方法を指示する指示書と、
を包含する、キット。
・(項16) フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を検出するための組成物であって、
項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素
を含む、組成物。
・(項17) 項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素に対する抗体。
【発明の効果】
【0011】
MEHP分解活性を有する酵素を初めて提供した。このような分解活性を有することは、従来知られておらず、しかも、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)加水分解活性を有しないような選択性を有する酵素は、従来になかった。従って、DEHPを分解することが好ましくない状況において、有害ホルモン様物質であるMEHPを分解することが必要な場合に、特に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0013】
(定義)
本明細書中で使用される場合、「MEHP」とは、「フタル酸モノ−2−エチルヘキシル(Mono−2−ethylhexyl phthalate)」の略称であり、本明細書では、両者とも同じ意味で使用される。
【0014】
本明細書中で使用される場合、「DEHP」とは、「フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(Di−2−ethylhexyl phthalate)」の略称であり、本明細書では、両者とも同じ意味で使用される。
【0015】
本明細書中で使用される場合、「フタル酸モノ−2−エチルヘキシル(MEHP)加水分解活性」とは、基質MEHPの少なくとも一部をフタル酸へと加水分解する活性を意味する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、「フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(DEHP)加水分解活性」とは、基質DEHPの少なくとも一部(好ましくは、少なくとも10%以上)をMEHPまたはフタル酸へと加水分解する活性を意味する。
【0017】
(微生物)
本発明で使用される特に好ましいGordonia polyisoprenivoransであるP8219株は、工業技術院生命工学工業技術研究所受託番号(現:産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号)FERM P−18102号として、2000年11月6日に工業技術院生命工学工業技術研究所(現:産業技術総合研究所特許生物寄託センター)に寄託されており、当業者は、この株を代表例として使用することができることが理解される。
【0018】
本明細書中では、「フタル酸エステル」とは、以下の式に示す構造を有するフタル酸エステルをいう:
【0019】
【化1】

上記化学式において、RおよびRは、独立して、水素およびアルキルからなる群から選択されるがRおよびRは同時に水素ではない。好ましくは、RおよびRは同時にアルキルである。ここで、MEHPおよびDEHPがこのフタル酸エステルの範囲内に入ることが理解される。
【0020】
本明細書中で用いられる「アルキル」は、直鎖または分岐鎖の、不飽和結合を有さない炭化水素基を表し、特に指定がない場合、任意の鎖長を有する。
【0021】
アルキルの例として、n−メチル、n−エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−へプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デセニル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−イコサニル、n−ヘニコサニル、n−ドコサニル、n−トリアコンチルなどが挙げられる。
【0022】
例えば、アルキルが「1〜15個の炭素原子を有するアルキル」として記載されている場合、この基は例えば、n−メチル、n−エチル、n−プロピル、n−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、n−へプチル、n−オクチル、n−ノニル、n−デセニル、n−ウンデシル、n−ドデシル、n−トリデシル、n−テトラデシル、n−ペンタデシル、n−イコサニル、n−ヘニコサニル、n−ドコサニル、n−トリアコンチル、イソブチル、tert−ブチル、イソペンチル、tert−ペンチル、ネオペンチル、2−エチルヘキシル、n−ノニルまたはイソノニルを意味し得る。
【0023】
好ましくは、アルキルは、独立して、1〜15個の炭素原子を有するアルキルである。アルキルは、独立して、好ましくは2〜15個、より好ましくは3〜15個、さらにより好ましくは4〜15個、さらにより好ましくは5〜14個、さらにより好ましくは6〜13個、さらにより好ましくは7〜12個、さらにより好ましくは8〜11個の炭素原子を有するアルキルであり、最も好ましくは8個の炭素原子を有するアルキルである。より好ましくは、RおよびRの少なくとも一方は、2−エチルヘキシル基であり、さらにより好ましくはRおよびRはいずれも2−エチルヘキシル基である。
【0024】
フタル酸エステルは、好ましくは、環境ホルモンである。本明細書中で用いられる「環境ホルモン」とは、ホルモン様の作用を有する物質であって、ホルモンのかかわる過程を撹乱する物質をいう。環境ホルモンは、内分泌撹乱物質とも呼ばれる。環境ホルモンとして作用するフタル酸エステルの例としては、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジイソノニル、フタル酸ジエチルなどが挙げられる。
【0025】
ここで、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルは、プラスチックの可塑剤として広く用いられており、日本における国内生産量と輸入量の合計は、259,927t(2001年度)と非常に多い。しかし、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルは、動物実験において大量投与による肝・腎の変性および繁殖能力の低下が見られ、催奇形性、変異原性も報告されている。毒性は、フタル酸ジ−2−エチルヘキシルよりも、その代謝中間産物であるフタル酸モノ−2−エチルヘキシルの方が強いことが認められている。従って、本発明のようなフタル酸モノ−2−エチルヘキシルに対して選択性のある分解酵素は、他の基質(例えば、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル)との反応による予想外の結果を伴わずにフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを分解可能であるという点で有用である。
【0026】
本明細書中で用いられる「規定培地」とは、構成成分が全て規定されている培地をいう。規定培地は、一般的な細菌の培地であり得、例えば、M9培地、普通ブイヨン培地、ハートインフュジョン培地、トリプトソイブイヨン培地、ツァペックドックス氏培地、NB培地などの培地である。
【0027】
M9培地の組成は、以下の実施例2に示すとおりである。普通ブイヨン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、肉エキス3g、ペプトン10g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.0に調整された培地である。ハートインフュジョン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、ウシ心臓滲出液500g、ペプトン10g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.4に調整された培地である。トリプトソイブイヨン培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、トリプトン17g、ソイペプトン3g、ブドウ糖2.5g、および塩化ナトリウム5gを含み、pHが7.3に調整された培地である。ツァペックドックス氏培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、ショ糖 30g、KHPO 1g、MgSO・7HO 0.5g、KCl 0.5g、NaNO 2g、およびFeSO・7HO 0.01gを含み、pHが5.6に調整された培地である。NB培地は、水を溶媒として、培地1リットルあたり、肉エキス3g、ポリペプトン5g、酵母エキス2g、および塩化ナトリウム2gを含み、pHが7.0に調整された培地である。
【0028】
本明細書中で用いられる「消失」とは、何らかの作用により、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルのようなフタル酸エステルが検出されなくなることをいう。フタル酸モノ−2−エチルヘキシルのようなフタル酸エステルの消失は、フタル酸エステルの2つのエステル部分のうちのいずれか一方にのみ生じたエステル分解に起因してもよいが、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの場合は、一つしかないので、その一つのエステルが分解されたことをもって消失という。消失をもたらす原因の例としては、エステル分解、アルキル鎖の切断などが挙げられる。好ましくは、消失は、フタル酸エステルのエステル部分のエステル分解によって生じる。
【0029】
本発明において用いられるGordonia polyisoprenivoransおよびフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含む生物は、当該分野で公知のスクリーニング方法によって天然のサンプルから単離され得る。このようなスクリーニング方法の例として、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを唯一の炭素源としてサンプルの培養を行い、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させる細菌を濃縮し、そして単離する方法が挙げられる。天然のサンプルは、例えば、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを排出する工場の汚水、下水処理場の活性汚泥、廃棄物処理場の土壌などであり得る。
【0030】
あるいは、本発明において使用され得るGordonia polyisoprenivoransは、フタル酸エステル分解能を保持しさえすれば、FERM P−18102号として寄託された菌株に変異誘発処理を行うことにより得られるか、または天然に変異を受けた誘導体であってもよい。そのような変異誘発処理は当該分野で周知であり、そのような変異誘発処理を行うための変異原としては、α線、β線、γ線およびX線のような物理的変異原、ならびにニトロソグアニジンおよびベンゾピレンのような化学的変異原が挙げられる。
【0031】
本発明のフタル酸モノ−2−エチルヘキシルのようなフタル酸エステルの分解方法では、Gordonia属に属する、フタル酸エステルを消失させる能力を有する細菌から抽出された酵素を用いることができる。この方法では、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含む溶液中で培養する工程を包含する。この方法で用いられる溶液は、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させることを所望するサンプル自体であってもよいし、このサンプルに無機塩(例えば、NaHPO、KHPO、NHClおよびNaCl)を添加して、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させる能力を有する細菌の培養に、より適したものとなるように成分を調整したものであってもよい。好ましくは、フタル酸エステルを消失させる能力を有する細菌の培養に適切であるように成分の調整を行う。
【0032】
本発明の方法では、例えば、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを少なくとも部分的に消失させることが所望されるサンプルに、無機成分などを添加して、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させる能力を有する細菌の培養に適切な溶液を調製する。次いで、この溶液に、フタル酸エステルを消失させる能力を有する細菌を添加する。添加する細菌は、予め前培養を行って順調に増殖している状態にあってもよいし、そうでなくともよい。予め前培養を行うことが好ましい。溶液に添加する細菌の量は、適切に選択され得るが、代表的には、溶液1mlあたり約10〜10個、好ましくは約10〜10個、より好ましくは約10〜10個である。この細菌から、本明細書に記載されるような精製方法によって、本発明のフタル酸モノ−2−エチルヘキシル分解酵素を単離する。
【0033】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含む溶液に、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させる能力を有する酵素またはそれを含む組成物を添加した後、この溶液は、約10℃〜約45℃、好ましくは約20℃〜約40℃、最も好ましくは約30℃にて培養される。培養を行う際には、溶液を攪拌してもよいし、攪拌しなくともよい。
【0034】
本発明のフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させるための組成物は、Gordonia属に属する、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを消失させる能力を有する細菌から抽出された酵素を含む。培地の濃縮物は、培養時にフタル酸モノ−2−エチルヘキシル分解活性を有する酵素を含む細菌の増殖に適切であるようなものが使用され得る。培地の濃縮物の例としては、前記濃縮物が、M9培地、普通ブイヨン培地、ハートインフュジョン培地、トリプトソイブイヨン培地、ツァペックドックス氏液、およびNB培地からなる群より選択される培地の濃縮物である。本発明の組成物は、例えば、フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを少なくとも部分的に消失させることが所望されるサンプルと混合して使用するために好適である。
【0035】
例えば、本発明において使用される細菌は、ガラス、プラスチックなどで作製された管状物中に封入され得る。また、細菌は、ゼラチンなどのコーティング剤で包まれたカプセル剤(好ましくは、ソフトカプセル剤)中に封入され得る。培地の濃縮物は、乾燥粉末状態にあることが好ましい。
【0036】
(DEHPの分解経路と分解酵素)
DEHPをフタル酸に分解する経路として現在までのところ2種類の経路が提唱されている。
【0037】
第一は、DEHPから直接フタル酸に加水分解する経路である。微生物ではRhodococcus erythropolis S−1が産出する菌体外酵素のみが知られている。R.erythropolis S−1の産出する酵素は菌体外酵素で分子質量は15 kDaで、最適pH 8.6、最適反応温度42℃である。この酵素はCa2+で活性化され、Hg2+のようなその他の金属イオンでは阻害をうける。比活性は最終2,920 unit/O.D.280である。
【0038】
第2は、DEHPをフタル酸モノ−2−エチルヘキシル(MEHP)に加水分解し、別の酵素でMEHPをフタル酸に分解する経路である。フタル酸ジエステルをフタル酸モノエステルに加水分解する酵素がヒトの唾液、豚の肝臓に局在するカルボキシルエステラーゼ(E.C 3.1.1.1)(Tatsuhiro Niino,Tohru Isibashi,Hajimu Ishiwata,Ken Takeda,Sukeo Onodera(2003) Journal of Health Science,49(1) 76−81)、小麦の細胞(Hans−willi KRELL,Heinrich SANDERMANN,Jr(1984) Eur.J.Biochem.143,57−62)から精製されている。現在知られているDEHPをMEHPに加水分解する酵素の性質は表2に示されている。
【0039】
Gordonia polyisoprenivorans P8219株が単離された当初、この菌はR.erythropolis S−1の近縁属であることから、DEHPを菌体外でフタル酸に加水分解すると考えられたが、P8219株はフタル酸を資化しないことからR.erythropolis S−1とは異なる分解酵素および代謝経路を有することも考えられた。しかし、P8219株の代謝経路およびDEHP分解酵素の性質は未解明である。
【0040】
現在までに知られているDEHPの分解経路は、表1に示されている。
【0041】
このように、第二の経路の場合、MEHPがいまだに残ることが想定される。このようなMEHPもまた、有害作用を有することから、そのような有害物質の除去が必要となる。DEHPが体内に入ると、MEHPに分解され尿中に排出される。しかし、腎臓の機能が低く血液透析や腹膜透析を必要とする場合、体内にMEHPが大量に蓄積する。MEHPが催奇性、発ガン性、肝毒性を示すことが報告されている。従って、MEHPを分解する活性は必須であるといえる。
【0042】
(フタル酸およびフタル酸エステル類の測定法)
(使用試薬)
(1)イソアミルアルコール(和光純薬 試薬特級)
(2)メタノール(和光純薬 精密分析用)
(使用器具)
(1)分液ロートシェーカー
(2)高速液体クロマトグラフシステム
・クロマトパック C−R8A VP
・ポンプ LC−10AD VP
・デガッサー DGU−12A VP
・カラムオーブン CTO−10A VP
・検出器 SPD−10A VP
・コントロールパネル SCL−10A VP
(3)試料前処理用フィルター YMC−Duo filter
(4)試料前処理用シリンジ 1.0 ml容テルモツベルクリン用シリンジ
(実験操作)
1.培養した20mlの培養液に6NのHClを1ml添加し、イソアミルアルコールを20ml加え、50ml容分液ロートに移した後、分液ロートシェーカーにて10分間撹拌する。
2.エッペンチューブに上記懸濁液を分注し、14,000 rpmにて3分間遠心分離を行う。
3.有機相を回収し、培養0〜30時間は5倍量、30時間以降は等量のメタノールに置換する。
4.YMC Duo−filterにてフィルター濾過したサンプルを下記のHPLCの条件にて測定を行う。
【0043】
(HPLCの例示的条件)
【0044】
【表3】

以上の操作を 図1にフローチャートで示す。
【0045】
(アルカリ抽出による培養液からの菌体タンパク質の抽出法および定量法)
(使用試薬)
(1)NaOH(和光純薬 試薬特級)
(2)HCl(和光純薬 試薬特級)
(3)フォリン・シカトーフェノール試薬(Sigma製)
(4) ローリー試薬(下記表参照)
【0046】
【表4】

(使用器具)
(1)遠心分離機(BECKMAN COULTER製 Avamti−25)
(2)分光光度計(島津製 UV−1600)
(実験操作)
(アルカリ抽出法による培養液からの菌体タンパク質の抽出)
(1)各種フタル酸エステル類を単一炭素源とするM9液体培地(20ml培地/100ml容三角フラスコ)に培養した培養液を10,000rpm、15分間、4℃にて集菌した。
(2)遠心後の細胞に20ml(0、12、23時間培養液は5ml)の精製水を加えて懸濁し、試験管に4mlずつ分注した。
(3)それぞれに液量と等量の1N NaOHを添加し、ボルテックスにて撹拌した。
(4)100℃にて10分間インキュベートした。
(5)流水で冷却し、1N HClを1N NaOHと等量添加し、ボルテックスにて撹拌した。
(6)10,000rpm、4℃にて15分間遠心分離した後、浮遊物や沈殿物が混入しないように、上澄み部分をエペンチューブに移した。
【0047】
以上の操作を図2にフローチャートで示した。
【0048】
(Lowry法による抽出液中のタンパク質濃度の測定)
(1)ワッセルマン試験管にそれぞれのエッペンチューブより抽出液を500μl入れ、ローリー試薬を2.5ml添加後、ボルテックスミキサーにて撹拌し、室温で15分間反応させた。ブランクとしてワッセルマン試験管に精製水を500μl入れ、ローリー試薬を添加し、同様に反応させた。
(2)15分後、フェノール試薬を500μlずつ添加し、ボルテックスミキサーにて撹拌後室温で30分間反応させ、吸光度計にてO.D750を測定した。
【0049】
(無細胞抽出物の調製法)
(材料)
NB本培養液2L
(使用する緩衝液など)
0.1 M リン酸バッファー,pH 7.5
(1)KHPO(和光純薬 試薬特級)
(2) KHPO(和光純薬 試薬特級)
・それぞれ脱イオン水にて0.1 Mの溶液を作り、混合してpH 7.5に調整した。
【0050】
(使用器機)
(1)遠心分離機(BECKMAN COULTER製 Avanti HP−25)Roter ID JA 14
(2) ダイノミル(Willy A.Bachofen AG Maschinenfabrik製 Typ KDL A)
(3)超遠心分離器(BECKMAN COULTER製)
(使用試薬)
(1)フェニルメチルスルホニルフルオリド(以下PMSF)、SIGMA製 分子量174.2
(2)ジメチルスルホキシド(以下DMSO)、ナカライテスク製
(実験操作)
(1)培養した本培養液2Lを遠心分離して細胞と培養液上澄みに分画する。細胞を無菌的に滅菌水に懸濁して遠心分離を行い、上澄みを除去する。この操作を2回繰り返し、細胞の洗浄を行う。
(2)細胞をM9合成培地(500ml容三角フラスコ200ml×10本)に加え、DEHPを1,500ppm添加した。25℃のロータリーシェーカーで15時間振盪し、酵素の誘導を行う。
(3)集菌した細胞2L分を−40℃に冷却した99%エタノール200mlに懸濁する。
(4)直ちに10,000rpm、4℃で3分間遠心分離を行い、上澄みのエタノールを除去する。
(5)0.1Mリン酸バッファー,pH7.5で細胞を洗浄する。
(6)0.1Mリン酸バッファー,pH7.5に懸濁し、ガラスビーズ(0.25mm〜0.5mmΦ)を加える。
(7)DMSOに溶解した0.25MのPMSFを0.1%(v/v)添加した後、ダイノミルを用いて細胞を破砕(30秒間×6回)する。
(8)濾過を行い、ガラスビーズを取り除く。
(9)細胞破砕液を10,000rpm、4℃で15分間遠心分離した。上澄みを回収し、無細胞抽出物とする。
【0051】
以上の操作を図3にフローチャートで示す。
【0052】
(DEHPおよびMEHP分解酵素活性の測定法)
(材料)
酵素液(試料)
(使用試薬)
(1)酢酸エチル(和光純薬 試薬特級)
(2)6N塩酸
(3)メタノール(和光純薬 精密分析用)
(4)DEHP懸濁液(表5参照)
(5)MEHP溶液(表6参照)
【0053】
【表5】

【0054】
【表6】

(使用器具および器機)
(1)Water bath shaker(TAITEC製 PERSONAL−11)
(2)ボルテックスミキサー
(3)高速液体クロマトグラフシステム
(4)試料前処理用フィルター YMC−DUO filter
(5)試料前処理用シリンジ 1.0 ml容テルモツベルクリン用シリンジ
(実験操作)
(DEHP分解酵素活性の測定法)
【0055】
【表7】

(1)試験管に表1.6の混液を入れ、パラフィルムにて密栓した。これを0 timeと反応後の2本調製する。
(2)振盪速度123min−1、30℃の往復振盪機にて30分間酵素反応を行った。反応後、6N HClを1ml添加し、ボルテックスミキサーにて撹拌する。
(3)酢酸エチルを2ml加え、ボルテックスミキサーで2分間撹拌し、反応産物の抽出を行う。
(4)エッペンチューブに上記懸濁液を分注し、14,000rpmにて3分間遠心分離を行う。
(5)有機相を回収し、1/4量のメタノールに置換する。
(6)YMC Duo−filterにてフィルター濾過したサンプルをHPLCにて測定する。
【0056】
(MEHP分解酵素活性の測定法)
【0057】
【表8】

表8の反応混液を調製し、酵素反応を15分間行った。以下の操作はDEHP分解酵素活性の測定法に準じる。
【0058】
(本発明の酵素)
(1)DEHPによる誘導を行った無細胞抽出物からDEAE Celluloseカラム、疎水カラム、ゲル濾過カラムの各種クロマトグラフィーによって酵素の精製を行った。例示的な本発明のMEHP分解酵素の代表例の最終の収率は16.8%、比活性1.82μmol/min・mgであった。
(2)SDS−PAGEによる酵素の精製純度を検定した結果、分子質量30kDa付近に単一のバンドがみられた。ゲル濾過の結果、MEHPエステラーゼの分子量が約62kDaであったことから、本酵素は、分子量約31kDaのホモ二量体であると考えられる。
(3)例示的な本発明のMEHP分解酵素の代表例の反応最適温度は、45℃で、反応最適pHは、7.0〜8.0であった。
(4)例示的な本発明のMEHP分解酵素の代表例の活性化エネルギーを算出した結果、63.2kJ/molであるが、この半分〜2倍程度の結果が本発明の好ましい例示的範囲として挙げることができる。
(5)例示的な本発明のMEHP分解酵素の代表例は、好ましくは、DEHPを基質にしない。
(6)例示的な本発明のMEHP分解酵素の代表例はメタノール濃度20%まではほとんど酵素活性に影響しなかった。
(7)MEHP分解酵素を持つ酵素や、MEHP分解酵素の精製に関する報告がなく、例示的に、P8219株によって産出され得る例示的な本発明のMEHP分解酵素の代表例は新規の酵素であるようである。
【0059】
(本発明において用いられる生化学技術)
本明細書において「単離された」生物学的因子(例えば、MEHP加水分解活性を有する酵素、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子が天然に存在する生物体の細胞内の他の生物学的因子(例えば、核酸である場合、核酸以外の因子および目的とする核酸以外の核酸配列を含む核酸;タンパク質である場合、タンパク質以外の因子および目的とするタンパク質以外のアミノ酸配列を含むタンパク質など)から実質的に分離または精製されたものをいう。「単離された」核酸およびタンパク質には、標準的な精製方法によって精製された核酸およびタンパク質が含まれる。したがって、単離された核酸およびタンパク質は、化学的に合成した核酸およびタンパク質を包含する。
【0060】
本明細書において「精製された」生物学的因子(例えば、MEHP加水分解活性を有する酵素、核酸またはタンパク質など)とは、その生物学的因子に天然に随伴する因子の少なくとも一部が除去されたものをいう。したがって、通常、精製された生物学的因子におけるその生物学的因子の純度は、その生物学的因子が通常存在する状態よりも高い(すなわち濃縮されている)。
【0061】
本明細書中で使用される用語「精製された」および「単離された」は、好ましくは少なくとも75重量%、より好ましくは少なくとも85重量%、よりさらに好ましくは少なくとも95重量%、そして最も好ましくは少なくとも98重量%の、同型の生物学的因子が存在することを意味する。
【0062】
本明細書において、「遺伝子」とは、遺伝形質を規定する因子をいう。通常染色体上に、場合によっては染色体外に(例えば、プラスミド上に)、一定の順序に配列している。MEHP加水分解活性を有する酵素のようなタンパク質の一次構造を規定するものを構造遺伝子といい、その発現を左右するものを調節遺伝子(たとえば、プロモーター)という。本明細書では、遺伝子は、特に言及しない限り、構造遺伝子および調節遺伝子を包含する。したがって、MEHP加水分解活性を有する酵素の遺伝子というときは、通常、MEHP加水分解活性を有する酵素の構造遺伝子およびMEHP加水分解活性を有する酵素のプロモーターの両方を包含する。本明細書では、「遺伝子」は、「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を指すことがある。本明細書においてはまた、「遺伝子産物」は、遺伝子によって発現された「ポリヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」および「核酸」ならびに/または「タンパク質」「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」および「ペプチド」を包含する。当業者であれば、遺伝子産物が何たるかはその状況に応じて理解することができる。
【0063】
本明細書において遺伝子(例えば、MEHP加水分解活性を有する酵素の核酸配列、アミノ酸配列など)の「相同性」とは、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、ある2つの遺伝子の相同性が高いほど、それらの配列の同一性または類似性は高い。2種類の遺伝子が相同性を有するか否かは、配列の直接の比較、または核酸の場合ストリンジェントな条件下でのハイブリダイゼーション法によって調べられ得る。2つの遺伝子配列を直接比較する場合、その遺伝子配列間でDNA配列が、代表的には少なくとも50%同一である場合、好ましくは少なくとも70%同一である場合、より好ましくは少なくとも80%、90%、95%、96%、97%、98%または99%同一である場合、それらの遺伝子は相同性を有する。本明細書において、遺伝子(例えば、核酸配列、アミノ酸配列など)の「類似性」とは、上記相同性において、保存的置換をポジティブ(同一)とみなした場合の、2以上の遺伝子配列の、互いに対する同一性の程度をいう。従って、保存的置換がある場合は、その保存的置換の存在に応じて同一性と類似性とは異なる。また、保存的置換がない場合は、同一性と類似性とは同じ数値を示す。
【0064】
本明細書では、アミノ酸配列および塩基配列の類似性、同一性および相同性の比較は、例えば、本明細書において提供される配列情報に基づいて、配列分析用ツールであるBLASTを用いてデフォルトパラメータを用いて算出される。
【0065】
本明細書において、「アミノ酸」は、本発明の目的を満たす限り、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体アミノ酸」または「アミノ酸アナログ」とは、天然に存在するアミノ酸とは異なるがもとのアミノ酸と同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体アミノ酸およびアミノ酸アナログは、当該分野において周知である。
【0066】
用語「天然のアミノ酸」とは、天然のアミノ酸のL−異性体を意味する。天然のアミノ酸は、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、メチオニン、トレオニン、フェニルアラニン、チロシン、トリプトファン、システイン、プロリン、ヒスチジン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、γ−カルボキシグルタミン酸、アルギニン、オルニチン、およびリジンである。特に示されない限り、本明細書でいう全てのアミノ酸はL体であるが、D体のアミノ酸を用いた形態もまた本発明の範囲内にある。
【0067】
本明細書において用語「非天然アミノ酸」とは、タンパク質中で通常は天然に見出されないアミノ酸を意味する。非天然アミノ酸の例として、ノルロイシン、パラ−ニトロフェニルアラニン、ホモフェニルアラニン、パラ−フルオロフェニルアラニン、3−アミノ−2−ベンジルプロピオン酸、ホモアルギニンのD体またはL体およびD−フェニルアラニンが挙げられる。「アミノ酸アナログ」とは、アミノ酸ではないが、アミノ酸の物性および/または機能に類似する分子をいう。アミノ酸アナログとしては、例えば、エチオニン、カナバニン、2−メチルグルタミンなどが挙げられる。アミノ酸模倣物とは、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然に存在するアミノ酸と同様な様式で機能する化合物をいう。
【0068】
アミノ酸は、その一般に公知の3文字記号か、またはIUPAC−IUB Biochemical Nomenclature Commissionにより推奨される1文字記号のいずれかにより、本明細書中で言及され得る。ヌクレオチドも同様に、一般に認知された1文字コードにより言及され得る。
【0069】
その文字コードは以下のとおりである。
アミノ酸
3文字記号 1文字記号 意味
Ala A アラニン
Cys C システイン
Asp D アスパラギン酸
Glu E グルタミン酸
Phe F フェニルアラニン
Gly G グリシン
His H ヒスチジン
Ile I イソロイシン
Lys K リジン
Leu L ロイシン
Met M メチオニン
Asn N アスパラギン
Pro P プロリン
Gln Q グルタミン
Arg R アルギニン
Ser S セリン
Thr T トレオニン
Val V バリン
Trp W トリプトファン
Tyr Y チロシン
Asx アスパラギンまたはアスパラギン酸
Glx グルタミンまたはグルタミン酸
Xaa 不明または他のアミノ酸。
【0070】
塩基
記号 意味
a アデニン
g グアニン
c シトシン
t チミン
u ウラシル
r グアニンまたはアデニンプリン
y チミン/ウラシルまたはシトシンピリミジン
m アデニンまたはシトシンアミノ基
k グアニンまたはチミン/ウラシルケト基
s グアニンまたはシトシン
w アデニンまたはチミン/ウラシル
b グアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
d アデニンまたはグアニンまたはチミン/ウラシル
h アデニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル
v アデニンまたはグアニンまたはシトシン
n アデニンまたはグアニンまたはシトシンまたはチミン/ウラシル、不明、または他の塩基。
【0071】
本明細書において、「対応する」アミノ酸または核酸とは、それぞれあるポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子において、比較の基準となるポリペプチドまたはポリヌクレオチドにおける所定のアミノ酸と同様の作用を有するか、あるいは有することが予測されるアミノ酸または核酸をいい、特にMEHP加水分解活性を有する酵素のような酵素分子にあっては、活性部位中の同様の位置に存在し触媒活性に同様の寄与をするアミノ酸をいう。例えば、あるポリヌクレオチドのアンチセンス分子であれば、そのアンチセンス分子の特定の部分に対応するオルソログにおける同様の部分であり得る。本明細書において、例えば、マウスMEHP加水分解活性を有する酵素のポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子におけるアミノ酸または核酸に対応するアミノ酸または核酸は、それぞれヒトMEHP加水分解活性を有する酵素のポリペプチド分子またはポリヌクレオチド分子におけるアミノ酸または核酸などが例示される。
【0072】
本明細書において、「対応する」遺伝子とは、ある種において、比較の基準となる種における所定の遺伝子と同様の作用を有するか、または有することが予測される遺伝子をいい、そのような作用を有する遺伝子が複数存在する場合、進化学的に同じ起源を有するものをいう。従って、ある遺伝子の対応する遺伝子は、その遺伝子のオルソログあるいは種相同体であり得る。したがって、マウスMEHP加水分解活性を有する酵素の遺伝子に対応する遺伝子は、他の動物においても見出すことができる。そのような対応する遺伝子は、当該分野において周知の技術を用いて同定することができる。したがって、例えば、ある動物における対応する遺伝子は、対応する遺伝子の基準となる遺伝子(例えば、マウスMEHP加水分解活性を有する酵素遺伝子)の配列の全部または一部をクエリ配列として用いてその動物(例えばヒト、ラット)の配列データベースを検索することによって見出すことができる。
【0073】
本明細書において「ヌクレオチド」は、天然のものでも非天然のものでもよい。「誘導体ヌクレオチド」または「ヌクレオチドアナログ」とは、天然に存在するヌクレオチドとは異なるがもとのヌクレオチドと同様の機能を有するものをいう。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログは、当該分野において周知である。そのような誘導体ヌクレオチドおよびヌクレオチドアナログの例としては、ホスホロチオエート、ホスホルアミデート、メチルホスホネート、キラルメチルホスホネート、2−O−メチルリボヌクレオチド、ペプチド−核酸(PNA)が含まれるが、これらに限定されない。
【0074】
本明細書において、「フラグメント」とは、全長のポリペプチドまたはポリヌクレオチド(長さがn)に対して、1〜n−1までの配列長さを有するポリペプチドまたはポリヌクレオチドをいう。フラグメントの長さは、その目的に応じて、適宜変更することができ、例えば、その長さの下限としては、ポリペプチドの場合、3、4、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50およびそれ以上のアミノ酸が挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。また、ポリヌクレオチドの場合、5、6、7、8、9、10、15,20、25、30、40、50、75、100およびそれ以上のヌクレオチドが挙げられ、ここの具体的に列挙していない整数で表される長さ(例えば、11など)もまた、下限として適切であり得る。本明細書において、ポリペプチドおよびポリヌクレオチドの長さは、上述のようにそれぞれアミノ酸または核酸の個数で表すことができるが、上述の個数は絶対的なものではなく、同じ機能を有する限り、上限または下限としての上述の個数は、その個数の上下数個(または例えば上下10%)のものも含むことが意図される。そのような意図を表現するために、本明細書では、個数の前に「約」を付けて表現することがある。しかし、本明細書では、「約」のあるなしはその数値の解釈に影響を与えないことが理解されるべきである。
【0075】
本明細書において「生物学的活性」とは、ある因子(例えば、ポリペプチドまたはタンパク質)が、生体内において有し得る活性のことをいい、種々の機能(例えば、転写促進活性)を発揮する活性が包含される。例えば、ある因子がアンチセンス分子である場合、その生物学的活性は、対象となる核酸分子への結合、それによる発現抑制などを包含する。例えば、ある因子が酵素である場合、その生物学的活性は、その酵素活性を包含する。別の例では、ある因子がリガンドである場合、そのリガンドが対応するレセプターへの結合を包含する。そのような生物学的活性は、当該分野において周知の技術によって測定することができる。
【0076】
本明細書において、「ストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド」とは、当該分野で慣用される周知の条件をいう。本発明のポリヌクレオチド中から選択されたポリヌクレオチドをプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法あるいはサザンブロットハイブリダイゼーション法等を用いることにより、そのようなポリヌクレオチドを得ることができる。具体的には、コロニーあるいはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7〜1.0MのNaCl存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1〜2倍濃度のSSC(saline−sodium citrate)溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM 塩化ナトリウム、15mM クエン酸ナトリウムである)を用い、65℃条件下でフィルターを洗浄することにより同定できるポリヌクレオチドを意味する。ハイブリダイゼーションは、Molecular Cloning 2nd ed.,Current Protocols in Molecular Biology,Supplement 1〜38、DNA Cloning 1:Core Techniques,A Practical Approach,Second Edition,Oxford University Press(1995)等の実験書に記載されている方法に準じて行うことができる。ここで、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする配列からは、好ましくは、A配列のみまたはT配列のみを含む配列が除外される。「ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチド」とは、上記ハイブリダイズ条件下で別のポリヌクレオチドにハイブリダイズすることができるポリヌクレオチドをいう。ハイブリダイズ可能なポリヌクレオチドとして具体的には、本発明で具体的に示されるアミノ酸配列を有するポリペプチドをコードするDNAの塩基配列と少なくとも60%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、好ましくは80%以上の相同性を有するポリヌクレオチド、さらに好ましくは95%以上の相同性を有するポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0077】
本明細書において「プローブ」とは、インビトロおよび/またはインビボなどのスクリーニングなどの生物学的実験において用いられる、検索の対象となる物質をいい、例えば、特定の塩基配列を含む核酸分子または特定のアミノ酸配列を含むペプチドなどが挙げられるがそれに限定されない。
【0078】
通常プローブとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相同なまたは相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。
【0079】
本明細書において、「検索」とは、電子的にまたは生物学的あるいは他の方法により、ある核酸塩基配列を利用して、特定の機能および/または性質を有する他の核酸塩基配列を見出すことをいう。電子的な検索としては、BLAST(Altschulら,J.Mol.Biol.215:403−410(1990))、FASTA(PearsonおよびLipman,Proc.Natl.Acad.Sci.,USA 85:2444−2448(1988))、SmithおよびWaterman法(SmithおよびWaterman,J.Mol.Biol.147:195−197(1981))、およびNeedlemanおよびWunsch法(NeedlemanおよびWunsch,J.Mol.Biol.48:443−453(1970))などが挙げられるがそれらに限定されない。生物学的な検索としては、ストリンジェントハイブリダイゼーション、ゲノムDNAをナイロンメンブレン等に貼り付けたマクロアレイまたはガラス板に貼り付けたマイクロアレイ(マイクロアレイアッセイ)、PCRおよびインサイチュ(in situ)ハイブリダイゼーションなどが挙げられるがそれらに限定されない。
【0080】
本明細書における「プライマー」とは、高分子合成酵素反応において、合成される高分子化合物の反応の開始に必要な物質をいう。核酸分子の合成反応では、合成されるべき高分子化合物の一部の配列に相補的な核酸分子(例えば、DNAまたはRNAなど)が用いられ得る。
【0081】
通常プライマーとして用いられる核酸分子としては、目的とする遺伝子の核酸配列と相補的な、少なくとも8の連続するヌクレオチド長の核酸配列を有するものが挙げられる。そのような核酸配列は、好ましくは、少なくとも9の連続するヌクレオチド長の、より好ましく10の連続するヌクレオチド長の、さらに好ましくは11の連続するヌクレオチド長の、12の連続するヌクレオチド長の、13の連続するヌクレオチド長の、14の連続するヌクレオチド長の、15の連続するヌクレオチド長の、16の連続するヌクレオチド長の、17の連続するヌクレオチド長の、18の連続するヌクレオチド長の、19の連続するヌクレオチド長の、20の連続するヌクレオチド長の、25の連続するヌクレオチド長の、30の連続するヌクレオチド長の、40の連続するヌクレオチド長の、50の連続するヌクレオチド長の、核酸配列であり得る。プローブとして使用される核酸配列には、上述の配列に対して、少なくとも70%相同な、より好ましくは、少なくとも80%相同な、さらに好ましくは、90%相同な、95%相同な核酸配列が含まれる。プライマーとして適切な配列は、合成(増幅)が意図される配列の性質によって変動し得るが、当業者は、意図される配列に応じて適宜プライマーを設計することができる。そのようなプライマーの設計は当該分野において周知であり、手動でおこなってもよくコンピュータプログラム(例えば、LASERGENE,PrimerSelect,DNAStar)を用いて行ってもよい。
【0082】
本明細書において、「エピトープ」とは、抗原決定基をいう。従って、エピトープには特定の免疫グロブリンによる認識に関与するアミノ酸残基のセット、または、T細胞の場合は、T細胞レセプタータンパク質および/もしくは主要組織適合性複合体(MHC)レセプターによる認識について必要であるアミノ酸残基のセットが包含される。この用語はまた、「抗原決定基」または「抗原決定部位」と交換可能に使用される。免疫系分野において、インビボまたはインビトロで、エピトープは、分子の特徴(例えば、一次ペプチド構造、二次ペプチド構造または三次ペプチド構造および電荷)であり、免疫グロブリン、T細胞レセプターまたはHLA分子によって認識される部位を形成する。ペプチドを含むエピトープは、エピトープに独特な空間的コンフォメーション中に3つ以上のアミノ酸を含み得る。一般に、エピトープは、少なくとも5つのこのようなアミノ酸からなり、代表的には少なくとも6つ、7つ、8つ、9つ、または10のこのようなアミノ酸からなる。エピトープの長さは、より長いほど、もとのペプチドの抗原性に類似することから一般的に好ましいが、コンフォメーションを考慮すると、必ずしもそうでないことがある。アミノ酸の空間的コンフォメーションを決定する方法は、当該分野で公知であり、例えば、X線結晶学、および2次元核磁気共鳴分光法を含む。さらに、所定のタンパク質におけるエピトープの同定は、当該分野で周知の技術を使用して容易に達成される。例えば、Geysenら(1984)Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:3998(所定の抗原における免疫原性エピトープの位置を決定するために迅速にペプチドを合成する一般的な方法);米国特許第4,708,871号(抗原のエピトープを同定し、そして化学的に合成するための手順);およびGeysenら(1986)Molecular Immunology 23:709(所定の抗体に対して高い親和性を有するペプチドを同定するための技術)を参照されたい。同じエピトープを認識する抗体は、単純な免疫アッセイにおいて同定され得る。このように、ペプチドを含むエピトープを決定する方法は、当該分野において周知であり、そのようなエピトープは、核酸またはアミノ酸の一次配列が提供されると、当業者はそのような周知慣用技術を用いて決定することができる。
【0083】
従って、ペプチドを含むエピトープとして使用するためには、少なくとも3アミノ酸の長さの配列が必要であり、好ましくは、この配列は、少なくとも4アミノ酸、より好ましくは5アミノ酸、6アミノ酸、7アミノ酸、8アミノ酸、9アミノ酸、10アミノ酸、15アミノ酸、20アミノ酸、25アミノ酸の長さの配列が必要であり得る。
【0084】
あるタンパク質分子において、配列に含まれるあるアミノ酸は、相互作用結合能力の明らかな低下または消失なしに、例えば、カチオン性領域または基質分子の結合部位のようなタンパク質構造において他のアミノ酸に置換され得る。あるタンパク質の生物学的機能を規定するのは、タンパク質の相互作用能力および性質である。従って、特定のアミノ酸の置換がアミノ酸配列において、またはそのDNAコード配列のレベルにおいて行われ得、置換後もなお、もとの性質を維持するタンパク質が生じ得る。従って、生物学的有用性の明らかな損失なしに、種々の改変が、本明細書において開示されたペプチドまたはこのペプチドをコードする対応する核酸分子において行われ得る。
【0085】
上記のような改変を設計する際に、アミノ酸の疎水性指数が考慮され得る。タンパク質における相互作用的な生物学的機能を与える際の疎水性アミノ酸指数の重要性は、一般に当該分野で認められている(Kyte.JおよびDoolittle,R.F.J.Mol.Biol.157(1):105−132,1982)。アミノ酸の疎水的性質は、生成したタンパク質の二次構造に寄与し、次いでそのタンパク質と他の分子(例えば、酵素、基質、レセプター、DNA、抗体、抗原など)との相互作用を規定する。各アミノ酸は、それらの疎水性および電荷の性質に基づく疎水性指数を割り当てられる。それらは:イソロイシン(+4.5);バリン(+4.2);ロイシン(+3.8);フェニルアラニン(+2.8);システイン/シスチン(+2.5);メチオニン(+1.9);アラニン(+1.8);グリシン(−0.4);スレオニン(−0.7);セリン(−0.8);トリプトファン(−0.9);チロシン(−1.3);プロリン(−1.6);ヒスチジン(−3.2);グルタミン酸(−3.5);グルタミン(−3.5);アスパラギン酸(−3.5);アスパラギン(−3.5);リジン(−3.9);およびアルギニン(−4.5))である。
【0086】
あるアミノ酸を、同様の疎水性指数を有する他のアミノ酸により置換して、そして依然として同様の生物学的機能を有するタンパク質(例えば、酵素活性において等価なタンパク質)を生じさせ得ることが当該分野で周知である。このようなアミノ酸置換において、疎水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。疎水性に基づくこのようなアミノ酸の置換は効率的であることが当該分野において理解される。
【0087】
親水性指数もまた、ポリペプチドの設計において考慮され得る。米国特許第4,554,101号に記載されるように、以下の親水性指数がアミノ酸残基に割り当てられている:アルギニン(+3.0);リジン(+3.0);アスパラギン酸(+3.0±1);グルタミン酸(+3.0±1);セリン(+0.3);アスパラギン(+0.2);グルタミン(+0.2);グリシン(0);スレオニン(−0.4);プロリン(−0.5±1);アラニン(−0.5);ヒスチジン(−0.5);システイン(−1.0);メチオニン(−1.3);バリン(−1.5);ロイシン(−1.8);イソロイシン(−1.8);チロシン(−2.3);フェニルアラニン(−2.5);およびトリプトファン(−3.4)。アミノ酸が同様の親水性指数を有しかつ依然として生物学的等価体を与え得る別のものに置換され得ることが理解される。このようなアミノ酸置換において、親水性指数が±2以内であることが好ましく、±1以内であることがより好ましく、および±0.5以内であることがさらにより好ましい。
【0088】
本発明において、「保存的置換」とは、アミノ酸置換において、元のアミノ酸と置換されるアミノ酸との親水性指数または/および疎水性指数が上記のように類似している置換をいう。保存的置換の例としては、例えば、親水性指数または疎水性指数が、±2以内のもの同士、好ましくは±1以内のもの同士、より好ましくは±0.5以内のもの同士のものが挙げられるがそれらに限定されない。従って、保存的置換の例は、当業者に周知であり、例えば、次の各グループ内での置換:アルギニンおよびリジン;グルタミン酸およびアスパラギン酸;セリンおよびスレオニン;グルタミンおよびアスパラギン;ならびにバリン、ロイシン、およびイソロイシン、などが挙げられるがこれらに限定されない。
【0089】
本明細書において、「改変体」とは、もとのポリペプチドまたはポリヌクレオチドなどの物質に対して、一部が変更されているものをいう。そのような改変体としては、置換改変体、付加改変体、欠失改変体、短縮(truncated)改変体、対立遺伝子変異体などが挙げられる。対立遺伝子(allele)とは、同一遺伝子座に属し、互いに区別される遺伝的改変体のことをいう。従って、「対立遺伝子変異体」とは、ある遺伝子に対して、対立遺伝子の関係にある改変体をいう。そのような対立遺伝子変異体は、通常その対応する対立遺伝子と同一または非常に類似性の高い配列を有し、通常はほぼ同一の生物学的活性を有するが、まれに異なる生物学的活性を有することもある。「種相同体またはホモログ(homolog)」とは、ある種の中で、ある遺伝子とアミノ酸レベルまたはヌクレオチドレベルで、相同性(好ましくは、60%以上の相同性、より好ましくは、80%以上、85%以上、90%以上、95%以上の相同性)を有するものをいう。そのような種相同体を取得する方法は、本明細書の記載から明らかである。「オルソログ(ortholog)」とは、オルソロガス遺伝子(orthologous gene)ともいい、二つの遺伝子がある共通祖先からの種分化に由来する遺伝子をいう。例えば、多重遺伝子構造をもつヘモグロビン遺伝子ファミリーを例にとると、ヒトおよびマウスのαヘモグロビン遺伝子はオルソログであるが,ヒトのαヘモグロビン遺伝子およびβヘモグロビン遺伝子はパラログ(遺伝子重複で生じた遺伝子)である。オルソログは、分子系統樹の推定に有用である。オルソログは、通常別の種においてもとの種と同様の機能を果たしていることがあり得ることから、本発明のオルソログもまた、本発明において有用であり得る。
【0090】
「保存的(に改変された)改変体」は、アミノ酸配列および核酸配列の両方に適用される。特定の核酸配列に関して、保存的に改変された改変体とは、同一のまたは本質的に同一のアミノ酸配列をコードする核酸をいい、核酸がアミノ酸配列をコードしない場合には、本質的に同一な配列をいう。遺伝コードの縮重のため、多数の機能的に同一な核酸が任意の所定のタンパク質をコードする。例えば、コドンGCA、GCC、GCG、およびGCUはすべて、アミノ酸アラニンをコードする。したがって、アラニンがコドンにより特定される全ての位置で、そのコドンは、コードされたポリペプチドを変更することなく、記載された対応するコドンの任意のものに変更され得る。このような核酸の変動は、保存的に改変された変異の1つの種である「サイレント改変(変異)」である。ポリペプチドをコードする本明細書中のすべての核酸配列はまた、その核酸の可能なすべてのサイレント変異を記載する。当該分野において、核酸中の各コドン(通常メチオニンのための唯一のコドンであるAUG、および通常トリプトファンのための唯一のコドンであるTGGを除く)が、機能的に同一な分子を産生するために改変され得ることが理解される。したがって、ポリペプチドをコードする核酸の各サイレント変異は、記載された各配列において暗黙に含まれる。好ましくは、そのような改変は、ポリペプチドの高次構造に多大な影響を与えるアミノ酸であるシステインの置換を回避するようになされ得る。このような塩基配列の改変法としては、制限酵素などによる切断、DNAポリメラーゼ、Klenowフラグメント、DNAリガーゼなどによる処理等による連結等の処理、合成オリゴヌクレオチドなどを用いた部位特異的塩基置換法(特定部位指向突然変異法;Mark ZollerおよびMichael Smith,Methods in Enzymology,100,468−500(1983))が挙げられるが、この他にも通常分子生物学の分野で用いられる方法によって改変を行うこともできる。
【0091】
本発明のMEHP加水分解活性を有する酵素は、代表的には、そのサブユニットが、N末端配列PSSSITQKFHTVD(配列番号1)を含むアミノ酸配列を含むことによって特徴付けられる。当業者は、このような配列情報から、全長アミノ酸配列を容易に決定することができることが理解される。また、当業者は、このような配列情報から、核酸配列情報をも決定することができることが理解される。このようなアミノ酸配列の情報は、例えば、産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM P−18102号として寄託されたGordonia polyisoprenivorans P8219株から、本明細書に記載された精製方法に従って、MEHP加水分解活性を有する酵素を精製し、配列決定することによって、全長配列を決定してもよい。好ましい実施形態では、本発明のMEHP加水分解活性を有する酵素は、DEHPを加水分解する活性を有しない。
【0092】
本発明において用いられるGordonia polyisoprenivoransは、本発明のフタル酸モノ−2−エチルヘキシル(MEHP)加水分解活性を有する酵素を提供する。Gordonia polyisoprenivoransは、グラム陽性高GC含量細菌である。Gordonia polyisoprenivoransは、ミコール酸含有放線菌群に分類され、ノカルジア科に属する。本発明においてGordonia polyisoprenivoransを用いる場合、フタル酸モノ−2−エチルヘキシル(MEHP)を含む規定培地中で30℃にて30時間培養した場合、このMEHPの80%以上が消失し、好ましくは90%以上が消失し、より好ましくは95%以上が消失し、そして最も好ましくは100%消失する。本発明では、好ましくは、このGordonia polyisoprenivoransから分離された本発明のMEHP加水分解活性を有する酵素を使用することができるが、それに限定されず、他の生物に由来する酵素も使用することができることが理解される。そのような他の生物としては、例えば、ノカルジア科に属する細菌を挙げることができる。当業者は、本明細書の記載に基づき、本発明の上記酵素を精製および単離することができることが理解される。
【0093】
本明細書中において、機能的に等価な(すなわち、MEHP加水分解活性を有する)ポリペプチドを作製するために、アミノ酸の置換のほかに、アミノ酸の付加、欠失、または修飾もまた行うことができる。アミノ酸の置換とは、もとのペプチドを1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸で置換することをいう。アミノ酸の付加とは、もとのペプチド鎖に1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を付加することをいう。アミノ酸の欠失とは、もとのペプチドから1つ以上、例えば、1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個のアミノ酸を欠失させることをいう。アミノ酸修飾は、アミド化、カルボキシル化、硫酸化、ハロゲン化、アルキル化、グリコシル化、リン酸化、水酸化、アシル化(例えば、アセチル化)などを含むが、これらに限定されない。置換、または付加されるアミノ酸は、天然のアミノ酸であってもよく、非天然のアミノ酸、またはアミノ酸アナログでもよい。天然のアミノ酸が好ましい。
【0094】
本明細書において使用される用語「ペプチドアナログ」または「ペプチド誘導体」とは、ペプチドとは異なる化合物であるが、ペプチドと少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ペプチドアナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のアミノ酸アナログまたはアミノ酸誘導体が付加または置換されているものが含まれる。ペプチドアナログは、その機能が、もとのペプチドの機能(例えば、pKa値が類似していること、官能基が類似していること、他の分子との結合様式が類似していること、水溶性が類似していることなど)と実質的に同様であるように、このような付加または置換がされている。そのようなペプチドアナログは、当該分野において周知の技術を用いて作製することができる。したがって、ペプチドアナログは、アミノ酸アナログを含むポリマーであり得る。
【0095】
同様に、「ポリヌクレオチドアナログ」、「核酸アナログ」は、ポリヌクレオチドまたは核酸とは異なる化合物であるが、ポリヌクレオチドまたは核酸と少なくとも1つの化学的機能または生物学的機能が等価であるものをいう。したがって、ポリヌクレオチドアナログまたは核酸アナログには、もとのペプチドに対して、1つ以上のヌクレオチドアナログまたはヌクレオチド誘導体が付加または置換されているものが含まれる。
【0096】
本明細書において用いられる分子生物学的手法、生化学的手法、微生物学的手法は、当該分野において周知であり慣用されるものであり、例えば、Sambrook J.ら(1989).Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor,第3版(2001);Ausubel,F.M.(1987).Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Ausubel,F.M.(1989).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates and Wiley−Interscience;Innis,M.A.(1990).PCR Protocols:A Guide to Methods and Applications,Academic Press;Ausubel,F.M.(1992).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Ausubel,F.M.(1995).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Greene Pub.Associates;Innis,M.A.ら(1995).PCR Strategies,Academic Press;Ausubel,F.M.(1999).Short Protocols in Molecular Biology:A Compendium of Methods from Current Protocols in Molecular Biology,Wileyおよびその最新版;Sninsky,J.J.ら(1999).PCR Applications:Protocols for Functional Genomics,Academic Press、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載されており、これらは本明細書において関連する部分(全部であり得る)が参考として援用される。
【0097】
人工的に合成した遺伝子を作製するためのDNA合成技術および核酸化学については、例えば、Gait,M.J.(1985).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRLPress;Gait,M.J.(1990).Oligonucleotide Synthesis:A Practical Approach,IRL Press;Eckstein,F.(1991).Oligonucleotides and Analogues:A Practical Approac,IRL Press;Adams,R.L.ら(1992).The Biochemistry of the Nucleic Acids,Chapman&Hall;Shabarova,Z.ら(1994).Advanced Organic Chemistry of Nucleic Acids,Weinheim;Blackburn,G.M.ら(1996).Nucleic Acids in Chemistry and Biology,Oxford University Press;Hermanson,G.T.(I996).Bioconjugate Techniques,Academic Pressなどに記載されており、これらは本明細書において関連する部分が参考として援用される。
【0098】
本明細書において遺伝子について言及する場合、「ベクター」または「組み換えベクター」とは、目的のポリヌクレオチド配列を目的の細胞へと移入させることができるベクターをいう。そのようなベクターとしては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞、動物個体および植物個体などの宿主細胞において自立複製が可能、または染色体中への組込みが可能で、本発明のポリヌクレオチドの転写に適した位置にプロモーターを含有しているものが例示される。ベクターのうち、クローニングに適したベクターを「クローニングベクター」という。そのようなクローニングベクターは通常、制限酵素部位を複数含むマルチプルクローニング部位を含む。現在、遺伝子のクローニングに使用可能なベクターは、当該分野において多数存在し、販売元により、微妙な違い(例えばマルチクローニングサイトの制限酵素の種類や配列)から名前を変えて販売されている。例えば、「Molecular Cloning(第3版)」Sambrook,JおよびRussell,D.W.,Appendix 3(Volume 3),Vectors and Bacterial strains.A3.2(Cold Spring Harbor USA,2001)に代表的なものが記載(発売元も記載)されており、そのようなものを当業者は適宜目的に応じて使用することができる。
【0099】
本明細書において「発現ベクター」とは、構造遺伝子およびその発現を調節するプロモーターに加えて種々の調節エレメントが宿主の細胞中で作動し得る状態で連結されている核酸配列をいう。調節エレメントは、好ましくは、ターミネーター、薬剤耐性遺伝子のような選択マーカーおよび、エンハンサーを含み得る。生物(例えば、動物)の発現ベクターのタイプおよび使用される調節エレメントの種類が、宿主細胞に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0100】
本明細書において使用される組み換えベクターとしては、例えば、ゲノムライブラリーのスクリーニングにはラムダFIXベクター(ファージベクター)を、cDNAのスクリーニングではラムダZAPベクター(ファージベクター)を利用することができる。ゲノムDNAのクローニングにはpBluescript II SK+/−,pGEM,pCR2.1 ベクター(プラスミドベクター)を主に使用することができる。発現ベクターとしてpSV2neoベクター(プラスミドベクター)を利用することができる。このようなベクターは、前出のMolecular Cloning A3.2を参考にして適宜実施することができる。
【0101】
本明細書において「ターミネーター」は、遺伝子のタンパク質をコードする領域の下流に位置し、DNAがmRNAに転写される際の転写の終結、ポリA配列の付加に関与する配列である。ターミネーターは、mRNAの安定性に関与して遺伝子の発現量に影響を及ぼすことが知られている。
【0102】
本明細書において「プロモーター」とは、遺伝子の転写の開始部位を決定し、またその頻度を直接的に調節するDNA上の領域をいい、通常RNAポリメラーゼが結合して転写を始める塩基配列である。したがって、本明細書においてある遺伝子のプロモーターの働きを有する部分を「プロモーター部分」という。プロモーターの領域は、通常、推定タンパク質コード領域の第1エキソンの上流約2kbp以内の領域であることが多いので、DNA解析用ソフトウエアを用いてゲノム塩基配列中のタンパク質コード領域を予測すれば、プロモーター領域を推定することはできる。推定プロモーター領域は、構造遺伝子ごとに変動するが、通常構造遺伝子の上流にあるが、これらに限定されず、構造遺伝子の下流にもあり得る。
【0103】
本明細書において「エンハンサー」とは、目的遺伝子の発現効率を高めるために用いられる配列をいう。そのようなエンハンサーは当該分野において周知である。エンハンサーは複数個用いられ得るが1個用いられてもよいし、用いなくともよい。
【0104】
本明細書において「作動可能に連結された(る)」とは、所望の配列の発現(作動)がある転写翻訳調節配列(例えば、プロモーター、エンハンサーなど)または翻訳調節配列の制御下に配置されることをいう。プロモーターが遺伝子に作動可能に連結されるためには、通常、その遺伝子のすぐ上流にプロモーターが配置されるが、必ずしも隣接して配置される必要はない。
【0105】
本明細書において、核酸分子を細胞に導入する技術は、どのような技術でもよく、例えば、形質転換、形質導入、トランスフェクションなどが挙げられる。 そのような核酸分子の導入技術は、当該分野において周知であり、かつ、慣用されるものであり、例えば、Ausubel F.A.ら編(1988)、Current Protocols in Molecular Biology、Wiley、New York、NY;Sambrook Jら(1987)Molecular Cloning:A Laboratory Manual,第2版および第三版,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY、別冊実験医学「遺伝子導入&発現解析実験法」羊土社、1997などに記載される。遺伝子の導入は、ノーザンブロット、ウェスタンブロット分析のような本明細書に記載される方法または他の周知慣用技術を用いて確認することができる。
【0106】
また、ベクターの導入方法としては、細胞にDNAを導入する上述のような方法であればいずれも用いることができ、例えば、トランスフェクション、形質導入、形質転換など(例えば、リン酸カルシウム法、リポソーム法、DEAEデキストラン法、エレクトロポレーション法、パーティクルガン(遺伝子銃)を用いる方法など)が挙げられる。
【0107】
本明細書において「形質転換体」とは、形質転換によって作製された細胞などの生命体の全部または一部をいう。形質転換体としては、原核細胞、酵母、動物細胞、植物細胞、昆虫細胞などが例示される。形質転換体は、その対象に依存して、形質転換細胞、形質転換組織、形質転換宿主などともいわれる。本発明において用いられる細胞は、形質転換体であってもよい。
【0108】
(形質転換体からの単離・精製)
本発明のポリペプチドをコードする核酸配列で形質転換された形質転換体の培養物から、本発明のポリペプチドを単離または精製するためには、当該分野で周知慣用の通常の酵素の単離または精製法を用いることができる。例えば、本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞外に本発明のポリペプチドが分泌される場合には、その培養物を遠心分離等の手法により処理し、可溶性画分を取得する。その可溶性画分から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化成)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用い、精製標品を得ることができる。
本発明のポリペプチドが本発明のポリペプチド製造用形質転換体の細胞内に溶解状態で蓄積する場合には、培養物を遠心分離することにより、培養物中の細胞を集め、その細胞を洗浄した後に、超音波破砕機、フレンチプレス、マントンガウリンホモジナイザー、ダイノミル等により細胞を破砕し、無細胞抽出液を得る。その無細胞抽出液を遠心分離することにより得られた上清から、溶媒抽出法、硫安等による塩析法脱塩法、有機溶媒による沈澱法、ジエチルアミノエチル(DEAE)−Sepharose、DIAION HPA−75(三菱化学)等樹脂を用いた陰イオン交換クロマトグラフィー法、S−Sepharose FF(Pharmacia)等の樹脂を用いた陽イオン交換クロマトグラフィー法、ブチルセファロース、フェニルセファロース等の樹脂を用いた疎水性クロマトグラフィー法、分子篩を用いたゲルろ過法、アフィニティークロマトグラフィー法、クロマトフォーカシング法、等電点電気泳動等の電気泳動法等の手法を用いることによって、精製標品を得ることができる。
【0109】
また、本発明のポリペプチドが細胞内に不溶体を形成して発現した場合は、同様に細胞を回収後破砕し、遠心分離を行うことにより得られた沈澱画分より、通常の方法により本発明のポリペプチドを回収後、そのポリペプチドの不溶体をポリペプチド変性剤で可溶化する。この可溶化液を、ポリペプチド変性剤を含まないあるいはポリペプチド変性剤の濃度がポリペプチド変性しない程度に希薄な溶液に希釈、あるいは透析し、本発明のポリペプチドを正常な立体構造に構成させた後、上記と同様の単離精製法により精製標品を得ることができる。
【0110】
また、通常のタンパク質の精製方法[J.Evan.Sadlerら:Methods in Enzymology,83,458]に準じて精製できる。また、本発明のポリペプチドを他のタンパク質との融合タンパク質として生産し、融合したタンパク質に親和性をもつ物質を用いたアフィニティークロマトグラフィーを利用して精製することもできる[山川彰夫,実験医学(Experimental Medicine),13,469−474(1995)]。例えば、Loweらの方法[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227−8231(1989)、GenesDevelop.,4,1288(1990)]に記載の方法に準じて、本発明のポリペプチドをプロテインAとの融合タンパク質として生産し、イムノグロブリンGを用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる。
【0111】
また、本発明のポリペプチドをFLAGペプチドとの融合タンパク質として生産し、抗FLAG抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィーにより精製することができる[Proc.Natl.Acad.Sci.,USA,86,8227(1989)、Genes Develop.,4,1288(1990)]。
【0112】
さらに、本発明のポリペプチド自身に対する抗体を用いたアフィニティークロマトグラフィーで精製することもできる。本発明のポリペプチドは、公知の方法[J.Biomolecular NMR,6,129−134、Science,242,1162−1164、J.Biochem.,110,166−168(1991)]に準じて、in vitro転写・翻訳系を用いて生産することができる。
【0113】
上記で取得されたポリペプチドのアミノ酸情報を基に、Fmoc法(フルオレニルメチルオキシカルボニル法)、tBoc法(t−ブチルオキシカルボニル法)等の化学合成法によっても本発明のポリペプチドを製造することができる。また、Advanced ChemTech、Applied Biosystems、Pharmacia Biotech、Protein Technology Instrument、Synthecell−Vega、PerSeptive、島津製作所等のペプチド合成機を利用し化学合成することもできる。
【0114】
精製した本発明のポリペプチドの構造解析は、タンパク質化学で通常用いられる方法、例えば遺伝子クローニングのためのタンパク質構造解析(平野久著、東京化学同人発行、1993年)に記載の方法により実施可能である。
【0115】
(スクリーニング)
本明細書において「スクリーニング」とは、目的とするある特定の性質をもつ生物または物質などの標的を、特定の操作/評価方法で多数を含む集団の中から選抜することをいう。スクリーニングのために、本発明の因子(例えば、抗体)、ポリペプチドまたは核酸分子を使用することができる。
【0116】
本明細書において、免疫反応を利用してスクリーニングを行うことを、「免疫表現型分類(immunophenotyping)」ともいう。この場合、本発明の抗体または単鎖抗体は、細胞株および生物学的サンプルの免疫表現型分類のために利用され得る。本発明の遺伝子の転写産物・翻訳産物は、細胞特異的マーカーとして、あるいはより詳細には、特定の細胞型の分化および/または成熟の種々の段階で示差的に発現される細胞マーカーとして有用である。特異的エピトープ、またはエピトープの組み合わせに対して指向されるモノクローナル抗体は、マーカーを発現する細胞集団のスクリーニングを可能とする。種々の技術が、マーカーを発現する細胞集団をスクリーニングするために、モノクローナル抗体を用いて利用され得、そしてその技術には、抗体でコーティングされた磁気ビーズを用いる磁気分離、固体マトリクス(すなわち、プレート)に付着した抗体を用いる「パニング(panning)」、ならびにフローサイトメトリーが挙げられる(例えば、米国特許第5,985,660号;およびMorrisonら,Cell,96:737−49(1999)を参照)。
【0117】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0118】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供したのではない。従って、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0119】
以下の実施例で用いた動物の取り扱いは、崇城大学において規定される基準を遵守した。
【0120】
まず、以下の実施例で使用される主な方法および材料を説明する。
【0121】
(実施例1.Gordonia polyisoprenivorans P8219株の培養)
Gordonia polyisoprenivorans P8219株(産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM P−18102号)を、保存菌(NB斜面培地)より白金耳にて菌を取り、NB前培養液体培地に植菌し、設定温度25℃のロータリーシェーカー(NEW BRUNSWICK SCIENTIFIC製innova 4330 1 inchストローク)にて培養した。NB液体培地で3日間培養した前培養液をM9液体培地(20ml/100ml容三角フラスコ)に2%(v/v)植菌し、各種フタル酸エステルを1.0ml/lになるように添加し、設定温度25℃のロータリーシェーカーにて培養した。
【0122】
(実施例2.無細胞抽出物の作製)
実施例1において培養した本培養液2Lを遠心分離して、細胞と培養液上澄みに分画した。細胞を無菌的に滅菌水に懸濁して遠心分離を行い、上澄みを除去した。この操作を2回繰り返し、細胞の洗浄を行った。細胞を、M9合成培地(500ml容三角フラスコ200ml×10本)に加え、DEHPを1,500ppm添加した。25℃のロータリーシェーカーで15時間振盪し、酵素の誘導を行った。集菌した細胞2L分を、−40℃に冷却した99%エタノール200mlに懸濁した。遠心分離機(BECKMAN COULTER製 Avanti HP−25)において、直ちに10,000rpm、4℃で3分間遠心分離を行い、上澄みのエタノールを除去した。0.1Mリン酸バッファー,pH 7.5で細胞を洗浄した。0.1 Mリン酸バッファー,pH 7.5に懸濁し、ガラスビーズ(0.25mm〜0.5mmΦ)を加えた。ジメチルスルホキシド(以下DMSO)(ナカライテスク製)に溶解した0.25Mのフェニルメチルスルホニルフルオリド(以下PMSF)(SIGMA製,分子量174.2)を0.1%(v/v)添加した後、ダイノミル(Willy A.Bachofen AG Maschinenfabrik製 Typ KDL A)を用いて細胞を破砕(30秒×6回)した。濾過を行い、ガラスビーズを取り除いた。細胞破砕液を10,000 rpm、4℃で15分間遠心分離した。上澄みを回収し、無細胞抽出物とした。
【0123】
(実施例3.DEAE−Celluloseカラムクロマトグラフィーによる酵素の精製)
実施例2で調製した無細胞抽出物を、超遠心分離器(BECKMAN COULTER製)において超遠心分離(40,000rpm,1時間,4℃)した後に得られた上澄みを精製水にて2倍希釈して脱気した後、DEAE−Celluloseカラムクロマトグラフィーを行った。その条件は、以下の通りであった:
使用担体:DE−52担体(Whatman)
担体の体積:φ1.8×26cm
流速:20ml/時間
1フラクション:9.8ml
チャージ:200ml
使用バッファー:Aバッファー(50mMリン酸バッファー,pH 7.5),Bバッファー(50mMリン酸バッファー,pH 7.5+0.5M KCl)。
ただし、グラジエント溶出は、Aバッファー150mlとBバッファー150mlで行った。その結果は、図4に示す。
【0124】
図4においてプールと示されている部分をプールして以下の実験に用いた。
【0125】
(実施例4.TLCによるMEHP分解酵素活性の確認)
実施例3で得た溶出液のうち、MEHP分解酵素活性のあるフラクションを薄層クロマトグラフィー(TLC)によって確認し(図5)、プールし、これをDEAE溶出液とした。
【0126】
詳細には、試験管に、MEHP分解酵素活性測定用反応混液を入れ、パラフィルムにて密栓した。MEHP分解酵素活性測定用反応混液1.0mlの組成は、酵素液100μl、50mM MEHP溶液10μl、0.1Mリン酸バッファー(pH7.5)890μlであった。50mM MEHP溶液の組成は、MEHP溶液2ml当たり、MEHP 27mg、メタノール973μl、20% Triton X−100 1000μlであった。これを0分時と反応後の2本調製した。振盪速度123min−1、30℃の往復振盪機にて30分間酵素反応を行った。反応後、6N HClを1ml添加し、ボルテックスミキサーにて撹拌した。酢酸エチルを2ml加え、ボルテックスミキサーで2分間撹拌し、反応産物の抽出を行った。エッペンチューブに上記懸濁液を分注し、14,000rpmにて3分間遠心分離を行った。有機相を回収し、1/4量のメタノールに置換した。YMC Duo−filterにてフィルター濾過したサンプルを、TLCに供した。
【0127】
まず、TLCのプレートの下端から1cmのところに鉛筆で開始線を線引きし、開始線上に開始点をうった。開始点に1/10量のメタノールに置換した反応産物抽出液を4μl(2μl×2回)スポットした。シリカゲルプレートの下部を展開溶媒に浸し、サンプルの展開を行った。展開後、シリカゲルプレートを取り出し、展開溶媒を乾かした。波長254nmのUVランプを照射し、酵素の局在するフラクションを検定した。TLCの条件は、以下の通りであった:
標準物質:フタル酸、DEHP、MEHP 25mM溶液
使用プレート:シリカゲル70F254プレート5×10cm
展開溶媒:ベンゼン:メタノール:酢酸=85:13:2。
【0128】
(実施例5.HPLCによるMEHP分解酵素活性の確認)
実施例4で得た溶出液フラクションのMEHP分解酵素活性を、HPLCによっても測定した。試験管にMEHP分解酵素活性測定用反応混液を入れ、パラフィルムにて密栓した。MEHP分解酵素活性測定用反応混液1.0mlの組成は、酵素液10μl、50mM MEHP溶液(実施例4と同様)10μl、0.1Mリン酸バッファー(pH7.5)980μlであった。これを0分時と反応後の2本調製した。振盪速度 123min−1、30℃の往復振盪機にて30分間酵素反応を行った。反応後、6N HClを1ml添加し、ボルテックスミキサーにて撹拌した。酢酸エチルを2ml加え、ボルテックスミキサーで2分間撹拌し、反応産物の抽出を行った。エッペンチューブに上記懸濁液を分注し、14,000rpmにて3分間遠心分離を行った。有機相を回収し、1/4量のメタノールに置換した。YMC Duo−filterにてフィルター濾過したサンプルを、下記のHPLCの条件にて測定を行った:
検出波長 254nm
サンプルループ 20μl
流速 1ml/分
溶離液(A:メタノール:10mMリン酸=1:4)
溶離液(B:メタノール)
カラムオーブン温度:40℃
カラム:Wakopak HPLCカラム(150×4.6mm I.D.)
カラム充填剤:Handy−ODS
時間プログラム(分):
0〜5 A→B
5〜15 B
15〜20 B→A
25 停止。
【0129】
(実施例6.疎水カラムクロマトグラフィーによる酵素の精製)
実施例4においてMEHP分解酵素活性の確認したDEAE溶出液を氷水中で冷却しながら硫酸アンモニウムを加え、20%飽和硫酸アンモニウム塩析を行った。12時間平衡化し、12,000rpmにて30分間遠心分離後、上澄みを疎水カラムにチャージし、疎水カラムクロマトグラフィーを行った。その条件は、以下の通りであった:
使用担体:TOYOPEARL BUTYL 650M(東ソー)
担体の体積:φ1.8×12.7cm
流速:20ml/時間
1フラクション:チャージ〜洗浄9.6ml
グラジエント4.8ml
サンプルチャージ:87ml
使用バッファー:Cバッファー(50mMリン酸バッファー,pH 7.5+20%飽和硫酸アンモニウム),Aバッファー。
【0130】
ただし、グラジエント溶出はCバッファー100mlとAバッファー100mlで行い、各フラクションのA280を測定した。実施例4と同様の手順に従い、TLCにてMEHP分解酵素活性のあるフラクションを確認し、プールした。Cバッファーを流速20ml/hrで流した。フラクション1本あたりチャージ〜洗浄が9.8ml、グラジエント溶出は4.8ml分取した。菱型はタンパク質濃度(A280)、直線は硫安濃度を表している。フラクションNo.1〜2はチャージ、フラクションNo.3〜11は洗浄、フラクションNo.12〜47はグラジエント溶出をおこなった。なお、グラジエント溶出はCバッファー、Aバッファーともに100mlにて行った。TLCにて各フラクションの酵素反応産物の有無を調べた。これを疎水カラム溶出液とした。その結果は、図6に示す。図7には、図6の各フラクションのTLC分析の結果を示す。
【0131】
(実施例7.ゲル濾過カラムクロマトグラフィーによる酵素の精製)
実施例6で得た疎水カラム溶出液を限外濾過器8050(MILLIPORE製)(メンブレンとしてUltrafiltration Membranes YM 10を使用した)を用いて濃縮し、Dバッファー(10 mMリン酸バッファー,pH 7.5)に置き換えた。ゲル濾過カラムにチャージし、ゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行った。その条件は、以下の通りであった:
使用担体:Superdex 200 prep grade(Amersham Pharmacia Biotech)
担体の体積:φ2.0×46cm
流速:30ml/時間
1フラクション:2.0ml
サンプルチャージ:2ml
使用バッファー:Dバッファー。
【0132】
各フラクションのA280を測定した。実施例4と同様の手順に従って、TLCにてMEHP分解酵素活性のあるフラクションを確認し、それぞれの酵素活性をHPLCで測定した。これをゲル濾過溶出液とした。Gel Filtration Standard(BIO−RAD)を同様の操作により流し、酵素の分子量を決定した。ゲルろ過スタンダードの溶出パターンから分子量検量線を作成し、分子質量の決定を行った。その結果、分子量は、約62kDaであった。その結果は、図8に示す。図9には、ゲル濾過カラムの分子量検量線を示す。
【0133】
(実施例8.SDS−PAGEによる純度の確認)
10%SDS−PAGE用ゲルを作製した。実施例7で得たゲル濾過溶出液に、×3サンプルバッファー(750mM Tris−HClバッファー,pH6.8を2ml、SDSを0.6g、グリセリンを5g、BPBを2mg混合して、ミリQで10mlにメスアップした)をサンプル容積の1/3を加え、95℃にて5分間熱処理後、泳動を行った。サンプルを各レーンにチャージした。濃縮ゲルを、先端マーカーが移動中は20mAで、分離ゲルを、先端マーカーが移動中は40mAで、電気泳動した。分離ゲルの80%程度まで先端マーカーが流れたら電気を止め、ゲルを取り出した。染色液とゲルの入った容器を30分間振盪して染色を行った。染色後、脱色液に浸け、緩やかに振盪して、脱色した。ゲルを取り出し、タンパク質バンドを確認した。その結果は、図10に示す。その分子量検量線を図11に示す。
【0134】
SDS−PAGEを行った結果、分子量約31kDaのバンド一つを確認した。実施例6におけるゲル濾過の結果、MEHPエステラーゼの分子量が約62kDaであったことから、本酵素は、分子量約31kDaのホモ二量体であると考えられる。
【0135】
以上をまとめた精製テーブルを示す。
【0136】
【表9】

無細胞抽出物を超遠心分離すると酵素活性は上澄み部分から検出され、比活性は0.108μmol/min・mlとなり、収率は88.4%となった。DEAE−Celluloseカラムで精製した段階では、比活性は0.318μmol/min・mlとなり、収率は66.5%となった。20%飽和硫安塩析した後は、比活性が0.436μmol/min・mlとなった。さらに疎水カラムによる精製を行った。その結果、比活性が1.24μmol/min・mlと大幅に上昇した。また、限外濾過によっても比活性は1.88μmol/min・mlに上昇した。これは限外濾過によって低分子のタンパク質が除去できたためと考えられる。次にゲル濾過カラムクロマトグラフィーを行ったが、比活性はほとんど変化せずタンパク質のピークも単一であった。このことから酵素はほぼ精製が完了した状態であると考え、SDS−PAGE電気泳動によってその純度を検定した。最終比活性から計算すると、MEHP分解酵素は、全タンパク質量の5%程度あったことになり、かなり多いタンパク質であることが分かった。
【0137】
(実施例9.MEHP分解酵素の反応最適温度)
実施例8で精製したMEHP分解酵素を酵素液として、MEHP分解酵素の反応最適温度を調べた。酵素反応および測定は、実施例5と同様に行った。酵素反応混液の組成は、酵素液10μl、50mM MEHP懸濁液10μl、0.1Mリン酸バッファー(pH7.5)980μlであった。15分間反応を行った。
【0138】
反応温度の変化によるMEHP分解酵素活性の増減を図12に示す。
【0139】
精製の時に行う活性測定では30℃で反応を行っていた。しかし、活性は45℃で30℃のときの2倍となり最大となった。よって、MEHP分解酵素の反応最適温度は45℃であった。
【0140】
反応温度10℃〜45℃の時のMEHP分解酵素活性をArrheniusプロットした。図13に示す。図13のArrheniusプロットを元に、MEHP分解酵素が酵素反応を行う際に必要なエネルギー(活性化エネルギー)を以下の式より求めた。
【0141】
【数1】

【0142】
【数2】

計算の結果、MEHP分解酵素の活性化エネルギーは63.2kJ/molとなった。
【0143】
下記の表において、このMEHPエステラーゼの活性化エネルギーを、他の加水分解酵素の活性化エネルギーと比較した。
【0144】
【表10】

他の加水分解酵素と比べ多少大きな活性化エネルギーを持っていたが、ほぼ同じレベルの値となった。
【0145】
(実施例10.MEHP分解酵素の反応最適pH)
実施例8で精製したMEHP分解酵素を酵素液として、MEHP分解酵素の反応最適pHを調べた。酵素反応および測定は、実施例5と同様に行った。但し、バッファーは0.1M Tris−HClバッファー,pH8.0〜8.5と0.1Mリン酸バッファー、pH6.5〜8.0を使用した。実施例8の酵素反応混液と同じ組成で、45℃にて15分間反応を行った。
【0146】
結果を図14に示す。図14に示されるように、反応pHが7.0〜8.0では、ほとんど酵素活性に変化はみられなかった。
【0147】
(実施例11.MEHP分解酵素の基質特異性)
実施例8で精製したMEHP分解酵素を酵素液として、DEHPを反応基質として基質特異性を調べた。酵素反応および測定は、実施例5と同様に行った。但し、DEHP分解酵素活性測定用混液の代わりに、DEHP分解酵素活性測定用混液を用いた。DEHP分解酵素活性測定用混液1.0mlの組成は、酵素液10μl、50mM DEHP懸濁液100μl、0.1Mリン酸バッファー(pH7.5)890μlであった。50mM DEHP懸濁液は、0.5%デオキシコール酸溶液 4403μl、DEHP 97μl、10% Triton X−100 500μlを、超音波破砕機にて懸濁した作製した。
【0148】
その結果、反応産物であるMEHPおよびフタル酸は検出されなかった。よって、MEHP分解酵素はDEHPを分解できないことが分かった。
【0149】
(実施例12: MEHP分解酵素のメタノールに対する耐性)
脂質加水分解酵素であるリパーゼは、有機溶媒中で合成反応を起こすことが知られており、工業的にも広く利用されている。
【0150】
MEHP分解酵素も同様に脂質加水分解酵素であるため有機溶媒に耐性を持つのではないかと考えた。そこで、反応液中に10〜60%のメタノールを添加し、MEHP分解酵素活性の変化を調べた。(反応液中に最終0.5%のメタノールが既に含まれている。)
酵素液としてゲル濾過溶出液を5μl使用し下記の反応混液を調製し、30℃にて15分間反応を行った。
【0151】
(使用試薬)
(1)酢酸エチル(和光純薬 試薬特級)
(2)6N塩酸
(3)メタノール(和光純薬 精密分析用)
(4)MEHP溶液
【0152】
【表11】

(使用器具および器機)
(1)Water bath shaker(TAITEC製 PERSONAL−11)
(2)ボルテックスミキサー
(3)高速液体クロマトグラフシステム
(4)試料前処理用フィルター YMC−DUO filter
(5)試料前処理用シリンジ 1.0ml容テルモツベルクリン用シリンジ。
【0153】
(測定方法)
【0154】
【表12】

(1)試験管に表1.6の混液を入れ、パラフィルムにて密栓した。これを0 timeと反応後の2本調製した。
(2)振盪速度123min−1、30℃の往復振盪機にて30分間酵素反応を行った。反応後、6N HClを1ml添加し、ボルテックスミキサーにて撹拌した。
(3)酢酸エチルを2ml加え、ボルテックスミキサーで2分間撹拌し、反応産物の抽出を行った。
(4)エッペンチューブに上記懸濁液を分注し、14,000rpmにて3分間遠心分離を行った。
(5)有機相を回収し、1/4量のメタノールに置換した。
(6)YMC Duo−filterにてフィルター濾過したサンプルを実施例5と同様にしてHPLCにて測定した。
【0155】
結果を図15に示す。示されるように、メタノール濃度20%まではMEHP分解酵素活性はほぼ一定であった。メタノール濃度20%を超えると活性が大幅に減少し、メタノール濃度40%ではcontrolの1/10にまで減少した。このことからMEHP分解酵素はメタノール濃度20%まで失活しない酵素であることが分かった。
【0156】
(実施例13:N末端アミノ酸配列決定)
本実施例のSDS−PAGEにおいて使用するために、以下の試薬を調製した:
分離用アクリルアミド溶液(A液):アクリルアミド 29.2g/100ml、ビス(BIS)0.8g/100ml
分離用ゲル緩衝溶液(C液):Tris 18.2g/100ml、SDS 0.375g/100ml、HClを用いてpHを8.9に調整
濃縮用ゲル緩衝溶液(D液):Tris 6.1g/100ml、SDS 0.8g/100ml、HClを用いてpHを6.8に調整
×10電極液:Tris 15g/500ml、グリシン:72g/500ml、SDS:5g/500ml、これらを混合して精製水にてメスアップ
15%過硫酸アンモニウム(重合開始剤)(E液):
色素マーカー入りSDSサンプルバッファー:250mM Tris−HCl(pH 6.8) 40ml/100ml、グリセロール50ml/100ml、メルカプトエタノール5ml/100ml、ドデシル硫酸ナトリウム5g/100ml;および
ブロモフェノールブルー0.01mg/100ml。
【0157】
ゲル版を99%エタノールにて洗浄し組み立て、外殻にセットした。12.5%分離ゲルの調製(A液 15ml・C液 9ml・ミリQ 12ml)を行った。撹拌した後に5分間脱気を行った。TEMED 40μl・E液100μlを添加・撹拌し、ゲル版に流し込んだ後、ミリQを上から1ml添加した。濃縮ゲルの調製(A液 2.7ml・D液 4.5ml・ミリQ 11ml)を行った。撹拌した後に、5分間脱気を行った。TEMED 40μl・E液45μlを添加・撹拌し、ゲル版に流し込んだ後にコーム型をセットした。濃縮ゲルが固まった後、外殻を外し泳動槽へセットした。電極液を流し込みコーム型を外してコームの洗浄を行った。マーカーおよびサンプルの準備(マーカー1μl・サンプル4μgを×3 SDSバッファーに添加し、95℃にて5分間インキュベート)を行った。マーカーおよびサンプルのチャージの後、泳動を開始した(濃縮ゲル 20mA・分離ゲル 40mA)。泳動終了後、ゲルを適当な大きさにカットした。
【0158】
この後のエレクトロブロッティング及びアミノ酸シーケンスにおいて使用するために、以下の試薬を調製した:
ブロッティング溶液1:トリス(BIORAD)18.15 g(終濃度0.3M)、メタノール(特級,Wako)100ml(終濃度20%)、10%SDS 2.5ml(終濃度0.05%)、ミリQにて、500mlにメスアップ(低温保存)
ブロッティング溶液2:トリス(BIORAD)1.5g(終濃度25mM)、メタノール(特級,Wako)100ml(終濃度20%)、10% SDS 2.5ml(終濃度0.05%)、ミリQにて、500mlにメスアップ(低温保存)
ブロッティング溶液3:トリス(BIORAD)1.5g(終濃度25mM)、6−アミノ−n−カプロン酸(一級、Wako)2.6g(終濃度40mM)、メタノール(特級,Wako)100ml(終濃度20%)、10 %SDS 2.5ml(終濃度0.05%)、ミリQにて、500mlにメスアップ(低温保存)
CBB染色液:Coomassie brillaiant blue R−250 2.5g、エタノール 250ml、酢酸 100mlを、1000mlにメスアップ
脱色液:脱イオン水650ml、エタノール250ml、酢酸100mlを、1000mlにメスアップ。
【0159】
PVDF膜(Immoboilon Psa(Millipore))(2枚)およびWhatman 3MM 濾紙(CHROMATOGRAPHY PAPER)(6枚)をゲルよりやや大きめに切った。PVDF膜2枚をメタノールにかるく浸した後、ブロッティング溶液3に浸し、5分間緩やかに振盪した。また、濾紙をブロッティング溶液1、2、3にそれぞれ2枚ずつ浸し、5分間緩やかに振盪した。セミドライブロッティング装置(ATTO)上に、ブロッティング溶液1に浸した濾紙をおき、その上に、ブロッティング溶液2に浸した濾紙、PVDF膜、ゲル(上記SDS−PAGEを終了し、適当にカットしたものを使用)、ブロッティング溶液3に浸した濾紙を順においた。この際、空気が入らないように重ねた。また、ゲル以外は2枚ずつ、重ねて使用した。ブロッティング装置をセットし、1mA/cmで90分間転写した。転写後、PVDF膜を超純水に浸し、5分間振盪した。CBB染色液に浸し、10分間程染色した。脱色液に浸し、バンドが鮮明になる程度脱色した。超純水で5分間程濯ぎ、ドライヤーで膜を乾かした。目的のバンドをPVDF膜より切り出し、アミノ酸シークエンサー(model 1610A;Applied Biosystems Inc)にてN末端アミノ酸配列の決定を行った。以下に決定したアミノ酸配列に示す:N末端アミノ酸配列PSSSITQKFHTVD(配列番号1)。当業者は、このN末端アミノ酸配列から、全長配列を容易に決定することができることが理解される。
【0160】
(実施例14:DEHPおよびMEHP分解酵素の誘導の有無)
次に、本発明の酵素が、DEHPで誘導されるかどうかを検証した。
【0161】
NB培地で培養した細胞は、DEHP分解酵素は菌体内に存在するがMEHP分解酵素活性はほとんどなかった。また、DEHP分解酵素の活性自身も低かった。しかし、これはNB培地で培養しているためかもしれない。培地中にDEHPを入れるといずれの酵素も誘導を受け活性が上昇することが考えられた。そこで、DEHPを培地に添加し、上記実施例または特開2002−142754号公報に従ってP8219株を培養し、上記実施例に従って無細胞抽出物を調製した。
【0162】
NB培地で培養した菌から調製した無細胞抽出物を非誘導無細胞抽出物と呼び、DEHPを単一炭素源として培養した菌から調製した無細胞抽出物を誘導無細胞抽出物と呼び、それぞれのDEHP分解酵素活性を、DEHPを基質として上記「DEHP分解酵素活性の測定法」の節の方法に従い活性測定を行った。なお、反応液中に酵素液として、無細胞抽出物を250 μl入れた。MEHP分解酵素活性はMEHPを基質にして上記実施例の方法に従い活性測定を行った。
【0163】
その結果を図16〜図19に示す。図16は、無細胞抽出物のDEHP分解酵素活性測定反応後を示す。図17は、誘導無細胞抽出物のDEHP分解酵素活性測定反応後を示す。図18は、誘導無細胞抽出物のMEHP分解酵素活性測定反応前を示す。図19は、誘導無細胞抽出物のMEHP分解酵素活性測定反応後を示す。
【0164】
反応前と反応後のMEHPとフタル酸の増加量をHPLCによって定量した。DEHP分解酵素活性は生成物のMEHP生成速度とフタル酸生成速度を合計し、MEHP分解酵素活性はフタル酸の生成速度から求めた。
【0165】
【表13】

非誘導無細胞抽出物のDEHP分解酵素比活性は1.60×10−2(μmol/min・mg)で、MEHP分解比活性は0.225×10−2(μmol/min・mg)となり、DEHP分解活性がMEHP分解活性より8倍高い値となった。DEHP分解酵素は、細胞培養時にDHEPの添加・無添加に関わりなく低い値だった。対照的にMEHP分解酵素はDEHPの誘導によって25倍活性が上昇し、DEHPによる誘導を受けることが分かった。
【0166】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0167】
従来の因子では不可能であった、MEHP特異的なフタル酸エステル分解が達成された。したがって、本発明は、環境ホルモンとして有害作用を示すといわれるMEHPを分解することができ、有用性は高い。
【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】本発明の活性測定の際に使用されるHPLCのフローチャートである。
【図2】本発明のアルカリ抽出による培養液からの菌体タンパク質の抽出法および定量法のフローチャートである。
【図3】本発明の無細胞抽出物の調製法のフローチャートである。
【図4】実施例3におけるDEAE−Celluloseのクロマトグラムである。
【図5】実施例3のMEHP分解酵素活性のあるフラクションを薄層クロマトグラフィー(TLC)による確認写真である。
【図6】実施例6の疎水カラムクロマトグラフィーのクロマトグラムである。
【図7】実施例6のMEHP分解酵素活性のあるフラクションを薄層クロマトグラフィー(TLC)による確認写真である。
【図8】実施例7のゲル濾過カラムのクロマトグラムである。
【図9】実施例7のゲル濾過カラムの分子量検量線を示す。
【図10】実施例8のSDS−PAGEの写真である。
【図11】実施例8のSDS−PAGEの分子量検量線を示す。
【図12】実施例9の反応温度の変化によるMEHP分解酵素活性の増減を示す。
【図13】実施例9の反応温度10℃〜45℃の時のMEHP分解酵素活性をArrheniusプロットした図である。
【図14】実施例10のMEHP分解酵素の反応最適pHを示す図である。
【図15】実施例12のMEHP分解酵素のメタノールに対する耐性を示す図である。
【図16】図16は、無細胞抽出物のDEHP分解酵素活性測定反応後を示す。
【図17】図17は、誘導無細胞抽出物のDEHP分解酵素活性測定反応後を示す。
【図18】図18は、誘導無細胞抽出物のMEHP分解酵素活性測定反応前を示す。
【図19】図19は、誘導無細胞抽出物のMEHP分解酵素活性測定反応後を示す。
【配列表フリーテキスト】
【0169】
配列番号1は、本発明のMEHP分解酵素のN末端の13アミノ酸残基である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有する酵素であって、該酵素は、同一のサブユニット2つからなるホモ二量体構造を有し、該サブユニット各々の分子量は、ドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動により測定した場合に約32kDaである、酵素。
【請求項2】
請求項1に記載の酵素であって、前記サブユニットは、N末端配列PSSSITQKFHTVD(配列番号1)を含むアミノ酸配列を有する、酵素。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酵素であって、産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM P−18102号として寄託されたGordonia polyisoprenivorans P8219株により産生される、酵素。
【請求項4】
請求項1〜3のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、該酵素の反応最適温度は約45℃である、酵素。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、該酵素の反応最適pHは7.0〜8.0である、酵素。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、該酵素は、フタル酸ジ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有さない、酵素。
【請求項7】
請求項1〜6のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、該酵素は、20重量%のメタノールの存在下で90%以上の活性が保持される、酵素。
【請求項8】
請求項1〜7のうちのいずれか1項に記載の酵素であって、該酵素の活性化エネルギーは約63kJ/molである、酵素。
【請求項9】
請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素をコードする核酸。
【請求項10】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを除去するかまたは減少させるための方法であって、
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含むことが疑われる物質を、請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と接触させ、該酵素がフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを加水分解するに十分な条件下で十分な時間、インキュベートする工程
を包含する、方法。
【請求項11】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを除去するかまたは減少させるためのキットであって、
請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と、
該酵素の使用方法を指示する指示書と、
を含む、キット。
【請求項12】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを除去するかまたは減少させる組成物であって、
請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素
を含む、組成物。
【請求項13】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシル加水分解活性を有する酵素を精製するための方法であって、
産業技術総合研究所特許生物寄託センター受託番号FERM P−18102号として寄託されたGordonia polyisoprenivorans P8219株を、フタル酸ジ−2−エステルの存在下または非存在下で培養する工程、ならびに
該培養物を、DEAE−Celluloseカラムクロマトグラフィー、疎水カラムクロマトグラフィー、およびゲル濾過カラムクロマトグラフィーに順次供する工程、
を包含する、方法。
【請求項14】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を検出するための方法であって、
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルを含むことが疑われる物質中の初期フタル酸量を測定する工程、
該物質を、請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と接触させて、該酵素がフタル酸モノ−2−エチルヘキシルを加水分解するに十分な条件下で十分な時間、インキュベートする工程、および
該インキュベート後の物資中のフタル酸量を測定する工程、
を包含し、
該初期フタル酸量と比較した該インキュベート後の物質中のフタル酸量の減少は、該物質におけるフタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を示す、方法。
【請求項15】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を検出するためのキットであって、
請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素と、
該酵素の使用方法を指示する指示書と、
を包含する、キット。
【請求項16】
フタル酸モノ−2−エチルヘキシルの存在を検出するための組成物であって、
請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素
を含む、組成物。
【請求項17】
請求項1〜8のうちのいずれか1項に記載の酵素に対する抗体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図5】
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【図7】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−55014(P2006−55014A)
【公開日】平成18年3月2日(2006.3.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−237808(P2004−237808)
【出願日】平成16年8月17日(2004.8.17)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年2月21日 崇城大学、応用微生物工学専攻共催の「平成15年度 崇城大学大学院工学研究科応用微生物工学専攻 修士論文発表会」において文書をもって発表
【出願人】(597019665)アイ・エム・ビー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】