説明

フタロシアニン化合物およびそれを含有する着色組成物

【課題】ハロゲンフリーで緑色の、かつ有機溶剤および酸に耐性の化合物の提供。
【解決手段】(1)のフタロシアニン化合物。


(Mは水素原子または金属原子を表し、R〜Rはアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、緑色顔料として用いることができるフタロシアニン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られている緑色顔料の代表的なものとして、ポリハロゲン化銅フタロシアニンが挙げられる。このポリハロゲン化銅フタロシアニンは優れた堅牢性を有しているが、分子内に塩素、臭素等のハロゲン原子を多量に有するため、近年その安全性や環境への負荷が懸念されている。そこで、ハロゲン原子を有しない化合物で緑色に着色できる顔料が求められている。
【0003】
ハロゲン原子を有しない(以下、「ハロゲンフリー」という。)化合物で緑色に着色する方法として、青色顔料である銅フタロシアニンと黄色の有機顔料とを混合し、緑色に調色して使用する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、この方法では2種類の顔料を混合するために色別れを生じる問題や、混合した顔料の種類により各々耐光性が異なるため、太陽光暴露等での色相変化が大きいという問題があった。
【0004】
一方、単一で緑色の色相を有するハロゲンフリーの化合物として、例えば、下記一般式で表される化合物が知られている(例えば、非特許文献1および2参照。)。しかしながら、この化合物は上記の色別れ等の問題は解消するが、有機溶剤または酸に対する耐性が不十分であった。
【0005】
【化1】

(式中、Mは銅原子または2個の水素原子を、Rは水素原子、メチル基、ベンジル基のいずれかを表す。)
【特許文献1】特開2001−64534号公報
【非特許文献1】Russ.J.Gener.Chem.,69(8),1321(1999)
【非特許文献2】J.Porphyrins Phthalocyanines,4,505(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ハロゲンフリーで緑色の色相を有し、かつ有機溶剤および酸に対する耐性の高いフタロシアニン化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、フタロシアニン骨格にピリド骨格を導入した化合物が、ハロゲンフリーで緑色の色相を有し、かつ有機溶剤および酸に対する耐性が高いことを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物およびそれを含有する着色組成物を提供するものである。
【0009】
【化2】

(式中、Mは2個の水素原子または2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を表す。)
【0010】
また、本発明は、下記一般式(2)で表されるフタロシアニン化合物およびそれを含有する着色組成物を提供するものである。
【0011】
【化3】

(式中、Mは2個の水素原子または2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0012】
本発明の一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物は、緑色の色相を有し、かつ有機溶剤および酸に対する耐性が高いため、緑色顔料として有用である。また、本発明のフタロシアニン化合物はハロゲンフリーであるため、安全性が高く、環境負荷が低いという特徴も有する。したがって、環境対策が要求されている用途には、既存の緑色顔料であるハロゲン化フタロシアニン系顔料の代替品として非常に有用である。
【0013】
一方、本発明の一般式(2)で表されるフタロシアニン化合物(以下、「開環体」という。)は、一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物(以下、「閉環体」という。)の前駆体であるが、有機溶剤に可溶なため、塗料等の分散が不要な着色剤として用いることができる。この開環体を含有する塗料の塗膜を加熱処理することで、閉環反応により閉環体とすることができ、より堅牢度が高い着色塗膜を得ることも可能である。したがって、特に焼付塗料用途に好適である。
【0014】
本発明のフタロシアニン化合物は、上記の特徴を有することから、印刷インキ、塗料、着色プラスチック、トナー、インクジェット用インキ、カラーフィルター等の広範囲な用途の着色剤として用いることができる。
【0015】
さらに、本発明のフタロシアニン化合物は、光学記録で用いられるレーザ光の波長域に強い吸収を持つため、光学記録媒体用色素等の機能性色素として用いることもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の前記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物(閉環体、以下、「化合物(1)」という。)は、後述するように前記一般式(2)で表されるフタロシアニン化合物(開環体、以下、「化合物(2)」という。)を前駆体として、この化合物(2)を好ましくは220〜300℃で1〜10時間加熱することによって得ることができる。
【0017】
前記化合物(1)の前駆体である化合物(2)には、大きく分けて、下記一般式(3)で表される無金属テトラ(アミノメチレンマロン酸ジアルキル)フタロシアニン(一般式(2)において、Mが2個の水素原子のもの。以下、「化合物(3)」という。)と、下記一般式(4)で表される金属テトラ(アミノメチレンマロン酸ジアルキル)フタロシアニン(一般式(2)において、Mが2〜4価の金属のもの。以下、「化合物(4)」という。)とがある。
【0018】
【化4】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0019】
【化5】

(式中、Mは2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0020】
前記化合物(2)の合成方法としては、例えば、まず中間体であるフタロニトリル化合物を合成し、次いで、その中間体の加熱縮合を行う下記の方法が挙げられる。
【0021】
[フタロニトリル化合物の合成]
4−アミノフタロニトリルと、一般式(5)で表されるアルコキシメチレンマロン酸ジエステルとをジメチルホルムアミド等の有機溶媒中、110〜150℃で1〜6時間程度反応させることによって、下記一般式(6)で表されるフタロニトリル化合物(以下、「化合物(6)」という。)を得ることができる。
【0022】
【化6】

(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R10は炭素原子数1〜4のアルキル基を、R11は水素原子または炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0023】
【化7】

(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R10は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0024】
[無金属テトラ(アミノメチレンマロン酸ジアルキル)フタロシアニンの合成]
前記化合物(6)を有機溶媒中で100〜200℃程度に加熱縮合することによって、下記一般式(3)で表される無金属テトラ(アミノメチレンマロン酸ジアルキル)フタロシアニンが合成できる。
【0025】
【化8】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0026】
[金属テトラ(アミノメチレンマロン酸ジアルキル)フタロシアニンの合成]
前記化合物(6)と2〜4価の金属原子の塩とを有機溶媒中で100〜200℃程度に加熱縮合することにより下記一般式(4)で表される金属テトラ(アミノメチレンマロン酸ジアルキル)フタロシアニンが合成できる。
【0027】
【化9】

(式中、Mは2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【0028】
前記2〜4価の金属原子の塩は、ハロゲン塩、酢酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩等の種々のものを用いることができるが、好ましくはハロゲン塩、酢酸塩である。
【0029】
前記の化合物(3)または化合物(4)の合成の際に用いる有機溶媒としては、例えば、アルコール類、グリコール類、トリクロロベンゼン、キノリン、α−クロロナフタレン、ニトロベンゼン、スルホラン、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。また、無溶媒で反応しても構わない。
【0030】
また、前記の化合物(3)または化合物(4)の合成の際に、触媒としてアルカリやジアザビシクロウンデセン(以下、「DBU」という。)、シクロヘキシルアミン等の有機アミンを用いると、収率が向上するため好ましい。
【0031】
また、前記化合物(6)のRおよびR10が異なる複数の化合物を上記の方法で加熱縮合することで、前記一般式(3)または一般式(4)におけるR〜Rがそれぞれ独立して異なる置換基を有する化合物(3)または化合物(4)を得ることができる。
【0032】
前記一般式(4)において、Mで表される2〜4価の金属原子としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、プラチナ、パラジウム等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは銅または亜鉛で、さらに好ましくは亜鉛である。
【0033】
また、前記一般式(3)または前記一般式(4)において、R〜Rがすべてエチル基であると、原料の入手が容易なことから好ましい。
【0034】
上記の合成方法で得られる化合物(3)(一般式(2)において、Mが2個の水素原子のもの。)または化合物(4)(一般式(2)において、Mが2〜4価の金属のもの。)を下記の方法で加熱処理することにより、無金属テトラキノロノポルフィラジン(一般式(1)において、Mが2個の水素原子のもの。)または金属テトラキノロノポルフィラジン(一般式(1)において、Mが2〜4価の金属のもの。)を得ることができる。
【0035】
[テトラキノロノポルフィラジンの合成]
前記化合物(3)または化合物(4)を単独で、例えば、ビフェニル−ジフェニルエーテル混合溶剤(例えば、ザ・ダウ・ケミカル・カンパニー社製「ダウサームA」)、ジフェニルエーテル等の高沸点有機溶媒中または無溶媒中、好ましくは220〜300℃で1〜10時間加熱することによって、前記一般式(2)で表されるテトラキノロノポルフィラジンが合成できる。このとき、出発物質に化合物(3)を選べば、下記一般式(7)で表される無金属テトラキノロノポルフィラジン(以下、「化合物(7)」という。)が、化合物(4)を選べば、下記一般式(8)で表される金属テトラキノロノポルフィラジン(以下、「化合物(8)」という。)が得られる。
【0036】
【化10】

(式中、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を表す。)
【0037】
【化11】

(式中、Mは2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を表す。)
【0038】
前記一般式(8)において、Mで表される2〜4価の金属原子としては、例えば、マグネシウム、アルミニウム、チタン、バナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、プラチナ、パラジウム等が挙げられる。これらの中でも、好ましくは銅または亜鉛で、さらに好ましくは亜鉛である。
【0039】
また、前記一般式(7)または前記一般式(8)において、R〜Rがすべてエチル基であると、原料の入手が容易なことから好ましい。
【0040】
上記のように、開環体である化合物(3)または化合物(4)は、220〜300℃で加熱することによって閉環反応を生じ、閉環体である化合物(7)または化合物(8)となる。開環体である化合物(3)または化合物(4)は、有機溶剤に可溶であるが、これらの閉環体である化合物(7)または化合物(8)は通常の有機溶剤には不溶となり、顔料として用いることができるようになる。
【0041】
前記の合成方法によって、化合物(7)または化合物(8)は緑色の粗顔料として得られるが、着色剤として用いる際には顔料化処理を行うことが好ましい。この顔料化処理の方法としては、例えば、ソルベントソルトミリング、ソルトミリング、ドライミリング、ソルベントミリング、アシッドペースティング等の摩砕処理、溶媒加熱処理などが挙げられる。これらの顔料化処理によって、顔料の粒子径の調整も同時に行うことができる。
【0042】
本発明のフタロシアニン化合物を緑色顔料として用いる場合は、上記のような顔料化処理を行い、顔料の粒子径を0.01〜1μmの範囲に調整して用いることが好ましい。
【0043】
本発明の着色組成物は、本発明のフタロシアニン化合物を着色剤として含有する組成物であり、例えば、印刷インキ、塗料、着色プラスチック、トナー、インクジェット用インキ、カラーフィルター用カラーペーストおよびカラーレジスト等が挙げられる。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。また、下記の「部」および「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0045】
[合成例1]
N,N−ジメチルホルムアミド23部中に、4−アミノフタロニトリル10.1部およびエトキシメチレンマロン酸ジエチル15.4部を加え、140℃で4時間攪拌して反応させた。次いで、得られた反応物を室温まで冷却した後ジエチルエーテルを加え、析出した固体をろ過、ジエチルエーテル洗浄、乾燥して白色の固体16.8部(収率76.0%)を得た。
【0046】
合成例1で得られた白色の固体について、H−NMR分析(日本電子株式会社製核磁気共鳴装置「JNM−LA300」を使用)および赤外分光分析(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR−550」を使用)を行ったところ、下記の分析結果が得られた。なお、赤外分光分析によって得られたスペクトルを図1に示す。
【0047】
H−NMR分析>
H−NMR(DMSO−d):δ=1.26(t),4.13−4.27(m),7.87(d),8.07(d),8.24(s),8.38(s),10.70(s br)
【0048】
<赤外分光分析>
2990cm−1:エチルエステルのC−H変角振動
2231cm−1:シアノ基のC≡N伸縮運動
1693cm−1:エチルエステルのC=O伸縮振動
【0049】
上記の結果より、合成例1で得られた白色の固体が、下記式(9)で表される4−(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロニトリルであることを確認した。
【0050】
【化12】

【0051】
[合成例2]
1−オクタノール100部中に、合成例1で得られた4−(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロニトリル20.0部、尿素3.9部、塩化銅(I)1.6部およびDBU0.2部を加え、160℃で4時間攪拌して反応させた。次いで、得られた反応物を室温まで冷却した後メタノールを加え、析出した固体をろ過した。得られた固体をメタノール、水、エタノールの順で洗浄し、乾燥して緑色の固体20.7部(収率98.5%)を得た。
【0052】
合成例2で得られた緑色の固体について、赤外分光分析(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR−550」を使用)およびトルエン溶液での光吸収スペクトルの測定(株式会社日立製作所製自記分光光度計「U−3500」を使用)を行ったところ、下記の分析結果が得られた。なお、赤外分光分析によって得られたスペクトルを図2に、光吸収スペクトルを図3に示す。
【0053】
<赤外分光分析>
2928、2825cm−1:エチルエステルのC−H変角振動
1727、1694、1605cm−1:エチルエステルのC=O伸縮振動
【0054】
<光吸収スペクトル>
吸収波長:324、628、699nm(トルエン溶液)
【0055】
上記の結果より、合成例2で得られた緑色の固体が、下記式(10)で表される銅テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニンであることを確認した。
【0056】
【化13】

【0057】
[合成例3]
合成例2で用いた塩化銅(I)1.6部を酢酸亜鉛2.8部に代えた以外は合成例2と同様にして、緑色の固体20.9部(収率99.3%)を得た。
【0058】
合成例3で得られた緑色の固体の赤外分光分析(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR−550」を使用)およびトルエン溶液での光吸収スペクトルの測定(株式会社日立製作所製自記分光光度計「U−3500」を使用)を行ったところ、下記の分析結果が得られた。なお、赤外分光分析によって得られたスペクトルを図4に、光吸収スペクトルを図5に示す。
【0059】
<赤外分光分析>
2927、2852cm−1:エチルエステルのC−H変角振動
1687、1651、1605cm−1:エチルエステルのC=O伸縮振動
【0060】
<光吸収スペクトル>
吸収波長:344、642、706nm(トルエン溶液)
【0061】
上記の結果より、合成例3で得られた緑色の固体が、下記式(11)で表される亜鉛テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニンであることを確認した。
【0062】
【化14】

【0063】
[合成例4]
ジフェニルエーテル15部中に、合成例2で得られた銅テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニン2.1部を加え、260℃で4時間攪拌して反応させた。次いで、得られた反応物を室温まで冷却した後、析出した固体をろ過した。得られた固体をキシレン、メタノール、3%硫酸、8%アンモニア水、水の順で洗浄し、乾燥して緑色の固体1.6部(収率87.1%)を得た。
【0064】
合成例4で得られた緑色の固体について、赤外分光分析(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR−550」を使用)を行ったところ、下記の分析結果が得られた。なお、赤外分光分析によって得られたスペクトル図6に示す。
【0065】
<赤外分光分析>
2925、2823cm−1:エチルエステルのC−H変角振動
1686、1608cm−1:イミダゾロン環のC=O伸縮振動
【0066】
上記の結果より、合成例4で得られた緑色の固体が、下記式(12)で表される銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルであることを確認した。
【0067】
【化15】

【0068】
[合成例5]
合成例4で用いた銅テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニン2.1部を合成例3で得られた亜鉛テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニン3部に代えた以外は合成例4と同様にして、緑色の固体2.6部(収率91.9%)を得た。
【0069】
合成例5で得られた緑色の固体について、赤外分光分析(日本分光株式会社製フーリエ変換赤外分光光度計「FT/IR−550」を使用)およびDMSO溶液での光吸収スペクトルの測定(株式会社日立製作所製自記分光光度計「U−3500」を使用)を行ったところ、下記の分析結果が得られた。なお、赤外分光分析によって得られたスペクトルを図7に、光吸収スペクトルを図8に示す。
【0070】
<赤外分光分析>
2925、2856cm−1:エチルエステルのC−H変角振動
1606cm−1:エチルエステルのC=O伸縮振動
【0071】
<光吸収スペクトル>
吸収波長:363、711nm(DMSO溶液)
【0072】
上記の結果より、合成例5で得られた緑色の固体が、下記式(13)で表される亜鉛テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルであることを確認した。
【0073】
【化16】

【0074】
[実施例1]
合成例4で得られた銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチル1.5部を、塩化ナトリウム8部、ジエチレングリコール1.8部とともに磨砕した。その後、この混合物を600部の水に投入し、超音波を用いて分散させた。この状態で15分間保持し、水不溶分を濾過分離してお湯でよく洗浄した。80℃で乾燥して平均粒径0.1μmの緑色顔料を得た。
【0075】
[実施例2]
合成例5で得られた亜鉛テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチル2.4部をN,N−ジメチルホルムアミド24部に加えて、120℃で6時間溶媒加熱処理を行った。加熱処理後、緑色粉末をろ過、乾燥して平均粒径0.5μmの緑色顔料を得た。
【0076】
上記で得られた銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルおよび亜鉛テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルの緑色顔料を用いて、下記の焼付塗料展色試験および耐薬品性試験を行った。
【0077】
<焼付塗料展色試験>
緑色顔料4部、焼付塗料用アルキッド樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「ベッコゾール J−524−IM−60」)70%と、メラミン樹脂(大日本インキ化学工業株式会社製「スーパーベッカミン G−821−60」)30%との混合樹脂10部、キシレン7部およびn−ブタノール3部を、媒体にガラスビーズを用いてペイントコンディショナーで2時間分散した。その後、アクリルメラミン樹脂を50部追加し、さらにペイントコンディショナーで5分間混合した。得られた緑色塗料組成物を、アプリケーターを用いてポリエステルフィルムに塗布し、130℃で30分間焼き付けた。得られた塗膜は光沢のある緑色であった。
【0078】
上記で得られた塗膜について、分光光度計(株式会社日立製作所製自記分光光度計「U−3500」を使用)を用いて光吸収スペクトルを測定した。この塗膜の吸収波長は下記の表1のようになった。なお、この測定で得られた光吸収スペクトルを図9に示す。
【0079】
<耐薬品性試験>
緑色顔料1部、及び下記の表1に挙げた有機溶剤または酸20部をフタ付きの容器に加え、密封して30秒間振り混ぜた後、15分静置した。次いで、再び30秒間振り混ぜ、30分静置後、ろ過し、ろ液の着色を目視で確認し、下記の基準で評価した。
○:ろ液の着色なし、×:ろ液に着色あり
【0080】
[比較例1]
実施例1で用いた銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルの緑色顔料に代えて塩素化銅フタロシアニン顔料(大日本インキ化学工業製「Fastogen Green S」、C.I.Pigment Green 7)を用いた以外は、実施例1と同様にして、焼付塗料展色試験および耐薬品性試験を行った。
【0081】
[比較例2]
実施例1で用いた銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルの緑色顔料に代えて臭素化銅フタロシアニン顔料(大日本インキ化学工業製「Fastogen Green 2YK−CF」、C.I.Pigment Green 36)を用いた以外は、実施例1と同様にして、焼付塗料展色試験および耐薬品性試験を行った。
【0082】
実施例1、2および比較例1、2の緑色顔料の試験結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
表1の結果から、本発明のフタロシアニン化合物は、ハロゲンフリーの緑色顔料として用いることができ、既存の耐薬品性が高い緑色顔料として知られている塩素化銅フタロシアニン顔料や臭素化銅フタロシアニン顔料と同等の有機溶剤および酸に対する耐性を有することが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】合成例1で合成した4−(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロニトリルの赤外分光スペクトルである。
【図2】合成例2で合成した銅テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニンの赤外分光スペクトルである。
【図3】合成例2で合成した銅テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニンのトルエン溶液での光吸収スペクトルである。
【図4】合成例3で合成した亜鉛テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニンの赤外分光スペクトルである。
【図5】合成例3で合成した亜鉛テトラ(アミノメチレンマロン酸ジエチル)フタロシアニンのトルエン溶液での光吸収スペクトルである。
【図6】合成例4で合成した銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルの赤外分光スペクトルである。
【図7】合成例5で合成した亜鉛テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルの赤外分光スペクトルである。
【図8】合成例5で合成した亜鉛テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチルのDMSO溶液での光吸収スペクトルである。
【図9】銅テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチル、亜鉛テトラキノロノポルフィラジンテトラカルボン酸エチル、塩素化銅フタロシアニン顔料および臭素化銅フタロシアニン顔料を用いた焼付塗膜の光吸収スペクトルである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるフタロシアニン化合物。
【化1】

(式中、Mは2個の水素原子または2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を表す。)
【請求項2】
前記一般式(1)において、R〜Rがすべてエチル基である請求項1記載のフタロシアニン化合物。
【請求項3】
前記一般式(1)において、Mで表される2〜4価の金属原子が銅または亜鉛である請求項1または2記載のフタロシアニン化合物。
【請求項4】
下記一般式(2)で表されるフタロシアニン化合物。
【化2】

(式中、Mは2個の水素原子または2〜4価の金属原子を表し、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R〜Rはそれぞれ独立に、炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項5】
前記一般式(2)において、R〜Rがすべてエチル基である請求項4記載のフタロシアニン化合物。
【請求項6】
前記一般式(2)において、Mで表される2〜4価の金属原子が銅または亜鉛である請求項4または5記載のフタロシアニン化合物。
【請求項7】
下記一般式(6)で表されるフタロニトリル化合物を原料として合成されたことを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項記載のフタロシアニン化合物。
【化3】

(式中、Rは炭素原子数1〜4のアルキル基、フェニル基、トリル基またはキシリル基を、R10は炭素原子数1〜4のアルキル基を表す。)
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項記載のフタロシアニン化合物を含有することを特徴とする着色組成物。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−291088(P2006−291088A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−115619(P2005−115619)
【出願日】平成17年4月13日(2005.4.13)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】