説明

フッ化ビニリデン系樹脂よりなる多孔膜及びその製造方法

【課題】 浄水処理、飲料水製造、工業用水製造、排水処理などの水処理に好適な分画性能、透過性能および物理的強度に優れた多孔膜を安価かつ容易に提供すること。
【解決手段】 フッ化ビニリデン系樹脂よりなる多孔膜であって、該多孔膜は一表面に長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有し、他表面に長径と短径の比の平均が5:1以上短冊状微細孔を有している分画粒子径が0.2μm以上であることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水処理、飲料水製造、工業用水製造、排水処理などの水処理分野、食品工業分野、荷電膜分野、燃料電池分野等に好適な透過性能や分画性能に優れ、さらに工程制御性、コスト性、良孔形成性に優れた多孔膜を製造する際に用いられる多孔膜及び多孔膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、選択透過性を有する多孔膜を用いた分離手段の技術がめざましく進展している。このような分離操作の技術は、例えば飲料水、超純水および医薬品の製造工程、醸造製品の除菌・仕上げにおいて、分離手段、洗浄手段および殺菌手段等を含む一連の浄化システムとして実用化されている。これらの用途分野においては、水のファイン化(高度処理)や安全性向上、精度向上などが高いレベルで要求されており多孔膜の利用が進んでいる。上記のような状況を鑑み、多孔膜に求められる特性はより高度化している。膜特性の中で最も重要なものは、透過性能と分画性能である。両性能に関してはそのバランスが重要であり、より高い純水透過速度でより小さな粒子を除去できることが望ましく、この達成には膜の孔連通性と膜表面構造が大きなポイントとなる。
【0003】
また、浄水処理では透過水の殺菌や膜のバイオファウリング防止の目的で、次亜塩素酸ナトリウムなどの殺菌剤を膜モジュール部分に添加したり、酸、アルカリ、塩素、界面活性剤などで膜そのものを洗浄するため、多孔膜には耐薬品性も求められる。さらに、水道水製造では、家畜の糞尿などに由来するクリプトスポリジウムなどの塩素に対して耐性のある病原性微生物が浄水場で処理しきれず、処理水に混入する事故が1990年代から顕在化していることから、このような事故を防ぐため、多孔膜には、原水が処理水に混入しないように十分な分離特性と糸切れが起こらないように高い物理的強度が要求されている。
【0004】
このように、多孔膜に求められる重要な特性としては、分離精度、透過性能、物理的強度および化学的強度(耐薬品性)が挙げられる。そこで、近年ではフッ化ビニリデン系樹脂を用いた多孔膜の開発が進められている。フッ化ビニリデン系樹脂を用いた多孔膜は、強度や伸度、耐薬品性に優れるだけでなく、耐酸化剤性にも優れるため、近年注目されているオゾンを用いた高度水処理にも利用可能である。
【0005】
上述のように、多孔膜の物理的強度および耐薬品性に代表される化学的強度は膜素材の特性に由来するところが大きいが、多孔膜の透過性能や分画性能は、膜の製造方法に大きく依存する。
【0006】
高い純水透過速度を発現する中空糸膜を製造する方法として、延伸開孔法が挙げられる。該方法は、膜素材を特定条件下でアニール処理および延伸することを特徴とし、その結果、膜全体にミクロフィブリルとスタックドラメラからなる結節部とに囲まれて形成される短冊状微小空孔を有する中空糸膜を製造することができる(例えば特許文献1参照)。しかし該方法により製造された中空糸膜は、延伸により繊維方向に配向するため円周方向に対する強度が大きく低下してしまうという問題がある。特に、孔径が大きくなると強度は低下傾向となるため、該方法により実用的な強度を有する中空糸膜を製造することは困難である。また、純水透過速度は高いものの、孔径分布が広く、かつ形成される孔の形がスリット状となるため、細長い形状の物質は透過しやすくなり分離精度が低くなりやすいなどの問題がある。
【0007】
透過性能や分画性能に優れた分離膜を製造する方法として、相分離を利用する場合が多く知られている。そのような相分離を利用した製造方法は、非溶剤誘起相分離法と熱誘起相分離法に大きく分けることができる。
【0008】
非溶剤誘起相分離法では、ポリマーと溶剤からなる均一なポリマー溶液は、非溶剤の進入や溶剤の外部雰囲気への蒸発による濃度変化によって相分離を起こす。このような非溶剤誘起相分離法を利用した分離膜の製造方法として、ポリスルホン系樹脂をN,N−ジメチルアセトアミド等の溶剤に溶解後に、凝固浴中で非溶剤誘起相分離を発現させることで分離膜を形成することが知られている(例えば、特許文献2参照)。しかし、一般に非溶剤誘起相分離法は、非溶剤中での相分離制御が難しく、非溶剤が必須であるため製造コストがかかり、マクロボイド(粗大孔)が発生しやすいなど、膜物性、工程制御性およびコスト性の面で問題がある。
【0009】
一方、熱誘起相分離法は通常、以下のステップよりなる。(1)ポリマーと高い沸点を持った溶剤の混合物を高温で溶融させる。(2)相分離を誘発させるために適当な速度で冷却させ,ポリマーを固化させる。(3)用いた溶剤を抽出する。
【0010】
また、熱誘起相分離法が、非溶剤誘起相分離法と比較して有利な点は以下のとおりである。(a)膜の強度を弱める要因となるマクロボイドが発生しない。(b)非溶剤誘起相分離法では、溶剤のほかに非溶剤が必要であるため、製造工程における制御が困難であり、再現性も低い。一方、熱誘起相分離法では非溶剤は必要ないため工程制御性およびコスト性に優れ、また再現性も高い。(c)孔径制御が比較的容易で、孔径分布がシャープで良孔形成性に優れる。
【0011】
熱誘起相分離には固−液型熱誘起相分離と液−液型熱誘起相分離が存在し、どちらを発現するかは、ポリマーと溶剤の相容性に起因する。両者の相容性が非常に高い場合は固−液型熱誘起相分離を発現するが、相容性が低くなると液−液型熱誘起相分離を発現し、ついに両者は非相容となる。一般に、液−液型熱誘起相分離ではスピノーダル分解により相分離が進行するため、固−液型熱誘起相分離と比較して共連続構造が発現し易いという特徴を持ち、その結果、孔の連通性や均一性などの良孔形成性に優れる分離膜を製造することができる。つまり、透過性能と分画性能に優れる分離膜を製造するには、液−液型熱誘起相分離を発現する適切なポリマーと溶剤の組み合わせを選択することが好ましい。しかし、一般にポリマーと溶剤が液−液型熱誘起相分離を発現する領域は狭いため、該方法により分離膜を製造する場合、ポリマーと溶剤の適切な組み合わせを選ぶことが極めて重要であることが知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0012】
液−液型熱誘起相分離法を利用したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の製造方法は公知であるが(例えば、特許文献3参照)。しかし、該方法で作製した膜は30000L/m/hr/98kPa以上、分画粒子径1μm以上ではあるが、本発明者の検討によると、膜には連通していない孔すなわち独立孔が存在しており、また多孔膜の一表面と他表面とがほぼ同等のサイズの孔を有しているため、該多孔膜は分画粒子径に対して高い純水透過速度が発現できていないことが判明した。
【0013】
また、フッ化ビニリデン系樹脂は疎水性樹脂であるため、そのままでは水を透過させることが難しく、水を始めとする親水性液体を透過させるためには親水化処理が必要である。
【0014】
この発明に関連する先行技術文献としては次のものがある。
【特許文献1】特開平5−49878号公報
【特許文献2】特開平11−104235号公報
【特許文献3】特開2005−194461号公報
【特許文献4】特開2003−138422号公報
【特許文献5】特開2005−200623号公報
【非特許文献1】「ケミカル・エンジニヤリング」 化学工業社 1998年6月号453ページ〜464ページ
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、従来技術の上述した問題点に鑑み、浄水処理、飲料水製造、工業用水製造、排水処理などの水処理に好適な透過性能、分画性能、物理的強度、化学的強度さらに工程制御性、コスト性、良孔形成性に優れた多孔膜を安価かつ容易に提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するための本発明の多孔膜は、フッ化ビニリデン系樹脂よりなる多孔膜であって、該多孔膜は一表面に長径と短径の比の平均が1:1以上5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有し、他表面に長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を有している分画粒子径が0.2μm以上であることを特徴とする。このとき多孔膜が90〜99重量%のフッ化ビニリデン系樹脂と1〜10重量%の親水性樹脂とのブレンドポリマーで構成されることが好ましい。更には親水性樹脂がビニルピロリドン系樹脂であることが好ましく、また更には多孔膜が中空糸膜であることが好ましい。
【0017】
また本発明者らは、多孔膜製造原液を構成する各成分の相容性に着目し、鋭意検討した結果、溶剤と無機粒子、凝集剤を適切に組み合わせることにより、フッ化ビニリデン系樹脂と溶剤が固−液型熱誘起相分離を発現する組合せの場合でも、液−液型熱誘起相分離を発現する組合せにより得られた多孔膜と同等以上の特性を有する膜の製造が可能であることを見出した。
【0018】
本発明は、フッ化ビニリデン系樹脂、溶剤、無機粒子及び凝集剤からなる多孔膜製造原液において、該無機粒子と該凝集剤は親和性を有し、かつ該溶剤と該凝集剤は相容しない又は上部臨界溶解温度を有する多孔膜製造原液を用い、冷却させることにより相分離を誘起させたのちに固化させ、次いで溶剤、無機粒子、凝集剤のいずれかを抽出終了する前に多孔膜を延伸する工程を含むことを特徴とする上記特性を有するフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜を製造することにある。このとき溶剤が水溶性溶剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、分画性能、透過性能、物理的強度に優れる多孔膜を工業的に安定に、かつ安価に製造することが可能である。本発明の多孔膜を用いることにより、高い分画性能でかつ高い純水透過速度のろ過が可能となり、造水コストの低減が可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、一表面に長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有し、他表面に長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を有している分画粒子径が0.2μm以上であることが特徴である。
【0021】
本発明の多孔膜は、長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有している一表面が、粒子を通すか通さないかを決定付ける活性点として寄与するため、高い分画性能を有する。また、本発明の多孔膜は、長径と短径の比の平均が5:1以上のミクロフィブリルを含む構造により形成された短冊状微細孔を有している他表面は、高い開孔率を有する短冊状微細孔によって、高い純水透過速度を有する。これら特長を併せ持つ本発明の多孔膜は、従来膜に比して、分画粒子径に対する透過性能が格段に高いものとなる。よって、分画粒子径1μm以上を有する高透過性能の膜を製造することが可能である。また、孔径が大きくなることで湿潤状態でも100kPa以下の低い圧力で空気などの気体が透過できるようになるため、気体逆洗などの物理的手段による洗浄が可能となる。
【0022】
ここでいう長径と短径の比が平均で1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔とは、図1の表面に示すように、一表面の少なくとも2ヶ所について電子顕微鏡を用いて写真撮影(例えば倍率1000倍)し、写真の視野範囲内に見える全ての微細孔の長径と短径の比を計測し、上記操作を計測した微細孔数が少なくとも30個を越えるまで上記操作を繰り返した上で、上記計測値の平均が1:1以上かつ5:1より小さいものをいう。
【0023】
また、ここで、長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔とは、図1〜5の表面に示すように、一表面の少なくとも2ヶ所について電子顕微鏡を用いて写真撮影(例えば倍率500倍)し、写真の視野範囲内に見える、繊維長方向に配列したミクロフィブリルによって形成される短冊状の微細孔であり、この長径と短径の比を計測し、上記操作を計測した微細孔数が少なくとも30個を越えるまで上記操作を繰り返した上で、上記計測値の平均が5:1以上のものをいう。
【0024】
膜断面は、円形または楕円形の微細孔を有する一表面よりも大きな孔径を有する三次元網目構造が好ましいが、対称構造や非対称構造、またはフィンガーライク構造やボイドを有していても良い。また、多孔膜内の空間の体積比である空隙率は50〜95%、好ましくは70〜90%である。空隙率が50%よりも小さくなると十分な純水透過速度を得ることが困難であり、90%を越えると膜の強度が低下し、膜濾過の実施中に多孔膜の破断や折れが発生し膜としての耐久性に欠ける。
【0025】
長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有している面と長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を有する面の上下や内外の配置は、ろ過方式によって変えることができるが、円形または楕円形の微細孔を有する面が分離機能を担い、断面構造が物理的強度を担うため、円形または楕円形の微細孔を有する面を分離対象側に配置することが好ましい。特に、汚れ物質の付着による透過性能の低下を抑制するためには、分離機能を担う円形または楕円形の微細孔を有する面を分離対象側の最表層に配置することが好ましい。
【0026】
本発明の多孔膜は、中空糸膜形状、平膜形状いずれの形態でも好ましく用いることができるが、中空糸膜は効率良く充填することが可能であり、単位体積当たりの有効膜面積を増大させることができるため好ましく用いられる。
【0027】
本発明におけるフッ化ビニリデン系樹脂は、フッ化ビニリデンホモポリマーおよび/またはフッ化ビニリデン共重合体を含有する樹脂のことである。複数の種類のフッ化ビニリデン共重合体を含有していても良い。フッ化ビニリデン共重合体としては、フッ化ビニル、四フッ化エチレン、六フッ化プロピレン、三フッ化塩化エチレンから選ばれる少なくとも1種とフッ化ビニリデンとの共重合体が挙げられる。また、フッ化ビニリデン系樹脂の重量平均分子量は、要求される多孔膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが、重量平均分子量が大きくなると製膜性が低下し、重量平均分子量が小さくなると強度が低下する。このため、重量平均分子量は5万以上100万以下が好ましい。多孔膜が薬液洗浄に晒される水処理用途の場合、重量平均分子量は10万以上70万以下が好ましく、さらに15万以上60万以下が好ましい。
【0028】
本発明における親水化処理は、公知の技術を適用することが可能である(例えば特許文献4参照)。
【0029】
本発明における親水性樹脂とは、水との親和性が非常に強い樹脂であり、ビニルピロリドン系樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン‐酢酸ビニル共重合体のケン化物、ポリエチレングリコール、ポリグリコールモノエステル、ポリエチレングリコールとポリプロピレングリコールとの共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリスチレンスルホン酸、セルロース誘導体およびポリソルベート等である。好ましくはビニルピロリドン系樹脂である。
【0030】
本発明におけるビニルピロリドン系樹脂とは、ビニルピロリドン単独重合体、他の共重合可能なビニル系モノマーとの共重合体を示す。その中でも、ポリビニルピロリドン単独重合体が好ましい。
【0031】
またこれらの樹脂の重量平均分子量は、特に限定はない。要求される膜の強度と透水性能によって適宜選択すれば良いが、多孔質膜への加工性を考慮すると、5千〜200万の範囲内であることが好ましい。また、ビニルピロリドン系樹脂の内、ポリビニルピロリドンのような水溶性樹脂では、水系で使用すると徐々に溶解する可能性が高い。溶出した水溶性樹脂が処理液側へ混入することが問題となる場合には、水溶性樹脂の不溶化処理を行うことが好ましい。ポリビニルピロリドンの不溶化処理は、ガンマー線によるポリビニルピロリドンの架橋、UV照射による架橋、強アルカリや過硫酸塩の存在下に加熱処理することで得られる化学架橋などが挙げられる。その中でも、本発明においては過硫酸塩を用いる化学架橋を行うことが好ましい。
【0032】
本発明における溶剤は、熱誘起相分離を起こすものが用いられる。熱誘起相分離の形態には固−液相分離、液−液相分離が存在するが、本発明はこれらいずれの相分離形態でも適用可能である。ポリフッ化ビニリデンと固−液相分離状態を取りうる溶剤としては、アセトフェノン、イソホロン、シクロヘキサノン、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンなどが挙げられる。ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体と固−液相分離状態を取りうる溶剤としては、アセトフェノン、セバシン酸ジブチル、リン酸トリクレジルなどが挙げられる。またポリフッ化ビニリデンと液−液相分離状態を取りうる溶剤としては、安息香酸ヘキシルが挙げられ、ポリフッ化ビニリデン−六フッ化プロピレン共重合体と固−液相分離状態を取りうる溶剤としては、サリチル酸プロピルやピリジンなどが挙げられる。中でも、本発明では、γ−ブチロラクトン、ε−カプロラクトンのような水溶性溶剤を使用することが好ましい。水溶性溶剤を用いると製膜後、多孔膜から溶剤を抽出する際に、水を使用することが可能であり、抽出した溶剤は生物処理等によって処分することが可能となる。一方、非水溶性の溶剤を用いると、製膜後、多孔膜から溶剤を抽出する際に、アセトンなどの有機溶剤を用いる必要があり、有機溶剤の性状によっては防爆設備が必要となる。また、抽出した溶剤は産業廃棄物として処分が必要となる。抽出した溶剤を回収する場合もあるが、そのためには、別途回収設備が必要となる。以上の理由により、安全面、設備面、コスト面の観点から工業的には水溶性溶剤を用いることが好ましい。
【0033】
本発明における無機粒子は、多孔膜の孔の核となるものであり、薬品などによる抽出が容易で粒径分布の比較的狭い微粒子が望ましい。その例として、シリカ、珪酸カルシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、リン酸カルシウム、鉄、亜鉛などの金属酸化物または水酸化物、ナトリウム、カリウム、カルシウム等の塩類などを例示することができる。特に、凝集性を有する無機粒子は、通常であればフッ化ビニリデン系樹脂と溶剤とが相分離してしまうような組成に添加することでフッ化ビニリデン系樹脂と溶剤とが相容状態にあるときの安定性が向上する結果、均質な多孔膜を製造することが可能となり、より大きな孔径を有する多孔膜を製造するときに好適である。このような凝集性の点から無機粒子としてはシリカが好適である。無機粒子の粒子径(凝集性を有する無機粒子では凝集粒子径のことである)は目的とする多孔膜の孔径により適宜選択することができ、限外ろ過膜であれば0.01μm以下を、分画粒子径が1μm未満の精密濾過膜であれば0.01〜1μm、更に分画粒子径が1μm以上の大孔径膜であれば1μm以上の凝集粒子径を持つ無機粒子を選択する。また多孔膜の孔径制御、特に孔の連通性を向上させることを目的として、異なる凝集粒子径を有する無機粒子を混合することもできる。本発明の多孔膜が発現する効果一つである高い透過性能に関しては、本発明の多孔膜の分画粒子径が大きいほど、その効果の程度が従来技術と比較して顕著である。その点においては、本発明の多孔膜の分画粒子径は0.2μm以上であり、好ましくは1μm以上より好ましくは1.5μm、さらに好適には2.0μmであることが好ましい。
【0034】
本発明における凝集剤とは、(1)無機粒子と親和性がある、好適には無機粒子の凝集性を向上させる。(2)溶剤とは相容しない、又は上部臨界溶解温度を有する、という(1)および(2)の特性を有する化合物であり、さらに、(3)フッ化ビニリデン系樹脂とは相容しない、(4)フッ化ビニリデン系樹脂と溶剤とが相容する温度以上の沸点を有する、(5)親水基を有する、以上(3)〜(5)の特性を有する化合物が好ましい。(1)、(3)〜(5)の特性を有する凝集剤の例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類、モノラウリン酸デカグリセリルのようなポリグリセリン脂肪酸エステル類、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリンのようなポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル類、ポリオキシエチレンラウリルエーテルやポリオキシエチレンセチルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテルのようなポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルのようなポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタンのようなポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類などが挙げられる。
これらの中から(2)の特性を有するものを選定することが好ましい。
【0035】
上記した(2)の上部臨界溶解温度とは、溶剤と凝集剤の相容性が温度によって変化する組合せの場合、相分離が起こる上限温度をいう。ここでいう相容とは、溶剤と凝集剤とが混和可能であることを示す。ここでいう上部臨界溶解温度の測定は、例えば以下に述べる方法で実施される。所定の重量分率になるように秤量した溶剤と凝集剤の分散液をサンプル管に封入し、シリコンオイルを満たした高温恒温槽中で加熱して溶液を調製した。加熱温度は、溶剤または凝集剤の沸点の内、低い方の沸点−10℃を設定温度とした。加熱温度で5分間保持した後、サンプル管内を目視し、二相分離していればそれら溶剤と凝集剤の組み合わせは相容しないと定義した。また、均一な一相状態である場合、高温恒温槽からサンプル管を引き上げ冷却し、均一な一相溶液が曇り始める温度を上部臨界溶解温度と定義した。
【0036】
本発明における溶剤と凝集剤は、熱誘起相分離を起こす温度で相容しないことが好ましく、工程性の点から、上部臨界溶解温度が30℃以上、好ましくは0℃以上、さらに好ましくはいずれの温度領域においても相容しない組合せを選定する。一般的な製膜技術においては、均質な多孔膜を製造するのが困難になるため、原液成分として上記(2)に該当する性状を示すものは選定されない傾向にある。しかし、本発明では、上記性状を示す無機粒子を用いることにより、上記(2)の性状を示すものの選択が可能となる。
【0037】
上記(2)の性状を示す溶剤−凝集剤の組合せを用いることにより、高い分離性能と高い透水性能を併せもつ多孔膜を工業的に容易に、かつ、安価に作製することが可能となる。高い分離性能と高い透水性能を併せ持つ多孔膜の製造方法として、液−液型熱誘起相分離を発現させるフッ化ビニリデン系樹脂と溶剤の組合せを選択する方法が記載されているが(例えば特許文献3参照)、一般に液−液相分離の領域は狭く、制御が困難である。また、液−液相分離を発現する適切な組合せを選択することが極めて重要であり、容易ではない。一方、本発明における溶剤は、凝集剤と上記(2)の性状を示すものであれば、フッ化ビニリデン系樹脂と液−液相分離、固−液相分離のいずれを発現するものであっても良い。本発明の製造方法においては、固−液相分離の溶剤を用いた場合でも、従来技術である液−液相分離を用いる方法によって製造された多孔膜と同等以上の分離性能、透過性能を有する多孔膜を得ることができる。これによって、多孔膜製造原液を構成する成分の選択の幅が広がり、分離性能、透過性能に優れる多孔膜の製造が容易になった。具体的には、安息香酸ヘキシル(非水溶性)−エチレングリコール(水溶性)、γ−ブチロラクトン(水溶性)−グリセリン(水溶性)、ε−カプロラクトン(水溶性)−グリセリン(水溶性)などが挙げられる。中でも、本発明では、水溶性の溶剤、水溶性の凝集剤の組み合わせを用いることが好ましい。
【0038】
上記したフッ化ビニリデン系樹脂、溶剤、無機粒子および凝集剤からなる多孔膜製造原液の組成は、製造された多孔膜が実用に耐える強度を持ち、所望の孔径および多孔膜の一表面から他表面までを連通する連通孔が所望の性能を満たす程度に存在し得る範囲内で自由に設定することができる。多孔膜製造原液の組成は上記した各構成成分の化学構造等により異なるが、フッ化ビニリデン系樹脂、溶剤、無機粒子および凝集剤の組成比の合計を120とした場合に(以下も同様)、フッ化ビニリデン系樹脂:溶剤:無機粒子:凝集剤=20〜40:25〜60:10〜30:20〜50の範囲内にあることが望ましい。多孔膜製造原液の組成がこの範囲を外れると、多孔膜製造原液を中空糸状に紡糸するときの安定性が低下して均質な中空糸状物を紡糸することが困難となり、また、フッ化ビニリデン系樹脂の量が上記した量より多いときには、均質な中空糸状物を紡糸することは可能であっても得られる中空糸膜の透水性と分画性のバランスが悪くなる傾向になる。
【0039】
上記したフッ化ビニリデン系樹脂、溶剤、無機粒子および凝集剤からなる多孔膜製造原液には、必要に応じて、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、アンチブロッキング剤、染料などの各種添加剤を本発明の目的を損なわない範囲で添加することができる。
【0040】
上記したフッ化ビニリデン系樹脂、溶剤、無機粒子および凝集剤からなる多孔膜製造原液は、二軸混練設備、プラストミル、ミキサーなどの中で混練される。混練温度はフッ化ビニリデン系樹脂と溶剤とが相容しかつ上記混合物の各成分が分解しない範囲で設定する。多孔膜製造原液は混練された後、十分に気泡が除去され、ギヤポンプなどの計量ポンプで計量した後、シートダイや二重環構造のノズルより押出し、所望の形状に成形される。中空糸状にするときは、二重環構造のノズルの中心部から、空気、窒素などの気体、または上記製膜原液の押出し温度以上の沸点を有する液体が同時に押出される。上記二重環構造のノズルの中心部から押出すのに用いられる液体としては、フッ化ビニリデン系樹脂に対して非溶剤又は貧溶剤を用いることが好ましい。例えばテトラエチレングリコールやプロピレングリコール、グリセリンなどの多価アルコール類を例示することができる。これらの選択により、得られる中空糸の内表面側の熱誘起相分離が進行し、最内表面における構造が粗大化し大きな孔径を得るうえでより効果的になる場合がある。粗大化した孔は、表面に長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を形成させる上で、極めて重要である。
【0041】
シートダイやノズルより押出された押出成形物は、例えば冷却といった温度の変化によりフッ化ビニリデン系樹脂と溶剤とが相分離を起こしてフッ化ビニリデン系樹脂が固化する。フッ化ビニリデン系樹脂とフッ化ビニリデン系樹脂が相容する溶媒との混合物がフッ化ビニリデン系樹脂の貧溶媒中との接触により固化するときには、上記混合物と非溶媒の界面にあたる部分が緻密な層を形成し、得られる多孔膜が不均一な構造となり、高い分離精度が得られないおそれがある。冷却の方法は、空気中で行なう方法、液体中に導入する方法、一旦空気中を通した後に液体中に導入する方法などがありいずれの方法を用いても良いが、冷却の速度が多孔膜の強度や伸度、さらに孔径制御に大きく影響するので冷却速度をコントロールできるように雰囲気温度を温風で制御したり、冷却に用いられる液体の温度を制御することが望ましい。冷却に用いられる液体として、水または有機液体が挙げられる。それらは、少なくとも1種以上の成分を溶解させた複数の成分からなる冷却液体であっても構わない。環境面、生産コスト面を考慮すると、水を用いることが好ましい。なお、水溶性溶剤を用い、冷却浴に水を用いる場合には、少なくとも1種以上の塩を溶解させたものや、複数の塩からなる混合液を好ましく用いることができる。凝固する工程に塩水溶液を用いることにより、水(非溶剤)と水溶性溶剤の交換速度を低下させることが可能となり、急速な構造固定による膜表面への緻密層形成を抑制した多孔膜の成形が可能となる。塩濃度が高くなるほど、水と水溶性溶剤との交換速度は低くなり、得られる膜の表面細孔数及び表面細孔径は大きくなる。ここでいう塩とは、ハロゲン化物、硫酸塩、硝酸塩、塩素酸塩、乳酸塩及び酢酸塩などのような1価又は多価のものであって、無水塩または含水塩を使用することができる。例えば、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム等の塩を例示することができる。塩水溶液の濃度は、重量濃度30g/L以上でかつ、飽和水溶液濃度に対して10〜100%の範囲にすることが好ましく、10〜60%の範囲にすることがより好ましい。飽和溶液濃度に対して60%を超えると取扱い性の面で好ましくない。
【0042】
次いで、上記により形成された成形物から、溶剤、無機粒子および凝集剤を抽出終了する前に多孔膜を延伸する工程を含むことを特徴としている。抽出終了前の多孔膜を延伸することにより、最終的に得られる多孔膜の高透過性化が期待できる。延伸は、空間温度0℃以上160℃以下で行うことが望ましい。160℃より高い場合には延伸斑が大きいうえに破断伸度の低下及び透水性能が低くなり好ましくなく、0℃以下では安定して均質に延伸することが困難であり、構造的に弱い部分のみが破断する。より好ましくは30〜120℃、更に好ましくは30〜100℃の温度範囲で1.1〜4倍、より好ましくは1.1〜3.5倍、更に好ましくは1.1〜3倍の範囲の延伸倍率に延伸することで、目的の多孔膜が得られる。ここでいう延伸倍率とは、延伸工程中で最も伸ばされる時の多孔膜の長さから求められる倍率のことである。また、延伸は液体中で行う方が温度制御が容易であり好ましいが、スチームなどの気体中で行っても構わない。液体としては水が簡便で好ましいが、95℃程度以上で延伸する場合には、低分子量のポリエチレングリコールなどを用いることも好ましく採用できる。さらに水とポリエチレングリコールの混合液体等、複数の液体の混合液体中で延伸することも採用できる。本発明においては、溶剤および凝集剤を含んだ多孔膜を延伸することが好ましい。溶剤および凝集剤を含んだ多孔膜の方が、溶剤および凝集剤を含んでいない多孔膜よりも、延伸時の破断が少ない。また、無機粒子を含んだ多孔膜を延伸することが好ましい。無機粒子を含んだ多孔膜の方が、膜断面に存在する独立孔が無機粒子を起点に開裂し、連通孔へと変わり、膜断面の連通性が高まる。また、多孔膜の一表面に存在する粗大化した孔を短冊状微細孔へと変化させることが可能となり、多孔膜の透過性能を著しく向上させることができる。本発明においては、溶剤、無機粒子および凝集剤を含む多孔膜を延伸することがより望ましい。また、延伸した多孔膜を抽出する方法は、延伸により多孔膜の表面及び内部に空隙が増加しているため、抽出溶剤が多孔膜内部に浸透し易いという利点がある。
【0043】
次いで、上記により形成された成形物から、溶剤、無機粒子および凝集剤を抽出して多孔膜を得る。これらの成分の抽出は、押出、固化などの操作と共に工程中で連続的に行なうことができるし、成形物を一旦枠やカセなどに巻き取った後に行なっても、あるいは成形物を所定の形状のケースに収納してモジュール化した後に行なっても良い。各成分の抽出に用いる溶剤は、抽出温度においてフッ化ビニリデン系樹脂の非溶剤であることが必要である。抽出溶剤は抽出成分の化学構造等によっても異なるが、例えば溶剤が非水溶性溶剤の場合は、アセトンやメタノールなど、水溶性溶剤の場合は水が挙げられる。また無機粒子がシリカの場合は、アルカリ溶液による抽出が好適である。さらに凝集剤が難水溶性の場合は、ヘキサン、アセトン、メタノールなど、水溶性の場合は水が挙げられる。多孔膜は、これらの処理を行なった後に、例えば枠やカセに巻き取った状態で乾燥される。
【0044】
また、本発明の多孔膜は、熱処理等を適宜行ってもよい。熱処理は、フッ化ビニリデン系樹脂多孔膜のα型結晶構造の比率を高めるためである。本発明者らは、フッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の耐薬品性について検討した結果、結晶化度のみならず、結晶構造も大きく寄与していることを見出した。更に鋭意検討した結果、α型結晶構造がβ型結晶構造よりも高い比率で存在することで耐薬品性が向上することを見出した。α型結晶構造がβ型結晶構造よりも高い比率で存在することで耐薬品性が向上するのは、次の理由によると考えられる。α型結晶構造は、β型結晶構造に比べて、水素原子とフッ素原子が非局在化しており、電荷の偏りが少ないことに基因すると推定される。すなわち、水素原子とフッ素原子が局在化し、分子内分極しているβ型結晶構造より、非極性であるα型結晶構造の存在比率が高いために、本発明のポリフッ化ビニリデン多孔膜は優れた耐薬品性を有すると推定される。そこで、本発明の多孔膜においては、多孔膜が固定されていないフリーの状態で熱処理されることが好ましい。例えば、延伸処理後、一旦枠やカセに巻取り、その後、多孔膜をフリー状態にすることで、溶剤、凝集剤を抽出すると同時に、熱処理を行うことが可能である。固定された状態で熱処理を行うと、熱収縮等が起こって歪が生じ、多孔膜のミクロ環境における結晶構造の変化が起こる。具体的にはα型結晶構造からβ型結晶構造への転移が起こり、多孔膜中のβ型結晶構造の比率が高まり、所望の効果が得られない場合が生じる。
【0045】
本発明におけるポリフッ化ビニリデン多孔膜中の結晶構造の比率の測定は、例えば以下に述べる方法によって行われる。IR測定により得られる763cm−1の吸光度(A763)及び840cm−1の吸光度(A840)から下式(1)によって計算されるRの値である。
=A763/A840(1)
ここで、A763はα型結晶構造に帰属する吸光度であり、A840はβ型結晶構造に帰属する吸光度である(例えば、特許文献5参照)。Rの値は、ポリフッ化ビニリデンの結晶領域におけるα型とβ型の割合を示している。図6に示されるような多孔膜のIRチャートから、695および780cm−1近傍のIRチャートの極小値の間に線を引き、763cm−1近傍のα型結晶構造に帰属される特性吸収ピーク高さを読み取る。併せて、810および925cm−1近傍のIRチャートの極小値の間に線を引き840cm−1近傍のβ型結晶構造に帰属される特性吸収ピーク高さを読み取り、Rを求める。本発明におけるRは1.5以上が好ましい。
【0046】
ポリフッ化ビニリデン樹脂のα型結晶構造とは、重合体分子中のある1つの主鎖炭素に結合するフッ素原子(または水素原子)に対し、一方の隣接する炭素原子に結合した水素原子(またはフッ素原子)がトランスの位置にあり、なおかつもう一方(逆側)に隣接する炭素原子に結合する水素原子(またはフッ素原子)がゴーシュの位置(60度の位置)にあり、その立体構造の連鎖が2つ以上連続して有することを特徴とするものであって、分子鎖がTGTG型でC−F、C−H結合の双極子能率が分子鎖に垂直方向と平行方向とにそれぞれ成分を有している。α型結晶構造を有するポリフッ化ビニリデン樹脂についてIR分析を行なうと、1212cm−1、1183cm−1および763cm−1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=17.7度、18.3度および19.9度付近に特徴的なピークを有する。
【0047】
ポリフッ化ビニリデン樹脂のβ型結晶構造とは、重合体分子中の1つの主鎖炭素に隣り合う炭素原子に結合したフッ素原子と水素原子がそれぞれトランスの立体配位(TT型構造)、つまり隣り合う炭素原子に結合するフッ素原子と水素原子が炭素−炭素結合の方向から見て180度の位置に存在することを特徴とする。TT型構造の部分がTT型の主鎖を構成する炭素−炭素結合は平面ジグザグ構造をもち、C−F、C−H結合の双極子能率が分子鎖に対して垂直方向の成分を有している。β型結晶構造についてIR分析を行なうと、1274cm−1、1163cm−1および840cm−1付近に特徴的なピーク(特性吸収)を有し、粉末X線回折分析においては2θ=21度付近に特徴的なピークを有する。
【0048】
熱処理を行う手順としては、製膜後、抽出成分を洗浄等で除去する前に行っても良いし、除去した後に行っても良い。また、膜が束ねられた糸束状態、乾燥処理後に行っても良いし、モジュール化した後に熱処理を行っても構わない。なお、モジュール化後に熱処理する場合には熱処理による収縮を見越し、膜が引っ張られないように予めゆとりを持たせておくことが好ましい。
【0049】
熱処理方法としては、熱風による乾式方法、液体に浸漬して行う湿式方法、加熱変調した金属製のロール等に多孔膜を接触させて行う方法、スチーム等の気体で行う方法又は電磁波を放射する方法などが例示でき、多孔膜が湿潤状態でも乾燥状態でもどちらでも可能である。中でも、水中で行う方法が温度制御が容易であり簡便である。低分子量のポリエチレングリコ−ル、などのようなポリフッ化ビニリデン樹脂の非溶剤を用いることも好ましく採用できる。さらに水とポリエチレングリコールの混合液体、界面活性剤水溶液など、複数成分の混合液体中で熱処理することも採用できる。
【0050】
湿式方式における浸漬液体の選定によっては、製膜原液中の抽出成分の抽出除去と熱処理を同時に行うことも可能となる。
【0051】
熱処理温度は、熱処理の効果が得られ、かつ化学的強度以外の多孔膜の要求特性を損なわないという観点から、70℃〜160℃の範囲で行うことが好ましい。
【0052】
熱処理時間は、特に制限はないが、工程性の観点から1〜5時間の範囲が好ましい。熱処理温度を高温にすることで、処理時間を短縮することが可能である。
【0053】
熱処理後は、室温などで放置し、ゆっくり放冷するのが好ましい。
【0054】
上述のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、原液流入口や透過液流入口などを備えたケーシングに収容され膜モジュールとして使用される。膜モジュールは、膜が中空糸膜である場合には、中空糸膜を複数本束ねて円筒状の容器に納め、両端または片端をポリウレタンやエポキシ樹脂等で固定して、透過液を回収できるようにしたり、平板状に中空糸膜を固定して透過液を回収できるようにする。膜が平膜状である場合には、平膜を集液管の周りに封筒状に折り畳みながらスパイラル状に巻き取り、円筒状の容器に納め、透過液を回収できるようにしたり、集液管の両面に平膜を配置して周囲を密に固定し、透過液を回収できるようにする。
【0055】
そして、膜モジュールは、少なくとも原液側に加圧手段または透過液側に吸引手段を設け、水などを分離する分離装置として用いられる。加圧手段としてはポンプを用いても良いし、水位差による圧力を利用してもよい。また、吸引手段としては、ポンプやサイフォンを利用すればよい。
【0056】
この分離装置は、水処理分野であれば浄水処理、上水処理、排水処理、工業用水製造などで利用でき、河川水、湖沼水、地下水、海水、下水、排水などを被処理水とする。
【0057】
また、上記フッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、電池の内部で正極と負極とを分離する電池用セパレーターに用いることもでき、この場合、イオンの透過性が高いことによる電池性能の向上や、破断強度が高いことによる電池の耐久性向上などの効果が期待できる。
【0058】
さらに、上記の製造方法により作製したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜は、荷電基(イオン交換基)を導入して荷電膜とすると、イオンの認識性向上や、破断強度が高いことによる荷電膜の耐久性向上などの効果が期待できる。
【0059】
さらにまた、上記のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜にイオン交換樹脂を含浸し、イオン交換膜として燃料電池に用いると、特に燃料にメタノールを用いる場合、イオン交換膜のメタノールによる膨潤が抑えられるので、燃料電池性能の向上が期待できる。さらに、破断強度が高いことによる燃料電池の耐久性向上なども期待できる。
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれによってなんら限定を受けるものではない。
【実施例1】
【0061】
フッ化ビニリデン系樹脂としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記することがある)(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、溶剤としてγ−ブチロラクトンと、無機粒子としてシリカ(株式会社トクヤマ製、ファインシールX−45)と、凝集剤としてグリセリン(花王株式会社製、精製グリセリン)とを、重量比で36:47:18:19の割合となるように製膜原液を調製した。この製膜原液の組成を表1に示す。該組成比のγ−ブチロラクトンとグリセリンの上部臨界溶解温度は、40.6℃であった。
【0062】
上記した製膜原液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度150℃)して、押出したストランドをペレタイザーに通すことでチップ化した。このチップを、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルを装着した押出機(150℃)を用いて押出した。このときテトラエチレングリコールを押出物の中空部内に注入した。
【0063】
紡口から空気中に押し出した押出成形物を、3cmの空中走行距離を経て、重量パーセント濃度20%硫酸ナトリウム水溶液からなる水浴中(温度60℃)に入れ、約100cm水浴中を通過させて冷却固化させた。次いで、溶剤、凝集剤および無機粒子の大部分が中空糸状物中に残存している状態で、90℃の熱水中で繊維方向に原長の約1.5倍長となるよう延伸処理をした後、次いで、得られた中空糸状物を95℃の流水中で180分間熱処理と溶剤(γ−ブチロラクトン)、凝集剤(グリセリン)、注入液(テトラエチレングリコール)の抽出除去を行った。
【0064】
このようにして得られた中空糸状物を40℃の重量パーセント濃度5%水酸化ナトリウム水溶液中で120分浸漬して無機粒子(シリカ)を抽出除去した後に、水洗工程を経て中空糸膜を得た。製造した中空糸膜の試験結果を表2に示す。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは2.5であった。
【0065】
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表3に記載した。
【0066】
各種の測定(分析)方法および装置
(1)分画粒子径
異なる粒子径を有する少なくとも2種類の粒子の阻止率を測定し、その測定値を元にして下記の近似式(1)において、Rが90となるSの値を求め、これを分画粒子径とした。
R=100/(1−m×exp(−a×log(s))) ・・・(1)
(1)式中、aおよびmは中空糸膜によって定まる定数であって、2種類以上の阻止率の測定値をもとに算出される。ただし、0.1μm径の粒子の阻止率が90%以上の場合の分画粒子径は、<0.1μmと表記される。
【0067】
(2)純水透過速度
有効長が3cmの片端開放型の中空糸膜モジュールを用いて、原水として純水を利用し、濾過圧力が50kPa、温度が25℃の条件で中空糸膜の外側から内側に濾過(外圧濾過)して時間当たりの透水量を測定し、単位膜面積、単位時間、単位圧力当たりの透水量に換算した数値で算出した。
【実施例2】
【0068】
溶剤としてε-カプロラクトンを用いた以外は実施例1と同様にして中空糸膜を得た。該組成比のε-カプロラクトンとグリセリンの上部臨界溶解温度は、47.3℃であった。製造した中空糸膜の試験結果を表2に示す。
【0069】
比較例1
ポリフッ化ビニリデン(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、γ−ブチロラクトンと、無機粒子としてシリカ、凝集剤としてポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル(日光ケミカルズ株式会社製:NP−5)とを、重量比でそれぞれ36:47:18:19の割合となるように製膜原液を調製した以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。該組成比のγ−ブチロラクトンとポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルにおいて、上部臨界溶解温度は観察されず、いずれの温度においても相容した。製造した中空糸膜の試験結果を表2に示す。
【実施例3】
【0070】
ポリフッ化ビニリデン(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、溶剤としてγ−ブチロラクトンと、無機粒子としてシリカ(株式会社トクヤマ製、ファインシールF−80)と、凝集剤としてグリセリン(花王株式会社製、精製グリセリン)と、親水性樹脂としてポリビニルピロリドン(BASF社製、K−90)を、重量比で35:43:20:19:3の割合となるように製膜原液を調製した。この製膜原液の組成を表1に示す。該組成比のγ−ブチロラクトンとグリセリンの上部臨界溶解温度は、41.6℃であった。
【0071】
上記した製膜原液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度150℃)して、押出したストランドをペレタイザーに通すことでチップ化した。このチップを、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルを装着した押出機(150℃)を用いて押出した。このときテトラエチレングリコールを押出物の中空部内に注入した。
【0072】
紡口から空気中に押し出した押出成形物を、3cmの空中走行距離を経て、重量パーセント濃度10%硫酸ナトリウム水溶液からなる水浴中(温度30℃)に入れ、約100cm水浴中を通過させて冷却固化させた。次いで、溶剤、凝集剤および無機粒子の大部分が中空糸状物中に残存している状態で、90℃の熱水中で繊維方向に原長の約1.8倍長となるよう延伸処理をした後、次いで、得られた中空糸状物を95℃の流水中で180分間熱処理と溶剤(ガンマ-ブチロラクトン)、凝集剤(グリセリン)、注入液(テトラエチレングリコール)の抽出除去を行った。
【0073】
このようにして得られた中空糸状物を40℃の重量パーセント濃度5%水酸化ナトリウム水溶液中で120分浸漬して無機粒子(シリカ)を抽出除去した後に、水洗工程を経て中空糸膜を得た。
【0074】
次いで、得られた中空状物を5重量パーセントのぺルオキソニ硫酸水溶液(30℃)に30分浸漬した後、水溶液中から取り出して中空状物に付着した余分な溶液を除去し、その後、反応槽に入れた。該反応槽内に約120℃のスチームを吹き込んで、槽内を90℃以上に保つようにして30分間加熱処理した。次に加熱処理された中空状物を90℃の熱水で30分洗浄した後に中空糸膜を得た。製造した中空糸膜の試験結果を表2に示す。次いで、製造した中空糸膜を40℃に設定した送風乾燥機内で12時間乾燥させた。乾燥前後における透水性能保持率を表3に示す。また膜構造を観察するにあたって撮影した走査型電子顕微鏡写真を図1〜4に示す。
【0075】
比較例2
ポリフッ化ビニリデン(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、溶剤として安息香酸ヘキシル(和光純薬株式会社製、試薬1級)と、無機粒子としてシリカ(株式会社トクヤマ製、ファインシールX−45)と、凝集剤としてモノラウリン酸ヘキサグリセリル(日光ケミカルズ株式会社製、Hexaglyn 1−L)とを、重量比で20:80:10:10の割合となるように製膜原液を調製した。この製膜原液の組成を表1に示す。該組成比の安息香酸ヘキシルとモノラウリン酸ヘキサグリセリルにおいて、上部臨界溶解温度は観察されず、いずれの温度においても非相容であった。
【0076】
上記した製膜原液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度240℃)して、押出したストランドをペレタイザーに通すことでチップ化した。このチップを、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルを装着した押出機(230℃)を用いて押出した。このときテトラエチレングリコールを押出物の中空部内に注入した。
【0077】
紡口から空気中に押し出した押出成形物を、3cmの空中走行距離を経て、水浴中(温度30℃)に入れ、約100cm水浴中を通過させて冷却固化させた。次いで、得られた中空糸を50℃のメタノール中で60分の浸漬を2回繰り返して溶剤(安息香酸ヘキシル)と凝集剤(モノラウリン酸ヘキサグリセリル)、さらに注入液(テトラエチレングリコール)を抽出除去した。
【0078】
このようにして得られた中空糸状物を80℃の熱水中で繊維方向に原長の約2倍長となるよう延伸処理をした後に、100℃の熱水中で熱固定を行ない、次いで40℃の重量パーセント濃度5%水酸化ナトリウム水溶液中で120分浸漬して無機粒子(シリカ)を抽出除去した後に、水洗工程を経て中空糸膜を得た。試験結果を表2に示す。次いで、製造した中空糸膜を40℃に設定した送風乾燥機内で12時間乾燥させた。乾燥前後における透水性能保持率を表3に示す。また膜構造を観察するにあたって撮影した走査型電子顕微鏡写真を図5に示す。
【実施例4】
【0079】
ポリフッ化ビニリデン(ソルベイ ソレクシス株式会社製、SOLEF6010)と、溶剤としてε−カプロラクトンと、無機粒子として疎水性シリカ(日本アエロジル株式会社製、R−972)と、凝集剤としてグリセリンとを、重量比で36:54:18:12の割合となるように混合液を調製した。該組成比のε−カプロラクトンとグリセリンの上部臨界溶解温度は、35.8℃であった。
【0080】
上記した混合液を、二軸混練押出機中で加熱混練(温度165℃)して、押出したストランドをペレタイザーに通すことでチップ化した。このチップを、外径1.6mm、内径0.8mmの二重環構造のノズルを装着した押出機(150℃)を用いて押出した。このときテトラエチレングリコールを押出物の中空部内に注入した。
【0081】
紡口から空気中に押し出した押出成形物を、3cmの空中走行距離を経て、重量パーセント濃度20%硫酸ナトリウム水溶液からなる水浴中(温度40℃)に入れ、約100cm水浴中を通過させて凝固させた。次いで、溶剤、凝集剤および無機粒子の大部分が中空糸状物中に残存している状態で、90℃の熱水中で繊維方向に原長の約2.0倍長となるよう延伸処理をした後、次いで、得られた中空糸状物を95℃の流水中で180分間熱処理と溶剤(ガンマ-ブチロラクトン)、凝集剤(グリセリン)、注入液(テトラエチレングリコール)の抽出除去を行った。
【0082】
このようにして得られた中空糸状物を40℃の重量パーセント濃度5%水酸化ナトリウム水溶液中で120分浸漬して無機粒子(シリカ)を抽出除去した後に、水洗工程を経て中空糸膜を得た。製造した中空糸膜の試験結果を表2に示す。
【実施例5】
【0083】
95℃の流水中で120分間熱処理と溶剤、凝集剤、注入液の抽出除去を行った以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは2.1であった。
【0084】
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表3に記載した。
【実施例6】
【0085】
85℃の流水中で180分間熱処理と溶剤、凝集剤、注入液の抽出除去を行った以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは1.9であった。
【0086】
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表3に記載した。
【0087】
比較例3
45℃の流水中で180分間熱処理と溶剤、凝集剤、注入液の抽出除去を行った以外は、実施例1と同様にして中空糸膜を得た。製造した中空糸膜のIR測定により求めたRは0.9であった。
【0088】
得られた中空糸膜の耐酸化剤性を評価するため、次亜塩素酸ナトリウム水溶液(有効塩素濃度:5000ppm)に60℃で7日間浸漬し、その物性評価(引張破断強度)を測定し、結果を表3に記載した。
【0089】
【表1】

【0090】
【表2】

【0091】
【表3】

【0092】
【表4】

【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】実施例3の方法により製造したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の外表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図2】実施例3の方法により製造したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の内表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例3の方法により製造したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の内表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図4】実施例3の方法により製造したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の断面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図5】比較例2の方法により製造したフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の内表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1の方法により製造した中空糸膜のIRチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化ビニリデン系樹脂よりなる多孔膜であって、該多孔膜は一表面に長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有し、他表面に長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を有している分画粒子径が0.2μm以上であることを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜。
【請求項2】
多孔膜が90〜99重量%のフッ化ビニリデン系樹脂と1〜10重量%の親水性樹脂とのブレンドポリマーで構成されることを特徴とする請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜。
【請求項3】
親水性樹脂がビニルピロリドン系樹脂である請求項2に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜。
【請求項4】
多孔膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項1に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜。
【請求項5】
多孔膜の長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有する一表面が中空糸膜の外表面であり、多孔膜の長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を有している他表面が中空糸膜の内表面であることを特徴とする請求項4に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔中空糸膜。
【請求項6】
フッ化ビニリデン系樹脂、溶剤、無機粒子及び凝集剤で構成され、該無機粒子と該凝集剤は親和性を有し、かつ該溶剤と該凝集剤は相容しない又は上部臨界溶解温度を有する多孔膜製造原液を冷却させることにより相分離を誘起させたのちに固化させ、次いで溶剤、無機粒子、凝集剤のいずれかを抽出終了する前に多孔膜を延伸する工程を含むことを特徴とするフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の製造方法。
【請求項7】
溶剤が水溶性溶剤である請求項6に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の製造方法。
【請求項8】
多孔膜が90〜99重量%のフッ化ビニリデン系樹脂と1〜10重量%の親水性樹脂とのブレンドポリマーで構成されることを特徴とする請求項6に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の製造方法。
【請求項9】
親水性樹脂がビニルピロリドン系樹脂である請求項8に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の製造方法。
【請求項10】
多孔膜が中空糸膜であることを特徴とする請求項6に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔膜の製造方法。
【請求項11】
多孔膜の長径と短径の比の平均が1:1以上かつ5:1より小さい円形または楕円形の微細孔を有する一表面が中空糸膜の外表面であり、多孔膜の長径と短径の比の平均が5:1以上の短冊状微細孔を有している他表面が中空糸膜の内表面であることを特徴とする請求項10に記載のフッ化ビニリデン系樹脂多孔中空糸膜の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2008−62226(P2008−62226A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−209474(P2007−209474)
【出願日】平成19年8月10日(2007.8.10)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【Fターム(参考)】