説明

フッ化物コート膜形成処理液,フッ化物コート膜形成方法及び磁石

【課題】
希土類磁石の磁気特性向上と渦電流損の低減化および圧粉磁心の鉄損の低減化が課題である。
【解決手段】
コート膜処理対象物の表面に希土類フッ化物コート膜又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する処理液を、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に分散されてなることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ化物コート膜形成処理液フッ化物コート膜形成方法及び磁石に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来のフッ素化合物を含む希土類焼結磁石は、特開2003−282312号公報に記載されている。
【0003】
【特許文献1】特開2003−282312号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来技術では、フッ素化合物が粒状の粒界相となっており、磁石の粒界あるいは粉末表面に沿って形成されておらず、渦電流の低減とエネルギー積の確保を目的に、フッ素を含む層が連続的に形成され、前記フッ素を含む層に隣接する層についての記載はない。
【0005】
一方、圧粉磁心に関しては無機フッ素化合物を用いた記載はない。
【0006】
上記従来の発明では、NdFeB焼結磁石用粉末とフッ素化合物であるDyF3 粉末とを添加して作製した焼結磁石の磁気特性は保磁力の向上が可能であるものの、DyF3 粉末の添加量が多くなるため、残留磁束密度の低下が大きく、磁石としての特性の目安となるエネルギー積( (BH)MAX)は低下する。従って保磁力が増加しているにもかかわらず、エネルギー積が小さいため高い磁束が必要な磁気回路に使用することは困難である。また、上記従来発明では、フッ素を含む化合物が不連続に形成されており、渦電流損を低減する効果は期待できない。一方、圧粉磁心は高圧力で圧縮成形するため、軟磁性粉に歪が発生し、ヒステリシス損が大きくなる。ヒステリシス損を低減するには磁心の焼鈍が有効であるが、従来は800℃程度までの高耐熱を有する絶縁膜がなかった。そのため、軟磁性粉表面に絶縁膜を形成して渦電流損を低減化しても、ヒステリシス損と渦電流損の和である鉄損の低減化はkHzから100kHzオーダーでは難しかった。
【0007】
本発明者の検討の結果、磁石又は圧粉磁心の磁気特性を低下させずに渦電流を効果的に低減するには、フッ素を含む層を連続的に適切な膜厚で形成すれば効果的であることが本発明者の検討により明らかになった。
【0008】
しかし、さらに検討を行った結果、フッ素を含む層を連続的に適切な膜厚で形成するのが困難であるという課題があることが分かった。本発明は、フッ素を含む層を連続的に適切な膜厚で形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの特徴は、フッ化物コート膜を形成する処理液を、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に分散されてなるものとする点にある。
【0010】
また、本発明の他の特徴は、フッ化物コート膜を形成する方法を、コート膜処理対象物に希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する方法において、コート膜対象物を希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が10μm以下まで粉砕され、かつアルコールを主成分とした溶媒に混合する工程を有する方法とする点にある。
【0011】
本発明のその他の特徴は、以下の発明を実施するための最良の形態欄で説明する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフッ化物コート膜処理液,フッ化物コート膜処理方法及び磁石によれば、被膜処理対象異物にフッ素を含む層を連続的に適切な膜厚で形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明はR−Fe−B(Rは希土類元素)系あるいはR−Co系磁石の保磁力とB−Hループの第2象限における角型性を向上させ、結果としてエネルギー積を向上させることが可能である。また、本発明は耐水性の高いコート膜を金属又は金属酸化物の表面に有するため耐食性の向上が可能で、かつ粉体表面の絶縁性のコート膜により渦電流の低減も可能である。また、更に本発明のコート膜は1000℃以上の耐熱性を有するため圧粉磁心においては焼鈍が可能でありヒステリシス損の低減化を可能にする。従って、本発明のコート膜を有する希土類磁石用磁粉または軟磁性粉を用いて作製した希土類磁石または圧粉磁心は、交流磁界などの変動磁界にさらされる磁石または磁心の渦電流損失およびヒステリシス損を抑え、渦電流損失およびヒステリシス損失に伴う発熱低減が実現でき、表面磁石モータ,埋め込み磁石モータなどの回転機あるいは高周波磁界中に磁石および磁心が配置されるMRI,限流素子などに使用できる。
【0014】
上記目的を達成するために、粒界あるいは粉末表面に沿って、磁気特性を保持しながら金属フッ化物を含む層を形成することが必要となる。NdFeB 磁石の場合、Nd2Fe14Bが主相であり、Nd相およびNd1.1Fe44 相が状態図に存在する。NdFeBの組成を適正化して加熱すれば、Nd相あるいはNdFe合金相が粒界に形成される。この高濃度のNdを含む相は酸化し易く、一部酸化層が形成される。フッ化物を含む層はこれらのNd相,NdFe合金層あるいはNd酸化層の母相からみて外側に形成する。フッ化物を含む層には、アルカリ土類金属や希土類元素の少なくとも1元素がフッ素と結合した相を含んでいる。フッ素を含む層は、上記Nd2Fe14B ,Nd相,NdFe相あるいはNd酸化層に接触して形成される。Nd2Fe14B よりもNdあるいはNdFe相が低融点であり、加熱により拡散し易く、組織が変化する。Nd,NdFe相あるいはNd酸化層の厚さよりも、アルカリ土類あるいは希土類元素のフッ化物を含む層の平均厚さは厚くすることが重要であり、このような厚さにすることにより、渦電流損を低減し、かつ高い磁気特性をもつことができる。Nd相あるいはNdFe相(Nd95Fe5) は、665℃の共晶温度で粒界に生成するが、このような温度でもフッ化物を含む層が安定であるためには、Nd相あるいはNdFe相(Nd95Fe5) の厚さよりも厚くすることが必要で、フッ化物を含む層が連続して上記相に隣接できる。このような厚さにすることで、フッ化物を含む層の熱安定性が高まり、加熱による隣接層からの欠陥導入や層の不連続化などの不安定化を防止することが可能である。また、NdFeB系など希土類元素を少なくとも1種類以上含有する強磁性材料の粉は、希土類元素を含むため酸化され易い。取り扱いやすいようにするため、酸化した粉末を使用して磁石を製造する場合もある。このような酸化層が厚くなると磁気特性が低下するが、フッ化物を含む層の安定性も低下する。酸化層が厚くなると、400℃以上の熱処理温度でフッ化物を含む層に構造的変化が認められる。フッ化物を含む層と酸化層との間で拡散と合金化(フッ化物と酸化物の拡散,合金化)が起きる。
【0015】
次に本発明を適用できる材料について説明する。フッ化物を含む層には、CaF2
MgF2,LaF3,CeF3,PrF3,NdF3,SmF3,EuF3,GdF3,TbF3,DyF3,HoF3,ErF3,TmF3,YbF3,LuF3及びこれらフッ化物の組成の非晶質、これらのフッ化物を構成する複数の元素から構成されたフッ化物、これらのフッ化物に酸素あるいは窒素あるいは炭素などが混合した複合フッ化物、これらのフッ化物に主相に含まれる不純物を含む構成元素が混入したフッ化物、あるいは上記フッ化物よりもフッ素濃度が低いフッ化物である。このようなフッ化物を含む層を均一に生成させるには、強磁性を示す粉の表面に、溶液を利用した塗布法が有効である。希土類磁石用磁粉は非常に腐食され易いため、スパッタリング法,蒸着法により、金属フッ化物を形成する手法もあるが、金属フッ化物を均一厚にするのは手間がかかりコスト高になる。一方、水溶液を用いた湿式法を用いると希土類磁石用磁粉は容易に希土類酸化物を生成するため好ましくない。本発明では希土類磁石用磁粉に対して濡れ性が高く、イオン成分を極力除去可能なアルコールを主成分とした溶液を用いることで、希土類磁石用磁粉の腐食を抑え、かつ金属フッ化物の塗布が可能であることを見出した。
【0016】
金属フッ化物の形態については希土類磁石用磁粉に塗布するという目的から固体状態は好ましくない。固体状態の金属フッ化物を希土類磁石用磁粉に塗布したのでは、希土類磁石用磁粉表面に連続的な金属フッ化物による膜を形成することができないからである。本発明では希土類、およびアルカリ土類金属イオンを含む水溶液にフッ化水素酸を添加するとゾルゲル反応を起こすことに着目し、溶媒である水をアルコールに置換えしつつイオン成分も同時に除去可能であることを見出した。更に、超音波攪拌を併用することでゲル状態であった金属フッ化物をゾル化でき、希土類磁石用磁粉の表面に対して金属フッ化物の均一膜を形成するのに最適な処理液になることを見出した。
【0017】
金属フッ化物を含む層は、高保磁力化のための熱処理前あるいは熱処理後のどちらの工程でも形成でき、希土類磁石用磁粉表面がフッ化物を含む層で覆われた後、磁界配向させ、加熱成形して異方性磁石を作製する。異方性付加のための磁界を印加せず、等方性の磁石を製造することも可能である。また、フッ化物を含む層で被覆された希土類磁石用磁粉を1200℃以下の熱処理温度で加熱することにより高保磁力化した後に、有機材料と混合させてコンパウンドを作製し、ボンド磁石を作製できる。希土類元素を含む強磁性材料には、Nd2Fe14B,(Nd,Dy)2Fe14B,Nd2(Fe,Co)14B,
(Nd,Dy)2(Fe,Co)14B あるいはこれらのNdFeB系にGa,Mo,V,Cu,Zr,Tb,Prを添加した粉、Sm2Co17系のSm2(Co,Fe,Cu,Zr)17あるいはSm2Fe173等が使用できる。コート膜形成処理液中の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤させるのは、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物ゲルがゼラチン状の柔軟な構造を有することと、アルコールが希土類磁石用磁粉に対して優れた濡れ性を有することが明らかになったからである。また、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が100μm〜nmレベルまで粉砕する必要があるのは、希土類磁石用磁粉表面に形成されたコート膜が均一厚になり易いからである。更に、アルコールを主成分とした溶媒にすることにより、非常に酸化され易い希土類磁石用磁粉の酸化の抑制が可能となったからである。
【0018】
一方、希土類フッ化物コート膜形成処理液に水を溶媒として添加する場合、一度溶媒をアルコール置換えしてからが好ましい。これは不純物としてのイオン性成分を除くことが希土類磁石用磁粉の酸化の抑制効果があるからである。ここで水を希土類フッ化物コート膜形成処理液に添加するのは、希土類フッ化物中の希土類元素によっては水を含んでいることによりゼラチン状にゲル化し易くなる条件の時である。また、熱処理条件が希土類磁石用磁粉にとって酸化され易い場合はベンゾトリアゾール系の有機防錆剤の添加が有効である。
【0019】
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の濃度に関しては希土類磁石用磁粉表面に形成する膜厚に依存するが、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が100μm〜1nmレベルまで粉砕され、かつアルコールを主成分とした溶媒に分散された状態を保つためには、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の濃度の上限がある。濃度の上限については後述するが希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物に対してアルコールを主成分とした溶媒に膨潤させており、かつアルコールを主成分とした溶媒中において濃度として200g/dm3から1g/dm3となる。
【0020】
希土類フッ化物コート膜形成処理液の添加量は、希土類磁石用磁粉の平均粒径に依存する。希土類磁石用磁粉の平均粒径が0.1 〜500μmの場合、希土類磁石用磁粉1kgに対して300〜10mlが望ましい。これは処理液量が多いと溶媒の除去に時間を要するだけでなく、希土類磁石用磁粉が腐食し易くなるためである。一方、処理液量が少ないと希土類磁石用磁粉表面に処理液の濡れない部分が生じるためである。
【0021】
また、希土類磁石用磁粉としてはNd−Fe−B系,Sm−Fe−N系,Sm−Co系等の希土類を含有する材料すべてに適用可能である。
【0022】
本発明を実施例に基づき具体的に説明する。
【実施例1】
【0023】
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液は以下のようにして作製した。
(1)水に溶解度の高い塩、例えばLaの場合は酢酸La、または硝酸La4gを100 mLの水に導入し、振とう器または超音波攪拌器を用いて完全に溶解した。
(2)10%に希釈したフッ化水素酸をLaF3が生成する化学反応の当量分徐々に加え た。
(3)ゲル状沈殿のLaF3が生成した溶液に対して超音波攪拌器を用いて1時間以上攪 拌した。
(4)4000〜6000r.p.mの回転数で遠心分離した後、上澄み液を取り除きほぼ同 量のメタノールを加えた。
(5)ゲル状のLaF3を含むメタノール溶液を攪拌して完全に懸濁液にした後、超音波 攪拌器を用いて1時間以上攪拌した。
(6)(4)と(5)の操作を酢酸イオン、又は硝酸イオン等の陰イオンが検出されなく なるまで、3〜10回繰り返した。
(7)最終的にLaF3の場合、ほぼ透明なゾル状のLaF3となった。処理液としては
LaF3が1g/5mLのメタノール溶液を用いた。
【0024】
その他の使用した希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液について、表1に纏めた。
【0025】
【表1】

【0026】
次に、希土類磁石用磁粉にはNdFeB合金粉末を用いた。この磁粉は、平均粒径が
100μmで磁気的に異方性である。希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を希土類磁石用磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
【0027】
NdF3コート膜形成プロセスの場合:NdF3 濃度1g/10mL半透明ゾル状溶液
(1)平均粒径が70μmの希土類磁石用磁粉100gに対して15mLのNdF3 コー ト膜形成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合 した。
(2)(1)のNdF3 コート膜形成処理希土類磁石用磁粉を2〜5torrの減圧下で溶媒 のメタノール除去を行った。
(3)(2)の溶媒の除去を行った希土類磁石用磁粉を石英製ボートに移し、1×10-5 torrの減圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)(3)で熱処理した磁粉に対して、蓋付きマコール製(理研電子社製)容器に移し たのち、1×10-5torrの減圧下で、800℃,30分の熱処理を行った。
(5)(4)で熱処理を施した希土類磁石用磁粉の磁気特性を調べた。
(6)(4)で熱処理を施した希土類磁石用磁粉を用いて、金型中に装填し、不活性ガス 雰囲気中で10kOeの磁場中で配向し、成形圧5t/cm2 の条件で加熱圧縮成形 した。成形条件は700℃、7mm×7mm×5mmの異方性磁石を作製した。
(7)(6)で作製した異方性磁石の異方性方向に30kOe以上のパルス磁界を印加し た。その磁石について磁気特性を調べた。
【0028】
その他の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成して上記(1)〜(7)のプロセスで作製した磁石の磁気特性について調べた結果を、表2に纏めた。
【0029】
【表2】

【0030】
この結果、各種希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成した磁粉およびその磁粉を用いて作製した異方性希土類磁石はコート膜を有していない磁粉およびその磁粉を用いて作製した異方性希土類磁石と比較して、磁気特性は向上し、比抵抗は大きくなることが明らかになった。特に、TbF3,DyF3コート膜を有する磁粉およびその磁粉を用いて作製した異方性希土類磁石は磁気特性が大きく向上し、LaF3,CeF3,PrF3,NdF3,TmF3,YbF3,LuF3 コート膜を有する磁粉を用いて作製した異方性希土類磁石は比抵抗が大きく向上することが確認できた。
【実施例2】
【0031】
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液には実施例1に示した方法で作製した溶液を用いた。本実施例において、希土類磁石用磁粉には、組成を調整した母合金を急冷することにより作製したNdFeB系のアモルファス薄帯を粉砕した磁性粉を用いた。すなわち、母合金を単ロールや双ロール法などのロールを用いた手法で、回転するロールの表面に溶解させた母合金をアルゴンガスなどの不活性ガスにより噴射急冷した。また、雰囲気は不活性ガス雰囲気あるいは還元雰囲気,真空雰囲気である。得られた急冷薄帯はアモルファスあるいはアモルファスに結晶質が混合している。この薄帯の平均粒径が300μmになるように粉砕,分級した。このアモルファスを含む磁粉は、加熱することにより結晶化し主相がNd2Fe14Bの磁粉となる。
【0032】
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を希土類磁石用磁粉に形成するプロセスは以下の方法で実施した。
【0033】
LaF3コート膜形成プロセスの場合:LaF3濃度5g/10mL半透明ゾル状溶液
(1)平均粒径が300μmの希土類磁石用磁粉100gに対して5mLのLaF3コー ト膜形成処理液を添加し、希土類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合 した。
(2)(1)のLaF3コート膜形成処理希土類磁石用磁粉を2〜5torrの減圧下で溶媒 のメタノール除去を行った。
(3)(2)の溶媒の除去を行った希土類磁石用磁粉を石英製ボートに移し、1×10-5 torrの減圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)(3)で熱処理した磁粉に対して、蓋付きマコール製(理研電子社製)容器に移し たのち、1×10-5torrの減圧下で、800℃,30分の熱処理を行った。
(5)(4)で熱処理を施した希土類磁石用磁粉の磁気特性を調べた。
(6)(4)で熱処理を施した希土類磁石用磁粉と100μm以下のサイズの固形エポキ シ樹脂(ソマール社製EPX6136)を体積で10%になるようにVミキサーを 用いて混合した。
(7)(6)で作製した希土類磁石用磁粉と樹脂とのコンパウンドを金型中に装填し、不 活性ガス雰囲気中で10kOeの磁場中で配向し、成形圧5t/cm2 の条件で70 ℃の加熱圧縮成形した。7mm×7mm×5mmのボンド磁石を作製した。
(8)(7)で作製したボンド磁石の樹脂硬化を窒素ガス中で170℃,1時間の条件で 行った。
(9)(8)で作製したボンド磁石に30kOe以上のパルス磁界を印加した。その磁石 について磁気特性を調べた。
【0034】
その他の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成して上記(1)〜(9)のプロセスで作製した磁石の磁気特性について調べた結果を、表3に纏めた。
【0035】
【表3】

【0036】
この結果、各種希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成した急冷磁粉およびその磁粉を用いて作製した希土類ボンド磁石はコート膜を有していない急冷磁粉およびその磁粉を用いて作製した希土類ボンド磁石と比較して、磁気特性は向上し、比抵抗は大きくなることが明らかになった。特に、TbF3,DyF3,HoF3,ErF3,TmF3 コート膜を有する急冷磁粉およびその磁粉を用いて作製した希土類ボンド磁石は磁気特性が大きく向上し、LaF3,CeF3,PrF3,NdF3,SmF3,ErF3
TmF3,YbF3,LuF3コート膜を有する急冷磁粉を用いて作製した希土類ボンド磁石は比抵抗が大きく向上することが確認できた。
【実施例3】
【0037】
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜の形成処理液には実施例1に示した方法で作製したCaF2,LaF3 溶液を用いた。CaF2,LaF3 溶液の濃度は
150g/dm3 である。軟磁性粉として平均粒径が60μmの鉄粉,10μmのFe−7%Si粉,10μmのFe−50%Ni,30μmのFe−50%Co,20μmの
Fe−X%Si−X%Al粉を用いた。
【0038】
以下にLaF3コート膜形成処理について記す。
(1)軟磁性粉1kgに対して100mLのLaF3コート膜形成処理液を添加し、希土 類磁石用磁粉全体が濡れるのが確認できるまで混合した。
(2)(1)のLaF3コート膜形成処理軟磁性粉を2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノ ール除去を行った。
(3)(2)の溶媒の除去を行った軟磁性粉を石英製ボートに移し、1×10-5torrの減 圧下で200℃,30分と400℃,30分の熱処理を行った。
(4)(3)で作製した希土類磁石用磁粉を金型中に装填し、成形圧15t/cm2 の条件 で外径28mm×内径20mm×厚さ5mmのリング状の磁気特性評価用テストピースを 作製した。
(5)(4)で作製したテストピースを窒素ガス中で900℃,4時間の条件で焼鈍を行 った。
(6)(5)で熱処理後のテストピースを用いて電気特性と磁気特性を評価した。
【0039】
【表4】

【0040】
この結果、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成した各種軟磁性粉を用いて作製した圧粉磁心は希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜が高耐熱性を有するため、熱焼鈍を施した圧粉磁心の高比抵抗の維持が可能であった。そのため、渦電流損並びにヒステリシス損が低い値になり、結果として圧粉磁心の鉄損はその二つの和となるため各周波数において低い値を得ることができた。
【実施例4】
【0041】
NdFeB焼結体は以下の手法で作製した。原料となるNd,Fe及びBはNd粉,
Nd−Fe合金粉,Fe−B合金粉を真空あるいはArなどの不活性ガス中で高周波誘導装置などを使用して溶解させる。この時必要に応じて、高保磁力化のための希土類元素であるTb,Dyなどを添加したり、組織安定化のためにTi,Nb,Vなどを添加したり、あるいは耐食性確保,磁気特性確保のためにCoを添加する。溶解した母合金をスタンプミルやジョークラッシャーなどを用いて租粉砕後ブラウンミル等で粉砕,ジェットミルで細粉砕する。これを20kOe以下の磁界中で磁場に沿って容易磁化方向が揃うように配向させ400℃から1200℃の減圧下あるいは不活性ガス中で0.1tから20t/
cm2の圧力で加圧焼成する。成形した10×10×5mm3の異方性方向(10mmの方向)に20kOe以上の磁界で着磁率95%以上に着磁した。着磁率はフラックスメータにより着磁磁界とフラックス量の関係を測定した結果より評価した。
【0042】
希土類フッ化物コート膜の形成処理液には実施例1に示した方法で作製したLaF3,NdF3溶液を用いた。LaF3,NdF3溶液の濃度は1g/dm3である。
(1)上記NdFeB焼結体のブロックをLaF3コート膜形成処理中に浸漬し、そのブ ロックを2〜5torrの減圧下で溶媒のメタノール除去を行った。
(2)(1)の操作を5回繰り返した。
(3)(2)で表面コート膜を形成した異方性磁石の異方性方向に30kOe以上のパル ス磁界を印加した。
(4)(3)で作製した異方性磁石について塩水噴霧試験またはPCT試験を以下の条件 で行った。
・塩水噴霧試験:5%NaCl,35℃,200時間
・PCT試験:120℃,2atm,100%RH,1000時間
(5)(4)で塩水噴霧試験またはPCT試験を実施したその磁石について磁気特性を調 べた。
【0043】
【表5】

【0044】
この着磁成形体を直流M−Hループ測定器にて磁極間に成形体を着磁方向が磁界印加方向に一致するように挟み、磁極間に磁界を印加することで減磁曲線を測定した。着磁成形体に磁界を印加させる磁極のポールピースには、FeCo合金を使用し、磁化の値は同一形状の純Ni試料及び純Fe試料を用いて校正した。また、10×10×5mm3 の成形体に周波数1kHzの1kOeの交流磁場を閉磁路回路に磁石を配置して、巻線コイルに交流電源を結線させることにより印加し、磁気特性を評価した。
【0045】
この結果、希土類フッ化物コート膜を形成したNdFeB焼結体のブロックは、塩水噴霧試験またはPCT試験後も、残留磁束密度,保磁力,最大エネルギー積の低下は認められなかった。それに対して、コート膜を形成していないNdFeB焼結体のブロックは磁気特性の低下が大きく特に塩水噴霧試験後は表面に赤錆も発生していた。上記の実施例では、磁粉の表面にコート膜を形成する例を説明したが、半導体装置の基板の表面に絶縁膜をコーティングする際にも、本発明のコート膜形成処理液及びコート膜形成処理方法を適用することができる。
【0046】
以上のように本発明の希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物を用いて1μm〜1nm厚のコート膜を表面に形成した磁性粉,磁性体金属板、又は磁性体金属ブロックはコート膜を形成していない磁性粉,磁性体金属板、又は磁性体金属ブロックと比較して、磁気特性,電気特性,信頼性に優れている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コート膜処理対象物の表面に希土類フッ化物コート膜又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する処理液において、該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に分散されてなることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液。
【請求項2】
請求項1において、前記コート膜処理対象物は磁性粉体,磁性体金属板、又は磁性体金属板ブロックであることを特徴とするフッ化物コート膜処理液。
【請求項3】
請求項1において、前記ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が10μm以下であることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液。
【請求項4】
請求項1において、アルコールはメチルアルコール,エチルアルコール,n−プロピルアルコール又はイソプロピルアルコールであることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液。
【請求項5】
請求項1において、アルコールを主成分とした溶媒はメチルアルコール,エチルアルコール,n−プロピルアルコール又はイソプロピルアルコールの内少なくとも一成分以上が50wt%以上含有する溶媒であり、前記溶媒は水を50wt%以下含有し、窒素を含有する有機防錆剤が1wt%以下含有する溶媒であることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液。
【請求項6】
請求項1において、前記希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物はLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Mg,
Ca,Sr,Baの内少なくとも一種類以上を含む金属フッ化物であることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液。
【請求項7】
請求項1において、前記希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物はアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、かつアルコールを主成分とした溶媒中において濃度として1g/dm3〜300g/dm3であることを特徴とするフッ化物コート膜形成処理液。
【請求項8】
コート膜処理対象物に希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する方法において、前記コート膜対象物を該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が10μm以下まで粉砕され、かつアルコールを主成分とした溶媒に混合する工程を有することを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項9】
請求項8において、前記コート膜処理対象物は磁性粉体,磁性金属板、又は磁性体金属板ブロックであることを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項10】
請求項8において、前記アルコールはメチルアルコール,エチルアルコール,n−プロピルアルコール又はイソプロピルアルコールであることを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項11】
請求項8において、前記アルコールを主成分とした溶媒はメチルアルコール,エチルアルコール,n−プロピルアルコール又はイソプロピルアルコールの内少なくとも一成分以上が50wt%以上、水が50wt%未満、水ベンゾトリアゾール等の窒素を含有する有機防錆剤が1wt%以下含有する溶媒であることを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項12】
請求項8において、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物はLa,Ce,Pr,Nd,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,Mg,Ca,Sr,Baの内少なくとも一種類以上を含む金属フッ化物であることを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項13】
請求項8において、希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物はアルコールを主成分とした溶媒に膨潤されており、かつアルコールを主成分とした溶媒中において濃度として1g/dm3〜200g/dm3であることを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項14】
請求項8において、前記溶媒は希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物コート膜を形成する処理液を平均粒径が500μmから0.1μmのコート膜処理対象物1kgに対して、10ml〜300mlの割合で配合することを特徴とするフッ化物コート膜の形成方法。
【請求項15】
希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物がアルコールを主成分とした溶媒に膨潤し、ゲル状態の該希土類フッ化物又はアルカリ土類金属フッ化物の平均粒径が10μm以下まで粉砕され、かつアルコールを主成分とした溶媒に混合することにより処理した磁粉を含有した磁石。

【公開番号】特開2006−283042(P2006−283042A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−100485(P2005−100485)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】