説明

フッ化物源およびシリカ歯研磨剤を含む、アルキル硫酸塩およびオルトリン酸塩無配合の歯磨剤組成物

歯の侵蝕および/またはトゥースウェアの治療用歯磨剤組成物であって、フッ化物イオン源およびシリカ歯研磨剤を含み、該歯磨剤が相対象牙質摩耗(RDA)値20〜60とpH範囲6.5〜7.5を有し且つオルトリン酸塩緩衝剤またはC10-18アルキル硫酸の水溶性塩を含まない、前記組成物が記載されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯の侵蝕(dental erosion)および/またはトゥースウェア(歯の損耗(tooth wear))の治療(すなわち、予防、抑制および/または治療)用の口腔ケア組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯のミネラルは主に、アニオン(例えば炭酸塩またはフッ化物)で部分的に置換されていてもよいカルシウムヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)と、カチオン(例えば亜鉛(Zn)およびマグネシウム(Mg))から構成される。歯のミネラルはまた、リン酸オクタカルシウムおよび炭酸カルシウムなどの非アパタイト系ミネラル相も含み得る。
【0003】
歯の喪失は、う蝕の結果として生じ得る。う蝕は多因子疾患であって、乳酸などの細菌の酸が完全には再石灰化されない表層脱灰を生じさせ、進行性の組織喪失と、最終的には空洞形成をもたらす。プラークバイオフィルムの存在を必要条件として、S.ミュータンスなどの酸産生菌は、スクロースなどの発酵性炭水化物のレベルが長時間上昇した場合に病原となり得る。
【0004】
疾患がない場合でも、歯の硬組織喪失は、酸侵蝕および/または物理的損耗の結果として生じ得るが、これらの過程は相乗的に作用すると考えられている。歯の硬組織が酸に暴露されることによって脱灰が生じ、表面軟化およびミネラル密度の低下をもたらす。正常な生理的条件下では、脱灰した組織は、唾液の再石灰化作用を通じて自己修復する。唾液はカルシウムとリン酸塩について過飽和であり、健常人において、唾液分泌は、酸攻撃を洗い流してpHを上昇させ、平衡をミネラル沈着に有利に変化させる役割を果たす。
【0005】
歯の侵蝕は、細菌由来ではない酸により脱灰、そして最終的には歯の表面の完全な溶解を伴う表面現象である。最も一般的には、上記の酸は食事由来の酸、例えば果物または炭酸飲料由来のクエン酸、コーラ飲料由来のリン酸またビネグレットソース由来の酢酸であるだろう。歯の侵蝕は、胃食道逆流などの不随意反応を通じて、または過食症の罹患で遭う可能性がある誘導応答を通じて口腔に入り得る、胃によって産生される塩酸(HCl)との反復接触によっても引き起こされる可能性がある。
【0006】
トゥースウェアは、咬耗および/または摩耗によって引き起こされる。咬耗は、歯の表面が互いにこすれ合うときに生じ、二体損耗を形成する。著しい例は、歯ぎしりをする被験者に時々見られる。歯ぎしりは、加えられる力が強く、促進される損耗、特に咬合面上の損耗により特徴付けられる粉砕の習慣である。摩耗は、典型的には三体損耗の結果として生じ、その最も一般的な例は練り歯磨剤を用いたブラッシングに伴う摩耗である。完全に石灰化されたエナメル質の場合、市販の練り歯磨剤によって生じる損耗のレベルは最小限であり、臨床的帰結はほとんどないかまたは全くない。しかし、エナメル質が侵蝕性攻撃に曝されることにより脱灰されて軟化している場合、このエナメル質はトゥースウェアをより起こしやすくなる。象牙質は、エナメル質よりはるかに軟らかく、このため損耗をより起こしやすい。象牙質が露出している被験者は、摩耗性の高い練り歯磨剤(例えばアルミナベースの練り歯磨剤)の使用を避けるべきである。さらに、侵蝕性攻撃による象牙質の軟化は、この組織の損耗に対する感受性を高めるだろう。
【0007】
象牙質はin vivoでは通常、その位置、すなわち歯冠か歯根かに応じてそれぞれエナメル質またはセメント質に被覆されている主要組織である。象牙質の有機質含有量はエナメル質よりはるかに高く、その構造は、象牙質-エナメル質の表面または象牙質-セメント質の接合部から象牙芽細胞/歯髄の界面まで走る、液体で満たされた象牙細管の存在により特徴付けられる。象牙質知覚過敏症の発生は、露出した象牙細管中の液体の流れの変化が、象牙芽細胞/歯髄の界面の近くに位置すると考えられる機械的受容器の刺激をもたらすことに関係する、という流体力学理論が広く受け入れられている。通常、象牙質はスメア層、主に象牙質自体に由来するミネラルと蛋白質から成る閉塞混合物で被覆されており、唾液由来の有機成分も含有するため、露出した象牙質が全て過敏であるというわけではない。時間が経つにつれて、象牙細管の管腔は石灰化された組織で徐々に閉塞する可能性がある。歯髄の外傷または化学刺激に応答した修復性象牙質の形成についても十分に立証されている。それにも関わらず、侵蝕性攻撃は、スメア層と象牙細管の「閉塞」を取り除き、歯液流出を引き起こして象牙質を外部刺激(例えば、熱、冷、圧力)に対してさらに感受性にさせる可能性がある。既に示したとおり、侵蝕性攻撃は、象牙質表面を損耗に対してはるかにより感受性にさせ得る。さらに、象牙質知覚過敏症は、露出した象牙細管の直径が増大するにつれて悪化し、この象牙細管の直径は象牙芽細胞/歯髄の界面の方に向かって増大するため、進行性の象牙質損耗は、特に象牙質損耗が急激な場合に過敏性の増大をもたらす可能性がある。
【0008】
侵蝕および/または酸媒介性の損耗を通じた保護エナメル層の喪失は、下層にある象牙質を露出させ、このために象牙質知覚過敏症の発症における主要な病因となるだろう。
【0009】
食事由来の酸の摂取増大と、定型化された食事時間からの離脱が、歯の侵蝕およびトゥースウェアの発生の増加を伴うと主張されている。従って、歯の侵蝕およびトゥースウェアの予防に役立つ口腔ケア組成物が有利となるだろう。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
口腔ケア組成物は、通常、歯の再石灰化を促進させるため、また歯の硬組織の耐酸性を増大させるためにフッ化物イオン源を含有する。有効であるためには、このフッ化物イオンは治療対象の歯の硬組織への取り込みのために利用可能でなければならない。しかし、シリカ研磨剤などの歯磨剤の幾つかの成分はフッ化物イオンと相互作用するので、自由に利用可能なフッ化物イオンの量を減少させる可能性がある。
【0011】
この課題に対する1つの解決策は、米国特許第4340583号(Huber)に示唆されており、この文献には、優れたフッ化物イオン適合性を有する特別に処理されたシリカ研磨剤と共に製剤化された、フッ化物イオン源を含む練り歯磨剤組成物が記載されている。これらの組成物は、pH範囲4〜8、好ましくは6.5〜7.5を有し、可溶性リン酸塩のペリクル膜浸透剤(好適な例はオルトリン酸塩)を有利に含み得る。この文献の実施例11には、界面活性剤としてアルキル硫酸ナトリウムを含む、低摩耗レベルの練り歯磨剤が記載されている。
【0012】
別の解決策は、WO 01/66074(Colgate)に示唆されており、この文献は、歯のエナメル質へのフッ化物イオンの取り込みを増強するために、フッ化物源をアルカリpHで保存し(酸性pHで起こり得るシリカ研磨剤との相互作用を防ぐため)、酸性pHで送達すべきであると勧めている。これは、一方の相がアルカリ性でフッ化物イオンを含有し、他方の相が酸性でリン酸塩イオンを含有し、使用前に混合して酸性フッ素リン酸組成物(pH4〜6)を与える二成分歯磨剤の使用により達成される。
【0013】
WO 04/012693(Colgate)には、明らかにフッ化物イオンとカリウム塩とを組み合わせることにより達成されたと考えられる、脱感作ならびに歯のフッ素化および再石灰化が高められた歯科用組成物であって、pH範囲7.5〜9を有し、アルカリ金属リン酸塩で緩衝された上記組成物が記載されている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、急速に一般化している歯の侵蝕および/またはトゥースウェアの問題の治療のための歯磨剤組成物であって、フッ化物イオン源およびシリカ歯研磨剤を含み、該歯磨剤が相対象牙質摩耗(Relative Dentine Abrasivity、RDA)値20〜60とpH範囲6.5〜7.5を有し且つオルトリン酸塩緩衝剤またはC10-18アルキル硫酸の水溶性塩を含まない、前記組成物を提供する。
【0015】
上記のpHは、歯磨剤組成物を、組成物:水の重量比1:3で水によりスラリー化した場合に測定されるpHである。
【0016】
本発明の組成物は、歯を硬化しこれにより酸侵蝕攻撃から保護することができるだけでなく、酸侵蝕攻撃により軟化したエナメル質を再硬化することができるため、歯の侵蝕の治療に特に有効である。
【0017】
さらに本発明の組成物は、その低摩耗性、実質的に中性のpH、および口腔用組成物において一般的に用いられるラウリル硫酸ナトリウムなどの強力なC10-18アルキル硫酸塩界面活性剤の欠如により、歯の侵蝕およびトゥースウェアに伴う問題を悪化させることはない。
【0018】
従って、本発明の組成物は、歯を効果的に再石灰化および強化し、これにより歯の侵蝕および/またはトゥースウェアからの保護およびこれらの治療を提供する点で有利である。
【0019】
本発明の組成物はまた、う蝕および/または歯の知覚過敏症の予防および治療においても使用される。
【0020】
本発明の組成物において使用するための好適なフッ化物イオン源としては、25〜3500pmのフッ化物イオン、好ましくは100〜1500ppmのフッ化物イオンを与える量の、アルカリ金属フッ化物(例えばフッ化ナトリウム)、アルカリ金属モノフルオロリン酸塩(例えばモノフルオロリン酸ナトリウム)、フッ化スズ、またはアミンフッ化物が挙げられる。好ましいフッ化物源はフッ化ナトリウムであり、例えば上記の製剤は0.1〜0.5重量%のフッ化ナトリウム、例えば0.205重量%(927ppmのフッ化物イオンと同等)、0.2542重量%(1150ppmのフッ化物イオンと同等)または0.315重量%(1426ppmのフッ化物イオンと同等)のフッ化ナトリウムを含み得る。
【0021】
好ましくは、本発明の組成物は、フリーのフッ化物イオンの利用可能性を低下させる可能性があるカルシウム塩を含まない。
【0022】
好適なシリカ歯研磨剤の例としては、Huber社、Degussa社、Ineos社およびRhodia社からそれぞれ商標名ゼオデント(Zeodent)、サイデント(Sident)、ソルボシル(Sorbosil)またはチキソシル(Tixosil)で市販されている研磨剤が挙げられる。シリカ研磨剤は、歯磨剤による十分な歯の清浄を確保し、その一方で、特に歯の侵蝕を患う歯または酸攻撃により軟化している歯の摩耗を促進しないように、歯磨剤の相対象牙質摩耗(RDA)値を20〜60、好ましくは25〜50、またさらに好ましくは25〜40に維持するのに十分な量で含まれていなければならない。
【0023】
シリカ研磨剤は通常、組成物全体の15重量%以下、例えば組成物全体の2〜10重量%、また好ましくは少なくとも5重量%(例えば、5〜7重量%、特に6重量%)の量で含まれる。シリカ研磨剤レベルの低減には、歯磨剤の摩耗性を低下させるだけでなく、研磨剤とフッ化物イオンとの任意の相互作用を最小化し、これによりフリーのフッ化物イオンの利用可能性を増大させるという利点もある。
【0024】
本発明において使用するための好適な界面活性剤としては、両性界面活性剤、例えば、長鎖アルキルベタイン(Albright & Wilson社から「Empigen BB」の商標名で市販されている製品など)および、好ましくは、長鎖アルキルアミドアルキルベタイン(例えばコカミドプロピルベタイン)、もしくは低イオン性(low ionic)界面活性剤(例えば、Croda社から商標名Adinol CTで市販されているココイルメチルタウリンナトリウム)、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0025】
両性界面活性剤は、唯一の界面活性剤として単独で用いることが可能であり、または低イオン性界面活性剤と組み合わせることもできる。
【0026】
好適には、界面活性剤は、組成物全体の0.1〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%またさらに好ましくは、0.5〜1.5重量%の範囲で含まれる。
【0027】
歯磨剤組成物のpH範囲は、6.5〜7.5、好適には6.8〜7.2、例えば7.1であり、水酸化ナトリウムなどの塩基の混入により調整することができる。前述のColgate特許出願の教示とは反対に、歯磨剤組成物にオルトリン酸塩緩衝剤を含めるとエナメル質へのフッ化物の取り込みを低下させるため、該緩衝剤の含有は避けるべきである。
【0028】
歯の知覚過敏症を治療するため、本発明の歯磨剤組成物は、好適には、脱感作量の脱感作剤(desensitising agent)をさらに含む。脱感作剤の例としては、象牙細管遮断薬または神経脱感作剤およびこれらの混合物、例えば、WO 02/15809(Block)に記載されるような脱感作剤が挙げられる。好ましい脱感作剤としては、ストロンチウム塩(例えば塩化ストロンチウム、酢酸ストロンチウムもしくは硝酸ストロンチウム)またはカリウム塩(例えばクエン酸カリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、グルコン酸カリウムまた特に硝酸カリウム)が挙げられる。
【0029】
カリウム塩の脱感作量は通常、組成物全体の2〜8重量%であり、例えば、5重量%の硝酸カリウムを使用することができる。
【0030】
硝酸カリウムの存在は、強化されたステイン除去効果を有利にもたらすことが可能であり、この効果は低摩耗性製剤には特に有効であるが、そうでなければ、比較的清浄能力が低いと予測されるだろう。
【0031】
多数の、先に開示されたカリウム塩を含有する脱感作組成物(例えば、EP278744(Unilever)、WO 93/25184(Procter & Gamble)およびEP 1040819(Pfizer)と異なり、本発明の組成物は、優れた洗浄特性および清浄特性を有する一方、不溶性のラウリル硫酸カリウム沈殿物の形成をもたらす可能性があるラウリル硫酸ナトリウムを含まない。
【0032】
本発明の組成物はさらに、抗侵蝕剤、例えば、WO 04/054529 (Procter & Gamble)に記載されているような高分子ミネラル界面活性剤を含み得る。
【0033】
本発明の組成物は、口腔衛生組成物の分野において従来使用されている配合剤からその目的のために選択される適切な配合剤(例えば増粘剤、保湿剤、香味料、甘味料、乳白剤または着色剤、保存剤および水)を含むであろう。
【0034】
好適な増粘剤としては、例として非イオン性増粘剤、例えば(C1-6)アルキルセルロースエーテル(例としてメチルセルロース)など;ヒドロキシ(C1-6)アルキルセルロースエーテル(例としてヒドロキシエチルセルロースおよびヒドロキシプロピルセルロース);(C2-6)アルキレンオキシド修飾した(C1-6)アルキルセルロースエーテル(例としてヒドロキシプロピルメチルセルロース);およびこれらの混合物が挙げられる。他の増粘剤、例えば、天然ガムおよび合成ガムまたはガム様物質(例えばアイリッシュ・モス、キサンタンガム、トラガカントガム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリビニルピロリドン、デンプンおよび増粘性シリカ)を用いてもよい。好ましくは増粘剤は、増粘性シリカとキサンタンガムとの混合物である。
【0035】
有利には、増粘剤は、組成物全体の0.1〜30重量%、好ましくは1〜20重量%、さらに好ましくは5〜15重量%の範囲で含まれる。
【0036】
本発明の組成物において用いられる好適な保湿剤としては、例として、グリセリン、キシリトール、ソルビトール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコール、またはこれらの混合物が挙げられる。この保湿剤は、組成物全体の10〜80重量%、好ましくは20〜60重量%、さらに好ましくは25〜50重量%の範囲で含まれ得る。
【0037】
好ましい乳白剤は二酸化チタンであり、組成物全体の0.05〜2重量%、好ましくは0.075〜0.2重量%、例えば0.1重量%の範囲で含まれ得る。この量は、上記組成物の外観を整える。
【0038】
本発明の組成物は、その成分を適切な相対量で、都合のよい任意の順序で混合し、その後必要であれば、最終的な目標値が得られるようにpHを調整することにより調製することができる。
【0039】
本発明はまた、歯の侵蝕および/またはトゥースウェアの治療方法であって、治療を必要とする個体に、本発明の組成物の有効量を適用することを含んでなる、上記の方法をも提供する。このような組成物は、う蝕および/または歯の知覚過敏症(特に、該組成物が上記の脱感作剤をさらに含む場合)の予防および治療にも有益である。
【実施例】
【0040】
本発明を、以下の実施例によりさらに具体的に説明する。
【表1】

【0041】
本発明の歯磨剤のフッ化物利用可能性、エナメル質へのフッ化物取り込み、酸からの保護効率、摩耗性、および清浄力を評価するために、以下の方法を用いることができる。
【0042】
実施例4:フッ化物取り込みと酸からの保護
本実施例では、表Iにまとめられているとおり、本発明の組成物と市販のフッ化物配合歯磨剤との、フッ化物利用可能性、エナメル質へのフッ化物取り込みおよび酸からの保護効率(再石灰化/脱灰サイクルの研究を用いて評価した)を比較する研究を記載する。
【0043】
フッ化物利用可能性研究
サンプルは、1部の試験歯磨剤と3部(w/w)の蒸留水とを10分間均質化することにより調製した。このスラリーのpHを測定した後、約10,000 rpmで遠心分離して上清を得た。この上清を、実用標準の範囲にフッ化物イオン濃度が入るように水で希釈した。これらの溶液を、サプレッサー付電気伝導率検出方式のDionex(登録商標)Ion Chromatographyにより分析した。アナライト濃度は、外部標準化により測定した。
【0044】
様々な試験製品のフッ化物利用可能性とpHを表Iにまとめた。これらのフッ化ナトリウム(NaF)配合歯磨剤は全て、優れたフッ化物利用可能性を示した。
【表2】

【0045】
エナメル質のフッ化物取り込み(EFU)
EFU試験手順は、米国食品医薬品局(FDA)の試験手順に記載されている手順40に基づくものであった。本発明の場合、初期病変は、ヒドロキシアパタイトで50%飽和させた、0.2%w/vポリアクリル酸(Carbopol 907)を含有する0.1M 乳酸 pH 5.0を用いて形成した。
【0046】
健全なヒト上顎中切歯を選び、付着している軟組織を全て取り除いた。直径3mmのエナメル質のコアを、中空コアダイヤモンドドリルビットで唇側面に対して直角に切り取ることによって各歯から作成した。この操作は、試料の過熱を防ぐために水中で行った。各試料は、メチルメタクリレートを使用してプレキシガラスロッド(1/4"直径 x 2"長さ)の端部に包埋した。過剰なアクリルを切除し、エナメル質表面を露出させた。このエナメル質試料を600グリットの湿性/乾性研磨紙で研磨し、その後微粒子のγアルミナで研磨した。
【0047】
その後、各エナメル質試料を、0.5mlの1M 過塩素酸(HClO4)中で15秒間攪拌下で浸漬することによりエッチングした。その後、各溶液のサンプルを、総イオン強度調整用緩衝液(TISAB - Orion Research Inc., Cambridge, MA)を用いてpH5.2まで緩衝し(0.25mlサンプル、0.5ml TISABおよび0.25ml 1N 水酸化ナトリウム)、同様に作成した標準曲線(1ml 標準液と1ml TISAB)との比較によりフッ化物含有量を測定した。これらのデータは、処理前の各試料の生来のフッ化物レベルを反映している。
【0048】
これらの試料を再度粉砕し、前記のとおり研磨した。0.1M 乳酸/0.2% Carbopol 907溶液に24時間室温で浸漬することにより、各エナメル質試料に初期病変を形成した。その後これらの試料を蒸留水で十分にすすぎ、使用まで湿潤環境で保存した。
【0049】
試料を、25 mlの、1部の関連歯磨剤と3部(w/w)の蒸留水のスラリーの上清中に、常に攪拌(350 rpm)しながら30分間浸漬することによって処理した。脱イオン水ですすいだ後、先に説明したとおり15秒間の1M HClO4によるエッチングを使用して表層を除去し、フッ化物含有量を測定した。各試料の処理前のフッ化物の(生来の)レベルを処理後の値から引いて、試験処理に起因するエナメル質中のフッ化物含有量の変化を測定した。一元配置分散分析モデルを用いて統計分析を行った。有意差が示された場合、Student Newman-Keuls(SNK)検定によってその個々の平均を分析した。
【0050】
実施例2の歯磨剤と、様々な市販の練り歯磨剤について実施したEFU研究の結果は表IIにまとめられている。試験した製品のうち、本発明の実施例2の歯磨剤は、これらの製剤全てが同一のフッ化物源および同様のフッ化物利用可能性を有するにも関わらず、統計的に優れたEFUを与えた。
【表3】

【0051】
In Vitro再石灰化/脱灰研究
本研究の目的は、フッ化物配合歯磨剤がエナメル質のフッ化物取り込みを促す効力と、食事由来の酸への暴露を模擬した動的条件下で、続いて起こる脱灰を減少させる効力を測定することである。pHと総滴定酸度の点でオレンジジュースと一致させるように、NaOHでpH3.8に調整した1%w/vのクエン酸一水和物の酸性緩衝液を選択した。
【0052】
マウントしたエナメル質試料(3mm直径、n=18)は、EFUについて先に記載した方法に従って作成した。これらの試料を健全な試料またはわずかに侵蝕された試料として用いた。表面微小硬度(SMH)は、ビッカース微小圧子を荷重200gで15秒間用いて測定した。ビッカース硬度(VHN)として表される平均試料硬度は、各試料の表面への4回の圧入から測定した。
【0053】
エナメル質の耐酸性は、上記の試料を個々に5.0mlの攪拌されているクエン酸緩衝液の中に11分間入れることにより測定した。その後、これらの試料を10mlの攪拌されていないクエン酸緩衝液にさらに20分間浸漬した。SMHをその後再測定し、酸で軟化した試料を、侵蝕後の表面微小硬度(SMH)に基づいてグループ分けした。全てのサイクル実験において、プールしたヒト唾液とムチン含有人工唾液緩衝液(M-ASB)との50:50混合物を再石灰化媒体として使用した。上記の人工唾液緩衝液(M-ASB)は、1リットルにつき2.20gの胃粘素、0.381gの塩化ナトリウム、0.213gの塩化カルシウム二水和物、0.738gのオルトリン酸二水素カリウムおよび1.114gの塩化カリウムで構成されていた。ワックスで刺激して分泌させたヒト唾液を少なくとも5個体から採取してプールし、使用まで冷蔵した。その後唾液サンプルを激しく攪拌しながらプールし、続いて30 mlの処理ビーカーに分けた(7.5ml 唾液 + 7.5ml M-ASB)。毎日新鮮な唾液/ミネラル混合物を使用した。
【0054】
処理期間中、日常のブラッシングを模擬するため、試料を歯磨剤スラリーに浸漬した。このスラリーは、5.0gの歯磨剤を、磁気スターラーを含むビーカーに入った10 gの新鮮な唾液/ミネラル混合物溶液に加えることにより調製した。各処理の直前に新鮮なスラリーを調製した。毎日のサイクルレジメンは、5x 2分の酸攻撃と3x 2分の処理期間から成るものであった。処理後、蒸留水を流しながら試料をすすぎ、唾液/M-ASBの中へ戻した。10日間、20日間のサイクルの後、表面微小硬度(SMH)を再測定した。この実験に用いた処理スケジュールは以下に示されるとおりである。
【表4】

【0055】
20日処理レジメンの最後に、マイクロドリル技術を深さ100μmまで用いて各エナメル質試料のフッ化物含有量を測定した。フッ化物データは、採取した試料の単位当たりのフッ化物の重量(μg F/cm3)として算出した。
【0056】
一元配置分散分析モデルを用いて統計的分析を行った。有意差が示された場合、Student Newman-Keuls(SNK)検定によってその個々の平均を分析した。
【0057】
これらの研究の結果を表IIIにまとめる。
【表5】

【0058】
上記のSMH微小硬度(VHN)データは、実施例2の歯磨剤とCrest Cavity Protectionの両方が、10日間、20日間で、エナメル質試料の酸媒介による軟化に対し、フッ化物無配合の対照と比較して統計的に有意なレベルの保護を与えたことを示した。しかし実施例2の歯磨剤は、10日間、20日間で、Crest Cavity Protectionに対して統計的に優位な保護を与えた(表III)。さらに実施例2の歯磨剤は、全研究期間にわたり、病変の表面微小硬度(SMH)の純増加をももたらした。フッ化物取り込みデータは、実施例2の歯磨剤が、Crest Cavity Protectionによる取り込みよりも多くのフッ化取り込みを促し得たことを示した。Crest Cavity Protectionについてフッ化物取り込みの数値増大が観察されたが、これは、フッ化物無配合のプラセボに対しては有意な増大ではなかった。
【0059】
これらの研究は、実施例2の歯磨剤が、エナメル質のさらなる表面軟化からの保護の点でCrest Cavity Protectionに対して統計的に優位であっただけでなく、この特定の研究において病変部が再硬化したことを示している。酸からの保護の程度は、試料によるフッ化物取り込みの程度と正に相関していたが、このことは実施例2の歯磨剤からのより効率的なフッ化物送達が、酸脱灰からの保護の強化をもたらし、より効率的な再石灰化を促すことを示唆している。
【0060】
要約すれば、これらのin vitro研究は、本発明の組成物が食事由来の酸攻撃による度重なる損傷に対して優れたレベルの保護を提供することを示している。
【0061】
実施例5:In Vitro硬組織摩耗研究
放射能による象牙質およびエナメル質摩耗研究を、文献(Hefferen, J. Dent. Res. 55 563-573, 1976、およびHefferenら, J. Dent. Res. 63 1176-1179, 1984)で先に報告されているとおりに行った。
【0062】
象牙質またはエナメル質の試料を中性子束の中に配置し、該試料中に放射性32Pの制御形成を生じさせた。その後この試料を、V-8 cross-brushing machineに取り付けられるように、メチルメタクリレート中にマウントした。10gのピロリン酸二カルシウを加えた50mlの0.5%カルボキシメチルセルロース(CMC)グリセリン溶液から成るスラリーを用いたプレコンディショニングランとして、象牙質試料について1500ストローク、エナメル質試料について5000ストローク、ブラッシングを行った。このスラリーは内部参照標準としても使用した。使用したブラシは、米国歯科医師会(American Dental Association (ADA))により指定されたものであり、ブラシ荷重は150gとした。
【0063】
プレコンディショニングランの後、ブラシ荷重150gを用いて、象牙質について1500ストローク、またはエナメル質について5000ストロークで、サンドイッチ構造で試験を実施した。このサンドイッチ構造では、各試験物質スラリー(25gの歯磨剤と40mlの水)の両側を標準物質スラリー(10g/50 ml 0.5% CMC)で挟んだ。水の対照は、50mlの水のみから成るものであった。ブラッシングが行われるとき、エナメル質または象牙質の表面から粒子が摩耗により剥がれてブラッシングスラリー中に入る。このスラリーの複数アリコートをシンチレーション媒体で希釈し、シンチレーションカウンターを使用して放射能を、すなわち試料からの32Pの喪失を測定した。
【0064】
その後、標準物質添加前および後の各試験スラリーに対する正味カウント数を計算して平均した。標準平均に対する試験スラリーに関するカウント数の比は、相対象牙質摩耗値(RDA)または相対エナメル質摩耗値(REA)の計算に使用される。標準に対する試験スラリーの比に定数100を乗じてRDAスケールを算出し、定数10を乗じてREAスケールを算出する。
【0065】
実施例2の歯磨剤と様々な市販の歯磨剤とのin vitro摩耗について得られた結果を、RDAとREAのそれぞれについて、表IVと表Vにまとめる。実施例2の歯磨剤は被験歯磨剤のうち最も低いRDAおよびREAを示し、硬組織摩耗が極めて低いことを示している。
【表6】

【表7】

【0066】
実施例6:In Vitro微小硬度研究
本実施例では、本発明の組成物が歯のエナメル質を強化および硬化することが可能であり、歯の侵蝕およびトゥースウェアの危険にさらされている歯の保護および治療の両方に用いることができることを示す、さらなる研究を記載する。
【0067】
クエン酸一水和物、塩化マグネシウム、塩化カルシウム二水和物、塩化カリウム、塩化アンモニウム、N-2-ヒドロキシエチルピペラジン-N'-エタンスルホン酸(HEPES)、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムは、Sigma-Aldrich社(Dorset, UK)から入手した。オルトリン酸二水素カリウムは、VWR社(Poole, UK)から入手した。Stycastアクリル樹脂は、Hitek Electronic Materials社(Scunthorpe, UK)から入手した。使用した人工唾液の組成は以下のとおりである:塩化マグネシウム(0.20 mM)、塩化カルシウム二水和物(1.0 mM)、オルトリン酸二水素カリウム(4.0 mM)、HEPES(20.0 mM)、塩化カリウム(16.0 mM)、塩化アンモニウム(4.5 mM)。pHは、水酸化カリウム(1.0 M)を用いて7.0に調整した。
【0068】
試験した製剤を、表VIにまとめる。
【表8】

【0069】
統計的分析
上記データについて分散分析を行い、その後個々の処理を比較した。有意性をp<0.05に設定した。データは、SASプログラム、混合モデル(SAS institute Inc., Cary, USA)を使用して分析した。
【0070】
健全なエナメル質試料の作成
引き抜いたヒト臼歯と小臼歯を、歯根と歯髄を除去した後に飽和チモールの水溶液中で保存した。使用前に、歯を十分にすすいで損傷の痕跡について調べた。ダイヤモンドソー(Struers Minitom)を使用して、健全なエナメル質部分を上記の歯の頬側と舌側から切り取った。この部分をアクリル樹脂中にマウントし、一晩硬化させた。その後、1200〜2400グリットのカーボランダム紙を用いて試料を平らに研磨し、4℃で乾燥保存した。試料は、使用前に少なくとも60分間脱イオン水中で再水和した。
【0071】
微小圧入
試料の表面微小硬度(SMH)を、ビッカースダイヤモンド圧子が取り付けられたStruers Duramin-1微小硬度計を用いて測定した。試料に1.961N(200g)の荷重を20秒のドウェル時間で加えた。表面微小硬度(SMH)は、ビッカース硬度(Vickers Hardness Number (VHN))で表され、各時点における試料のVHNは、6回の圧入の平均に基づくものであった。
【0072】
クエン酸媒介によるエナメル質表面軟化
24個の健全なエナメル質試料のベースライン表面微小硬度(SMH)を測定し、これらの試料を4つの処理グループ(n=6)の1つに無作為に割り当てた。各試料に個別に番号を付け、それぞれの対照として使用した。試料を、脱イオン水から調製した4種の攪拌されている歯磨剤スラリー(1:3)の1つに120秒間浸漬した。その後試料を脱イオン水ですすぎ、1%クエン酸(pH 3.75)中に計30分間浸漬した。試料を10分間隔で除去し、残留酸を除去するために脱イオン水中ですすいだ後、表面微小硬度(SMH)を測定した。
【0073】
エナメル質表面軟化研究の結果を、図1にまとめる。表面微小硬度(SMH)値は、ベースラインに対して正規化されている。実施例1の歯磨剤で処理した試料およびElmex Sensitiveで処理した試料の酸誘導性表面軟化の程度は、全時点において、Colgate Sensitiveで処理した試料およびフッ化物無配合の対照で処理した試料と比較して統計的に有意な程度に減少した。酸媒介による表面軟化の抑制は、20分、30分後は実施例1の歯磨剤がElmex Sensitiveに対して統計的に優位であったが、10分後は優位ではなかった。表面軟化の抑制は、20分、30分の時点ではColgate Sensitiveがフッ化物無配合の対照に対して統計的に優位であったが、10分の時点では優位ではなかった。
【0074】

【0075】
要約すると、上記のエナメル質表面軟化モデルは、本発明の組成物が、侵蝕性攻撃からエナメル質を保護することが可能であり、このため歯の侵蝕およびトゥースウェアに対する保護の提供に役立つことを示している。
【0076】
病変の再硬化
侵蝕性病変は、24個の健全なエナメル質の試料から、10 mlの1.0% w/wクエン酸溶液、pH 3.75の中に30分間上記試料を個々に浸漬させることによって作成した。その後、ベースライン表面微小硬度(SMH)を測定し、試料を4つの処理グループ(n=6)の1つに無作為に割り当てた。さらに、各試料に個別に番号を付け、それぞれの対照として使用した。試料を、脱イオン水から調製した4種の攪拌されている歯磨剤スラリー(1:3)の1つに120秒間浸漬した。その後試料を脱イオン水ですすぎ、対応歯磨剤スラリーのアリコートを含有する人工唾液に入れ、当該製剤のin vivoキャリーオーバーを模倣した。
【0077】
元の練り歯磨剤の漸次高希釈を用いて3つの別々の研究を行い、歯磨剤使用の数分後および数時間後に唾液中に含まれるキャリーオーバー濃度を模擬した。最初に、練り歯磨剤の人工唾液中での希釈レベル1:1426を選択した(研究R1)。この希釈は、唾液中のフッ化物濃度約1ppmをもたらした。その後の実験では、人工唾液中のフッ化物の最終濃度が約0.04 ppmおよび約0.02 ppm(それぞれ研究R2およびR3)となるように希釈レベルを増大させた。試料の再硬化は、改質した人工唾液中で4時間、24時間および48時間インキュベーションした後に測定した。市販の練り歯磨剤を含むエナメル質再硬化研究R1〜R3の結果を、図2〜4にそれぞれまとめる。この場合もやはり表面微小硬度(SMH)値は、ベースラインに対して正規化されている。
【0078】

【0079】
人工唾液にフッ化物が約1 ppm含まれていた研究R1では、全ての処理グループが、全時点で、ベースラインに対して統計的に有意な程度に再硬化した。フッ化物ベースの処理は全て、フッ化物無配合の対照と比較して統計的に優位な再硬化を4時間で与えた。この時点では、フッ化物処理間の数値差は統計的に有意ではなかった。しかし、24時間および48時間の時点で、実施例1の歯磨剤で処理したグループは、他の全ての処理グループに対して統計的に優位な再硬化を示した。Elmex Sensitiveは、Colgate Sensitiveおよびフッ化物無配合のプラセボに対して24時間および48時間の時点で有意に優れていた。Colgate Sensitiveは、フッ化物無配合の対照に対して48時間の時点で統計的に優位であったが、24時間の時点では優位ではなかった。
【0080】
研究R2とR3から得られたデータを、図3と図4にそれぞれまとめる。挙動傾向は、図2に観察される挙動と類似している。
【0081】

【0082】
さらに、全ての処理グループが、ベースラインに対して統計的に有意な程度に侵蝕性病変を再硬化させた。実施例1の歯磨剤で処理したグループは、全時点でColgate Sensitiveおよびフッ化物無配合の対照と比較して統計的に優位な再硬化を示し、Elmex Sensitiveに対しては、24時間および48時間の時点で統計的に優位であった。4時間の時点では、Elmex Sensitive、Colgate Sensitiveおよびフッ化物無配合の対照との間に有意な差異は見られなかったが、24時間の時点と48時間の時点では、Elmex Sensitiveは、Colgate Sensitiveとフッ化物無配合の対照の両方に対して統計的に優位であった。Colgate Sensitiveは、どの時点においても、フッ化物無配合の対照に対して統計的に優位ではなかった。
【0083】

【0084】
図2〜4に表されるデータは、侵蝕性病変が再硬化され得ること、また再硬化はフッ化物含有練り歯磨剤の使用により促進されることを明確に示している。エナメル質表面微小硬度(SMH)の増加は、病変修復の結果として生じると考えられ、この修復中に新たなミネラルがエナメル質表面および脱灰した表層内に沈着する。
【0085】
実施例1の歯磨剤とElmex Sensitiveの2種類のフッ化物含有練り歯磨剤で処理した侵蝕性病変は、全時点で、また4時間の時点の差異が有意ではなかったR3を除く3つ全ての研究において、フッ化物無配合のプラセボに対して統計的に有意な程度に再硬化した。実施例1の歯磨剤を用いた処理は、24時間および48時間の時点で、Elmex Sensitiveを用いた場合に観察された再硬化と比較して病変のより優れた再硬化を一貫してもたらした。従って、この傾向は、研究範囲全体にわたって人工唾液に加えられたフッ化物のレベルとは無関係であった。病変修復率は、人工唾液中のフッ化物レベルに対して比較的非感受性であった。このことは、最初の処理がその後の再硬化の程度を決定する主要因であることを示唆するだろう。Colgate Sensitiveを用いた病変の処理は、フッ化物無配合の対照練り歯磨剤を用いた場合に観察された再硬化より方向性の優れた再硬化をもたらした。この場合、スラリー処理中のフリーのフッ化物のレベルは低くなると考えれられるが、人工唾液中でのインキュベーションの間にモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)がエナメル質の表面に結合して加水分解する機会がある。研究R1において、人工唾液中に含まれるモノフルオロリン酸ナトリウム(MFP)の完全な加水分解により、少なくとも1 ppmのフリーのフッ化物が生じると期待されるだろう。
【0086】
要約すると、微小硬度研究は、フッ化物含有練り歯磨剤が、クエン酸に起因するエナメル質表面軟化の抑制およびエナメル質の侵蝕性病変の修復促進の両方を行うことができることを示している。特に、本研究において用いられる実施例1の歯磨剤は、歯のエナメル質への取り込みを増強するように設計された高レベルの利用可能なフッ化物を有し、期待できるレベルのエナメル質保護と病変修復を有利に示した。
【0087】
実施例7:ステイン除去効率
この実施例は、本発明の組成物と、幾つかの市販の歯磨剤:Elmex(登録商標) Sensitive (Gaba, Switzerland)、Sensodyne MultiCare(登録商標)およびAquafresh Fresh'n'Minty(登録商標)とのステイン除去能力を比較する2つの異なる方法を記載する。
【0088】
被膜(ペリクル)清浄率法(Pellicle Cleaning Ratio Methodology)
上記の被膜(ペリクル)清浄率法(PCR)には、切り取って研磨し、酸でエッチングしたウシエナメル質を、食事由来の色素原と色素菌を組み込んだ複合人工ステインの積層の基質として使用する。被膜(ペリクル)清浄率法(PCR)試験は全て、Stookeyら, J. Dent. Res. 61: 1236-1239, 1982に記載のとおりに行った。
【0089】
実施例1の歯磨剤とElmex(登録商標)について測定した被膜(ペリクル)清浄率(PCR)値を、表VIIに示す:
【表9】

【0090】
これらの値の間の差異は、清浄力の点で統計的に有意なものではなかった。
【0091】
天然の外因性ステイン除去(NESR)法
ウシ切歯の歯冠を切り取り、歯髄を除去し、脱イオン水中ですすいで乾燥させた。アクリル系マウンティング溶液を、100gの自己硬化型アクリル系補修材粉末と40gの自己硬化型アクリル系液体(両方ともBracon Ltd.製)とを混合することにより調製した。結果として生じた混合物を、3.5 cm直径×1.5 cm深さのボトルキャップ(Ecotrin, Van Blarcom Closures)に流し込んだ。硬化している間に、各キャップに入った上記の混合物の中に歯を押し込み、ほぼ平坦な表面を確保するために平らにした。歯は全て、キャップの中央にマウントした。
【0092】
マウントした歯を、Oral B 40 Indicator歯ブラシを用いる42段階相互作用ブラッシングマシンの中の機械加工スロット中に、ブラシが歯の長さに対して上下に移動するように設置した。ブラッシング速度は、ブラシ荷重100gで1分当たり100サイクルであった。
【0093】
緩いステインを除去するため、上記の歯を、脱イオン水にMacleans Milkteethを加えた1:3 w/wスラリーを用いて10分間プレブラシした。歯を取り出し、水ですすいで一晩風乾させた。
【0094】
歯に付着したステインは、Hunterlab Huntercolour LS6100クロマメーターを使用し、CIE lab L*A*B*スケールのL*パラメーターを用いて評価した。測定値は、各歯の周囲の5つの等間隔の点それぞれから取得した。プレブラッシング後のL*値範囲が50〜90の歯を、無作為に処理グループに割り当てた。
【0095】
試験練り歯磨剤(A)のステイン除去能力は、標準対照(B)と比較して測定することができる。AとBとの2製品比較のため、上記の歯を無作為に2セットに分けた。最初の処理段階では、1セットの歯は、脱イオン水に製剤Aを加えた1+1 w/wスラリーを用いて30分間ブラッシングし、第2セットの歯は製剤Bを同条件で用いてブラッシングした。歯を洗浄し、上記のとおり乾燥させた。L*値を記録した後、歯を第2処理段階に付した。この段階では、先に製剤Aで処理したセットを製剤Bで処理し、製剤Bで処理したセットを製剤Aで処理した。歯を洗浄し、乾燥させて上記のとおりL*値を測定した。各処理グループは14個の歯で構成されていた。すなわち2製品比較当たり28個の歯を用いた。
【0096】
AとBとの相対ステイン除去効率を、各処理シークエンスについて、最初の処理段階の間に除去されたステイン量を両方の処理段階により除去された総ステイン量の割合として比較することにより判定した。すなわち、式:
ΔL*(T1[A])/ΔL*(T1[A])+ΔL*(T2[B])
が式:
ΔL*(T1[B])/ΔL*(T1[B])+ΔL*(T2[A])
(式中、
T1とT2は、それぞれ処理段階1と処理段階2であり、また
AとBは、それぞれ製剤Aと製剤Bである)
と統計的に有意に異なるか否かを判定した(p<0.05、両側スチューデントt-検定)。ここで、値はパーセントとして表され、0〜100%の範囲内に制限される。
【0097】
実施例1の歯磨剤について測定したNESR値を、Sensodyne MultiCare(登録商標)、Aquafresh Fresh'n'Minty(登録商標)およびElmex(登録商標) Sensitiveと別々に比較して、下記の表VIIIに示す:
【表10】

【0098】
表VIIIは、実施例1の歯磨剤が、NESRモデルにおいてSensodyne MultiCare(登録商標)またはAquafresh Fresh'n'Minty(登録商標)より多くのステインを除去することを示している。5%レベルでは有意ではないが、上記のデータは実施例1の歯磨剤がElmex(登録商標) Sensitiveをしのぎ得ることを示唆する幾つかの証拠も提供する(実施例1の歯磨剤を用いた第1のブラッシングによって42%のステインが除去されたのに対し、Elmex(登録商標)を用いた第1のブラッシングによって除去されたステインは32%であった)。
【0099】
実施例1の歯磨剤のステイン除去能力は、低摩耗性の製品にしては高い。この性能は、一つには当該製剤中の5%KNO3の存在に起因するものと考えられる。この効果は、硝酸カルシウムの比較的高い溶解性から生じる可能性がある。つまり、ステイン中のカルシウムの一部が硝酸イオンの存在により溶液中に放出され、これによりステインマトリクスを弱める。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯の侵蝕の治療用歯磨剤組成物であって、フッ化物イオン源およびシリカ歯研磨剤を含み、該歯磨剤が相対象牙質摩耗(RDA)値20〜60とpH範囲6.5〜7.5を有し且つオルトリン酸塩緩衝剤またはC10-18アルキル硫酸の水溶性塩を含まない、前記組成物。
【請求項2】
フッ化物イオン源が、アルカリ金属フッ化物、アルカリ金属モノフルオロリン酸塩、フッ化スズもしくはアミンフッ化物、またはこれらの混合物である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
フッ化物イオン源がフッ化ナトリウムである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
研磨剤が、歯磨剤のRDAを25〜50に維持するのに十分な量で含まれる、請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項5】
歯磨剤のRDAが25〜40である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
カルシウム塩を含まない、請求項1〜5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
界面活性剤として、両性界面活性剤もしくは低イオン性界面活性剤またはこれらの混合物を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
両性界面活性剤が低イオン性界面活性剤と共に含まれる、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
両性界面活性剤が唯一の界面活性剤として含まれる、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
両性界面活性剤が、長鎖アルキルベタイン、もしくは長鎖アルキルアミドアルキルベタイン、またはこれらの混合物から選択される、請求項7〜9のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
低イオン性界面活性剤が、ココイルメチルタウリンナトリウムである、請求項7または8に記載の組成物。
【請求項12】
pHが6.8〜7.2の範囲である、請求項1〜11のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項13】
脱感作剤をさらに含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項14】
脱感作剤が、硝酸カリウム、クエン酸カリウム、塩化カリウム、重炭酸カリウム、グルコン酸カリウムまたはこれらの混合物から選択されるカリウム塩である、請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
脱感作剤が硝酸カリウムである、請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
抗侵蝕剤をさらに含む、請求項1〜15のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項17】
乳白剤として、二酸化チタンを組成物全体の0.05〜2重量%の量でさらに含む、請求項1〜16のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項18】
歯の侵蝕および/またはトゥースウェアの治療方法であって、治療を必要とする個体に、請求項1〜17のいずれか1項に記載の組成物の有効量を適用することを含んでなる、前記方法。

【公表番号】特表2008−533183(P2008−533183A)
【公表日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−502325(P2008−502325)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/002665
【国際公開番号】WO2006/100071
【国際公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【出願人】(397009934)グラクソ グループ リミテッド (832)
【氏名又は名称原語表記】GLAXO GROUP LIMITED
【住所又は居所原語表記】Glaxo Wellcome House,Berkeley Avenue Greenford,Middlesex UB6 0NN,Great Britain
【Fターム(参考)】