説明

フッ素ゴム架橋体の製造方法

【課題】評価方法IIに対する低粘着特性を実現でき、ゴム硬度上昇性に優れたポリオール系架橋系のフッ素ゴム架橋体の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係るフッ素ゴム架橋体の製造方法は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級ホスホニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを含有し、且つ前記架橋促進剤と前記ポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.90〜3.00であるフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品を成形し、次いで、前記ポリオール系架橋剤及び前記架橋促進剤を溶剤に溶解させた処理液を前記加硫品の表面に塗布し、次いで、200℃〜300℃の温度範囲で1〜20時間熱処理することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハードディスク(HDD)装置のヘッド制御部(マグネットフォルダータイプ等のストッパー)などに用いるフッ素ゴム架橋体の製造方法に関し、詳しくは、硬度上昇と低粘着効果に優れたフッ素ゴム架橋体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハードディスク(HDD)のヘッドアームの位置決めや緩衝部品としてゴム、エラストマー、樹脂、金属が使用されているが、近年、緩衝性重視設計、騒音低減ニーズ等からゴム、特にフッ素ゴムが使用されるケースが増加している。
【0003】
従来のフッ素ゴムは優れた衝撃吸収性、クリーン性を持つ材料であるが、非粘着性という特性において難点を抱えている。例えば、従来のフッ素ゴムを、ハードディスク(HDD)の記憶装置のストッパーなどとして用いると、ストッパーとアームとの粘着による誤作動が問題になる。
【0004】
特許文献1には、フッ素ゴムの架橋剤および架橋促進剤溶液をゴム表面に塗布含浸させ、再架橋させることにより、表面を非粘着化する方法が開示されている。しかし、この手法では、溶剤を多量に使用するため溶剤処理のための環境への影響といった問題があり、また浸透制御のために溶剤を用いる場合には、製品機能のバラツキという問題があり、HDDの動作不良の原因となる問題もある。
【0005】
本発明者は、非粘着化を後処理に頼るのではなく、配合からのアプローチといった新しい視点から検討を実施することで、非粘着化を達成する技術を先に提案している(特許文献2)。即ち、特許文献2には、ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級ホスホニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを含有するフッ素ゴム組成物において、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム組成物に配合する架橋促進剤である第4級ホスホニウム塩と架橋剤の添加比(架橋促進剤/架橋剤)を0.9以上5以下として、従来のフッ素ゴム組成物における架橋促進剤の添加比を増加させることにより、ゴム表面を低粘着化する技術が開示されている。
【特許文献1】特公平4−37094号公報
【特許文献2】国際公開第2004/094479号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2の技術は、60℃〜23℃の範囲の湿度変化に対応する粘着増加率(評価方法I)で見ると、粘着増加率は10%以下で、優れた低粘着特性を示している。
【0007】
近年、フッ素ゴム架橋体を高温(80℃)と低温(0℃)の環境変化を繰り返した際の粘着増加率(評価方法II)が10%以下であるような低粘着特性が要求されるようになってきた。この面でみると、特許文献2の技術では、評価方法IIに対する低粘着特性はいまだ改良すべき余地が残されていた。
【0008】
本発明の課題は、評価方法IIに対する低粘着特性を実現でき、ゴム硬度上昇性に優れたポリオール系架橋系のフッ素ゴム架橋体の製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の課題は、以下の記載により明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は以下の各発明によって解決される。
【0011】
(請求項1)
ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級ホスホニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを含有し、且つ前記架橋促進剤と前記ポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.90〜3.00であるフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品を成形し、
次いで、前記ポリオール系架橋剤及び前記架橋促進剤を溶剤に溶解させた処理液を前記加硫品の表面に塗布し、
次いで、200℃〜300℃の温度範囲で1〜20時間熱処理することを特徴とするフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【0012】
(請求項2)
ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級アンモニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを含有し、且つ前記架橋促進剤と前記ポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.4〜0.6であるフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品を成形し、
次いで、前記ポリオール系架橋剤及び前記架橋促進剤を溶剤に溶解させた処理液を前記加硫品の表面に塗布し、
次いで、200℃〜300℃の温度範囲で1〜20時間熱処理することを特徴とするフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【0013】
(請求項3)
前記処理液は、前記ポリオール系架橋剤5〜20wt%(全量に対して)と前記架橋促進剤1〜10wt%(全量に対して)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【0014】
(請求項4)
前記処理液による塗布膜厚が、1〜15μmの範囲であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【0015】
(請求項5)
評価方法IIによるマグネット粘着増加率が、10%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【0016】
(請求項6)
HDD内のマグネットフォルダータイプストッパーに用いるポリオール系架橋系のフッ素ゴム架橋体を製造することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、評価方法IIに対する低粘着特性を実現でき、ゴム硬度上昇性に優れたポリオール系架橋系のフッ素ゴム架橋体の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
〔フッ素ゴム組成物〕
本発明のフッ素ゴム組成物は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを少なくとも含有する。
【0019】
<ポリオール架橋可能なフッ素ゴム>
ポリオール架橋可能なフッ素ゴム(ポリオール架橋系フッ素ゴム)としては、1種又は2種以上の含フッ素オレフィンの重合体又は共重合体を用いることができる。
【0020】
含フッ素オレフィンとしては、具体的には、例えば、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、フッ化ビニル、パーフルオロアクリル酸エステル、アクリル酸パーフルオロアルキル、パーフルオロメチルビニルエーテル、パーフルオロプロピルビニルエーテル等が挙げられる。
【0021】
これらの含フッ素オレフィンは1種又は2種以上組み合わせて用いることもできる。
【0022】
このようなポリオール架橋系フッ素ゴムとしては、好ましくは、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン2元共重合体(略称:VDF−HFP)、テトラフルオロエチレン−プロピレン2元共重合体(略称:TFE−P)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン3元共重合体(略称:VDF−HFP−TFE)等が挙げられ、これらは市販品として入手できる。
【0023】
<ポリオール系架橋剤>
ポリオール系架橋剤としては、ビスフェノール類が好ましい。具体的には、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン[ビスフェノールS]、ビスフェノールA−ビス(ジフェニルホフェート)、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等のポリヒドロキシ芳香族化合物が挙げられ、好ましくはビスフェノールA、ビスフェノールAF等が用いられる。これらはアルカリ金属塩あるいはアルカリ土類金属塩の形であってもよい。
【0024】
また、ポリオール系架橋剤として、原料ゴムとポリオール系架橋剤とを含む市販のマスターバッチを用いてもよい。市販のマスターバッチとしては、例えばキュラティブVC#30(デュポン・ダウ・エラストマー社製:架橋剤〔ビスフェノールAF〕50wt%含有)等が挙げられる。これらの架橋剤は1種又は2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0025】
<架橋促進剤>
本発明において架橋促進剤として用いられる第4級アンモニウム塩は、下記一般式(1)で示される化合物(以下、本発明の第4級アンモニウム塩という)を用いることができる。
【0026】
【化1】

【0027】
上記一般式中、Rは炭素数1〜24のアルキル基又は炭素数7〜20のアラルキル基を表し、Xはテトラフルオロボレート基又はヘキサフルオロホスフェート基を表す。
【0028】
本発明の第4級アンモニウム塩としては、Rがベンジル基である化合物が好ましく、例えば5−ベンジル−1,5−ジアザビシクロ〔4,3,0〕−5−ノネニウム テトラフルオロボレート(略称:DBN−F)又はヘキサフルオロホスフェート(略称:DBN−P)などが挙げられる。
【0029】
これらテトラフルオロボレート又はヘキサフルオロホスフェートは、それぞれ約80℃及び100℃の融点を有し、ロール、ニーダー、バンバリーなどによる加熱混練時(100℃)に容易に融解するので、分散性に優れる。
【0030】
本発明の第4級アンモニウム塩として、原料ゴムと第4級アンモニウム塩とを含む市販のマスターバッチを用いてもよい。
【0031】
また、本発明において架橋促進剤として用いられる第4級ホスホニウム塩は、一般式(RP)で表される。式中、R〜Rは炭素数1〜25のアルキル基、アルコキシ基、アリール基、アルキルアリール基、アラルキル基またはポリオキシアルキレン基であり、あるいはこれらの内の2〜3個がPと共に複素環構造を形成することもできる。XはCl、Br、I、HSO、HPO、RCOO、ROSO、RSO、ROPO、CO−−等のアニオンである。
【0032】
第4級ホスホニウム塩の具体例としては、例えばテトラフェニルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムクロライド、トリフェニルベンジルホスホニウムブロマイド、トリフェニルメトキシメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルメチルカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリフェニルエトキシカルボニルメチルホスホニウムクロライド、トリオクチルベンジルホスホニウムクロライド、トリオクチルメチルホスホニウムブロマイド、トリオクチルエチルホスホニウムアセテート、トリオクチルエチルホスホニウムジメチルホスフェート、テトラオクチルホスホニウムクロライド、セチルジメチルベンジルホスホニウムクロライドなどが挙げられる。
【0033】
第4級ホスホニウム塩として、原料ゴムと架橋促進剤とを含む市販されているマスターバッチを用いてもよい。
【0034】
<その他の配合成分>
本発明において、その他の配合成分としては、
例えばカーボンブラック、カーボン繊維など補強剤;
ハイドロタルサイト(Mg6Al2(OH)16CO3)、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、チタン酸カリウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、硫酸バリウム、硼酸アルミニウム、ガラス繊維、アラミド繊維等の充填剤;
ワックス、金属セッケン等の加工助剤;
水酸化カルシウム、酸化亜鉛などの受酸剤;
老化防止剤;熱可塑性樹脂;などのようなゴム工業で一般的に使用されている配合剤を本発明に使用する架橋剤及び架橋促進剤の効果を損なわない範囲で必要に応じて添加できる。
【0035】
また、本発明では、導電性添加剤を配合することもできる。本発明に用いることができる導電性添加剤としては、アセチレンブラック又はケッチェンブラックなどが挙げられるが、中でもアセチレンブラック又はケッチェンブラックが好ましい。なお、アセチレンブラックとケッチェンブラックを併用することもできる。
【0036】
<配合比>
本発明において、架橋促進剤とポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)は架橋促進剤が第4級ホスホニウム塩である場合、0.90〜3.00の範囲であり、好ましくは0.90〜2.00の範囲である。
【0037】
本発明では、架橋促進剤の添加比を増加させて良好な非粘着特性が得られるが、後述する表面処理との組み合わせにより、評価方法Iだけでなく、評価方法IIにおいても粘着率の増加が低減し、粘着性のバラツキを抑制する。
【0038】
また本発明において、架橋促進剤とポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)は架橋促進剤が第4級アンモニウム塩である場合、0.40〜0.6の範囲である。
【0039】
架橋促進剤(第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩)の配合量は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム100重量部に対して、0.95〜20重量部の範囲が好ましく、より好ましくは1.0〜10重量部の範囲である。
【0040】
ポリオール架橋剤(好ましくはビスフェノール類)は、ポリオール架橋可能なフッ素ゴム100重量部に対して、通常、0.4〜20重量部の範囲が好ましく、より好ましくは1〜10重量部の範囲である。
【0041】
<調製>
本発明に係るポリオール架橋可能なフッ素ゴム組成物の調製法としては、例えば、所定量の上記各成分を、インターミックス、ニーダ、バンバリーミキサー等の密閉型混練機またはオープンロールなどゴム用の一般的な混練機で混練する手法や、各成分を溶剤等で溶解して、攪拌機等で分散させる方法などが挙げられる。
【0042】
〔フッ素ゴム架橋体の製造方法〕
<一次加硫(架橋)による加硫品の成形>
上記のように調製されたフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品を成形する。
【0043】
具体的には、上記のように調製されたフッ素ゴム組成物を、射出成形機、圧縮成形機、加硫プレス機、オーブンなどを用いて、通常、140℃〜230℃の温度で1〜120分程度加熱(一次加硫)することにより、架橋(加硫)して加硫品を成形できる。
【0044】
一次加硫は、一定の形状を形成(予備成形)するために、形状を維持できる程度に架橋させる工程であり、複雑な形状では、好ましくは、金型により成形され、空気加熱等のオーブンでも一次加硫は可能である。
【0045】
本発明では、フッ素ゴム組成物の混練後に被処理物を圧縮成形する場合、上記混練後は、通常、(a)一旦常温に戻し、再び昇温して圧縮成形してもよく、あるいは(b)混練後そのまま昇温を続けて圧縮成形してもよい。通常、圧縮成形機を用いる圧縮工程では、工程上、上記(a)の手法になる。
【0046】
また、例えばゴムホース等のフッ素ゴム成形品を製造する場合、フッ素ゴム組成物の混練後、チューブ状に押し出しをして、そのままオーブン加硫を実施することができるが、その場合は、(b)の手法となる。
【0047】
フッ素ゴム組成物の加硫前に、該組成物を一定形状にしておけば、(a)の手法でも(b)の手法でも、低粘着性の成形品を得ることができる。
【0048】
<表面処理液の塗布>
次いで、前記ポリオール系架橋剤及び前記架橋促進剤を溶剤に溶解させた処理液を前記加硫品の表面に塗布する。
【0049】
処理液に用いるポリオール架橋可能なフッ素ゴムの架橋に用いるポリオール系架橋剤としては、前述したポリオール系架橋剤を用いることができる。
【0050】
また第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩からなる架橋促進剤も、前述の第4級アンモニウム塩又は第4級ホスホニウム塩を用いることができる。また必要によりジメチルスルホン、p,p−ジクロロジフェニルスルホンのようなスルホン類、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドのようなスルホキシド類から選ばれる架橋促進助剤を添加することもできる。
【0051】
溶剤としては、アセトン、メタノール、イソプロピルアルコールのような有機溶剤の1種を使用してもよいし、また2種以上を組み合わせ使用してもよい。
【0052】
ゴム加硫品の表面処理液の配合比は、前記ポリオール系架橋剤5〜20wt%(全量に対して)と前記架橋促進剤1〜10wt%(全量に対して)が好ましい。
【0053】
塗布法は、スプレー法、はけ塗り、インクジェットなどのいずれの方法でも同等の膜厚が形成できればよい。かかる塗布法によれば、特公平4−37094号公報のような全面浸漬とは異なり、部分塗布であるため、特公平4−37094号公報における溶剤多使用による環境への影響といった問題が解消され、製品機能のバラツキも解消される。
【0054】
処理液による塗布膜厚は、1〜15μmの範囲であることが好ましい。
【0055】
<熱処理>
上記のようにして加硫品表面に表面処理液により塗膜を形成した後、熱処理を行う。
【0056】
本発明では、200℃〜300℃の温度範囲で1〜20時間熱処理する。
【0057】
本発明の熱処理方法は、通常の2次加硫と同じであるが、上記の塗膜形成された加硫品でなければ、通常の2次加硫を行っても、所定の低粘着性(評価方法IIを満足する)、硬度上昇された本発明に係るフッ素ゴム架橋体は得られない。
【0058】
本発明においては、ゴム配合によって評価方法Iによる低粘着性を実現しているが、更に、上記の表面処理液による塗膜形成によって、2重に低粘着層が形成される。そして更に重要なことは低粘着性が必要な部分にのみ塗膜が形成されているので、それ以外の部位のフッ素ゴム架橋体自体の特性、特に硬度を変化させることがない。
【0059】
またフッ素ゴムと低粘着層が架橋により反応しているため、十分な強度を保有しており、通常のコーティングのような低粘着層剥がれ等がない。
【0060】
本発明に係るフッ素ゴム架橋体の粘着特性の変化は、下記評価方法Iのみならず、下記評価方法IIによるマグネット粘着増加率が、10%以下であることが好ましい。
【0061】
(評価方法I)
図1に示すように下を固定した磁石(永久磁石、形状:厚さ3.6mm、縦3mm×横3mmの角柱)上に、厚さ0.4mm、縦3mm×横3mmの試料ゴムシートを重ねておいた。この試料ゴムシート上に金属棒(SPCC(冷間圧延鋼板)製、重さ:30g、ゴムとの接触部分の形状:3mm×1mmの角棒)を置き、23℃、湿度50%の条件下で、ゴムと金属棒との間の初期粘着力Fを測定した。
【0062】
次いで、試料ゴム上に再度金属棒を置き、磁石、試料ゴム及び金属棒からなる試験ユニットを60℃、湿度80%の条件下で10時間静置した。
【0063】
その後、試験ユニットを23℃、湿度50%の条件下に戻し、湿度負荷後の粘着力F’を測定した。これら測定値F、F’を用いて下記式により粘着増加率を求めた。
【0064】
(粘着増加率)=100×(F’−F)/F
【0065】
(評価方法II)
図1に示すように下を固定した磁石(永久磁石、形状:厚さ3.6mm、縦3mm×横3mmの角柱)上に、厚さ0.4mm、縦3mm×横3mmの試料ゴムシートを重ねておいた。この試料ゴムシート上に金属棒(SPCC(冷間圧延鋼板)製、重さ:30g、ゴムとの接触部分の形状:3mm×1mmの角棒)を置き、23℃、湿度50%の条件下で、ゴムと金属棒との間の初期粘着力Fを測定した。
【0066】
次いで、試料ゴム上に再度金属棒を置き、磁石、試料ゴム及び金属棒からなる試験ユニットを80℃下で2時間放置後、0℃下で2時間放置する。この温度変化による放置を20サイクル繰り返して、最後のサイクル後に0℃雰囲気から試験ユニットを取り出し、粘着力F”を測定し、これら測定値F、F”を用いて下記式により粘着増加率を求めた。
【0067】
(粘着増加率)=100×(F”−F)/F
【実施例】
【0068】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はかかる実施例によって何ら限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム;
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・9.0重量部
(注:ロール投入)
【0070】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0071】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0072】
<表面処理液の調製及び塗布>
下記組成からなる表面処理液を調製した。
【0073】
(1)ビスフェノールAF(架橋剤);(ユニマテック社製「CHEMINOX BAF」(純度98%以上) ・・・10重量%
(2)第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤);ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド ・・・2重量%
(3)アセトン/メタノール(1/1)混合溶媒 ・・・20重量%
【0074】
上記の表面処理液を前記の加硫品の表面にスプレー塗布した。その後、30分以上風乾を行った後、120℃30分間予備乾燥を行った。
【0075】
乾燥膜厚は表1記載のとおりである。なお、表1に記載の膜厚は加硫品と並べて処理したポリイミドの膜厚を膜厚計で測定した値である。このとき膜厚が5μmとなるよう調整した。
【0076】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0077】
<測定>
得られた熱処理物について、ゴム硬度(表面処理する前と処理後の両方を測定した)、粘着増加率を以下の方法で測定した。その結果を表1に示す。
【0078】
ゴム硬度
JIS K6253に準拠し、タイプAデュロメーターで測定した。通常40〜95(ポイント)が好ましく、60〜90(ポイント)がより好ましい。
【0079】
粘着増加率の測定
評価方法I :前述した方法による。
評価方法II:前述した方法による。
【0080】
(実施例2)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム;
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・9.0重量部
(注:ロール投入)
【0081】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0082】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0083】
<表面処理液の調製及び塗布>
下記組成からなる表面処理液を調製した。
【0084】
(1)ビスフェノールAF(架橋剤);(ユニマテック社製「CHEMINOX BAF」(純度98%以上) ・・・10重量%
(2)第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤);ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド ・・・2重量%
(3)アセトン/メタノール(1/1)混合溶媒 ・・・20重量%
【0085】
上記の表面処理液を前記の加硫品の表面にスプレー塗布した。その後、30分以上風乾を行った後、120℃30分間予備乾燥を行った。
【0086】
乾燥膜厚は表1記載のとおりである。なお、表1に記載の膜厚は加硫品と並べて処理したポリイミドの膜厚を膜厚計で測定した値である。このとき膜厚が8μmとなるよう調整した。
【0087】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0088】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0089】
(実施例3)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム;
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩;デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・9.0重量部
(注:ロール投入)
【0090】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0091】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0092】
<表面処理液の調製及び塗布>
下記組成からなる表面処理液を調製した。
【0093】
(1)ビスフェノールAF(架橋剤);(ユニマテック社製「CHEMINOX BAF」(純度98%以上) ・・・10重量%
(2)第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤);ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド ・・・2重量%
(3)アセトン/メタノール(1/1)混合溶媒 ・・・20重量%
【0094】
上記の表面処理液を前記の加硫品の表面にスプレー塗布した。その後、30分以上風乾を行った後、120℃30分間予備乾燥を行った。
【0095】
乾燥膜厚は表1記載のとおりである。なお、表1に記載の膜厚は加硫品と並べて処理したポリイミドの膜厚を膜厚計で測定した値である。このとき膜厚が12μmとなるよう調整した。
【0096】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0097】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0098】
(比較例1)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・1.6重量部
(注:ロール投入)
【0099】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0100】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0101】
<表面処理液の調製及び塗布>
下記組成からなる表面処理液を調製した。
【0102】
(1)ビスフェノールAF(架橋剤);(ユニマテック社製「CHEMINOX BAF」(純度98%以上) ・・・10重量%
(2)第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤);ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド ・・・2重量%
(3)アセトン/メタノール(1/1)混合溶媒 ・・・20重量%
【0103】
上記の表面処理液を前記の加硫品の表面にスプレー塗布した。その後、30分以上風乾を行った後、120℃30分間予備乾燥を行った。
【0104】
乾燥膜厚は表1記載のとおりである。なお、表1に記載の膜厚は加硫品と並べて処理したポリイミドの膜厚を膜厚計で測定した値である。このとき膜厚が5μmとなるよう調整した。
【0105】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0106】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0107】
(比較例2)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・1.6重量部
(注:ロール投入)
【0108】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0109】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0110】
<表面処理液の調製及び塗布>
下記組成からなる表面処理液を調製した。
【0111】
(1)ビスフェノールAF(架橋剤);(ユニマテック社製「CHEMINOX BAF」(純度98%以上) ・・・10重量%
(2)第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤);ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド ・・・2重量%
(3)アセトン/メタノール(1/1)混合溶媒 ・・・20重量%
【0112】
上記の表面処理液を前記の加硫品の表面にスプレー塗布した。その後、30分以上風乾を行った後、120℃30分間予備乾燥を行った。
【0113】
乾燥膜厚は表1記載のとおりである。なお、表1に記載の膜厚は加硫品と並べて処理したポリイミドの膜厚を膜厚計で測定した値である。このとき膜厚が8μmとなるよう調整した。
【0114】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0115】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0116】
(比較例3)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・1.6重量部
(注:ロール投入)
【0117】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0118】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0119】
<表面処理液の調製及び塗布>
下記組成からなる表面処理液を調製した。
【0120】
(1)ビスフェノールAF(架橋剤);(ユニマテック社製「CHEMINOX BAF」(純度98%以上) ・・・10重量%
(2)第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤);ベンジルトリフェニルホスホニウムクロライド ・・・2重量%
(3)アセトン/メタノール(1/1)混合溶媒 ・・・20重量%
【0121】
上記の表面処理液を前記の加硫品の表面にスプレー塗布した。その後、30分以上風乾を行った後、120℃30分間予備乾燥を行った。
【0122】
乾燥膜厚は表1記載のとおりである。なお、表1に記載の膜厚は加硫品と並べて処理したポリイミドの膜厚を膜厚計で測定した値である。このとき膜厚が12μmとなるよう調整した。
【0123】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0124】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0125】
(比較例4)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・9.0重量部
(注:ロール投入)
【0126】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0127】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0128】
<表面処理液の調製及び塗布>
表面処理は行わない。
【0129】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0130】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0131】
(比較例5)
<配合成分とその配合量>
(1)ポリオール架橋可能なフッ素ゴム;
(デュポン・ダウ・エラストマー社製「バイトンA500」;ポリオール加硫系、ムーニー粘度ML1+10(121℃)45) ・・・100重量部
(2)MTカーボン;
(Huber社製「Huber N-990」;平均粒径500mμ、比表面積6m2/g) ・・・25重量部
(3)酸化マグネシウム
(協和化学工業社製「キョウワマグ#150」) ・・・3重量部
(4)水酸化カルシウム;
(近江化学工業社製「カルディック#2000」) ・・・3重量部
(5)架橋剤;ビスフェノールAF(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#30」;50wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕50wt%のマスターバッチ) ・・・4.5重量部
(注:ロール投入)
(6)架橋促進剤;第4級ホスホニウム塩(デュポン・ダウ・エラストマー社製「キュラティブVC#20」;架橋促進剤33wt%とフッ素ゴム〔バイトンE−45〕67wt%のマスターバッチ) ・・・1.6重量部
(注:ロール投入)
【0132】
<調製及び加硫品の成形>
以上の各配合成分(加硫成分を除く。)をニーダに投入して20分混練した後、オープンロールにて加硫成分を投入することで組成物を調製した。
【0133】
これを170℃で20分加圧加硫することで加硫品を成形した。
【0134】
<表面処理液の調製及び塗布>
表面処理は行わない。
【0135】
<熱処理>
次に、260℃で10時間熱処理を行った。
【0136】
<測定>
得られた熱処理物について、実施例1と同様に測定した。その結果を表1に示す。
【0137】
【表1】

【0138】
<評価>
表1より、実施例1〜3では、表面処理を行うことでゴム硬度の上昇がある。また粘着評価において、評価方法I、II共に増加率が10%以下であり、良好な粘着特性を保持していることがわかる。
【0139】
一方、比較例1〜3では、表面処理を行うことでゴム硬度の上昇がある。またフッ素ゴム組成物が汎用品である第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤)とポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.2(有効成分として)であるものを使用しているので、評価方法I、II共に増加率が10%を越えており、十分な粘着低減効果が得られないことがわかる。
【0140】
比較例4では、表面処理を行っていないが、実施例1と同じゴム配合であるので、粘着増加率の評価方法Iでは十分な非粘着特性を示している。しかし、評価方法IIでは十分な粘着低減効果が得られないことがわかる。
【0141】
また比較例5では、表面処理を行わず、しかもフッ素ゴム組成物が汎用品である第4級ホスホニウム塩(架橋促進剤)とポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.2(有効成分として)であるものを使用しているので、評価方法Iでも十分な粘着低減効果が得られないことがわかる。
【0142】
更に塗布膜厚とゴム硬度の関係について検討すると、以下のようなことがわかった。
【0143】
実施例1〜3及び比較例1〜3のフッ素ゴム架橋体については、塗膜が5μm(塗布回数1回)、8μm(塗布回数2回)、12μm(塗布回数3回)と増加させている。更に追加的に塗布回数を6回として塗膜が22μm(21μm)のフッ素ゴム架橋体(配合は実施例1及び比較例1と同じ)を作成した。
【0144】
膜厚とゴム硬度の関係を以下の表2に示す。
【0145】
(表2)
(本発明品) (比較例品:汎用品)
実施例 塗布回数 膜厚 ゴム硬度 比較例 塗布回数 膜厚 ゴム硬度
0 0 80 0 0 80
1 1 5 84 1 1 5 83
2 2 8 86 2 2 8 84
3 3 12 89 3 3 12 84
追加 6 22 90 追加 6 21 85
【0146】
上記表2の結果をグラフで示すと、図2のようになる。図2には本発明と汎用品(比較例品)の結果が示されている。
【0147】
その結果、本発明品のゴム配合例の場合には、膜厚に依存して硬度が上昇(架橋が進行)していることがわかる。これに対して比較例品(汎用品)の場合は、硬度変化が少ないことがわかる。即ち、例えば、8μmの同じ膜厚であっても、実施例2の場合には比較例2に比べ、硬度が高い、つまり架橋密度が高いこと(低粘着化)を示している。
【0148】
(実施例4(塗膜による樹脂層の確認))
実施例1で得られたフッ素ゴム架橋体の表面処理液による塗布膜(樹脂層)をFT−IR(赤外線吸収スペクトル法に用いる装置)によってその存在を確認した。その結果を図3の(B)に示す。
【0149】
比較例4で得られたフッ素ゴム架橋体の表面をFT−IRによって表面を確認した。その結果を図3の(A)に示す。
【0150】
図3から明らかなように、実施例1のフッ素ゴム架橋体では塗膜による樹脂層が確認できるが、比較例4のフッ素ゴム架橋体では確認できないことがわかる。
【0151】
比較例1で得られたフッ素ゴム架橋体の表面処理液による塗布膜(樹脂層)をFT−IRによってその存在を確認した。その結果を図4の(B)に示す。
【0152】
比較例5で得られたフッ素ゴム架橋体の表面をFT−IRによって表面を確認した。その結果を図4の(A)に示す。
【0153】
図4から明らかなように、比較例1のフッ素ゴム架橋体では塗膜による樹脂層が確認できるが、比較例5のフッ素ゴム架橋体では確認できないことがわかる。
【0154】
〔フッ素ゴム架橋体の用途〕
上記のようして得られたフッ素ゴム架橋体は、低粘着性及び帯電防止性に優れており、中でもHDD内のマグネットフォルダータイプストッパー等に好適に使用でき、その他、ハードディスク(HDD)記憶装置用ヘッド、光ディスク等を用いる車載用ディスク装置やカメラ一体型ビデオレコーダー用ディスク装置等の記憶装置用ヘッド、プリンターヘッド等の衝撃吸収用ストッパー部品;Oリング、パッキン、Vパッキン、オイルシール、ガスケット、角リング、Dリング、ダイアフラム、各種バルブ等の流体(気体等を含む。)漏洩防止用の各種ゴム部品;防振ゴム、ベルト、ゴム引布、ワイパー等の各種ゴム部品等として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】粘着増加率の測定装置及びその測定方法を示す図
【図2】膜厚とゴム硬度の関係を示すグラフ
【図3】FT−IRのグラフを示す図
【図4】FT−IRのグラフを示す図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級ホスホニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを含有し、且つ前記架橋促進剤と前記ポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.90〜3.00であるフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品を成形し、
次いで、前記ポリオール系架橋剤及び前記架橋促進剤を溶剤に溶解させた処理液を前記加硫品の表面に塗布し、
次いで、200℃〜300℃の温度範囲で1〜20時間熱処理することを特徴とするフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【請求項2】
ポリオール架橋可能なフッ素ゴムと、第4級アンモニウム塩からなる架橋促進剤と、ポリオール系架橋剤とを含有し、且つ前記架橋促進剤と前記ポリオール系架橋剤との重量比X(架橋促進剤/ポリオール系架橋剤)が0.4〜0.6であるフッ素ゴム組成物を加圧・加熱・加硫して加硫品を成形し、
次いで、前記ポリオール系架橋剤及び前記架橋促進剤を溶剤に溶解させた処理液を前記加硫品の表面に塗布し、
次いで、200℃〜300℃の温度範囲で1〜20時間熱処理することを特徴とするフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【請求項3】
前記処理液は、前記ポリオール系架橋剤5〜20wt%(全量に対して)と前記架橋促進剤1〜10wt%(全量に対して)を含有することを特徴とする請求項1又は2記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【請求項4】
前記処理液による塗布膜厚が、1〜15μmの範囲であることを特徴とする請求項1、2又は3記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【請求項5】
評価方法IIによるマグネット粘着増加率が、10%以下であることを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。
【請求項6】
HDD内のマグネットフォルダータイプストッパーに用いるポリオール系架橋系のフッ素ゴム架橋体を製造することを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載のフッ素ゴム架橋体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−186554(P2007−186554A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4269(P2006−4269)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000004385)NOK株式会社 (1,527)
【Fターム(参考)】