説明

フッ素ゴム組成物及びこれを用いて形成された成形品

【課題】フッ素ゴムが本来有する生産性を損なうことなく、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪性、低温性等を兼ね備えたフッ素ゴム組成物及びこれを用いて形成された成形品を提供することを目的とする。
【解決手段】(a)ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)化合物の中から選ばれる2種類以上の二重結合を有する化合物と、nが1以上の整数で構成されるパーフルオロ[(アルキルオキシ)n−アルキルビニルエーテル]類の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる有機過酸化物で加硫可能な共重合体と、
(b)有機過酸化物と、
(c)2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物と、
を含有してなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素ゴム組成物及びこれを用いて形成されるガスケット、パッキン及びシール材などの成形品に関し、詳しくは燃料電池において用いられるガス、冷媒、及び生成水などの媒体に対し、優れた加硫物を与えるフッ素ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年開発がなれている固体高分子型燃料電池のガスケットに用いられるゴム組成物としては、シリコーンゴム組成物、エチレンプロピレンゴム組成物、フッ素ゴム組成物などが使用される。
固体高分子型燃料電池は、平板状の電極構造体の両側にセパレータが積層されたものが一つのセル、即ち単位セルとなり、複数の単位セルを積層して燃料電池のスタックとして構成されている。電極構造体は、正極側の電極触媒層(カソード)と、負極側の電極触媒層(アノード)との間に高分子の電解質膜(高分子電極膜)が挟まれ、各電極触媒層の外側にガス拡散層が配置された積層体である。セパレータは電子伝達機能を有する材料から成るもので、電極構造体への対向面にはガス通路が形成され、少なくとも一方のセパレータの表面には冷媒通路が形成されている。
【0003】
これら通路はいずれも溝状であって、ガス通路には燃料ガスである水素ガスと酸素や空気等の酸化剤ガスが夫々独立して流され、冷媒通路には水或いはエチレングリコール等の冷媒が流される。セパレータは、各ガス通路間の突起部がガス拡散層に接触する状態で電極構造体に積層される。そして、それらガスがセル外に漏れ出ることを防止するためのガスケットが装備されている。即ち、セパレータや電解質膜等の、セルを構成すべく積層配備される板状体は、それらの周囲において対向する板状体との間にガスケットを介装させてシールすることが行われている。
【0004】
よってここに用いられるガスケットには、燃料ガス、酸化剤ガス、冷媒をシールするガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、低温性、耐圧縮永久歪などが要求されるが、上述のシリコーンゴム組成物はガスシール性及び耐酸性の面で、エチレンプロピレンゴム組成物は耐圧縮永久歪の面で必ずしも要求を満足し得るものではなかった。
これらの要求に対しては、フッ素ゴム組成物が適した材料として注目されており、その中でも低温特性がよいとされるいわゆる低温フッ素ゴムと称するフッ素ゴム組成物が好適であるとされている。
しかし、この低温フッ素ゴムの低温特性(JIS K6261)は、TR10で−30℃程度であり、TR70は−20℃にさえ届かないレベルであった。これでは、シリコーンゴム組成物、エチレンプロピレンゴム組成物の低温性には及ばず、低温時に十分なシール性を発揮できないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−346087号公報
【特許文献2】特開2007−92076号公報
【特許文献3】特開2004−51728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1及び上記特許文献2に記載のものは、TR10が−30℃以下の低温特性を有するフッ素ゴム組成物であるが、TR70が−20℃であり、燃料電池用のガスケットとして用いる場合、望ましいとされている低温性(TR70が−30℃以下)を満足したものとはいえないものであった。また低温から高温(−30℃から100℃)への急激な熱変動に対する部品の歪まで考慮したものとはいえず、燃料電池用のガスケットとしてのガスシール性、耐冷媒性、耐酸性を確保したものとはいえないものであった。更に、生産性においても課題を有している。
上記特許文献3は、上記低温フッ素ゴムと称するゴムとパーフルオロエーテル結合を主鎖にもつフッ素ゴム組成物が提案されている。しかしながら、これにおいても、燃料電池用のガスケットとして用いる場合に望ましいとされている低温性(TR70は−30℃以下)を満足したものとはいえず、強度が小さく、圧縮永久歪が大きいなど物性面の課題を有している。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑み、フッ素ゴムが本来有する生産性を損なうことなく、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪性、低温性等を兼ね備えたフッ素ゴム組成物及びこれを用いて形成された成形品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1の発明に係るフッ素ゴム組成物は、
(a)ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)化合物の中から選ばれる2種類以上の二重結合を有する化合物と、nが1以上の整数で構成されるパーフルオロ[(アルキルオキシ)n−アルキルビニルエーテル]類の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる有機過酸化物で加硫可能な共重合体と、
(b)有機過酸化物と、
(c)2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物と、を含有してなることを特徴とする。
本発明において、上記有機過酸化物は、担体により担持されていない純品としてもよい。
【0009】
そして本発明のフッ素ゴム組成物は加硫して形成される成形品とすることができ、燃料電池用のガスケットに用いることができる。
また本発明のフッ素ゴム組成物は加硫して形成される成形品は、低温特性(JIS K6261)の範囲において、TR70が−30℃以下、または、TR70が−30℃以上−20℃以下のとき、TR70とTR10の差が10℃以下である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のフッ素ゴム組成物によれば、生産性を損なうことなく、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪性、低温性等を兼ね備えたものを得ることができる。またこれを用いて形成された成形品は、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪、低温性などの諸物性に優れた成形品となりえる。
本発明のフッ素ゴム組成物に含有される有機過酸化物として、担体により担持されていない純品を用いた場合は、担体の影響のないフッ素ゴム組成物となるので、それを用いた成形品は上記物性を確実に確保可能となる。
また、本発明のフッ素ゴム組成物を用いた成形品の低温特性(JIS K6261)の範囲が、TR70が−30℃以下、または、TR70が−30℃以上−20℃以下の場合は、TR70とTR10の差が10℃以下であるので、低温特性に非常に優れた成形品とすることができ、急激な温度変化に対してもシール性および耐久性を十分に確保することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施形態について説明する。
本発明のフッ素ゴム組成物は、(a)ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)化合物の中から選ばれる2種類以上の二重結合を有する化合物と、nが1以上の整数で構成されるパーフルオロ[(アルキルオキシ)n−アルキルビニルエーテル]類の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる有機過酸化物で加硫可能な共重合体と、
(b)有機過酸化物と、
(c)2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物と、
を含有してなるものである。
例えば、フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)と、パーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]類(m=n−1)の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる共重合体、
フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]類(m=n−1)の中から選ばれる1種類以上の二重結合、とを有する化合物を共重合して得られる共重合体、
ヘキサフルオロプロペンと、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)と、パーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]類(m=n−1)の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる共重合体、
フッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)と、パーフルオロ[メトキシ−(エトキシオキシ)m−エチルビニルエーテル]類(m=n−1)の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる共重合体、
ヘキサフルオロプロペンとテトラフルオロエチレンと、パーフルオロ[メトキシ−(エトキシオキシ)m−エチルビニルエーテル]類(m=n−1)の中から選ばれる1種類以上の二重結合とを有する化合物とを共重合して得られる共重合体、
などが一例として挙げられる。
【0012】
本発明に用いられる有機過酸化物で加硫可能なフッ素ゴム組成物は、その共重合体(a)中に架橋点としてヨウ素または臭素が含まれており、その含有量は、0.01〜6重量%、好ましくは約0.1〜3重量%の量で含まれていることが望ましい。
上記含有量が0.01重量%より少ない場合は、十分な強度、圧縮永久歪を得ることはできず、離型性が悪いなど加工性も満足しえない。また、上記含有量が6重量%より多い場合は、十分な伸びを得ることはできず、耐スコーチ性が悪いなど加工性も満足しえない。
【0013】
共重合体(a)中のヨウ素原子および臭素原子は、加硫時に有機過酸化物から発生したラジカルにより容易に共重合体骨格から離脱し、共重合体中に高活性のラジカルを発生させる。共重合体中に発生したラジカルは効率的に2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物と反応して、共重合体は架橋し得ることになる。
【0014】
有機過酸化物による加硫は、架橋とも呼ばれ本発明では同義語と解釈される。
その架橋の化学構造がC−C結合となることから、ポリアミンによる加硫により形成されるC=N結合、ポリオールによる加硫により形成されるC−O結合と比較して化学的により安定であるため、耐酸性などの耐化学薬品性が良好となる。
【0015】
共重合体(a)のムーニー粘度ML1+10(121℃)が、好ましくは5〜130pts、さらに好ましくは加硫時における加工成形性や機械的諸物性等の面から10〜100ptsの範囲にあることが望ましい。
共重合体(a)のムーニー粘度が5ptsより低い場合は、十分な強度、圧縮永久歪を得ることはできず、粘着性が大きいなど加工性も満足しえない。また、共重合体(a)のムーニー粘度が130ptsより高い場合は、十分な伸びを得ることはできず、流動特性が悪いなど加工性も満足しえない。
【0016】
本発明のフッ素ゴム組成物は、その加硫して形成される成形品の低温特性(JIS K6261)の範囲においてTR70が−30℃以下、または、TR70が−30℃以上−20℃以下の場合はTR70とTR10の差が10℃以下であり、好ましくは、TR70が−30℃以下である。
この低温特性より悪い場合は、燃料電池用のガスケットとして用いられる場合の低温でのシール性、とくに、低温から急激に高温へと温度変化する環境におけるシール性を確保できない。
【0017】
本発明に用いられる有機過酸化物(b)は、架橋剤としての働きを有していればよく、例えば、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)3−ヘキシン、ベンゾイルパーオキシド、ビス(2,4−ジクロルベンゾイル)パーオキシド、ジクミルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、t−ブチルクミルパーオキシド、3−ブチルパーオキシベンゼン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチルヘキサン−2、5−ジヒドロキシパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが挙げられる。
【0018】
これらの有機過酸化物(b)は架橋効率の面から、このましくは2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、ジクミルパーオキサイドを用いることが望ましい。これらの有機過酸化物は1種または2種以上組み合わせて用いてもよい。
またこれらの有機過酸化物(b)は、通常、シリカ、炭酸カルシウム、ケイソウ土、タルクなどからなる担体に担持しているが、本発明に用いられる有機過酸化物(b)の担体は、その媒体に対し耐久性を有していれば特にこだわらない。しかしながら、担体に担持していない純品を使用する場合は、その純度は90%以上、好ましくは95%以上であるものを用いることが望ましい。有機過酸化物(b)が担体により担持されていない純品を使用することにより、担体の影響のないフッ素ゴム組成物となるので、それを用いた成形品は、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪、低温性などの諸物性を確実に確保可能となる。
【0019】
有機過酸化物(b)の使用量は、共重合体(a)100重量部に対して0.1〜15重量部、さらに好ましくは0.3〜3重量部の量を用いることが望ましい。
共重合体(a)100重量部に対して0.1重量部より少ない場合は、十分な強度、圧縮永久歪を得ることはできず、離型性が悪いなど加工性も満足しえない。また、共重合体(a)100重量部に対して15重量部より多い場合は、十分な伸びを得ることはできず、耐スコーチ性が悪いなど加工性も満足しえない。
【0020】
有機過酸化物(b)を加硫剤とする本発明のフッ素ゴム組成物には、加硫特性、機械的強度、圧縮永久歪みの向上を目的として2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)を併用する。
2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)としては、例えば、トリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、N,N−m−フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート、トリス(ジアリルアミン)−s−トリアジン、亜リン酸トリアリル、1,2−ポリブタジエン、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレートなどが挙げられ、これらの多官能性不飽和化合物を2種類以上組み合わせて用いてもよい。
【0021】
これらの2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)の使用量は、共重合体(a)100重量部に対して、好ましくは0.1〜15重量部、更に好ましくは0.3〜6重量部の量を用いることが望ましい。
共重合体(a)100重量部に対して、0.1重量部より少ない場合は、十分な強度、圧縮永久歪を得ることはできず、離型性が悪いなど加工性も満足しえない。また、共重合体(a)100重量部に対して、15重量部より多い場合は、十分な伸びを得ることはできず、耐スコーチ性が悪いなど加工性も満足しえない。
【0022】
本発明のフッ素ゴム組成物には、上記成分以外に、充填剤、補強剤、受酸剤、可塑剤、滑剤、加工助剤、パーフルオロポリエーテルに代表されるフッ素系添加剤などの配合剤を適宜配合してもよい。
例えば、充填剤あるいは補強剤としては、カーボンブラック、瀝青炭系充填剤、酸化チタン、硫酸バリウム、ウォラストナイト、タルクなどの無機系充填剤などが挙げられ、また、受酸剤としては、金属酸化物、ハイドロタルサイト化合物などが挙げられる。
【0023】
本発明のフッ素ゴム組成物は、公知の方法により調製すればよい。
混練方法としてはオープンロール、またはニーダー、バンバリーなどの密閉式混練機などを用いて混合すればよい。その後、コンプレッション成形、インジェクション成形、トランスファー成形などの方法で加熱して加硫することにより成形物を得ることができる。
加硫は、たとえば約100〜250℃の温度で約1〜60分間程度の一次加硫を行い、必要に応じて約120〜330℃の温度で二次加硫(50時間以下)を行ってもよく、また、必要に応じて二次加硫の温度に到達するまでに徐々に或いは段階的に昇温してもよい。
本発明のフッ素ゴム組成物を加硫して形成される成形品は、その特性を生かして、例えば、燃料電池用などガスケットとして使用が可能である。
【実施例】
【0024】
以下、本発明に係るフッ素ゴム組成物について、実施例により更に具体的に説明するが、これらは本発明の実施の一例であって、これらに限定されるものではない。
表1に記載の配合にて、8インチミキシングロールで混練した後、160℃で10分間のプレス加硫し、続いて200℃にて4時間のオーブン加硫を行った。これにより得られた加硫物(成形物)を試験片として、JIS規格に準じて各物性測定を以下のようにして行った。
【0025】
(常態物性)
JIS K6253に準じて、所定サイズの試験片の硬さを測定した。
JIS K6251に準じて、所定サイズの試験片の引張強さ及び伸びを測定した。引張強さは値が大きいほど破断しにくく、機械的強度が強いことを示している。
(圧縮永久歪)
JIS B2401に準じて、所定サイズの試験片の圧縮永久歪を測定した。
表には、上記試験片を25%圧縮し、100℃とした空気中に1000時間保持後、圧縮を開放し、30分経過後の圧縮永久歪を算出した値、上記試験片を25%圧縮して、PH1の硫酸溶液、及び1000ppmのフッ酸溶液中に浸漬させ、1000時間保持後、圧縮を開放し、30分経過後の圧縮永久歪を算出した値、上記試験片を25%圧縮して、水素中に1000時間保持後、圧縮を開放し、30分経過後の圧縮永久歪を算出した値を示している。値が小さいほど、長時間圧縮したときに復元する力が高いことを示している。
(低温特性)
JIS K6261に準じて、所定サイズの試験片の低温性評価を行った。TR試験(低温弾性回復温度)とは、伸張後低温で凍結された試験片が、温度上昇に伴い弾性を回復して一定の収縮率を示す温度を測定する試験であり、伸張した状態から10%収縮した時の温度がTR10、70%収縮した時の温度がTR70である。
よってTR70のときの温度が低ければ低いほど、低温性に優れたものといえる。
【0026】
[実施例1]
共重合体(a)としてフッ化ビニリデンと、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)と、パーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]を共重合し、得られた共重合体のムーニー粘度ML1+10(121℃)が20なるものを、
有機過酸化物(b)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンの純品を、
2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)としてトリアリルイソシアヌレートを混練し加硫して得た試験片で上記物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0027】
[実施例2]
共重合体(a)としてフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)とパーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]を共重合し、得られた共重合体のムーニー粘度ML1+10(121℃)が35なるものを、
有機過酸化物(b)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンのシリカ60%含有品を、
2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)としてトリアリルイソシアヌレートを混練し加硫して得た試験片で上記物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0028】
[実施例3]
共重合体(a)としてフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)とパーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]を共重合し、得られた共重合体のムーニー粘度ML1+10(121℃)が60なるものを、
有機過酸化物(b)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンの純品を、
2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)としてトリアリルイソシアヌレートを混練し加硫して得た試験片で上記物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0029】
[実施例4]
共重合体(a)としてヘキサフルオロプロペンと、テトラフルオロエチレンと、パーフルオロ[メトキシ−(プロピルオキシ)m−プロピルビニルエーテル]を共重合し、得られた共重合体のムーニー粘度ML1+10(121℃)が50なるものを、
有機過酸化物(b)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンの純品を、
2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)としてトリアリルイソシアヌレートを混練し加硫して得た試験片で上記物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0030】
[比較例1]
共重合体(a)の代わりにフッ化ビニリデンとテトラフルオロエチレンとパーフルオロ(メチルビニルエーテル)を共重合し、得られた共重合体のムーニー粘度ML1+10(121℃)が40なるものを、
有機過酸化物(b)として2,5−ジメチル−2,5−ビス(t−ブチルパーオキシ)ヘキサンの純品を、
2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物(c)としてトリアリルイソシアヌレートを混練し加硫して得た試験片で上記物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0031】
[比較例2]
パーフルオロエーテル系ゴムからなる試験片で上記物性測定を行った。結果を表1に示す。
【0032】
[結果]
表1の測定結果からわかるように、実施例1〜実施例4の配合により得られたものによれば、優れた耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪性、低温性等を兼ね備えたものとすることができる。
特に実施例1、実施例2の配合により得られたものは、TR70が−30℃以下であるので、低温性に非常に優れたものとすることができる。また実施例3、4の配合により得られたものも、TR70が−30℃以上−20℃以下のとき、TR70とTR10の差が10℃以下であるので、比較例1、2と比べても、安定した優れた低温性を有するものといえる。
また圧縮永久歪に関する測定結果からは実施例1〜実施例4の配合により得られたものによれば、硫酸溶液及びフッ酸溶液に浸漬されても、また水素中に置かれても、空気中と変わらない測定結果を示していることから、耐冷媒性、耐酸性に優れたものであることがわかる。更に圧縮永久歪の算出値が、比較例1、2と比べて、値が小さく、これから長時間圧縮したときに復元する力が高く、耐圧縮永久歪性に優れたものであることがわかる。
そして常態物性(硬さ、引張強さ、伸び)の測定値からは、ガスケットに適した物性であることがわかる。
以上より、実施例1〜実施例4の配合により得られる成形品が、ガスシール性、耐冷媒性、耐酸性、耐圧縮永久歪、低温性などの諸物性に優れたものとなり得、急激な温度変化に対してもシール性および耐久性を十分に確保することができるので、燃料電池用のガスケットとして好適なものといえる。
【0033】
一方、実施例1〜実施例4と比較例1、2を比較すると、比較例1は圧縮永久歪に劣り、また、低温性をも満足し得ない。また比較例2は、強度、伸びの値が小さく、また、酸性中及び水素ガス中の圧縮永久歪が悪い。従って、比較例1及び2の配合により得られる成形品が十分な性能を発揮できないことは明白である。
【0034】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ヘキサフルオロプロペン、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン及びパーフルオロ(アルキルビニルエーテル)化合物の中から選ばれる2種類以上の二重結合を有する化合物と、nが1以上の整数で構成されるパーフルオロ[(アルキルオキシ)n−アルキルビニルエーテル]類の中から選ばれる1種類以上の二重結合を有する化合物とを共重合して得られる有機過酸化物で加硫可能な共重合体と、
(b)有機過酸化物と、
(c)2個以上の二重結合を有する多官能性不飽和化合物と、
を含有してなることを特徴とするフッ素ゴム組成物。
【請求項2】
上記有機過酸化物が、担体により担持されていない純品であることを特徴とする請求項1に記載のフッ素ゴム組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のフッ素ゴム組成物を加硫して形成される成形品。
【請求項4】
低温特性(JIS K6261)の範囲において、TR70が−30℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の成形品。
【請求項5】
低温特性(JIS K6261)の範囲において、TR70が−30℃以上−20℃以下のとき、TR70とTR10の差が10℃以下であることを特徴とする請求項3に記載の成形品。
【請求項6】
燃料電池用のガスケットに用いられることを特徴とする請求項3〜請求項5のいずれか1項に記載の成形品。

【公開番号】特開2010−174202(P2010−174202A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−21118(P2009−21118)
【出願日】平成21年2月2日(2009.2.2)
【出願人】(000225359)内山工業株式会社 (204)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】