説明

フッ素系樹脂膜の再生方法、およびそれを用いて得られるフッ素系樹脂膜

【課題】水処理用膜に用いられているフッ素樹脂膜を焼却処分や埋没処分をすることなく、再生する方法を提供する。
【解決手段】フッ素系樹脂膜に含まれる不純物を除去する工程と、不純物を除去した後のフッ素系樹脂膜を破砕してフッ素系樹脂とする工程と、破砕した後のフッ素系樹脂を該フッ素系樹脂の融点近傍に加熱しながら押出成形機内に供給して押出成形を行う工程によってフッ素系樹脂膜を再生すること。また、かかる方法により再生されたフッ素系樹脂を一部または全部に用いて、フッ素系樹脂膜とすること。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理用膜およびモジュールに利用されるフッ素樹脂製膜の再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は一般にその融点が著しく高く、耐薬品性が良好であり,樹脂表面の摩擦係数が小さいことから、様々な分野で広く利用されている。例えば耐熱電線の被覆材や半導体製造材料、電子部品、パイプ、バルブなどに使われるフッ素樹脂は、熱分解時に発生するガスの取り扱いが難しいため、リサイクルすることは極めて困難とされ、再生利用不可能なものについては、これまでは産業廃棄物として処理されていた。
【0003】
水処理分野において、従来から急速砂ろ過後に塩素殺菌を実施して飲料水を得る方法が一般的に行われてきたが、耐塩素性を有する病原性原虫クリプトスポリジウムの除去を目的として、浄水場において分離膜の導入が最近急増している。特に膜の機械的強度や耐薬品性からフッ素樹脂からなる分離膜が多く用いられるようになってきた。このフッ素樹脂製の膜は使用年数が長期間になると性能が次第に低下してしまうために新しい膜モジュールに交換しなければならなくなり、その結果、性能低下した膜モジュールは廃棄されることになる。フッ素樹脂膜の廃棄方法としては埋没処分がこれまでに行われてきたが、このままフッ素樹脂膜の使用量が増加していくとその廃棄物量も膨大になってしまい、環境に与える影響が非常に大きくなり、今後大きな社会問題になることが予想される。
【0004】
樹脂のリサイクル方法としては樹脂を溶剤に溶解した後に押出機に供給する方法(特許文献1)や、フッ素樹脂を熱分解することによってケミカルリサイクルする方法(特許文献2)が考案されている。また、樹脂をリサイクルするためには樹脂表面に付着した不純物などを除去するために樹脂表面を研磨する方法(特許文献3)が行われてきた。
【特許文献1】特開2000−351869号公報
【特許文献2】特開2004−346000号公報
【特許文献3】特開2001−145920号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、溶剤に溶解した後に押出機に供給する場合は溶剤量の制御が困難であり、押出機内での過度の加熱による熱劣化や押出後の樹脂中に含まれる溶剤を除去することが困難である。また、ケミカルリサイクルした場合は、熱分解前の同じ樹脂に再生しようとする場合には多段階の煩雑な工程が必要となるため製造コストの上昇や製造時に発生する二酸化炭素排出量の増大など多くの問題を抱えている。不純物除去を目的とした研磨によって発生する樹脂の粉末には多くの不純物を含むために別途処分しなければならなくなる問題がある。本発明は、産業廃棄物として処理することなく、上述の問題点を回避し、フッ素系樹脂を再生する方法を確立することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための本発明は、次の(1)〜(5)の構成を特徴とするものである。
【0007】
(1)水処理用途に用いられるフッ素系樹脂膜を形成するフッ素樹脂を化学変化させることなく再生するフッ素系樹脂膜の再生方法であって、前記フッ素系樹脂膜に含まれる不純物を除去する工程と、前記不純物を除去した後のフッ素系樹脂膜を破砕してフッ素系樹脂とする工程と、前記破砕した後のフッ素系樹脂膜を該フッ素系樹脂の融点近傍に加熱しながら押出成形機内に供給して押出成形を行う工程を有することを特徴とするフッ素系樹脂膜の再生方法。
【0008】
(2)前記フッ素系樹脂膜が、多孔質であることを特徴とする(1)記載のフッ素系樹脂膜の再生方法。
【0009】
(3)前記フッ素系樹脂膜を形成するフッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデンからなる樹脂であることを特徴とする(1)または(2)記載のフッ素系樹脂膜の再生方法。
【0010】
(4)前記フッ素系樹脂膜の形状が中空糸状であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載のフッ素系樹脂膜の再生方法。
【0011】
(5)一部または全部に、(1)〜(4)のいずれかに記載のフッ素系樹脂膜の再生方法により再生されたフッ素系樹脂を用いて得られるフッ素系樹脂膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、膜素材がフッ素系樹脂からなる水処理用膜において、多孔質からなるフッ素系樹脂は不純物の除去が容易なこと、また熱伝導率が高いために過度な熱をかけることなく押出成形が可能なことにより、フッ素系樹脂の物性を変化させることなく容易にマテリアルリサイクルすることができる。特に、前記水処理用膜が中空糸状である場合には、連続して安定的に再生することが可能であり、かつ、フッ素系樹脂以外の樹脂素材をほとんど含んでいないため、不純物含有率の低いフッ素系樹脂への再生が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明は膜素材がフッ素系樹脂からなる水処理用膜およびモジュールにおいて、フッ素系樹脂膜を再生するために、溶剤で溶解させることなく、またフッ素樹脂が化学変化することなく再生する方法として該フッ素系樹脂膜から不純物を除去する工程とフッ素系樹脂膜を破砕する工程と破砕したフッ素樹脂膜を加熱しながら押出成形機内に供給して押出成形を行う工程からなることを特徴とするフッ素系樹脂膜を再生する方法である。
【0014】
本発明で用いられるフッ素系樹脂膜は、その表面や内部に無数のミクロサイズの孔や隙間がある多孔質であることが好ましく、フッ素系樹脂膜の素材としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、トリフルオロ塩化エチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、溶融フッ素樹脂複合剤などが挙げられる。その中でも特にポリフッ化ビニリデンが、押出成型時に低温で融解するために熱分解しにくく安定であるために好ましい。
【0015】
フッ素系樹脂は、フッ素樹脂単独で用いても良いが、他の樹脂との組成物として用いても良い。しかしながら他の樹脂を用いる場合、再生後のフッ素系樹脂の物性が再生前と大きく変わらない方がよいため、フッ素系樹脂中に含まれる他の樹脂は、フッ素系樹脂中に10質量%以下が望ましく、5質量%以下がより望ましい。したがって、水処理用の膜は中空糸型、管状型、モノリス型などの円筒状膜や、スパイラル型、プリーツ型、円盤形、平膜などの形状があるが、中空糸型以外はフッ素系樹脂以外に膜を支持するための基材が使用されているためにフッ素系樹脂以外の樹脂素材を多く含み、再生するには好ましくなく、中空糸型が好ましい。
【0016】
本発明によって再生されるフッ素系樹脂膜は、実際に水処理用に使用したものでも、フッ素系樹脂膜を生産する際に発生する規格外品でも良い。
【0017】
実際に水処理用に使用したものはフッ素系樹脂膜の表面や内部にろ過原水中に含まれる有機物や無機物の不純物が付着しているために、酸やアルカリなどで薬品洗浄する必要がある。膜が多孔質であれば膜の内部まで付着した不純物は酸やアルカリによって容易に溶解させることができる。酸としては希塩酸、希硫酸、リン酸、硝酸、亜硫酸水素ナトリウムなどの無機酸やシュウ酸水溶液、クエン酸水溶液などの有機酸を単独または2種類以上の混合物として用いることができる。アルカリとしては水酸化ナトリウム水溶液や次亜塩素酸ナトリウム水溶液、炭酸ナトリウム水溶液などを単独または2種類以上の混合物として用いることができる。薬品洗浄では多孔質からなるフッ素系樹脂膜を酸またはアルカリの水溶液に単独または交互に一定時間浸漬させる方法や、多孔質膜モジュール内に酸やアルカリを循環させて膜に付着した不純物を除去する方法を用いることができる。
【0018】
フッ素系樹脂膜の生産時に規格外となったフッ素系樹脂膜は、様々な有機溶剤などの不純物が混入していることが考えられるため、水溶性の有機溶剤等で洗浄後、水ですすぐなどの操作による除去工程が必要となる。
【0019】
本発明が適用される押出成形機は特に限定されるものではなく、単軸押出成形機、二軸押出成形機等いずれでもよい。押出成型機ではヒーターによって温度を制御したシリンダー内をモーターでスクリューを回転させながら前記フッ素系樹脂を供給してフッ素系樹脂を溶解させ、押出成型機のノズルから再生されたフッ素系樹脂を得ることができる。
【0020】
フッ素系樹脂膜が樹脂の塊のような形状であればフッ素系樹脂の内部まで溶解させるために融点よりもかなり高い温度をかけなければ完全に溶解させることは難しいが、多孔質で中空糸状の樹脂膜であれば樹脂の融点近傍で容易に溶解させることができるため、過度の加熱により樹脂が化学変化することを防ぐことができる。
【0021】
フッ素系樹脂を溶解させるための温度は、前記フッ素系樹脂の融点近傍が好ましく、特に溶解させる樹脂の融点よりも20℃程度高い温度であれば化学変化を引き起こさずに再生することができ、より好ましくは樹脂の融点よりも10℃高い温度である。
【0022】
また、フッ素系樹脂の熱劣化により化学変化の有無を測定する方法としては、分子量分布測定や元素分析、融点測定、示差走査熱量測定、加熱重量減分析、核磁気共鳴分光法、赤外分光法、紫外分光法などで行うことができるが、再生したフッ素系樹脂を元の形状に加工した後に、再生処理前後の物性を比較することで確認することもできる。ただし、いずれの方法で確認しても、測定誤差が生じてしまうために、分子量分布測定や元素分析、融点測定、示差走査熱量測定、加熱重量減分析、核磁気共鳴分光法、赤外分光法、紫外分光法などの分析では誤差は5%以内、再生したフッ素系樹脂を元の形状に加工し、フッ素系樹脂の再生処理前後の物性を比較する場合は10%程度の誤差は化学変化していないとみなすことができる。
【0023】
押出成形機内へ前記フッ素系樹脂膜を安定的に供給するためは、前記フッ素系樹脂膜を破砕する工程が必要となり、特に前記フッ素系樹脂膜を連続して安定的に供給するためには、フッ素系樹脂膜が中空糸状であることが好ましい。フッ素系樹脂の破砕には通常ボールミルや高速カッターミル、ロールクラッシャー、ロータリーカッター、油圧切断機などの破砕機や粉砕機を用いるが、中空状のフッ素系樹脂を多軸の破砕機や粉砕機で破砕する場合、延伸してしまい上手く破砕することができないため、単軸の粉砕機を用いるのが好ましく、特にロータリーカッターや油圧切断機などで粉砕手段を用いると細かく破砕できることから好ましい。これらの破砕工程で中空状のフッ素系樹脂を処理することにより、押出成型機に供給する際にスムーズに導入することができ、フッ素系樹脂の溶融温度が均一化できるために好ましい。再生して得られたフッ素系樹脂は耐熱電線の被覆材や半導体製造材料、電子部品、パイプ、バルブ等の他に水処理用の膜としても利用することができる。
【0024】
そして、以上の様にして再生されたフッ素系樹脂を一部または全部に用いてフッ素系中空糸膜とすることにより、フッ素系樹脂の物性を変化させることなく容易にマテリアルリサイクルすることができるのである。
【実施例】
【0025】
本発明で測定した中空糸膜の内径および外径は割断面の走査電子顕微鏡写真から求めた。純水透過量(m/m2・h)は、中空糸膜4本からなる長さ200mmのミニチュアモジュールを作製し、温度25℃、ろ過差圧16kPaの条件下に、実質的に微粒子などの固形分を含まない純水の外圧全ろ過を30分間行い、その透過量(m)を単位時間(h)及び有効膜面積(m2)あたりの値に圧力(100kPa)換算した値とした。
【0026】
破断強度および破断伸度は、引張り試験機(TENSILON/RTM−100)(東洋ボールドウィン社製)を用いて、長さ50mmの試料を引張り速度50mm/分で試料を代えて30回測定し、その平均を測定値とした。
【0027】
[実施例1]
ポリフッ化ビニリデン製精密ろ過中空糸膜(東レ株式会社製、型番HFM−2020)用に製造したポリフッ化ビニリデン中空糸膜(内径0.90mm、外径1.42mm、純水透過量3.7m/(m2・h)、破断強度11.0MPa、破断伸度97%)を水で水洗後、120℃に加温した乾燥機内で3時間加熱乾燥し、水分を除去した。次に乾燥した中空糸膜をロータリーカッター((株)奈良機械製作所製、型式RCM−400)を用いて長さ1〜5mmの範囲に破砕した。次に単軸の押出成型機(日立造船社製、型番SLM50)に破砕した中空糸膜を投入してヒーターでシリンダ部分を180℃に加熱しながら破砕した中空糸膜を溶融させ、スクリューを回転させて溶融した樹脂を押出した。押し出された樹脂はノズル部分で徐冷されて固化し、ポリフッ化ビニリデン樹脂を得た。得られた樹脂を用いて、精密ろ過中空糸膜を再度製造した。得られた中空糸膜は内径0.82mm、外径1.42mm、純水透過量3.6m/(m2・h)、破断強度10.4MPa、破断伸度91%であり、現行の製品物性を満足していることが確認できた。
【0028】
[比較例1]
ポリフッ化ビニリデン中空糸膜の代わりにポリアクリロニトリル中空糸膜を用いた以外は実施例1と同じ操作を行った。押出成型機で加熱溶融させるためにヒーター温度を400℃まで加熱したがポリアクリロニトリル中空糸膜は溶解せず、押出成形することができなかった。
【0029】
[比較例2]
ポリフッ化ビニリデン中空糸膜の代わりに酢酸セルロース中空糸膜を用いた以外は実施例1と同じ操作を行った。押出成型機で加熱溶融する際にヒーター温度を250℃まで加熱すると樹脂が溶解したが、樹脂の一部が酸化分解して炭化してしまった。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は水処理用に利用されるフッ素樹脂膜を廃棄する場合に、焼却処分や埋没処分することなく樹脂を再生する方法として好適に利用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水処理用途に用いられるフッ素系樹脂膜を形成するフッ素樹脂を化学変化させることなく再生するフッ素系樹脂膜の再生方法であって、前記フッ素系樹脂膜に含まれる不純物を除去する工程と、前記不純物を除去した後のフッ素系樹脂膜を破砕してフッ素系樹脂とする工程と、前記破砕した後のフッ素系樹脂を該フッ素系樹脂の融点近傍に加熱しながら押出成形機内に供給して押出成形を行う工程を有することを特徴とするフッ素系樹脂膜の再生方法。
【請求項2】
前記フッ素系樹脂膜が、多孔質であることを特徴とする請求項1記載のフッ素系樹脂膜の再生方法。
【請求項3】
前記フッ素系樹脂膜を形成するフッ素樹脂が、ポリフッ化ビニリデンからなる樹脂であることを特徴とする請求項1または2記載のフッ素系樹脂膜の再生方法。
【請求項4】
前記フッ素系樹脂膜の形状が中空糸状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のフッ素系樹脂膜の再生方法。
【請求項5】
一部または全部に、請求項1〜4のいずれかに記載のフッ素系樹脂膜の再生方法により再生されたフッ素系樹脂を用いて得られるフッ素系樹脂膜。

【公開番号】特開2006−231847(P2006−231847A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53039(P2005−53039)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】