説明

フツリン酸ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子とそれぞれの製造方法

【課題】 揮発性および侵蝕性が低減されたフツリン酸ガラスを提供する。
【解決手段】 ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内であり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であることを特徴とするフツリン酸ガラスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レンズ、フィルターなどの光学素子材料として好適なフツリン酸ガラスならびに前記ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子とそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フツリン酸ガラスは、分散が低く、異常分散性を備え、可視域の広い範囲にわたり高い光線透過率が得られるなどの性質から需要の高いガラスである。低分散性、異常分散性は色収差の補正に有効であり、優れた光線透過性は撮像光学系光学素子の材料のみならず、近紫外光など短波長の光を導光するための光学素子材料としても有効である。また、銅イオンを含有させることにより近赤外光をカットするフィルター機能を付与することができ、半導体撮像素子の色補正フィルター材料としても有効である。このようにフツリン酸ガラスが特許文献1に記載されている。
【0003】
このようにフツリン酸ガラスは有用な光学材料であるが、高温状態で著しい揮発性を示すため、熔融ガラスからガラス成形体を製造する際に脈理が生じやすく、高品質のガラスを安定して生産することが難しい。また、熔融状態のガラスから揮発成分が時間とともに失われるので、屈折率などの光学特性が変化しやすいという問題もある。
【0004】
こうした問題を解決するため、熔融ガラスから揮発性物質を十分揮発させ、当該物質をガラスから十分追い出した後に急冷してガラスを得る方法が特許文献2に記載されている。
この方法は、再熔融の前後におけるガラスの屈折率差を所定範囲内にすることにより、所要の目的を達成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−139454号公報
【特許文献2】特開2007−76958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されている発明は、フツリン酸ガラス固有の問題を解決する非常に優れた技術であるが、以下の観点から改善が望まれる。
【0007】
フツリン酸ガラスの熔融では、耐蝕性に優れた白金系坩堝を用いて坩堝材料のガラスへの混入を低減している。しかし、熔融ガラスにより白金坩堝が僅かに侵蝕され、白金イオンがガラスに溶け込んでしまう。熔融工程や清澄工程ではガラスの温度は高く、白金はガラス融液中にイオンとして溶け込んでいるが、ガラス融液を流出に適した温度域まで降温すると、溶け込んでいた白金イオンが粒子として析出する。フツリン酸ガラスは、白金イオンの溶解度が低いため、白金粒子が析出しやすい。白金粒子は光の散乱源となり、光学素子の性能を低下させる要因となる。
したがって、高品質のフツリン酸ガラスを得るには揮発性の低減に加え、ガラスの侵蝕性も低減することが望まれる。
【0008】
特許文献2に開示されている手法は、揮発性物質をガラス中から追い出すため、ガラスの生産に時間がかかる。より簡単な手法で揮発性を低減させることができれば、生産性を向上することができる。
【0009】
本発明はこうした背景のもとになされたものであり、揮発性および侵蝕性が低減されたフツリン酸ガラス、および前記ガラスからなるプレス成形用ガラス素材ならびに光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するため、
(1) ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、
該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内であり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であることを特徴とするフツリン酸ガラス、
(2) アッベ数νdが70を超えることを特徴とする上記(1)項に記載のフツリン酸ガラス、
(3) カチオン%表示にて、
5+ 3〜50%、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜30%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜20%、
0〜20%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜10%、
Yb3+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜20%
を含有し、アニオン%表示にて、
20〜95%、
2− 5〜80%
を含有することを特徴とする上記(1)項または(2)項に記載のフツリン酸ガラス、
(4) Fの含有量が65アニオン%以上であることを特徴とする上記(1)項または(2)項に記載のフツリン酸ガラス、
(5) カチオン%表示にて、
5+ 3〜15%、
Al3+ 25〜40%、
Ca2+ 5〜35%、
Sr2+ 5〜25%
を含有することを特徴とする上記(4)項に記載のフツリン酸ガラス、
(6) Mg2+ 0〜10%、
Ba2+ 0〜20%、
Li 0〜20%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%
を含有することを特徴とする上記(5)項に記載のフツリン酸ガラス、
(7) 内部に含まれる粒径が10μm以上の金属粒子の数密度が5個/cm未満であることを特徴とする上記(1)項〜(6)項のいずれかに記載のフツリン酸ガラス、
(8) 上記(1)項〜(7)項のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、
(9) 精密プレス成形用プリフォームであることを特徴とする上記(8)項に記載のプレス成形用ガラス素材、
(10) 上記(1)項〜(7)項のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランク、
(11) 上記(1)項〜(7)項のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子、
(12) リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスを成形するフツリン酸ガラスの製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、成形を行うことを特徴とするフツリン酸ガラスの製造方法、
(13) 前記坩堝が白金、白金合金、金、金合金のいずれかであることを特徴とする上記(12)項に記載のフツリン酸ガラスの製造方法、
(14) リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスをフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材に成形するプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、成形を行うことを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(15) リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスをフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を成形し、該ガラス成形体を加工してプレス成形用ガラス素材を得るプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、成形を行うことを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法、
(16) 研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、
上記(14)項または(15)項に記載の方法により作製したプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法、
(17) リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスをフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材に成形する光学素子ブランクの製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、プレス成形を行うことを特徴とする光学素子ブランクの製造方法、
(18) 上記(10)項に記載の光学素子ブランクまたは上記(16)項または(17)項に記載の方法で作製した光学素子ブランクを研削、研磨して光学素子を得る光学素子の製造方法、
(19) 上記(9)項に記載のプレス成形用ガラス素材、または、上記(14)項または(15)項に記載の方法で作製したプレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形する光学素子の製造方法、
(20) 該ガラス素材をプレス成形型に導入し、ガラス素材とプレス成形型を一緒に加熱し、精密プレス成形することを特徴とする上記(19)項に記載の光学素子の製造方法、
(21) 該ガラス素材を加熱してから、予熱したプレス成形型に導入し、精密プレス成形することを特徴とする上記(19)項に記載の光学素子の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、光学的均質性に優れ、異物を含まないフツリン酸ガラスと当該ガラスからなるプレス成形用ガラス素材、光学素子ブランク、光学素子およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】フツリン酸ガラスのモル比O2−/P5+、nd(2)−nd(1)の絶対値Δnd、ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の関係を示すグラフである。
【図2】本発明の実施例で用いた精密プレス成形装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[フツリン酸ガラス]
以下、本発明のフツリン酸ガラスについて詳細に説明する。
フツリン酸ガラスの原料としては、一般にリン酸塩が用いられている。またアニオン成分としてフッ素(F)の導入量をなるべく多くするために、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が小さい、メタリン酸塩(酸素原子/リン原子=3)が用いられている。
【0014】
メタリン酸塩を用いてガラスを熔融すると、原料に由来するメタリン酸とフッ素が反応して揮発性の高いフッ化ホスホリル(POF)が発生すると考えられる。これに対して、熔融ガラス中のリン1原子当たりの酸素原子の原子比を3.5以上(酸素原子/リン原子≧3.5)に調整、コントロールすると、揮発成分の発生量を大幅に低減できることが判明した。これは、熔融ガラス中に存在するリン酸として、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3であるメタリン酸よりも、リン(P5+)1原子に対する酸素(O2−)原子数の比(酸素原子/リン原子)が3.5である2リン酸の方が安定であるためと考えられる。
【0015】
フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上とすることによって、揮発成分の発生そのものを抑制することができる。その結果、熔融ガラスの反応性も抑制され、侵蝕性も大幅に低減することができる。
【0016】
本発明は、ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+を制御するとともに、固化したガラスを再熔融したときの再熔融の前後における屈折率変化量をゼロに近づけることにより揮発性および侵蝕性を大幅に抑制したフツリン酸ガラスを提供する。
【0017】
すなわち、本発明は、ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、該ガラスの屈折率の値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率の値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内であり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であることを特徴とするものである。
【0018】
特許文献2に記載された発明も再熔融前後における屈折率の変化量を実質的にゼロとするものであるが、熔融ガラスの反応性、侵蝕性の抑制という観点からは、改善の余地がある。本発明は、揮発成分の生成自体を抑制し、揮発性の抑制に加えて、ガラスの侵蝕性も抑制し、坩堝などの侵蝕を低減して侵蝕による異物混入を防止可能としたフツリン酸ガラスを提供する。
【0019】
5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5未満だと揮発成分の発生を抑制できず、揮発成分の発生に伴い生じるガラスの反応性、侵蝕性も抑制することができない。したがって、本発明では、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上とする。
【0020】
の含有量が65アニオン%未満の場合、アニオン成分中、酸素成分の割合を高めることができるので、揮発性、侵蝕性を一層抑制する上からモル比O2−/P5+を高めることが好ましい。具体的には、Fの含有量が65アニオン%未満の場合、モル比O2−/P5+の好ましい範囲は3.53以上、より好ましい範囲は3.55以上、さらに好ましい範囲は3.6以上である。
【0021】
本発明のフツリン酸ガラスは、モル比O2−/P5+を上記範囲としつつ、nd(2)−nd(1)の絶対値を0.00300以内とする。nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300より大きいと、ガラスの揮発性、反応性、侵蝕性が高まる。nd(2)−nd(1)の絶対値の好ましい範囲は0.00250以内、より好ましい範囲は0.00200以内、さらに好ましい範囲は0.00150以内、一層好ましい範囲は0.00120以内、より一層好ましい範囲は0.00100以内である。
フツリン酸ガラスにおいてフッ素はガラスの屈折率を相対的に低下させる成分なので、nd(2)−nd(1)の値は一般に正となる。
【0022】
nd(2)を測定するために行われる再熔融時の雰囲気は、ガラスと雰囲気の反応により揮発以外の要因によりガラスの屈折率が影響を受けないようにするため、窒素とする。再熔融は900℃で1時間の所定条件下で行われ、その後、ガラス転移温度まで冷却する。nd(2)の値は冷却時の降温速度にも影響を受けるので、冷却は毎時30℃の所定の降温速度で行われ、25℃まで冷却される。
【0023】
屈折率の測定は公知の方法を用いることができ、有効桁数6桁(小数点以下5桁)の精度で測定することが望ましい。屈折率の測定例としては、日本光学硝子工業会規格JOGIOS 01−1994「光学ガラスの屈折率の測定方法」を適用することができる。
【0024】
ガラスの形状、体積などによっては、例えばガラスが小さな球状であったり、肉薄のレンズに成形されている場合には、上記規格に定められた形状、寸法の試料にガラスを加工することができない場合もある。その場合には、ガラスを加熱、軟化してプレス成形し、アニールして2つの平面が所定の角度で交わるプリズム形状にする。そして、上記規格と同じ測定原理に基づき、屈折率を測定する。プレス成形によるプリフォーム製造時の加熱温度は高々ガラスを軟化できればよい温度域であって、ガラスが熔融する温度よりも極めて低いから、揮発性物質の濃度への影響は無視できる程度であり、上記加熱前後の屈折率変化量は無視して差支えない。
【0025】
図1は、モル比O2−/P5+を3.0から4.0の間で変化させたときの屈折率変化量(nd(2)−nd(1))の絶対値Δnd、フツリン酸ガラス中に含まれる粒径10μm以上の白金異物の数密度の変化を示したものである。なお、ガラスの熔融は白金坩堝にて行った。
【0026】
図1より、モル比O2−/P5+を3.5以下とすることにより、フツリン酸ガラスの揮発性が抑制されてΔndが0.00300以下になるとともに、フツリン酸ガラスの侵蝕性が抑制されて白金異物の数密度を抑制できることがわかる。
【0027】
このように本発明によれば、揮発性だけでなく反応性、侵蝕性も十分抑制されたフツリン酸ガラスが得られるので、ガラス製造時に使用する坩堝、パイプ、撹拌棒などの侵蝕を防止し、侵蝕によってガラス中に異物が混入するのを防ぐことができる。例えば、坩堝、熔融ガラスを導くパイプ、熔融ガラスを均質化する撹拌棒を白金や白金合金で構成したとき、本発明のフツリン酸ガラスであれば、白金、白金合金の侵蝕が低減、抑制され、白金異物を含まない光学的に均質なガラスを得ることができる。
本発明のフツリン酸ガラスによれば、アッベ数νdが70を超える低分散ガラスを得ることができる。
【0028】
(フツリン酸ガラスI)
次に本発明のフツリン酸ガラスの好ましい態様について説明する。本発明のフツリン酸ガラスの第1の態様(フツリン酸ガラスIという。)は、カチオン%表示にて、
5+ 3〜50%、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜30%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜20%、
0〜20%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜10%、
Yb3+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜20%
を含有し、アニオン%表示にて、
20〜95%、
2− 5〜80%
を含有することを特徴とするものである。
以下、フツリン酸ガラスIについての説明において、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
【0029】
5+ はガラス中でネットワークフォーマーとして働く重要な成分であり3%未満ではガラスが極端に不安定になる。また、50%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上するために、フッ素の導入量を抑制する必要が生じ、必要な低分散性が得られなくなる。したがって、P5+の含有量は3〜50%の範囲にすることが好ましく、3〜45%の範囲とすることがより好ましく、5〜40%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0030】
Al3+はフツリン酸ガラスにおいて安定性を高めるための重要成分であり、5%未満ではガラスが不安定になる。一方、40%を超えると他成分の合計量が少なくなりすぎるために逆に不安定になる。したがって、Al3+の含有量は5〜40%の範囲にすることが好ましく、5〜38%の範囲とすることがより好ましく、10〜35%の範囲とすることがさらに好ましい。
【0031】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+のようなアルカリ土類金属はガラスの安定性を高め、屈折率を上昇させる成分であり、その合計量を10%以上にすることで安定性に対する効果が高くなる。しかし、特定のアルカリ土類金属成分があまりに多くなると他の成分とのバランスが崩れるため、満遍なく導入することが好ましく、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の少なくとも2種以上を導入することが好ましい。具体的にはMg2+は0〜10%とすることが好ましく、1〜10%とすることがより好ましい。Ca2+は0〜30%とすることが好ましく、1〜30%とすることがより好ましい。Sr2+は0〜30%とすることが好ましく、1〜20%とすることがより好ましい。Ba2+は0〜40%とすることが好ましく、2〜40%とすることがより好ましい。
【0032】
Li、Na、Kのようなアルカリ金属はガラスの粘性、ガラス転移温度を低下させ、ガラスの製造を容易にすることができる成分であるが、過剰の導入は安定性を低下させる。そこでLiの含有量を0〜30%、Naの含有量を0〜20%、Kの含有量を0〜20%とすることが好ましい。アルカリ金属の中でもLiは安定性を高める効果も大きいため、Liを0.5%以上導入することがより好ましく、1%以上導入することがさらに好ましく、2%以上導入することが特に好ましい。したがって、Liの量の好ましい範囲は0〜30%、より好ましい範囲は0.5〜30%、さらに好ましい範囲は1〜30%、一層好ましい範囲は2〜30%である。
【0033】
Naの含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は1〜5%、Kの含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は0〜10%、さらに好ましい範囲は0〜5%である。
【0034】
3+、La3+、Gd3+、Yb3+などの希土類元素はガラスの低分散性を保ちつつ屈折率を高める成分であるが、過剰な導入は熔解温度を上昇させガラスの安定性も低下させてしまう。そのため、上記各成分の含有量をそれぞれ0〜10%とすることが好ましく、0〜5%とすることがより好ましく、1〜5%とすることがさらに好ましい。
【0035】
3+はガラスの耐久性を向上させる成分であるが、熔解中にフッ化物として揮発する傾向があるため、生産性を低下させる成分でもある。そのため導入量は0〜10%にすることが好ましく、0〜5%にすることがより好ましく、0〜1%にすることがさらに好ましく、導入しないことがさらに好ましい。
【0036】
Zn2+、In3+はアルカリ土類金属と同様に容易にガラス中に導入できる特性を持ち、Zn2+やIn3+を導入して多成分にすることによる安定性の向上効果が期待できるが、過剰の導入は好ましくない。このため、Zn2+およびIn3+の導入量は、それぞれ0〜20%とすることが好ましく、それぞれ0〜10%とすることがより好ましく、0〜5%とすることがさらに好ましく、0〜1%とすることが一層好ましく、導入しないことが特に好ましい。
【0037】
なお、上記ガラスは、低分散性、異常部分分散性などに加え、可視域において短波長から長波長にかけての広い範囲で光線透過率が高いという性質を有している。こうした性質を利用してレンズ、プリズムなどの各種光学素子を得るための材料として適しているが、このような用途においては可視域に吸収を有するイオン、例えば、Fe、Cu、Ni、Co、Cr、Mn、V、Nd、Ho、Erといった金属元素のイオンを含有しないことが望ましい。
【0038】
次にアニオン成分、アニオン添加物について説明する。フツリン酸ガラスはFとO2−が主要アニオン成分である。所要の光学特性と優れたガラス安定性を実現する上から、Fを20〜95%、O2−を5〜80%導入することが好ましい。
【0039】
Cl、Br、Iは、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金物品にガラス融液が濡れにくくなるため、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、Clの含有量を0〜3アニオン%、Brの含有量を0〜1アニオン%、Iの含有量を0〜1アニオン%とすることが好ましく、Clの含有量を0〜1アニオン%、Brの含有量を0〜0.5アニオン%、Iの含有量を0〜0.5アニオン%とすることがより好ましい。また、Cl、BrおよびIの合計含有量を0〜5%とすることが好ましい。さらに上記の観点から、Cl、BrおよびIの合計導入量を4%とすることがより好ましく、3%とすることがさらに好ましい。さらに、前記合計導入量の下限を0.01%とすることがより好ましく、0.05%とすることがさらに好ましく、0.1%とすることが一層好ましい。Cl、BrおよびIの合計導入量の上記上限と下限の任意の組合わせにより定められる範囲の各々が好ましいCl、BrおよびIの合計導入量の好ましい範囲と言える。こうした範囲の例としては、Cl、BrおよびIの合計導入量が0〜3%の範囲や0.1〜3%の範囲をあげることができる。
【0040】
なお、発明の目的を達成する上から、F、O2−、Cl、BrおよびIの合計量を98アニオン%以上とすることが望ましく、99アニオン%以上とすることがより望ましく、100アニオン%とすることがさらに望ましい。
【0041】
本発明のフツリン酸ガラスは、環境への負荷を軽減する上から、Pb、As、Cd、Thなどを含有しないものであることが望ましい。
【0042】
本発明のフツリン酸ガラスの光学特性に特に限定はないが、アッベ数νdが70を超え98以下であることが好ましく、70〜95であることがより好ましい。また、屈折率ndについては1.43〜1.6であることが好ましく、1.45〜1.6であることがより好ましい。
【0043】
(フツリン酸ガラスII)
本発明のフツリン酸ガラスの第2の態様(フツリン酸ガラスIIという。)は、Fの含有量が65アニオン%以上であることを特徴とするものである。
ガラスIIにおいて、超低分散性を実現するため、Fの含有量を65アニオン%以上とする。Fの含有量が65アニオン%未満だと所望の低分散性、異常分散性を得ることが困難となる。Fの含有量を65アニオン%以上とすることにより、十分な異常分散性も付与することができる。Fの含有量の好ましい範囲は65〜95アニオン%、より好ましい範囲は70〜92アニオン%である。
【0044】
フツリン酸ガラスの中でもフツリン酸ガラスIIのようにFの含有量が多いガラスは、ガラス融液状態における粘性が非常に小さく、揮発による脈理の発生、屈折率変動が特に著しい。光学ガラスIVによれば、モル比O2−/P5+を3.5以上に制御することで揮発性物質の生成そのものを抑制し、揮発性を著しく低下させるとともに、ガラスの反応性、侵蝕性も抑制するので、高品質の光学ガラスを安定して生産することができる。
モル比O2−/P5+の上限は安定してガラスを製造できる限り、特に制限はないが、4.0を目安と考えればよい。
【0045】
ガラスIIの中で好ましいガラスは、カチオン%表示にて、
5+ 3〜15%、
Al3+ 25〜40%、
Ca2+ 5〜35%、
Sr2+ 5〜25%
を含有するものである。
【0046】
上記ガラスは、さらにカチオン%表示にて、
Mg2+ 0〜10%、
Ba2+ 0〜20%、
Li 0〜20%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%
を含有することができる。
ガラスIIの説明において、カチオン成分の含有量、合計含有量はカチオン%表示とし、アニオン成分の含有量、合計含有量はアニオン%表示とする。
【0047】
上記ガラスにおいて、P5+はネットワークフォーマーとして働く。P5+の含有量が3%未満だと安定性が低下し、15%を超えるとモル比O2−/P5+を3.5以上に保つためにO2−の含有量を増加させなくてはならず、その結果、Fの含有量が低下し、十分な低分散性、異常分散性を得ることが困難になる。したがって、P5+の含有量を3〜15%とすることが好ましい。P5+の含有量のより好ましい範囲は3.5〜13%、さらに好ましい範囲は4〜11%である。
【0048】
Al3+はガラスの安定性を高める働きをする成分である。Al3+の含有量が25%未満だと安定性が低下し、40%を超えても安定性が低下するため、Al3+の含有量を25〜40%とすることが好ましい。Al3+の含有量のより好ましい範囲は28〜36%、さらに好ましい範囲は30〜36%である。
【0049】
Ca2+はガラスの安定性を高める効果があり、F含有量が多くなるほど増量することが望まれる成分である。Ca2+の含有量が5%未満だと上記効果を十分得にくく、35%を超えると安定性が低下するため、Ca2+の含有量を5〜35%とすることが好ましい。Ca2+の含有量のより好ましい範囲は10〜35%、さらに好ましい範囲は20〜30%である。
【0050】
Sr2+はガラスの安定性を高める効果があり、その含有量が5%未満だと前記効果が十分でなく、25%を超えると安定性が低下する。したがって、Sr2+の含有量を5〜25%とすることが好ましい。Sr2+の含有量のより好ましい範囲は10〜25%、さらに好ましい範囲は15〜20%である。
【0051】
このように、Ca2+とSr2+を共存させることにより、ガラスの安定性をより向上させることができる。
【0052】
Mg2+は10%までの導入により、ガラスの安定性を向上させる働きをする。したがって、Mg2+の含有量を0〜10%とすることが好ましく、1〜10%とすることがより好ましく、3〜8%とすることがさらに好ましい。
【0053】
Ba2+は、20%までの導入により、ガラスの安定性を向上させる働きをする。したがって、Ba2+の含有量を0〜20%とすることが好ましい。Ba2+はFの含有量が少ないガラスでは、安定性を向上させる働きが強いが、Fの量が多いガラスでは必須成分ではない。Ba2+の含有量のより好ましい範囲は1〜15%、さらに好ましい範囲は2〜10%である。
【0054】
ガラスの安定性を一層向上させる上から、Ca2+、Sr2+およびMg2+を共存させること、Ca2+、Sr2+およびBa2+を共存させること、Ca2+、Sr2+、Mg2+およびBa2+を共存させることが好ましい。
【0055】
Liは、ガラス融液の粘性を低下させるが、液相温度を低下させる働きが非常に強く、総合的には熔融ガラスを流出、成形する際の脈理を防止する効果がある成分である。こうした効果は、モル比O2−/P5+を所要範囲にすることにより得られる揮発成分発生の抑制効果との相乗効果によりフツリン酸ガラスの品質を高めるのに大きく寄与する。しかし、Liを20%を超えて導入すると、ガラス融液の粘性の過剰な低下を起こし、結晶化の促進によるガラスの失透、脈理の発生といった問題を引き起こす。したがって、Liの含有量は0〜20%とすることが好ましい。Liの含有量のより好ましい範囲は0〜15%、さらに好ましい範囲は1〜10%、一層好ましい範囲は1〜7%である。
【0056】
Naは、ガラス転移温度を低下させる働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下する。また、耐水性も低下する。したがって、Naの含有量を0〜10%とすることが好ましい。Naの含有量のより好ましい範囲は0〜7%、さらに好ましい範囲は1〜5%である。
【0057】
も、ガラス転移温度を低下させる働きをするが、過剰に導入するとガラスの安定性が低下する。また、耐水性も低下する。したがって、Kの含有量を0〜10%とすることが好ましい。Kの含有量のより好ましい範囲は0〜5%、さらに好ましい範囲は0〜3%である。
【0058】
アルカリ金属成分Li、Na、Kのうち、複数種を共存させることにより、ガラスの安定性を向上させることができる。
【0059】
3+は、少量の導入によりガラスの安定性向上が期待されるが、その含有量が5%を超えるとガラスの熔融温度が上昇し、熔融ガラスからの揮発が助長されるとともに、ガラスの安定性も低下する。したがって、Y3+の含有量を0〜5%とすることが好ましい。Y3+の含有量のより好ましい範囲は1〜5%、さらに好ましい範囲は1〜3%である。
【0060】
この他、屈折率の調整などを目的として少量のLa3+、Gd3+、Zr4+、Zn2+を導入することができる。
【0061】
なお、熔融ガラスの成形性に優れ、品質の高いフツリン酸ガラスを得る上から、P5+、Al3+、Li、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Na、KおよびY3+の合計含有量を95%以上にすることが好ましく、97%以上にすることがより好ましく、98%以上にすることがさらに好ましく、99%以上にすることが一層好ましい。
【0062】
また、Cl、Br、Iは、少量導入することで、ガラスの製造時または流出時に使用する白金容器や白金製ノズル等の白金製品に、フツリン酸ガラスが濡れにくくなるために、ガラスの製造を容易に行うことが可能になる。Cl、Br、Iの過剰の導入は、成分揮発による屈折率変動と白金異物の発生を招くため、導入量は合計で0〜5%とすることが好ましい。さらに上記の観点から、Cl、BrおよびIの合計導入量を4%とすることがより好ましく、3%とすることがさらに好ましい。さらに、前記合計導入量の下限を0.01%とすることがより好ましく、0.05%とすることがさらに好ましく、0.1%とすることが一層好ましい。Cl、BrおよびIの合計導入量の上記上限と下限の任意の組合わせにより定められる範囲の各々が好ましいCl、BrおよびIの合計導入量の好ましい範囲と言える。こうした範囲の例としては、Cl、BrおよびIの合計導入量が0〜3%の範囲や0.1〜3%の範囲をあげることができる。
【0063】
ガラスIIのガラス転移温度は、好ましくは500℃未満、より好ましくは480℃以下、さらに好ましくは460℃以下、一層好ましくは440℃以下である。このようにガラス転移温度が低いので、精密プレス成形に好適であるほか、ガラスの再加熱、軟化して成形する際の成形性にも優れている。ガラス転移温度が上記のように低いので成形時の加熱温度も比較的低く抑えることができる。そのため、ガラスとプレス成形型などの成形型との化学反応も起こりにくいため、清浄かつ平滑な表面を有するガラス成形体を成形することができる。また、成形型の劣化も抑制することができる。
ガラスIIにおいて、アッべ数(ν)の好ましい範囲は88以上、より好ましい範囲は88〜98、さらに好ましい範囲は90〜97である。
屈折率ndの好ましい範囲は1.42〜1.47、より好ましい範囲は1.43〜1.46である。
【0064】
ガラスIIは、超低分散性を有しつつ、液相温度が700℃以下と優れたガラス安定性も備えているので、色収差補正に好適な光学素子材料として高品質のフツリン酸ガラスを提供することができる。
なお、ガラスI、IIは、いずれも、環境への負荷を軽減する上から、Pb、As、Cd、Th、Tl、Te、Cr、Se、Uを導入しないものであることが好ましい。
【0065】
本発明のフツリン酸ガラスは、Lu、Sc、Hf、Geといった成分を必要としない。Lu、Sc、Hf、Geは高価な成分なので、これらを導入しないことが好ましい。
【0066】
本発明のフツリン酸ガラスは可視域の広い波長域にわたり、優れた光線透過性を示す。特定波長域に吸収を持たせる場合を除き、上記優れた光線透過性を活かす上から、Cu、Cr、V、Fe、Ni、Co、Ndなどの着色の要因となる物質を導入しないことが好ましい。
【0067】
(近赤外線吸収ガラス)
本発明のフツリン酸ガラスは、Cu2+を添加することにより近赤外線吸収特性を示すようになるため、近赤外線吸収ガラスとする場合はCu2+を添加する。Cu2+の添加量は外割りで0.5〜13カチオン%とすることが望ましい。Cu2+含有ガラスはCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正フィルター材料として好適である。Cu2+の添加量は、前記フィルターの厚さを考慮し、前記範囲内で適宜定めればよい。Cu2+含有ガラスの場合も、吸収特性を調整する場合を除き、Cu2+以外の可視域に吸収を有するイオンを添加しないことが望ましい。本発明のフツリン酸ガラスであって、Cu2+を外割りで0.5〜13カチオン%含むCu2+含有ガラス(ガラスIIIという。)として好ましいものは、カチオン%表示で、
5+ 5〜40%、
Al3+ 0〜20%、
Li、NaおよびKを合計で0〜30%、
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+を合計で5〜40%、
Cu2+ 0.5〜13%、
を含み、さらにアニオニック%表示で、
20〜70%、
2− 30〜80%、
を含むフツリン酸ガラスである。
【0068】
上記組成において、P5+はフツリン酸ガラスの基本成分であり、Cu2+の赤外域の吸収をもたらす重要な成分である。P5+の含有量が5%未満ではガラスの色が悪化して緑色を帯び、逆に40%を超えると耐候性、耐失透性が悪化する。したがって、P5+の含有量は5〜40%とすることが好ましく、10〜40%とすることがより好ましく、15〜35%とすることがさらに好ましい。
【0069】
Al3+はフツリン酸ガラスの耐失透性と耐熱性、耐熱衝撃性、機械的強度、化学的耐久性を向上させる成分である。ただし、20%を越えると近赤外吸収特性が悪化する。したがって、Al3+の含有量を0〜20%とすることが好ましく、1〜20%とすることがより好ましく5〜20%とすることがさらに好ましく、5〜15%とすることがより一層好ましい。
【0070】
Li、NaおよびKはガラスの熔融性、耐失透性を改善させ、可視光域の透過率を向上する成分であるが、合計量で30%を超えると、ガラスの耐久性、加工性が悪化する。したがって、Li、NaおよびKの合計含有量を0〜30%とすることが好ましく、0〜28%とすることがより好ましく、0〜25%とすることがさらに好ましい。
アルカリ成分の中でもLiは上記作用に優れており、Liの量を1〜30%とすることがより好ましく、10〜30%とすることがさらに好ましい。
【0071】
Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+はガラスの耐失透性、耐久性、加工性を向上させる有用な成分であるが、過剰導入により耐失透性が低下するので、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびZn2+の合計量を5〜40%にすることが好ましく、10〜40%にすることがより好ましい。
【0072】
Mg2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜15%である。
Ca2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜20%である。
Sr2+含有量の好ましい範囲は0〜25%、より好ましい範囲は5〜25%である。
Ba2+含有量の好ましい範囲は0〜20%、より好ましい範囲は1〜20%、さらに好ましい範囲は5〜20%である。
【0073】
Cu2+は近赤外光吸収特性の担い手である。その量が0.5%未満では近赤外吸収が小さく、逆に13%を越えると耐失透性が悪化する。したがって、Cu2+の含有量は0.5〜13%が好ましく、0.5〜10%がより好ましく、1〜5%がさらに好ましく、1〜3%がより一層好ましい。
【0074】
はガラスの融点を下げ、耐候性を向上させる重要なアニオン成分である。Fを含有することによって、ガラスの熔融温度を下げ、Cu2+の還元を抑え、所要の光学特性を得ることができる。Fの量が10%未満では耐候性が悪化し、逆に70%を越えるとO2−の含有量が減少するため1価のCuによる400nm付近の着色を生じる。従ってFの含有量を10〜70%とすることが好ましい。上記特性を一層向上させる上から、Fの量を10〜60%にすることがより好ましく、15〜50%にすることがさらに好ましい。
【0075】
2−は重要なアニオン成分であり、全アニオン成分のFを除く残部全量をO2−成分で構成することが好ましい。したがって、O2−の好ましい量は上記Fの好ましい量を100%から差し引いた範囲となる。O2−が少な過ぎると2価のCu2+が還元され1価のCuとなるため短波長域、特に400nm付近の吸収が大きくなってしまい、緑色を呈するようになる。逆に過剰になるとガラスの粘度が高く、熔融温度が高くなるため透過率が悪化する。なお、Pb、Asは有害性が強いから、使用しないことが望ましい。
【0076】
Cu含有の近赤外線吸収ガラスの好ましい透過率特性は以下のとおりである。
波長500〜700nmの分光透過率において透過率50%を示す波長が615nmである厚さに換算し、波長400〜1200nmの分光透過率が下記のような特性を示すものである。
【0077】
波長400nmにおける透過率が78%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは83%以上、さらに好ましくは85%以上であり、波長500nmにおける透過率が85%以上、好ましくは88%以上、より好ましくは89%以上であり、波長600nmにおける透過率が51%以上、好ましくは55%以上、より好ましくは56%以上であり、波長700nmにおける透過率が12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10%以下であり、波長800nmにおける透過率が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.2%以下、より一層好ましくは2%以下であり、波長900nmにおける透過率が5%以下、好ましくは3%以下、より好ましくは2.5%以下、さらに好ましくは2.2%以下、より一層好ましくは2%以下であり、波長1000nmにおける透過率が7%以下、好ましくは6%以下、より好ましくは5.5%以下、さらに好ましくは5%以下、より一層好ましくは4.8%以下であり、波長1100nmにおける透過率が12%以下、好ましくは11%以下、より好ましくは10.5%以下、さらに好ましくは10%以下であり、波長1200nmにおける透過率が23%以下、好ましくは22%以下、より好ましくは21%以下、さらに好ましくは20%以下である。
【0078】
即ち、波長700〜1200nmの近赤外線の吸収は大きく、波長400〜600nmの可視光線の吸収は小さくする。ここで、透過率とは互いに平行かつ光学研磨した2つの平面を有するガラス試料を想定し、前記平面の一方に垂直に光を入射したとき、前記平面の他方から出射した光の強度を、前記入射光の試料入射前における強度で割った値であり、外部透過率とも呼ばれる。
このような特性によりCCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正を良好に行うことができる。
【0079】
(ガラスの侵蝕性)
光学的に均質なガラスを熔融するには、熔融ガラスを均質化して流出する過程でガラスを蓄積する容器やガラスを導くパイプをガラス中に溶け出しにくい耐熱性材料、例えば白金や白金合金などの金属または合金で構成する。
【0080】
これら金属系の材料は上記性質を有するものの、前述のように熔融ガラスの温度低下に伴い、ガラス中に金属粒子として析出しやすい。特にフツリン酸ガラスは、金属イオンを溶解しにくく、こうした問題が顕著である。
【0081】
本発明のフツリン酸ガラスによれば、耐熱性金属系材料を侵蝕しにくいので、ガラス中に溶け出すこれら金属の量も大幅に抑制することができ、異物が極めて少ないフツリン酸ガラスを得ることができる。
【0082】
こうして得られるフツリン酸ガラスでは、内部に含まれる粒径が10μm以上の異物、例えば白金粒子または白金を含む粒子の数密度が5個/cm未満となる。前述の粒子は光線、例えば可視光を散乱する異物となり、光学素子の性能を低下させる。本発明によれば、光散乱源となる異物が大幅に低減もしくは存在しないので、高品質な光学ガラスを提供することができる。ガラス内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の好ましい数密度は5個/cm未満、より好ましくは3個/cm未満、さらに好ましくは2.5個/cm以下、一層好ましくは2個/cm以下である。
本発明のフツリン酸ガラスは異常分散性を有する光学ガラスであって、高次の色補正用光学素子の材料としても好適である。
【0083】
(フツリン酸ガラスの製造方法)
次に、本発明のフツリン酸ガラスの製造方法について説明する。
ガラス原料を調合し、熔解した後、清澄、均質化して光学ガラスを得るにあたり、ガラス原料中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であるものを用いる。好ましくは上記モル比O2−/P5+を3.51以上、より好ましくは3.55以上、さらに好ましくは3.6以上とする。
ここでガラス原料とは複数種の化合物を調合、混合した原料、所謂、バッチ原料や、カレットなどを含む。
【0084】
光学特性などが所望の値になるように、かつ、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+が3.5以上になるようにガラス原料の調合を行い、調合ガラス原料を熔融する。このようにすれば、ガラス中のP5+含有量に対するO2−含有量のモル比O2−/P5+を3.5以上に制御することができる。
【0085】
こうした制御をより確実に行う上から、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+が3.5以上になるよう原料調合を行うことが好ましく、3.51以上になるよう原料調合を行うことがより好ましく、3.55以上になるよう原料調合を行うことがさらに好ましく、3.6以上になるよう原料調合を行うことが一層好ましい。
【0086】
本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が抑制されているので、ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+とガラス原料中のP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量のモル比O2−/P5+とが等しくなる。
【0087】
ただし、上記ガラス原料中のO2−の合計含有量は、ガラスに導入される酸素の量であり、ガラス熔融中にCOガス、NOガス、酸素ガス、水蒸気等として熔融物外へ出て行く酸素の量を含まない。例えば、ガラス原料として、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物などを使用する場合、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物はガラス原料の加熱によって分解し、上記ガスを生成し、これらガスがガラス熔融物外へ出て行くため、前記ガス中に含まれる酸素はガラス化反応に寄与しない。また、ガラス原料中に結合水が存在する場合、ガラス原料の加熱によって結合水が脱離し、水蒸気となってガラス熔融物外へ出て行くため、水蒸気中の酸素もガラス化反応に寄与しない。したがって、上記ガスとなってガラス熔融物外へ出て行く酸素は、上記酸素の含有量から除外する。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
【0088】
メタリン酸原料とフッ化物原料のみを用いて原料調合すると、ガラス原料に含まれる酸素、リンの全量をP5+量およびO2−量に換算し、P5+の量に対するO2−の量のモル比O2−/P5+は3となり、酸素量の不足により3.5に達しない。したがって、リンとは独立して酸素をガラスに導入できるよう、酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。また、リン酸原料として一般的に使用するメタリン酸塩の一部または全部をピロリン酸塩に替えてもよい。ピロリン酸塩を使用する場合も酸化物や硝酸塩などを併用することが望まれる。
【0089】
なお、本発明によれば、熔融ガラスの揮発性が極めて低いレベルにまで抑制されるので、屈折率ndの公差が±0.00050以内、好ましくは±0.00020以内の光学ガラスおよび前記ガラスを製造する方法を提供することができる。そのため、後述する精密プレス成形用プリフォームや光学素子ブランク、光学素子の各物品を構成する光学ガラスの屈折率ndの公差も上記範囲内に収めることができる。
【0090】
[プレス成形用ガラス素材]
次に本発明のプレス成形用ガラス素材について説明する。
本発明のプレス成形用ガラス素材は、上記本発明のフツリン酸ガラスからなることを特徴とするものである。
【0091】
上記ガラス素材は、プレス成形に供されるガラス塊を意味する。ガラス素材の例としては、精密プレス成形用プリフォーム、光学素子ブランクのプレス成形用ガラスゴブなど、プレス成形品の質量に相当するガラス塊を示すことができる。
【0092】
以下、上記各例について説明する。
精密プレス成形用プリフォーム(以下、単にプリフォームをいうことがある。)は、加熱して精密プレス成形に供されるガラス予備成形体を意味するが、ここで精密プレス成形とは、周知のようにモールドオプティクス成形とも呼ばれ、光学素子の光学機能面をプレス成形型の成形面を転写することにより形成する方法である。なお、光学機能面とは光学素子において、制御対象の光を屈折したり、反射したり、回折したり、入出射させる面を意味し、レンズにおけるレンズ面などがこの光学機能面に相当する。
【0093】
精密プレス成形時にガラスとプレス成形型成形面との反応、融着を防止しつつ、成形面に沿ってガラスの延びが良好になるようにするため、プリフォームの表面に炭素含有膜を被覆することが好ましい。炭素含有膜としては、炭素を主成分とするもの(膜中の元素含有量を原子%で表したとき、炭素の含有量が他の元素の含有量よりも多い)が望ましい。具体的には、炭素膜や炭化水素膜などを例示することができる。炭素含有膜の成膜法としては、炭素原料を使用した真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の公知の方法や、炭化水素などの材料ガスを使用した熱分解などの公知の方法を用いればよ
い。
【0094】
プリフォームの作製は、次のようにして行う。
第1の作製例は、熔融ガラスから所定重量の熔融ガラス塊を分離、冷却して、当該熔融ガラス塊と等しい質量を有するプリフォームを成形する方法である。例えば、ガラス原料を熔融、清澄、均質化して均質な熔融ガラスを用意し、温度調整された白金または白金合金製の流出ノズルあるいは流出パイプから流出する。小型のプリフォームや球状のプリフォームを成形する場合は、熔融ガラスを流出ノズルから所望質量の熔融ガラス滴として滴下し、それをプリフォーム成形型によって受けてプリフォームに成形する。あるいは、同じく所望質量の熔融ガラス滴を流出ノズルより液体窒素などに滴下してプリフォームを成形する。中大型のプリフォームを作製する場合は、流出パイプより熔融ガラス流を流下させ、熔融ガラス流の先端部をプリフォーム成形型で受け、熔融ガラス流のノズルとプリフォーム成形型の間にくびれ部を形成した後、プリフォーム成形型を真下に急降下して、熔融ガラスの表面張力によってくびれ部にて熔融ガラス流を分離し、受け部材に所望質量の熔融ガラス塊を受けてプリフォームに成形する。
【0095】
キズ、汚れ、シワ、表面の変質などがない滑らかな表面、例えば自由表面を有するプリフォームを製造するためには、プリフォーム成形型などの上で熔融ガラス塊に風圧を加えて浮上させながらプリフォームに成形したり、液体窒素などの常温、常圧下では気体の物質を冷却して液体にした媒体中に熔融ガラス滴を入れてプリフォームに成形する方法などが用いられる。
【0096】
熔融ガラス塊を浮上させながらプリフォームに成形する場合、熔融ガラス塊にはガス(浮上ガスという)が吹きつけられ上向きの風圧が加えられることになる。この際、熔融ガラス塊の粘度が低すぎると浮上ガスがガラス中に入り込み、プリフォーム中に泡となって残ってしまう。しかし、熔融ガラス塊の粘度を3〜60dPa・sにすることにより、浮上ガスがガラス中に入り込むことなく、ガラス塊を浮上させることができる。
【0097】
プリフォームに浮上ガスが吹き付けられる際に用いられるガスとしては、空気、Nガス、Oガス、Arガス、Heガス、水蒸気等が挙げられる。また、風圧は、プリフォームが成形型表面等の固体と接することなく浮上できれば特に制限はない。
【0098】
プリフォームより製造される精密プレス成形品(例えば、光学素子)は、レンズのように回転対称軸を有するものが多いため、プリフォームの形状も回転対称軸を有する形状が望ましい。具体例としては、球あるいは回転対称軸を一つ備えるものを示すことができる。回転対称軸を一つ備える形状としては、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつもの、例えば上記断面において短軸が回転対称軸に一致する楕円を輪郭線とするものなどがあり、球を扁平にした形状(球の中心を通る軸を一つ定め、前記軸方向に寸法を縮めた形状)を挙げることもできる。こうした形状を有するプリフォームは、熔融ガラス塊を浮上状態で成形(回転対称軸を一つ備え、前記回転対称軸を含む断面において角や窪みがない滑らかな輪郭線をもつプリフォーム)、したり、熔融ガラス滴を浮上させながら回転して成形(球状プリフォームの成形)することにより作製することができる。
【0099】
さらに、回転対称軸を一つ備え、前記回転対称軸と表面との2つの交点の各々を中心とする2つの互いに対向する面のいずれか一方または両方に窪みを有する形状のプリフォームも好ましい。この場合、窪みの中心、すなわち、窪みの底部中心が回転対称軸とくぼみの交点となる。互いに対向する面の一方のみにくぼみを有するプリフォームは、凸メニスカスレンズや凹メニスカスレンズを精密プレス成形により作製する際に用いるプリフォームとして好ましく、互いに対向する面の両方にくぼみを有するプリフォームは、両凹レンズを精密プレス成形により作製する際に用いるプリフォームとして好ましい。精密プレス成形の際、上型および下型を備え、上型および/または下型の成形面が凸面であるプレス成形型内にプリフォームを導入し、プリフォームのくぼみを凸面である上型および/または下型の成形面の頂部で押さえ、プリフォームがプレス成形型内の中心位置に配置され、かつ、プレス成形型を移動する際に、前記プリフォームの配置がずれないようにすることができる。こうしたプリフォームは、プリフォーム成形用下型において熔融ガラス塊をプレス成形することにより作製することができる。この場合、プリフォーム成形用下型に熔融ガラス塊を供給し、ガラスがプレス成形に適した粘度になるまでガラス塊を浮上状態に保つ。ガラスがプレス成形に適した粘度になったときに、プリフォーム成形用下型上のガラス塊を上方からプリフォーム成形用上型でプレスし、プリフォーム成形用下型と上型の成形面の形状をガラス塊に転写する。プリフォーム成形用下型成形面には、ガラス塊に風圧を加えて浮上させるためのガスを噴出するガス噴出口が多数設けられている。プレス成形時、ガラスが前記ガス噴出口に進入しない程度のガス噴出圧力を調整する。このようにすることでガスがガラス中に進入し、プリフォーム中に泡が混入するのを防止することができる。プレス成形後、プリフォーム成形用上型をガラスから離し、ガラスの加圧を終了する。
【0100】
その後も、ガス噴出口からガスを噴出してガラスに風圧を加えて浮上させながら、ガラスの冷却を行い、プリフォーム成形用下型から取り出してプリフォームとする。こうすることで、プレス成形によりガラス表面にシワが生じても、プレス成形後の浮上によってガラス表面は高温のガラス内部から加熱され、シワが消失して滑らかな表面のプリフォームを得ることができる。なお、上記対向する面の一方にくぼみを形成したい場合は、プリフォーム成形用上型、下型の成形面の一方を凸面とし、プレス成形すればよい。その場合、ガラスの浮上とプレス成形を安定して行うため、プリフォーム成形用下型成形面を凹面とし、プリフォーム成形用上型成形面を凸面とすることが好ましい。また、上記対向する面の両方にくぼみを形成する場合は、プリフォーム成形用下型成形面およびプリフォーム成形用上型成形面をともに凸面とすることが好ましい。以上のように、従来のフツリン酸ガラスからなる高温のガラス塊をプリフォーム成形型で浮上保持したり、プレス成形すると、揮発物が型に付着して、ガス噴出口が詰ったり、プレス成形時に付着物がガラスに付着してガラス表面を汚染したり、プレス成形の精度が低下するなどの問題が生じていたが、本発明によれば、ガラスの揮発性が抑制されているため、こうした問題を解消することもできる。
【0101】
第2の作製例は均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断または割断して、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片を研磨して表面を滑らかにするとともに、所定の質量のガラスからなるプリフォームとする。このようにして作製したプリフォームの表面にも炭素含有膜を被覆して使用することが好ましい。
【0102】
[光学素子ブランク]
以下、本発明の光学素子ブランクについて説明する。
本発明の光学素子ブランクは上記フツリン酸ガラスからなることを特徴とする。
【0103】
光学素子ブランクのプレス成形用ガラスゴブは、研削、研磨によって光学素子に仕上げられる光学素子ブランクをプレス成形する際に使用するガラス塊である。光学素子ブランクは目的とする光学素子の形状に研削、研磨により除去する加工しろを加えた形状を有する。
【0104】
上記ガラスゴブの作製例として、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んで成形した後、成形体の歪をアニールによって除去し、切断または割断して、所定の寸法、形状に分割し、複数個のガラス片を作製し、ガラス片をバレル研磨してガラス片のエッジを丸めるとともに、光学素子ブランクの質量に等しくなるようにガラスゴブの質量を調整する。バレル研磨したゴブ表面は、粗面となっており、プレス成形にゴブ表面に塗布する粉末状離型剤が均一に塗布しやすい面をなっている。
【0105】
ガラスゴブの第2の作製例は、流出する熔融ガラス流の先端をゴブ成形型で受け、熔融ガラス流の途中にくびれ部を形成した後、ゴブ成形型を真下に急降下して表面張力によりくびれ部にて熔融ガラスを分離する。こうして所望質量の熔融ガラス塊をゴブ成形型上に得、このガラスにガスを噴出して上向きの風圧を加えて浮上させながらガラス塊に成形する。こうして得たガラス塊をアニールしてからバレル研磨して所望の質量のガラスゴブにする。
【0106】
[光学素子]
本発明の光学素子は、上記本発明のフツリン酸ガラスからなる光学素子である。そのため、本発明によれば、低分散特性を活かした光学素子を提供することができる。光学素子の種類、形状などについては特に限定はないが、例えば、非球面レンズ、球面レンズ、マイクロレンズ、レンズアレイ、プリズム、回折格子、レンズ付きプリズム、回折格子付きレンズなどを挙げることができる。非球面レンズ、球面レンズの具体例としては、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどを挙げることができる。
【0107】
用途の面からは、撮像光学系を構成する光学素子、投射光学系を構成する光学素子、光通信用素子、光ピックアップレンズやコリメータレンズのようにDVDやCDなどの光記録式情報記録媒体からデータを読み取ったり、書き込むためのレンズなどを挙げることができる。
【0108】
撮像光学系を構成する光学素子としては、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、旧来のフィルムを使用するカメラ、監視カメラ、車載カメラなどの各種カメラに搭載されるレンズやプリズム、カメラ付き携帯電話のカメラレンズ、望遠レンズの前玉レンズなどを例示することができる。
【0109】
投射光学系を構成する光学素子としては、液晶プロジェクタやリアプロジェクタの光学系を構成するレンズやプリズムなどを例示することができる。
本発明の光学素子は異常分散性を有するガラスにより作られているので、高次の色補正用として好適である。
【0110】
またCu含有フツリン酸ガラスからなる光学素子は近赤外光吸収機能を有し、CCDやCMOSなどの半導体撮像素子の色補正用フィルターなどの光学素子として好適である。
光学素子の表面には、必要に応じて反射防止膜などの光線反射率を制御するための光学薄膜を形成してもよい。
【0111】
[光学素子ブランクの製造方法]
次に本発明の光学素子ブランクの製造方法について説明する。
本発明の第1の光学素子ブランクの製造方法は、研削、研磨により光学素子となる光学素子ブランクの製造方法において、上記本発明のプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法である。前述のように、ガラス素材の表面に窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布し、耐熱性皿に載せて加熱軟化炉内に入れ、ガラスが軟化するまで加熱した後、プレス成形型に導入してプレス成形する。次にプレス成形品を型から取り出し、アニールして歪を除くとともに屈折率などの光学特性が所望の値になるように光学特性の調整を行う。
【0112】
第2の光学素子ブランクの製造方法は、研削、研磨により光学素子となる光学素子ブランクの製造方法において、上記本発明のフツリン酸ガラスが得られるようにガラス原料を熔融、流出して熔融ガラス塊を得、前記熔融ガラス塊をプレス成形することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法である。まず、均質化した熔融ガラスを窒化ホウ素などの粉末状離型剤を均一に塗布した下型成形面上に流出し、下端部が下型に支持された熔融ガラス流を途中でシアと呼ばれる切断刃を用いて切断する。こうして、所望質量の熔融ガラス塊を下型成形面上に得る。次に、熔融ガラス塊を載せた下型を別の位置に待機する上型の真下に移送し、上型および下型で熔融ガラス塊をプレスして光学素子ブランク形状に成形する。次にプレス成形品を型から取り出し、アニールして歪を除くとともに屈折率などの光学特性が所望の値になるように光学特性の調整を行う。
【0113】
上記2つの態様は、ともに大気中で行うことができる。また、成形条件、プレス成形型の材質、加熱軟化炉および加熱、軟化する際にガラスゴブを載せる皿などについては公知の条件やものを使用することができる。
【0114】
[光学素子の製造方法]
次に本発明の光学素子の製造方法について説明する。
本発明の第1の光学素子の製造方法は、上記本発明の方法で作製した光学素子ブランクを研削、研磨する光学素子の製造方法である。研削、研磨は公知の方法を用いればよい。
【0115】
本発明の第2の光学素子の製造方法は、上記本発明のガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形する光学素子の製造方法である。ここで、上記ガラス素材はプリフォームのことである。
【0116】
プレス成形型ならびにプリフォームの加熱およびプレス工程は、プレス成形型の成形面あるいは前記成形面に設けられた離型膜の酸化を防止するため、窒素ガス、あるいは窒素ガスと水素ガスの混合ガスなどのような非酸化性ガス雰囲気中で行うことが好ましい。非酸化性ガス雰囲気中ではプリフォーム表面を被覆する炭素含有膜も酸化されずに、精密プレス成形された成形品の表面に前記膜が残存することになる。この膜は、最終的には除去するべきものであるが、炭素含有膜を比較的容易にしかも完全に除去するには、精密プレス成形品を酸化性雰囲気、例えば大気中において加熱すればよい。炭素含有膜の酸化、除去は、精密プレス成形品が加熱により変形しないような温度で行うべきである。具体的には、ガラスの転移温度未満の温度範囲において行うことが好ましい。
【0117】
精密プレス成形では、予め成形面を所望の形状に高精度に加工されたプレス成形型を用いるが、成形面には、プレス時のガラスの融着を防止するため、離型膜を形成してもよい。離型膜としては、炭素含有膜や窒化物膜、貴金属膜が挙げられ、炭素含有膜としては水素化カーボン膜、炭素膜などが好ましい。精密プレス成形では、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間にプリフォームを供給した後、ガラスの粘度が10〜10dPa・s相当の温度まで成形型とプリフォームの両者を加熱してプリフォームを軟化し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写する。
【0118】
また、成形面が精密に形状加工された対向した一対の上型と下型との間に、予めガラスの粘度で10〜10dPa・sに相当する温度に昇温したプリフォームを供給し、これを加圧成形することによって、成形型の成形面をガラスに精密に転写することができる。
【0119】
加圧時の圧力及び時間は、ガラスの粘度などを考慮して適宜決定することができ、例えば、プレス圧力は約5〜15MPa、プレス時間は10〜300秒とすることができる。プレス時間、プレス圧力などのプレス条件は成形品の形状、寸法に合わせて周知の範囲で適宜設定すればよい。
【0120】
この後、成形型と精密プレス成形品を冷却し、好ましくは歪点以下の温度となったところで、離型し、精密プレス成形品を取出す。なお、光学特性を精密に所望の値に合わせるため、冷却時における成形品のアニール処理条件、例えばアニール速度等を適宜調整してもよい。
【0121】
上記第2の光学素子の製造方法は以下の2つの方法に大別できる。第1の方法は、ガラス素材をプレス成形型内に導入し、ガラス素材とプレス成形型とを一緒に加熱し、精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、面精度、偏心精度など成形精度の向上を重視した場合、推奨される方法であり、第2の方法は、ガラス素材を加熱し、予熱したプレス成形型内に導入して精密プレス成形する光学素子の製造方法であり、生産性向上を重視した場合に推奨される方法である。
【0122】
なお、本発明の光学素子は、プレス成形工程を経なくても作製することはできる。例えば、均質な熔融ガラスを鋳型に鋳込んでガラスブロックを成形し、アニールして歪を除去するとともに、ガラスの屈折率が所望の値になるようにアニール条件を調整して光学特性の調整を行う。次にガラスブロックを切断または割断してガラス片を作り、さらに研削、研磨して光学素子に仕上げる。
【実施例】
【0123】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1(フツリン酸ガラスの製造例)
表1−1〜1−6に示す各組成を有するガラスを作製するために、各ガラス成分に対応する、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった原料を秤量し、十分に混合した。
各混合原料中の、P5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)、FとO2−の合計含有量に対するFの含有量の比(F/(F+O2−))を表1−1〜1−6に併記する。上記混合原料を白金坩堝に投入して、900℃の電気炉内で、攪拌しながら1〜3時間かけて原料を加熱熔解し、清澄、均質化して得た熔融ガラスを鋳型に鋳込んでフツリン酸ガラス1〜59の各種フツリン酸ガラスからなるブロック状のガラスを得た。なおガラスの熔解、清澄、均質化において、雰囲気の交換は行っていない。
フツリン酸ガラス1〜59のガラスにはいずも脈理は認められなかったが、比較光学ガラス1〜2の各ガラスには、著しい脈理が認められた。
【0124】
フツリン酸ガラス1〜59のガラスの作製では、揮発性が抑制されるよう、表1−1〜1−6に示すようにP5+の合計含有量に対するO2−の合計含有量の比(O2−/P5+)を3.5以上に制御し、その他成分の含有量をバランスさせて揮発性が大幅に低減された所望特性を有する光学ガラスを得ている。また、上記製造例では、2リン酸塩などのリン酸塩や、フッ化物といった未ガラス化原料を使用したが、カレットを用いてもよいし、未ガラス化原料とカレットを併用してもよい。なお、ガラス原料、特に、未ガラス化原料中に含まれる酸素の量は、ガラスに導入される酸素の量である。炭酸塩、硝酸塩、水酸化物を使用する場合、これら化合物に含まれるガラス成分となるカチオンと酸素からなる酸化物を考え、前記酸化物として上記化合物に含まれる酸素の量をガラスに導入される酸素の量と考えればよい。
【0125】
このようにして成形したフツリン酸ガラス1〜59および比較光学ガラス1〜2を徐冷降温速度−30℃/時で冷却し、各種ガラスからなる試料を得、各試料の屈折率ndを測定した。こうして得られた屈折率ndを表1−1〜1−6中にnd(1)として示す。次に、各資料を窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、徐冷降温速度−30℃/時で25℃まで冷却した後の屈折率ndを測定した。得られた屈折率ndの値を表1−1〜1−6にnd(2)として示す。表1−1〜1−6には、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)とその絶対値を示す。
(1)アッべ数(νd)
徐冷降温速度を−30℃/時にして得られたガラスについて測定した。
(2)ガラス転移温度(Tg)
理学電機株式会社の熱機械分析装置(サーモ プラス TMA 8310)により昇温速度を4℃/分にして測定した。
(3)ガラス中の金属製異物の数
光学顕微鏡でガラス内部を100倍に拡大観察し、粒径10μm以上の異物をカウントし、異物の数と観察エリアの体積から単位体積中の異物の数を算出した。
【0126】
【表1−1】

【0127】
【表1−2】

【0128】
【表1−3】

【0129】
【表1−4】

【0130】
【表1−5】

【0131】
【表1−6】

【0132】
なお、上記フツリン酸ガラス1〜59に外割りで0.5〜13カチオン%のCu2+を添加し、近赤外線吸収ガラスとしてもよく、得られる近赤外線吸収ガラスには脈理、金属製異物は認められなかった。
【0133】
また、図1に示すようにモル比O2−/P5+が3.4、3.3、3.2、3.1、3.0の5種類のフツリン酸ガラスを作製し、nd(1)、nd(2)、ガラス中の粒径10μm以上の金属粒子の数密度を測定した。その結果、いずれのガラスもnd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300を超え、金属粒子の数密度も増大した。また、これらのガラスにはいずれも脈理が認められた。
【0134】
実施例2(プレス成形用プリフォームの製造例)
フツリン酸ガラス1〜59の各ガラスが得られる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、ガラス塊を滴下する方法か、又は支持体を用いて熔融ガラス流先端を支持した後、支持体を急降下してガラス塊を分離する方法にて熔融ガラス塊を分離した。得られた各熔融ガラス塊は、目的とするプリフォーム1個分の重量に後述する除去分の重量を加えた重量を有するものである。
【0135】
次いで、得られた各熔融ガラス塊をガス噴出口を底部に有する受け型に受け、ガス噴出口からガスを噴出してガラス塊を浮上しながら成形し、プレス成形用プリフォームを作製した。プリフォームの形状は、熔融ガラスの分離間隔を調整、設定することにより、球状や扁平球状とした。得られた各プリフォームの重量は設定値に精密に一致しており、いずれも表面が滑らかであり、脈理や白金などの金属異物は認められなかった。
【0136】
次に、成形面が凹面のプリフォーム成形用下型と成形面が凸面のプリフォーム成形用上型とを用い、プリフォーム成形用下型の成形面上に上記支持体を用いる方法で分離した熔融ガラス塊を供給し、多孔質体からなる下型成形面の背面に高圧のガスを供給し、成形面からガスを噴出して熔融ガラス塊を浮上させて粘度調整して後、プリフォーム成形用上型で下型上のガラス塊をプレス成形し、上面にくぼみを有するプリフォームを成形した。次いで、上面から上型を離し、再びガラスを浮上させ、冷却した後、下型から取り出し、一方の面が凸面で他方の面にくぼみを有するプリフォームを作製した。このプリフォームは後述する凸メニスカスレンズや凹メニスカスレンズの精密プレス成形に使用した。なお、プリフォーム成形用型の上下型成形面とも凸面としてもよい。この場合、対向する2つの面ともにくぼみを有するプリフォームを成形することができる。このプリフォームは両凹レンズの精密プレス成形に好適である。いずれの成形においても、ガラスからの揮発物がプリフォーム成形用型に付着したり、ガス噴出口を詰らせるなどの問題は生じなかった。
【0137】
また別の方法として、成形した球状のプリフォームの全表面を公知の方法で研磨加工し、光学的に均質なプリフォームを得た。得られたプリフォームには脈理や白金などの金属異物は認められなかった。
【0138】
次に、フツリン酸ガラス1〜59の各ガラスからなる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし歪を除去した後、所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。こうして得た複数個のガラス板の屈折率を測定したところ、屈折率ndの公差は±0.00020以内となっており、各フツリン酸ガラスとも屈折率変動が極めて小さいレベルに抑制されていることを確認した。なお、屈折率の測定対象であるガラスは前述のように毎時30℃の冷却スピードで徐冷したものである。
そして、上記ガラス板を賽の目状に切断して複数個のガラス片を作製し、これらガラス片を研削、研磨して表面が滑らかで光学的に均質なプリフォームを得た。
【0139】
実施例3(光学素子の製造例)
実施例2において得たフツリン酸ガラス1〜59の各ガラスからなるプリフォームを、図2に示すプレス装置を用いて精密プレス成形して非球面レンズを得た。
【0140】
すなわち、プリフォーム4を、上型1、下型2および胴型3からなるプレス成形型の下型2と上型1の間に設置した後、石英管11内を窒素雰囲気としてヒーター12に通電して石英管11内を加熱した。プレス成形型内部の温度を、成形されるガラスが10〜1010dPa・sの粘度を示す温度に設定し、同温度を維持しつつ、押し棒13を降下させて上型1を押して成形型内にセットされたプリフォームをプレスした。プレスの圧力は8MPa、プレス時間は30秒とした。プレスの後、プレスの圧力を解除し、プレス成形されたガラス成形品を下型2及び上型1と接触させたままの状態で前記ガラスの粘度が1012dPa・s以上になる温度まで徐冷し、次いで室温まで急冷してガラス成形品を成形型から取り出し非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを作ることができる。
【0141】
なお、上記実施例において作製したくぼみを有するプリフォームを使用した精密プレス成形では、上型成形面を凸面として、凸面の頂部でプリフォームのくぼみ部分を押さえてプレス成形型の中心にプリフォームが配置され、その位置からプリフォームがずれないようにした。
なお、図2において、参照数字9は支持棒、参照数字10は下型・胴型ホルダー、参照数字14は熱電対である。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには、必要に応じて反射防止膜を設けた。
【0142】
次に上記各プリフォームと同じプリフォームを上記の方法とは別の方法で精密プレス成形した。この方法では、先ず、プリフォームを浮上しながら、プリフォームを構成するガラスの粘度が10dPa・sになる温度にプリフォームを予熱した。一方で上型、下型、胴型を備えるプレス成形型を加熱して、前記プリフォームを構成するガラスが10〜1012dPa・sの粘度を示す温度にし、上記予熱したプリフォームをプレス成形型のキャビティ内に導入して、10MPaで精密プレス成形した。プレス開始とともにガラスとプレス成形型の冷却を開始し、成形されたガラスの粘度が1012dPa・s以上となるまで冷却した後、成形品を離型して非球面レンズを得た。得られた非球面レンズは、極めて高い面精度を有するものであった。プレス成形型の成形面の形状を適宜、変更することにより、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、両凹レンズ、両凸レンズ、平凸レンズ、平凹レンズなどの各種非球面レンズを作ることができる。
精密プレス成形により得られた非球面レンズには必要に応じて反射防止膜を設けた。
このようにして、異物を含まず、脈理のない光学的に均質なガラスからなる光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
【0143】
実施例4(光学素子ブランクの製造例)
表1−1〜1−6に示すフツリン酸ガラス1〜59の各種ガラスが得られる熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、熔融ガラスをプレス成形型を構成する下型の成形面上に供給した。なお、下型成形面上には熔融ガラスを供給する前に窒化ホウ素粉末などの粉末状離型剤を均一に塗布しておく。
【0144】
次いで流出する熔融ガラスをシアと呼ばれる切断刃を用いて切断し、下型成形面上に所望量の熔融ガラス塊を得る。
【0145】
次いでプレス成形型を構成する上型が上方で待機する位置に熔融ガラス塊を載せた下型を移動して上下型を用いてガラス塊が軟化状態にあるうちにプレス成形する。こうして得たプレス成形品を離型してプレス成形型から取り出して光学素子ブランクを得た。次いで得られたブランクをアニールして歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望値に精密に等しくなるように調整を行い、所望形状の光学素子ブランクを得た。このようにして凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズの形状に近似するレンズブランクを作製した。
【0146】
次に、表1−1〜1−6に示すフツリン酸ガラス1〜59の各種ガラスが得られる熔融ガラスを、熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし歪を除去した後、所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。
【0147】
そして、上記ガラス板を賽の目状に切断して複数個のガラス片を作製し、これらガラス片をバレル研磨してガラス片のエッジを除去するとともに、所望の重量になるよう重量調整を行って表面が粗面化されたプリフォームを得た。
【0148】
さらに、プリフォーム全表面に粉末状の窒化ホウ素を均一に塗布し、耐熱性の皿に載せて加熱炉内に入れ、加熱、軟化させた。軟化したプリフォームをプレス成形型内に導入し、プレス成形して光学素子ブランクを得た。
【0149】
こうして得た光学素子ブランクをアニールして歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値に精密に等しくなるように光学特性の調整を行った。このようにして凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズの形状に近似するレンズブランクを作製した。
【0150】
実施例5(光学素子の製造例)
実施例4で得た光学素子ブランクを研削、研磨して凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズを作製した。
また、実施例4で作製したアニール済みガラス板を切断、研削、研磨して、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズ、プリズムを作製した。
このようにして、異物や脈理のない、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
得られた光学素子に必要に応じて反射防止膜をコートしてもよい。
【0151】
実施例6(光学素子の製造例)
表1−1〜1−6に示すフツリン酸ガラス1〜59の各種ガラスが得られる熔融ガラスを、熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし歪を除去した後、所望の長さに切断し、次々とガラス板を得た。
【0152】
次にガラス板を賽の目状に切断してガラス片を作り、このガラス片を加熱、軟化して、互いに平行な軸の周りに回転する3本のローラの間に軟化したガラス片を導入し、各ローラを回転させながらローラの間隔を狭めていき、ガラス片をプレスして丸棒状のガラスに成形した。
【0153】
得られた丸棒状ガラスをアニールした後、スライスして円筒状のガラスに分割し、これら円柱状のガラスをバレル研磨した後、全表面に粉末状の窒化ホウ素を均一に塗布し、耐熱性の皿に載せて加熱炉内に入れ、加熱、軟化させた。軟化したガラスをプレス成形型内に導入し、プレス成形して光学素子ブランクを得た。
【0154】
こうして得た光学素子ブランクをアニールして歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値に精密に等しくなるように光学特性の調整を行った。このようにして凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズの形状に近似するレンズブランクを作製した。
【0155】
次いで、これらレンズブランクを研削、研磨して、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズを作製した。
このようにして、異物や脈理のない、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
得られた光学素子に必要に応じて反射防止膜をコートしてもよい。
【0156】
実施例7(光学素子の製造例)
実施例6で得た丸棒状ガラスをアニールして歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値に精密に等しくなるように光学特性の調整を行った後、スライスして円柱状のガラスに分割した。次に、これら円柱状のガラスを研削、研磨して凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズを作製した。
このようにして、異物や脈理のない、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
得られた光学素子に必要に応じて反射防止膜をコートしてもよい。
【0157】
実施例8(光学素子の製造例)
次に、表1−1〜1−6に示すフツリン酸ガラス1〜59の各種ガラスが得られる熔融ガラスを、熔融ガラスを、ガラスが失透することなく、安定した流出が可能な温度域に温度調整された白金合金製のパイプから一定の流量で流出させ、鋳型に連続して流し込みつつ、鋳型側面の開口部から成形したガラス板を水平方向に一定スピードで引き出し、アニール炉の中を通過させてアニールし歪を除去するとともに、屈折率などの光学特性が所望の値に精密に等しくなるように光学特性の調整を行った後、賽の目状に切断して得られたガラス片を研削、研磨して凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、両凸レンズ、両凹レンズなどの各種球面レンズやプリズムを作製した。
このようにして、異物や脈理のない、内部品質の高いガラス製光学素子を生産性よく、しかも高精度に得ることができた。
得られた光学素子に必要に応じて反射防止膜をコートしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0158】
本発明によれば、フツリン酸塩ガラスからなる光学ガラスを作製したり、得られたガラスを熔融状態でパイプから流出してガラス成形体に成形する場合に、ガラス成分の揮発を抑制し、ガラス組成の変動に伴う品質のばらつきを抑制し得る低分散の光学ガラスを得ることができ、該光学ガラスを用いてプレス成形用プリフォーム、さらには各種レンズ等の光学素子を製造することができる。
【符号の説明】
【0159】
1・・・上型
2・・・下型
3・・・胴型
4・・・プリフォーム
9・・・支持棒
10・・・下型・胴型ホルダー
11・・・石英管
12・・・ヒーター
13・・・押し棒
14・・・熱電対


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス成分として、リン、酸素およびフッ素を含むフツリン酸ガラスにおいて、
該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内であり、P5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上であることを特徴とするフツリン酸ガラス。
【請求項2】
アッベ数νdが70を超えることを特徴とする請求項1に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項3】
カチオン%表示にて、
5+ 3〜50%、
Al3+ 5〜40%、
Mg2+ 0〜10%、
Ca2+ 0〜30%、
Sr2+ 0〜30%、
Ba2+ 0〜40%、
(ただし、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+の合計含有量が10%以上)
Li 0〜30%、
Na 0〜20%、
0〜20%、
3+ 0〜10%、
La3+ 0〜10%、
Gd3+ 0〜10%、
Yb3+ 0〜10%、
3+ 0〜10%、
Zn2+ 0〜20%、
In3+ 0〜20%
を含有し、アニオン%表示にて、
20〜95%、
2− 5〜80%
を含有することを特徴とする請求項1または2に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項4】
の含有量が65アニオン%以上であることを特徴とする請求項1または2に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項5】
カチオン%表示にて、
5+ 3〜15%、
Al3+ 25〜40%、
Ca2+ 5〜35%、
Sr2+ 5〜25%
を含有することを特徴とする請求項4に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項6】
Mg2+ 0〜10%、
Ba2+ 0〜20%、
Li 0〜20%、
Na 0〜10%、
0〜10%、
3+ 0〜5%
を含有することを特徴とする請求項5に記載のフツリン酸ガラス。
【請求項7】
内部に含まれる粒径が10μm以上の異物の数密度が5個/cm未満であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載のフツリン酸ガラス。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項9】
精密プレス成形用プリフォームであることを特徴とする請求項8に記載のプレス成形用ガラス素材。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれかに記載のフツリン酸ガラスからなる光学素子。
【請求項12】
リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスを成形するフツリン酸ガラスの製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、成形を行うことを特徴とするフツリン酸ガラスの製造方法。
【請求項13】
前記坩堝が白金、白金合金、金、金合金のいずれかであることを特徴とする請求項12に記載のフツリン酸ガラスの製造方法。
【請求項14】
リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスをフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材に成形するプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、成形を行うことを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項15】
リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスをフツリン酸ガラスからなるガラス成形体を成形し、該ガラス成形体を加工してプレス成形用ガラス素材を得るプレス成形用ガラス素材の製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、成形を行うことを特徴とするプレス成形用ガラス素材の製造方法。
【請求項16】
研削、研磨により光学素子に仕上げられる光学素子ブランクの製造方法において、
請求項14または15に記載の方法により作製したプレス成形用ガラス素材を加熱、軟化してプレス成形することを特徴とする光学素子ブランクの製造方法。
【請求項17】
リン、酸素およびフッ素を含む調合原料を作り、前記調合原料を坩堝内で加熱、熔融して熔融ガラスを得、前記熔融ガラスをフツリン酸ガラスからなるプレス成形用ガラス素材に成形する光学素子ブランクの製造方法において、
前記フツリン酸ガラス中のP5+の含有量に対するO2−の含有量のモル比O2−/P5+が3.5以上の範囲であって、該ガラスの屈折率ndの値をnd(1)、該ガラスを窒素雰囲気中において900℃、1時間再熔融し、ガラス転移温度まで冷却し、その後、毎時30℃の降温速度で25℃まで冷却した後の屈折率ndの値をnd(2)としたときに、nd(1)とnd(2)との差nd(2)−nd(1)の絶対値が0.00300以内となるように調合原料を作り、熔融、プレス成形を行うことを特徴とする光学素子ブランクの製造方法。
【請求項18】
請求項10に記載の光学素子ブランクまたは請求項16または17に記載の方法で作製した光学素子ブランクを研削、研磨して光学素子を得る光学素子の製造方法。
【請求項19】
請求項9に記載のプレス成形用ガラス素材、または、請求項14または15に記載の方法で作製したプレス成形用ガラス素材を加熱し、プレス成形型を用いて精密プレス成形する光学素子の製造方法。
【請求項20】
該ガラス素材をプレス成形型に導入し、ガラス素材とプレス成形型を一緒に加熱し、精密プレス成形することを特徴とする請求項19に記載の光学素子の製造方法。
【請求項21】
該ガラス素材を加熱してから、予熱したプレス成形型に導入し、精密プレス成形することを特徴とする請求項19に記載の光学素子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−116654(P2011−116654A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48488(P2011−48488)
【出願日】平成23年3月7日(2011.3.7)
【分割の表示】特願2008−228270(P2008−228270)の分割
【原出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】