説明

フライアッシュの処理方法と改質フライアッシュを用いたフライアッシュセメント,フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物

【課題】ポルトランドセメントの置換材料として用いられた場合に、コンクリート組成物の圧縮強度を有利に発揮せしめ得る、化学的に改変されたフライアッシュを得るための、新規なフライアッシュの処理方法を提供すること。
【解決手段】火力発電所の集塵器等において主に採取されて、ポルトランドセメントの一部と置換して用いられるフライアッシュ(微粉炭燃焼灰)を、フライアッシュに対する浸食特性を有する処理液に接触せしめることによって、該フライアッシュの表面に対して化学的な改変処理を施した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメントの置換材料として利用されるフライアッシュの処理方法と、該フライアッシュの処理方法で処理された改質フライアッシュを用いたフライアッシュセメントと、該フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、石炭火力発電所等において生み出されるフライアッシュ(微粉石炭灰)を、ポルトランドセメントの一部と置換して配合した、フライアッシュセメントが知られており、フライアッシュセメントに骨材等を配合して硬化せしめたコンクリート組成物が、土木や建築の分野等において一般的に使用されている。このように、セメントの一部を産業廃棄物となるフライアッシュで代替することにより、コンクリート組成物の長期強度の向上やアルカリ骨材反応の抑制,低コスト化等といった効果だけでなく、省資源化や産業廃棄物の減少といった自然環境の保護等の観点からも優れた効果が発揮されると考えられており、関心を集めている。
【0003】
さらに、昨今の電力需要の拡大に伴う火力発電所の増加等に起因して、発生するフライアッシュの量が増加傾向にある一方で、フライアッシュの有効利用が充分に実現されているとは言い難く、大量に作られるフライアッシュを利用しきれていないという現状がある。特に最近では、フライアッシュの廃棄が社会的にも問題となりつつあり、フライアッシュを有効に利用する手段が求められていることから、混合セメントの材料としての利用に更なる期待が集まっている。
【0004】
ところが、フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物では、ポゾラン反応による結合の緻密化等によって長期的な強度が向上する一方で、充分な強度を得るためには比較的に長い時間が必要とされることから、フライアッシュを使用しない通常のポルトランドセメントを使用したコンクリート組成物に比して短期間で発現する強度(早期強度)が小さくなり易い。
【0005】
そこで、フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物における充分な早期強度を確保すること等を目的として、例えば、特許文献1(特開平11−322399号公報)が提案されている。この特許文献1に記載されたコンクリート硬化体(組成物)においては、セメントに添加するフライアッシュを予め微粉砕することにより、通常のフライアッシュセメントを用いたコンクリート硬化体に比して、早期強度を有利に確保することが出来て、フライアッシュセメントにおけるフライアッシュの配合比率を高めることが可能とされている。
【0006】
しかしながら、特許文献1において示されたコンクリート硬化体では、早期強度を有利に得るために、特許文献1の実施形態にも示されているように、硫酸ソーダ溶液等のアルカリ性反応促進剤溶液(刺激剤)を多量に添加すると共に、混練(攪拌や捏和)後の加熱処理や成形時における加圧処理等が施されている。このように特許文献1に記載のコンクリート硬化体では、特殊な養生方法や成形方法等を併用することによって早期強度を向上せしめており、充分に実用的であるとは言い難かったのである。
【0007】
【特許文献1】特開平11−322399号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここにおいて、本発明は、上述の如き事情を背景として為されたものであって、その解決課題とするところは、ポルトランドセメントの置換材料として用いられた場合に、コンクリート組成物の圧縮強度を有利に発揮せしめることが出来る、化学的に改変されたフライアッシュを得るための、新規なフライアッシュの処理方法を提供することにある。
【0009】
また、本発明は、上記処理方法によって得られた化学的に改変された改質フライアッシュを用いたフライアッシュセメント、更には、該フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意な組み合わせで採用可能である。また、本発明の態様乃至は技術的特徴は、以下に記載のものに限定されることなく、明細書全体および図面に記載されたもの、或いはそれらの記載から当業者が把握することの出来る発明思想に基づいて認識されるものであることが理解されるべきである。
【0011】
すなわち、フライアッシュの処理方法に関する本発明は、フライアッシュを該フライアッシュに対する浸食特性を有する処理液に接触せしめることにより該フライアッシュに化学的な改変処理を施すことを特徴とする。
【0012】
このような本発明に従うフライアッシュの処理方法を採用することにより、フライアッシュの表面における一部乃至は全体が処理液によって浸食されて、フライアッシュの表面が凹凸に加工される。それ故、本発明に係る処理方法に従えば、フライアッシュの表面積が大きくなって化学的な反応を生じ得る面積が増すことにより、フライアッシュセメントにおけるポゾラン反応が促進されて、該フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物の早期強度が向上せしめられ得る。
【0013】
しかも、フライアッシュの表面において、圧縮強度の発揮に寄与しない成分が露出せしめられた部分が、処理液の接触による浸食作用によって取り除かれることにより、化学的な活性に富んだ部分の面積が増して、化学反応(ポゾラン反応)を生じる実質的な表面積が大きくなる。それ故、本発明に係る処理方法を採用することにより、フライアッシュセメントとしてコンクリート組成物に使用した場合に、早期(材齢91日未満であって、例えば材齢28日)における圧縮強度を有利に発揮するフライアッシュを実現することが出来る。
【0014】
また、フライアッシュの処理方法に関する本発明においては、前記フライアッシュと前記処理液を密閉容器内で攪拌することにより接触せしめることが望ましい。
【0015】
このようにフライアッシュと処理液を密閉容器内で攪拌することにより、フライアッシュ表面に処理液を満遍なく接触せしめることが出来て、目的とするフライアッシュ表面の化学的改変処理を効果的に施すことが出来る。
【0016】
また、フライアッシュの処理方法に関する本発明において、好適には、前記処理液がアンモニウムイオンとアンモニアの少なくとも一方を含む。更に、より好適には、前記処理液として硫酸アンモニウム水溶液が用いられる。
【0017】
すなわち、化学的な改変処理に用いられる処理液がアンモニウムイオンとアンモニアの少なくとも一方を含むことにより、フライアッシュの表面において、強度の発揮に必要とされる成分を残しつつ、強度の発揮に寄与しない成分を有利に溶解せしめることが出来て、硬化反応を有利に生ぜしめることによる早期強度の向上を図ることが出来る。特に、処理液として硫酸アンモニウムを含む液体を採用することにより、フライアッシュの成分の選択的な溶解作用をより有利に発揮せしめることが出来る。
【0018】
また、フライアッシュの処理方法に関する本発明においては、前記フライアッシュに粉砕処理を施すことが望ましい。
【0019】
これによれば、フライアッシュを粉砕することにより微細化して、単位質量当たりの表面積(比表面積)を大きくすることが出来る。それ故、フライアッシュとセメントの水和生成物との結合反応を有利に生ぜしめることが出来て、早期強度を良好に得ることが出来る。
【0020】
特に、フライアッシュの粉砕による物理的な改変処理を、処理液との接触による化学的な改変処理よりも前に施すことが望ましい。このようにフライアッシュを粉砕処理した後に処理液に接触せしめることにより、処理液に接触せしめられて化学的に改変されるフライアッシュの表面積が大きくなって、化学的な改変による早期強度の向上効果をより有利に発揮せしめることが出来る。
【0021】
また、本発明は、請求項1乃至5の何れか一項に記載のフライアッシュの処理方法を用いて化学的に改変された改質フライアッシュが配合されているフライアッシュセメントも特徴とする。
【0022】
このような本発明に係るフライアッシュセメントによれば、ポルトランドセメントの水和による生成物との結合反応が有利に生ぜしめられる改質フライアッシュを用いることにより、該フライアッシュセメントによるコンクリート組成物の早期強度を有利に発揮せしめることが出来る。また、簡単な処理方法によって化学的に処理された改質フライアッシュをポルトランドセメントに混合するという極めて簡単な工程により、優れた早期強度を発揮するフライアッシュセメントを実現することが出来る。
【0023】
さらに、本発明に係るフライアッシュセメントにおいては、セメントの20%以上が前記改質フライアッシュで置換されていても良い。
【0024】
このように、本発明によれば、化学的な改変処理を施された改質フライアッシュを用いることにより、コンクリート組成物の早期強度が高められることから、フライアッシュセメントにおいて比較的に高い比率でフライアッシュが配合されている場合にも、充分な圧縮強度を実現し得る。それ故、フライアッシュの配合比率を高めることによる省資源化やコストダウン等の優れた効果を期待できる。
【0025】
また、本発明は、請求項6又は7に記載のフライアッシュセメントが配合されているコンクリート組成物も特徴とする。
【0026】
このような本発明に係るコンクリート組成物においては、化学的な処理によってポゾラン反応が有利に生じるように改質されたフライアッシュを用いることにより、通常のフライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物に比して早期強度を有利に得ることが出来る。また、フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物において問題となり易い早期強度が向上せしめられていることにより、短期及び長期における圧縮強度を何れも充分に確保しつつ、フライアッシュの配合比率を高めることが出来る。
【0027】
さらに、本発明に係るコンクリート組成物においては、混和材料として刺激剤が添加されていても良い。
【0028】
このようにコンクリート組成物に刺激剤を添加することにより、ポゾラン反応を促進せしめて、比較的に早期材齢での圧縮強度を高めることが出来る。
【0029】
なお、前記刺激剤は、硫酸カルシウムと水酸化カルシウムと硫酸ナトリウムの少なくとも一つを含んでいることが望ましい。
【0030】
このような特定の物質を含む刺激剤を適当な分量で添加することにより、フライアッシュセメントにおける結合反応(ポゾラン反応)を有利に生ぜしめて、コンクリート組成物における早期強度の向上効果をより一層有利に実現することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、特に説明がない場合には、早期強度とは、材齢91日未満における圧縮強度を言うものとすると共に、長期強度とは、材齢91日以降における圧縮強度を言うものとする。
【0032】
本実施形態では、先ず、フライアッシュが準備される。準備するフライアッシュとしては、例えば、日本工業規格(JIS)において定められたI種〜IV種のフライアッシュ等が採用される。また、準備するフライアッシュとしては、通常のフライアッシュをローラーミルやボールミル等の粉砕機によって予め粉砕して微細化したものを用いても良い。
【0033】
そして、準備されたフライアッシュには、フライアッシュに対する浸食特性(ガラスに対する浸食特性)を有する処理液との接触によって、本発明に係る化学的な改変処理が施される。具体的には、例えば、フライアッシュと化学的改変に用いられる処理液が密閉容器に入れられると共に、密閉容器内でそれらフライアッシュと処理液が攪拌されて接触せしめられることにより、フライアッシュの表面が処理液によって浸食されて化学的に改変されるようになっている。
【0034】
なお、使用する処理液としては、フライアッシュにおけるガラス質物質を溶解し得るものが選択される。また、処理用の液体としては、フライアッシュの成分においてコンクリート強度の向上に寄与しない酸化マグネシウム等が有利に溶出せしめられると共に、コンクリート強度の向上に寄与する二酸化ケイ素等が溶出し難いものが望ましい。即ち、例えば、アンモニウムイオンを含む液体(アンモニウムイオンを含む水溶性化合物の水溶液等)や、アンモニアを含む液体等が処理液として望ましく、より好適には、硫酸アンモニウム水溶液が採用される。
【0035】
このようなフライアッシュの化学的改変処理によって、本発明に係る改質フライアッシュが得られる。この改質フライアッシュは、ポルトランドセメントの一部を置換する置換材料として用いられて、フライアッシュセメントを構成する。なお、改質フライアッシュによる置換比率は、特に限定されるものではないが、ポルトランドセメントの20%以上が改質フライアッシュによって置換されることが望ましく、より好適には、25%以上が置換される。
【0036】
このような改質フライアッシュを用いたフライアッシュセメントに、水を加えて混練することによって得られるモルタル硬化体によれば、従来のフライアッシュセメントを用いたモルタル硬化体に比して、早期での強度が有利に得られる。従って、本発明に係る処理方法によって得られた改質フライアッシュは、ポルトランドセメントの置換材料として、通常のフライアッシュに比して好適であると考えられ、ポルトランドセメントの一部を安価なフライアッシュで置換することにより、低コスト化を図りつつ、高性能なセメント硬化体を得ることが出来る。
【0037】
また、改質フライアッシュを用いたフライアッシュセメントに対して、砂や砂利等の骨材や水等を加えて成形することにより、改質フライアッシュを配合したコンクリート組成物を得ることが出来る。なお、コンクリート組成物の具体的な配合や成形方法及び養生方法については、従来から一般的に知られているコンクリート組成物の配合や成形方法,養生方法と同様であることから、ここでは詳細な説明を省略する。
【0038】
このような本発明に係るフライアッシュの改変処理方法によって得られる改質フライアッシュを用いたコンクリート組成物にあっては、モルタル硬化体と同様に、通常のフライアッシュを用いたコンクリート組成物に比して、強度を短期間で有利に得ることが出来る。従って、フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物において有利とされる長期強度だけでなく、従来では不利になり易かった早期強度も有利に得ることが出来て、コンクリート組成物の高性能化を図ることが出来る。
【0039】
なお、改質フライアッシュを用いたモルタル硬化体やコンクリート組成物において、充分な強度を短期間で得ることが出来る理由としては、フライアッシュの表面が処理液によって浸食されて凹凸を為すことにより、フライアッシュの比表面積が大きくなって、硬化反応(ポゾラン反応)を生じ易くなると共に、フライアッシュの表面における化学的に不活性な部分が処理液によって浸食されて、化学的な活性が高められることにより、ポゾラン反応が有利に促進されることが考えられる。
【0040】
また、予め微粉砕したフライアッシュを処理液に接触せしめて、改変処理を施すことにより、フライアッシュの比表面積(単位質量当たりの表面積)を大きくして、改変処理をより広い面積に施すことが出来る。従って、早期強度のより一層有利な発現を効果的に実現することが出来る。
【0041】
以上、本発明の一実施形態について説明してきたが、これはあくまでも例示であって、本発明は、かかる実施形態における具体的な記載によって、何等、限定的に解釈されるものではない。
【0042】
例えば、処理液の種類は、前記実施形態において例示したものによって何等限定されるものではなく、例えば、水酸化リチウム水溶液等も採用出来得る。また、処理液は必ずしも水を溶媒とした水溶液でなくても良く、使用する処理液の溶質や浸食特性等を考慮して適当な溶媒を選択して使用することも出来る。
【0043】
また、コンクリート組成物を作製するに際して、フライアッシュセメントにおけるポゾラン反応(フライアッシュの主成分であるシリカ(SiO2 )が、ポルトランドセメントの水和によって生じる水酸化カルシウムと結び付いて、ケイ酸カルシウムを生成する反応であって、フライアッシュセメントにおける硬化反応の一つ)を促進する刺激剤(硬化促進剤)を混和材料として添加しても良い。これによれば、フライアッシュセメントを用いた硬化体であるコンクリート組成物の早期強度をより有利に得ることが出来得る。なお、このような刺激剤は、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸カルシウム(セッコウ)や水酸化ナトリウム,硫酸ナトリウム等が好適に採用される。
【0044】
さらに、コンクリート組成物を作製するに際して、例えば、高温の蒸気を用いる蒸気養生等の特殊な養生方法や、加減圧を加える等の特殊な成形方法を採用しても良い。これによれば、コンクリート組成物の強度をより有利に向上せしめることが出来る。
【0045】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更,修正,改良等を加えた態様において実施され得るものであり、また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもない。
【実施例】
【0046】
以下に、本発明の幾つかの実施例について、図表を参照しつつ、詳細に説明する。
【0047】
先ず、本発明に係る第一の実施例として、フライアッシュに本発明に係る化学的な改変処理を施して、該改変処理によってフライアッシュから処理液中に溶出する成分を測定する試験を行った。具体的には、先ず、表1に示す組成を有し、表2に示す比表面積を有するフライアッシュ(図表等において、FAと略称する場合がある)を準備すると共に、ガラス(フライアッシュの成分)に対する浸食特性を有する処理液として、水酸化ナトリウム,硫酸ナトリウム,硫酸アンモニウム,水酸化バリウム,硫酸カルシウムの水溶液をそれぞれ準備した。なお、上記5種類の水溶液は、何れも蒸留水を溶媒として用いて、0.1mol濃度に調整した。また、表2にも示されているように、本実施例においてフライアッシュは日本工業規格で定められたII種のフライアッシュ(FA2)を使用している。
【表1】

【表2】

【0048】
そして、準備した5種類の水溶液をそれぞれ別の密閉容器に入れると共に、水溶液が入れられた各密閉容器にそれぞれフライアッシュを入れて連続攪拌した。なお、本実施例では、各密閉容器に入れるフライアッシュと水溶液の比率を質量比で1:30に設定した。
【0049】
このようにフライアッシュを各水溶液中に浸漬せしめて、1日,3日,7日,28日が経過した時点で、各密閉容器中からシリンジ(スポイト)によって水溶液を2mlずつ採取した。そして、採取した水溶液中に溶出しているケイ素とマグネシウムのイオン濃度をICP−MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を用いて測定し、測定結果として図1,図2を得た。なお、図1,図2においては、測定結果が処理液別に折れ線グラフで示されており、グラフ中のマーカーの種類と処理液の種類の対応が、各図中におけるグラフ右側に示されている。また、図1,図2においては、比較例として、処理液に蒸留水を用いて同様の測定を行った結果が、BL(ブランク)として、グラフ中に白丸のマーカーをもって示されている。
【0050】
先ず、図1に示された測定結果によれば、処理液として硫酸アンモニウム水溶液を用いることによって、フライアッシュの構成成分において、フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物の早期強度の向上に寄与しないと考えられるマグネシウム(Mg)が積極的に溶解されることが明らかとなった。また、硫酸カルシウム水溶液を用いた場合にも、マグネシウムの溶出が確認された。このことから、フライアッシュの改変処理に用いられる処理液として硫酸アンモニウム水溶液や硫酸カルシウム水溶液を採用することによって、フライアッシュの表面から、硬化反応に寄与し得ない副成分である酸化マグネシウムを効果的に除去することを期待出来る。従って、フライアッシュ表面における化学的な活性を高めることが出来て、改質フライアッシュを用いたコンクリート組成物における早期強度の向上を有効に図り得る。
【0051】
一方、図2に示された測定結果によれば、処理液として硫酸アンモニウム水溶液や水酸化バリウム水溶液を採用することにより、フライアッシュの主成分である二酸化ケイ素(SiO2 )の溶出が極めて有効に抑えられることが明らかとなった。従って、処理液として硫酸アンモニウム水溶液及び水酸化バリウム水溶液を採用することにより、フライアッシュに化学的な改変処理を施す際に、コンクリート組成物の強度発現に寄与する二酸化ケイ素をフライアッシュの表面に留めることが出来ると考えられる。
【0052】
以上の測定結果から、本発明に係る改変処理方法に用いられる処理液として、硫酸アンモニウム水溶液が好適に採用され得ることが示された。蓋し、硫酸アンモニウム水溶液を処理液として採用することにより、図1に示されているように、ポゾラン反応に寄与しないマグネシウムを処理液中に積極的に溶出せしめて、フライアッシュ表面における化学的な反応を生じ易くすることが出来ると共に、ポゾラン反応によってフライアッシュセメントを用いた硬化体(コンクリート組成物等)の強度発現に寄与する二酸化ケイ素の処理液への溶出を抑えて、潜在水硬性を利用した硬化反応を有効に発揮せしめることが出来るからである。このように、本実施例に係る測定結果から、硫酸アンモニウム水溶液を処理液として用いて、フライアッシュの表面を改変処理することにより、強度を得るために有用な二酸化ケイ素をフライアッシュに残溜せしめつつ、不要な酸化マグネシウムをフライアッシュの表面から除去することが可能となり得るという、極めて有用な結果を得ることが出来た。
【0053】
なお、図1、図2の結果から、コンクリート組成物の製作に際して、水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムと硫酸カルシウムが、コンクリート組成物における混和材料の一種である刺激剤として好適に用いられ得ることも推定出来る。即ち、図2によれば、それら水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムと硫酸カルシウムの各水溶液は、何れも、フライアッシュから二酸化ケイ素を効果的に溶出せしめることが示されている。それ故、フライアッシュセメントと水と骨材等の混和材料とを混練する際に、それら水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムと硫酸カルシウムの少なくとも一つを添加することにより、水酸化カルシウムとの結合によって強度発現に寄与する二酸化ケイ素を、フライアッシュ表面から液体(上記刺激剤が溶けた水溶液)中に溶出せしめて、フライアッシュセメントの潜在水硬性を有利に引き出して硬化反応を促進することが出来る。従って、短期間での強度発現を有効に実現することが出来るのである。これらの刺激剤は、予め水溶液として添加しても良いし、固体として添加して、コンクリートの混練時に配合される水に溶解せしめても良い。
【0054】
次に、本発明の第二の実施例として、化学的な改変処理を施した改質フライアッシュを用いたモルタル供試体(試料1)を作製して、28日材齢での圧縮強度試験を行った。また、本試験を実施するに際して、比較例として、通常のフライアッシュを用いたモルタル供試体(試料2)を作製して、28日材齢での圧縮強度を測定し、試料1の圧縮強度の測定値と試料2の圧縮強度の測定値を比較することにより、化学的な改変処理によるモルタル供試体の圧縮強度の変化を確認した。なお、以下の説明において、特に説明がない場合には、前記第一の実施例と同様の材料や器具、方法等が採用されている。
【0055】
具体的には、先ず、表1に示した組成と表2に示した比表面積を有するフライアッシュを用いて、硫酸アンモニウム水溶液を処理液として用いて本発明に係る改変処理を施した改質フライアッシュと、改変処理を施していない未改変のフライアッシュとを、それぞれ準備する。なお、本実施例におけるフライアッシュの表面改変処理は、前記第一の実施例に順ずる方法で行った。また、本実施例では、密閉容器内でのフライアッシュの硫酸アンモニウム水溶液への浸漬及び攪拌の開始から28日経過した時点で、フライアッシュの改変処理を完了した。
【0056】
そして、準備された改変処理済みのフライアッシュと未改変のフライアッシュを用いて、それぞれモルタル供試体を作製した。これらのモルタル供試体は、基本的には、日本工業規格(JIS)が定めるA6201「コンクリート用フライアッシュ」の付属書2(規定)「フライアッシュのモルタルによるフロー値比及び活性度指数の試験方法」に示されているモルタル供試体の作製手順(2.試験用器具〜6.試験方法)に従って作製した。なお、表3には、モルタル供試体の作製に使用した材料が示されている。本実施例では、表3に示されているように、試験モルタルに配合する水として上水道水を選択している。
【表3】

【0057】
ここにおいて、圧縮強度試験に供するモルタル供試体を作製するに際して、化学的な改変処理済みのフライアッシュを用いたモルタル供試体(試料1)の配合では、上記規定における基準モルタルの配合に比して、セメントの25%を改質フライアッシュで置き換えた。一方、未改変のフライアッシュを用いたモルタル供試体(試料2)の配合では、上記規定における基準モルタルの配合に対して、セメントの25%を未改変フライアッシュで置き換えた。換言すれば、モルタル供試体の作製に使用するフライアッシュセメント(セメントにフライアッシュを添加したもの)において、試料1ではセメントと改質フライアッシュを3:1の比率で配合する一方、試料2ではセメントと未改変フライアッシュを3:1の比率で配合した。なお、上述の説明からも明らかなように、実施例としての試料1と比較例としての試料2の作製に使用したモルタルの配合は、上記JISの規定における試験モルタルの配合に基づいている。
【0058】
そして、このようにして作製されたモルタル供試体を用いて圧縮強度試験を行った。なお、圧縮強度試験は、同付属書2(規定)に示された試験方法を用いて行い、本実施例では、比較的に早期の強度を測定するために、試料1,2として、何れも材齢28日(湿気箱中24時間+水中27日間)のモルタル供試体を用いた。
【0059】
表4には、上記の圧縮強度試験によって測定されたモルタル供試体の圧縮強度が示されている。また、図3には、モルタル試供体(試料1及び試料2)の圧縮強度試験の結果がグラフ化されている。これによれば、化学的な改変処理を施していないフライアッシュを使用したモルタル供試体(試料2)の圧縮強度が54.4N/mm2 であるのに対して、化学的な改変処理を施したフライアッシュを使用したモルタル供試体(試料1)の圧縮強度が58.2N/mm2 となっており、3.8N/mm2 (活性度指数で約7%)程度の強度向上を確認することが出来た。なお、表4にも示されているように、試料1と試料2は、何れも、フライアッシュの粉砕処理や配合時において、刺激剤(ポゾラン反応を促進せしめる混和剤)の添加,特殊な養生方法や成形方法等を採用しておらず、測定結果の違いは、化学的な改変処理の有無に起因するものであると推定される。
【表4】

【0060】
なお、化学的に改変された改質フライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物において、通常のフライアッシュセメントを用いたコンクリート組成物よりも短期的な強度が向上する理由は、充分に明らかとはなっていないが、おおよそ以下の如き理由によるものと推定される。即ち、ガラス質を溶解する特性を有する処理液にフライアッシュを接触せしめることにより、フライアッシュの表面において構成成分であるガラス質が溶解する。ここで、本実施例では、化学的な処理液として硫酸アンモニウム水溶液を採用することにより、実施例1にも示されているように、コンクリートの強度に寄与しないと考えられる酸化マグネシウム等の成分を選択的に溶解せしめると共に、ポゾラン反応によってコンクリートの強度に寄与すると考えられる二酸化ケイ素等の成分の溶出を制限することが出来ていると考えられる。それ故、フライアッシュの表面において、硬化反応を生じる実質的な表面積が大きくなって反応が促進されることにより、短期間で発現する強度が向上せしめられるものと考えられる。また、フライアッシュの表面を覆う化学的に不活性な層(コンタミネーション)が処理液によって溶解されて、フライアッシュの表面における化学的な活性が高められることにより、ポゾラン反応が生じ易くなることも、原因の一つであると考えられる。
【0061】
このように、本発明に係る改変処理を施された改質フライアッシュを採用することにより、コンクリート組成物の早期強度を向上せしめることが出来る。また、早期強度を有利に得ることが出来ることから、フライアッシュセメントにおけるフライアッシュの配合比率を高めても、充分な早期強度を確保することが出来る。それ故、高性能なコンクリート組成物を安価に提供することが可能となり得る。
【0062】
次に、フライアッシュを粉砕処理することによる圧縮強度の向上効果を確認するために、本発明の第三の実施例としての試料3と、本発明の第四の実施例としての試料4を用いて、圧縮強度試験を行った。なお、以下の説明においては、原則として、第二の実施例としての試料1や比較例としての試料2と同様に、JIS規格「コンクリート用フライアッシュ」(JIS A 6201)の付属書2(規定)「フライアッシュのモルタルによるフロー値比及び活性度指数の試験方法」に基づいて、モルタル供試体を作製し、それを用いて同規定に準拠して圧縮強度試験を行った。また、特に断りがない限り、試験に用いた材料や器具等は、試料3,試料4の作製及び圧縮強度試験に用いた材料や器具等と同様であり、例えば、本実施例において使用するフライアッシュの組成は表1に示すものと同様である。
【0063】
より詳細には、先ず、日本工業規格において定められたII種(FA2)のフライアッシュを準備して、それを硫酸アンモニウム水溶液中で攪拌して28日間浸漬せしめることにより、本発明に係る改変処理を施された改質フライアッシュを作製し、該改質フライアッシュを通常のポルトランドセメントと混合したフライアッシュセメントを用いて、試料3,4として示す本発明の第三,第四の実施例としてのモルタル供試体を作製した。なお、改質フライアッシュのセメントに対する配合比率は、前記第二の実施例としての試料1と同様であって、セメントとフライアッシュの比率が、3:1とされている。
【0064】
また、本試験においては、モルタルの作製に際して、水和反応やポゾラン反応を促進せしめる刺激剤としての硫酸カルシウム(セッコウ)を添加した。なお、硫酸カルシウムは、フライアッシュと硫酸カルシウムの総量に対して20%を為すように添加した。
【0065】
ここにおいて、試料3では、フライアッシュをボールミル等の粉砕機で予め粉砕して微細化する物理的な改変処理を施した後に、上記の如き化学的な改変処理を施した粉砕処理済みの改質フライアッシュを使用しており、改質フライアッシュの比表面積を、表5に示すように、5123cm2 /gとした。一方、試料4では、未粉砕のフライアッシュに化学的な改変処理を施した改質フライアッシュを使用しており、改質フライアッシュの比表面積を、表2に示すように、3745cm2 /gとした。
【表5】

【0066】
表6には、粉砕処理を施された改質フライアッシュを用いた試料3と、未粉砕の改質フライアッシュを用いた試料4の圧縮強度試験の結果が示されている。これによれば、粉砕フライアッシュを使用した試料3では、圧縮強度が63.3N/mm2 である一方、未粉砕フライアッシュを使用した試料4では、圧縮強度が52.0N/mm2 であった。従って、試料3と試料4の圧縮強度の測定値の比較によれば、フライアッシュの粉砕による微細化(物理的な改変処理)を施すことで、モルタル供試体、延いてはコンクリート組成物の圧縮強度が大幅に向上せしめられることが確認された。
【表6】

【0067】
このようなフライアッシュの微粉砕によって、コンクリート組成物の強度が向上する理由は、未だ充分に明らかとはなっていないが、化学的な改変処理の前にフライアッシュを微粉砕することにより、比表面積を大きくして、より広い面に化学的な改変処理を施すことが出来たと共に、フライアッシュ表面の不活性膜を粉砕によって破壊することにより、換言すれば、粉砕によってフライアッシュ表面に新生面を露出せしめることにより、フライアッシュ表面の化学的な活性を向上せしめることが出来たことによると考えられる。
【0068】
なお、表4に示された試料1と表6に示された試料4の圧縮強度試験による測定結果を比較すると、刺激剤の添加によって圧縮強度の測定値が低下することを示唆する結果が示されている。しかし、このような結果が得られた理由として、種々の条件(化学的改変に用いられた処理液の種類や処理液中へのフライアッシュの浸漬期間、フライアッシュセメントにおけるポルトランドセメントとフライアッシュの配合比率等)によって変化する刺激剤の最適添加量を充分に把握出来ていなかったことから、ここでは、刺激剤の添加量が最適値となっていなかったことが考えられる。即ち、試料4においては、過剰な刺激剤の添加によって、試料1に比して圧縮強度が低下したものと推定される。従って、刺激剤の添加量を適当に調節することによって、試料4の圧縮強度は更に向上するものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明に係るフライアッシュの改変処理によるマグネシウムイオンの溶出濃度の測定結果を示すグラフ。
【図2】本発明に係るフライアッシュの改変処理によるケイ素イオンの溶出濃度の測定結果を示すグラフ。
【図3】本発明に係るモルタル試供体と比較例としてのモルタル供試体の圧縮強度試験結果を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライアッシュを該フライアッシュに対する浸食特性を有する処理液に接触せしめることにより該フライアッシュに化学的な改変処理を施すことを特徴とするフライアッシュの処理方法。
【請求項2】
前記フライアッシュと前記処理液を密閉容器内で攪拌することにより接触せしめた請求項1に記載のフライアッシュの処理方法。
【請求項3】
前記処理液がアンモニウムイオンとアンモニアの少なくとも一方を含む請求項1又は2に記載のフライアッシュの処理方法。
【請求項4】
前記処理液として硫酸アンモニウム水溶液を用いた請求項3に記載のフライアッシュの処理方法。
【請求項5】
前記フライアッシュに粉砕処理を施した請求項1乃至4の何れか一項に記載のフライアッシュの処理方法。
【請求項6】
前記フライアッシュを粉砕処理した後に前記処理液に接触せしめた請求項5に記載のフライアッシュの処理方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載のフライアッシュの処理方法を用いて化学的に改変された改質フライアッシュが配合されているフライアッシュセメント。
【請求項8】
ポルトランドセメントの20%以上が前記改質フライアッシュで置換されている請求項7に記載のフライアッシュセメント。
【請求項9】
請求項7又は8に記載のフライアッシュセメントが配合されているコンクリート組成物。
【請求項10】
混和材料として刺激剤が添加されている請求項9に記載のコンクリート組成物。
【請求項11】
前記刺激剤が硫酸カルシウムと水酸化ナトリウムと硫酸ナトリウムの少なくとも一つを含んでいる請求項10に記載のコンクリート組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−297148(P2008−297148A)
【公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−143984(P2007−143984)
【出願日】平成19年5月30日(2007.5.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人セメント協会 2007年5月20日 発行「第61回セメント技術大会 講演要旨 2007」
【出願人】(594156880)三重県 (58)
【出願人】(000219598)東海コンクリート工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】