説明

フライス工具

【課題】円筒状の被切削物の端面の切削粉砕加工における、騒音および振動の発生を小さくし、また生産性を向上させ、さらに切削工具の寿命を大幅に向上させることができる工具を提供する。
【解決手段】フライス工具2が、切れ刃であるチップTが取付けられる工具本体4の端面4aに、複数個のチップTを放射状に並べて延びたチップ列A、Bを周方向に複数列備え、隣接する一対のチップ列A、BのチップTそれぞれが、回転中心軸線Xからの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はフライス工具、さらに詳しくは、円筒状被切削物の端面の切削粉砕に好適なフライス工具に関する。
【背景技術】
【0002】
円筒状の被切削物である比較的大径の「竹」の端面を粉状に切削する装置が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
この装置は、特許文献1の図5を参照してその符号を併記し説明すると、円板状のチップソー38を複数枚重ねて円柱状に形成した回転切削歯20を、鉛直軸線を中心に回転させ、その外周面に竹24を水平方向に移動させ、また回転させて送り、端面を切削粉砕するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−236403号公報(図5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の形態の従来の切削装置には、次のとおりの解決すべき課題がある。
【0006】
この切削装置は、フライス削りで考えると横送りであり、フライス削りとしては理にかなわない送り方になっており、円柱状の回転切削歯に対して竹を水平方向に送ると同時に回転させている。竹の円筒を平らに展開すると竹の長手方向の送りは回転切削歯の切削方向で通常の削り方になるが回転方向は歯に対して横送りとなり回転切削歯では削れない方向に無理に押付けることになる。したがって、振動、騒音の原因になり、また刃が損傷し切削性を落とす原因になり、振動、騒音が大きい、生産性が低い、工具寿命が短いなどの改善すべき課題がある。
【0007】
本発明は上記事実に鑑みてなされたもので、その技術的課題は、円筒状の被切削物の端面の切削粉砕加工における、騒音および振動の発生を小さくし、また生産性を向上させ、さらに切削工具の寿命を大幅に向上させることができる工具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討および実験の結果、上記の従来の切削装置における問題を改善するフライス工具を開発した。
【0009】
本発明によれば上記技術的課題を解決するフライス工具として、切れ刃であるチップが取付けられる工具本体の端面に、複数個のチップを放射状に並べて延びたチップ列を周方向に複数列備え、隣接する一対のチップ列のチップそれぞれが、回転中心軸線からの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている、ことを特徴とするフライス工具が提供される。
【0010】
好適には、チップ列が備えられる工具本体の端面が、工具本体の端面側の先端から半径方向内側後方に傾斜する凹型に形成されている。
【0011】
他の形態においては、チップ列が備えられる工具本体の端面が、工具本体の端面側の先端から半径方向外側後方に傾斜する凸型に形成されている。
【0012】
そして、フライス工具は、中心軸線で回転させた工具本体の端面のチップ列に向け筒状の「竹」の輪切り端面を押付け送ることにより「竹」をチップにより切削粉砕するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従って構成されたフライス工具は、切れ刃であるチップが取付けられる工具本体の端面に、複数個のチップを放射状に並べて延びたチップ列を周方向に複数列備え、隣接する一対のチップ列のチップそれぞれが、回転中心軸線からの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている。
【0014】
したがって、このフライス工具による切削は、被切削物の端面をフライス工具に正対させた正面切削方式であり、円筒状の被切削物を回転させることにより素直な送り速さであり、送り押込みは切り込み深さになる。したがって、騒音および振動の発生を小さくすることができ、また生産性を向上でき、さらに切削工具の寿命を大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に従って構成されたフライス工具の(a)正面図、(b)フライス工具の一形態である「凹型カッター」を(a)の1A-1A矢印方向に見て示した構成説明断面図。
【図2】フライス工具の他の形態である「凸型カッター」を図1(a)の1A-1A矢印方向に見て示した構成説明断面図。
【図3】本発明のフライス工具((a)凹型カッター、(b)凸型カッター)による被切削物の切削粉砕形態を示した説明図。
【図4】本発明のフライス工具を用いた切削粉砕装置の概要説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に従って構成されたフライス工具について、好適実施形態を図示している添付図面を参照して、さらに詳細に説明する。
【0017】
図1(a)を参照して説明する。全体を番号2で示すフライス工具は、切れ刃であるチップTが取付けられる工具本体4の端面4aに、複数個のチップTを放射状に並べて延びたチップ列を周方向に複数列備え、隣接する一対のチップ列A、BのチップTそれぞれが、回転中心軸線Xからの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている。
【0018】
この実施の形態のフライス工具2は、一対のチップ列A、Bが、A、B、A、Bの順で円周方向にそれぞれの間を等間隔で3組、すなわちチップ列を6個備えている。そしてチップTは、矢印Zで示す反時計方向に回転させたときに、紙面に垂直の方向から押付けた被切削物を切削するように取付けられている。
【0019】
図1(a)とともに図1(b)を参照して説明する。チップ列A、Bが備えられる工具本体4の端面4aは、工具本体4の端面4a側の先端から半径方向内側後方に角度θ1(実施例は30°)で傾斜する凹型に形成されている。以下この形態のフライス工具2を凹型カッター2aと呼ぶ。
【0020】
チップ列Aには、チップTが3個、回転中心軸線Xから順次半径R1、R3、R5の位置に取付けられている。チップ列Bには、チップTが2個、回転中心軸線Xから順次半径R2、R4の位置に取付けられている。この半径R1〜R5は順次大きく設定され、チップTそれぞれは回転中心軸線Xからの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている。したがってこの千鳥状に配列した各チップTによって被切削物の担当する径が決められている。
【0021】
この実施の形態においては、チップ列は6個(A、B一対を3組)、そしてチップTはチップ列Aに3個、チップ列Bに2個配設されているが、チップ列およびチップの数は、被切削物の大きさ、性状、また要求される切削粉の大きさなどによって、適宜に設定される。
【0022】
チップTは、周知の多角形のスローアウエイカッターを周知の取付手段である取付金具、ビスなどによって取付けたものである。したがってその詳細についての説明は省略する。
【0023】
図1(a)とともに図2を参照してフライス工具2の他の形態について説明する。このフライス工具2のチップ列A、Bが備えられる工具本体4の端面4aは、工具本体4の端面4a側の先端から半径方向外側後方に角度θ2(実施例は40°)で傾斜する凸型に形成されている。以下この形態のフライス工具2を凸型カッター2bと呼ぶ。
【0024】
凸型カッター2bにおけるチップ列数、チップ数、配列等は、基本的に凹型カッター2aと同様でよい。
【0025】
次に図3を参照して、このフライス工具2(凹型カッター2a、凸型カッター2b)を用いた円筒状の被切削物の加工形態について説明する。
【0026】
図3(a)を参照して凹型カッター2aによる加工形態について説明する。被切削物Wは回転軸線Xと同一線上を凹型カッター2aのチップTに向けて送られ(矢印Y方向)、凹型カッター2aの回転方向Zと逆方向Z1に回転あるいは移動を加えることにより、半径方向に千鳥状に配列したチップTにより切削粉砕される。
【0027】
この際凹型カッター2aにおいては、図3(a)から明確なように、被切削物Wの端面の外周部が先ずチップTによって削られる(矢印Sで示す)。したがって、凹型カッター2aは円筒状の被切削物Wの材質の外側が固い場合、例えば「竹」のような場合に好適である。
【0028】
配設されたチップTの最大径を超える太い円筒形の被切削物WLに対しては、被切削物WLを回転させながらその円筒の中心軸線を凹型カッター2aの軸線Xに対して同一でなく角度を持たせて最大径のチップTの部分に押し当てながら送りをかけて切削することにより、円筒形の被切削物WLのチップTに当たっている側の反対側を凹型カッター2aより外して切削することができる(軸線XL、回転方向ZLで示す)。
【0029】
また、例えば「竹」のように円筒形でも真円ではなくかなり楕円形の被切削物であってもチップTが径方向に配列されているので、そして楕円形の大径と小径の差が大きくてもチップTによる切削範囲の中で切削粉砕することができる。
【0030】
図3(b)を参照して凸型カッター2bによる加工形態について説明する。被切削物Wは凹型カッター2aと同様に回転軸線Xと同一線上を凸型カッター2bのチップTに向けて送られ(矢印Y)、凸型カッター2bの回転方向Zと逆方向Z1に回転あるいは移動を加えることにより、半径方向に千鳥状に配列したチップTにより切削粉砕される。
【0031】
この際凸型カッター2bにおいては、図3(b)から明確なように、被切削物Wの端面の内周部が先ずチップTによって削られる(矢印Sで示す)。したがって、凸型カッター2bは円筒状の被削物Wの材質の内側が固い場合に好都合である。
【0032】
チップTが配設された最大径を超える太い円筒形の被切削物WLに対しては、被切削物WLを回転させながらその円筒の中心軸線を凹型カッター2aの軸線Xに対して同一でなく平行に移動させて最小径のチップTの部分に押し当てながら送りをかけることで切削粉砕することができる。
【0033】
そして凹型カッター2aと同様に、「竹」のように円筒形でも真円ではなくかなり楕円形の被切削物であってもチップTが径方向に配列されているので、そして楕円形の大径と小径の差が大きくてもチップTによる切削範囲の中で切削粉砕することができる。
【0034】
このフライス工具2による切削は、被切削物に加える回転は切り刃であるチップTに対する素直な送り速さであり、送り押込みはチップTの切り込み深さになる。したがって、素直な正面切削方式であり、「竹」による実験によれば、従来の方式に比べて騒音、振動は大幅に低減され、生産性は3倍以上になり、工具の寿命は10倍以上になることが確認された。
【0035】
次に図1とともに図4、主として図4を参照して、比較的大径で長尺の被切削物である真竹、孟宗竹のような「竹」の切削粉砕装置について説明する。切削粉砕装置8は、フライス工具2(凹型カッター2a)が駆動手段10によってZ方向に回転駆動を自在に取付けられ、中心軸線Xで回転させた凹型カッター2aの端面4aの複数のチップ列A、B(図1)に向けて「竹W」を逆方向Z1に回転させながらその輪切り端面を正対する方向Yに押付け送ることにより、「竹W」を複数個のチップTにより切削粉砕する。切削粉砕装置8は支持手段12を備え、「竹W」のZ1方向への回転機構およびY方向への送り機構等を備えている。
【0036】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、上述したとおりのフライス工具2の作用効果をまとめて説明する。
【0037】
本発明に従って構成されたフライス工具2は、切れ刃であるチップTが取付けられる工具本体4の端面に、複数個のチップTを放射状に並べて延びたチップ列を周方向に複数列備え、隣接する一対のチップ列A、BのチップTそれぞれが、回転中心軸線Xからの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている。
【0038】
このフライス工具2による切削は、被切削物の端面をフライス工具2に正対させた正面切削方式であり、円筒状の被切削物を回転させることにより素直な送り速さであり、送り押込みは切り込み深さになる。また、大径から小径までの被切削物、さらに真円でないものも切削粉砕することができる。したがって、騒音、振動の発生を小さくし、生産性を向上させ、さらに切削工具の寿命を大幅に向上させることができる。
【0039】
チップ列A、Bが備えられる工具本体4の端面4aを、工具本体4の端面4a側の先端から半径方向内側後方に傾斜する凹型に形成した凹型カッター2aは、円筒状の被切削物Wの材質の外側が固い、例えば「竹」の切削粉砕に好適である。
【0040】
また、チップ列A、Bが備えられる工具本体4の端面4aを、工具本体4の端面4a側の先端から半径方向外側後方に傾斜する凸型に形成した凸型カッター2bは、円筒状の内側が固い被切削物Wの切削粉砕に好適である。
【0041】
そして、このフライス工具2は、中心軸線Xで回転させた工具本体4の端面4aのチップ列A、Bに向け筒状の「竹」の輪切り端面を押付け送ることにより「竹」を切削粉砕する工具として好適である。
【0042】
以上、本発明を実施例に基づいて詳細に説明したが、本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、例えば下記のように、本発明の範囲内においてさまざまな変形あるいは修正ができるものである。
【0043】
本発明の実施の形態においては、フライス工具2の切れ刃であるチップTが取付けられる端面は凹型あるいは凸型であるが、端面は平面であってもよい。
【0044】
本発明に係るフライス工具2は被切削物としての「竹」の切削粉砕に好都合であるが、被切削物としては「竹」に限定されるものでなく、木材、プラスチック、金属材など他の材質のものでもよい。
【符号の説明】
【0045】
2:フライス工具
2a:凹型カッター(フライス工具)
2b:凸型カッター(フライス工具)
4:工具本体
4a:端面
A:チップ列
B:チップ列
R1〜R5:径方向距離
T:チップ
X:回転中心軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
切れ刃であるチップが取付けられる工具本体の端面に、複数個のチップを放射状に並べて延びたチップ列を周方向に複数列備え、
隣接する一対のチップ列のチップそれぞれが、回転中心軸線からの径方向距離を交互に異にした千鳥状に配設されている、
ことを特徴とするフライス工具。
【請求項2】
チップ列が備えられる工具本体の端面が、
工具本体の端面側の先端から半径方向内側後方に傾斜する凹型に形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のフライス工具。
【請求項3】
チップ列が備えられる工具本体の端面が、
工具本体の端面側の先端から半径方向外側後方に傾斜する凸型に形成されている、
ことを特徴とする請求項1記載のフライス工具。
【請求項4】
中心軸線で回転させた工具本体の端面のチップ列に向け筒状の「竹」の輪切り端面を押付け送ることにより「竹」をチップにより切削粉砕する、
ことを特徴とする請求項1から3までのいずれかに記載のフライス工具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−206228(P2012−206228A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75141(P2011−75141)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(511082285)特定非営利活動法人グリーンネットワーク (1)
【Fターム(参考)】