説明

フラップ振動子、フラップ振動子の製造方法およびフラップ振動子を含む集積回路

【課題】マイクロフラップMEMS振動子は機械的摩擦による支持部の減衰効果の為、Qファクタが比較的低いので、出力共振信号を増強させる必要がある。
【解決手段】第1電極1、および隣接する第1電極の端部から誘導体部3によって離間された支持部分221を含む第2電極と、ビーム部21から成り、ビーム部21は、前記支持部分221から、第1電極1の表面の少なくとも一部の上に延び、それによってビーム部21と第1電極1表面の間には間隙があり、第1電極1および第2電極の配置は、電気信号が電極に印加されると、ビーム部21が振動し、ビーム部21と第1電極1の間で変化する電気容量を生成するようになされている。支持部221は、ビーム部21の幅より小さい有効幅を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動子の分野に関し、さらに、MEMS(微小電気機械システム)振動子に関する。
【背景技術】
【0002】
微小電気機械システム(MEMS)は、例えば高周波(RF)アプリケーション等のための、低コスト、低電力構成部品を実現するためのもっとも有望な技術の1つである。MEMSデバイスのマイクロメータのスケールと集積化の実現性は、従来の高周波システムにおいて受動素子が占有する大きな領域の問題を軽減するのに有用である。
【0003】
このような状況において、いわゆるMEMS振動子が開発されており、これは容量結合された2つの半導体電極(シリコン、ポリシリコン等で作成される)を含む。電気信号を電極に印加すると、振動子はその共振周波数で共振信号を発生する。電気信号により、例えば電極の1つである電極配置の一部の機械的振動が生じ、その機械的共振周波数で発振が開始される。これにより電極配置の電気容量が変化し、システムは電気共振信号を発生する。
【0004】
MEMS振動子は2つの電極から成ることができる。1つは「固定する」ことが可能で、1つは電気信号が電極に印加されたときに振動することができるように配置された部材を含む。そのような振動子の例が特許文献1に開示されている。そこにおいて、ビーム部がアンカー部から延び、該ビーム部は振動子の他方の電極の表面に対向するように配置された末端部を有する。振動運動は、アンカーと他方の電極との間での長手方向のビームの収縮/伸張に対応する。
【0005】
MEMS振動子の別の例では、いわゆるフラップ振動子またはマイクロフラップ振動子がある。そのような振動子を図1(a)および1(b)に示す。これは第1電極1と第2電極をから成る。第1電極1は基板(不図示)上に配置することができ、基板上には他方の電極のベース部23を配置することもできる。さらに第2電極は、ベース部23からビーム部の主要面に対して垂直方向に偏位したビーム部21を含み、第2電極の一部を形成する支持部22によりベース部23に連結している。該支持部22と隣接する第1電極の端部の間には、誘電体片または誘電体層(例えばシリコン酸化層など)の一部のような誘電体部3があり、第1および第2電極を電気的に隔離している。
【0006】
ビーム部21は、第1電極1の表面の少なくとも一部の上に延び、該ビーム部と、対向する第1電極の表面との間には間隙があり、そこでビーム部21を振動させる(図1(b)に矢印で図示)。第1および第2電極が重なる部分、すなわちビーム部21が、下にある電極1に重なる部分は、本来のMEMS振動子領域であり、幅Wと長さLを有する。電気信号が電極に印加されると、振動子はその共振周波数で共振信号を発生する。電気信号により、ビーム21は機械的振動を生じ、ビーム21の自由端がその機械的共振周波数で垂直に振動を開始する。これにより電極配置の電気容量が変化し、システムは電気共振信号を発生する。
【0007】
第1電極1は典型的にはシリコンまたはポリシリコンで作成され、第2電極もまた、シリコンまたはポリシリコンで作成することができる。これらの材料は(標準CMOSプロセスやバイポーラプロセスなどの)半導体製造の標準プロセスと互換性がある。
【0008】
【特許文献1】米国特許第6870444号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来のマイクロフラップMEMS振動子による問題は、機械的摩擦による支持部の減衰効果が原因で、Qファクタが比較的低いことにある。これにより出力共振信号が減少する。
【0010】
一方、この種の振動子から得られる信号は非常に弱くなり得ることが分かっており、従来の発振器アプリケーションには適さない。したがって、出力共振信号を増強させる必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様はフラップ振動子またはマイクロフラップ振動子に関する。フラップ振動子またはマイクロフラップ振動子は、第1電極(シリコンまたはポリシリコンで作成することができる)、および第2電極(シリコンまたはポリシリコンで作成することができる)と、ビーム部とから成り、第2電極は、隣接する第1電極の端部から誘導体部または誘導体片によって離間された支持部を含む。ビーム部は、支持部から、第1電極の表面の少なくとも一部の上に延び、それによってビーム部と第1電極表面の間には間隙があり、第1電極および第2電極の配置は、電気信号が電極に印加されると、ビーム部が振動し、該ビーム部と第1電極の間で変化する電気容量を生成するようになされている。
【0012】
本発明によれば、ビーム部は支持部との連結部に平行する方向に第1の幅を有し、支持部は該方向に有効幅を有し、有効幅は第1の幅より小さい。すなわち、支持部はビーム部の全幅にわたって連続しているのではない。これは、出力共振信号の増強、および/またはQファクタの向上のためのものであり、下記の理由による。
【0013】
マイクロフラップ振動子は、クランプフリーのビーム振動子と同種である。クランプフリーのビーム振動子のサポートQファクタは下記のように表される。

ここで、L、Wはそれぞれ、図1(a)に示すクランプフリーのビーム(マイクロフラップ)振動子の、長さ、幅である(S.Pourkamaliら著「High−Q Single Crystal Silicon HARPSS Capacitive Beam Resonators With Self−Aligned Sub−100−nm Transduction Gaps」、J.Microlectromech.Syst.vol.12、2003年8月、p.487−496参照)。すなわちこの振動子のサポートQファクタはビームの長さに比例し、幅に反比例する(総合的Qファクタはいくつかの減衰効果に影響を受ける。サポートQファクタは支持部の減衰効果に関係する)。したがって、Qファクタを増加するために、可能なアプローチは振動子の長さを増加し、幅を減少することであろう。しかし、振動部の幅を含む振動子の幅を減少すると、出力信号の低下をもたらす(ビーム部に蓄積可能な電荷はビーム部の幅と共に増加し、出力信号のレベルはビーム部に蓄積される電荷のレベルと共に増加する)。しかし、この弊害は支持部の幅(またはむしろ、有効幅すなわち累算した全体の幅)を減らしさえすれば回避できる。
【0014】
一方で、MEMS振動子の電気等価回路モデルは図2のように示すことができる。ここで、LSは振動子の等価回路のインダクタンス、CSは振動子の等価回路の電気容量、RSは直列運動抵抗であり、C0は振動子の2つの電極間の重複静電容量であり、とりわけ振動子のサイズによって決定される。図1(a)および1(b)のようなマイクロフラップ振動子では、C0はビーム部21と支持部22が第1電極1の表面に重なる領域によって影響を受ける(図1(b)参照)。ビーム部21と第1電極1の間にはシリコン酸化層は残っていない。したがって、C0への作用は、主に支持部の一部、または2つの電極間の誘電体片または誘電体部(例えば、二酸化ケイ素(SiO2)で作成される)が存在する側壁部からである(誘電体部の誘電率εOXは、−誘電体部は対応するシリコン酸化層の一部である− 真空の誘電率ε0より大きい:εOX>ε0)。
【0015】
0は、振動子の性能に影響を及ぼすことが分かっている。高いC0は振動子の電気容量が高いことを意味する。したがって、C0を減少させると、出力共振信号が増強される。本発明によれば、これは支持部の有効幅を減らすことにより実現され、このようにして、第1および第2電極間でもっとも大きい誘電率εOXを有する領域における電極の領域を減少させる。この領域は、第2電極の支持部と隣接する第1電極の端部との間における、誘電体片または誘電体部に相当する。
【0016】
支持部は、ビーム部との連結部に平行する方向に連続する1つの単一支持部分を含むことができ、有効幅は単一支持部分の幅になる。支持部分は、例えば、幅に沿ったビーム部の収縮を考慮して中央に設置できる。
【0017】
別法として、支持部はビーム部との連結部に平行する方向に沿って1列に配置された複数の支持部分を含むことができる。支持部分は、隣接する支持部分とは空隙により離間しており、有効幅は複数の支持部分の幅の合計となる。すなわち、単一支持部分の代わりに、空隙により離間した複数の小さな支持部分でも良く、支持部分の累算したまたは合計の幅はビーム部の幅より小さくなる。
【0018】
本発明によって得られる効果は、基本的に支持部分の「有効幅」の減少に伴って増加する。一方、ビーム部の十分な機械的支持を保証できるように、幅は十分にする。どの場合でも、有効幅は、ビーム部の幅の50%未満、例えば、ビーム部の25%でも適用できる。
【0019】
第2電極はさらに、支持部から延びるベース部を含むことができる。ビーム部をベース部からビーム部の主要面に対して垂直方向に移動していても良く、すなわちビーム部とベース部が、振動子を形成する層構造において「異なるレベル」にあっても良い。
【0020】
支持部は、有効幅を有し、該有効幅は少なくとも誘電体片に接する領域の一部(または全体でもよい)において、第1の幅より小さく(幅を減少することは特に、第1および第2電極間の電気容量の減少に寄与する)、および/または、支持部は、有効幅を有し、該有効幅は少なくとも誘電体片に接していない領域の一部において、第1の幅より小さい(幅を減少することは主として、振動子のQファクタの増加に役立つ)。
【0021】
誘電体部は、第1電極に対して第2電極を電気的に絶縁するために配設された、シリコン酸化層等の層の一部であっても良い。
【0022】
第1電極と第2電極の一方がp型ドープ半導体材料で作成されても良く、第1電極と第2電極の他の一方がn型ドープ半導体材料で作成されても良い。よって、出力信号電流を下記に説明するように、増加することができる。
【0023】
MEMS振動子の半導体電極間の単位当たりの電荷は、下記のように算出できる。

(ここで、C0は2つの電極間の静電容量、VPは2つの電極間のDCバイアス電圧、VFBはフラットバンド電圧、Φfはフェルミ準位、ΦABは2つの対向する半導体電極間のビルトインポテンシャル)
【0024】
従来型の配置では、両電極は同じ方法でドープされた材料から構成され(すなわち、p型とp型、またはn型とn型の半導体材料)、ビルトインポテンシャルΦABは下記の通りである。

(ここで、Egは半導体のエネルギーバンドギャップ、Naは底面側(基準)半導体電極のドーピング密度、kはボルツマン定数、Tは温度、niは半導体の固有密度、)
そして、電極の電荷は下記の通り。

【0025】
しかし、電極が異なる方法でドープされた材料で作成された場合(例えば、それぞれp型、n型の半導体材料で)、ビルトインポテンシャルΦABは下記のようになる。

【0026】
そして、電極の電荷は下記のようになる。

【0027】
上記の式から、電極の電荷の差、すなわちq1とq2の差が求められる。

【0028】
このようにして、一方の電極をp型半導体材料で作成し、他方の電極をn型半導体材料で作成した振動子は、両電極が同じ方法でドープされた従来の振動子より、多くの電荷を蓄積することができると分かる。
【0029】
共振周波数で、インピーダンスRXを有する容量型のMEMS振動子ついて検討する。該振動子は、下記のように算出できる出力信号電力を生成する。

ここで、A0=LWは振動子重複領域(例えば、図3、4を参照)、d0は2つの電極間を離間させる間隙、δC/δxは単位変位当たりの振動子容量の変化、Xは振動振幅、ω0=2πf0は角振動周波数、ε0は誘電率である。
【0030】
振動子の静電容量は下記の通りである。

よって、

【0031】
共振出力信号は電荷に比例する。したがって、静電結合型の振動子の半導体電極は、p型半導体電極とn型半導体電極から構成され、同じ方法でドープされた2つの半導体電極を有する振動子よりも大きな出力信号電流を生成する。
【0032】
したがって、振動子特性が向上し、振動子は、例えば無線通信デバイスで使用される集積回路等の高周波アプリケーションに、より好ましく利用できるように形成される。さらに、ドーピングをこのように選択しても、特定の製造工程を追加することや、従来の製造プロセスを実質的に変更することを必要としない。
言いかえれば、標準の半導体製造プロセスが利用できるということである。よって、本発明のこの実施形態は、既存の技術で、追加のコストもなく、直接実施できる。
【0033】
本発明の別の態様は、フラップ振動子の製造方法に関する。第1電極、および隣接する該第1電極の端部から誘導体部によって離間された支持部を含む第2電極と、ビーム部から成るフラップ振動子の製造方法であり、ビーム部は、支持部から、第1電極の表面の少なくとも一部の上に延び、それによってビーム部と第1電極表面の間には間隙があり、第1電極および第2電極の配置は、電気信号が該電極に印加されると、ビーム部が振動し、ビーム部と第1電極の間で変化する電気容量を生成するようになされている。
【0034】
この方法は、
− 第1電極に対応する第1電極層を配設する工程と、
− 少なくとも1つの誘電体層を、少なくとも第1電極層の一部の上に堆積し、少なくとも第1電極層の端部の一部を覆う工程と、
−第2電極層を、少なくとも1つの誘電体層の一部の上に堆積し、第2電極層が、少なくとも1つの誘電体層によって、第1電極層の端部から離間された支持部を含むようにする工程と、
− 第1電極層と第2電極層の間の少なくとも1つの誘電体層の一部を除去し、少なくとも第1電極層の一部の上に延び、ビーム部と第1電極の間で変化する電気容量を生成するように自由に振動するビーム部を配設し、それによって、第1電極層と第2電極層の間の少なくとも1つの誘電体層の一部を除去する工程が行われ、少なくとも1つの誘電体層の一部が残り、ビーム部を支持する第2電極の支持部を、隣接する第1電極の端部から離間する誘導体層を構成する工程と、を含む。
【0035】
本発明のこの態様によれば、ビーム部が支持部との連結部に平行する方向に第1の幅を有し、支持部は該方向に有効幅を有し、有効幅が第1の幅より小さくなるように、第2電極層が配置される。
【0036】
本発明の第1の態様と関連して既述した内容は、本発明の方法の態様にも、必要な変更を加えて適用できる。
【0037】
支持部の有効幅は、支持部に対応する第2電極の相当部分を除去することによって、第1の幅より小さくできる。
【0038】
別法として、支持部の有効幅は、第2電極層の有効幅をビーム部に対応するよりも支持部に対応して小さくするように、第2電極層を塗布することによって、第1の幅より小さくできる。
【0039】
これは、典型的なCMOSプロセスの工程を利用して実現できる。
【0040】
第1電極層および第2電極層のうちの一方または両方が、ドープシリコンまたはポリシリコンで作成できる。
【0041】
少なくとも1つの誘電体層が、例えば二酸化ケイ素で作成できる。
【0042】
支持部を構成する第2電極層の一部が、ビーム部との連結部に平行する方向に連続する単一支持部分を含むように、第2電極層を配設または処理でき、有効幅は単一支持部分の幅である。
【0043】
別法として、支持部を構成する第2電極層の一部が、ビーム部との連結部に平行する方向に沿って配置された複数の支持部分を含み、該支持部分が隣接する支持部分とは空隙により離間するように、第2電極層を配設または処理でき、有効幅は複数の支持部分の幅の合計である。
【0044】
有効幅は、第1の幅の50%未満、例えば第1の幅の25%未満で良い。
【0045】
第2電極がさらに、支持部から延びるベース部を含むように、第2電極層を配設できる。
【0046】
支持部が有効幅を有し、該有効幅が、少なくとも1つの誘電体層の残りの部分に接する領域の少なくとも一部において、および/または、少なくとも1つの誘電体層の残りの部分に接していない領域の少なくとも一部において、第1の幅より小さくなるように、第2電極層を塗布または処理できる。
【0047】
第1電極と第2電極の一方をp型ドープ半導体材料で作成しても良く、第1電極と第2電極の他の一方をn型ドープ半導体材料で作成しても良い。
【0048】
本発明のさらに別の態様は、高周波アプリケーションの集積回路に関する。該集積回路は、複数の回路要素から成り、上記に記載した振動子、および/または上記に記載の方法により得られる振動子、の少なくとも1つを含む。この種の集積回路にこの種の振動子を使用すると、高周波アプリケーションの構成要素の集積化が増大する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
説明を完全にし、本発明をより良く理解するために、図面1式を備えた。図面は説明に不可欠な部分であり、本発明の好ましい実施形態を図解している。実施形態は、本発明の範囲を制限するものではなく、本発明をどのように実施するかの例に過ぎないと解釈すべきである。
【0050】
図3は、本発明の可能な実施形態に係わるフラップ振動子の説明図であり、第1電極1および第2電極2(ハッチング部分を指す)から成る。第2電極は、誘電体部3により隣接する第1電極の端部から離間した支持部221、該支持部から第1電極1の表面の一部の上を延びるビーム部21、およびベース部23から成る。ビーム部21と、対向する第1電極1の面との間には間隙がある。第1電極1と第2電極の配置は、電気信号が電極に印加されると、ビーム部が振動し、ビーム部21と第1電極1の間で変化する電気容量を生成するようになされている。ここで、本実施形態によると、ビーム部21は支持部22(図示せず。図1(B)の断面図参照)との連結部に平行する方向に第1の幅(W)を有し、支持部はビーム部との連結部に平行する方向に連続する単一支持部分221を含む。よって、支持部の有効幅は該単一支持部分221の幅(w1)であり、上述のビーム部の第1の幅(W)より小さい。単一支持部分221は、幅(W)に沿ったビーム部21の収縮を考慮して中央に設置され、対称的な配置となる。
【0051】
図4は、別の実施形態の説明図である。ほとんどの構成部品は図3で説明したものと同じであり、同じ符号が付してある。しかし単一支持部分221の代わりに、図4の実施形態では、支持部が、ビーム部との連結部に平行する方向に沿って1列に配置された複数の支持部分222を含む。該支持部分222は隣接する支持部分222とは空隙2220により離間している。それにより、有効幅は複数の支持部分222の各幅(w2)の合計となる。これらの支持部分222はそれぞれ同じ幅にすることもできるし、または異なる幅にすることもできる。
【0052】
図5は、本発明の一実施形態にしたがって振動子を製造する一つの可能な方法を概略的に説明している。基本的に製造プロセスは標準CMOS技術に基づき、振動子を集積回路に集積するのに適している。
【0053】
図5(a)は第1工程後に得られる構造を示す。第1工程では基板ウェハを準備し、第1シリコン層501(例えば、pまたはn型のドープシリコン)を構成し、その上に第1の絶縁層または誘電体層(例えば二酸化ケイ素(SiO2)の層で、フィールド酸化層としても公知である)を熱酸化により堆積する。誘電体層502の厚さは、典型的には10000Å程度である。
【0054】
図5(b)では、第1ポリシリコン層503をCVD(化学気相成長)法によって第1誘電体層502の一部の上に堆積する。この第1ポリシリコン層503は、ポリシリコン層の抵抗率を減少させるために、熱拡散またはイオン注入により、(例えば、ボロン(B)を用いたp型ドーピング、またはヒ素(As)またはリン(P)を用いたn型ドーピングを用いて)ドープされる。その後、ウェハはドーピングの均一性を維持するように熱アニールされる。この第1ポリシリコン層503の厚さは、典型的には5000Å程度である(しかし、この層の幅は本振動子の製造プロセスでは重要ではない。この場合、第1ポリシリコン層503が第1電極を構成するが、振動させることは意図しておらず、そのためその寸法は特には関係がないからである)。
【0055】
図5(c)において、第2誘電体(例えば二酸化ケイ素(SiO2)等)層504が、後に続くポリシリコン層から第1ポリシリコン層503を絶縁するために、熱酸化により追加される。また、第2誘電体層504は振動子の全体的な支持体または「アンカー」部としての役割をする。第2誘電体層504の厚さは、振動子の垂直に重なり合う部分間に設けられる間隙に依存する。典型的には第2誘電体層504は500nm未満の厚さを有することができる。
【0056】
図5(d)において、第2ポリシリコン層505が、第2誘電体層504の一部の上にCVD法により堆積される。この第2ポリシリコン層505は、(例えば、ボロン(B)を用いたp型ドーピング、またはヒ素(As)またはリン(P)を用いたn型ドーピングを用いて)ドープされる。第1ポリシリコン層をp型ドーピングすると、第2ポリシリコン層をn型ドーピングすることができ、逆もまた同様である。ポリシリコン層の抵抗率を減少させるために、熱拡散またはイオン注入により、逆の型のドーピングが、振動子からのより大きな出力信号電流に対して備えることができるからである(上述の部分を参照)。それから、ウェハはドーピングの均一性を維持するように熱アニールされる。この第2ポリシリコン層505の厚さは、振動子の所望の特性に従って選択される(この層の厚さは、振動子の特性に強く影響する重要なパラメータである)。典型的には第2ポリシリコン層505は、500nmから2000nmの間の厚さを有する(しかし、厚いポリシリコン層は製造がより難しい場合があり、標準CMOS製造プロセスとは互換性がない)。
【0057】
次の工程、いわゆる「ポストプロセス」工程では、犠牲層(すなわち、第2誘電体層504の一部)が取り除き、支持部に連結する部分を除いたビーム部(第2ポリシリコン層505の一部に相当する)を自由にさせることにより振動子を作動できるようにする。支持部もまた第2ポリシリコン層505により構成されている。ポストプロセスリリースエッチングはフッ化水素酸リリース溶液(この溶液は、典型的にはシリコン酸化犠牲層を除去するために用いられる)を用いて行われる。エッチング時間は、除去される第2誘電体層504の長さに依存する。
【0058】
図5(e)において、第2誘電体層504の一部がどのようにして残り、第1ポリシリコン層503(本発明の第1電極に相当する)と第2ポリシリコン層505の一部(第2電極の支持部分に相当する)との間の誘電体部または誘電体片を構成するかが分かる。第2誘電体層504の一部は、第1および第2電極(それぞれ第1ポリシリコン層503、第2ポリシリコン層505に相当する)の間の誘電体部または誘電体片となり、実質上2つの電極間の電気容量に寄与する。したがって、第2電極の支持部の幅、または少なくともこの誘電体片(すなわち、第1および第2電極間の第2誘電体層504に対応するの残存部分)に接している支持部の部分の幅を減少させることにより、電気容量は減少する。この幅は、支持部に対応する第2ポリシリコン層505が、幅または「有効幅」を、ビーム部の幅と比較して減じていることを特徴とするように、第2ポリシリコン層505を塗布する、上述の工程を実行することによって減じるができる。これは、第2ポリシリコン層505を以下のように塗布することによって行われる。すなわち、支持部に対応する部分の第2ポリシリコン層505は、
− ビーム部の幅より小さい幅(すなわち、図3に示す幅w1)を有する1つの単一支持部分221、または
− 複数の支持部分が空隙2220により離間され、各支持部分は複数の部分の幅の合計がビーム部の幅より小さくなるように選択された幅w2を有する(図4参照)複数の支持部分222
を含む。
【0059】
これは、連続する第2ポリシリコン層505を塗布した後、エッチングで一部を除去するか、または、該第2ポリシリコン層505を、該当の領域をポリシリコンから離間するように保持するマスクの上から塗布し、そうして本発明のように支持部分を設けることによって達成できる。これは、例えば、従来のCMOSプロセス工程を利用して行うことができる。
【0060】
もちろん、振動子回路の電気容量を変更するための別のアプローチとして、第2誘電体層504を取り除き、支持部に関係する第1および第2電極間の第2誘電体層504を除去することも可能である。しかし、第2誘電体層504を除去し、支持部を第1電極から離間することは、支持部がもはや第2誘電体層によって支持されないということである。こうすると、支持部はビーム部と共に振動してしまい、よって振動子の機械的挙動を実質的に変えてしまい、望ましくない。
【0061】
図6は、高周波アプリケーションの集積回路、すなわちアンテナ600に接続されたトランシーバモジュール示す。トランシーバモジュールは、複数のバンドパスフィルタ601、中間周波数バンドパスフィルタ602、Rx/Tx(受信/送信)スイッチ603、低雑音増幅器604、電力増幅器605、中間周波数増幅器606、局部発振器607、周波数変換ミキサ608、ベースバンドブロック609から成る。この回路構成は、この種のアプリケーションでは従来型のものである。しかし、本発明にしたがうと、1つ以上のバンドパスフィルタ(601、602)と局部発振器は本発明の振動子に基づくことが可能であり、他の要素、任意にはアンテナ600も含む回路に集積されている。
【0062】
本明細書において、用語「から成る」およびその派生語(「から成っている」「含む」等)は除外の意味で理解すべきではなく、すなわちこれらの用語は、記載および定義されたものがさらなる要素、工程等を含む可能性を除外するような解釈をすべきではい。
【0063】
一方、本発明は、ここに記載した特定の実施形態に限定されないことは明らかであり、特許請求の範囲で定義した本発明の全般的な範囲内で、当業者が想到し得る任意の変形(例えば、材料、寸法、構成要素、構成等の選択に関して)を、包含する。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明は、マイクロフラップMEMS振動子において利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1(a)】従来のMEMS振動子上面図。
【図1(b)】図1(a)に示すMEMS振動子の断面図。
【図2】MEMS振動子の電気等価回路モデル
【図3】本発明の一実施形態に係わるMEMS振動子の上面図。
【図4】本発明の別の実施形態に係わるMEMS振動子の上面図。
【図5】製造プロセスの異なる工程における振動子の断面の概略説明図。
【図6】本発明の振動子を含む高周波アプリケーションの回路の概略説明図。
【符号の説明】
【0066】
1・・・・第1電極
2・・・・第2電極
3・・・・誘電体部
21・・・ビーム部21
22・・・支持部
23・・・ベース部
221・・単一支持部分
222・・支持部分
2220・空隙
501・・第1シリコン層
502・・第1誘電体層
503・・第1ポリシリコン層
504・・第2誘電体層
505・・第2ポリシリコン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極、および隣接する該第1電極の端部から誘導体部によって離間された支持部を含む第2電極と、ビーム部から成るフラップ振動子であり、
前記ビーム部は、前記支持部から、前記第1電極の表面の少なくとも一部の上に延び、それによって前記ビーム部と前記第1電極表面の間には間隙があり、前記第1電極および前記第2電極の配置は、電気信号が前記電極に印加されると、前記ビーム部が振動し、該ビーム部と前記第1電極の間で変化する電気容量を生成するようになされている、フラップ振動子において、
前記ビーム部は前記支持部との連結部に平行する方向に第1の幅を有し、
前記支持部は前記方向に有効幅を有し、該有効幅は前記第1の幅より小さい、
ことを特徴とするフラップ振動子。
【請求項2】
前記支持部が、前記ビーム部との連結部に平行する方向に連続する単一支持部分から成り、有効幅が前記単一支持部分の幅であることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項3】
前記単一支持部分が、幅に沿ったビーム部の収縮を考慮して中央に設置されることを特徴とする請求項2に記載のフラップ振動子。
【請求項4】
前記支持部が、前記ビーム部との連結部に平行する方向に沿って配置された複数の支持部分を含み、前記支持部分は隣接する支持部分とは空隙により離間しており、有効幅は前記複数の支持部分の幅の合計であることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項5】
有効幅が、前記第1の幅の50%未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項6】
有効幅が、前記第1の幅の25%未満であることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項7】
前記第2電極が、さらに前記支持部から延びるベース部を含むことを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項8】
前記支持部が、有効幅を有し、該有効幅は少なくとも前記誘電体部に接する領域の一部において、前記第1の幅より小さいことを特徴とする請求項7に記載のフラップ振動子。
【請求項9】
前記支持部が、有効幅を有し、該有効幅は少なくとも前記誘電体部に接していない領域の一部において、前記第1の幅より小さいことを特徴とする請求項7に記載のフラップ振動子。
【請求項10】
前記誘電体部が、前記第1電極に対して前記第2電極を電気的に絶縁する層の一部であることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項11】
前記第1電極がシリコンまたはポリシリコンで作成され、前記第2電極がシリコンまたはポリシリコンで作成されることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項12】
前記誘電体部が、二酸化ケイ素で作成されることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項13】
前記第1電極と前記第2電極の一方がp型ドープ半導体材料で作成され、前記第1電極と前記第2電極の他の一方がn型ドープ半導体材料で作成されることを特徴とする請求項1に記載のフラップ振動子。
【請求項14】
第1電極、および隣接する該第1電極の端部から誘導体部によって離間された支持部を含む第2電極と、ビーム部から成るフラップ振動子の製造方法であり、
前記ビーム部は、前記支持部から、前記第1電極の表面の少なくとも一部の上に延び、それによって前記ビーム部と前記第1電極表面の間には間隙があり、前記第1電極および前記第2電極の配置は、電気信号が前記電極に印加されると、前記ビーム部が振動し、該ビーム部と前記第1電極の間で変化する電気容量を生成するようになされている、フラップ振動子の製造方法が、
前記第1電極に対応する第1電極層を配設する工程と、
少なくとも1つの誘電体層を、少なくとも前記第1電極層の一部の上に堆積し、少なくとも該第1電極層の端部の一部を覆う工程と、
第2電極層を、前記少なくとも1つの誘電体層の一部の上に堆積し、前記第2電極層が、前記少なくとも1つの誘電体層によって、前記第1電極層の端部から離間された支持部を含むようにする工程と、
前記第1電極層と前記第2電極層の間の前記少なくとも1つの誘電体層の一部を除去し、少なくとも前記第1電極層の一部の上に延び、前記ビーム部と前記第1電極の間で変化する電気容量を生成するように自由に振動するビーム部を配設し、それによって、前記第1電極層と前記第2電極層の間の前記少なくとも1つの誘電体層の一部を除去する前記工程が行われ、前記少なくとも1つの誘電体層の一部が残り、前記ビーム部を支持する前記第2電極の前記支持部を、前記隣接する第1電極の端部から離間する誘導体層を構成する工程と、を含み
前記ビーム部が前記支持部との連結部に平行する方向に第1の幅を有し、前記支持部は前記方向に有効幅を有し、該有効幅が前記第1の幅より小さくなるように、前記第2電極層が配置される
ことを特徴とするフラップ振動子の製造方法。
【請求項15】
前記支持部に対応する前記第2電極の相当部分を除去することによって、前記支持部の有効幅が、前記第1の幅より小さくなっていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記第2電極層の有効幅を前記ビーム部に対応するよりも前記支持部に対応して小さくするように前記第2電極層を塗布することによって、前記支持部の有効幅が、前記第1の幅より小さくなっていることを特徴とする請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記第1電極層および前記第2電極層の少なくとも一方が、ドープシリコンまたはポリシリコンで作成されることを特徴とする請求項14から16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
前記少なくとも1つの誘電体層が、二酸化ケイ素で作成されることを特徴とする請求項14から17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
前記支持部を構成する前記第2電極層の一部が、前記ビーム部との連結部に平行する方向に連続する単一支持部分を含むように、前記第2電極層が配設または処理され、有効幅が前記単一支持部分の幅であることを特徴とする請求項14から18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
前記支持部を構成する前記第2電極層の一部が、前記ビーム部との連結部に平行する方向に沿って配置された複数の支持部分を含み、前記支持部分が隣接する支持部分とは空隙により離間するように、前記第2電極層が配設または処理され、有効幅は前記複数の支持部分の幅の合計であることを特徴とする請求項14から18のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
有効幅が、前記第1の幅の50%未満であることを特徴とする請求項14から20のいずれかに記載の方法。
【請求項22】
有効幅が、前記第1の幅の25%未満であることを特徴とする請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第2電極がさらに、前記支持部から延びるベース部を含むように、前記第2電極層が配設されることを特徴とする請求項14から22のいずれかに記載の方法。
【請求項24】
前記支持部が有効幅を有し、該有効幅が、前記少なくとも1つの前記誘電体層の残りの部分に接する領域の少なくとも一部において、前記第1の幅より小さくなるように、前記第2電極層が塗布または処理されることを特徴とする請求項14から23のいずれかに記載の方法。
【請求項25】
前記支持部が有効幅を有し、該有効幅は、前記少なくとも1つの前記誘電体層の残りの部分に接していない領域の少なくとも一部において、前記第1の幅より小さくなるように、前記第2電極層が塗布または処理されることを特徴とする請求項14から24のいずれかに記載の方法。
【請求項26】
前記第1電極と前記第2電極の一方がp型ドープ半導体材料で作成され、前記第1電極と前記第2電極の他の一方がn型ドープ半導体材料で作成されることを特徴とする請求項14から25のいずれかに記載の方法。
【請求項27】
複数の回路要素から成り、請求項1から13のいずれかに記載の振動子、または請求項14から26のいずれかの方法により得られる振動子、の少なくとも1つを含むことを特徴とする、高周波アプリケーションの集積回路。

【図1(a)】
image rotate

【図1(b)】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2007−116693(P2007−116693A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−282267(P2006−282267)
【出願日】平成18年10月17日(2006.10.17)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】