説明

フランジを有する形鋼の圧延方法

【課題】H形鋼等のフランジを有する形鋼の寸法精度、特にフランジ厚さを均一にすることができる製造方法を提供する。
【解決手段】ブレイクダウン圧延機で粗形鋼片に圧延した後、粗ユニバーサル圧延機群で、ウエブ厚さと、フランジ厚さ及びフランジ幅を圧延し、その後、仕上げユニバーサル圧延機で仕上げ圧延を行ってフランジを有する形鋼を製造するに際し、粗ユニバーサル圧延機群を構成する粗ユニバーサル圧延機11に、外周面11aaの形状を円弧状とした垂直ロール11aと、垂直ロール11aの外周面11aaと相対する側面部分11baを円弧状とした水平ロール11bを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、H形鋼などのフランジを有する形鋼を、粗ユニバーサル圧延機群を用いて圧延する方法に関するもので、特にフランジ厚さの精度向上を図るものである。
【背景技術】
【0002】
H形鋼などのフランジを有する形鋼は、図4に示すような圧延ラインで、以下に述べるようにして製造される。
1は鋼片を圧延温度まで均一に加熱する加熱炉で、この加熱炉1で加熱された鋼片をブレイクダウン圧延機2でH形断面の粗形鋼片に圧延する。次に、粗ユニバーサル圧延機群3を構成する粗ユニバーサル圧延機3aとエッジャー圧延機3bで、所定の断面寸法になるまで、前記粗形鋼片のウエブ厚さ方向とフランジ厚さ方向及びフランジ幅方向に複数回繰り返し圧延する。その後、仕上げユニバーサル圧延機4で最終製品に仕上げる。
【0003】
前記粗ユニバーサル圧延機3aは、図5(a)に示すように、上下一対の水平ロール3aaと左右一対の垂直ロール3abが同一の鉛直面上に軸芯が存在するように構成されている。そして、例えば図6に示すH形鋼5のウエブ5aの厚さ方向には水平ロール3aaで、フランジ5bの厚さ方向には水平ロール3aaの側面と垂直ロール3abによって圧下する。
【0004】
一方、H形鋼5のフランジ5bの幅方向には、前記水平ロール3aaと同様、図5(b)に示す上下に配置した一対のエッジャーロール3baで構成された、粗ユニバーサル圧延機3aと対で用いられるエッジャー圧延機3bによって圧下する。
【0005】
ところで、前記粗ユニバーサル圧延機のロール間のギャップは、セットアップ制御と呼ばれる方法によって設定されることが多い。この方法は、ある圧延パスにおいて圧延後に目標とする厚さまで圧延する場合の圧延反力を予測し、その圧延反力による圧延機の弾性変形分を考慮し、ロール間のギャップを決定するものである。
【0006】
一方で実際の圧延においては、被圧延材の断面寸法のバラツキ、温度不均一、圧延機設定のバラツキ、機械的ガタなどが存在する。従って、H形鋼5の両フランジ5bの図6における紙面上下の端面厚さ、或いはフランジ5bの上下方向における厚さを均一なものとすることが難しい。
【0007】
そこで、特許文献1では以下の方法が提案されている。この方法では、先ず、粗ユニバーサル圧延機に近接配置した熱間寸法測定器によってフランジ厚さを測定する。次に、測定したフランジ厚さから粗ユニバーサル圧延機の水平ロールのロール軸方向位置の偏差、垂直ロールにおけるロール開度の偏差、及び水平ロールのロール隙間中心の、垂直ロールのロール胴中心位置に対する偏差を演算する。最後に、これらの偏差を0若しくは許容範囲に収める各ロールの位置変更を行い、この位置変更後に粗ユニバーサル圧延機で圧延する。
【特許文献1】特開平6−15327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1で提案された方法であっても、圧延機の機械的ガタに起因するフランジ厚さの不均一さを解決することは困難である。特に、垂直ロール3abのクランプ機構にガタがある場合、垂直ロール3abは、圧延前の図7(a)に示す状態から、圧延中には図7(b)に示すようにハの字状に傾き、その結果として紙面上側のフランジ厚さが下側のフランジ厚さよりも厚くなる。
【0009】
また、水平ロール3aaの側面は、図5(a)に示すように3〜10°程度の角度θが付与されている。従って、前記機械的ガタにより、図7(b)に示すように垂直ロール3abが傾いた場合、水平ロールの側面部分と垂直ロールの外周面のギャップが紙面上下方向で変化し、フランジ厚さが不均一になる。
【0010】
本発明が解決しようとする問題点は、従来の圧延方法では、圧延機の機械的ガタに起因するフランジ厚さの不均一さを解決することが困難であるという点である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のフランジを有する形鋼の圧延方法は、
圧延機に機械的なガタが存在してもフランジ厚さを均一に圧延することを可能とするために、
ブレイクダウン圧延機で粗形鋼片に圧延した後、粗ユニバーサル圧延機群で、ウエブ厚さと、フランジ厚さ及びフランジ幅を圧延し、その後、仕上げユニバーサル圧延機で仕上げ圧延を行ってフランジを有する形鋼を製造するに際し、
粗ユニバーサル圧延機群を構成する粗ユニバーサル圧延機に、外周面の形状を円弧状とした垂直ロールと、垂直ロールの前記外周面と相対する側面部分を円弧状とした水平ロールを備えたものを使用することを最も主要な特徴としている。
【0012】
本発明の圧延方法は、粗ユニバーサル圧延機における垂直ロールの外周面と、この外周面と相対する水平ロールの側面部分を共に円弧状に形成するので、圧延中に垂直ロールがハの字状に傾いても、フランジ厚さが不均一になることはない。
【0013】
本発明の圧延方法では、粗ユニバーサル圧延機における垂直ロールの外周面の円弧半径を、垂直ロールのチョックの長さの0.8〜1.2倍とすることが望ましい。
【0014】
垂直ロールの外周面の円弧半径が垂直ロールのチョックの長さの0.8倍未満の場合には、垂直ロール下側のギャップが大きくなり、その結果下側フランジの厚さが厚くなるからである。反対に垂直ロールの外周面の円弧半径が垂直ロールのチョックの長さの1.2倍を超えると垂直ロール上側のギャップが大きくなり、上側フランジ厚さが厚くなるからである。
【0015】
また、本発明の圧延方法では、粗ユニバーサル圧延機群を構成するエッジャー圧延機におけるエッジャーロール側面の、前記粗ユニバーサル圧延機で粗圧延した粗形鋼片のフランジ内面に当接する部分を、前記粗ユニバーサル圧延機における水平ロールの前記側面部分と略同半径の円弧状とすることがより望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、粗ユニバーサル圧延機における垂直ロールの外周面と、水平ロールの側面部分を共に円弧状に形成することで、H形鋼等のフランジを有する形鋼の寸法精度、特にフランジ厚さを均一にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図1〜図3を用いて説明する。
図1(a)は本発明の圧延方法に使用する粗ユニバーサル圧延機のロール構成を説明する図、(b)は同じくエッジャー圧延機のロール構成を説明する図である。
【0018】
11は本発明の圧延方法に使用する粗ユニバーサル圧延機であり、その垂直ロール11aは、半径Rが垂直ロール11aのチョック11cの長さLの例えば0.8倍の円弧状に外周面11aaを形成している。
【0019】
一方、水平ロール11bは、前記垂直ロール11aの外周面11aaと相対する位置にある側面部分11baの形状を、前記外周面11aaと前記側面部分11baの間のギャップ分だけ前記外周面11aaの円弧より大きい円弧状に形成している。なお、前記ギャップは、例えばセットアップ制御と呼ばれる方法によって決定される値である。
【0020】
このような構成の粗ユニバーサル圧延機11で、ブレイクダウン圧延機で圧延した粗形鋼片13を、ウエブ厚さ方向とフランジ厚さ方向に圧延した場合には、圧延中に図2のように垂直ロール11aがハの字状に傾いても、フランジ厚さが不均一になることはない。
【0021】
すなわち、本発明では、垂直ロール11aの外周面11aaと、水平ロール11bの側面部分11baを共に円弧状に形成するので、垂直ロール11aが傾いても、前記外周面11aaと前記側面部分11baとの間のギャップが均一に保たれるからである。
【0022】
上記本発明では、粗ユニバーサル圧延機11の垂直ロール11aの外周面11aaと、水平ロール11bの側面部分11baを共に円弧状に形成するので、その下流に配置されたエッジャー圧延機12のエッジャーロール12aを以下の形状とすることが望ましい。
【0023】
すなわち、エッジャーロール12aの側面の、前記粗ユニバーサル圧延機11で粗圧延した粗形鋼片13のフランジ内面に当接する部分12aaを、前記水平ロール11bの前記側面部分11baと略同半径の円弧状とするのである。
【0024】
このような形状のエッジャーロール12aを使用した場合には、フランジ5bの内面がエッジャーロール12aの当接部分12aaに合致するので、H形鋼5のフランジ5bを幅方向に圧下する際に、フランジ5bが変形することを防止できる。
【0025】
次に、図1に示したロールを備えた粗ユニバーサル圧延機群を使用した本発明方法により、H588mm×B300mm×t112mm×t220mmのH形鋼を製造した例を説明する。なお、Hは両フランジ間の長さ、Bはフランジ幅、t1はウエブ厚さ、t2はフランジ厚さを示す(図6参照)。
【0026】
本発明方法を実施する際に使用した粗ユニバーサル圧延機は、垂直ロールのチョックの長さLが1835mmで、垂直ロールの外周面の円弧半径は1800mm、水平ロールの側面部分の円弧半径は1800mmであった。また、エッジャー圧延機のエッジャーロールの側面の、粗ユニバーサル圧延機で粗圧延した粗形鋼片のフランジ内面に当接する部分の半径は1800mmであった。
【0027】
圧延中に粗ユニバーサル圧延機の垂直ロールが図2に示すようにハの字状に傾いた場合の水平ロール側面と垂直ロール外周面のギャップ変化を図3に示す。図3より明らかなように、本発明では、フランジ厚さは一様に厚くなるが、ギャップ変化は一様なものとなって厚さの不均一は生じないことが分かる。なお、フランジの厚さを変える場合は、垂直ロールの開度を補正することにより容易に修正することができる。
【0028】
比較として、水平ロールのロール傾斜角が5°、垂直ロールの頂角部の面取り半径を300mm、水平ロールの側面部分の形状を直線状とした、従来の粗ユニバーサル圧延機を使用して図3を得たのと同様の条件で実験を行った場合の結果を図8に示す。
【0029】
図8に示すように、従来の粗ユニバーサル圧延機を使用した場合は、水平ロールの側面部分と垂直ロールの外周面のギャップが変化してフランジ厚さが不均一になることが分かる。
【0030】
下記表1に、前記H形鋼を本発明による圧延方法で圧延した場合と、従来方法で圧延した場合の、フランジ厚さの測定結果を示す。フランジ厚さは、フランジの先端から10mmピッチでマイクロメータを使用して測定した。
【0031】
【表1】

【0032】
表1より明らかなように、本発明方法によれば、垂直ロールのクランプ機構のガタに起因するフランジ厚さの不均一が従来方法に比べて略半分に減少している。
【0033】
本発明は上記した例に限らないことは勿論であり、請求項に記載の技術的思想の範疇であれば、適宜実施の形態を変更しても良いことは言うまでもない。
【0034】
例えば、上記の実施例では、垂直ロールの前記外周面の円弧半径を、垂直ロールのチョックの長さの0.98倍のものについて説明したが、0.8倍未満或いは1.2倍を超えても良い。但し、この場合、フランジ厚さの不均一さは上記実施例に比べて若干悪くなる。
【0035】
また、上記の実施例では、エッジャーロール側面の、粗形鋼片のフランジ内面に当接する部分を、水平ロールの側面部分と略同半径の円弧状としたものについて説明したが、必ず水平ロールの側面部分と略同半径の円弧状としなくても良い。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本明細書では、H形鋼の圧延方法について説明したが、フランジを有する形鋼であれば、T形鋼などの圧延にも適用できることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)は本発明の圧延方法に使用する粗ユニバーサル圧延機のロール構成を説明する図、(b)は同じくエッジャー圧延機のロール構成を説明する図である。
【図2】本発明において、垂直ロールクランプ機構にガタがある場合の圧延中における垂直ロールの位置変化を説明する図である。
【図3】本発明の圧延方法による粗ユニバーサル圧延機の水平ロール側面と垂直ロール外周面のギャップ変化を示した図である。
【図4】フランジを有する形鋼を製造する熱間圧延ラインを模式的に表した図である。
【図5】(a)は従来の圧延方法に使用される粗ユニバーサル圧延機のロール構成を説明する図、(b)は同じくエッジャー圧延機のロール構成を説明する図である。
【図6】H形鋼の各部の名称を説明した図である。
【図7】(a)はユニバーサル圧延機の非圧延時の状況を示す図、(b)は垂直ロールクランプ機構にガタがある場合の圧延中における垂直ロールの位置変化を説明する図である。
【図8】従来の圧延方法による粗ユニバーサル圧延機の水平ロール側面と垂直ロール外周面のギャップ変化を示した図である。
【符号の説明】
【0038】
2 ブレイクダウン圧延機
4 仕上げユニバーサル圧延機
11 粗ユニバーサル圧延機
11a 垂直ロール
11aa 外周面
11b 水平ロール
11ba 側面部分
11c チョック
12 エッジャー圧延機
12a エッジャーロール
12aa フランジ内面と当接する部分


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレイクダウン圧延機で粗形鋼片に圧延した後、粗ユニバーサル圧延機群で、ウエブ厚さと、フランジ厚さ及びフランジ幅を圧延し、その後、仕上げユニバーサル圧延機で仕上げ圧延を行ってフランジを有する形鋼を製造するに際し、
粗ユニバーサル圧延機群を構成する粗ユニバーサル圧延機に、外周面の形状を円弧状とした垂直ロールと、垂直ロールの前記外周面と相対する側面部分を円弧状とした水平ロールを備えたものを使用することを特徴とするフランジを有する形鋼の圧延方法。
【請求項2】
粗ユニバーサル圧延機における垂直ロールの前記外周面の円弧半径を、垂直ロールのチョックの長さの0.8〜1.2倍としたことを特徴とする請求項1に記載のフランジを有する形鋼の圧延方法。
【請求項3】
粗ユニバーサル圧延機群を構成するエッジャー圧延機におけるエッジャーロール側面の、前記粗ユニバーサル圧延機で粗圧延した粗形鋼片のフランジ内面に当接する部分を、前記粗ユニバーサル圧延機における水平ロールの前記側面部分と略同半径の円弧状としたことを特徴とする請求項1又は2に記載のフランジを有する形鋼の圧延方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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