説明

フランジ配管接続部の補修工法及び補修用治具

【課題】フランジ配管接続部の老朽化対策として、フランジ配管接続部における機械的な接続部分の間隙に、確実にシール材を充填する。
【解決手段】シール部材を挟んで密着接続される密着接続部分Bと機械的接続部分Aとを備えたフランジ配管接続部の補修用治具であって、フランジFの外周面全周の外側に装着されるリング状部材1を備え、リング状部材1は、その内側に機械的接続部分Aに形成される間隙Sに連通する清掃空間1Aを形成し、清掃空間1Aに連通する複数の開口部1Bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フランジ配管接続部の補修工法及び補修用治具に関するもので、特には、フランジ配管接続部の漏洩予防,漏洩後の修理,接続強度の補強を目的とした補修工法及び補修用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フランジ配管接続部は、都市ガス配管,上下水道配管,各種工業用流体(液体,気体,蒸気を含む)配管等の配管接続部に用いられている。このフランジ配管接続部は、ガスケット或いはパッキンと呼ばれるシール部材を挟んで密着接続される部分(密着接続部分という)と、この部分の外周に形成されて一対のフランジをボルト・ナットで接続する機械的な接続部分(機械的接続部分という)とによって形成されており、この機械的な接続部分には、一対のフランジ面間或いはボルト挿入穴に若干の間隙が形成されるように規格化されているものがある。
【0003】
このようなフランジ配管接続部は、配管敷設後の老朽化によってシール部材の気密性が損なわれることがある。これに対しては、接続ボルトを取り外して接続を開放した後、シール部材を新しいものに交換すればよいが、その作業を行うには配管を流れる流体を接続部の上流側で一端遮断する必要があり、接続部の下流側への流体供給が一時的に途絶えてしまう問題が生じる。
【0004】
この問題に対応すべく、接続部下流側への流体供給を維持しながら、接続部の老朽化に対応するために、フランジ配管接続部の前述した間隙に樹脂材料からなるシール材を充填して、老朽化したシール部材の周囲に樹脂材料からなるシール材の気密層を形成する工法が各種提案されている。
【0005】
下記特許文献1には、図1に示すように、管路P1,P2を接続するフランジ継手において、ボルトB・ナットNで機械的に接続されるフランジF,Fの外周面Fa,Faに、フランジ面間の間隙Sに注入口が臨む注入孔Iを有する囲繞部材Rを取り付け、その注入孔Iからシール樹脂材を注入することで、フランジ面間の間隙Sにシール樹脂材を充填する工法が記載されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、フランジ面間の外周部分にワイヤを巻き付け、フランジを機械的に接続するボルトを溝付きボルトに交換して、溝付きボルトの溝を経由して、巻き付けられたワイヤの内側間隙に樹脂を注入する工法が記載されている。
【特許文献1】特開平11−230441号公報
【特許文献2】特開2004−17236号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した従来技術によると、フランジ配管接続部の接続状態を維持したままの状態で、接続部の老朽化に対応する補修を行うことができる。このような従来工法を確実に施工するためには、フランジ配管接続部における前述した機械的な接続部分の間隙が、樹脂材料の充填に適するように開放された空間になっていることが必要である。
【0008】
しかしながら、フランジ配管接続部を地中や屋外に敷設している場合等には、前述した機械的な接続部分の間隙が泥や錆等によって塞がれており、この間隙を完全に樹脂材料で埋めることができないという問題がある。
【0009】
そして、この問題を解消するためには、樹脂材料の注入工程に先立って、前述した機械的な接続部分の間隙を開放するための清掃を行うことが必要になるが、フランジ配管接続部は狭いピット内に設けられることが多く、人手による清掃作業が極めて困難な場合があり、また、フランジ配管接続部の下方部は地面や敷設基盤面に近接していることが多いので、この下方部を含むフランジの全体を確実に清掃することができないといった問題がある。
【0010】
更には、フランジ配管接続部のシール部材には、アスベストなどの有害物が含まれている場合もあるので、人手による清掃作業では、作業の安全性が担保できない問題がある。また、有害物の体内侵入を防ぐためにマスク等の防塵手段を装着した作業を行うことになると、円滑に補修作業を行うことができないという問題があった。
【0011】
特に、エアガンなどで間隙内の泥や錆を吹き飛ばすと、シール材に含まれるアスベストが飛散することになり、人体にとって非常に好ましくない状況になる。
【0012】
本発明は、このような問題に対処することを課題の一例とするものである。すなわち、フランジ配管接続部の老朽化対策として、フランジ配管接続部における機械的な接続部分の間隙に、確実にシール材を充填できること、フランジ配管接続部が狭いピット内等の作業性の悪い場所に敷設されている場合にも、前述した間隙内の清掃を確実に行うことができること、フランジ配管接続部の全体を確実に清掃することができること、作業の安全性を担保した上で円滑な作業が可能であること、等が本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
このような目的を達成するために、本発明によるフランジ配管接続部の補修工法及び補修用治具は、以下の特徴を少なくとも具備するものである。
【0014】
一つには、シール部材を挟んで密着接続される密着接続部分と該密着接続部分の外周に形成されて一対のフランジを機械的に接続する機械的接続部分とを備えたフランジ配管接続部の補修工法であって、前記フランジの外周面全周の外側に、前記機械的接続部分に形成される間隙に連通する清掃空間を形成する工程と、前記清掃空間に清掃材を投入して前記間隙を清掃する清掃工程と、前記清掃空間を介して前記間隙にシール材を充填させる充填工程と、を有することを特徴とする。
【0015】
また一つには、シール部材を挟んで密着接続される密着接続部分と該密着接続部分の外周に形成されて一対のフランジを機械的に接続する機械的接続部分とを備えたフランジ配管接続部の補修用治具であって、前記フランジの外周面全周の外側に装着されるリング状部材を備え、該リング状部材は、その内側に前記機械的接続部分に形成される間隙に連通する清掃空間を形成し、該清掃空間に連通する複数の開口部を備えることを特徴とする。
【0016】
このような特徴によると、フランジ外周面全周の外側に形成される清掃空間に清掃材を投入して、フランジ配管接続部の機械的接続部分に形成される間隙を清掃するので、フランジ全体に亘って間隙の清掃を確実に行うことができる。これによって、清掃された間隙全体に確実にシール材を充填させることができる。
【0017】
また、清掃空間に清掃材を投入して間隙を清掃するので、清掃材及び清掃処理物を清掃空間内に閉じ込めた状態で清掃作業を行うことができ、周辺を汚すこと無く、清掃処理物の人体への影響を排除して、円滑且つ安全に作業を行うことができる。
【0018】
また、清掃空間はフランジの外周面全周に形成されるので、狭いピット内等の作業性の悪い場所であっても、簡易にフランジ全体に亘って間隙の清掃を行うことができる。
【0019】
更には、清掃空間を介して間隙にシール材を充填させるので、清掃工程から連続してシール材の充填工程を行うことができ、清掃からシール材の充填までの作業を一連の作業で円滑且つ迅速に行うことができる。
【0020】
このような清掃空間は、前述した特徴を有する補修用治具のリング状部材によって形成され、このリング状部材が清掃空間に連通する複数の開口部を備えている。これによると、リング状部材をフランジ外周に装着した後は、一つの開口部を介して清掃空間に清掃材を投入して、清掃処理物を他の開口部から排出させる。また、清掃終了後は、リング状部材を装着したままの状態で、清掃空間を介して清掃された間隙にシール材を充填させる。これによって、清掃処理物に触れることなく清掃作業を行うことが可能になり、また、清掃空間を介して間隙にシール材を充填させるので、リング状部材を取り外すことなく、一連の作業で、間隙の清掃からシール材の充填までを円滑に行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図2は、本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法を説明する概略フロー図である。本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法によると、作業開始から清掃空間形成工程S1が行われ、その後、清掃工程S2が行われ、更にその後に、充填工程S3が行われて、作業が終了する。
【0022】
清掃空間形成工程S1は、フランジの外周面全周の外側に、フランジ配管接続部の機械的接続部分に形成される間隙に連通する清掃空間を形成する工程である。この清掃空間形成工程S1では、補修用治具が用いられる。
【0023】
図3(同図(a)はフランジ外周部分の部分断面図、同図(b)はフランジ配管接続全体のX−X断面図)及び図4は、本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法における清掃空間形成工程及びフランジ配管接続部の補修用治具を説明する説明図である。
【0024】
図において、Aで示す領域が、フランジ配管接続部における機械的接続部分であり、一対のフランジFを機械的な接続手段M(例えば、ボルト・ナット)によって接続した部分である。機械的接続部分Aには、対抗するフランジ面間及び機械的接続手段Mの挿入孔に間隙Sが形成されている。また、Bで示す領域が、シール部材F1を挟んで密着接続される密着接続部分である。このフランジ配管接続部によって配管P1,P2が接続されている。
【0025】
フランジ配管接続部の補修用治具は、フランジFの外周面全周の外側に装着されるリング状部材1を備えている。このリング状部材1は、その内側に機械的接続部分Aに形成される間隙Sに連通する清掃空間1Aを形成し、清掃空間1Aに連通する複数の開口部1Bを備えている。
【0026】
また、リング状部材1は、複数の分割体からなり、分割体を接続することによってフランジFの外周面に装着されている。図3に示すように、分割体1x,1yによって2分割されているものであっても、図4に示すように、分割体1x,1y,1zによって3分割されているものであってもよく。更に、4分割以上に分割されているものであっても良い(図4に示す例では、フランジFの下部に顎部Fsが形成されており、その顎部Fsに対応するように、分割体1yに凸部1ysが形成されている)。また、分割体の接続は、図示のように、ボルト・ナット3による接続であっても、その他の固着手段による接続であっても良い。
【0027】
また、清掃空間1Aは、リング状部材1の内面に形成された一対のリング状シール部材2間に形成されている。
【0028】
清掃空間形成工程S1では、補修対象となるフランジFの大きさに合わせて分割体(1x,1y又は1x,1y,1z)からなるリング状部材1が予め用意されており、これをフランジFの外周面に装着する。これによって、フランジ配管接続部は接続状態を維持したままで、リング状部材1の装着作業を行うことができる。
【0029】
図4に示すように、リング状部材1を3分割した場合には、フランジFの全周に亘って均等にリング状部材1による締め付け力を得ることができるので、清掃空間1Aの気密性をより高めることが可能になる。
【0030】
次に、本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法における清掃工程S2は、清掃空間1Aに清掃材を投入して機械的接続部分Aの間隙Sを清掃する工程である。
【0031】
図5〜図8(図5は第1の実施形態、図6は第2の実施形態、図7は第3の実施形態、図8は第4の実施形態;図3における説明と共通する箇所は同一符号を付して重複説明を一部省略する)は、本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法における清掃工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である。これらの実施形態では、リング状部材1の開口部1Bには、間隙Sを清掃する清掃材を清掃空間1Aに投入する清掃材投入手段4を接続する接続部1Cが形成されている。
【0032】
図5に示す実施形態では、清掃材投入手段4は、清掃材タンク4A,投入バルブ4B,連結ホース4C,コネクタ4Dからなり、コネクタ4Dによって接続部1Cに接続されている。また、リング状部材1の開口部1Bには、清掃処理物を吸引排出する吸引手段5を接続する接続部1Dが形成されている。吸引手段(吸引ポンプ)5は、吸引ホース5A,コネクタ5Bを備え、コネクタ5Bによって接続部1Dに接続されている。リング状部材1のその他の開口部1Bは封止栓6で封止されている。
【0033】
図5に示した実施形態による清掃工程S2では、吸引手段5を作動させると共に投入バルブ4Bを開放して清掃材を投入し、清掃材タンク4Aから清掃材を清掃空間1Aに引き込む。清掃空間1A内に投入された清掃材は吸引ポンプ5Aの吸引力によって清掃空間1A内を循環する間に間隙S内を清掃して、清掃材と間隙S内に詰まっていた異物を含む清掃処理物が吸引ホース5Aを介して回収容器5Cに回収される。
【0034】
図6に示す実施形態では、清掃材投入手段7は、清掃材タンク7A,投入バルブ7B,圧縮手段(圧縮ポンプ)7C,連結ホース7D,コネクタ7Eからなり、コネクタ7Eによって接続部1Cに接続されている。また、リング状部材1の開口部1Bには、清掃処理物を排出する排出手段8を接続する接続部1Dが形成されている。排出手段8は、排出ホース8A,コネクタ8B,排出容器8Cを備え、コネクタ8Bによって接続部1Dに接続されている。リング状部材1のその他の開口部1Bは封止栓6で封止されている。
【0035】
図6に示した実施形態による清掃工程S2では、リング状部材1に形成された開口部1Bに接続された清掃材投入手段7から清掃材を圧入し、リング状部材1の他の開口部1Bから清掃処理物を排出する。すなわち、圧縮手段7Cを作動させると共に投入バルブ7Bを開放して、清掃材タンク7Aから清掃材を清掃空間1Aに圧入させる。清掃空間1A内に圧入された清掃材は清掃空間1A内を循環する間に間隙S内を清掃して、清掃材と間隙S内に詰まっていた異物を清掃処理物が排出ホース8Aを介して回収容器8Cに回収される。
【0036】
図5及び図6に示した実施形態によると、吸引又は圧縮によって清掃材を間隙Sの隅々まで行き渡らせて、間隙S内の異物を確実に除去することができる。また、清掃材及び清掃処理物は、閉じた清掃空間1A内から吸引ホース5A又は排出ホース8Aを介して回収容器5C又は8Cに回収されるので、作業が施されるフランジ配管接続部の周囲を清掃材又は清掃処理物で汚すことがない。また、仮に清掃処理物内にアスベスト等の有害物が存在する場合であっても、これに接することなく安全に作業を行うことができる。
【0037】
図7に示す実施形態では、清掃材投入手段9は、清掃材タンク9A,投入バルブ9B,圧縮手段(圧縮ポンプ)9C,連結ホース9D,コネクタ9Eからなり、コネクタ9Eによって接続部1Cに接続されている。また、リング状部材1の開口部1Bは、回収容器10に向けられている。リング状部材1のその他の開口部1Bは封止栓6で封止されている。
【0038】
そして、この実施形態では、清掃材の投入方向がフランジFの接線方向に向くように接続部1Cが設けられた開口1Bが形成されており、これによって、清掃空間1Aに沿った清掃材の旋回流が形成されている。
【0039】
このような実施形態によると、前述の実施形態の作用に加えて、清掃材の旋回流によって、より確実に間隙S内の異物除去を行うことができる。また、清掃材の旋回流によって清掃効果を高めることができるので、清掃工程の作業時間を短縮することも可能になる。
【0040】
図8に示す実施形態では、清掃材投入手段11は、清掃材タンク11A,投入バルブ11B,連結ホース11C,コネクタ11Dからなり、コネクタ11Dによって接続部1Cに接続されている。また、リング状部材1の開口部1Bに形成されるもう一つの接続部1Dには、排出手段12が接続されている。排出手段12は、排出ホース12A,コネクタ12B,排出容器12C,吸引ポンプ12Dを備え、コネクタ12Bによって接続部1Dに接続されている。また、排出容器12C内には、排出容器12C内に吸引された清掃処理物と吸引空気とを分離するフィルタ12Eが設けられており、この排出容器12Cは密封容器となって、フィルタ12Eの下流側が吸引ポンプ12Dに接続されている。リング状部材1のその他の開口部1Bは封止栓6で封止されている。
【0041】
この実施形態では、接続部1Cと接続部1Dにおける開口部1B,1Bが略直交するように2系統に形成されて、清掃材の投入方向と清掃処理物の排出方向がそれぞれフランジFの接線方向に向くように形成されており、これによって、清掃空間1Aに沿った清掃材の旋回流が形成されている。
【0042】
このような実施形態によると、前述の実施形態と同様に、清掃材の旋回流によって、より確実に間隙S内の異物除去を行うことができる。また、清掃材の旋回流によって清掃効果を高めることができるので、清掃工程の作業時間を短縮することも可能になる。また、吸引によって清掃処理物を排出容器12C内に回収するので、効率的な泥,錆等の回収が可能である。
【0043】
図9は、前述した清掃工程S2における一つの具体的な形態を示した説明図である。この実施形態では、清掃工程S2は、研磨工程S2Aと洗浄工程S2Bとからなる。したがって、前述した清掃材は、研磨工程S2Aで用いられる例えば粒子状研磨材と洗浄工程S2Bで用いられる例えば水又は液体洗浄剤とが少なくとも用いられる。
【0044】
これによると、例えば、第1段階として、図5〜図8のいずれかに示した実施形態によって、粒子状研磨材を清掃空間1A内に投入し、吸引ポンプの吸引力又は圧縮ポンプの圧縮力によって粒子状研磨材の旋回流を形成することで、間隙S内に詰まった泥や錆を除去する。更に、第2段階として、再び図5〜図8に示した実施形態のいずれかによって、水又は液体洗浄剤を清掃空間1A内に投入して、吸引ポンプの吸引力又は圧縮ポンプの圧縮力によって水又は液体洗浄剤の旋回流を形成することで、間隙S内の洗浄を行う。
【0045】
このように、清掃工程S2を研磨工程S2Aと洗浄工程S2Bの2段階にすることで、間隙S内を確実に清掃することができ、その後の充填工程S3をより円滑且つ高精度に行うことができることになる。
【0046】
清掃工程S2の実施形態としては、これに限られるものではなく、例えば、清掃材として水性エマルジョン樹脂を用いる方法も有効である。水性エマルジョン樹脂は、特に組成を選ばず、水性アクリル樹脂、水性ウレタン樹脂、水性エポキシエステル樹脂、酢酸ビニル系エマルジョン樹脂等を用いることが可能である。
【0047】
この水性エマルジョン樹脂を清掃空間1A内に投入する際には、その粘度は、10mPa・sから1000mPa・sの範囲で行うことが好ましい。その範囲で行うことで、清掃空間1A内を有効に循環させることができる。このエマルジョン樹脂による清掃工程S2を実行すると、間隙S内の泥や錆を取り除き、その後に、間隙Sの内面に薄膜を作るため、その後の充填工程をより円滑に行うことが可能になる。水性エマルジョン樹脂の固形分は30〜50%が好ましく、最低成膜温度を10℃以下にするのが好ましい。
【0048】
そして、この水性エマルジョン樹脂を用いた清掃工程S2では、間隙S内に存在する泥や錆、更にはシール部材F1に含まれるアスベスト等の有害物を清掃処理物の樹脂が固化してくれるので、有害物等の飛散防止になり、より安全に作業を進行させることができる。
【0049】
次に、本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法における充填工程S3は、清掃空間1Aを介して間隙Sにシール材を充填させる工程である。
【0050】
図10は、本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法における充填工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である(同図(a)が充填工程の第一段階、同図(b)が充填工程の第2段階を示している;図3における説明と共通する箇所は同一符号を付して重複説明を一部省略する)。
【0051】
リング状部材1の開口部1Bには、間隙Sにシール材を充填するシール材充填手段11の接続部1Eが形成されている。開口部1Bに形成された接続部1Eは、清掃材投入手段の接続部1Cを兼ねるようにしてもよいし、接続部1Eと接続部1Cを別に設けても良い。
【0052】
シール材充填手段11は、シール材が納められたタンク部11Aとタンク部11Aからシール材を押し出すポンプ機構11Bと接続部1Eに接続される注入ノズル部11Cとを備えるものである。シール材としては各種の樹脂材を用いることができる。また、接続部1Eと対向する箇所にある開口部1Bには、エア抜き部材12が装着されており、シール材充填手段11とエア抜き部材12が装着されていないその他の開口部1Bは封止栓6で封止されている。
【0053】
充填工程S3では、図10(a)に示されるように、清掃工程S2の後にリング状部材1をフランジFの外周に装着したままの状態で、リング状部材1の一つ又は複数の開口部1Bにシール材充填手段11の注入ノズル部11Cを接続(直接又はホース等を介して接続)し、ポンプ機構11Bを操作する。この際に、ボルト・ナット等の接続手段Mが挿入されている孔の間隙にシール材が十分に充填されるように、接続手段Mを一時的に緩めることが好ましい。
【0054】
この際、シール材充填手段11の注入ノズル部11Cが接続される接続部1Eは、フランジFの下側に位置するものを採用し、樹脂を下方から充填して、フランジFの上側に位置した接続部1Fに接続されたエア抜き部材12から空気抜きを行うようにする。
【0055】
そうすると、図10(b)に示されるように、シール材充填手段11の注入ノズル部11Cからリング状部材1の内側に形成される清掃空間1Aに注入されたシール材が、清掃空間1Aを介して、機械的接続部分Aの間隙Sに充填される。そして、エア抜き部材12からのシール材のオーバーフローによって、間隙S全体にシール材が充填されたことを確認する。エア抜き部材12をフランジFの上側に位置させているので、清掃空間1A及び間隙Sに空気だまりが生じることなく、確実にシール材を充填させることできる。
【0056】
シール材充填手段11を異なる開口部1Bに接続することによって、シール材を間隙S全体に均等に充填させることができる。例えば、図10(b)に示すように、フランジFの真下に位置する接続部1Fから最初にシール材を充填し、その後に、やや側方の位置(図示(2)で示された45°ずれた位置)から同様にシール材を充填さえ、更に逆側のやや側方の位置(図示(3)で示された逆に45°ずれた位置)から同様にシール材を充填することで、間隙S全体に均一にシール材を充填させることができる。
【0057】
シール材の充填が完了すると、緩めていたボルト・ナット等の接続手段Mを締め直し、間隙Sを気密状態にしてから、再度、シール材を加圧充填する。この際の充填圧は通じる流体の最高使用圧の2〜3割増しになり、このシール材の再充填によって、間隙S内に残された微細な空隙がシール材で埋められることになる。
【0058】
その後、シール材充填手段11をリング状部材1の開口部1Bから取り外し、リング状部材1をフランジFに装着したままの状態で、シール材を硬化させる。シール材が硬化するとフランジFにリング状部材1を装着したままの状態で、フランジ配管接続部を管理する。
【0059】
充填工程S3に用いられるシール材は、間隙S内に隈無く入り込む流動性と固化後に高いシール性が得られるものであれば、どのようものであってもよい。好適例を挙げると、液状反応性シリコーンゴムを挙げることができる。反応形式は1液型であっても2液型であってもよいが、作業性を考慮すると、1液型反応性シリコーンゴムが好ましい。
【0060】
1液型反応性シリコーンゴムは、脱オキシムタイプ、脱アルコールタイプ、脱アセトンタイプ、脱酢酸タイプがあるが、いずれも使用可能である。但し、より使用性の良好なタイプは脱アルコールタイプである。1液型反応性シリコーンゴムは、充填剤として、炭酸カルシウム、無定形シリカなどを含有しているものであっても良い。
【0061】
シール材の粘度は、粘調な液体からペースト状まで使用可能であり、好ましくは、100Pa・sからペースト状が適している。タックフリータイム(23℃)は、5〜120分、伸び率は、50〜600%で使用可能である。
【0062】
このような本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法或いは補修用治具によると、補修対象のフランジ配管接続部における流体の流通を維持した状態で、補修作業を行うことができる。そして、老朽化したフランジ配管接続部の機械的接続部分Aにおける間隙Sをシール材で充填し、シール材を硬化させるので、フランジ配管接続部の接続強度を高めることが可能になり、また、老朽化したフランジ配管接続部の気密性を高めることができる。
【0063】
また、狭いピット内での補修作業に対しても、簡易にフランジFの外周にリング状部材1を装着して、間隙Sの清掃と間隙Sへのシール材の充填を一連の作業で終えることができるので、作業性が良く、短い施工時間で作業を行うことができる。
【0064】
更には、フランジ配管接続部における既設のシール部材にアスベスト等の有害物が含まれている場合にも、その有害物に触れることなく、間隙Sの清掃及びシール材充填作業を行うことができるので、安全且つ清潔に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】従来技術の説明図である。
【図2】本発明の実施形態に係るフランジ配管接続部の補修工法を説明する概略フロー図である。
【図3】本発明の実施形態における清掃空間形成工程及びフランジ配管接続部の補修用治具を説明する説明図である。
【図4】本発明の実施形態における清掃空間形成工程及びフランジ配管接続部の補修用治具を説明する説明図である。
【図5】本発明の実施形態における清掃工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である。
【図6】本発明の実施形態における清掃工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である。
【図7】本発明の実施形態における清掃工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である。
【図8】本発明の実施形態における清掃工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である。
【図9】本発明の実施形態における清掃工程を説明する説明図である。
【図10】本発明の実施形態における充填工程及びフランジ配管接続部の補修用治具の機能を説明する説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 リング状部材、1A 清掃空間、1B 開口部、
1x,1y 分割体、2 リング状シール部材、P1,P2 配管、
F フランジ、S 間隙、3 ボルト・ナット
A 機械的接続部分、B 密着接続部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール部材を挟んで密着接続される密着接続部分と該密着接続部分の外周に形成されて一対のフランジを機械的に接続する機械的接続部分とを備えたフランジ配管接続部の補修工法であって、
前記フランジの外周面全周の外側に、前記機械的接続部分に形成される間隙に連通する清掃空間を形成する工程と、
前記清掃空間に清掃材を投入して前記間隙を清掃する清掃工程と、
前記清掃空間を介して前記間隙にシール材を充填させる充填工程と、
を有することを特徴とするフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項2】
前記フランジの外周面に装着されるリング状部材の内側に前記清掃空間を形成し、該リング状部材に形成された開口部から、前記清掃材を投入し、その後、前記シール材を注入することを特徴とする請求項1に記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項3】
前記リング状部材の装着は、前記リング状部材の分割体を接続することによって行われることを特徴とする請求項2に記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項4】
前記清掃空間は、前記リング状部材の内面に形成された一対のリング状シール部材間に形成されることを特徴とする請求項2に記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項5】
前記清掃工程は、前記リング状部材の開口部に接続された清掃材投入手段から清掃材を投入し、前記リング状部材に形成された他の開口部に接続された吸引手段によって、前記清掃材を前記清掃空間内に引き込み、清掃処理物を吸引排出することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項6】
前記清掃工程は、前記リング状部材に形成された開口部に接続された清掃材投入手段から清掃材を圧入し、前記リング状部材の他の開口部から清掃処理物を排出することを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項7】
前記清掃工程では、前記清掃空間に沿った清掃材の旋回流が形成されることを特徴とする請求項5又は6に記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項8】
前記清掃材は、粒子状研磨材と水又は液体清掃材とが少なくとも用いられ、
前記清掃工程は、前記粒子状研磨材を用いる研磨工程と、前記水又は液体清掃材を用いる清掃工程とを含むことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項9】
前記清掃材は、水性エマルジョン樹脂からなることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載されたフランジ配管接続部の補修工法。
【請求項10】
シール部材を挟んで密着接続される密着接続部分と該密着接続部分の外周に形成されて一対のフランジを機械的に接続する機械的接続部分とを備えたフランジ配管接続部の補修用治具であって、
前記フランジの外周面全周の外側に装着されるリング状部材を備え、
該リング状部材は、その内側に前記機械的接続部分に形成される間隙に連通する清掃空間を形成し、該清掃空間に連通する複数の開口部を備えることを特徴とするフランジ配管接続部の補修用治具。
【請求項11】
前記リング状部材は、複数の分割体からなり、該分割体を接続することによって前記フランジの外周面に装着されることを特徴とする請求項10に記載されたフランジ配管接続部の補修用治具。
【請求項12】
前記開口部には、清掃材を前記清掃空間に投入する清掃材投入手段を接続する接続部が形成されていることを特徴とする請求項10又は11に記載されたフランジ配管接続部の補修用治具。
【請求項13】
前記開口部には、清掃処理物を吸引排出する吸引手段を接続する接続部が形成されていることを特徴とする請求項12に記載されたフランジ配管接続部の補修用治具。
【請求項14】
前記開口部には、前記間隙にシール材を充填するシール材充填手段の接続部が形成されていることを特徴とする請求項12又は13に記載されたフランジ配管接続部の補修用治具。
【請求項15】
前記開口部に形成された接続部は、前記清掃材投入手段の接続部と前記シール材充填手段の接続部を兼ねることを特徴とする請求項14に記載されたフランジ配管接続部の補修用治具。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate


【公開番号】特開2008−232217(P2008−232217A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−70696(P2007−70696)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(000220262)東京瓦斯株式会社 (1,166)
【出願人】(593080294)株式会社カンドー (20)
【出願人】(305028763)株式会社コスモマテリアル (14)
【Fターム(参考)】