説明

フランジ

【課題】特殊な装置を必要とせずに、作業性が良好であって、犠牲防食作用による防食と水や空気(酸素)を遮断する作用による防食とを備えた防食性に優れるフランジを提供する。
【解決手段】防食被膜で被覆されたフランジであって、該フランジは、鋼材により形成されており、該鋼材の表面は、無機系バインダー、亜鉛粉末、及びアルミニウム粉末を含む防食剤により形成され、且つ、膜厚が40μm以上100μm以下の防食被膜で被覆される。これによって、被膜による鋼材表面への水や空気(酸素)の遮断による防食、及び亜鉛による犠牲防食作用による防食を備え、防食性がより向上する。また、被膜も耐熱性、耐候性に優れる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、給排水管のような水配管等において、管継ぎ手と被接続管とをフランジ結合する際に使用されるフランジに関し、詳しくは、鋼材により形成され、防食被膜で被覆された防食性に優れるフランジに関する。
【背景技術】
【0002】
給排水管のような水配管等において、地上もしくは地中の屈局部や立上り部、あるいは種々の装置や機器への接続部等に、比較的長さの短い可撓性管継手が使用されている。この可撓性管継手は、通常、ゴム等の弾性のある可撓性材料を管状に形成して作成され、用途によって補強のためのタイヤコードや螺旋状の金属線を管壁中に埋設したり、屈曲性を高めるために管体を蛇腹形状にすることもある。また、可撓性の管体の両端部には、配管と接続するためのフランジが設けられている。そして、この可撓性継手と金属管や硬質なプラスチック管のような配管とを接続するには、配管の端部および可撓性継手の端部のそれぞれの末端に設けられたフランジ同士をボルトで結合する方法、いわゆるフランジ結合が一般的に行われている。そして、このフランジは、鋼材やステンレス等の金属や硬質なプラスチックのような剛性の材料で作られている。ステンレスやプラスチック製のものは錆びるという問題の発生は少ないが、鋼材の場合には錆が発生し易いので、各種の防食処理が施されている。特に、塩素イオン環境下に管路を敷設したり、地中に埋設する際には、高い防食性が要求される。
【0003】
従来より、鋼材の防食方法として、鋼材の表面上で起こるアノード反応(Fe2+が生成する)、およびカソード反応(OHが生成する)を阻止するために、鋼材の電極電位を下げる、鋼材の表面を被覆してイオンの動きを止める、あるいは水や空気(酸素)の透過を阻止する、などの方法が行われている。例えば、亜鉛メッキ法、金属溶射法等は、鋼材よりも卑な金属で被覆して、腐食原因となる水や空気(酸素)が透過した場合に、鋼材の代わりにこれらの金属が腐食する犠牲防食作用を利用したものである。また、塗膜被覆法は、水や空気(酸素)を遮断する防食塗膜で鋼材の表面を被覆する方法である(例えば、特許文献1、特許文献2他参照)。
【特許文献1】特開平01−21085号公報
【特許文献2】特開平06−31245号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
亜鉛メッキ法や金属溶射法等の金属被覆は、被覆した金属による犠牲防食作用により、鋼材の錆びを防食するものであり、防食性に優れる。しかしながら、金属メッキ法では、メッキ処理するための装置や廃水の処理等が必要である。また、金属溶射法では、金属溶射するための特殊な装置を必要とし、溶射表面に残った微細な穴(孔)を埋めるために、封孔処理剤等による処理が必要で、作業が繁雑である。一方、塗膜被覆法は、作業性やコスト面では優れるが、塗膜の硬度が不足した場合は、損傷や損耗による傷がつき易い。また、風化や紫外線等により塗膜の劣化が生じるので、水や空気(酸素)の透過を遮断することができなくなり、錆びが発生する。更には、使用する有機溶媒等による環境負荷が高い。そのため、先ず鋼材の表面に金属メッキや金属溶射等による金属被覆を形成し、その上に塗料等による被膜を形成して、被覆金属の犠牲防食作用による防食と、塗膜による水や酸素の遮断による防食作用の両方を備えた防食処理も行われている。しかしながら、上記のように装置、排水等の環境負荷、防食処理作業の煩雑性は依然解消されていない。
【0005】
以上の課題に鑑み、本発明においては、特殊な装置を必要とせずに、作業性が良好であって、防食性に優れるフランジを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、無機系バインダーに亜鉛やアルミニウム等の金属粉末を配合した防食剤を、フランジの表面に塗装して防食被膜を形成することで、防食性が向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
より具体的には、本発明は次のようなフランジを提供する。
【0008】
(1) 防食被膜で被覆されたフランジであって、前記フランジは、鋼材により形成され、前記防食被膜は、無機系バインダー、亜鉛粉末、及びアルミニウム粉末を含む防食剤により形成され、且つ、膜厚が40μm以上100μm以下であるフランジ。
【0009】
本発明によれば、鋼材の表面が、亜鉛粉末、およびアルミニウム粉末を無機系バインダーに配合して調製した防食剤で形成された膜厚が40〜100μmの防食被膜で被覆されているので、フランジの表面が錆びの原因となる水や空気(酸素)から遮断されて、錆びの発生が抑制される。また、亜鉛やアルミニウム等の金属粉末が無機系バインダー内に混入した状態で防食被膜が形成されているので、金属粉末が被膜に低電気抵抗値を与え、鋼材表面は導電性を有する。このため、被膜が劣化、損傷して、水や空気(酸素)を遮断できなくなり、水や空気(酸素)が透過しても、鋼材の表面を覆っている亜鉛等の鋼材に比べて電気的に卑な金属による犠牲防食作用により鋼材の腐食が抑制される。このように、防食被膜による防食と、亜鉛等の電気的に卑な金属の犠牲防食作用による防食とを有するので、防食性が向上する。このため、非常に錆びやすい環境下で使用されるフランジを、本発明の防食被膜で被覆することにより、防食性に優れたフランジを提供できる。ここで、犠牲防食作用とは、鉄を亜鉛等の鉄よりも電位が低い金属で被覆することで、鉄が酸素と結び付いて腐食するような条件となった場合、鉄よりも電位の低い亜鉛等の金属が溶出して鉄が腐食するのを防止する作用をいう。
【0010】
(2) 前記無機系樹脂バインダーが、アルコキシシランである(1)に記載のフランジ。
【0011】
本発明によれば、フランジを被覆する被膜は、アルコキシシラン系無機化合物が架橋してなるシリコーン樹脂であるので、耐熱性、耐候性に優れる。このため、熱や紫外線等による被膜の劣化が生じ難く、被膜が長期間にわたり水や空気(酸素)を遮断することができ、防食性がより優れる。
【0012】
(3) 前記防食剤が、アルミニウムキレート化合物をさらに含む(1)または(2)に記載のフランジ。
【0013】
アルミニウムキレート化合物はアルコキシシラン系無機化合物を常温で架橋反応させるための硬化触媒として作用するので、常温で架橋反応が効率的に進行して硬化し、シリコーン樹脂の緻密な被膜が形成される。従って、更に防食性の優れたフランジを提供できる。
【0014】
(4) 鋼材により形成したフランジを防食被膜で被覆するフランジの防食方法であって、前記防食被膜を、無機系バインダー、亜鉛粉末、およびアルミニウム粉末を含む防食剤により形成し、且つ、膜厚を40μm以上100μm以下とするフランジの防食方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のフランジは、無機系バインダー、亜鉛粉末、およびアルミニウム粉末を含む防食剤により形成された防食被膜で鋼材の表面が被覆されているので、水や空気(酸素)が鋼材の表面に透過するのを遮断する被膜による防食と、亜鉛、アルミニウム等の金属の犠牲防食作用による防食とを備えることになり、フランジの防食性がより向上される。また、膜厚が40〜100μmの薄膜であっても防食効果を発揮するので、経済的である。
【0016】
また、形成された被膜はアルコキシシラン系無機化合物等の無機系バインダ−が架橋して硬化したシリコーン樹脂であるので、耐候性、耐熱性に優れる。
【0017】
また、防食剤は、金属粉末をアルコキシシラン系化合物などの無機系バインダーに分散させて調製したものであるので、エアスプレーによる塗装等で容易に塗布できる。従って、防食処理する際の工程が煩雑でなく、作業性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明のフランジは、無機系バインダーに亜鉛粉末、およびアルミニウム粉末を配合して調製した防食剤により形成された防食被膜で表面を被覆したものである。防食被膜の膜厚は40〜100μm程度であるのが好ましい。尚、40μmより薄いと防食性が不十分であり、一方、100μmより厚いと、防食剤をフランジに塗装する際に塗料がたれ易く、また乾燥が遅くなる等の不具合を生じ、防食処理の作業性が劣ることになるので好ましくない。
【0020】
無機系バインダーとしては、オルガノアルコキシシランおよび/またはその部分縮合物等のアルコキシシラン系無機化合物であって、具体的には、テトラメトキシシリケート、テトラエトキシシリケート、テトラプロポキシシリケート、テトライソプロポキシシリケート、テトラブトキシシリケートなどのテトラアルコキシシリケートあるいはメチルトリメトキシシリケート、メチルトリエトキシシリケート、メチルトリプロポキシシリケート、エチルトリメトキシシリケート、エチルトリエトキシシリケート、ブチルトリメトキシシリケート、アミルトリエトキシシリケートなどのアルキルトリアルコキシシリケート等を単独または2種以上混合して常法により加水分解縮合した珪酸エステルの加水分解縮合物、あるいは珪酸アルカリ系、シリカゾル系、ポリシロキサン系などの化合物等が挙げられる。更に、これらにアルコール類の有機溶剤等を組み合わせた混合溶液であってもよい。尚、各溶液と金属粉末との化学反応性および塗装性を考慮し、溶液の粘度は25℃において100cP(NK−2型 岩田粘度カップで測定)程度であるのが好ましく、かかる粘度調整により塗料化しやすくなる。
【0021】
また、アルコキシシラン系無機化合物の常温での架橋を促進させるためにアルミニウムキレート化合物等の架橋反応硬化触媒を添加するのが好ましい。この硬化触媒の量としては、シラン系無機化合物100部に対して0.01〜40部程度とするのが好ましい。0.01部未満では硬化性が乏しく、40部を超えると耐候性が悪くなり、また、防食剤のポットライフが短くなる場合がある。
【0022】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムのβ−ケトンエステル錯体、アルミニウムのβ−ジケトン錯体、アルミニウムのエタノールアミン類錯体、アルミニウムのジアルキレングリコール錯体等を用いることができる。具体的には、アルミニウムトリス(アセチルアセトネート)、アルミニウムトリス(プロピオニルアセトネート)、アルミニウムトリス(プロピオニルプロピオネート)、アルミニウムトリス(ブチリルアセトネート)、アルミニウムベンゾイルアセトネート・ビス(アセチルアセトネート)、アルミニウムビス(ベンゾイルアセトネート)・アセチルアセトネート、アルミニウムトリス(ベンゾイルアセトネート)、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(プロピルアセトアセテート)、アルミニウムトリス(ブチルアセトアセテート)、アルミニウムモノエチルアセトアセテート・ビス(アセチルアセトネート)、およびアルミニウムモノアセチルアセトネート・ビス(エチルアセトアセテート)などを挙げることができる。
【0023】
尚、この架橋反応硬化触媒は、アルミニウムキレート化合物以外に、例えば、チタニウムキレート化合物、錫キレート化合物等のアルミニウム以外の金属種のキレート化合物であってもよい。
【0024】
無機系バインダーを希釈する有機溶媒としては、不必要な化学反応を抑制するため水分を含まない無水物であればよく、具体的には、エタノールなどのアルコール、ヘキサンなどの脂鎖式化合物、キシレンなどの芳香族化合物の無水物を例示することができる。なかでも、人体や自然環境に及ぼす影響や価格などを考慮すれば、無水エタノールが最も好ましい。この有機溶剤は、防食剤を調製する際に金属粉末の分散を良好ならしめるため、また、被塗装体の鋼材に塗装する際の粘度調整として、所定量が適宜添加される。
【0025】
防食剤に添加される金属粉末としては、鋼材よりもイオン化傾向の大きな金属の粉末であって、亜鉛、アルミニウム等の粉末が例示される。該金属粉末は、望ましくは純度99.0質量%以上、更に望ましくは99.5質量%以上である。また粉末形状は鱗片状であることが望ましい。その大きさは、150〜300メッシュ程度のものが好ましいが、アルミニウムは180メッシュ程度のものを用いると、皮膜中で年輪状に交互に積層するためにより好ましい。
【0026】
また、亜鉛粉末およびアルミニウム粉末をアルコキシシラン系無機化合物や有機溶剤と混合する際には、過剰な化学反応を抑えるために、亜鉛粉末およびアルミニウム粉末に付着している他の物質、例えば、粉砕処理時に使用した粉砕助剤のステアリン酸等の物質は、高級脂肪酸、高級脂肪族アルコール、高融点ワックス、高融点パラフィン、酸化防止剤等の処理剤で処理して予め除去しておくのが好ましい。金属粉末の表面をこれら処理剤で処理するには、これら処理剤をケロシン、ミネラルスピリット、ミネラルターペン等の石油系溶剤に溶解させ、該溶液中に金属粉末を浸漬したり、該溶液を金属粉末に噴霧混合する。
【0027】
また、金属粉末として亜鉛粉末、アルミニウム粉末が単独で使用されるより、亜鉛粉末とアルミニウム粉末とを併用する場合の方が犠牲防食性が良く、亜鉛粉末とアルミニウム粉末とを併用する表面処理によって、イオン化傾向がアルミニウムより小さくかつ比重の大きい亜鉛粉末が下層に配され、アルミニウム粉末が上層に配され易くなって望ましい犠牲防食性が付与される。
【0028】
また、これら金属粉末は、形成される被膜に低電気抵抗値を与え、鋼材表面を導電性に保つものであって、防食剤中に通常1〜75質量%、望ましくは5〜40質量%添加される。犠牲防食性が重要な場合は、上記したように亜鉛粉末とアルミニウム粉末とを併用し、この場合には亜鉛粉末がアルミニウム粉末より倍以上添加される。亜鉛粉末とアルミニウム粉末とを併用する場合は、亜鉛粉末の添加量は1〜30質量%、望ましくは5〜25質量%、アルミニウム粉末の添加量は1〜25質量%、望ましくは2〜15質量%の範囲に設定される。
【0029】
アルコキシシラン系無機化合物は被膜形成後、含まれる珪素に結合したアルコキシ基が加水分解してシラノール基となり、これが脱水縮合してポリマー化したシリコーン樹脂となるが、アルコキシシラン系無機化合物溶液に亜鉛、及びアルミニウム等の粉末を混入すると、一部のシラノール基が亜鉛やアルミニウムの金属粉末と結合し、亜鉛やアルミニウムの金属粉末がシリコーン樹脂内に混入した状態(Al−O−Si−OR等の結合状態)となる。
【0030】
また、このアルコキシシラン系無機化合物溶液がフランジの鋼材Mの表面に塗布された場合、アルコキシシラン系無機化合物に含まれる珪素に結合したアルコキシ基が加水分解したシラノール基の一部が鋼材Mの表面の水酸基と結合して加水分解され、水素結合的に吸着し、その後、乾燥していくと脱水縮合反応により強固に化学結合(M−O−Si−OR)する。このため、形成された防食被膜と鋼材とは密着性に優れる。
【0031】
上記のように、鋼材Mの表面に亜鉛やアルミニウムの粉末が結果的に異種金属結合した状態で形成され、鋼材表面には亜鉛、アルミニウムの粉末がアルコキシオリゴマーの架橋反応により3次元的に交互に積層した状態に架橋されることになり、通電性を発揮することになる。また、金属粉末を鱗箔状にすることで、金属粉末が鋼材Mの表面と平行な方向に配位することになり、鋼材Mの表面と平行な方向に沿った被膜のネットワーク構造が鱗箔状の金属粉末で補強されるため、被膜の脆化が防止される。また、鋼材Mと被膜との熱膨張差に起因する応力も鱗箔状の金属粉末で被膜全体に分散され、局部的な応力集中による被膜剥離、脆化等も防止される。更には、透過水分に対するバリアとしても働く。
【0032】
このように、防食処理されたフランジは、被膜による水や空気(酸素)からの遮断による防食と、犠牲防食作用による防食の両方の機能を有し、高い防食性を有する。すなわち、被膜が風化や紫外線劣化して水や空気(酸素)を遮断することができなくなっても、被塗装物表面に鱗箔状の亜鉛、アルミニウムの粉末が異種金属結合した状態で積層されているので、水や空気(酸素)が透過してきても、電気化学的に亜鉛が鋼材より先に溶けて、鋼材の腐食を防止する犠牲防食作用が働き、鋼材の腐食を防止することになる。従って、被膜のみにより防食処理されたものや亜鉛等の金属メッキあるいは溶射のみで処理されたものに比べて、防食性に優れることになる。このため、40〜100μm程度の比較的薄い被膜であっても、防食効果を有する。更に、被膜はアルコキシシラン系無機化合物が架橋反応したシリコーン樹脂であるので、耐候性、耐熱性に優れ、被膜の劣化が生じ難くなる。
【0033】
次に、フランジに対する防食処理について説明する。フランジに対する防食処理は、フランジの表面素地を調整する素地処理工程と、防食剤を表面に塗装して防食被膜を形成する塗装工程と、形成された防食被膜を養生・硬化させる乾燥工程によって行われる。
【0034】
素地処理では、フランジの鋼材の表面をショットブラスト、サンドブラスト等によって研磨し、鋼材の表面の付着物、不純物や酸化被膜等の除去、更に所望なればn−ヘキサン、キシレン、メチルエチルケトン、アセトン等の有機溶剤で洗浄して切削油等の油脂分除去が行われる。
【0035】
次いで、アルコキシシラン系無機化合物の無機系バインダー、亜鉛やアルミニウム等の金属粉末、アルミニウムキレート類等の架橋反応硬化触媒、増粘剤、所望なれば有機溶剤を配合し、よく混合撹拌して金属粉末を分散させて調製された防食剤をエアースプレーガン等の塗布機で塗装し、フランジの表面に被膜を形成する。この際、塗装可能な粘度やバインダーの反応硬化時間が塗装条件や気温等の条件に合わせて、架橋反応硬化触媒、増粘剤、有機溶剤等で適宜調整しされる。被膜の膜厚は40〜100μm程度とする。尚、塗装の方法としては、エアースプレーガンによる吹付け塗装は塗装場所を選ばず、簡単にできるので、好ましいが、これに限定されず、例えば、浸漬、ロールコーター、カーテンフローコーター、回転ブラシコーター、静電塗装等であってもよい。
【0036】
防食剤を塗布後は室温に放置し、必要あれば空気を送って塗膜の表面を指触乾燥(塗膜を手で触れて流動性を感じなくなること)し、更に室温で放置して脱水縮合反応により架橋させ被膜を硬化させる。尚、塗膜の表面を指触乾燥させた後、例えば、150〜160℃で少なくとも10分間程度予備加熱乾燥し、続いて230℃〜240℃で少なくとも10分程度加熱処理等といった加熱乾燥処理で硬化を速めてもよい。
【0037】
これによって、フランジの鋼材の表面には犠牲防食作用を備える防食被膜が形成されることになる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0039】
<実施例1>
フランジは材質SS−400の管フランジを使用した。該管フランジはn−ヘキサンで洗浄し、乾燥後ショットブラストによって表面を研磨した。次いで、n−ヘキサンで洗浄した後エーテルで洗浄し、乾燥した。
【0040】
上記の前処理した管フランジに無機系バインダー、亜鉛粉末、およびアルミニウム粉末を含むケミカル溶射防食剤(金属化学研究所社製「トモリックT44」)をエタノールで粘度100cp程度に希釈して、エアースプレーガンにより乾燥塗膜厚が50〜60μmになるように塗布した。次いで、1〜2分間程度風乾後、150〜160℃の乾燥機に入れて10分間程度予備加熱乾燥を行い、その後230〜240℃で10分間程度加熱処理を行った。得られた塗装フランジは、その全面に亘って銀鼠色の美しいなめらかな表面をした塗膜が形成されていた。尚、塗膜管理方法は、別途、金属板に該防食剤を塗布して、塗膜を形成し、塗布量と塗膜の厚みの関係を得て、防食剤の所要の塗布量を設定することで行った。
【0041】
<比較例1>
比較例1として、材質SS−400の管フランジに溶融亜鉛メッキ処理をした防食フランジを作成した。
【0042】
先ず、前処理として、管フランジをアルカリ浴に浸漬し、脱脂を行った後湯洗し、次に塩酸10%溶液に浸漬することにより錆びを除去した。湯洗後、塩化亜鉛−塩化塩化アンモニウムの溶液に浸漬し、取り出した後、乾燥した。
【0043】
前処理した管フランジを、450℃の高純度亜鉛浴(99.99%)に、120秒間浸漬した後、溶融亜鉛浴から引き上げて水冷し、100μm程度の亜鉛皮膜を形成した。
【0044】
<比較例2>
比較例2として、材質SS−400の管フランジにカチオン電着塗装処理をした防食フランジを作成した。
【0045】
先ず、実施例1と同様の方法で、管フランジの前処理を行った。前処理した管フランジをカチオン型電着塗料(関西ペイント社製「エレクロンKG 400」)中に浸漬し、印加電圧200Vで5分通電した。次いで、塗料中から管フランジを取り出し、水洗した後、150℃の乾燥炉で加熱硬化させて25μm程度の塗膜を形成した。
【0046】
<比較例3>
比較例3として、防食処理を施していない材質SS−400の管フランジを準備した。
【0047】
実施例1で得られた防食フランジについて、比較例1〜3との対比で塗膜の密着性、耐候性および防食性を評価した。その結果を表1に示した。
【0048】
【表1】

【0049】
〔塗膜の密着性試験〕
ゴバン目剥離試験法に準じて評価した。基材への密着性をゴバン目セロテープ(登録商標)剥離試験により試験した。この試験結果によれば、実施例1は比較例2と同様に、100個のゴバン目のうち基材に残存しているゴバン目数は100(100/100)で、セロテープ(登録商標)による剥離膜はなく、基材の鋼製フランジと塗膜との密着性は良好であることが確認された。
【0050】
〔塗膜の耐候性試験〕
得られた防食フランジを屋外に暴露して塗膜の耐候性を試験した。結果は、実施例1は屋外暴露1年において、塗膜の変色、白化等は認められなかった。また、比較例2は僅かに白化が認められた。この結果より、本実施例では耐候性に優れることが確認された。
【0051】
〔防食性試験〕
得られた防食フランジをJIS H−8502「めっきの耐食性試験方法」に準じて防食性を評価した。キャス試験機(スガ試験機(株)社製)にて塩化ナトリウム濃度50g/l、塩化第二銅濃度0.26g/lでpH3.0〜3.2の50℃の食塩水を噴霧量1.5ml/80cm/hで噴霧して錆びの発生状況を試験した。試験層内温度は50℃とした。
【0052】
結果は、塩水噴霧1日目において、実施例1は変化なかった。一方、比較例1、および比較例3には微少な赤錆が発生した。また、比較例2は著しく赤錆が発生した。この結果より、本発明のケミカル溶射防食剤塗装処理した管フランジは、ステンレス鋼製フランジ、溶融亜鉛メッキ処理した管フランジ、電着塗装処理した管フランジに比べて耐食性に優れることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防食被膜で被覆されたフランジであって、
前記フランジは、鋼材により形成され、
前記防食被膜は、無機系バインダー、亜鉛粉末、及びアルミニウム粉末を含む防食剤により形成され、且つ、膜厚が40μm以上100μm以下であるフランジ。
【請求項2】
前記無機系樹脂バインダーが、アルコキシシランである請求項1に記載のフランジ。
【請求項3】
前記防食剤が、アルミニウムキレート化合物をさらに含む請求項1または2に記載のフランジ。
【請求項4】
鋼材により形成したフランジを防食被膜で被覆するフランジの防食方法であって、
前記防食被膜を、無機系バインダー、亜鉛粉末、及びアルミニウム粉末を含む防食剤により形成し、且つ、膜厚を40μm以上100μm以下とするフランジの防食方法。

【公開番号】特開2006−169612(P2006−169612A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−367510(P2004−367510)
【出願日】平成16年12月20日(2004.12.20)
【出願人】(391000092)株式会社サンケイ技研 (26)
【Fターム(参考)】