説明

フリートライヒ運動失調の直接的分子診断

【課題】フリートライヒ運動失調の診断および治療的処置のための方法を提供する。
【解決手段】フリートライヒ運動失調(FRDA)は、中枢および末梢神経系ならびに心臓に関連する常染色体劣性変性疾患であり、遺伝子X25は、染色体9q13上のFRDA遺伝子座の臨界領域に同定された。該遺伝子は、C.elegansおよび酵母のような遠種で同族体を有する210アミノ酸タンパク質、フラタキシン(frataxin)をコードする。X25mRNAを定量することにより、診断を行い、フラタキシンを投与することにより治療する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連邦基金(NINDS NS34192)を介するアメリカ合衆国からの補助金により一部支援された。合衆国政府は、本発明に一定の権利を有する。
【0002】
発明の分野
本発明は、一般に、フリートライヒ運動失調の診断、スクリーニングおよび治療的処置のための方法に関する。フリートライヒ運動失調(FRDA)は、中枢および末梢神経系ならびに心臓に関連する常染色体劣性変性疾患である。遺伝子X25は、染色体9q13上のFRDA遺伝子座の臨界領域(critical region)に同定された。X25遺伝子は、C.elegansおよび酵母のような遠種に同族体を有する210アミノ酸タンパク質、フラタキシン(frataxin)をコードする。数人のFRDA患者は、X25に点突然変異を有することが見い出されているが、大多数は、最初のX25のイントロンで様々な不安定なGAAトリヌクレオチド伸長に関してホモ接合性である。成熟X25 mRNAは、FRDAを有する個体に量的に激烈に減少していた。
【背景技術】
【0003】
発明の背景
フリートライヒ運動失調(FRDA)は、最も一般的な遺伝性運動失調であり、ヨーロッパ人口中、50,000人に1人の推定有病率、および1/120の推定キャリア頻度を有する。FRDAは、進行性の歩行および四肢運動失調、脚の腱反射の欠如、位置感覚の消失、構語障害、および脚の錐体性虚弱によって特徴付けられる常染色体劣性変性疾患である。肥大型心筋症が殆ど全ての患者で見られる。糖尿病は症例の約10%で、炭水化物不耐症は更に20%で、およびアルギニン刺激に対するインスリン応答の低下は全症例で見られる。発症年齢は、通常は思春期頃であり、殆ど常に25歳前である。殆どの患者は、20代の終わり迄に車椅子生活を強いられ、現在、該疾患の進行を遅らせる処置はない。
【0004】
最初の病理学的変化は、後根神経節に多くの感覚ニューロンの消失を伴って起き、脊髄の感覚後柱、脊髄小脳路および皮質脊髄運動路の悪化、並びに末梢神経の大きな感覚線維の萎縮が続いて起こると考えられる。不定期の緩徐な変性変化のみが、小脳、橋、および髄で見られる。殆どの症状はニューロン変性の帰結であるが、心筋症および糖尿病は一次変性の独立部位を反映していると考えられる。全体として、FRDAの病理は、他の遺伝性運動失調のもの、特に支配的形態であり小脳が変性の一次部位である毛細血管拡張性運動失調とは非常に異なる。
【0005】
FRDAにおける突然変異した遺伝子は、染色体9q13-q21.1にマップされた、S.Chamberlainら、Nature、334:248(1988);およびFRDAの候補領域は、Z0-2遺伝子(遠位)およびマーカーF8101(近位)にフランキングされた150kbセグメントにしぼられた、L.Monterminiら、Am.J.Hum.Genet.、57:1061(1995)。以前に提案された候補遺伝子は除外される:X104/CSFA1/Z0-2遺伝子は、患者の欠失突然変異の欠如を基礎とし、並びにSTM7およびPRKACG遺伝子は、それらが全体としてF8101のセントロメア側にあるためである(図1A)。
【発明の概要】
【0006】
本発明の特別な目的は、X25遺伝子のイントロン中のGAA反復の数を測定することを包含する、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することである。
【0007】
本発明の更なる目的は、X25遺伝子の発現をmRNAまたはタンパク質レベルで測定する工程を包含する、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、X25遺伝子の最初のイントロン中の(GAA)n反復サイズの変異を、該反復の長さを測定することによって検出する工程を包含する、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することであり、ここで、正常個体のnは1-22の範囲であり、罹患個体のnは約120-900以上である。
【0009】
本発明の他の目的は、個体からのDNAを配列決定し、該個体からの該配列を配列番号1−12と比較して、2つの配列の間にどのような差異が、もしあるとして、あるかを決定することを包含する、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することである。
【0010】
本発明の更なる目的は、配列番号4と実質的に同様なアミノ酸配列を有するタンパク質の薬理的有効量を該個体に投与することを包含する、個体のフリートライヒ運動失調を処置する方法を提供することである。
【0011】
本発明の別の目的は、薬理的に許容される担体中に発現可能なX25遺伝子を含む核酸ベクターを該個体に投与することを包含する、個体のフリートライヒ運動失調を処置する方法を提供することである。
【0012】
本発明の更なる目的は、配列番号1−32を有する物質の組成物を提供することである。
【0013】
他の更なる目的、特徴および利点は明らかになり、本発明は、下記の明細書を読み、明細書を一部分構成する添付の図面を参照することによって容易に理解され、本発明の現在好ましい実施態様の実施例は開示を目的として示される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1(A):FRDA臨界間隔(critical interval)の転写マップ。距離は、第1Not I部位から上流にZ0-2遺伝子までキロ塩基対である。臨界FRDA領域は、F8101マーカーとZ0-2遺伝子との間である。M,Mlu I部位;N,Not I部位;E,Eag I部位;S,Sac II部位;B,BssH I部位。図1(B):C.elegansコスミド(CELT59G1)およびS.cerevisiae EST(T38910)内に含まれる翻訳されたORFsを有する、フラタキシンのエクソン5a含有イソ型の整列。同一のアミノ酸は四角で囲まれている。推定シグナル配列には下線が引いてある。点突然変異に関連するアミノ酸(L106Xおよび1154F)は、垂直の矢印で示される。エクソン5b含有イソ型は161位で分岐し、その11個のCOOH末端アミノ酸はRLTWLLWLFHPである。
【図2】X25転写物のノーザンブロット分析。エクソン1-5bを含む32P標識された5’-RACE産物は、各レーンに2μgのポリ-A+RNAを含む多重組織ノーザンブロット(クロンテック(Clontech))にハイブリダイズされた。膜は、0.1×SSC、0.1%SDSで50°で洗浄され、続いて-70°で7日間X線フィルムに露出された。下方のパネルは、アクチンプローブ(ブロット製造業者により提供された)を用いる同じブロットの継続的なハイブリダイゼーションを示す。
【図3】FRDAに関連する伸長された制限フラグメントを示すサザンブロット分析。レーン1および12、正常コントロール;レーン2−7、サウジアラビア人のFRDA家族からの個体;レーン8−11、ルイジアナ・アカディア人(Cajun)のFRDA家族からの個体。罹患被験体はレーン3−5および9−10であり、ヘテロ接合性キャリアはレーン2、6−8および11である。分子量マーカーの位置は、端に示されている。定常バンドは、エクソン2および3(15kb)、およびFRDA領域(5kb)の外側の関連配列に対応する。10μgの各個体からのゲノムDNAを、Eco RIで消化し、0.6%アガロースゲルにランし、そしてナイロン膜(ハイボンド+(Hybond+))上にブロットした。そのブロットを、32P標識されたX25 cDNAプローブとハイブリダイズした。0.1×SSC、0.1%SDSを用いて5’の間65℃で最大ストリンジェンシー洗浄後に、ブロットを-70℃で2日間X線フィルムに露出した。
【図4】コスミド・サブクローンからのFRDAに関連する伸長された領域の自動化配列(automated sequence)。CTT鎖が配列決定された。
【図5】FA患者における伸長された反復を含む、FRDAに関連する伸長された領域の自動化配列。CTT鎖が配列決定された。正常配列上には存在せず、オリジナルな伸長が起こった染色体上に存在する多型性変種を示し得た、患者の2つの不完全な反復(配列決定された鎖の第7および第8)の存在に注目するのは興味深い。
【図6】図6(A):GAA反復の正常な対立遺伝子のPCR分析の例。レーン1は1kbのラダーDANサイズマーカーであり、レーン2−6は反復でヘテロ接合性であると以前に同定された正常コントロールである。GAA-F/GAA-Rプライマーを、増幅に使用した。フラグメントは、480-520bp範囲でサイズに変動がある。図6(B):FRDAキャリア(レーン3)および患者(レーン4)の伸長されたGAA反復のPCR増幅。レーン1は1kbのラダーDNAマーカーであり、レーン2は正常コントロールである。Bam/2500プライマーをPCRに使用した。伸長された対立遺伝子は、僅かにぼやけた(fuzzy)外観を有する。反復の不安定性は、患者のレーンの2つの異なるバンドの存在によって示されるが、患者は血縁の親の子女である。さらに、レーン3のキャリアは患者の母親であるが、対応する伸長された対立遺伝子はサイズにおいて彼女の子女のどのバンドとも正確にマッチしない。
【図7】FRDA家族のL106突然変異およびGAA伸長の分離。Aに示されるSSCPパターンは、父方起源の点突然変異を示すが、Bに示されるサザンブロット分析は、母方起源の伸長を示す。NRは、関連のない正常コントロールを示す。
【図8】FRDA被験体、真正のキャリアおよび正常コントロールのX25mRNAのRT-PCR分析。反応は、リンパ芽球性細胞系から抽出されたトータルRNA上で行われた。セリンヒドロキシメチルトランスフェラーゼ(SHMT)転写物(染色体17上の遺伝子にコードされる)を、RNA量に関するコントロールとして使用した。逆転写酵素(-RT)なしのモック反応(mock reaction)も、陰性コントロールとして行った。SHMTの場合、-RT反応の後のPCRは、小さいイントロンを含むゲノムDNA(RNA調製物を汚染する)のフラグメントが増幅されるので、cDNAから予想される産物よりも大きいサイズの産物を生じた。全部で3つのパネルのうち、r.t.で印されたレーンは陰性コントロール(水)であり、レーン9は正常コントロールの個体に対応し、レーン1および4はFRDAの真正キャリアに対応し、レーン2、3、および5〜8はFRDAを有する個体に対応する。X25転写物からcDNAを生じるために、RT反応はオリゴヌクレオチドE2R(配列番号13)でプライムされ、続いて、PCRはこのプライマーとnFプライマー(配列番号14)との間で行われた。
【発明を実施するための形態】
【0015】
発明の詳細な説明
様々な置換および修飾が、本発明の範囲を逸脱することなしに、本明細書に開示される本発明に為され得ることが当業者に明らかである。
【0016】
本明細書で使用されるとき、”FRDA”は、中枢および末梢神経系ならびに心臓に関連する常染色体劣性変性疾患を指す。
【0017】
本明細書で使用されるとき、”GAA伸長”は、X25遺伝子のイントロン中のエクソン1から1.4kb下流に位置する多重(GAA)n反復を指す。
本明細書で使用されるとき、”X25”遺伝子は、染色体9q13上に同定された、FRDA決定遺伝子座の臨界領域にある遺伝子を指す。
【0018】
本明細書で使用されるとき、”ポリメラーゼ連鎖反応”または”PCR”は、Mullisら、米国特許第4,683,195号および第4,683,202号の特許に記載されるPCR手順を指す。該手順は、基本的に、(1)抽出されたDNAを処理して一本鎖の相補鎖を形成する;(2)一対のオリゴヌクレオチドプライマーを加える、ここで、該対の一方のプライマーはセンス鎖中の配列の一部に実質的に相補性であり、各対の他方のプライマーは相補性アンチセンス鎖中の同じ配列の異なる部分に実質的に相補性である;(3)対のプライマーを相補性配列にアニーリングさせる;(4)各プライマーの3’末端からアニールされたプライマーを同時に伸長させて、各プライマーにアニールされた鎖に相補的な伸長された産物を合成する、ここで、相補体から分離後の該伸長産物は各対の他のプライマーのための伸長産物の合成の鋳型として働く;(5)該鋳型から該伸長産物を分離して、一本鎖分子を産生する;および(6)少なくとも1回の該アニーリング、伸長および分離の工程を繰返すことによって、該一本鎖分子を増幅する。
【0019】
本明細書で使用されるとき、”パルスフィールドゲル電気泳動”または”PFGE”は、Schwartzら、Cold Sring Harbor Symposium、Quantitative Biology、47:189-195(1982)に記載される手順を指す。手順は、基本的に、パルス条件下に、標準的な電気泳動ゲル(アガロース、ポリアクリルアミドまたは当業者に公知の他のゲル)をランすることを包含する。当業者は、メガ塩基のDNA分子を分離するために、フィールドの強度並びにフィールドの方向がパルスされ回転されることを認識する。現在市販されているシステムは、コンピューター制御され、分離されるべきDNAの分子量に依存してパルスの強度、方向および時間を選択する。
【0020】
本明細書で使用されるとき、”遺伝子転写物”という語句は、遺伝子(DNA)鋳型の転写から生じるRNA産物を意味する。”遺伝子”は、遺伝的単位:分子学的用語で機能性産物の産生に必要とされる染色体DNAの配列を意味する。
【0021】
本明細書で使用されるとき、”メッセンジャーRNA”または”mRNA”という語句は、コードされたポリペプチドのアミノ酸の配列を指示する遺伝子のDNAから転写されたRNAを意味する。
【0022】
本明細書で使用されるとき、”コピーDNA”または”cDNA”という語句は、メッセンジャーRNA鋳型にハイブリダイズされたプライマーから合成されたDNAを意味する。
【0023】
本明細書で使用されるとき、”オリゴヌクレオチド”という語句は、プローブまたはプライマーとしての使用のために合成された、短い核酸分子(通常、8〜50塩基対)を意味する。
【0024】
本明細書で使用されるとき、”プライマー”という語句は、相補性DNAまたはRNA鋳型と対をなす短いDNAまたはRNA分子を意味し、ここで、短いDNAまたはRNA分子はDNAポリメラーゼがヌクレオチド鎖の合成を開始する遊離の3’-OH末端を提供する。
【0025】
本発明の特別な目的は、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することであり、該方法は、テストされるべき個体からのDNAを制限エンドヌクレアーゼで消化する工程;X25遺伝子の最初のイントロンのGAA反復を含む領域を認識するプローブにハイブリダイゼーションさせサザンブロット分析を行なうことによって制限断片長多型(RFLP)の長さを測定する工程を包含し、ここで、正常範囲である7-22トリプレットよりも長い、通常約120以上のGAA反復に対応するRFLPが、フリートライヒ運動失調をもたらす該突然変異の指標である。
【0026】
本発明の更なる目的は、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することであり、該方法は、X25遺伝子から及び公知のコントロールから発現されるmRNAの量を測定してX25遺伝子の発現を測定する工程、およびX25遺伝子からのmRNA量を公知のコントロールからのmRNA量と比較する工程を包含し、ここで、X25遺伝子からのmRNAの減少量はフリートライヒ運動失調をもたらす該突然変異を有する個体の指標である。
【0027】
本発明の別の目的は、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することであり、ここで、mRNA量はテストされるべき個体からmRNAを抽出する工程;該mRNAからcDNAを調製する工程、該cDNAを増幅させて増幅産物を産生する工程;および存在するX25およびコントロールcDNAの相対量を比較する工程によって測定され、ここで、X25遺伝子からのmRNAの減少量は、フリートライヒ運動失調をもたらす該突然変異を有する個体の指標である。
【0028】
本発明の別の目的は、X25タンパク質に特異的な抗体を用いて患者からの細胞中のX25によりコードされる特定のタンパク質の量を検出することによる、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することである。
【0029】
本発明の他の目的は、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することであり、該方法は、該(GAA)n反復の長さを測定することによってX25遺伝子の最初のイントロン中の該反復のサイズの変動を検出する工程を包含し、ここで、正常個体のnは1-22の範囲であり、罹患個体のnは約120-900よりも大きい。
【0030】
本発明の別の目的は、X25遺伝子の最初のイントロン中のGAA多型性を検出する方法を提供することであり、該方法は、PCRアッセイを行なって該X25遺伝子の該最初のイントロンの増幅産物を産生する工程、当業者に公知の分子的技術を用いて該増幅産物の長さを測定する工程を包含する。
【0031】
本発明の他の目的は、個体からのDNAを配列決定する工程、該個体からの該配列を配列番号1−12と比較して、該個体からの該配列と配列番号1−12との間にどのような差異が、もしあるとして、あるかを決定する工程を包含する、フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法を提供することである。
【0032】
本発明のまた更なる目的は、配列番号4と実質的に同様なアミノ酸配列を有するタンパク質の薬理学的有効量を該個体に投与する工程を包含する、個体のフリートライヒ運動失調を処置する方法を提供することである。
【0033】
本発明の別の目的は、発現可能なX25遺伝子を含む核酸ベクターおよび薬理学的に許容される担体の該個体への投与を包含する、個体のフリートライヒ運動失調を処置する方法を提供することである。
【0034】
本発明の更なる目的は、配列番号1−32を有する物質の組成物を提供することである。
【0035】
本発明の治療的組成物は、薬理学的に有用な組成物を調製する公知の方法により、製剤化される。本発明の組成物またはそれらの機能性誘導体は、薬理学的に許容される担体ビヒクルと組合せて混合される。好適なビヒクルおよびそれらの製剤は、当業者に周知である。効果的な治療的投与に適切な薬理学的に許容される組成物を形成するために、そのような組成物は、X25遺伝子またはその等価物またはその機能性誘導体、あるいはフラタキシン蛋白質またはその等価物またはその機能性誘導体の有効量を、好適な量の担体ビヒクルとともに含む。
【0036】
本発明の核酸の治療的組成物は、通常はベクター中で製剤化される。フラタキシン蛋白質の治療的組成物は、通常、薬理学的に好適な担体中の精製蛋白質として投与される。組成物は、注射、迅速注入、鼻咽頭吸収、皮膚吸収により非経口的に又は経口的を含む様々な方法によって投与され得る。組成物は、或いは、筋肉内または静脈内に投与されても良い。さらに、非経口投与のための組成物はさらに、滅菌された水性または非水性溶液、懸濁液および乳濁液を含み得る。公知の非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、およびオレイン酸エチルのような注射可能な有機エステルを含む。担体、補佐剤または閉鎖包帯は、組織透過性を増加し吸収性を増強するために使用され得る。経口投与のための液体投与形態は、一般に、リポソーム液を含んでも良い。懸濁に好適な形態は、精製水のような当該技術分野で通常使用される不活性な希釈剤を含有する乳剤、液剤、シロップおよびエリキシル剤を含む。不活性希釈剤に加えて、そのような組成物はまた、湿潤化剤、乳化剤および懸濁剤または甘味剤、風味剤、着色剤または芳香剤を含み得る。
【0037】
さらに、製薬的方法は、作用時間をコントロールするのに使用されて良い。これらは、当分野で周知であり、制御放出製剤を含み、適切なマクロ分子、例えば、ポリマー、ポリエステル、ポリアミノ酸、ポリビニルピロリドン、エチレンビニルアセテート、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、または硫酸プロタミンを含み得る。マクロ分子の濃度ならびに組込みの方法は、放出を制御するために調節され得る。さらに、ベクターは、ポリエステル、ポリアミノ酸、ヒドロゲル、ポリ(乳酸)またはエチレンビニルアセテート共重合体のようなポリマー物質の粒子中に組込まれ得る。組込まれることに加えて、これらの剤も、マイクロカプセル中のベクターをトラップするために使用され得る。これらの技術は、当分野で周知である。
【0038】
組成物は、その投与がレシピエント患者に耐え得る場合、「薬理学的に許容される」と言える。そのような剤は、投与される量が生理学的に重要である場合、「治療的に有効な量」で投与されると言える。剤は、その存在がレシピエント患者の生理に検出可能な変化を生じる場合、生理学的に重要である。
【0039】
一般に、有効量の組成物を提供するのに必要とされる投与量は、レシピエントの年齢、状態、性別および疾患の程度のようなファクター、並びにもしあるとして、当業者に調節され得る他の変数に依存して変動する。
【0040】
当業者は、本発明が、言及された目的および利点ならびに本明細書に固有のものを遂行するのに十分に適合されることを容易に認識する。記載されるプローブ、プライマー、方法、手順および技術は現在、好ましい実施態様を代表するものであり、例示であることを意図し、本発明の範囲に対する制限としては意図されない。その中の変更および他の使用は、当業者に起こり、本発明の精神内に包含され又は添付の請求項の範囲によって定義される。本明細書に特に引用される全ての参考文献は、参考として援用されている。
【実施例】
【0041】
下記の実施例は、例示によって示され、いかなる様式でも本発明を制限することを意図しない。
実施例1:FRDA臨界領域の局在化及び配列決定
可能性のあるエキソンを、FRDA臨界領域において、直接cDNA選択、エキソン増幅及びランダム配列からのコンピューター予測により決定した。臨界FRDA間隔の120kb及び該間隔のすぐ近くの80kbにわたる12個のコスミドを、Bam HI−Bgl IIフラグメントとしてpSPL1とpSPL3エキソントラッピングベクターにそれぞれサブクローニングし、可能性のあるエキソンのスプライシングのためにCOS-7(A6)へとトランスフェクトした。D.M.Churchら、Nature Genet.6:98(1994)参照。ヒト小脳及び脊髄ポリ-A+RNAから合成されたクローン化されていないcDNAからのハイブリダイゼーションの選択のために同じコスミドを用いた。J.G.Morganら,Nucl.Acids Res.20:5173(1992)参照。最後に、7個のコスミドを、Sau 3AI,Apo I及びHae IIIフラグメントとしてサブクローン化し、約1500個のランダムシングルパス配列を生み出した。これら配列を、GRAIL1a及びGRAIL2(E.C.Uberbacher及びR.J.Mural,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11261(1991))並びにFEXH(V.V.Solovyevら,Nucl.Acids Res.22,5156(1994))プログラムを用いて分析した。
【0042】
これら分析により、公知の遺伝子とマッチする2つ、即ち、(cDNA選択及びランダム配列決定により得られた)プロテインキナーゼAガンマ触媒サブユニット遺伝子及び(ランダム配列決定により得られた)ミトコンドリアアデニル酸キナーゼ3偽遺伝子を含め、19、5及び17個の可能性のあるコーディング配列をそれぞれ得た。d26といわれる1つのエキソンを、2つのアプローチによりそれぞれ同定した。d26に基づく重なったプライマーは、心臓cDNA鋳型上で、cDNA5’末端(5’−RACE)の急速な増幅実験に用いられた場合、2つの独立しているが部分的に重複する生産物を生じた。5’−RACEを、Clontech RACE-ready cDNAキットを用い、メーカーの使用説明書に従って実行した。これらクローンの配列は、他の増幅されたエキソン及びヒト肝臓+脾臓cDNAライブラリー(ホモサピエンスcDNAクローン126314、5’配列(GenBank取得番号R06470))の発現された配列標識(EST)とマッチした。この遺伝子は、X25と呼ばれ、ESTとRACE生産物の3’末端の配列が異なっているので、明らかに代わりの転写物を有していた。
【0043】
X25の遺伝子構造(図1A)を、同定されたエキソンをフランキングするイントロンの配列を得ることにより、逆PCRにより、及びコスミドの直接配列決定により決定した。ESTクローンは4つのエキソンを有しており、より長いRACE生産物は、1つの付加的な5’エキソンを有していた。このエキソンを、CpGアイランドを用いてゲノムマップにおいて100位に位置決めした。転写開始部位は、エキソンI供与スプライス部位の388bp上流と予測され、TATAボックスは、TSSGプログラムよりさらに28bp上流であることがわかった。5つのエキソン(1〜5aであって、エキソン5aはESTの3’末端に相当する)が、40kbに広がっていることがわかった。それらはフラタキシンと名付けられた210個のアミノ酸タンパクをコードするオープンリーディングフレーム(ORF)を含有している(図1B)。d26に相当する代わりのエキソン(5b)は、テロメアの方向においてエキソン5aから約40kbに局在化していた。エキソン5bは、インフレーム停止コドンを有しており、そのため、代わりの転写物がより短い、171個のアミノ酸タンパクをコードし、その11COOH−末端残基は主要なアイソフォームと異なっている。X25エキソンのヌクレオチドの配列は、GenBankデータベースに取得番号U43748〜U43753として寄託されている。代わりの型をコードする転写物の3’末端を、3’RACE(Froman及びMartin.Technique 1:165(1989)参照)を用いて研究し、Hela細胞の総RNA2μgをエキソン5b3に重なったプライマーと共に用い、エキソン5bの3’供与スプライス部位の交互の使用に依存し、このエキソンとともに終了する転写物又は付加的な非コーディングエキソン6を含むより長い転写物のいずれかが生じ得ることを示した。このより長い3’RACE生産物は、下流のAlu配列のポリ−A末端により終了した。エキソン6のゲノム配列は、タンデムに3つのAlu配列を含有し、アクセプタースプライス部位から1050bp離れたポリアデニル化シグナルが続くことを示した。エキソン6は、エキソン5bの13kbテロメア側にマップされた。全ての7つのエキソン(1〜4、5a、5b及び6)のスプライス部位は、規定コンセンサスに従っている。
【0044】
実施例2:X25転写物の発現
異なるヒト組織のポリA+ノーザンブロットにより、心臓においてX25は最高に発現し、肝臓、骨格筋及び膵臓において中程度であり、全ての脳を含む他の組織において最小の発現であることがわかった(図2)。1.3kbの主要な転写物を同定し、これはエキソン5aを含むmRNAの予測されたサイズと一致していた。1.05、2.0、2.8及び7.3kbのより弱いバンドが検出された。エキソン5aと5bの特異的プローブを用いたノーザンブロットのさらなるハイブリダイゼーションにより、1.05及び2.0kbのバンドがエキソン5bを有していることがわかり、一方、エキソン5aとマッチする配列が主要な1.3kbのバンドに加えて1.8及び7.3kbのバンドにおいて見いだされた。中枢神経系(CNS)の選択された部分からの総RNAのノーザンブロットは、小脳のより少ない発現、大脳皮質の(図には示されていない)非常に少ない発現を伴う、脊髄における1.3kb転写物の高い発現を示した。全体にわたり、X25の発現が、CNSの内部及び外部のいずれにおいても、FRDAの変性の主要部位において最も高いことがわかった。
【0045】
より大きい転写物の性質を研究するために、胎児脳cDNAライブラリーを、ESTクローン(エキソン2〜5a)を用いてスクリーニングした。9つの陽性の中から、すでに同定したX25mRNAの制限を越えて広がる配列を有する4つのクローンを単離した。これらクローンの配列分析は、これらが、いくつかの部位においてX25と異なっており、X25エキソン1に相当する配列に停止コドンを有している関連遺伝子の起源であることを示した。配列決定されている部分において同一であるcDNAの3つは、それぞれエキソン1の0.5、1及び2kb上流に広がっている。これらの配列は、エキソン1に対応する部分においてX25からの多数のダイバージェンスが存在し、ほとんどのCpGジヌクレオチドがTG又はCAにおいて変化し、エキソン2〜4に相当する部分においてほとんど同一である。
【0046】
付加的な1.6kb cDNAは、そのUTRにおいてさえもエキソン5aとよくマッチする配列から始まり、時々1塩基変化(single base change)及び短い挿入/欠失を伴う。X25に関連する遺伝子は臨界FRDA領域から排除され、サザンブロット及びPCR分析により示されているように、少なくとも1種のイントロンのないコピーがゲノムに存在する。X25エキソン1〜5a cDNAプローブを用いたサザンブロット分析は、どのエキソンにも相当せず、臨界FRDA領域からのYAC及びコスミドDNAにおいて存在しないゲノムのDNAにおいて、顕著な5kbのEco RIバンドを示した。ブロットをより低いストリンジェンシーで洗浄した場合(室温にて 1×SSC)、FRDA領域からクローニングされたDNAにもない、いくつかの付加的なバンドが見られた。プライマーnF2(5’−TCCCGCGGCCGGCAGAGTT-3’)[配列番号14]及びE2R(5’-CCAAAGTTCCAGATTTCCTCA-3’)[配列番号13]は、X25cDNAのエキソン1及び2にわたる173bpフラグメントを増幅することができ、ゲノムDNAから相当するサイズのPCR生産物を生み出したが、FRDA領域からクローン化されたDNAに由来するものではなく、ゲノムの他の場所にプロセシングされたX25転写物によく似た配列が存在することを示す。
【0047】
実施例3:コンピュータデータベース検索
X25DNA配列を用いたBLASTN DNAデータベース検索及び翻訳された配列を用いたBLASTP検索は、顕著な一致を示さなかった。しかしながら、TBLASTN検索は、タンパクの配列をDNAデータベースの6個のフレームの翻訳と比較し、C.elegansコスミド(P=7.6×10-3)に含まれるORFと、及びS.cerevisiae EST(P=2.0×10-10)と極めて顕著な一致が得られた(図1B)。いずれの場合においても、最も近いマッチは、エキソン4及び5aにおいてコードされたタンパクの27−aaセグメント(141−167位)を含んでおり、C.elegans及びS.cerevisiae配列と、それぞれ25/28及び22/27というアミノ酸の同一性、並びにDNAレベルにおいて65%の同一性を示す。X25コード化タンパクの二次構造の予測は、残基125〜145及び175〜180の付近のちらばったβシートの領域の可能性を伴って、NH2−末端の30個のアミノ酸及び残基90〜110及び185〜195の間の領域がα−ヘリックス構造であることを示唆した。二次構造の予測は、二次構造の要素の位置を決定するようにデザインされたSSP及びNNSSPプログラムを用いて行った(V.V.Solovyev及びA.A.Salamov.CABIOS 10:661(1994))。TMpredプログラムを、推定のトランスメンブランドメインを予測するために用いた(K.Hoffmann及びW.Stoffel.Biol.Chem.Hoppe-Seyler 374:166(1993))。PSORTを、可能なタンパク選別シグナルの予測に用いた(K.Nakai及びM.Kanehisa.Proteins:Structure,Function,and Genetics 11:95(1991))。トランスメンブランドメインは同定されなかった。アミノ酸配列のコンピュータ分析がフラタキシンタンパクがN−末端疎水性シグナルを有していることを示唆しているため、フラタキシンは、増殖因子又はホルモン様作用を伴った分泌タンパクの前駆体となり得るものであり、フラタキシンは、細菌、酵母及び哺乳動物の細胞中での発現のための理想的なタンパクであろう。
【0048】
実施例4:FRDAを誘導する突然変異の特徴の決定
FRDA患者184名のX25のコーディングエキソン全6個を、フランキングプライマーを用いて増幅させ、突然変異のスクリーニングを行った。下記のイントロンのプライマーを、X25エキソンを増幅させるために用いた:エキソン1(240bp)、F:5’-AGCACCCAGCGCTGGAGG-3’[配列番号15],R:5’-CCGCGGCTGTTCCCGG-3’[配列番号16];エキソン2(168 bp)F:5’-AGTAACGTACTTCTTAACTTTGGC-3’[配列番号17];R:5’-AGAGGAAGATACCTATCACGTG’-3’[配列番号18],エキソン3(227 bp),F:5’-AAAATGGAAGCATTTGGTAATCA-3’[配列番号19],R:5’-AGTGAACTAAAATTCTTAGAGGG-3’)[配列番号20];エキソン4(250 bp),F:5’-AAGCAATGATGACAAAGTGCTAAC-3’[配列番号21];R:5’-TGGTCCACAATGTCACATTTCGG-3’)[配列番号22];エキソン5a(223 bp),F:5’-CTGAAGGGCTGTGCTGTGGA-3’)[配列番号23],R:5’-TGTCCTTACAAACGGGGCT-3’)[配列番号24],エキソン5b(224 bp),F:5’-CCCATGCTCAAGACATACTCC-3’)[配列番号25],R:5’-ACAGTAAGGAAAAAACAAACAGCC-3’)[配列番号26]。エキソン2、3、4、5a及び5bの増幅は、下記の条件:94°にて1分、55°にて2分、72°にて1分を用いた30サイクルよりなるものであった。高度にGCリッチのエキソン1を増幅するために、アニーリング温度を68°まで上昇させ、10%DMSOを反応に添加した。突然変異のサーチを、FRDA患者168名の一本鎖コンフォメーション多型性(SSCP)分析(M.Oritaら,Genomics 5:874(1989)参照)、及び化学的切断(J.A.Saleebaら、Hum.Mutat.1:63(1992)参照)を用いて16において行った。X25遺伝子生産物の変化を誘導する3つの点突然変異を同定した。
【0049】
点突然変異
2人の罹患者である兄弟がいるフランス人家族において、最初の変化は、ロイシンコドン(TTA)を停止コドン(TGA)(L106X)に変化させるエキソン3のT→Gのトランスバージョンからなるものであった。2番目のケースでは、1人の罹患者である一員がいるスペイン人家族において、第3のイントロンの末端におけるアクセプタースプライス部位を破壊するA→Gのトランジションであり、非変異のAGをGGに変化させるものであった。最後に、イソロイシンからフェニルアラニン(1154F)への変化が、南イタリアの3家族の5人の患者のエキソン4に見つかった。疎水性アミノ酸のこの保存的変化は、ヒト、虫及び酵母が共有している非常に保存されたドメインの範囲内で非変異点に影響を与える。3つの全ての場合に、罹患者個人は、点突然変異に対してヘテロ接合性であった。1154F突然変異が、同じ南イタリアの住民の210人のコントロール個体の417の染色体の中から1つ見いだされ、このことは、これが疾患の原因となる突然変異であることの可能性と矛盾していない。(FRDAのキャリヤーのイタリアにおける頻度が1/120人であり、南イタリアにおける1/40というFRDA染色体の1154Fの頻度から推測すると、人口3,300人に1人が、1154Fのキャリヤーであると予測される。210人の被験者の無作為サンプルにおいてこのような個体を見つけるのは、6%を越える確率で起こりうるものである。
【0050】
イントロン1の伸張
Msp I、TaqI又はBst XIを用いて消化したDNAが、X25cDNAプローブによりハイブリダイズした場合、サザンブロット分析は、FRDA患者と正常なコントロールとの差を示さず、従って主要な転位を排除した。しかし、FRDA患者のEco RI-消化DNAのハイブリダイゼーションは、エキソン1を含むフラグメントが正常なコントロールより平均2.5kb大きく、検出可能な正常なバンドがないことを示した。FRDAキャリヤーは、拡張し、及び正常なサイズのフラグメントについてヘテロ接合性であった。拡張されたフラグメントのサイズは、関連するFRDAキャリヤーの中でさえも、明らかに変化しやすかった(図3)。拡張された領域を、コスミドからサブクローン化され、配列決定されたX25の第1イントロンの範囲内において、さらに5.2kb Eco RI/NotIフラグメントまで局在化した。
【0051】
オリゴヌクレオチドプライマーを、長距離PCR法を用いてこのフラグメントを増幅するためにデザインし、FRDA患者においてサイズが拡大していることを確かめた。パーキン−エルマーXL Long-PCR試薬キットを用いて反応の準備をし、メーカーが提案している標準的な条件並びに、プライマー5200Eco(5’-GGGCTGGCAGATTCCTCCAG-3’)[配列番号27]及び5200Not(5’-GTAAGTATCCGCGCCGGGAAC-3’)[配列番号28]を用いた。増幅は、パーキン−エルマー9600機を用いて行われ、下記の工程20サイクルよりなるものであった:94°にて20秒、68°にて8分、続いて1サイクルにつき68°の長さを15秒間増加させてさらに17サイクル。生成した増幅された生産物は、正常な染色体から5kbであり、FRDA染色体から約7.5kbである。
【0052】
コスミド配列分析は、(GAA)9の反復が、明らかに、Aluの反復の半分ずつを結合させる規定A5TACA5配列のポリ−A伸張によるものであることを示した(図4は、逆相補的配列を示す)。(GAA)9の反復は、エキソン1から1.4kb下流に位置し、FRDA患者の長距離PCRフラグメントの制限分析により、異常サイズの増加がこのトリプレット反復から100bpの範囲内であると位置決めされた。認識部位がGAAGAであるMbo IIを伴う同じフラグメントの消化は、患者とコントロールのサイズの違いを抑制し、GAAの反復が含まれていることを示した。直接的な配列決定は、突然変異がほとんど純粋なGAAの反復の伸張からなるものであることを証明した(図5)。PCRプライマーを、FRDA患者のGAAが伸張された反復の存在及びサイズ、並びに正常な個体における反復の変異性を評価するためにデザインした(図6)。
【0053】
プライマーGAA-F(5’-GGGATTGGTTGCCAGTGCTTAAAAGTTAG-3’)[配列番号29]及びGAA-R(5’-ATCTAAGGACCATCATGGCCACACTTGCC-3’)[配列番号30]は、GAAの反復に隣接し、457+3n bp(n=GAAトリプレットの数)のPCR生産物を生成させる。これらプライマーを用いて、Taqポリメラーゼを用い慣用的なPCR手法により、下記の工程:94°にて45秒、68°にて30秒、72°にて2分からなる30サイクルの後、正常な対立遺伝子の効率のよい増幅を得た。
【0054】
拡大された対立遺伝子は、特に正常な対立遺伝子と共に存在させた場合により低い効率で増幅した;従って、これらプライマーの使用は、FRDAキャリヤーの検出を示すものではない。伸張された対立遺伝子のより効果的な増幅は、FRDAキャリヤーにおいても、プライマーBam(5’-GGAGGGATCCGTCTGGGCAAAGG-3’)[配列番号31]及び2500F(5’-CAATCCAGGACAGTCAGGGCTTT-3’)[配列番号32]を用いて得られる。これらプライマーは、〜1.5kb(1398bp)の正常なフラグメントを生み出した。増幅を、下記の工程:94°にて20秒、68°にて2分及び30秒よりなる20サイクル、続いて68°の工程の長さを15秒/サイクル増加させてさらに17サイクルにより、ロングPCRプロトコルを用いて行った。
【0055】
X25点突然変異を保有しているとわかっている5人の患者を含む、特有の疾患を有する関連のないFRDA患者79人を、サザン分析により及び/又はPCRによりGAA伸張について試験した。点突然変異を保有していると前もってわかっている患者は、伸張に対して全てヘテロ接合性であった。ファミリーの範囲内での分離分析は、点突然変異及びGAA伸張は、異なる親起源を有していることを示し(図7)、保存的ミスセンス突然変異を含む点突然変異は、疾患の原因であることを示した。伸張された対立遺伝子のホモ接合性が、X25点突然変異を前もって発見されていない74人の患者の71人に認められ、ヘテロ接合性が3人に認められた。
【0056】
全体にわたり、これらデータによれば、GAA伸張は、FRDA表現型の約98%と計算された。拡大された対立遺伝子のサイズが200〜900を越えるGAAユニットの間で変化し、ほとんどの対立遺伝子が700〜800の反復を伴うことが見いだされた。親−子孫の伝達の間に伸張された反復の変化しやすさが、親−子孫対の分析により直接的に、及びFRDA遺伝子座におけるホモ接合性の血統であると予測される親の血のつながった罹患した子供における2つの別個の対立遺伝子の発見により間接的に示された。伸張された反復に対応するPCR生産物は、わずかににじんだバンドとして現れ、少なくともリンパ球DNAにおいて有糸分裂の変化しやすさによるサイズ反復の相違のための体細胞モザイク現象の制限された程度のみの発生を示唆する(図6B)。サザン分析を用いて試験された77人の正常な個体は、正常な対立遺伝子についてホモ接合性であった。さらなる98人の正常なコントロールのPCR分析も、なんら伸張を示さず、GAA反復が多型性であり、その長さが7〜22ユニットまで変化することを明らかにした(図6a)。より小さい対立遺伝子は、さらに有力である。
【0057】
30〜40ユニットにおよぶGAA反復は、多数の生物において共通しており、ラット多量体免疫グロブリンレセプターの3’UTRの場合のように、時には多型性である;しかし、それらは、既述のように疾患と関連がない。最近提案された理論的モデルは、ヘアピン構造を形成する可能性が、伸張を生じさせるトリヌクレオチド反復の罹病性に関して非常に重要であることを示唆している。(A.M.Grayら、Cell 81:533(1995)参照)。このモデルによれば、CAG/CTG又はCGG/CCGの反復は、伸張の傾向があると予測され、一方GAA/CCTの反復は、伸張の傾向が最も低く、FRDA伸張を予測できない発見としている。フランス人及びスペイン人の家族におけるZ0-2遺伝子の新たに同定されたエキソン(伸張されたトリプレット反復に対して約120kbテロメアである)におけるFRDAと多型性の間の著しい関連の非平衡は、FRDA伸張の単一の起源を示唆しているが、それはまた、リスクのある対立遺伝子における多段階又は反復性の伸張と矛盾しない。(筋強直性ジストロフィーにおける絶対的な関連性の非平衡は、そのような危険な対立遺伝子において、反復性の突然変異により伸張される、Imbertら、Nature Genet.4:72(1993)参照)。RDAは常染色体性劣性であるという事実は、トリヌクレオチドの伸張による他の公知の疾患と種族のレベルにおいて著しく異なる突然変異の自然な進展を築いている。
【0058】
脆弱X及び筋強直性ジストロフィーにおいて、比較できるサイズの伸張が非コーディング配列において起こり、キャリヤーは、深刻な早期発症の疾患及び強い生殖損失を有している。これら疾患における大きな伸張は、中間のサイズの不安定な対立遺伝子から新たに形成され、予期の現象となる。FRDAにおいて、大きく伸張した対立遺伝子は無症候性キャリヤーにより遺伝され、ヘテロ接合体における新たな伸張の発生は、表現型のレベルにおいて発見されないであろう。ヘテロ接合体に対する陰性の選択がないことは、大きなFRDA伸張対立遺伝子の頻度を、他の特徴付られたトリヌクレオチド伸張よりも少なくとも1桁高く、染色体250につき1のように高く維持するのに重要な役割を果たす。
【0059】
逆に、筋強直性ジストロフィーにおいて、正常なサイズの対立遺伝子への復帰を伴うCTG反復の欠失が、観察されており、そこでは筋強直性ジストロフィーにおける絶対的な関連性の非平衡が、このような危険な対立遺伝子における回復された突然変異により説明されている(Imbertら、Nature Genet.4:72(1993)参照)。本発明の研究におけるFRDAファミリーのサンプルにおいて、大きく伸張された対立遺伝子が、試験された全ての症候性のキャリヤーに存在しており、それらのサイズの不安定さにもかかわらず、中間対立遺伝子に由来する新たな伸張又は正常細胞への復帰のいずれもが検出されなかった。このようなことの随時の発生は、ヘテロ多型性の個体がたくさんいる一般の種族において排除できないが、FRDA遺伝のパターン、特に関連性の結果の矛盾において、発見可能な奇形を誘導しないのに充分な程頻度が低いようである。
【0060】
実施例5:FRDA転写物の定量
X25転写物が、エクソン1および2を連結するプライマーを用いて増幅されたとき、FRDA患者は、キャリアおよび非関連コントロールと比較して検出されないか又は極めて少量のmRNAレベルのいずれかを示した。
【0061】
RT-PCR.RT-PCRは、2人の正常コントロール、2人の真正キャリア、および6人の患者からのリンパ芽球RNA上で、エクソン2逆進プライマーE2R(5’-CCAAAGTTCCAGATTTCCTGA-3’)[配列番号13]およびエクソン1前進プライマーnF(5’-CAGGCCAGACCCTCAC-3’)[配列番号14]を用いて行われた。FRDA領域転写物に由来しないX25に関連する配列の増幅を回避するための用心として、nFプライマーは非9q13関連遺伝子とマッチしないように選択された。PCR反応は、DNAフラグメントの最初および最終濃度の間に直線性を維持するように25サイクル行われた。PCR産物は、ナイロン膜上にブロットされ、32Pで末端標識された内部オリゴヌクレオチドnF2('5-TCCCGCGGCCGGCAGAGTT-3’)[配列番号15]とハイブリダイズされた。この観察は、RNAプロセッシングの異常、または転写機構による妨害のいずれかが、イントロンGAA伸長の帰結として起こることを示唆する。
【0062】
X25に影響する欠失点突然変異を有する患者は、明らかに、GAA伸長に原則的に影響され得る領域中の他の遺伝子はFRDAの原因に関連しないことを実証する。変性または機能不全の部位中のX25の制限発現は、優性の運動失調と毛細血管拡張性運動失調からFRDAを区別し、ここで、原因遺伝子の発現は遍在性である。激烈に減少したX25成熟mRNAは、同じ低いレベルのフラタキシンを生じると予想される。脊髄、心臓および膵臓中の減少したフラタキシンは、ニューロン変性、心筋症および糖尿病のリスク増大の主要な原因であるらしい。
【0063】
RNase保護.
アンチセンスのリボプローブを合成するために、X25 cDNAの2つの領域を、T7 RNAポリメラーゼプロモーターを含むプラスミドベクターにサブクローニングした。一方はエクソン1および2(一部)を含み、他方はエクソン4(一部)および5bを含む、X25 cDNAのそのときの2つの別々のセグメントを適宜サブクローニングした。1μgの直線化されたプラスミドを、3μM α-32PUTPを含む反応中で、インビトロ転写のための鋳型として(アンビオン・マキシスクリプト(Ambion Maxiscript)キットを用いて)使用した。反応は37℃で1時間行われ、その後、DNA鋳型をRNaseを含まないDNase処理によって完全に消化した。次に、全長の標識転写物を、調製用変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動の後に精製した。ヒトGAPDHリボプローブ(pTRI-GAPDHヒト、アムビオン(Ambion))もコントロールとして生成させた。
【0064】
RNase保護アッセイを、アムビオンからのRPAIIリボヌクレアーゼ保護アッセイキットを製造者の推奨に従い使用して行なった。簡単に述べると、患者およびコントロールのリンパ芽球細胞系から抽出された20μgのトータルRNAを、20μl反応中の8×104cpm標識リボプローブと混合し、変性して、45℃で16時間インキュベートした。2μgのRNAを、コントロールのGAPDH反応のために使用した。各リボプローブについて、酵母RNAコントロールハイブリダイゼーションも行なった。RNase(RNase A/RNase T1の混合物)処理を、30分間37℃で行なった。反応生成物を、エタノール沈殿させ、ホルムアミド負荷染料に再懸濁した。これらの生成物を変性し、1×トリス−ホウ酸塩緩衝液中で予熱した5%ポリアクリルアミド/8M尿素ゲル上で、35ワット定電力で電気泳動した。ゲルを乾燥し、X線フィルムに6日間-70℃で増感板を用いて露出した。保護されたフラグメントのサイズを、サンプルを用いて同時電気泳動した配列ラダーを使用して正確に評価した。
【0065】
実施例6:治療
FRDAは、そのタンパク質生成物フラタキシンの欠陥をもたらすX25遺伝子中の異常により、ときには切形のタンパク質(truncated protein)を生じる点突然変異により、しかし最も通常には遺伝子発現の抑制を生じる最初のイントロン中のGAA伸長によって引き起こされる。従って、FRDA患者へのフラタキシンの治療的投与は、本発明の一側面である。多量の組換えフラタキシンは、好適な生物に形質転換される発現ベクターにX25 cDNAをクローニングして産生される。多量の組換えタンパク質の産生を導く発現ベクターは、幾つかの技術で精製し、患者に全身または局所投与するために調製され得る。フラタキシン配列のコンピューター分析は、フラタキシンが膜タンパク質ではなく、分泌され易いことを示唆する。両方の特性とも、フラタキシンを投与のための理想的なタンパク質とする。
【0066】
他のアプローチは、フラタキシンタンパク質の機能を調べること、およびフラタキシンを産生および/またはそれに反応する細胞中の細胞代謝における細胞性反応または修飾を誘導し得る化合物を同定することである。そのような化合物は、FRDAにおけるフラタキシン蛋白の欠如の結果を克服する。
【0067】
さらに、様々な治療的戦略をテストするため、フリートライヒ運動失調に関する動物モデルを提供するために相同組換えを介して、マウスX25同族体を不活性化し得る。
【0068】
最後に、フラタキシンのコーディング配列を、FRDA患者に投与される好適な発現ベクターに挿入する。フラタキシンのコーディング配列を修飾されたRNAまたはDNAウイルスのゲノムに挿入し、それを患者に全身的または局所的に投与し、或いは、後で患者身体に再移植される患者からの培養細胞を形質導入するために使用する。或いは、非ウイルスベクターを利用し、患者または患者に再移植される患者の培養細胞に直接的に投与する。
【0069】
当業者は、本発明が目的を遂行し、上述の目的および利点、並びにそれらに固有のものを得るために十分に適合されることを容易に認識する。本明細書に記載されるヌクレオチド、タンパク質、ペプチド、方法、手順および技術は現在、好ましい実施態様を代表するものであり、例示のみを意図し、範囲の制限としては意図されない。その中の変更および他の使用は、当業者に起こり、それらは本発明の精神内に包含され、添付の請求項の範囲によって定義される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸サンプルに含まれるフリートライヒ運動失調をもたらす突然変異を検出する方法であって、
a)個体から得られた核酸サンプルに含まれるDNAを分析し、
b)前記サンプルのDNA分析を、配列番号1を含むコントロールのDNA分析と比較し、
c)前記サンプルのDNAと前記コントロールのDNAとの間にどのような差異があるかを決定することを包含し、
サンプルのDNAとコントロールのDNAとの間の差違はフリートライヒ運動失調をもたらす突然変異が存在することを示すこととする、方法。
【請求項2】
分析が、核酸の配列決定による分析及びプローブハイブリダイゼーションによる分析からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サンプルが、分析前に増幅される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
突然変異が、以下の事項
−L106Xのアミノ酸変化を生じさせるエキソン3のT→Gトランスバージョン
−非変異のAGのGGへの変化を生じさせるエキソン3の末端のA→Gのトランジション
−l154Fのアミノ酸変異を生じさせるエキソン4の核酸変異、及び、
−120以上のGAA反復の数を含むイントロン1の拡張
からなる群から選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
フリートライヒ運動失調をもたらす突然変異について個体をスクリーニングする方法であって、
a)個体からのDNAを配列決定し、前記個体からの該配列を配列番号1と比較する工程;
b)前記個体からの配列と配列番号1の配列との間に、もしあるとして、どのような差異があるかを決定する工程、及び
c)工程b)で決定される差違が、以下の事項からなる群:
−非変異のAGのGGへの変化を生じさせるエキソン3の末端のA→Gのトランジション、及び、
−l154Fのアミノ酸変異を生じさせるエキソン4の核酸変異
から選ばれる場合はフリートライヒ運動失調をもたらす突然変異が存在すると決定する工程、を含む方法。
【請求項6】
サンプルが、分析前に増幅される、請求項5に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−154858(P2010−154858A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−14090(P2010−14090)
【出願日】平成22年1月26日(2010.1.26)
【分割の表示】特願平9−531448の分割
【原出願日】平成9年3月4日(1997.3.4)
【出願人】(595070279)アンスティトゥー ナショナル ド ラ サンテ エ ド ラ ルシェルシュ メディカル (1)
【出願人】(391058060)ベイラー カレッジ オブ メディスン (16)
【氏名又は名称原語表記】BAYLOR COLLEGE OF MEDICINE
【Fターム(参考)】