説明

フリーピストン式発電機

【課題】効率を簡易かつ効果的に向上でき得るフリーピストン式発電機を提供する。
【解決手段】本発明のフリーピストン式発電機10は、ピストン20の少なくとも片側に燃料を燃焼する燃焼室26を有し、当該燃焼室26で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力でピストン20を直線移動させるエンジンユニット16と、前記ピストン20の往復運動に伴い発電を行う発電ユニット14と、前記エンジンユニット16および発電ユニット14の駆動を制御する制御部50と、を備える。前記制御部50は、前記ピストン20が最も燃焼室側に位置する上死点近傍でのピストン速度を規定の速度範囲内に保つべく発電負荷を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストンの直線往復運動に伴い発電するフリーピストン式発電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃焼室で燃料を燃焼させた際に得られる燃焼圧力により、シリンダ内でピストンを往復運動させるフリーピストンエンジンに発電ユニットを組み込み、ピストンの往復運動に伴い発電を行うフリーピストン式発電機が広く知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、左右一対のフリーピストンエンジン、当該ピストンを連結シャフト、当該シャフトに設けられた磁石部、当該磁石部の動きに応じて発電するリニア発電機などを備えたフリーピストンエンジン駆動リニア発電装置が開示されている。この特許文献1では、熱効率向上を目的として、シリンダ内容積が燃焼期間中に等圧膨張となるように発電機の磁界制御を行なっている。
【0004】
また、特許文献2には、左右一対のフリーピストンエンジンと二つのピストンを連結するシャフトに磁石部を設けたリニア発電装置が開示されている。この特許文献2では、エンジンの失火が検出された際にはピストン速度を増加させ、ノッキングが検出された際にはピストン速度を減少させるように発電制御を行なっている。このように発電条件を変更することで、効率の向上を図る技術が従来から幾つか提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−343202号公報
【特許文献2】特開2008−223628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした従来の技術は、その制御が極めて複雑であったり、特殊な場合にしか効果がなかったりして、必ずしも、有効とは言いがたかった。例えば、特許文献1記載の技術は、燃焼期間中の燃焼室圧力を均一に保つべく発電制御を行なっているが、実際には、かかる発電制御は極めて複雑で、現実的ではない。また、特許文献2記載の技術は、ノッキングや失火という極端な条件でのみ発電制御を行なっており、通常運転時の効率向上には寄与していない。
【0007】
つまり、従来、効率を簡易かつ効果的に向上し得る技術はなかった。そこで、本発明では、効率を簡易かつ効果的に向上し得るフリーピストン式発電機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフリーピストン式発電機は、ピストンの直線往復運動に伴い発電するフリーピストン式発電機であって、ピストンの少なくとも片側に燃料を燃焼する燃焼室を有し、当該燃焼室で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力でピストンを直線移動させるエンジンユニットと、前記ピストンの往復運動に伴い発電を行う発電ユニットと、前記エンジンユニットおよび発電ユニットの駆動を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、前記ピストンが燃焼室に最も近づく上死点近傍でのピストン速度を規定の速度範囲内に保つべく発電負荷を調整する、ことを特徴とする。
【0009】
好適な態様では、前記制御部は、ピストンが燃焼室に近づく圧縮行程における発電負荷の積算値が、ピストンが燃焼室から離れる膨張行程における発電負荷の積算値よりも大きくなるように、発電負荷を調整する。
【0010】
他の好適な態様では、前記制御部は、発電負荷をピストンの移動速度で割った値である発電負荷係数を、発電負荷調整の指標として用いる。この場合において、前記制御部は、ピストンが燃焼室に近づく圧縮行程における発電負荷係数が、ピストンが燃焼室から離れる膨張行程における発電負荷係数よりも大きくなるように、発電負荷を調整する、ことが望ましい。
【0011】
他の好適な態様では、前記エンジンユニットは、フリーピストンの両側に燃焼室が設けられており、燃料の燃焼を前記両側に設けられた二つの燃焼室で交互に行なう。この場合、前記制御部は、一方の燃焼室への新気導入が完了する時刻近傍から当該一方の燃焼室の圧縮が完了するまでを当該一方の燃焼室の圧縮行程とし、当該一方の燃焼室の圧縮が完了してから他方の燃焼室への新気導入が完了する時刻近傍までを当該一方の燃焼室の膨張行程として、前記発電負荷を調整する、ことが望ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、上死点近傍におけるピストンの速度を、規定の速度範囲に保つことができ、ひいては、上死点近傍におけるピストンの滞留時間を長期化できる。その結果、安定した着火性を確保でき、発電機の効率をより向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態であるフリーピストン式発電機の構成図である。
【図2】フリーピストン式発電機の効率と動作態様を示す図である。
【図3】フリーピストンエンジンとレシプロエンジンのピストン変位を示すグラフである。
【図4】フリーピストンエンジンとレシプロエンジンの燃焼室の圧力変化を示すグラフである。
【図5】本実施形態におけるピストン変位を示すグラフである。
【図6】第二実施形態であるフリーピストン式発電機の構成図である。
【図7】第二実施形態における圧縮行程および膨張行程を説明する図である。
【図8】第二実施形態における効率と動作態様を示す図である。
【図9】他のフリーピストン式発電機の動作態様を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、本発明の実施形態であるフリーピストン式発電機10の概略構成図である。
【0015】
このフリーピストン式発電機10は、燃焼圧力によるピストン20の動きを電気的エネルギに変換して取り出す装置で、ピストン20を往復運動させるエンジンユニット16と、ピストン20の動きに伴い発電を行なう発電ユニット14と、に大別される。
【0016】
発電ユニット14は、固定子として機能するシリンダ18と、可動子として機能するピストン20と、から構成される。ピストン20の外側面には永久磁石24が埋め込まれており、シリンダ18の内壁(永久磁石24の外周囲)には発電コイル22が固定設置されている。エンジンユニット16の駆動によりピストン20がシリンダ18内で往復移動すると、この永久磁石24と発電コイル22との相対位置関係が変化し、これにより、永久磁石24周囲の磁界が変化する。そして、この磁界の変化に応じて発電コイル22に誘導起電力が発生する。この誘導起電力によって発電が行われ、発電により得られた電力は、図示しないバッテリなどに送電される。
【0017】
エンジンユニット16は、ピストン20をシリンダ18内で往復運動させるユニットである。このエンジンユニット16には、発電ユニット14の固定子としても機能するシリンダ18と、発電ユニット14の可動子としても機能するピストン20と、シリンダ18内においてピストン20の両側に設けられた燃焼室26および空気室28と、を備えている。つまり、ピストン20は、燃焼室26および空気室28に挟まれている。そして、燃焼室26および空気室28は、ピストン20の往復運動に伴い体積が変化するようになっている。
【0018】
シリンダ18は、既述したとおり、固定子として機能するもので、その内部には発電コイル22が埋め込まれている。このシリンダ18の一端側には燃焼室26が、他端側には空気室28が形成され、両室26,28の間にはピストン20が摺動自在に配置される。
【0019】
ピストン20は、可動子として機能するもので、シリンダ18の内部に摺動自在に配置される。このピストン20の外周面には、永久磁石が設置されている。
【0020】
燃焼室26は、燃料と新気(空気)との混合気の燃焼を行うチャンバである。この燃焼室26には、燃料噴射弁30や、点火プラグ32、排気弁34、掃気孔36などが設けられている。燃料噴射弁30は、燃焼室26の端面(シリンダ18の閉端面)に取り付けられた弁体で、燃焼室26内に燃料を供給する。点火プラグ32は、燃料と新気とが混合された混合気に点火し、燃焼(爆発)を生じさせる。排気弁34は、燃焼室26の端面(シリンダ18の閉端面)に取り付けられており、燃焼後に生じる既燃ガスを外部に排出する。掃気孔36は、燃焼室26内に新気を取り込むために燃焼室26の空気室28寄りの位置に設けられ、掃気ポート37に接続された孔である。この掃気孔36は、ピストン20の変位に応じて開口量が変化する。すなわち、ピストン20が燃焼室26側の端部付近に位置し、燃焼室26が圧縮された状態では、掃気孔36は、ピストン20により遮蔽された状態となる。この場合、燃焼室26への新気導入は阻害される。一方で、燃焼圧力によりピストン20が空気室28側(図面右側)へと移動すると、掃気孔36が徐々に開口されていき、新気の導入が促されるようになっている。なお、ピストン20により開放・閉鎖される掃気孔36に代えて、電気的もしくは油圧によりに開閉駆動される掃気弁を設けてもよい。すなわち、燃焼室26の端面(シリンダ18の閉端面)に、掃気ポート37に連結され、燃焼室26内への新気の流入出を制御する掃気バルブを設けてもよい。
【0021】
空気室28は、燃焼室26とは反対側に設けられ、シリンダ18とピストン20の端面により囲まれたチャンバである。この空気室28の内部に存在する空気室28内ガス(空気など)は、混合気の燃焼により空気室28側に移動してきたピストン20を、燃焼室26側に押し戻す空気バネとして機能する。すなわち、燃焼室26内の燃焼圧力によりピストン20が空気室28側に移動すると、空気室28が圧縮されることになる。圧縮された空気室28は、圧縮された反動で、再度、膨張するべく、ピストン20を燃焼室26側へと押し戻す。
【0022】
この空気室28には、空気室28の圧力を調整する調圧弁38が設けられている。この調圧弁38は、空気室28の圧力が過大な場合には、空気室28の内気を外部に流出させ、空気室28の圧力が過小な場合には外気を空気室28に流入させる。この調圧弁38としては、例えば、圧力センサと、当該圧力センサの検出値に応じて開閉する電磁弁と、を組み合わせたものでもよいし、一定圧力で機械的に開閉する機械式バルブ、例えば、ダックビルバルブなどであってもよい。
【0023】
シリンダ18に特定箇所に設けられた位置センサ40は、当該センサ設置位置へのピストン20の到達を検出するセンサである。図示しない制御部50は、この位置センサ40で検知された到達タイミングとセンサ設置位置を、予め用意した運動特性のマップと照合したり、運動方程式を解いたり、簡単なモデルに当てはめたりして、ピストン20の位置や速度を取得する。制御部50は、ここで得られたピストン20の位置や速度に基づいて、各種バルブの開閉タイミングや、燃料の噴射量、発電負荷量、燃料噴射時期、点火時期などを制御する。なお、こうした制御は、このエンジンユニット16および発電ユニット14が安定して動作する条件で、なおかつ、ある条件下(騒音が規定の閾値以下、もしくは、エンジンの排気ガス成分が規定の基準値以下)で、最も効率よく運転されることを目的に行なわれる。また、上述した位置センサ40に替えて、ピストン20の位置をストローク全域に亘って検知する、光学的なリニアエンコーダや、磁気歪式直線変位センサ、渦電流式ギャップセンサなどを用いてもよい。また、この位置センサ40のほかに、燃焼室26や空気室28の圧力を検知する圧力センサや、失火を検知するセンサやノッキングを検知するノッキングセンサなどを設けてもよい。
【0024】
制御部50は、このエンジンユニット16および発電ユニット14の駆動を制御するものである。具体的には、制御部50は、各種センサで検知されたエンジンユニット16や発電ユニット14の駆動状況に応じて、各種バルブの開閉駆動や、点火プラグの駆動、噴射する燃料量の調整などを行なう。また、本実施形態の制御部50は、エンジンユニット16の駆動状況に応じて、発電負荷、より具体的には、発電負荷係数を制御する。発電負荷係数は、ピストン速度に対する発電負荷の大きさを示すパラメータで、発電負荷調整の指標として用いられるパラメータである。この発電負荷係数は、発電負荷をピストン速度で割った値である。したがって、発電負荷係数をc、発電負荷をF、ピストン速度をsとした場合、F=c・sとなる。制御部50は、ピストン20の位置などに基づいて、現在が膨張行程または圧縮行程のいずれであるかを判断し、圧縮行程時における発電負荷係数が、膨張行程時における発電負荷係数よりも大きくなるように発電負荷を調整する。この理由については後に詳説する。
【0025】
次に、このフリーピストン式発電機10の動作について説明する。まず、燃焼室26の内部に燃料−空気の混合気がある状態で、ピストン20が燃焼室26側に移動し、燃焼室26が十分に圧縮されると、点火プラグ32により混合気への点火がなされる。この点火により混合気が燃焼(爆発)し、その燃焼圧力(ガス膨張力)により、ピストン20が空気室28側へと移動し、燃焼室26の膨張、空気室28の圧縮を行う膨張行程となる。このとき、燃焼室26では、排気弁34が開放され、燃焼室26内における既燃ガスの排気が行われる。また、ピストン20が、空気室28側へと移動することで、ピストン20により閉鎖されていた掃気孔36が徐々に開放されていき、燃焼室26への新気の取り込みが行われる。
【0026】
一方、空気室28は、燃焼圧力により移動するピストン20により圧縮されていく。そして、ピストン20が、空気室28を十分に圧縮すると、今度は、当該空気室28の圧縮空気の膨張力(反発力)により、ピストン20が燃焼室26側へと押し戻される。これにより、空気室28の膨張・燃焼室26の圧縮が行われる圧縮行程が開始される。
【0027】
ピストン20が燃焼室26側へと移動することで掃気孔36が閉鎖される。また、排気弁34の閉鎖も行われ、燃焼室26が密閉された状態となる。その状態で燃料の噴射が行われ、燃焼室26内に新気と燃料の混合気が充填される。ピストン20が燃焼室26を十分に圧縮すると、点火プラグ32により混合気に点火がなされる。そして、再び、ピストン20が空気室28側へ移動し、燃焼室26の膨張、空気室28の圧縮が行われる膨張行程が開始される。以降は、同様のサイクル、すなわち、燃焼室26の圧縮・空気室28の膨張(圧縮行程)、混合気燃焼、燃焼室26の膨張・空気室28の圧縮(膨張行程)のサイクルを繰り返す。そして、このサイクルの過程で、ピストン20に埋め込まれた永久磁石24周囲の磁界が変化し、当該磁界の変化に応じて発電コイル22に、誘導起電力が発生することで、発電が行われる。
【0028】
ここで、この一連のサイクルの中で、制御部50は、既述したように、行程に応じて発電負荷係数を調整する。すなわち、制御部50は、位置センサ40の出力などに基づいて、ピストン20の位置や速度を取得し、この取得した位置や速度に基づいて現在が圧縮行程にあるのか、膨張行程にあるのかを判断する。そして、膨張行程においては、発電負荷係数が規定の値である第一発電負荷係数c1になるように調整する。また、圧縮行程においては、第一発電負荷係数c1よりも高い値である第二発電負荷係数c2(c2>c1)になるように調整し、ピストン20に作用するブレーキ力が膨張行程のときよりも大きくなるようにする。
【0029】
図2は、本実施形態における発電機10の効率と駆動態様を示す図である。図2において横軸はピストン速度(絶対値)を、縦軸は発電負荷を示している。また、太破線は膨張行程の動きを、太実線は圧縮行程の動きを示している。
【0030】
この図2を参照して発電機10の動きを説明する。膨張行程は、ピストン20が上死点に到達してから下死点に到達するまでの間である。上死点においてピストン速度は、0であるため、膨張行程の開始時点においては、ピストン速度および発電負荷がともに0の点Oをとる。その後、ピストン20が、燃焼圧力を受けて空気室側に、移動し、徐々に速度上昇する。制御部50は、このピストン速度に比例するように、発電負荷も上昇させる。このときの比例係数が第一発電負荷係数c1となる。
【0031】
そして、ピストン20が、ストロークの中央付近に到達した時点で、ピストン速度および発電負荷がともにピークをとる点A1をとる。その後は、空気室28に近づくにつれ、徐々に速度低下していく。このとき、制御部50は、このピストン速度に比例するように、第一発電負荷係数c1を比例係数として発電負荷も低下させる。そして、ピストン20が、最も空気室28に近づく下死点で、ピストン速度および発電負荷がともに0の点Oをとる。
【0032】
ピストン20が下死点に到達した後は、ピストン20が、空気室28からの反発力を受けて、燃焼室側に移動し、燃焼室26を圧縮する圧縮行程に移行する。圧縮行程は、ピストン速度および発電負荷がともに0の点Oから始まる。そして、その後、徐々にピストン速度が上昇する。制御部50は、このピストン速度に比例するように、発電負荷も上昇させる。ただし、このときの比例係数である第二発電負荷係数c2は、膨張行程における第一発電負荷係数c1よりも大きくしている。
【0033】
ピストン20が、ストロークの中央付近に到達した時点で、ピストン速度および発電負荷がともにピーク点である点A2をとる。その後は、燃焼室26に近づくにつれ、徐々に速度低下していく。このとき、制御部50は、このピストン速度に比例するように、発電負荷係数c2を比例係数として発電負荷も低下させる。そして、ピストン20が、最も燃焼室26に近づく上死点で、ピストン速度および発電負荷がともに0の点Oをとる。
【0034】
このように、本実施形態では、圧縮行程における発電負荷係数を、膨張行程における発電負荷係数よりも大きくしている。かかる制御とするのは次の理由による。
【0035】
一般に、フリーピストンエンジンは、クランク機構を有するレシプロエンジン(以下「レシプロエンジン」と称す)に比べてピストンが上死点に留まる時間が短いことが知られている。これについて図3を参照して説明する。図3は、同じ周波数で運動するフリーピストンエンジンとレシプロエンジンとのピストン変位を示す図である。図3において、横軸は時間、縦軸はピストン変位を示している。また、破線はフリーピストンエンジンの、実線はレシプロエンジンのピストンの変位を示している。
【0036】
この図3から明らかなとおり、フリーピストンエンジンは、レシプロエンジンに比べて、上死点付近の移動速度が速い。そのため、フリーピストンエンジンは、レシプロエンジンに比べて、ピストン20が上死点近傍に留まる時間、すなわち、混合気が高圧状態にある期間が短い。そのため、レシプロエンジンと同様の圧縮比では安定した着火が困難になりがちである。そのため、フリーピストンエンジンにおいて、混合気を確実に着火させるためには、高い圧縮比が要求され、その要求を満たすためにはピストン速度が速くならざるを得なかった。かかるピストン速度の高速化は、燃焼室26の急峻な圧力上昇を招いていた。
【0037】
図4は、燃焼室26の圧力変化を示すグラフで、横軸が時間を、縦軸が燃焼室の圧力を示している。また、図4において、破線はフリーピストンエンジンの、実線はレシプロエンジンの燃焼室の圧力変化を、それぞれ示している。この図4から明らかなとおり、フリーピストンエンジンでは、上死点近傍において、圧力が急激に上昇する。その結果、フリーピストンエンジンでは、燃焼騒音が大きくなり、さらに、燃焼室の最高圧力も高くなることでガスの最高温度も高くなることから熱損失も増大し、さらに高いエンジン強度を要するために重量も増大していた。
【0038】
本実施形態では、かかる問題を低減するために、圧縮行程において発電負荷係数を高めにし、ピストンに作用するブレーキ力が大きくなるようにしている。その結果、上死点に向かうピストン20の速度を低下させ、ひいては、上死点近傍におけるピストン20の滞留時間を長くすることができる。
【0039】
これについて、発電負荷係数を行程に関わらず常に一定とした場合と本実施形態とを比較して説明する。図5は、発電制御によるピストン変位の違いを示すグラフである。図5において横軸は時間を、縦軸はピストン変位を示している。また、図5において、実線は本実施形態におけるピストン変位を、破線は発電負荷係数を一定にした場合のピストン変位をそれぞれ示している。この図5から明らかなとおり、圧縮行程における発電負荷係数を、膨張行程における発電負荷係数より高くした本実施形態では、上死点に向かうピストンの移動速度が遅くなり、ピストン20が上死点近傍に留まる時間を長くできる。そして、これにより、レシプロエンジンと同様の圧縮比でも、安定した着火性を確保でき、結果として、燃焼騒音の低下や熱効率の向上、さらには、エンジンの軽量化を図ることができる。
【0040】
次に、他の実施形態について図6を参照して説明する。図6は、第二実施形態であるフリーピストン式発電機10の構成図である。このフリーピストン式発電機10は、空気室28を有さず、ピストン20を挟んで二つの燃焼室26a,26bを有している点で第一実施形態と異なる。以下では、説明の便宜上、図6において左側に位置する燃焼室を第一燃焼室26a、右側に位置する燃焼室を第二燃焼室26bと呼ぶ。なお、両者を区別する必要がない場合には、添字アルファベットを省略して、単に「燃焼室26」と呼ぶ。以下、他部材においても同様である。
【0041】
二つの燃焼室26a,26bは、いずれも、同様の構成となっている。すなわち、各燃焼室26には、燃料噴射弁30や、点火プラグ32、排気弁34、掃気孔36などが設けられている。ピストン20は、この二つの燃焼室26a,26bの間において直線往復運動を行う。したがって、ピストン20は、一方の燃焼室26に近づいて圧縮する際には、他方の燃焼室26から離れて膨張させることになる。
【0042】
制御部50は、この二つの燃焼室26a,26bにおいて、交互に燃料燃焼が行われるように各バルブ等の駆動を制御する。すなわち、第一燃焼室26aで燃料燃焼が行われると、燃焼圧力によりピストン20が、第二燃焼室26b側に移動する。この移動の過程で、制御部50は、第一排気弁34aを開放し、第一燃焼室26a内の既燃ガスの排出を行なう。また、ピストン20が、第二燃焼室26b側に移動することにより、ピストン20により閉鎖されていた第一掃気孔36aが開放され、第一燃焼室26aに新気が導入される。
【0043】
これと並行して、制御部50は、第二排気弁34bを閉鎖し、第二燃焼室26bにおける既燃ガスの排出を停止する。また、ピストン20が、第二燃焼室26b側に移動することにより、ピストン20により第二掃気孔36bが閉鎖され、第二燃焼室26bへの新気の導入が停止し、第二燃焼室26bが閉鎖空間となる。
【0044】
この状態になれば、制御部50は、第二燃料噴射弁30bを駆動して、第二燃焼室26bに燃焼を噴射し、新気と燃料の混合気を充填する。そして、ピストン20が第二燃焼室26bを十分に圧縮すると、制御部50は、第二点火プラグ32bを駆動して、第二燃焼室26b内の混合気に点火し、燃焼を実行する。
【0045】
第二燃焼室26bにおいて燃焼が行われると、燃焼圧力によりピストン20が、第一燃焼室26a側に移動する。そして、先ほどの行程とは逆に、制御部50は、第二排気弁34bの開放・第一排気弁34aの閉鎖を実行する。また、ピストン20の移動に伴い、第二掃気孔36bの開放・第一掃気孔36aの閉鎖が行なわれ、第一燃焼室26aが閉鎖空間となれば、制御部50は、第一燃料噴射弁30aを駆動して、第一燃焼室26aに燃焼を噴射する。そして、ピストン20が第一燃焼室26aを十分に圧縮すると、制御部50は、第一点火プラグ32aを駆動して、第一燃焼室26a内の混合気に点火し、燃焼を実行する。そして、以降も、同様のサイクルを順次繰り返す。
【0046】
この第二実施形態においても、制御部50は、圧縮行程における発電負荷係数が、膨張行程における発電負荷係数よりも大きくなるように発電負荷を調整する。ただし、本実施形態のように、ピストン20の両側に燃焼室26a,26bを設けた場合は、一方の燃焼室26を膨張させる動きが、他方の燃焼室を圧縮させる動きになる。かかるエンジンユニット16について、従来、圧縮行程・膨張行程の区分けが従来規定されていなかった。そこで、本実施形態では、一方の燃焼室26への新気導入が完了してから当該一方の燃焼室26の圧縮が完了するまでを当該一方の燃焼室26の圧縮行程とし、当該一方の燃焼室26の圧縮が完了してから他方の燃焼室26への新気導入が完了するまでを当該一方の燃焼室26の膨張行程と規定した。
【0047】
これについて図7を参照して説明する。図7は、本実施形態における各行程の推移を説明する図で、上段はピストン20の変位を、中段は第一掃気孔36aの開閉状況を、下段は第二掃気孔36bの開閉状況を、それぞれ示している。
【0048】
この図7において、ピストン20が第一燃焼室26aを最も圧縮する位置(ピストン20が最も左側に行く位置)を第一上死点、ピストン20が第二燃焼室26bを最も圧縮する位置(ピストン20が最も右側に行く位置)を第二上死点という。また、上段・下段のグラフにおいて、Highになっているタイミングが、各掃気孔36が開口されているタイミング、すなわち、新気導入が行なわれているタイミングを示している。
【0049】
図7に示すように、時刻taにおいて第一上死点(第一燃焼室26aを最も圧縮する位置)に到達したピストン20は、その後、第一燃焼室26aでの燃料の燃焼により生じる燃焼圧力により、第二上死点側に移動する。この移動により、時刻tbにおいて、第二掃気孔36bがピストン20により閉鎖され、第二燃焼室26bへの新気導入が停止する。この時刻taから時刻tbの近傍の時刻tb´の間が、第一燃焼室26aにとっての膨張行程である第一膨張行程になる。その後、第二燃焼室26bへの新気導入が完了した時刻tbの近傍の時刻tb´から、第二燃焼室26bの圧縮が完了する時刻tdまでが、第二燃焼室26bにとっての圧縮行程である第二圧縮行程になる。この時刻tbと時刻tdの間にある時刻tcにおいて、ピストン速度がピークをとる。なお、時刻tb´は、掃気孔36bが閉鎖される時刻tbの近傍で、その時点から発電負荷を増加させることで、上死点近傍において上死点に向かうピストンの移動速度を規定の範囲内(安定した着火を確保でき得る程度の時間、ピストンを上死点近傍で滞留させ得る速度範囲内)に抑えることができるような時刻である。例えば、この時刻tb´は、前述のピストン位置を検出する手段により算出されるピストン速度、設定した発電負荷、および、両端の燃焼室圧力などを基にして、予め用意した運動特性のマップと照合したり、運動方程式を解いたり、簡単なモデルに当てはめるなどして上死点近傍のピストン速度を予測することで決定する。
【0050】
そして、第二燃焼室26bでの燃焼が行われ、当該燃焼により生じた燃焼圧力により、ピストン20が第一上死点側に移動すると、時刻teにおいて第一掃気孔36aが閉鎖される(第一燃焼室26aへの新気導入が完了する)。この時刻tdから時刻teの近傍の時刻te´までが、第二燃焼室26bにとっての膨張行程である第二膨張行程となる。そして、以降も同様のタイミングで、第一圧縮行程、第一膨張行程、第二圧縮行程、第二膨張行程に順次、切り替わり、繰り返される。
【0051】
本実施形態では、この第一圧縮行程および第二圧縮行程における発電負荷係数を、第一膨張行程および第二膨張行程における発電負荷係数よりも高くしている。図8は、このときの発電機10の効率と駆動態様を示す図である。なお、この図8におけるta〜tgは、それぞれ、図7における時刻ta〜tg時点での動作点を意味している。
【0052】
時刻taにおいて、ピストン20は、第一上死点に位置しており、速度・発電負荷ともに0となっている。時刻taから時刻tb´の間は、第一燃焼室26aにとっての膨張行程に該当するため、制御部50は、低めの値である第一発電負荷係数c1を比例係数として、発電負荷をピストン速度に比例させる。
【0053】
そして、時刻tb´(第二燃焼室26bへの新気導入が完了する近傍時刻)において、第二圧縮行程に移行したと判断し、制御部50は、比例係数を、第一発電負荷係数c1よりも高い第二発電負荷係数c2に変更する。その結果、時刻tbを境界として、発電負荷が増加し、ピストン20に作用するブレーキ力が増大する。
【0054】
その後、ピストン速度がピークをとる時刻tcを経て、時刻tdになるとピストン20が第二上死点に到達する。このとき、ピストン速度・発電負荷はともに0となる。時刻tdから、第一掃気孔36aが閉鎖される時刻近傍の時刻te´までは、膨張行程となるため、再び、制御部50は、発電負荷係数として、第二発電負荷係数c2よりも小さい第一発電負荷係数c1を設定する。そして、第一掃気孔36aが閉鎖される時刻近傍の時刻te´以降は、再び、圧縮行程となるため、制御部50は、発電負荷係数を、高めの第二発電負荷係数c2に切り替え、ピストン20へのブレーキ力を増大させる。そして、ピストン速度がピークをとる時刻tfを経て、ピストンが第一上死点に到達する時刻tgまで、この第二発電負荷係数c2を用いて発電負荷調整を行なう。以降も、同様に、圧縮行程における発電負荷係数が、膨張行程における発電負荷係数よりも小さくなるように発電負荷を調整する。
【0055】
かかる構成とすることで、第二実施形態においても、第一実施形態と同様に、上死点近傍におけるピストン速度を抑えることができ、ひいては、上死点近傍におけるピストン20の滞留時間を長くすることができる。そして、その結果、安定した着火性を確保でき、結果として、燃焼騒音の低下や熱効率の向上、さらには、エンジンの軽量化を図ることができる。
【0056】
なお、この第二実施形態においても、ピストン20の移動に伴い開閉される掃気孔36に替えて、掃気ポート37に接続された掃気弁を各燃焼室26a,26b設けるようにしてもよい。かかる構成とした場合には、掃気弁の閉鎖タイミングが、膨張行程から圧縮行程への切り替わりタイミングとなる。
【0057】
また、上述の第一実施形態、第二実施形態では、行程に応じて発電負荷係数を変更している。しかし、少なくとも、上死点近傍において上死点に向かうピストン20の移動速度を、規定の範囲内(安定した着火性を確保でき得る程度の時間、ピストン20を上死点近傍で滞留させ得る速度範囲内)に抑えることが出来るのであれば、発電負荷の変更形態は適宜、変更されてもよい。
【0058】
例えば、上述の実施形態では、圧縮行程内で発電負荷係数を一定としているが、圧縮行程での発電負荷の積算値が、膨張行程での発電負荷の積算値より大きいのであれば、圧縮行程内でも発電負荷係数を変更してもよい。例えば、図9に示すように、膨張行程においては、発電負荷係数を一定(発電負荷をピストン速度に比例)にする一方で、圧縮行程では発電負荷をピストン速度に関わらず一定(発電負荷係数をピストン速度に反比例)にしてもよい。この場合においても、圧縮行程での発電負荷の積算値が、膨張行程での発電負荷の積算値よりも大きくなるように制御する。かかる構成とすることで、上述の実施形態と同様に、ピストン20の上死点近傍における滞留時間を長くでき、ひいては、安定した着火性を確保できる。
【0059】
また、別の形態として、ピストン20の速度や加減速度、位置などをモニタリングし、これらモニタリング結果に基づいて上死点近傍におけるピストン20の速度を推定し、得られた推定結果に応じて、与える発電負荷量を適宜、変更するようにしてもよい。
【0060】
また、上述の実施形態では、火花点火について例示したが、圧縮着火燃焼(ディーゼル燃焼)を用いてもよいし、予混合圧縮自着火燃焼を用いてもよい。こうした実施形態においては、ピストンの位置や速度に基づいて各種バルブの開閉タイミングや燃料の噴射量、発電負荷量、噴射時期、噴射率などを制御する。また、上述の説明では、永久磁石24を用いた発電ユニット14を示したが、永久磁石24を用いないリラクタンス同期モータを応用して、発電ユニット14を永久磁石24を使わない構成としてもよい。
【符号の説明】
【0061】
10 フリーピストン式発電機、14 発電ユニット、16 エンジンユニット、18 シリンダ、20 ピストン、22 発電コイル、24 永久磁石、26 燃焼室、28 空気室、30 燃料噴射弁、32 点火プラグ、34 排気弁、36 掃気孔、37 掃気ポート、38 調圧弁、40 位置センサ、50 制御部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの直線往復運動に伴い発電するフリーピストン式発電機であって、
ピストンの少なくとも片側に燃料を燃焼する燃焼室を有し、当該燃焼室で燃料を燃焼させた際の燃焼圧力でピストンを直線移動させるエンジンユニットと、
前記ピストンの往復運動に伴い発電を行う発電ユニットと、
前記エンジンユニットおよび発電ユニットの駆動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記ピストンが燃焼室に最も近づく上死点近傍でのピストン速度を規定の速度範囲内に保つべく発電負荷を調整する、
ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項2】
請求項1に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記制御部は、ピストンが燃焼室に近づく圧縮行程における発電負荷の積算値が、ピストンが燃焼室から離れる膨張行程における発電負荷の積算値よりも大きくなるように、発電負荷を調整する、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項3】
請求項1または2に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記制御部は、発電負荷をピストンの移動速度で割った値である発電負荷係数を、発電負荷調整の指標として用いる、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項4】
請求項3に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記制御部は、ピストンが燃焼室に近づく圧縮行程における発電負荷係数が、ピストンが燃焼室から離れる膨張行程における発電負荷係数よりも大きくなるように、発電負荷を調整する、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記エンジンユニットは、フリーピストンの両側に燃焼室が設けられており、燃料の燃焼を前記両側に設けられた二つの燃焼室で交互に行なう、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。
【請求項6】
請求項2を引用する請求項5に記載のフリーピストン式発電機であって、
前記制御部は、一方の燃焼室への新気導入が完了する時刻近傍から当該一方の燃焼室の圧縮が完了するまでを当該一方の燃焼室の圧縮行程とし、当該一方の燃焼室の圧縮が完了してから他方の燃焼室への新気導入が完了する時刻近傍までを当該一方の燃焼室の膨張行程として、前記発電負荷を調整する、ことを特徴とするフリーピストン式発電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2012−202386(P2012−202386A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70600(P2011−70600)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】