説明

フリーラジカル重合プロセスおよびそれによって得られるポリマー

【課題】多分散指数(PDI)の低いポリマーを製造するためのフリーラジカル重合プロセスおよびこれによって得られるポリマーを提供する。
【解決手段】本発明に係るフリーラジカル重合プロセスは、窒素含有モノマーである少なくとも1種の反応性モノマーと、少なくとも1種の開始剤と、溶剤としての少なくとも1種のイオン液体とを重合させることにより、PDIが1.5未満と低いポリマーを得るものである。このフリーラジカル重合プロセスにおける反応時間は、僅か3時間以内である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フリーラジカル重合(free radical polymerization)に関し、より詳細には多分散指数の低いポリマーを製造するためのフリーラジカル重合に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高分子技術の成熟に伴って、近年ポリマーは、従来のプラスチックや合成樹脂産業だけではなく、例えば電子、オプトエレクトロニクス、通信およびバイオテクノロジーなどのハイテク産業分野においても応用されるようになっている。なかでも、とりわけ特殊な性質を持つ一部のポリマー材料、例えば、ナノデバイスを製造するためのフォトレジスト剤や機械特性を大幅に向上させるナノポリマー複合材料などは、いずれも関連産業において需要が非常に高い材料である。
【0003】
ポリマー材料の性質はその構造によって決まる。例として、重合度、分子量分布、および組成などはポリマー材料の性能に大きく影響する。従来のカチオンおよびアニオン重合法は、一部モノマーの重合度および分子量分布を制御できるが、その分子量分布をより狭く調整する能力には限りがあり、これらにより得られるポリマー生成物の多分散指数(PDI(polydispersity index):重量平均分子量と数平均分子量との比によって決まる)は通常2よりも大きい。さらに、上述の重合法は、使用できるモノマーの種類に限りがあり、かつ、反応条件が過酷で反応時間も長いため、関連産業における広範の使用に制約を加えている。
【0004】
これに関し、1998年、研究グループCSIROは、狭い分子量分布を持つポリマー生成物を製造すると共に、ポリマー鎖長に対して更なる制御を行なうことのできる、可逆的付加−開裂連鎖移動プロセス(Reversible Addition-Fragmentation Transfer process=RAFT process)と称されるリビングフリーラジカル重合法を提示した。このいわゆるRAFTプロセスとは、通常のフリーラジカル重合法に、所定量の可逆的付加−開裂連鎖移動剤(RAFT剤)を添加した組合せのプロセスである。
【0005】
ところが、このようなRAFT剤を用いる従来のリビングラジカル重合は、モノマーが窒素雰囲気下、かつ非常に希薄な溶液中でしか重合反応せず、こうした条件でないと狭い分子量分布のポリマー生成物を得ることができないものであるため、大変に効率が悪く、結果として重合反応の時間が延長する、反応が不完全となるなどの問題を引き起こす。よって、かかる重合法は、経済的、かつ操作上不利である。
【0006】
また、従来の有機溶剤に代えてイオン液体を溶剤として用いたフリーラジカル重合プロセスが提示されている(特許文献1参照)。この重合は4時間以内に完了し得るため、重合反応の効率の向上が図られる。しかし、用いられるイオン液体とモノマーとの相性が良くないので、このプロセスで得られるポリマーの分子量分布は比較的広いものとなる。よって、このようなフリーラジカル重合プロセスでは、現在の業界において要求される、1.5未満という低いPDI値を満たすことはできない。したがって、得られたポリマー生成物のPDIをより低くするための新規なフリーラジカル重合プロセスが求められている。
【0007】
【特許文献1】WO02/079269号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述に鑑みて、本発明の目的は、PDIの低いポリマーを製造するためのフリーラジカル重合プロセス、およびこれによって得られるポリマーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は、少なくとも1種のイオン液体の存在下で、少なくとも1種のフリーラジカル的に重合可能なモノマーと少なくとも1種の開始剤とを重合反応させて、PDIが1.5未満のポリマーを得る工程からなる窒素含有ポリマーの製造方法であって、
前記フリーラジカル的に重合可能なモノマーが窒素含有モノマーであり、前記イオン液体が下記の一般式(I)、(II)、(III)または(IV)
【0010】
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式中、Y-は、SbF6-、PF6-、BF4-、(CF3SO2)2-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-、NO3-、Cl-、Br-、またはI-であり、
1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、C1-10アルキル基、C1-10フルオロアルキル基またはC1-10パーフルオロアルキル基である。)で示される構造を有するものである窒素含有ポリマーの製造方法に関する。
【0011】
前記窒素含有モノマーが、重合可能な官能基で置換されたピリジン、ニトリルまたはアミドであることが好ましい。
【0012】
前記重合可能な官能基が、アクリロイル、エポキシ、イソシアナト、または反応性二重結合を持つ官能基であることが好ましい。
【0013】
前記フリーラジカル的に重合可能なモノマーが、ビニルピリジン、アクリロニトリル、またはn−イソプロピルアクリルアミドであることが好ましい。
【0014】
前記開始剤が、パーオキサイド、パーエステルまたはアゾ開始剤であることが好ましい。
【0015】
前記モノマーと前記開始剤との重量比が30:1〜200:1であることが好ましい。
【0016】
前記モノマーと前記イオン液体との重量比が2:3以下であることが好ましい。
【0017】
前記ポリマーの分子量が4000〜200000であることが好ましい。
【0018】
2種のフリーラジカル的に重合可能なモノマーを重合させることが好ましい。
【0019】
また、本発明は前記製造方法によって得られる窒素含有ポリマーにも関する。
【発明の効果】
【0020】
本発明のフリーラジカル重合プロセスによれば、簡単な反応操作および短い反応時間(3時間以内)で、PDIが1.5ひいては1.3未満と低いポリマーを得ることができる。さらに、従来の重合プロセスと比べて、本発明によるフリーラジカル重合プロセスは、高度に希釈された溶液中で行なう必要がないため、いかなるタイプのモノマーにも適用可能である。加えて、本発明によるプロセスは、ホモポリマー材料の製造だけでなく、ジブロックまたはランダムポリマー材料の製造にも用いられ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
先ず、本発明を次のように概要する。
【0022】
本発明は、PDIの低いポリマーを製造するためのフリーラジカル重合プロセスを提供する。本発明によるフリーラジカル重合プロセスは、少なくとも1種のイオン液体の存在下で、少なくとも1種のフリーラジカル的に重合可能なモノマーと少なくとも1種の開始剤とを反応させて重合を進行させ、PDIが1.5未満のポリマーを製造するものである。該フリーラジカル的に重合可能なポリマーは窒素含有モノマーとすることができ、該イオン液体は一般式(I)、(II)、(III)または(IV)で示される構造を有するものである。
【0023】
【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【0024】
式中、Y-は、SbF6-、PF6-、BF4-、(CF3SO2)2-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-、NO3-、Cl-、Br-、またはI-であり得、
1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、C1-10アルキル基、C1-10フルオロアルキル基またはC1-10パーフルオロアルキル基であり得る。
【0025】
さらに、本発明はPDIの低いポリマーも提供する。このポリマーは、溶剤としての少なくとも1種のイオン液体の存在下で重合される反応物質からなる反応生成物を含んでいる。
【0026】
該反応物質は、少なくとも1種のフリーラジカル的に重合可能なモノマー、および少なくとも1種の開始剤を含む。該フリーラジカル的に重合可能なモノマーは窒素含有モノマーとすることができ、該イオン液体は一般式(I)、(II)、(III)または(IV)で示される構造を有するものである。
【0027】
【化9】

【化10】

【化11】

【化12】

【0028】
式中、Y-は、SbF6-、PF6-、BF4-、(CF3SO2)2-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-、NO3-、Cl-、Br-、またはI-であり得、
1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、C1-10アルキル基、C1-10フルオロアルキル基またはC1-10パーフルオロアルキル基であり得る。
【0029】
このような本発明によれば、ポリマーのPDIを1.5未満とすることができ、ひいてはより好ましい1.3未満とすることもできる。
【0030】
続いて、以下に本発明を詳細に説明する。
【0031】
本発明に係るPDIの低いポリマーを製造するためのフリーラジカル重合プロセスは、溶媒としての少なくとも1種のイオン液体の存在下で、少なくとも1種のフリーラジカル的に重合可能なモノマーと少なくとも1種の開始剤とを重合させる工程を含むものである。
【0032】
本発明の実施形態において、前記フリーラジカル的に重合可能なモノマーは窒素含有モノマーである。この窒素含有モノマーは、例えばビニルピリジン、アクリロニトリル、またはn−イソプロピルアクリルアミドなどの重合可能な官能基で置換されたピリジン、ニトリルまたはアミドであり得る。重合可能な官能基には、アクリロイル、エポキシ、イソシアナト、または反応性二重結合を持つ官能基が含まれる。
【0033】
使用するイオン液体を窒素含有モノマーとの相性の点から選択したことは、本発明の主要な特徴であり重要な側面である。イオン液体は、高い熱安定性、非可燃性、および無引火点(non-flashpoint)という特性を備え、かつ、広い温度範囲において液体状態をとる。本発明で使用するイオン液体は、40〜200℃の範囲において液体状態を維持することのできる、一般式(I)、(II)、(III)または(IV)で示される構造を有するものである。
【0034】
【化13】

【化14】

【化15】

【化16】

【0035】
式中、Y-は、SbF6-、PF6-、BF4-、(CF3SO2)2-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-、NO3-、Cl-、Br-、またはI-であり得、
1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、C1-10アルキル基、C1-10フルオロアルキル基またはC1-10パーフルオロアルキル基であり得る。
【0036】
本発明の実施形態において、一般式(I)で示されるイオン液体のイミダゾール、または一般式(II)で示されるイオン液体のピリジンを構成する、炭素原子に結合した水素原子は、任意で、フッ素、C1-10アルキル基、C1-10フルオロアルキル基またはC1-10パーフルオロアルキル基で置換されていてもよい。
【0037】
本発明の実施形態によれば、一般式(I)で示されるイオン液体は、BmimPF6(Bmim:1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム)、BmimBF4、BmimCF3SO3、BmimCH3CO2、BmimCF3CO2、BmimCl、BmimBr、Bmim(CF3SO22N、OmimPF6(Omim:1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム)、OmimBF4、OmimCF3SO3、OmimCH3CO2、OmimCF3CO2、OmimCl、OmimBr、Omim(CF3SO22N、DmimPF6(Dmim:1−デシル−3−メチルイミダゾリウム)、DmimBF4、DmimCF3SO3、DmimCH3CO2、DmimCF3CO2、DmimCl、DmimBrまたはBmim(CF3SO22Nであり得る。下表1には、上に挙げた一般式(I)で示されるイオン液体のうちのいくつかの特性が示されている。
【0038】
【表1】

【0039】
また、本発明のイオン液体として、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド、1−メチル−1−ブチル−ピロリジニウムジシアナミド、ブチル−メチルピロリジニウムトリフルオロメチルスルホン、1−ブチル−1−メチル−ピロリジニウムテトラフルオロボレート、トリヘキシル(テトラデシル)ホスホニウムトリ(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスファート、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムヘキサフルオロホスファート、トリオクチルメチルアンモニウムトリフルオロメタンスルホナート、トリオクチルメチルアンモニウムヘキサフルオロホスファート、トリオクチルアンモニウムテトラフルオロボレートまたはメチル−トリオクチルアンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホン)イミドを挙げることもできる。
【0040】
好ましい開始剤には、パーオキサイド、パーエステルまたはアゾ開始剤があるが、これだけに限定されることはない。代表的な例としては、AIBN、2,2'−アゾビス(2−シアノ−2−ブタン)、ジメチル−2,2'−アゾビス(メチルイソブチラート)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、4,4'−アゾビス(4−シアノペンタン−1−オール)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2−(t−ブチルアゾ)−2−シアノプロパン、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(1,1)−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'−アゾビス[2-メチル−N−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミジン二塩酸塩、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)二塩酸塩、2,2'−アゾビス(N,N'−ジメチレンイソブチルアミン)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)−2−ヒドロキシエチル]プロピオンアミド、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−[1,1−ビス(ヒドロキシメチル)エチル]プロピオンアミド)、2,2'−アゾビス[2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2'−アゾビス(イソブチルアミド)二水和物、2,2'−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)、2,2'−アゾビス(2−メチルプロパン)、ジラウロイルパーオキサイド、第3アミルパーオキサイド、第3アミルパーオキシジカーボネート、t−ブチルパーオキシアセテート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシネオデカノエート、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−アミルパーオキシピバレート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジ−イソプロピルパーオキシジカーボネート、ジシクロヘキシルパーオキシジカーボネート、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−ブチル次亜硝酸塩またはジクミル次亜硝酸塩が挙げられる。
【0041】
本発明の実施形態において、モノマーと開始剤との重量比は、30:1〜200:1とすることができ、50:1〜150:1とするとより好ましい。また、モノマーとイオン液体との重量比は2:3以下であり、1:2以下とすると好ましい。さらに、上述したフリーラジカル重合プロセスによって製造されるポリマーの分子量は、4000〜200000である。
【0042】
本発明の実施形態によるフリーラジカル重合プロセスの反応時間は、3時間以内である。また、その反応温度は30〜120℃に制御することができ、50〜120℃とするとより好ましい。
【実施例】
【0043】
以下の実施例は、その範囲を限定することなく本発明をより完全に説明するためのものであり、当業者であれば、数々の調整や変更が可能であることは明らかであろう。
【0044】
実施例1
モノマーとしてのn−イソプロピルアクリルアミド(NIPAM)1g(8.884mmol)、および溶媒としての1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムヘキサフルオロホスファート(BmimPF6)2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としての4,4’−アゾビス−4−シアノペンタン酸(ACPA)0.02gを加えた。65℃で30分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。その溶液をエチルエーテル中に滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)0.8gを得た。ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)で分析したところ、その平均分子量は11600であり、また、PDIは1.20であった。
【0045】
実施例1の反応スキームは以下のとおりである。
【0046】
【化17】

【0047】
実施例2
BmimPF6を1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムブロマイド(BmimBr)に置き換えたこと以外は、実施例1と同じ手順で行なった。得られたポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)をGPCで分析したところ、その平均分子量は5100であり、また、PDIは1.22であった。
【0048】
実施例3
ACPAをアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)に置き換えたこと以外は、実施例1と同じ手順で行なった。得られたポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)をGPCで分析したところ、その平均分子量は6800であり、また、PDIは1.23であった。
【0049】
実施例4
開始剤の用量を0.02gから0.01gに変えたこと以外は、実施例3と同じ手順で行なった。得られたポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)をGPCで分析したところ、その平均分子量は21000であり、また、PDIは1.28であった。
【0050】
実施例5
ACPAをAIBNに置き換えたこと以外は、実施例2と同じ手順で行なった。得られたポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)をGPCで分析したところ、その平均分子量は11600であり、また、PDIは1.24であった。
【0051】
実施例6
モノマーとしてのNIPAM1g(8.884mmol)、および溶剤としての1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムテトラフルオロボレート(BmimBF4)2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.01gを加えた。50℃で160分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから遠心分離を行なった。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は5300であり、また、PDIは1.22であった。
【0052】
実施例7
モノマーとしてのn−イソプロピルアクリルアミド1g(8.884mmol)、および溶剤としてのBmimBF42gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.01gを加えた。90℃で10分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから遠心分離を行なった。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は14200であり、また、PDIは1.21であった。
【0053】
実施例8
モノマーとしてのn−イソプロピルアクリルアミド1g(8.884mmol)、および溶剤としての1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド(BmimNTf2)2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.01gを加えた。90℃で12分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は12400であり、また、PDIは1.29であった。
【0054】
実施例9
モノマーとしてのn−イソプロピルアクリルアミド1g(8.884mmol)、および溶剤としてのBmimNTf22gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.02gを加えた。50℃で140分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は7400であり、また、PDIは1.21であった。
【0055】
実施例10
モノマーとしての4−ビニルピリジン(4−VP)1g、および溶剤としてのBmimNTf22gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.02gを加えた。50℃で150分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(4−ビニルピリジン)0.63gを得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は4400であり、また、PDIは1.20であった。
【0056】
実施例10の反応スキームは以下のとおりである。
【0057】
【化18】

【0058】
実施例11
モノマーとしての4−VP1g、および溶剤としてのBmimBr2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.02gを加えた。65℃で60分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(4−ビニルピリジン)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は33600であり、また、PDIは1.24であった。
【0059】
実施例12
モノマーとしての4−VP1g、および溶剤としてのBmimPF62gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.01gを加えた。65℃で50分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(4−ビニルピリジン)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は8800であり、また、PDIは1.39であった。
【0060】
実施例13
モノマーとしての4−VP1g、および溶剤としてのBmimBr2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.02gを加えた。65℃で50分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(4−ビニルピリジン)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は5700であり、また、PDIは1.03であった。
【0061】
実施例14
AIBNの量を0.02gから0.01gに変えたこと以外は、実施例13と同じ手順で行なった。得られたポリ(4−ビニルピリジン)をGPCで分析したところその平均分子量は8400であり、また、PDIは1.26であった。
【0062】
実施例15
モノマーとしての4−VP1g、および溶剤としてのBmimBr2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.01gを加えた。85℃で30分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(4−ビニルピリジン)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は6400であり、また、PDIは1.28であった。
【0063】
実施例16
モノマーとしてのアクリロニトリル(AN)1g、および溶剤としてのBmimPF62gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.01gを加えた。80℃で110分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、アセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(アクリロニトリル)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は7200であり、また、PDIは1.42であった。
【0064】
実施例16の反応スキームは以下のとおりである。
【0065】
【化19】

【0066】
実施例17
モノマーとしてのアクリロニトリル(AN)1g、および溶剤としてのBmimBr2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.02gを加えた。60℃で90分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いでアセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(アクリロニトリル)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は4900であり、また、PDIは1.36であった。
【0067】
実施例18
モノマーとしてのアクリロニトリル(AN)1g、および溶剤としてのBmimBF42gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.01gを加えた。80℃で130分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いでアセトン10mlを加えた。続いて、その溶液をエチルエーテルに滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エーテル(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮して、ポリ(アクリロニトリル)を得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は5300であり、また、PDIは1.39であった。
【0068】
上記実施例1〜18の反応条件とこれらにより得られたポリマー生成物の特性を表2に示す。
【0069】
【表2】

【0070】
実施例19
モノマーとしての4−VP1.68g、および溶剤としてのBmimPF62gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.056gを加えた。65℃で40分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物にNIPAM1.0gを添加した。次に、40分間撹拌し、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させてから、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えた。続いて、その溶液を水中に滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エチルアセテート(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮し、ジブロックコポリマーとしてポリ(4−ビニルピリジン)−b−ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)1.2gを得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は27742であり、また、PDIは1.20であった。
【0071】
実施例20
モノマーとしての4−VP1.68gおよびNIPAM1.0g、ならびに溶剤としてのBmimPF62gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.056gを加えた。65℃で180分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えた。続いて、その溶液を水中に滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エチルアセテート(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮し、ランダムポリマーとしてポリ(4−ビニルピリジン)−ran−ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)1.4gを得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は33974であり、また、PDIは1.22であった。
【0072】
実施例21
モノマーとしてのNIPAM1.0g、および溶剤としてのBmimPF62gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのAIBN0.056gを加えた。65℃で20分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物に4−VP1.68gを添加した。次に、40分間撹拌し、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させてから、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えた。続いて、その溶液を水中に滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エチルアセテート(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮し、ジブロックコポリマーとしてポリ(4−ビニルピリジン)−b−ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)1.2gを得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は32230であり、また、PDIは1.23であった。
【0073】
実施例22
AIBNの量を0.056gから0.028gに変えたこと以外は、実施例19と同じ手順で行なった。得られたジブロックコポリマーをGPCで分析したところ、その平均分子量は47800であり、また、PDIは1.40であった。
【0074】
実施例23
モノマーとしての4−VP1.68g、および溶剤としてのBmimBr2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.056gを加えた。65℃で40分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物にNIPAM1.0gを添加した。次いで、40分間撹拌し、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させてから、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えた。続いて、その溶液を水中に滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エチルアセテート(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮し、ジブロックコポリマーとしてポリ(4−ビニルピリジン)−b−ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)1.2gを得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は31800であり、また、PDIは1.48であった。
【0075】
実施例24
モノマーとしての4−VP1.68gおよびNIPAM1.0g、ならびに溶剤としてのBmimBr2gを丸底フラスコに入れた。続いて、その丸底フラスコに、開始剤としてのACPA0.056gを加えた。65℃で180分間撹拌し完全に混合させたのち、その混合物を−10℃まで冷却して重合を停止させ、次いで、N,N−ジメチルアセトアミド10mlを加えた。続いて、その溶液を水中に滴下し沈殿させてから、遠心分離により未反応のモノマーを全て除去した。そして、H2O/エチルアセテート(15mol%)で数回洗浄したのち、ろ過、濃縮し、ランダムポリマーとしてポリ(4−ビニルピリジン)−ran−ポリ(n−イソプロピルアクリルアミド)1.4gを得た。GPCで分析したところ、その平均分子量は28900であり、また、PDIは1.35であった。
【0076】
上記実施例1〜18により得られたポリマー生成物の特性と反応条件を表3に示す。
【0077】
【表3】

【0078】
上述したような本発明のフリーラジカル重合プロセスは、RAFT剤を使用することなくPDIの低いポリマーを製造することができ、かつ、高濃度なモノマーを用いて進行し得るものである。本発明によれば、得られるポリマーのPDIを1.5未満、さらにはより好ましい1.3未満という低さとすることができる。さらに、従来の重合法と比べて、本発明によるフリーラジカル重合プロセスは、高度に希釈された溶液中で行なう必要がないため、いかなるタイプのモノマーにも適用可能である。加えて、本発明によるプロセスは、ホモポリマー材料の製造だけでなく、ジブロックまたはランダムポリマー材料の製造にも用いられ得る。
【0079】
以上、好適な実施例により本発明を説明したが、言うまでもなく、本発明はこれらに限定されることはない。したがって、添付の特許請求の範囲は、本発明の精神および範囲に包含されるような変更や修飾を全てカバーするものとして解釈されなければならない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種のイオン液体の存在下で、少なくとも1種のフリーラジカル的に重合可能なモノマーと少なくとも1種の開始剤とを重合反応させて、多分散指数が1.5未満のポリマーを得る工程からなる窒素含有ポリマーの製造方法であって、
前記フリーラジカル的に重合可能なモノマーが窒素含有モノマーであり、前記イオン液体が下記の一般式(I)、(II)、(III)または(IV)
【化1】

【化2】

【化3】

【化4】

(式中、Y-は、SbF6-、PF6-、BF4-、(CF3SO2)2-、CF3SO3-、CH3CO2-、CF3CO2-、NO3-、Cl-、Br-、またはI-であり、
1、R2、R3およびR4はそれぞれ独立に、C1-10アルキル基、C1-10フルオロアルキル基またはC1-10パーフルオロアルキル基である。)で示される構造を有するものである窒素含有ポリマーの製造方法。
【請求項2】
前記窒素含有モノマーが、重合可能な官能基で置換されたピリジン、ニトリルまたはアミドである請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記重合可能な官能基が、アクリロイル、エポキシ、イソシアナト、または反応性二重結合を持つ官能基である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記フリーラジカル的に重合可能なモノマーが、ビニルピリジン、アクリロニトリル、またはn−イソプロピルアクリルアミドである請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記開始剤が、パーオキサイド、パーエステルまたはアゾ開始剤である請求項1記載の製造方法。
【請求項6】
前記モノマーと前記開始剤との重量比が30:1〜200:1である請求項1記載の製造方法。
【請求項7】
前記モノマーと前記イオン液体との重量比が2:3以下である請求項1記載の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマーの分子量が4000〜200000である請求項1記載の製造方法。
【請求項9】
2種のフリーラジカル的に重合可能なモノマーを重合させる請求項1、2、3、4、5、6、7または8記載の製造方法。
【請求項10】
請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9記載の製造方法によって得られる窒素含有ポリマー。

【公開番号】特開2006−89747(P2006−89747A)
【公開日】平成18年4月6日(2006.4.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−276614(P2005−276614)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(390023582)財団法人工業技術研究院 (524)
【氏名又は名称原語表記】INDUSTRIAL TECHNOLOGY RESEARCH INSTITUTE
【住所又は居所原語表記】195 Chung Hsing Rd.,Sec.4,Chutung,Hsin−Chu,Taiwan R.O.C
【Fターム(参考)】