説明

フルオレン誘導体およびこのフルオレン誘導体を用いたアミノ基含有フルオレン誘導体の製造方法

【課題】9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を効率よく製造するための化合物(中間体)の提供。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物。


(式中、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基等を示し、Rは水素原子又はアシル基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜3の整数である。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を効率よく製造するために有用な化合物、その製造方法、および前記化合物を用いた9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビス−o−アミノフェノール類は、ポリベンゾオキサゾール樹脂などの高性能ポリマーの原料として重要である。このようなビス−o−アミノフェノール類の中でも、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどのフルオレン骨格を有するアミノフェノール類は、フルオレン骨格を有しており、樹脂原料として用いるとさらなる特性の向上又は改善(高耐熱性、高屈折率の付与など)が期待できる。
【0003】
例えば、特開2004−143143号公報(特許文献1)には、下記一般式(1)で示される芳香族アミノフェノール化合物が開示されている。
【0004】
【化1】

【0005】
(式中のAおよびAは、それぞれ独立して、アセチレン結合を含む一価の有機基を示し、互いに同一であっても異なっていても良い。式中のnは1以上、5以下の整数を示す。また、式中のXは、下記式で示される基などの四価の基を示す。)
【0006】
【化2】

【0007】
この文献には、前記式(1)で表される化合物は、下記一般式(7)で表される化合物と、下記一般式(8)で示される化合物とを縮合反応させてアミド結合を生成することにより製造できることが記載されている。
【0008】
【化3】

【0009】
(式中のXは、前記と同じ。)
【0010】
【化4】

【0011】
(式中のAは、アセチレン結合を含む一価の有機基を示す。また、式中のnは、1以上、5以下の整数を示す。)
そして、この文献には、前記式(7)で表される化合物には、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどを使用できることが記載されている。なお、この文献には、このようなフルオレン化合物の製法についてはなんら記載されていない。
【0012】
そして、このようなフルオレン化合物のうち、9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシ)フェニル)フルオレンについては、その製造方法が知られている。例えば、特開2002−105034号公報(特許文献2)には、9,9−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを、水素などにより還元する9,9−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの製造方法が開示されている。
【0013】
なお、この方法において、原料となる9,9−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンの製造方法についても知られており、例えば、特開2002−173470号公報(特許文献3)には、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを、硝酸を用いてニトロ化し、9,9−ビス(3−ニトロ−4−ヒドロキシフェニル)フルオレンを製造する方法が開示されている。
【0014】
しかしながら、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンの物性およびその製造方法については知られていない。
【特許文献1】特開2004−143143号公報(特許請求の範囲、段落番号[0030])
【特許文献2】特開2002−105034号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2002−173470号公報(特許請求の範囲)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
従って、本発明の目的は、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を製造するのに有用な化合物(中間体、前駆体)およびその製造方法を提供することにある。
【0016】
本発明の他の目的は、高性能ポリマーの原料などとして有用な9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を効率よく製造できる方法を提供することにある。
【0017】
本発明のさらに他の目的は、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を簡便にかつ高純度で製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、2−ベンゾオキサゾリノン骨格を有する特定のフルオレン誘導体を用いると、加溶媒分解などの簡便な方法により、アミノ基含有フルオレン誘導体、すなわち、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を高純度でかつ効率よく製造できることを見出し、本発明を完成した。
【0019】
すなわち、本発明の化合物は、下記式(1)
【0020】
【化5】

【0021】
(式中、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rは水素原子又はアシル基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜3の整数である。)
で表される。
【0022】
前記式(1)において、mは、特に0であってもよい。
【0023】
本発明には、酸触媒の存在下、下記式(2)
【0024】
【化6】

【0025】
(式中、R、kは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【0026】
【化7】

【0027】
(式中、R、R、mは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させ、前記化合物(前記式(1)で表される化合物)を製造する方法も含まれる。このような方法では、非常に高い位置選択性で前記式(1)で表される化合物を得ることができる。
【0028】
さらに、本発明には、下記式(1)
【0029】
【化8】

【0030】
(式中、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rは水素原子又はアシル基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜3の整数である。)
で表される化合物を用いて、下記式(A)
【0031】
【化9】

【0032】
(式中、R、R、k、mは前記と同じ。)
で表される化合物を製造する方法も含まれる。
【0033】
この方法は、式(1)で表される化合物を、加溶媒分解する工程(加溶媒分解工程)、例えば、塩基触媒(例えば、金属水酸化物)の存在下、アルコール系溶媒(例えば、炭素数4以上のアルカノール類、ポリオール類、およびグリコールアルキルエーテル類から選択された少なくとも1種)により加溶媒分解する工程を含んでいてもよい。この方法では、さらに、芳香族炭化水素の存在下で加溶媒分解してもよい。また、前記方法は、加溶媒分解工程後、酸を添加する工程を含んでいてもよい。
【0034】
なお、本明細書において、化合物名などの「類」とは、「置換基を有さない」場合と「置換基を有する」場合とを含み、「置換基を有していてもよい」ことを意味する場合がある。
【発明の効果】
【0035】
本発明のオキサゾリノン骨格を有する新規なフルオレン化合物は、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を効率よく製造するのに有用な化合物である。そして、このような化合物を用いることにより、高性能ポリマーの原料などとして有用な9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を効率よく製造できる。特に、本発明の方法では、前記フルオレン化合物を加溶媒分解処理するという簡便な方法により、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を高純度で製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
[ベンゾオキサゾリノン骨格を有するフルオレン化合物]
本発明の化合物(フルオレン化合物)は、下記式(1)
【0037】
【化10】

【0038】
(式中、Rは置換基を示し、Rは置換基を示し、Rは水素原子又は置換基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜3の整数である。)
で表される。
【0039】
上記式(1)において、基Rで表される置換基としては、通常、非反応性置換基、例えば、シアノ基、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子など)、炭化水素基[例えば、アルキル基、アリール基(フェニル基などのC6−10アリール基)など]などが挙げられ、特に、ハロゲン原子、シアノ基又はアルキル基である場合が多い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、t−ブチル基などのC1−6アルキル基(例えば、C1−4アルキル基、特にメチル基)などが例示できる。なお、kが複数(2以上)である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、フルオレン(又はフルオレン骨格)を構成する2つのベンゼン環に置換する基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。また、フルオレンを構成するベンゼン環に対する基Rの結合位置(置換位置)は、特に限定されない。好ましい置換数kは、0〜1、特に0である。なお、フルオレンを構成する2つのベンゼン環において、置換数kは、互いに同一又は異なっていてもよい。
【0040】
また、前記式(1)において、置換基Rとしては、通常、非反応性置換基、例えば、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などのC1−20アルキル基、好ましくはC1−8アルキル基、さらに好ましくはC1−6アルキル基など)、シクロアルキル基(シクロペンチル基、シクロへキシル基などのC5−10シクロアルキル基、好ましくはC5−8シクロアルキル基、さらに好ましくはC5−6シクロアルキル基など)、アリール基[例えば、フェニル基、アルキルフェニル基(メチルフェニル基(又はトリル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基など)、ジメチルフェニル基(キシリル基)など)、ナフチル基などのC6−10アリール基、好ましくはC6−8アリール基、特にフェニル基など]、アラルキル基(ベンジル基、フェネチル基などのC6−10アリール−C1−4アルキル基など)などの炭化水素基;アルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、t−ブトキシ基などのC1−20アルコキシ基、好ましくはC1−8アルコキシ基、さらに好ましくはC1−6アルコキシ基など)、シクロアルコキシ基(シクロへキシルオキシ基などのC5−10シクロアルキルオキシ基など)、アリールオキシ基(フェノキシ基などのC6−10アリールオキシ基)、アラルキルオキシ基(例えば、ベンジルオキシ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルオキシ基)などのエーテル基(置換ヒドロキシル基);アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などのC1−20アルキルチオ基、好ましくはC1−8アルキルチオ基、さらに好ましくはC1−6アルキルチオ基など)、シクロアルキルチオ基(シクロへキシルチオ基などのC5−10シクロアルキルチオ基など)、アリールチオ基(チオフェノキシ基などのC6−10アリールチオ基)、アラルキルチオ基(例えば、ベンジルチオ基などのC6−10アリール−C1−4アルキルチオ基)などのチオエーテル基(置換メルカプト基);アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など);アルコキシカルボニル基(メトキシカルボニル基などのC1−4アルコキシ−カルボニル基など);ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子);ニトロ基;シアノ基;置換アミノ基(N,N−ジアルキルアミノ基など)などが挙げられる。
【0041】
これらのうち、代表的には、基Rは、炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、置換アミノ基であってもよい。
【0042】
好ましいRとしては、炭化水素基[例えば、アルキル基(例えば、C1−6アルキル基)、シクロアルキル基(例えば、C5−8シクロアルキル基)、アリール基(例えば、C6−10アリール基)、アラルキル基(例えば、C6−8アリール−C1−2アルキル基)など]、アルコキシ基(C1−4アルコキシ基など)、ハロゲン原子などが挙げられる。特に、Rは、アルキル基[C1−4アルキル基(特にメチル基)など]、アリール基[例えば、C6−10アリール基(特にフェニル基などのC6−8アリール基)など]、ハロゲン原子などであるのが好ましい。
【0043】
なお、同一のベンゼン環において、mが2〜3である場合、基Rは互いに異なっていてもよく、同一であってもよい。また、2つのベンゼン環において、基Rは同一であってもよく、異なっていてもよい。好ましい置換数mは、0〜2、さらに好ましくは0〜1、特に0である。なお、2つのベンゼン環において、置換数mは、互いに同一又は異なっていてもよく、通常同一であってもよい。
【0044】
また、前記式(1)において、基Rは、水素原子又は置換基である。置換基としては、前記例示の基[例えば、アシル基(アセチル基などのC1−6アシル基など)など]が挙げられる。好ましい基Rは水素原子である。
【0045】
代表的な式(1)で表される化合物には、9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレン(前記式(1)においてkおよびmが0である化合物);9,9−ビス(ハロ−2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(5−ブロモ−2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレンなど]などの前記式(1)においてkが0、mが1〜3である化合物;9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)−2,7−ジハロフルオレン[例えば、9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)−2,7−ジブロモフルオレンなど]などの前記式(1)においてkが1〜4、mが0である化合物;9,9−ビス(ハロ−2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)−2,7−ジハロフルオレン[例えば、9,9−ビス(5−ブロモ−2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)−2,7−ジブロモフルオレンなど]などの前記式(1)においてkが1〜4、mが1〜3である化合物などが挙げられる。
【0046】
これらの中でも、特に、9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレンが好ましい。
【0047】
(製造方法)
前記式(1)で表される化合物は、特に限定されないが、例えば、下記式(2)
【0048】
【化11】

【0049】
(式中、R、kは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【0050】
【化12】

【0051】
(式中、R、R、mは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させることにより製造できる。
【0052】
前記式(2)において、Rおよびkは前記と同じであり、好ましい態様なども同じである。前記式(2)で表される代表的な化合物(フルオレノン類ということがある)は、9−フルオレノン、2,7−ジハロ−9−フルオレノン(2,7−ジブロモ−9−フルオレノンなど)であり、特に9−フルオレノン(すなわち、前記式(2)において、kが0である化合物)が好ましい。フルオレノン類は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、使用するフルオレノン類の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上、好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上であってもよい。
【0053】
なお、フルオレノン類は、市販品を使用してもよく、フルオレン類を空気酸化するなどの方法により製造することもできる。
【0054】
また、前記式(3)において、R、Rおよびmは前記と同じであり、好ましい態様なども同じである。前記式(3)で表される代表的な化合物(ベンゾオキサゾリノン類ということがある)は、2−ベンゾオキサゾリノン(式(3)においてmが0である化合物)、ハロ−2−ベンゾオキサゾリノン(例えば、5−ブロモ−2−ベンゾオキサゾリノンなど)などが挙げられる。ベンゾオキサゾリノン類は、反応において、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。なお、使用するベンゾオキサゾリノン類の純度は、特に限定されないが、通常、95重量%以上、好ましくは97重量%以上、さらに好ましくは99重量%以上であってもよい。
【0055】
なお、ベンゾオキサゾリノン類は、市販品を使用してもよく、慣用の方法[例えば、o−アミノフェノール類とホスゲンとを反応(縮合反応)させる方法など]により製造することもできる。
【0056】
反応において、前記式(3)で表される化合物の使用割合は、前記式(2)で表される化合物1モルに対して、例えば、2〜50モル(例えば、2〜45モル)、好ましくは2〜40モル(例えば、2〜30モル)、さらに好ましくは2〜20モル(例えば、2.1〜10モル)程度であってもよい。
【0057】
反応は、通常、酸触媒の存在下で行ってもよい。酸触媒としては、無機酸[硫酸、塩化水素、塩酸(5〜36重量%、好ましくは20〜36重量%程度の塩化水素の水溶液など)、リン酸など]、有機酸[スルホン酸(メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのアルカンスルホン酸など)など]、固体酸などが挙げられる。前記硫酸には、希硫酸(例えば、濃度30〜90重量%程度の硫酸)、濃硫酸(例えば、濃度90重量%以上の硫酸)、発煙硫酸などが含まれ、反応系において硫酸に転化可能であれば、硫酸前駆体として、三酸化硫黄を使用してもよい。通常、硫酸として、HSO換算で、80〜99重量%(例えば、85〜98重量%)、好ましくは90〜97.5重量%程度の硫酸(濃硫酸)を使用してもよい。
【0058】
固体酸としては、無機固体酸[金属化合物(SiO、Al、TiO、Fe、ZrO、SnO、Vなどの酸化物、SiO−Al、SiO−TiO、TiO−ZrO、SiO−ZrOなどの複合酸化物、ZnSなどの硫化物、CaSO、Fe(SO、CuSO、NiSO、Al(SO、MnSO、BaSO、CoSO、ZnSOなどの硫酸塩、P、Mo、V、W、Siなどの元素を含有するポリ酸(AlPO、Tiのリン酸塩などのリン酸塩など)など);(NHSOなどの非金属硫酸塩;粘土鉱物(酸性白土、モンモリロナイトなど);ゼオライト(酸性OH基を有するY型、X型、A型、ZSM5、モルデナイト、VIPI、AlPO−5、AlPO−11など);カオリンなど]、有機固体酸(イオン交換樹脂など)などを例示できる。固体酸は、固体酸の種類に応じて多孔性又は非多孔性であってもよい。
【0059】
陽イオン交換樹脂(カチオン型イオン交換樹脂、酸型イオン交換樹脂)としては、例えば、強酸性陽イオン交換樹脂[例えば、スルホン酸基を有するイオン交換樹脂[スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーなどの架橋ポリスチレンのスルホン化物、スルホン酸基(又は−CF2CF2SO3H基)を有する含フッ素樹脂(例えば、[2−(2−スルホテトラフルオロエトキシ)ヘキサフルオロプロポキシ]トリフルオロエチレンとテトラフルオロエチレンとのブロック共重合体(例えば、デュポン社製のナフィオン)などの含フッ素イオン交換樹脂など]など]、弱酸性陽イオン交換樹脂[例えば、カルボン酸基を有するイオン交換樹脂(メタクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマー、アクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマーなど)など]などを使用できる。これらの陽イオン交換樹脂の中でも、強酸性陽イオン交換樹脂、特に、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーを基体(又は母体)とする強酸性陽イオン交換樹脂を好適に用いることができる。
【0060】
陽イオン交換樹脂は、ゲル型イオン交換樹脂[例えば、スチレン−ジビニルベンゼンコポリマーなどを基体とし、ミクロポアー(例えば、孔径が15〜30Å程度の細孔)を有するイオン交換樹脂など]であってもよく、ポーラス型イオン交換樹脂[ミクロポアーの他にマクロポアー(例えば、孔径が50〜1000Å程度の細孔)を有するイオン交換樹脂]であってもよい。
【0061】
ミクロポアーの平均孔径は、例えば、5〜50Å、好ましくは10〜40Å、さらに好ましくは15〜30Å程度であってもよい。また、ポーラス型イオン交換樹脂において、マクロポアーの平均孔径は、例えば、50〜1000Å、好ましくは70〜950Å、さらに好ましくは100〜900Å、特に150〜850Å(特に200〜800Å)程度であってもよい。
【0062】
また、ポーラス型イオン交換樹脂の多孔度は、通常、0.03〜0.6cm3/g程度であり、例えば、0.05〜0.55cm3/g、好ましくは0.1〜0.5cm3/g、さらに好ましくは0.15〜0.45cm3/g(特に0.2〜0.4cm3/g)程度であってもよい。
【0063】
なお、反応では、通常、ポーラス型イオン交換樹脂を用いるが、本発明の反応では、特定の架橋度を有する陽イオン交換樹脂(ポーラス型イオン交換樹脂、ゲル型イオン交換樹脂)の使用により、効率よく反応が進行する場合がある。
【0064】
陽イオン交換樹脂のイオン交換容量は、通常、0.2当量/L以上(例えば、0.3〜8当量/L)、例えば、0.4〜5当量/L(例えば、0.5〜4当量/L)、好ましくは0.6〜3当量/L(例えば、0.7〜2.5当量/L)、さらに好ましくは0.8〜2当量/L(例えば、1〜1.7当量L)程度であってもよい。
【0065】
また、ジビニルベンゼンコポリマー(スチレン−ジビニルベンゼンコポリマー、メタクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマー、アクリル酸−ジビニルベンゼンコポリマーなど)を基体とする陽イオン交換樹脂において、架橋度(ジビニルベンゼンの割合)は、例えば、1〜30%、好ましくは1.2〜25%、さらに好ましくは1.5〜20%程度であってもよい。特に、前記架橋度は、2〜13%、好ましくは3〜12.5%、さらに好ましくは3.5〜12%程度であってもよい。
【0066】
陽イオン交換樹脂としては、例えば、バイエル社(ランクセス社)製の「レバチットK1131」、「レバチットK1221」、「レバチットK2361」、「レバチットK2420」、「レバチットK2431」、「レバチットK2620」、「レバチットK2649」;オルガノ社製の「アンバーリスト31」、「アンバーリスト131」、「アンバーリスト121」、「アンバーリスト15JWet」、「アンバーリスト31Wet」;三菱化学(株)製の「ダイヤイオンSK104H」、「ダイヤイオンSK1BH」、「ダイヤイオンSK112H」、「ダイヤイオンPK208LH」、「ダイヤイオンPK216LH」、「ダイヤイオンPK228LH」、「ダイヤイオンRCP160M」;デュポン社製の「ナフィオン」などの市販の陽イオン交換樹脂を使用してもよい。
【0067】
陽イオン交換樹脂の形態は、例えば、フルオレノン類と前記アルコール類との反応の効率、イオン交換樹脂と反応液との分離などに悪影響がなければ、特に制限はないが、通常、粒状であり、微粒状であってもよい。また、粒状(微粒状)の陽イオン交換樹脂の形状は、例えば、無定形状、球状、多角体状、ペレット状などであってもよい。粒状の陽イオン交換樹脂の平均粒径は、通常、0.1〜1.5mm程度であり、例えば、0.15〜1.2mm、好ましくは0.2〜1mm、さらに好ましくは0.25〜0.8mm(特に0.3〜0.6mm)程度であってもよい。
【0068】
好ましい酸触媒は、硫酸などの無機酸、陽イオン交換樹脂であり、特に触媒活性の点から、硫酸が好ましい。特に、硫酸と後述のチオール類とを組み合わせると、簡便にかつ効率よく、残留硫黄分が少ない高純度のフルオレン化合物を高収率で得ることができる。そのため、これらの組み合わせにより、本発明の化合物を工業的に安価に量産可能である。
【0069】
酸触媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0070】
酸触媒の使用量は、酸触媒の種類に応じて選択でき、例えば、前記無機酸又は有機酸を使用する場合、フルオレノン類100重量部に対して、0.001〜150重量部、好ましくは0.005〜100重量部、さらに好ましくは0.01〜50重量部程度であってもよい。特に、触媒として硫酸を使用する場合、硫酸(H2SO4換算)の使用量は、通常、フルオレノン類1重量部に対して、0.1〜30重量部(例えば、0.5〜25重量部)の範囲から選択でき、好ましくは、1〜20重量部程度であってもよい。
【0071】
反応(縮合反応)は、通常、酸触媒に加えて、チオール類を併用して行ってもよい。チオール類と組み合わせることにより、縮合反応を有効に進行できる。チオール類としては、助触媒として機能する慣用のチオール類、例えば、メルカプトカルボン酸(チオ酢酸、β−メルカプトプロピオン酸、α−メルカプトプロピオン酸、チオグリコール酸、チオシュウ酸、メルカプトコハク酸、メルカプト安息香酸など)、アルキルメルカプタン(メチルメルカプタン、エチルメルカプタン、プロピルメルカプタン、イソプロピルメルカプタン、n−ブチルメルカプタン、ドデシルメルカプタンなどのC1−16アルキルメルカプタン(特にC1−4アルキルメルカプタン)など)、アラルキルメルカプタン(ベンジルメルカプタンなど)が挙げられる。これらのチオール類のうち、メルカプトC2−6カルボン酸(例えば、β−メルカプトプロピオン酸)が好ましい。チオール類は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。なお、反応において、チオール類は、酸触媒の助触媒又は共触媒として作用するようである。
【0072】
チオール類の使用割合は、前記フルオレノン類100重量部に対して、2重量部以上(例えば、2.5〜50重量部)の範囲から選択でき、例えば、3重量部以上(例えば、4〜40重量部)、好ましくは5重量部以上(例えば、6〜25重量部)、さらに好ましくは7〜20重量部(例えば、8〜15重量部)程度であってもよく、通常5〜30重量部程度であってもよい。
【0073】
縮合反応は、溶媒の非存在下で行ってもよく、溶媒中で行ってもよい。溶媒は、前記酸触媒に対して非反応性で、かつフルオレノン類およびベンゾオキサゾリノン類を溶解可能であれば特に限定されず、幅広い範囲で使用できる。代表的な有機溶媒としては、エーテル系溶媒(ジエチルエーテルなどのジアルキルエーテル類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの環状エーテル類など)、ハロゲン系溶媒(塩化メチレン、クロロホルムなど)、芳香族系溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレンなど)などが挙げられる。溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0074】
溶媒の使用量は、フルオレノン類1重量部に対して、0〜25重量部程度の範囲から選択でき、例えば、1〜15重量部、好ましくは3〜10重量部程度であってもよい。
【0075】
反応温度は、使用するフルオレノン類、ベンゾオキサゾリノン類、酸触媒、チオール類などの種類に応じて異なるが、通常、10〜150℃、好ましくは20〜120℃程度で行う場合が多い。また、反応時間は、原料の種類、反応温度や溶媒中の濃度などに応じて調整でき、例えば、30分〜48時間、好ましくは、1〜24時間程度である。
【0076】
また、反応は、攪拌しながら行ってもよく、空気中又は不活性雰囲気(窒素、希ガスなど)中で行ってもよく、常圧又は加圧下でおこなってもよい。なお、反応の進行は、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、薄層クロマトゲラフィー(TLC)などにより確認(又は追跡)できる。反応終了後の反応混合物には、通常、生成した前記式(1)で表される化合物以外に、未反応のフルオレノン類、未反応の2−ベンゾオキサゾリノン類、触媒(酸触媒、チオール類)、副反応生成物などが含まれている。そのため、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。
【0077】
前記晶析溶媒としては、炭化水素類[脂肪族炭化水素(ヘキサン、ヘプタンなど)、脂環族炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素(ジクロロメタンなど)など]、水、アルコール類[メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールなどの低級脂肪族アルコール(C1−3アルカノールなど)]、ケトン類[アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルプロピルケトン、ジ−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトンなどの低級脂肪族ケトン(C3−7ジアルキルケトンなど)、シクロヘキサノンなど]、エーテル類(ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのジアルキルエーテルなど)などが挙げられる。晶析溶媒は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。また、晶析溶媒の使用量は、特に限定されず、反応混合物(固形分換算)1重量部に対して、0.5〜50重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部程度であってもよい。このような晶析操作は一回行ってもよく、複数回繰り返して行ってもよい。
【0078】
上記のようにして前記式(1)で表される化合物が得られる。なお、本発明の方法では、位置異性体[下記式(1A)で表される化合物(9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−5−イル)フルオレン類)、下記式(1B)で表される化合物(9−(2−ベンゾオキサゾリノン−5−イル)−9−(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレン類)など]がほとんど生成せず、高純度で前記式(1)で表される化合物が得られる。
【0079】
【化13】

【0080】
(式中、R、R、k、mは前記と同じ。)
【0081】
【化14】

【0082】
(式中、R、R、k、mは前記と同じ。)
すなわち、前記式(2)で表される化合物と前記式(3)で表される化合物との反応は、高い位置選択性で行われる。そして、前記式(1)で表される化合物は、加溶媒分解処理などにより、選択的に後述の式(A)で表される化合物を生成するため、式(A)で表される化合物を製造するための原料(中間体、前駆体)として極めて有用である。
【0083】
なお、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンの製造方法としては、前記特許文献2および3にならって、9,9−ビス(4−ニトロ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンを合成し、この化合物を還元することにより製造することも考えられる。しかし、この方法では、まず、9,9−ビス(4−ニトロ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンの原料として9,9−ビス(3−ヒドロキシフェニル)フルオレンが必要となるが、このような化合物の製造方法は知られていない。そして、仮にこのような化合物が得られたとしても、この化合物のニトロ化により生成する化合物は、9,9−ビス(4−ニトロ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンのみならず、9,9−ビス(2−ニトロ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(5−ニトロ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの副生成物の生成が容易に予測できる。また、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンをヒドロキシル化して製造する方法などについても知られていない。本発明では、前記のように高い位置選択性で前記式(1)で表される化合物が得られるため、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類を製造するうえで非常に有用である。
【0084】
前記方法により得られる反応生成物のうち、前記式(1)で表される化合物の割合は、前記式(1)で表される化合物およびその位置異性体の総量に対して、例えば、95〜100重量%(又は検出限界)、好ましくは97〜100重量%、さらに好ましくは98〜100重量%程度である。
【0085】
(アミノフェノール骨格を有するフルオレン化合物の製造方法)
本発明には、前記式(1)で表される化合物を用いて、下記式(A)
【0086】
【化15】

【0087】
(式中、R、R、k、mは前記と同じ。)
で表される化合物を製造する方法も含まれる。
【0088】
すなわち、この方法では、前記式(1)で表される化合物(又はこの化合物の2−ベンゾオキサゾリノン骨格)を脱保護し、上記式(A)で表される化合物を製造する。
【0089】
前記式(1)で表される化合物から上記式(A)で表される化合物を製造する方法としては、特に限定されないが、代表的には、前記式(1)で表される化合物を加溶媒分解する工程(加溶媒分解工程)を少なくとも経て前記式(A)で表される化合物を製造できる。
【0090】
なお、本発明の方法において、前記式(1)で表される化合物は、通常、前記方法により製造したものを用いてもよい。また、この方法は、前記方法により前記式(1)で表される化合物を製造する工程と、この工程により得られた前記式(1)で表される化合物から前記式(A)で表される化合物を製造する工程(又は脱保護工程)とで構成してもよい。
【0091】
加溶媒分解工程において、加溶媒分解(加溶媒分解処理)は、触媒の非存在下で行ってもよいが、通常、触媒の存在下で行うことができる。触媒としては、酸触媒(前記例示の酸触媒など)であってもよいが、通常、塩基触媒を好適に用いることができる。塩基触媒(塩基性化合物)としては、例えば、例えば、無機塩基{例えば、金属水酸化物[例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウムなど)など]、金属水素化物(例えば、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどのアルカリ又はアルカリ土類金属水素化物)、金属炭酸塩(例えば、炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムなどのアルカリ又はアルカリ土類金属炭酸塩)、金属炭酸水素塩(例えば、炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウムなど)など}、有機塩基{例えば、アミン類;カルボン酸金属塩(酢酸ナトリウム、酢酸カルシウムなどの酢酸アルカリ金属又はアルカリ土類金属塩など);第4級アンモニウム塩(塩化テトラエチルアンモニウムなどのテトラアルキルアンモニウムハライド;塩化ベンジルトリメチルアンモニウムなどのベンジルトリアルキルアンモニウムハライドなど);第4級ホスホニウム塩(塩化ベンジルトリフェニルホスホニウムなど)など}などが例示できる。
【0092】
これらのうち、特に、金属水酸化物[例えば、アルカリ金属水酸化物(例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化セシウムなど)、アルカリ土類金属水酸化物(例えば、水酸化カルシウムなど)など]などの塩基[特に、強塩基(特に、強塩基性無機塩基)]が好ましい。
【0093】
これらの塩基性化合物(アルカリ触媒)は、単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0094】
塩基触媒の使用量は、その種類などにもよるが、例えば、前記式(1)で表される化合物1重量部に対して、0.1〜30重量部(例えば、0.3〜20重量部)、好ましくは0.3〜15重量部、さらに好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。また、塩基触媒の使用量は、前記式(1)で表される化合物1モルに対して、例えば、2〜100モル当量、好ましくは2.1〜80モル当量、さらに好ましくは2.2〜50モル当量程度であってもよい。
【0095】
加溶媒分解に用いる溶媒としては、水、アルコール系溶媒などが挙げられる。特に、これらの中でも、前記式(1)で表される化合物の加溶媒分解(ソルボリシス)反応は、比較的高温で行う場合が多く、高沸点のアルコール系溶媒を好適に用いることができる。
【0096】
アルコール系溶媒としては、例えば、炭素数4以上のアルカノール類(例えば、1−ブタノール、2−ブタノールなどのC4−10アルカノール、好ましくはC4−6アルカノール)、ポリオール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのC2−4アルカンジオール;ジエチレングリコールなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールのグリコール類;グリセリンなどのヒドロキシル基を3以上有するポリオール類)、グリコールアルキルエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルなどのC2−4アルカンジオールモノC1−4アルキルエーテル;ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのジ又はトリC2−4アルカンジオールモノC1−4アルキルエーテルなど)などが挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0097】
加溶媒分解に用いる溶媒(特に、高沸点のアルコール系溶媒)の使用量(又は添加量)は、例えば、前記式(1)で表される化合物1重量部に対して、1〜100重量部、好ましくは3〜60重量部、さらに好ましくは5〜50重量部程度であってもよい。
【0098】
なお、このようなアルコール系溶媒は、塩基触媒の種類によっては(例えば、金属水酸化物)、水の生成とともに、アルコキシドを生成し、このアルコキシドにより加溶媒分解反応が促進される。そのため、このようなアルコキシドを加溶媒分解に用いる場合などにおいては、原料段階から反応系に存在する水やアルコキシド生成に伴って生成する水、さらには、アルコキシドを形成しなかった過剰のアルコール系溶媒を、反応系から除去してもよい。このような除去により、加溶媒分解反応が効率よく進行する場合がある。
【0099】
加溶媒分解は、加溶媒分解に用いる溶媒以外の溶媒の存在下で行ってもよい。このような溶媒としては、前記例示の溶媒などが挙げられる。特に、溶媒は、高沸点の溶媒、例えば、少なくとも高沸点の炭化水素系溶媒で構成するのが好ましい。このような高沸点の溶媒は、高温度での加溶媒分解処理に有利であり、また、前記過剰のアルコール系溶媒や水などを、共沸などにより反応系外に分離除去するのに有用である。
【0100】
炭化水素系溶媒としては、比較的高沸点の溶媒、例えば、芳香族炭化水素(例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メシチレンなどのモノ乃至トリC1−4アルキルベンゼン)などが挙げられる。これらの炭化水素系溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0101】
溶媒(特に、炭化水素系溶媒)の使用量は、例えば、前記式(1)で表される化合物1重量部に対して、1〜500重量部、好ましくは3〜300重量部、さらに好ましくは10〜200重量部程度であってもよい。さらに、アルコール系溶媒の使用量は、例えば、炭化水素系溶媒100重量部に対して、0.5〜100重量部(例えば、1〜80重量部)、好ましくは2〜60重量部(例えば、3〜50重量部)、さらに好ましくは4〜30重量部(例えば、5〜20重量部)程度であってもよい。
【0102】
加溶媒分解反応温度は、例えば、50〜250℃、好ましくは70〜220℃、さらに好ましくは100〜200℃程度であってもよい。なお、加水分解反応温度は、溶媒の沸点以下の温度であってもよい。また、加水分解反応は、還流下で行ってもよい。
【0103】
なお、前記のように、加溶媒分解工程では、必要に応じて、水やアルコール系溶媒などを除去してもよい。除去方法としては、前記のように、高沸点溶媒を利用した共沸などが挙げられる。なお、共沸させる場合、あらたに溶媒を添加してもよい。
【0104】
加溶媒分解反応時間は、例えば、10分〜24時間、好ましくは30分〜18時間、さらに好ましくは1〜10時間程度であってもよい。
【0105】
加溶媒分解反応後、生成した前記式(A)で表される化合物は、反応混合物から分離精製(例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離方法や、これらを組み合わせた分離方法による分離精製)できる。なお、晶析は、前記と同様の方法により行うことができる。通常、塩基触媒の存在下で反応させた場合、必要に応じて過剰の塩基触媒を酸により中和し、適当な方法により分離精製する場合が多い。
【0106】
なお、加溶媒分解反応(加溶媒分解工程)後、必要に応じて酸を混合してもよい。すなわち、前記製造方法は、加溶媒分解工程後、さらに酸を添加する工程を含んでいてもよい。酸の添加により、過剰の塩基触媒を酸により中和し、生成した前記式(A)で表される化合物を有機相に抽出するなどの方法により、前記式(A)で表される化合物を効率よく分離(単離)できる。また、前記式(1)で表される化合物の加溶媒分解が完全に進行せず、前記式(A)で表される化合物のアミドが生成していても、酸により、このアミドをすみやかに加溶媒分解し、前記式(A)で表される化合物を生成できる。
【0107】
なお、前記のような抽出を利用する場合、有機相への抽出のため、水および水と分離可能な溶媒を反応混合物に混合してもよい。水と分離可能な溶媒としては、特に限定されず、例えば、炭化水素系溶媒(例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒)、エステル系溶媒(例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチルなどの酢酸エステル)、ハロゲン系溶媒(ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素など)が挙げられる。これらの溶媒は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0108】
なお、水の使用量は、前記式(1)で表される化合物1重量部に対して、例えば、0.1〜1000重量部、好ましくは1〜700重量部(例えば、5〜600重量部)、さらに好ましくは10〜500重量部程度であってもよい。また、水と分離可能な溶媒の使用量は、前記式(1)で表される化合物1重量部に対して、1〜1000重量部、好ましくは3〜700重量部(例えば、5〜600重量部)、さらに好ましくは10〜500重量部程度であってもよい。
【0109】
なお、分離精製は、酸化防止剤の存在下で行ってもよい。生成物である前記式(A)で表される化合物は、比較的不安定なアミノフェノール骨格を有しているため、空気酸化などにより劣化する可能性があるが、このような酸化防止剤を使用すると効率よくこのような劣化を防止できる。酸化防止剤の添加は、加水分解反応終了後であれば特に限定されないが、例えば、前記中和において酸化防止剤を添加するのが好ましい。
【0110】
酸化防止剤としては、例えば、水溶性の酸化防止剤(例えば、硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、アスコルビン酸、アスコルビン酸ナトリウムなど)、脂溶性(疎水性)の酸化防止剤(例えば、ブチル化ヒドロキシトルエン、エリソルビン酸、チオジプロピオン酸、tert−ブチルヒドロキノン、トコフェロール(例えば、ビタミンE)など)が挙げられる。好ましくは水溶性の酸化防止剤であり、より好ましくは、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、次亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムである。これらの酸化防止剤は単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0111】
酸化防止剤の使用量は、例えば、前記式(1)で表される化合物1重量部に対して、0.1〜100重量部(例えば、0.5〜60重量部)、好ましくは0.3〜50重量部(例えば、0.5〜30重量部)、好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
【0112】
なお、前記中和において使用できる中和剤としては、無機酸、有機酸などの前記例示の酸触媒が挙げられる。代表的には、無機酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、および硝酸などが挙げられ、有機酸としては酢酸、プロピオン酸などが挙げられる。酸は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。酸の使用量は、塩基触媒の当量以上が好ましく、例えば、1〜50当量、好ましくは1〜20当量程度を使用してもよい。
【0113】
中和(反応)温度は、室温から溶媒の沸点までが好ましく、好ましくは60℃〜100℃程度である。中和反応時間は原料の種類、反応温度や溶媒中の濃度などに応じて調整でき、例えば、1分〜48時間、通常、5分〜24時間、好ましくは10分〜10時間程度である。
【0114】
以上のようにして前記式(A)で表される化合物が得られる。代表的な前記式(A)で表される化合物としては、例えば、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類{例えば、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン(前記式(A)においてkおよびmが0である化合物);9,9−ビス(ハロ−4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アミノ−2−ブロモ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレンなど]などの前記式(1)においてkが0、mが1〜3である化合物;9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)−2,7−ジハロフルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)−2,7−ジブロモフルオレンなど]などの前記式(A)においてkが1〜4、mが0である化合物;9,9−ビス(ハロ−4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)−2,7−ジハロフルオレン[例えば、9,9−ビス(4−アミノ−2−ブロモ−3−ヒドロキシフェニル)−2,7−ジブロモフルオレンなど]などの前記式(A)においてkが1〜4、mが1〜3である化合物などが挙げられる。
【0115】
本発明では、前記式(1)で表される化合物を用いるため、位置異性体の生成がなく、高い純度で前記式(A)で表される化合物が得られる。例えば、前記方法により得られる反応生成物のうち、前記式(A)で表される化合物の割合は、前記式(A)で表される化合物およびその位置異性体の総量に対して、例えば、95〜100重量%(又は検出限界)、好ましくは97〜100重量%、さらに好ましくは98〜100重量%程度である。
【産業上の利用可能性】
【0116】
本発明の方法によって製造される9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、高性能ポリマーの原料として使用できる。例えば、9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類は、ジカルボン酸またはその活性誘導体を用いて、ポリ−o−ヒドロキシアミドに変換可能である。そして、このようなポリ−o−ヒドロキシアミドを、環化条件下で加熱することによって、ポリベンゾオキサゾールを形成する。
【0117】
このようなポリベンゾオキサゾール(PBO)は、非常に高い耐熱性を有するポリマーであり、保護層や絶縁層などに適用されている。また、ポリベンゾオキサゾールは、マイクロエレクトロニクスにおいて、例えば、MCM[マルチ(Multi)−チップ(Chip)−モジュール(Module)]、メモリチップおよび論理チップにて2つの金属レベル間の誘電体として、またはチップとそのハウジングとの間のバッファ層として用いられる。本発明の方法により得られる9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン類から得られたポリベンゾオキサゾールは、小さい誘電率、高温安定性および化学安定性を有する絶縁ポリマーの生成を可能にする新しい出発材料として利用することが期待できる。
【実施例】
【0118】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0119】
(実施例1)
還流冷却器を備えた3つ口フラスコに、9−フルオレノン1.8g(0.01モル)、2−ベンゾオキサゾリノン(Aldrich(株)製)3.1g(0.023モル)、メルカプトプロピオン酸4滴を加え、95℃まで加熱した。その後、濃硫酸1mLを30分間で滴下し、90〜95℃を保持して終夜攪拌した。反応終了後、水および酢酸エチルを加え分液し、有機層を水洗し、硫酸ナトリウムで乾燥し、濾過、濃縮した。さらに、酢酸エチルを加え、析出した沈殿を濾過し、濾液を濃縮し、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶離液=塩化メチレン:酢酸エチル=3:1)で精製した。濃縮した後に、少量の酢酸エチルを加えて、結晶化させ、濾過、乾燥して目的とする固体[9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレン、すなわち、下記式で表される化合物]を収量0.4gで得た。なお、H−NMR測定により、異性体の存在は確認されなかった。
【0120】
【化16】

【0121】
以下に、得られた化合物の1H−NMRスペクトルデータを示す。
H−NMR(DMSO−d6)ppm;11.63(s,2H),7.94(d,2H),7.49(d,2H),7.41(td,2H),7.33(td,2H),7.01(d,2H),6.96(d,2H),6.85(dd,2H)。
【0122】
(実施例2)
蒸留装置を備えた3つ口フラスコに、実施例1で得られた化合物[9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレン]0.11g(0.25ミリモル)、キシレン12mL、エチレングリコール1.2mL及び水酸化カルシウム0.83gを加え、157℃まで加熱した。水およびエチレングリコールをキシレンとの共沸で約10g留去し、留去が止まってからキシレン10mLを追加して蒸留装置を還流冷却器に変えて、5時間加熱還流した。トルエン10mL、水10mL、酢酸2.5mL、およびチオ硫酸ナトリウム0.3gを加え、80℃で15分間攪拌した。冷却して不溶物を濾過し、濾過物を酢酸エチルで洗浄したのち、濾液から有機層を分液し、有機層を水洗、硫酸ナトリウムで乾燥、濃縮した。少量のトルエンを加え、結晶化させ、濾過、乾燥し、目的とする固体[9,9−ビス(4−アミノ−3−ヒドロキシフェニル)フルオレン、すなわち、下記式で表される化合物]を収量0.03gで得た。なお、H−NMR測定により、異性体の存在は確認されなかった。この結果より、9,9−ビス(2−ベンゾオキサゾリノン−6−イル)フルオレンの加溶媒分解では、異性化反応は生じないことがわかった。
【0123】
【化17】

【0124】
以下に、得られた化合物の1H−NMRスペクトルデータを示す。
H−NMR(DMSO−d6)ppm;8.82(s,2H),7.84(dd,1H),7.37−7.26(m,6H),6.52(d,2H),6.38(d,2H),6.25(dd,2H),4.38(s,4H)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】


(式中、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rは水素原子又はアシル基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜3の整数である。)
で表される化合物。
【請求項2】
式(1)において、mが0である請求項1記載の化合物。
【請求項3】
酸触媒の存在下、下記式(2)
【化2】


(式中、R、kは前記と同じ。)
で表される化合物と、下記式(3)
【化3】


(式中、R、R、mは前記と同じ。)
で表される化合物とを反応させ、請求項1又は2記載の化合物を製造する方法。
【請求項4】
下記式(1)
【化4】


(式中、Rはシアノ基、ハロゲン原子又はアルキル基を示し、Rは炭化水素基、アルコキシ基、シクロアルコキシ基、アリールオキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、シクロアルキルチオ基、アリールチオ基、アラルキルチオ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基又は置換アミノ基を示し、Rは水素原子又はアシル基を示し、kは0〜4の整数、mは0〜3の整数である。)
で表される化合物を用いて、下記式(A)
【化5】


(式中、R、R、k、mは前記と同じ。)
で表される化合物を製造する方法。
【請求項5】
式(1)で表される化合物を、塩基触媒の存在下、アルコール系溶媒により加溶媒分解する工程を含む請求項4記載の製造方法。
【請求項6】
塩基触媒が金属水酸化物である請求項5記載の製造方法。
【請求項7】
アルコール系溶媒が、炭素数4以上のアルカノール類、ポリオール類、およびグリコールアルキルエーテル類から選択された少なくとも1種である請求項5又は6記載の製造方法。
【請求項8】
さらに、芳香族炭化水素の存在下で加溶媒分解する請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
加溶媒分解工程後、酸を添加する工程を含む請求項5〜8のいずれかに記載の製造方法。

【公開番号】特開2009−235048(P2009−235048A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−86896(P2008−86896)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】