説明

フルオロスルホニルイミド類およびその製造方法

【課題】副生成物の生成が抑制され、より安全に、速やかに、且つ、効率良く、フルオロスルホニルイミド類を製造する方法及びフルオロスルホニルイミド類を提供する。
【解決手段】フルオロスルホニルイミド塩の製造方法であって、下記スキーム中一般式(I)で表される化合物とオニウム塩とを反応させて一般式(II)で表されるクロロスルホニルイミドのオニウム塩を得る工程、一般式(II)の化合物と、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物とを反応させて一般式(III)で表される化合物を得る工程、とをこの順で含む。


上記スキーム中、R3は、フッ素、塩素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基、R4は、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基、R5は、オニウムカチオンであり、nはオニウムカチオンR5の価数に相当し、1〜3の整数を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルオロスルホニルイミド類、詳しくは、N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド、ジ(フルオロスルホニル)イミド及びその塩等の誘導体、並びに、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドや、ジ(フルオロスルホニル)イミド等のフルオロスルホニルイミドやその塩などのフルオロスルホニルイミド類は、N(SO2F)基又はN(SO2F)2基を有する化合物の中間体として有用であり、また、電解質や、燃料電池の電解液への添加物や、選択的求電子フッ素化剤、光酸発生剤、熱酸発生剤、近赤外線吸収色素等として使用されるなど、様々な用途において有用な化合物である。
【0003】
例えば上記ジ(フルオロスルホニル)イミドは、従来、フッ素化剤を使用して、ジ(クロロスルホニル)イミドをハロゲン交換反応することにより調製されてきた。例えば、非特許文献1では、三フッ化ヒ素(AsF3)、非特許文献2では、三フッ化アンチモン(SbF3)がフッ素化剤として用いられており、また、特許文献1では、KFやCsFなどの1価カチオンのイオン性フルオリドをフッ素化剤として用いて、ジ(クロロスルホニル)イミドをフッ素化する方法が記載されている。また、特許文献2には、尿素の存在下で、フルオロスルホン酸(HFSO3)を蒸留することによってジ(フルオロスルホニル)イミドを調製する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2004−522681号公報
【特許文献2】特表平8−511274号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】John K. RuffおよびMax Lustig、Inorg.Synth. 11,138-140 (1968年)
【非特許文献2】Jean’ne M. Shreeveら、Inorg. Chem. 1998, 37 (24), 6295-6303
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、フッ素化剤としてAsF3を使用する場合、生成物からの分離が困難な副生成物の発生が避け難く、また、AsF3は比較的高価であるといった問題がある。なお、AsF3に換えてSbF3を用いることで副生成物の問題は解消されるが、これらAs,Sbはいずれも高い毒性を有する元素であるので、できるだけ使用を控えることが望まれている。また、特許文献2に記載の方法では、反応時にフッ化水素が生じる。フッ化水素は、毒性および腐食性が強い物質であるため、これが生成物中に含まれていると、反応装置はもとより、ジ(フルオロスルホニル)イミドを塩として各種用途に用いる際に、周辺部材を腐食させてしまう虞がある。したがって、このような物質が副生しないようなジ(フルオロスルホニル)イミド類の製造方法が求められている。
【0007】
さらに、特許文献1に記載の製造方法では、反応に長時間を要するといった問題があった。
【0008】
本発明は、これらの事情に着目してなされたもので、その目的は、副生成物の生成が抑制され、より安全に、速やかに、且つ、効率良く、N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドおよびジ(フルオロスルホニル)イミドやこれらの塩等のフルオロスルホニルイミド類が得られる製造方法、および、フルオロスルホニルイミド類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決した本発明の製造方法とは、下記スキームで示されるフルオロスルホニルイミド塩の製造方法であって、下記スキーム中一般式(I)で表される化合物とオニウム塩とを反応させて一般式(II)で表されるクロロスルホニルイミドのオニウム塩を得る工程と、上記クロロスルホニルイミドのオニウム塩と、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物とを反応させて一般式(III)で表される化合物を得る工程とを、この順で含むところに特徴を有している。
【0010】
【化1】

【0011】
上記スキーム中の式(I)または式(II)において、R3は、フッ素、塩素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基、式(III)のR4は、フッ素またはフッ化アルキル基、式(II)、式(III)のR5は、オニウムカチオンであり、nはオニウムカチオンR5の価数に相当し、1〜3の整数を示す。
【0012】
上記フッ化物はCu,Zn,Biよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むものであるのが好ましく、上記一般式(I)で表される化合物は、出発原料として塩化シアン(CNCl)又はアミド硫酸(HSO3NH2)を用いて得られたものであるのが望ましい。
【0013】
上述の方法により得られた一般式(III)で表される化合物を、さらに、アルカリ金属塩と反応させ、下記一般式(VII)で表される化合物を得る工程を含むのが好ましい。
【0014】
【化2】

【0015】
式(VII)中、R2はアルカリ金属、R4は、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基を示し、lは1である。
【0016】
上述の製造方法により得られ、上記スキーム中の式(III)で表されるフルオロスルホニルイミド塩、および、一般式(III)とアルカリ金属塩との反応生成物であるフルオロスルホニルイミド塩(VII)も本発明に含まれる。
【0017】
なお、本明細書において「フルオロスルホニルイミド」という表現は、特に言及しない限り、フルオロスルホニル基を2つ有するジ(フルオロスルホニル)イミドと、フルオロスルホニル基と、フルオロアルキルスルホニル基を有するN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドを意味するものとする。また、「クロロスルホニルイミド」についても同様である。上記「フルオロアルキル」とは、炭素数1〜6のアルキル基において、1以上の水素原子がフッ素原子で置換されたフッ化アルキル基を意味し、例えば、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基等が含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、クロロスルホニルイミドをオニウム塩とした後にフッ素化反応を行うため、発熱が抑えられ、より安全にフッ素化反応を進行させることができる。また、反応溶媒を適切に選択することで、フッ素化反応で生成する金属塩を容易に除去でき、溶媒の除去も効率よく行えるため、精製工程の作業性が向上する。さらに、本発明によれば、アンチモン(Sb)や砒素(As)など、毒性が高く、高価なフッ素化剤を使用しなくても、副生成物の生成が抑制され、従来法に比べて効率よく、N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド、並びに、ジ(フルオロスルホニル)イミド、及び、その塩が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の製造方法とは、下記スキームで示されるジ(フルオロスルホニル)イミド塩及びN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩等のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法であって、下記スキーム中一般式(I)で表される化合物とオニウム塩とを反応させて一般式(II)で表されるクロロスルホニルイミドのオニウム塩を得る工程と、上記クロロスルホニルイミドのオニウム塩と、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物とを反応させて一般式(III)で表される化合物を得る工程、をこの順で含むところに特徴を有する。
【0020】
【化3】

【0021】
なお、上記スキーム1中、R3は、フッ素(F)、塩素(Cl)又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基、R4は、フッ素又はフッ化アルキル基、R5は、オニウムカチオン、nはオニウムカチオンR5の価数に相当し、1〜3の整数を示す。
【0022】
以下、本発明の製造方法について、詳細に説明する。まず、本発明の製造方法では、上記スキーム1中、一般式(I)で表される化合物と、オニウム塩とを反応させて、一般式(II)で表される化合物(クロロスルホニルイミドのオニウム塩)を得る。
【0023】
上記一般式(I)で表される化合物としては、R3が、フッ素、塩素、又は、炭素数1〜6のフッ化アルキル基である化合物が挙げられる。上記フッ化アルキル基の炭素数は1〜4であるのが好ましく、より好ましくは1〜2である。具体的なフッ化アルキル基としては、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、ペンタフルオロエチル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、ペルフルオロ−n−プロピル基、フルオロプロピル基、ペルフルオロイソプロピル基、フルオロブチル基、3,3,4,4,4−ペンタフルオロブチル基、ペルフルオロ−n−ブチル基、ペルフルオロイソブチル基、ペルフルオロ−t−ブチル基、ペルフルオロ−sec−ブチル基、フルオロペンチル基、ペルフルオロペンチル基、ペルフルオロイソペンチル基、ペルフルオロ−t−ペンチル基、フルオロヘキシル基、ペルフルオロ−n−ヘキシル基、ペルフルオロイソヘキシル基等が挙げられる。これらの中でも、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペルフルオロ−n−プロピル基が好ましく、より好ましいのはトリフルオロメチル基及びペンタフルオロエチル基である。
【0024】
上記一般式(I)で表される化合物は、市販のものを用いてもよいが、塩化シアン(CNCl)を出発原料として合成することもできる(スキーム2)。
【0025】
【化4】


式(I)中のR3は上述の通りである。
【0026】
例えば、式(I)において、R3が塩素であるジ(クロロスルホニル)イミドを合成する場合には、塩化シアンに、無水硫酸(SO3)とクロロスルホン酸とを反応させればよい。この際、まず、塩化シアンと無水硫酸とを反応させる(スキーム2、化合物(IV)→化合物(V))。これら出発原料の配合割合は、1:0.5〜1:10(塩化シアン:無水硫酸、モル比)とするのが好ましい。より好ましくは1:1〜1:5である。
【0027】
塩化シアンと無水硫酸とを反応させる際の条件は特に限定されず、反応の進行状態に応じて適宜調整することができる。例えば、反応温度は0℃〜100℃とするのが好ましく(より好ましくは10℃〜50℃)、反応時間は0.1時間〜48時間(より好ましくは1時間〜24時間)とすればよい。反応は無溶媒で行うことが好ましいが、必要に応じて溶媒を使用してもよい。溶媒としては後述する非プロトン性溶媒が使用するのが好ましい。
【0028】
次いで、得られたクロロスルホニルイソシアネート(ClSO2NCO、上記式(V))を、クロロスルホン酸と反応させることでジ(クロロスルホニル)イミド(上記式(I)、R3はCl)が得られる。クロロスルホニルイソシアネート(化合物(V))とクロロスルホン酸との配合割合は、1:0.5〜1:2(クロロスルホニルイソシアネート:クロロスルホン酸、モル比)とするのが好ましく、より好ましくは1:0.8〜1:1.2である。
【0029】
尚、クロロスルホニルイソシアネートとクロロスルホン酸との反応は、不活性ガス雰囲気下、50℃〜200℃(より好ましくは70℃〜180℃)で、0.1時間〜48時間(より好ましくは1時間〜24時間)行えばよい。クロロスルホン酸は液状であり、合成反応中は溶媒としても機能するが、必要に応じて、他の溶媒を用いてもよい。
【0030】
また、上記一般式(I)においてR3が炭素数1〜6のフッ化アルキル基であるN−(クロロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドは、クロロスルホニルイソシアネートとフッ化アルキルスルホン酸との反応、あるいは、フッ化アルキルスルホニルイソシアネートとクロロスルホン酸との反応により得られる。好ましい化合物としては、トリフルオロメタンスルホン酸が挙げられる。
【0031】
クロロスルホニルイソシアネート(化合物(V))とフッ化アルキル化合物との配合比は、1:0.5〜1:2(クロロスルホニルイソシアネート:フルオロアルキル化合物、モル比)とするのが好ましく、より好ましくは1:0.8〜1:1.2である。反応条件は、ジ(クロロスルホニル)イミドを合成する際と同様の条件が採用できる。
【0032】
なお、上記式(I)においてR3がフッ素であるN−(クロロスルホニル)−N−(フルオロスルホニル)イミドは、クロロスルホニルイソシアネートとフルオロスルホン酸との反応、あるいは、フルオロスルホニルイソシアネートとクロロスルホン酸との反応により得られる。出発原料の配合量および反応条件は、ジ(クロロスルホニル)イミドの場合と同様の条件が採用できる。
【0033】
さらに、上記ジ(クロロスルホニル)イミドは、アミド硫酸と塩化チオニルとを反応させた後、さらにクロロスルホン酸を反応させることでも合成することができる(例えば、Z. Anorg. Allg. Chem 2005, 631, 55-59参照)。
【0034】
【化5】

【0035】
アミド硫酸と塩化チオニルの配合割合は、1:1〜1:20(アミド硫酸:塩化チオニル、モル比)とするのが好ましく、より好ましくは1:2〜1:10である。また、クロロスルホン酸の配合割合は、アミド硫酸に対して1:0.5(アミド硫酸:クロロスルホン酸、モル比)とするのが好ましく、より好ましくは1:1〜1:5である。
【0036】
アミド硫酸に、塩化チオニル、クロロスルホン酸を反応させる際の条件は特に限定されず、反応の進行状況に応じて適宜調整すればよい。例えば、反応温度は0℃〜200℃とするのが好ましく、より好ましくは50℃〜150℃であり、又、この温度範囲内で段階的に温度を上昇させながら反応を行っても良い。反応時間は0.1時間〜100時間とするのが好ましく、より好ましくは1〜50時間である。反応は無溶媒で行うことが好ましいが、必要に応じて溶媒を用いてもよい。
【0037】
次いで、得られた化合物(I)を、オニウム塩と反応させて、一般式(II)で表される化合物(クロロスルホニルイミドのオニウム塩)を得る。Clのフッ素化に先立って、クロロスルホニルイミド類をオニウム塩としておくことで、プロトンを有する場合、すなわちイミド体のままの場合に比べて、フッ素化反応時の発熱を抑制できる。
【0038】
上記オニウム塩としては、下記一般式(VI)で表されるオニウムカチオンとアニオンとからなる塩を用いるのが好ましい。アニオンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲンイオン、水酸化物イオン、炭酸イオン及び炭酸水素イオン等が好ましいアニオンとして挙げられる。
【0039】
【化6】

【0040】
(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表す。Rは、同一若しくは異なって、水素又は有機基であり、これらは2以上が互いに結合していてもよい。sは、2、3又は4であり、元素Lの価数によって決まる値である。尚、L−R間の結合は、単結合であっても良く、また二重結合であってもよい。)
上記一般式(VI)で表されるオニウムカチオンとしては、具体的には、下記一般式で表される構造を有するものが挙げられる。尚、式中Rは、一般式(VI)と同様である。
【0041】
【化7】

【0042】
これらのオニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。上記構造を有するオニウムカチオンの中でも、好ましいものとしては、下記(1)〜(4)のオニウムカチオンが挙げられる。
【0043】
(1)下記一般式で表される9種類の複素環オニウムカチオンの内の1種。
【0044】
【化8】

【0045】
(2)下記一般式で表される5種類の不飽和オニウムカチオンの内の1種。
【0046】
【化9】

【0047】
(3)下記一般式で表される10種類の飽和環オニウムカチオンの内の1種。
【0048】
【化10】

【0049】
上記一般式中、R6〜R17は、同一若しくは異なって、水素又は有機基であり、これらは2以上が互いに結合していてもよい。
【0050】
(4)Rが、水素、または、炭素数1〜8のアルキル基である鎖状オニウムカチオン。中でも、一般式(VII)において、LがNであるものが好ましい。例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム及びNH4等のアンモニウム化合物等が挙げられる。これらの中でも、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムおよびジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムが好ましい鎖状オニウムカチオンとして挙げられる。
【0051】
上記(1)〜(4)のオニウムカチオンの中でも好ましいものは、下記一般式;
【0052】
【化11】

【0053】
(式中、R6〜R17は、上記と同様である。)で表される5種類のオニウムカチオン及び上記(4)の鎖状オニウムカチオンである。上記R6〜R17の有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1〜18の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基等が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基である。これらの有機基は、水素原子、フッ素原子、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基や、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等を含んでもよい。より好ましくは、水素原子、フッ素原子、シアノ基及びスルホン基等のいずれか1種以上を有するものである。なお、2以上の有機基が結合している場合は、当該結合は、有機基の主骨格間に形成されたものでも、また、有機基の主骨格と上述の置換基との間、あるいは、上記置換基間に形成されたものであっても良い。
【0054】
上記スキーム1の化合物(I)から(II)への反応において、一般式(I)で表される化合物と、オニウム塩との配合割合は、1:0.5〜1:10(モル比)とするのが好ましい。より好ましくは1:1〜1:5である。プロトンからオニウムカチオンへの交換反応は、一般式(I)で表されるクロロスルホニルイミド類と上記オニウム塩とを、溶媒の存在下、混合すればよい。この際の温度としては、0℃〜200℃(より好ましくは1℃〜100℃)であり、0.1時間〜48時間(より好ましくは0.1時間〜24時間)反応させればよい。溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、メチルホルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン、バレロニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒が使用できる。精製時の作業性からは、沸点が低く、水と2層状態を形成し得る溶媒が好ましく、上記例示の溶媒の中でも、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及び酢酸ブチルが好ましい。
【0055】
次いで、得られた一般式(II)で表されるクロロスルホニルイミドのオニウム塩と、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物とを反応させて、一般式(III)で表される化合物を得る(スキーム1、化合物(II)→化合物(III))。
【0056】
上記第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物としては、上記元素の中でも2価以上の陽イオンとなる元素を含むものが好ましい。具体的には、Cu,Zn,Sn,Pbなどの2価の陽イオンとなる元素、Biなどの3価の陽イオンとなる元素を含むものが好ましいフッ化物として挙げられる。より好ましいフッ化物としては、CuF2、ZnF2、SnF2、PbF2およびBiF3が挙げられ、より一層好ましくはCuF2、ZnF2、BiF3であり、さらに好ましくはZnF2である。
【0057】
一般式(II)で表されるクロロスルホニルイミドのオニウム塩と上述のフッ化物との配合比は、ジ(クロロスルホニル)イミド(化合物(II))と、2価のフッ化物とを反応させる場合であれば1:0.8〜1:10(化合物(II):フッ化物、モル比)とするのが好ましく、より好ましくは1:1〜1:5であり、さらに好ましくは1:1〜1:2である。また、3価のフッ化物と反応させる場合であれば、1:0.5〜1:7とするのが好ましく、より好ましくは1:0.7〜1:3であり、さらに好ましくは1:0.7〜1:1.3である。一方、化合物(II)としてN−(クロロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドやN−(フルオロスルホニル)−N−(クロロスルホニル)イミドを用いる場合は、2価のフッ化物と反応させる際の配合比を1:0.4〜1:5(化合物(II):フッ化物、モル比)とするのが好ましい。より好ましくは1:0.5〜1:2.5であり、さらに好ましくは1:0.5〜1:1であり、3価のフッ化物と反応させる場合であれば、1:0.3〜1:3とするのが好ましく、より好ましくは1:0.3〜1:0.8であり、さらに好ましくは1:0.3〜1:0.7とするのが好ましい。フッ化物の配合量が少なすぎると、未反応のクロル体が残留する虞があり、一方、フッ化物の配合量が多すぎると未反応原料の除去が困難になるからである。
【0058】
化合物(II)から化合物(III)を得る際の反応条件は、反応の進行状態に応じて適宜調整すればよいが、好ましくは、反応温度を0℃〜200℃とし(より好ましくは10℃〜100℃)、反応時間を0.1時間〜48時間(より好ましくは1時間〜24時間)とすることが推奨される。
【0059】
反応溶媒は、出発原料が液状であり互いに溶解している場合には、必ずしも用いる必要はないが、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、メチルホルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン、バレロニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒を用いるのが好ましい。なお、フッ素化反応を円滑に進行させる観点からは極性溶媒を使用することが推奨され、上記例示の溶媒の中でも、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及び酢酸ブチルが好ましい。これらの溶媒を用いることで、副生する金属塩を効率よく除去できるからである。また、精製時の作業性からは、沸点が低く、水と2層状態を形成し得る溶媒が好ましい。
【0060】
上記式(III)で表されるジ(フルオロスルホニル)イミド又はN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドのオニウム塩は、常温で溶融した状態を安定に保つ常温溶融塩となり(例えば、100℃以下で液体の状態をとる)、長期間の使用に耐える電気化学デバイスのイオン伝導体の材料、すなわち、リチウム二次電池、キャパシタ、イオン性液体などの電解液に溶解させる電解質として有用である。
【0061】
さらに、上記式(III)で表されるフルオロスルホニルイミドのオニウム塩は、適当な塩と反応させることで、式(III)中、R5で示されるオニウムカチオンを交換することができ、これにより、化合物(VII)が得られる。
【0062】
【化12】

【0063】
上記(VII)式中、R2は、Li,Na,K,Rb,Csなどのアルカリ金属であるのが好ましい。さらに好ましくはLiである。また、R4は、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基を示し、lは1である。上記カチオン交換反応により得られる化合物(VII)であるジ(フルオロスルホニル)イミド及びN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドのアルカリ金属塩も、リチウム二次電池、キャパシタ、イオン性液体等の電解液に溶解させる電解質として好適である。
【0064】
化合物(III)から化合物(VII)へのカチオン交換反応としては、所望のカチオンを含む塩と化合物(III)とを反応させる方法、化合物(III)を陽イオン交換樹脂と接触させる方法などが挙げられる。R2がアルカリ金属の化合物(VII)を与える化合物(塩)としては、LiOH,NaOH,KOH,RbOH,CsOH等の水酸化物,Na2CO3,K2CO3,Rb2CO3,Cs2CO3等の炭酸塩,LiHCO3,NaHCO3,KHCO3,RbHCO3,CsHCO3等の炭酸水素化物,LiCl,NaCl,KCl,RbCl,CsCl等の塩化物,LiF,NaF,KF,RbF,CsF等のフッ化物、CH3OLi、Et2OLi等のアルコキシド化合物、及び、EtLi、BuLiおよびt−BuLi(尚、Etはエチル基、Buはブチル基を示す)等のアルキルリチウム化合物が挙げられる。
【0065】
この際、必要に応じて溶媒を使用してもよく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、メチルホルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン、バレロニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒が好適である。上記例示の溶媒の中でも、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及び酢酸ブチルが好ましい。上記化合物(I)から(III)への反応、および、化合物(III)から(VII)への反応を溶媒を変更することなく、同一の溶媒で行うことがきるからである。
【0066】
化合物(III)とアルカリ金属塩との配合比は、1:1〜1:10(化合物(III):上述の塩、モル比)とするのが好ましい。より好ましくは1:1〜1:5であり、さらに好ましくは1:1〜1:3である。
【0067】
反応時間および反応温度は特に限定されないが、0℃〜200℃(より好ましくは10℃〜100℃)、0.1時間〜48時間(より好ましくは1時間〜24時間)とすることが推奨される。
【0068】
陽イオン交換樹脂としては、強酸性の陽イオン交換樹脂を用いるのが好ましい。展開溶媒としては、水が挙げられる。
【0069】
陽イオン交換樹脂を使用する場合、まず、公知の方法で陽イオン交換樹脂のカチオンを所望のカチオンに置換した後、これをカラムに充填し、水に溶解させた上記式(III)の水溶液をカラム中に通液させることで、所望のカチオンに交換された上記式(VII)を含む水溶液が得られる。
【0070】
本発明の製法により得られるジ(フルオロスルホニル)イミド及びN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド等のフルオロスルホニルイミド類のオニウム塩は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられる。また、上記フルオロスルホニルイミド類のオニウム塩から誘導されるフルオロスルホニルイミド類のアルカリ金属塩およびフルオロスルホニルイミドは、リチウム二次電池、キャパシタ、イオン性液体などの電解液に溶解させる電解質あるいはその中間体などとして有用である。
【0071】
なお、本発明に係るジ(フルオロスルホニル)イミド塩又はN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩を電解液材料として用いる場合、電解液材料としては、更に、アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含んでなるものが好ましい。この場合、上記アルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩は、本発明に係るジ(フルオロスルホニル)イミド又はN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドをアニオンとする化合物であってもよいし(上記式(VII)で表される化合物)、あるいは、これとは別に添加される化合物であってもよい。このようなアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を含んでなる電解液用材料は、電解質を含有するものとなるので、電気化学デバイスの電解液の材料として好適なものとなる。アルカリ金属塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩が好適であり、アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩、マグネシウム塩が好適である。より好ましくは、リチウム塩である。
【実施例】
【0072】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより以下の実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0073】
合成例1 クロロスルホニルイソシアネートの合成
攪拌器、温度計、還流管、ガス導入管を取り付けた200mlの反応容器に、液体無水硫酸(SO3)80.1g(1.0mol)を入れ、ここに、25℃〜35℃の温度下で、塩化シアンガス(CNCl)61.5g(0.53mol)を2時間かけて導入した後、反応溶液を25℃〜30℃に調整して、0.5時間攪拌した。反応終了後、還流管およびガス導入管を反応容器から外し、常圧で蒸留し、106℃〜107℃の留分として無色透明液体を得た(118.5g、0.83mol、収率83.7%)。
【0074】
合成例2 ジ(クロロスルホニル)イミドの合成
攪拌器、温度計、還流管、滴下装置を取り付けた500mlの反応容器に、クロロスルホン酸(ClSO3H)148.7g(1.28mol)を加え、120℃まで加熱した。ついで、合成例1と同様の方法で得られたクロロスルホニルイソシアネート180.4g(1.27mol)を滴下装置から反応容器内へ2時間かけて加えた後、混合溶液を150℃に加熱し、6時間攪拌した。反応終了後、還流管および滴下装置を反応容器から外し、減圧蒸留を行い、104〜106℃(0.3kPa)の留分として、無色透明の液状物を得た(収量:178.4g、0.83mol、収率65.6%)。
【0075】
同定は、IR(Varian 2000 FT-IR、バリアン社製、液膜法)により行い、ジ(クロロスルホニル)イミドであることを確認した。
IR(neat):νs (N-H)3155,νas (S-O)1433,1428、νs (S-O)1183、νs (N-S)824cm-1
【0076】
合成例3
合成例3−1 クロロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
20mlの反応容器に、合成例2で得られたジ(クロロスルホニル)イミド2.09g(9.8mmol)、酢酸ブチル4.2gを加え、攪拌した。さらに、ここにトリエチルアミン0.99g(9.8mmol)を加え、室温(25℃)で1時間攪拌した。得られた反応溶液を、1H-NMR(「Unity plus 400型」、バリアン社製、内部標準物質:テトラメチルシラン、積算回数:32回)で分析し、トリエチルアンモニウムジ(クロロスルホニル)イミドが生成していることを確認した。
1H-NMR(CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(t、9H)
【0077】
合成例3−2 フルオロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
合成例3−1で得られたクロロスルホニルイミドのオニウム塩の溶液に、ZnF21.02g(9.9mmol)を加え、室温(25℃)で3時間反応を行った。その後、100mlの分液ロートに反応溶液を移し、酢酸ブチル12.5gを加えて反応溶液を希釈した。次いで、ここに蒸留水1.9gを加えて混合した後、水相を除去する分液操作を4回行った。生成物を19F-NMR(「Unity plus 400型」、バリアン社製、内部標準物質:トリフルオロメチルベンゼン、積算回数:32回)及び1H-NMR(合成例3−1と同様)で分析し、得られたチャートのピーク面積を計測し、塩素からフッ素への変換割合を定量した結果、トリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.83g、6.5mmol)。
19F-NMR (CD3CN):δ56.0
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0078】
合成例3−3 リチウム塩の合成(カチオン交換反応)
100mlの分液ロートに、合成例3−2で得られたトリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドを含む溶液を移し、水酸化リチウム一水和物0.82g(19.5mmol)を蒸留水4.92gに溶解した水溶液を加え、混合した。分液操作により水相を除去した。同様の操作を2回繰り返し行った。得られた有機相から溶媒を蒸発させ乾固することにより、生成物を得た。1H-NMRの分析においてトリエチルアンモニウム由来のピークが消失していたことにより、リチウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した。(収量:0.79g、4.2mmol)。
【0079】
合成例4
合成例4−1 ジ(クロロスルホニル)イミドのオニウム塩の合成
50mlの反応容器に、合成例2で得られたジ(クロロスルホニル)イミド2.00g(9.3mmol)と、バレロニトリル18gを加え、攪拌した。ここにトリエチルアミン0.95g(9.4mmol)を加え、さらに攪拌した。得られた反応溶液を1H-NMRで分析したところ、トリエチルアンモニウムジ(クロロスルホニル)イミドが生成していることを確認した。
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0080】
合成例4−2 フルオロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
合成例4−1で得られた反応溶液に、ZnF20.97g(9.4mmol)を加え、室温(25℃)で3時間反応を行った。その後、100mlの分液ロートに反応溶液を移し、水1.9gを加え、混合した後、分液操作により水相を除去した。この操作を4回行い、得られた有機相を19F-NMR及び1H-NMRで分析し、トリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.30g、4.6mmol)。
19F-NMR (CD3CN):δ56.0
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0081】
合成例4−3 リチウム塩の合成(カチオン交換反応)
100ml分液ロートに、合成例4−2で得られた有機相を移し、水酸化リチウム一水和物0.58g(13.8mmol)を蒸留水3.5gに溶解した水溶液を加え、混合した。その後、分液操作により水相を除去し、得られた有機相から溶媒を蒸発させ乾固して、生成物を得た。1H-NMR分析においてトリエチルアンモニウム由来のピークが消失していたことにより、リチウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:0.77g、4.1mmol)。
19F-NMR (CD3CN):δ56.0
【0082】
合成例3、4の結果より、本発明法によれば、従来に比べて安価なフッ素化剤を用いて、効率よくクロロスルホニルイミドのフッ素化を行えることがわかる。また、本発明法は、フッ素化とカチオン交換反応とが、同一の反応溶媒で行え、また、精製も分液操作のみでよいため、作業性に優れるものである。
【0083】
比較合成例1 ジ(フルオロスルホニル)イミドの合成
20mlの反応容器に、ジ(クロロスルホニル)イミド3.09g(14.4mmol)、アセトニトリル6.18gを加え、攪拌した。ここに、フッ化カリウム3.57g(61.5mmol)を加え、室温(25℃)で24時間反応を行った。反応溶液を濾過し、濾物をアセトニトリル5gで洗浄した後、ろ液と洗浄液とを併せた溶液を合成例3と同様にして19F-NMRで分析した結果、塩素からフッ素への転化率は3%であり、原料の大部分がフッ素化されず、ジ(クロロスルホニル)イミドのままであることが確認された。
19F-NMR(CD3CN):δ55.9
【0084】
合成例5 N−(クロロスルホニル)−N−(トリフルオロメチルスルホニル)イミドの合成
攪拌器、温度計、還流管及び滴下装置を取り付けた500mlの反応容器に、トリフルオロメタンスルホン酸(CF3SO3H)190.6g(1.27mol)を加え、120℃まで加熱した。次いで、合成例1と同様の手法で得られたクロロスルホニルイソシアネート179.7g(1.27mol)を滴下装置から反応容器内へ2時間掛けて加えた後、混合溶液を150℃に加熱し、6時間攪拌した。反応終了後、還流管、滴下装置を反応容器からはずし、減圧蒸留を行い、無色透明の液状物を得た(収量:212.9g、0.86mol、収率67.7%)。
【0085】
19F-NMR測定により、生成物がN−(クロロスルホニル)−N−(トリフルオロメチルスルホニル)イミドであることを確認した。
【0086】
合成例6
合成例6−1 オニウム塩の合成
50mlの反応容器に、合成例5で得られたN−クロロスルホニル−N−(トリフルオロメチルスルホニル)イミド2.00g(8.1mmol)と、酢酸ブチル18gを加え、攪拌した。ここにトリエチルアミン0.82g(8.1mmol)を加え、室温(25℃)で1時間攪拌した。得られた反応溶液を1H-NMRで分析し、トリエチルアンモニウムN−(クロロスルホニル)−N−(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが生成していることを確認した。
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0087】
合成例6−2 フルオロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
合成例6−1で得られた反応溶液にZnF20.88g(8.5mmol)を加え、室温(25℃)で3時間反応を行った。その後、100mlの分液ロートに反応溶液を移し、水1.9gを加え、混合した後、水相を除去する分液操作を4回行った。得られた反応溶液を19F-NMR及び1H-NMRで分析し、トリエチルアンモニウム−N−(フルオロスルホニル)−N−(トリフルオロメチルスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.63g、4.9mmol)。
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0088】
合成例7
合成例7−1 オニウム塩の合成
50mlの反応容器に、合成例2で得られたジ(クロロスルホニル)イミド2.00g(9.3mmol)、酢酸ブチル18gを加え、攪拌した。さらに、ここにトリエチルアミン0.94g(9.3mmol)を加え、攪拌した。得られた反応溶液を1H-NMRで分析し、トリエチルアンモニウムジ(クロロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.47g、5.2mmol)。
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0089】
合成例7−2 フルオロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
次いで、合成例7−1で得られた反応溶液に、CuF21.00g(0.98mmol)を加え、室温(25℃)で3時間反応を行った。
【0090】
その後、100mlの分液ロートに反応溶液を移し、ここに蒸留水1.9gを加えて混合した後、水相を除去する分液操作を4回行った。得られた有機相から酢酸ブチルを留去し油状黄色の生成物を得た。生成物を19F-NMR及び1H-NMRで分析し、トリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.47g、5.2mmol)。
19F-NMR (CD3CN):δ56.0
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0091】
合成例8
合成例8−1 オニウム塩の合成
50mlの反応容器にジ(クロロスルホニル)イミド2.00g(9.3mmol)と、酢酸ブチル18gを加え、攪拌した。ここにトリエチルアミン0.94g(9.3mmol)を加え、攪拌した。得られた反応溶液を1H-NMRで分析したところ、トリエチルアンモニウムジ(クロロスルホニル)イミドが生成していることを確認した。
【0092】
合成例8−2 フルオロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
合成例8−1で得られた反応溶液に、BiF31.66g(6.2mmol)を加え、室温(25℃)で3時間反応を行った。
【0093】
その後、100mlの分液ロートに反応溶液を移し、蒸留水1.9gを加え、混合した後、水相を除去する分液操作を4回行った。得られた有機相を19F-NMR及び1H-NMRで分析し、トリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.36g、4.8mmol)。
19F-NMR (CD3CN):δ56.0
1H-NMR (CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0094】
合成例7および8の結果より、Zn以外の第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)を有するフッ化物を用いた場合であっても、クロロスルホニルイミドのフッ素化が速やかに進行し、効率よく、また、副生成物も生成することなく、フルオロスルホニルイミド類が得られることが分かる。
【0095】
合成例9 リチウム塩の合成
合成例3−2と同様の方法で得られたトリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドを酢酸ブチルに溶解させて濃度7.7%に調製した溶液を1688g量り取り(0.46mol)、これを3Lの分液ロートに加えた。ここに、348gの超純水に溶解した水酸化リチウム58g(1.38mol)を加え、混合した後、水相を除去した。目的物の生成は、19F-NMR及び1H-NMRによる分析で、トリエチルアンモニウム由来のピークが消失したことにより確認した。
【0096】
次いで、反応溶液を50℃で減圧乾燥して、リチウムジ(フルオロスルホニル)イミド80g(0.43mol)を得た。
【0097】
合成例10 ジ(クロロスルホニル)イミドの合成
攪拌器、温度計、還流管を取り付けた500mlの反応容器に、アミド硫酸48.5g(0.5mol)、塩化チオニル178.5g、クロロスルホン酸を加え、この混合溶液を、攪拌下、70℃で4時間、130℃で20時間反応させた。反応終了後、還流管を反応容器から外し、減圧蒸留を行い、104℃〜105℃の留分として無色透明の液状物を得た(収量:102.7g、0.48mol、収率96%)。
【0098】
同定は、IR(Varian 2000 FT-IR、バリアン社製、液膜法)により行い、ジ(クロロスルホニル)イミドであることを確認した。
IR(neat):νs (N-H)3155,νas (S-O)1433,1428、νs (S-O)1183、νs (N-S)824cm-1
【0099】
合成例11
合成例11−1 クロロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
20mlの反応容器に、合成例2で得られたジ(クロロスルホニル)イミド2.09g(9.8mmol)、酢酸ブチル4.2gを加え、攪拌した。さらに、ここにトリエチルアミン塩酸塩1.35g(9.8mmol)を加え、室温(25℃)で1時間攪拌した。得られた反応溶液を、合成例3−1と同様の条件出1H-NMR分析を行い、トリエチルアンモニウムジ(クロロスルホニル)イミドが生成していることを確認した。
1H-NMR(CD3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
【0100】
合成例11−2 フルオロスルホニルイミドのオニウム塩の合成
合成例11−1で得られたクロロスルホニルイミドのオニウム塩の溶液に、ZnF21.02g(9.9mmol)を加え、室温(25℃)で3時間反応を行った。その後、100mlの分液ロートに反応溶液を移し、酢酸ブチル12.5gを加えて反応溶液を希釈した。次いで、ここに蒸留水1.9gを加えて混合した後、水相を除去する分液操作を4回行った。生成物を合成例3−2と同様の条件で19F-NMR及び1H-NMR(合成例3−1と同様)分析を行い、得られたチャートのピーク面積を計測し、塩素からフッ素への変換割合を定量した結果、トリエチルアンモニウムジ(フルオロスルホニル)イミドが生成していることを確認した(収量:1.82g、6.4mmol)。
19F-NMR (CD3CN):δ56.0
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明によれば、クロロスルホニルイミドをオニウム塩とした後にフッ素化反応を行うため、発熱が抑えられ、より安全にフッ素化反応を進行させることができる。また、反応溶媒を適切に選択することで、フッ素化反応で生成する金属塩を容易に除去でき、溶媒の除去も効率よく行えるため、精製工程の作業性が向上する。さらに、本発明によれば、アンチモン(Sb)や砒素(As)など、毒性が高く、高価なフッ素化剤を使用しなくても、副生成物の生成が抑制され、従来法に比べて効率よく、N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドやジ(フルオロスルホニル)イミド及びその有機塩ならびに金属塩類が得られる。また、本発明法により得られるフルオロスルホニルイミド類は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記スキームで示されるフルオロスルホニルイミド塩の製造方法であって、
下記スキーム中一般式(I)で表される化合物とオニウム塩とを反応させて一般式(II)で表されるクロロスルホニルイミドのオニウム塩を得る工程、
上記クロロスルホニルイミドのオニウム塩と、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素(但し、砒素およびアンチモンは除く)よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物とを反応させて一般式(III)で表される化合物を得る工程、
をこの順で含むことを特徴とするフルオロスルホニルイミド塩の製造方法。
【化1】

上記スキーム中、R3は、フッ素、塩素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基、R4は、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基、R5は、オニウムカチオンであり、nはオニウムカチオンR5の価数に相当し、1〜3の整数を示す。
【請求項2】
上記フッ化物がCu,Zn,Biよりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むものである請求項1に記載のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法。
【請求項3】
上記一般式(I)で表される化合物が、出発原料として塩化シアンを用いて得られたものである請求項1または2に記載のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法。
【請求項4】
上記一般式(I)で表される化合物が、出発原料としてアミド硫酸を用いて得られたものである請求項1または2に記載のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の方法で得られた上記一般式(III)で表される化合物を、さらに、アルカリ金属塩と反応させて、下記一般式(VII)で表される化合物を得る工程を含む請求項1〜4のいずれかに記載のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法。
【化2】


式(VII)中、R2はアルカリ金属、R4は、フッ素又は炭素数1〜6のフッ化アルキル基を示し、lは1である。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られることを特徴とするフルオロスルホニルイミド塩。
【請求項7】
請求項5に記載の製造方法により得られることを特徴とするフルオロスルホニルイミド塩。

【公開番号】特開2010−168308(P2010−168308A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−12345(P2009−12345)
【出願日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】