説明

フレキシブルガスバリアフィルムおよびその製造方法

【課題】フィルム上に形成されたポリマー膜の孔や凹部等の欠陥の発生を防止し、表面を平滑にすることが可能でかつ、大型真空装置を必要としない樹脂基材を用いた基板の製造方法を提供する。さらに加えて、ガスバリア性が高く、耐候性にも優れ、クラックの発生しにくいフレキシブルな基板を提供する。
【解決手段】樹脂基材2上にシラザン骨格を基本ユニットとするポリマーを塗工して膜厚250nm以下のポリマー膜3を形成する第一ステップと、形成された膜3に真空紫外光を照射する第二ステップと、第一ステップ及び第二ステップを繰り返して、基材2上に膜3を重ねて積層してフレキシブルガスバリアフィルム1を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスバリア性(ガス遮断性)等の物性の優れたフレキシブルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ用基板、太陽光発電モジュール基板、サーキットボード用基板等の電子デバイスに使用される基板は、ガスバリア性、耐熱性や層間密着性等、物性の良いものが求められる。これまでは、基板用の基材としてSiウエハやガラスなど無機材料の硬い基材が使用されていたがディスプレイの軽量化、薄形化や有機ELへの用途拡大のため、従来のガラス等の無機基材からプラスチック等の樹脂基材へと移り変わりつつある。しかし、樹脂基材は、無機基材と比較した場合、一般にガスの透過度が高く、ガスバリア性が劣る。このため酸素が樹脂基材を透過して電子デバイス内に進入しやすく、酸素は拡散してデバイスを酸化して劣化させてしまうのでデバイスの寿命が問題となっている。したがって、樹脂基材を用いた基板は、電子デバイスの寿命を延ばすため、酸素や水蒸気等を遮断する高いガスバリア性が求められている。
また、ガスバリア性を有するフィルムは、太陽光発電モジュールの表面保護、屋外看板、道路標識など屋外に露出する表示物の保護膜として用いられることがある。このような保護膜として使用される場合、ガスバリア性に加え、耐候性を備えかつ軽量で安価なフィルムが望まれている。
【0003】
樹脂基材を用いた基板(以下フィルムということもある)のガスバリア性を向上させるために、樹脂基材上にシリカ等の無機化合物による膜を真空蒸着やCVD法により形成することが行われている。しかし、樹脂基板上に真空蒸着やCVD法によりポリシラザン等の膜を形成した場合、フィルム上には孔や凹部等の製造上の欠陥やクラック(割れ)が発生し易いことが指摘されている。
また、太陽光発電モジュールの表面保護層としては、耐候性、水蒸気バリア性と軽量化が特に要求される。具体的には、ガラス基板に無機化合物の膜を蒸着や水蒸気酸化と熱処理を施して耐候性を付加したものや、高温耐熱性と耐候性を有するフッ素フィルムに無機化合物の膜を焼成して耐候性を強化したものが知られているが、いずれも無機化合物膜は一層であった。
【0004】
特許文献1には、孔や凹部等の欠陥を解消したフィルムが開示されている。すなわち、樹脂基材上に真空蒸着やCVD法により無機化合物の膜を形成し、その上にゾルゲート層を積層して、さらにゾルゲート層の上に真空蒸着やCVD法により無機化合物の層を形成するフィルムの製造方法及び三層構造のフィルムが開示されている。
特許文献2には、透光性および耐熱性のある樹脂フィルム、ステンレス、ガラスなどの基板の一面にポリシラザン塗布層を設け、水蒸気酸化と熱処理を行ってシリカ膜を形成して得られたコーティング体を太陽光発電モジュールの表面保護層として用いることが開示されている。
特許文献3には、フッ素系樹脂フィルムの一面にポリシラザン塗布層を設け、焼成することで、酸化珪素および/または窒化珪素の透明薄膜を形成し、これを太陽光発電モジュールの表面保護層として用いることが開示されている。
【特許文献1】特開2005−288851号公報
【特許文献2】特開2001−111076号公報
【特許文献3】特開平9−199740号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、真空蒸着やCVD法により、樹脂基材上にシリカ等の無機化合物の膜を形成する場合、無機化合物の膜上に孔や凹部等の欠陥が生じたり、製造された基板にクラックが生じてしまうことがある。また、無機化合物の膜形成に大型の真空装置を必要とするので製造コストを低減することが難しいという問題がある。
また、水蒸気酸化と熱処理による方法、焼成による方法ともに基材には耐熱性が必要になる。このため、金属板、ガラス板を基材に用いることが一般的であり、樹脂フィルムを用いる場合には、耐熱性のある材料に限定される。金属板、ガラス板を基材に用いる場合には、軽量化が困難となる。
【0006】
樹脂フィルムを基材として用いる場合には、上述のように無機化合物の膜が一層しかなければ、クラックの発生が問題となるのでこれを抑える必要がある。前述の特許文献に記載されているように、樹脂基材上にポリシラザン等の無機化合物で膜を形成する場合、高いバリア性を付加するためには膜厚を1μm以上にする必要があり、膜厚が厚くなると、クラックが発生しやすくなってしまう。
【0007】
なお、特許文献1に記載されている方法により、フィルム最上層の膜上で孔や凹部等の欠陥の発生をある程度防ぐことができるが、中間層としてゾルゲート層のような緩衝層を必要とするので、ゾルゲート層を積層する工程が増え、またそのための装置を必要とする。また、異なった材質の層をサンドウィッチ状に積層しているので、層の剥離等の問題も起きてくる。
【0008】
本発明は、上記問題点に鑑み、フィルム上に形成されたポリマー膜の孔や凹部等の欠陥の発生を防止し、表面を平滑にすることが可能で、かつ、大型真空装置を必要としない樹脂基材を用いた基板の製造方法を提供することを一目的とする。さらに、ガスバリア性が高く、クラックの発生しにくいフレキシブルな基板、さらには、ガスバリア性、耐候性がありクラックの発生が起こりにくいフレキシブルで軽量なフィルムを提供することを更なる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前述した目的を達成するために、本発明者らは樹脂基材上に無機化合物の膜を形成する方法を鋭意検討した結果、フィルムにシラザン骨格を基本ユニットとするポリマーを塗工し、その表面に真空紫外光を照射して処理し、形成した膜を複数積層することにより、基板上に生ずる孔や凹部等の欠陥を防止でき、かつ得られた基板はクラックが発生しにくいことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明のフレキシブルガスバリアフィルムの製造方法は、樹脂基材上に、シラザン骨格を基本ユニットとするポリマー膜を塗工して膜厚250nm以下の膜を形成する第一ステップと、形成された膜に真空紫外光を照射する第二ステップと、第二ステップで形成された膜上に、第一ステップ及び第二ステップを繰り返して膜を重ねて形成する第三ステップとを含むことを特徴としている。
【0011】
また、本発明は、膜厚250nm以下のシラザン骨格を基本ユニットとするポリマー膜を塗工した後に真空紫外光を照射して形成された膜が樹脂基材上に二層以上積層され、水蒸気透過度が0.01g/m/日未満かつ酸素透過度が0.1ミリリットル/m/日未満であるフレキシブルガスバリアフィルムを提供する。さらには、ガスバリア性があり、かつ耐候性にも優れたフィルムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフレキシブルガスバリアフィルムの製造方法は、樹脂基材上にシラザン骨格を基本ユニットとするポリマーを塗工して膜を形成するので、真空蒸着やCVD法のような大型の真空装置を必要としない。
また、本発明の方法により得られるフレキシブルガスバリアフィルムは、ポリマー膜上に孔や凹部等の欠陥がなく表面が平滑であり、かつガスバリア性に優れているので基板として高品質を保つことができる。さらに、ポリマー膜の総膜厚を薄くできるのでフィルムのフレキシビリティが良好であり、クラックも生じにくく、基材とポリマー膜、そして層間の接着性も良好で膜や層の剥離も生ずることがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面に基づいて本発明を詳細に説明する。
【0014】
図1は本発明のフレキシブルガスバリアフィルムの断面を模式的に表わした図である。
【0015】
フィルム1は、樹脂基材2と、この樹脂基材2上に複数のシラザン骨格を基本ユニットとした膜が形成され、膜表面に真空紫外光が照射されて処理されている膜3が積み重なる構造を有する。なお、本図においては、便宜上、膜3の上部を破線で区分して表面4として示している。
【0016】
樹脂基材2の素材は用途に応じて選択すればよいが、例えば、液晶の基板に使用する場合、全光線透過率80%以上でガラス転移温度が150〜300℃のものが好ましい。例えばポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリサルホン(PSF)、ポリ(メタ)アリレート(PAR)、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルサルフォン(PES)、環状オリオレフィン共重合体であるポリノルボルネン、環状ポリオレフィン樹脂、ポリシクロヘキセン、ポリエーテルケトン(PEK)ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリシロキサン系、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロポレン−パーフロロビニルエーテル共重合体(EPA)等を挙げることができる。
【0017】
本発明のフレキシブルガスバリアフィルムの表面粗さは、シラザン骨格を基本ユニットとするポリマー膜を樹脂基材2上に塗工した後に真空紫外光で処理した膜を複数積み重ねているので、樹脂基材2に由来する表面粗さを修正し、滑らかにすることが可能である。しかし、樹脂基材2の表面粗さはなるべく小さいほうが望ましく、Ra値(JIS B060−1994)を12nm以下とすることが望ましい。
【0018】
シラザン骨格を基本ユニットとするポリマーは、(Si−N)で表わされるシラザン骨格を基本単位とする無機ポリマーであり、代表的なものは、側鎖が水素の−(SiHNH)−を基本ユニットするペルヒドロポリシラザン(以下、単にポリシラザンという)であり、本明細書中では以下、ポリマーとしてポリシラザンを例にして主に説明をする。
【0019】
膜3の積層は、シラザン骨格を基本ユニットとするポリマーを有機溶剤に溶解したものを、薄くて均一な膜となるように塗工した後、有機溶剤を除去してから真空紫外光を照射し、さらに、塗工と真空紫外光照射を複数回繰り返して二層以上の膜が樹脂基材2上に積み重ねられて形成される。
【0020】
ポリマー膜の厚さは、20nm〜250nm/膜、好ましくは、80nm〜250nm/膜、さらに好ましくは100nm〜250nm/膜の範囲である。80nm未満の場合、水蒸気透過度や酸素透過度が低くなるため、ガスバリア性が悪くなり、特に20nm未満では水蒸気透過度及び/又は酸素透過度が極端に劣るため、製品品質保持上問題が生じる。逆に250nmを超えるとフィルム1にクラックが発生し易くなるので好ましくない。なお、膜厚を100nm以下にする場合、樹脂基材2の表面粗さが悪いとフレキシブルガスバリアフィルムの表面粗さ及び/又はガスバリア性に悪影響を及ぼす場合がある。例えば、樹脂基材2のRa値が5nm以上の場合には、膜厚を100nmより厚くする、あるいは積層数を三層以上とする必要がある。
【0021】
ポリシラザンの塗工は、例えば、インクジェット法、スピンコート法、キャスティング法、マイクログラビアコート法、グラビアコート法、バーコート法、ロールコート法、ワイヤーバーコート法、ディップコート法、スプレーコート法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、オフセット印刷法、マイクロコンタクトプリンティング法、ダイコート法のような各種塗工法が挙げられ、これらのうち一種又は複数を組み合わせて用いることができる。
【0022】
なお、シラザン骨格を基本ユニットとするポリマーを溶解する有機溶剤は、樹脂基材2の濡れ指数(JIS K6768)や樹脂との適合性を考慮して選択すればよい。ポリシラザンの場合、キシレン、ジブチルエーテルやソルベッソを用いることが一般的である。ポリシラザンとキシレンを組み合わせた場合、樹脂基材2は濡れ指数が36以上のものを用いることが望ましい。
【0023】
膜3の表面には、真空紫外光が照射されている(図1では表面4として図示する)。真空紫外光の照射には、波長100〜200nmの真空紫外光を照射するものとし、例えば、真空紫外エキシマランプ照射を例として挙げることができ、ヒーターシートやハロゲンヒーター等による加熱処理を組み合わせることにより処理時間を短縮できる。
【0024】
ポリマーがポリシラザンの場合、真空紫外光を照射することにより、ポリシラザン膜の表面に存在するNがOに置き換わり、二酸化珪素からなるシリカ薄膜が形成されることが知られている。そして、シリカ薄膜が酸素や水蒸気を遮断する。
【0025】
しかし、従来の基板、すなわち、ポリマー膜が一層の場合、フィルムの水蒸気透過度(JIS K7129)を0.01g/m/day未満とするためには、膜厚を1μm以上にしなければならない。膜を厚くすると、フィルムのフレキシビリティ維持が困難になり、かつクラックが発生し易くなってしまう。
【0026】
本発明のフィルム1は、前述したように、厚さ20nm〜250nm/膜、好ましくは、100nm〜250nm/膜のポリマー膜の表面に真空紫外光を照射して処理した膜3が樹脂基材2上に二層以上積層した構造を有する。この構造とすることで、フィルム1上の層のトータルの厚さを1μmより薄くしても水蒸気透過度(JIS K7129)を0.01g/m/day未満のガスバリア性を長期間維持することが可能となり、さらにフレキシビリティを維持することができる。さらにまた、本発明のフィルム1の表面Ra値を1.5nm以下(10μm×10μm)にすることが可能となり、樹脂基材の表面Ra値の改善を図ることが可能である。
【0027】
また、上記構造はクラック発生を抑制することができる。クラック発生の原因は、ポリシラザン膜の真空紫外光照射で未反応のポリシラザンが、膜内に浸透した酸素や水蒸気によってSi−Oに変化し、膜体積が徐々に変化することで発生すると考えられる。
【0028】
膜3を二層以上にしたことで、上層の膜の体積が変化しても、下層がアンカー層として機能するためにクラックが発生しにくくなると考えられる。また、上層と下層の表面4が空気中の水分や酸素を遮断し、下層のポリシラザンはSi−Oに変化を受けにくくなるため、クラック発生が抑制されると推察される。
【0029】
本発明のフィルムは、ディスプレイ用基板、太陽電池用基板、サーキットボード用基板等の電子デバイスの基板として用いることが可能であり、また太陽光発電モジュールやディスプレイ用モジュール、あるいは、屋外看板、道路標識など屋外に露出する表示物の保護フィルムとして使用することができる。
太陽光発電モジュールやディスプレイ用モジュールの保護フィルムとして使用する場合には、太陽電子素子や発光素子を被うカバーガラスやカバーフィルムに貼付してもよく、また太陽電子素子や発光素子を密封するフィルムとしてもよい。
【0030】
以下、実施例1〜5において、本発明のフレキシブルガスバリアフィルムの水蒸気透過度、長期保存性及び酸素透過度を測定した例を示す。比較例1〜6は、実施例1〜5との比較のため、フィルム上の積層条件を変更した例の水蒸気透過度、長期保存性及び酸素透過度を示す。耐候性については実施例5、比較例7、8に示す。
【実施例1】
【0031】
厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPETを透明樹脂フィルム基材(東レU426)上にポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ)をワイヤーバーで塗工し、80℃で5分間乾燥して膜厚100nmのポリシラザン膜を形成した。窒素ガスを流しながらXeエキシマランプ(172nm;光量40mW/cm以上)をポリシラザン膜の表面に5分間照射して第一層目とした。
【0032】
さらに、その膜上に、ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ)をワイヤーバーで塗工し、膜厚100nmのポリシラザン膜とした。さらに80℃で5分間乾燥した後、窒素ガスを流しながらXeエキシマランプ(172nm;光量40mW/cm以上)をポリシラザン膜の表面に5分間照射した。
【実施例2】
【0033】
実施例1と同様の条件で、透明樹脂フィルム基材上に、Xeエキシマランプ処理した膜を積層して三層とした。
【実施例3】
【0034】
ポリシラザン膜の膜厚を250nm、Xeエキシマランプの照射時間を3分間とした以外は実施例1と同様にして、透明樹脂フィルム基材上にポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜を二層形成した。
【実施例4】
【0035】
厚さ100μm、濡れ指数36、表面粗さRa=12nm以上のPETを透明樹脂フィルム基材(東洋紡E5100)上に実施例3と同様にして、ポリシラザン膜(250nm)をXeエキシマランプ処理した膜を二層形成した。
【実施例5】
【0036】
厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPETを透明樹脂フィルム基材(帝人デュポン製;テトロンHB)に代えた以外は実施例1と同様にして、ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜を二層形成した。
【0037】
以下に比較例1〜8を示す。比較例1〜8の製造条件を次に示す。
【0038】
(比較例1)
透明樹脂フィルム基材:厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPET(東レU426;実施例1と同じ)。
ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ;実施例1と同じ)。
塗工方法:ワイヤーバー、80℃で5分間乾燥。
Xeエキシマランプ:172nm;光量40mW/cm以上(実施例1と同じ)、10分間照射。
ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜:500nm、一層。
【0039】
(比較例2)
透明樹脂フィルム基材:厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPET(東レU426;実施例1と同じ)。
ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ;実施例1と同じ)。
塗工方法:ワイヤーバー、80℃で5分間乾燥。
Xeエキシマランプ:172nm;光量40mW/cm以上、5分間照射(実施例1と同じ)。
ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜:500nm、一層。
【0040】
(比較例3)
透明樹脂フィルム基材:厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPET(東レU426;実施例1と同じ)。
ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ;実施例1と同じ)。
塗工方法:ワイヤーバー、80℃で5分間乾燥。
Xeエキシマランプ:172nm;光量40mW/cm以上(実施例1と同じ)、1分間照射。
ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜:1000nm、一層。
【0041】
(比較例4)
透明樹脂フィルム基材:厚さ100μm、濡れ指数36、表面粗さRa=12nm以上のPET(東レU426;実施例1と同じ)。
ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ;実施例1と同じ)。
塗工方法:ワイヤーバー、80℃で5分間乾燥。
Xeエキシマランプ:172nm;光量40mW/cm以上、5分間照射(実施例1と同じ)。
ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜:500nm、一層。
【0042】
(比較例5)
透明樹脂フィルム基材:厚さ100μm、濡れ指数36、表面粗さRa=12nm以上のPET(東洋紡E5100;実施例4と同じ)。
ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ;実施例1と同じ)。
塗工方法:ワイヤーバー、80℃で5分間乾燥。
Xeエキシマランプ:172nm;光量40mW/cm以上(実施例1と同じ)、5分間照射。
ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜:500nm、二層。
【0043】
(比較例6)
透明樹脂フィルム基材:厚さ100μm、濡れ指数34、表面粗さRa=5nm以下のPET。
ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ;実施例1と同じ)。
塗工方法:ワイヤーバー、80℃で5分間乾燥。
Xeエキシマランプ:172nm;光量40mW/cm以上、5分間照射(実施例1と同じ)。
ポリシラザン膜をXeエキシマランプ処理した膜:100nm、二層。
水蒸気透過度はJIS K−7129に準拠して、水蒸気透過率測定装置PERMATRAN3/31(MOCON社)を用い、40℃、90%RHで測定した。
【0044】
(比較例7)
厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPET(帝人デュポン製;テトロンHB)を透明樹脂フィルム基材として用い(ポリシラザン層無し)で耐候性試験をした。
【0045】
(比較例8)
厚さ100μm、濡れ指数36、表面粗さRa=12nm以下のPET(東洋紡製E5100)を透明樹脂フィルム基材として用いて(ポリシラザン層無し)耐候性試験をした。
【0046】
長期保存性は、23℃、50%RH環境下で1ヶ月保存後、水蒸気透過度を測定して長期保存性の値とした。
【0047】
酸素透過率は、MOCON社のOXTRANを用いドライ環境(N/O=両方0%RH)で測定した。
【0048】
フレキシブル性は、直径50mmの円筒に実施例1〜5および比較例1〜6で得られたフィルムを巻き、5分間保持した後、外観を目視で確認すると同時に水蒸気透過度を測定した。水蒸気透過度が試験前に測定した値から10%未満の変化であったものを○、10%以上の変化があったもの又は目視でクラックを確認したものを×とした。結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
表面粗さは、JIS B0601−1994に基づき、X軸(10μm)×Y軸(10μm)とAFM(Multi Mode AFM;日本ピーコ社製)によりZ軸方向のRa値(算術平均粗さ;nm)を測定した。
【0051】
濡れ指数は、JIS K6768に基づいて測定した。
耐候性は、スガ試験機製SX75ウェザーメータを用い、60W、85℃、75%RHで360時間照射した。ポリシラザン層を有する試料は、ポリシラザン層を紫外線ランプと対向する面として設置して照射を行った。照射後、試料の紫外線ランプ照射面を目視で検査し、照射前と変化がないものを○、色変化、劣化があるものを×とした。
表面硬化度は、耐候性試験での紫外線ランプ照射面の鉛筆硬度測定をJIS K 5600−5−4に準じて行った。
【0052】
実施例1〜5で得られたフレキシブルガスバリフィルム表面の表面粗さRaは、透明樹脂フィルムの表面粗さより滑らかなものになっていた。
【0053】
層厚が250nm以下の膜を二層以上積層した場合(実施例1〜5)は、水蒸気透過度および長期保存性は0.01g/m/day未満であり(検出限界以下であった)、ガスバリア性は非常に高い水準であった。また、フレキシブル性は、クラックも視認できず、指標とした水蒸気透過度は試験開始前から10%以内の変化であって、良好であった。
【0054】
一方、膜が一層の場合、膜厚が500nmでは水蒸気透過度や酸素透過度は、高く、ガスバリア性が低いことがわかる(比較例1、2及び4)。
【0055】
また膜厚を厚く(1000nm)すると、ガスバリア性は向上するが、フレキシブル性が悪くなり、クラックも発生したことが観察された(比較例3及び5)。なお、膜厚500nmの膜を二層とすると製造直後のガスバリア性は高いが、長期保存性が劣り、クラックが生じた(比較例5)。
【0056】
なお、ポリシラザンの溶媒をキシレンとした場合、樹脂基材2は濡れ指数が36より低い場合(比較例6)、水蒸気透過度は、1.0g/m/day、酸素透過度は1.0ml/m/dayであったが、クラックは視認できず、フレキシブル性も維持されていた。
【0057】
表2に実施例5、比較例7、8の耐候性試験結果を示す。表2より、本発明のポリシラザン層を二層としたものは、Xeエキシマ照射前に比較し、照射後のほうが表面硬度が上昇し、より耐候性が良好であることが分かる。
【0058】
【表2】

【0059】
以下、参考例1及び2に、ポリシラザン一層の場合の表面粗さRaと、Xeエキシマ照射の回数の変化による表面粗さRaを測定したものを参考例として示す。
【0060】
(参考例1)
厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPETを透明樹脂フィルム基材(東レU426)上にポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ)をワイヤーバーで塗工し、膜厚100nmのポリシラザン膜を形成した。80℃で5分間乾燥した後、窒素ガスを流しながらXeエキシマランプ(172nm;光量40mW/cm以上)をポリシラザン膜の表面に5分間照射した。
【0061】
(参考例2)
厚さ100μm、濡れ指数38、表面粗さRa=5nm以下のPETを透明樹脂フィルム基材(東レU426)上にポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ)をワイヤーバーで塗工し、膜厚100nmのポリシラザン膜を形成した。80℃で5分間乾燥した後、Xeエキシマランプ照射を行わずに、一層目の膜上に、ポリシラザンキシレン溶液(AZエレクトロニックマテリアルズ)をワイヤーバーで塗工し、ポリシラザン膜を膜厚100nmに形成した。80℃で5分間乾燥した後、窒素ガスを流しながらXeエキシマランプ(172nm;光量40mW/cm以上)を二層目のポリシラザン膜の表面に5分間照射した。
【0062】
結果を表3に示す。
【表3】

【0063】
なお、スパッタリングでシリカ層を形成して表面粗さを測定したところ(基材を東レU426と東洋紡E5100を用いた2例の測定)、Raが、2.23nm、3.5nm(1μm×1μm)であった。
【0064】
また、参考例1より、ポリシラザン一層では表面粗さは2nm程度であり、基材に比して改善度合いが低いことがわかる。また、参考例2より、ポリシラザンの一層目をXeエキシマ処理せずに二層目を積層すると、フレキシブルガスバリフィルム表面が平滑化されていないことがわかる。このことから、表面粗さを改善するためには二層以上の積層と各層毎にXeエキシマ照射が必要であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】本発明の実施形態にかかる、フレキシブルガスバリアフィルムの断面を模式的に表わした図である。
【符号の説明】
【0066】
1 フィルム
2 樹脂基材
3 膜
4 表面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上に、シラザン骨格を基本ユニットとするポリマーを塗工して膜厚250nm以下のポリマー膜を形成する第一ステップと、
形成されたポリマー膜に真空紫外光を照射する第二ステップと、
上記第二ステップで形成された膜上に、上記第一ステップ及び上記第二ステップを繰り返して膜を重ねて形成する第三ステップと、
を含む、フレキシブルガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂基材は、表面Ra値が12nmより小さい、請求項1記載のフレキシブルガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂基材は、表面濡れ指数が34より大きい、請求項1記載のフレキシブルガスバリアフィルムの製造方法。
【請求項4】
樹脂基材上に、シラザン骨格を基本ユニットとするポリマーで形成された膜厚250nm以下のポリマー膜に真空紫外光が照射された層が二層以上積層され、水蒸気透過度が0.01g/m/日未満かつ酸素透過度が0.1ミリリットル/m/日未満である、フレキシブルガスバリアフィルム。
【請求項5】
前記フレキシブルガスバリアフィルムは、表面Ra値が1.5nm以下である、請求項4記載のフレキシブルガスバリアフィルム。
【請求項6】
前記樹脂基材は、表面Ra値が12nmより小さい、請求項4記載のフレキシブルガスバリアフィルム。
【請求項7】
前記樹脂基材は、表面濡れ指数が34より大きい、請求項4記載のフレキシブルガスバリアフィルム。

【図1】
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【公開番号】特開2009−255040(P2009−255040A)
【公開日】平成21年11月5日(2009.11.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−312748(P2008−312748)
【出願日】平成20年12月8日(2008.12.8)
【出願人】(000162113)共同印刷株式会社 (488)
【Fターム(参考)】