説明

フレキシブル回路基板

【課題】フレキシブル回路基板において、屈曲させられる部分における柔軟性および耐屈曲特性を高くしながら、ハンドリング性を向上させる。
【解決手段】フレキシブル回路基板1は、互いに反対側に向いた第1の面2aおよび第2の面2bを有する絶縁層2と、パターン化された導体よりなり絶縁層2の第1の面2a上に配置された配線層3とを含んでいる。配線層3は、絶縁層2の第1の面2a上の互いに異なる位置に存在する第1の部分3Aと第2の部分3Bを含んでいる。第2の部分3Bの縦弾性率は、第1の部分3Aの縦弾性率よりも小さい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁層と、パターン化された導体よりなる配線層とを含むフレキシブル回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機、ハードディスク装置、プリンタ等の、可動部を有する電子機器において、フレキシブル回路基板が広く利用されている。このフレキシブル回路基板は、柔軟性を有する絶縁層と、パターン化された導体よりなり絶縁層の一方の面上に配置された配線層とを含んでいる。
【0003】
フレキシブル回路基板は、上記絶縁層と、この絶縁層の一方の面上に配置された導体層とを含む積層体における導体層をエッチングによってパターニングすることによって製造される。導体層には銅箔が用いられることが多い。導体層に銅箔を用いた上記積層体は、銅張積層板と呼ばれる。以下、上記積層体が銅張積層板である場合の例について説明する。
【0004】
近年、電子機器に対する薄型化、軽量化の要求が強いことから、フレキシブル回路基板には、薄く、柔軟性および耐屈曲特性が高いことが求められている。また、近年、電子機器において取り扱う情報量が増大していることから、情報を伝達するフレキシブル回路基板には配線層の微細化、高密度化が求められ、銅張積層板には導体層を微細にパターニングできることが求められている。これらの要求に応えるため、銅張積層板の設計、開発は、絶縁層と導体層を共に、薄く、柔軟性を高くする方向に進んでいる。
【0005】
例えば特許文献1に記載されているように、銅張積層板において、導体層である銅箔にアニール(熱処理)を施すことによって、銅箔の耐屈曲特性を高めることができることが知られている。銅箔は、アニールを施されることにより、耐屈曲特性と共に柔軟性も高まる。
【0006】
特許文献2には、フレキシブル回路基板に関する技術ではないが、基板上に形成された薄膜回路の両端にパルス状の電気エネルギーを印加することによって、薄膜をアニールする技術が記載されている。なお、特許文献2に記載された技術におけるアニールの目的は、薄膜における応力の緩和や欠陥の回復であり、薄膜の耐屈曲特性や柔軟性を高めることではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−59892号公報
【特許文献2】特開平6−37096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
銅張積層板において、絶縁層と導体層を共に、薄くし、柔軟性を高くすると、フレキシブル回路基板に対する前述の要求に応えることが可能になる。しかし、この場合には、銅張積層板の剛性が低下するため、銅張積層板のハンドリング性が低下するという問題が発生する。銅張積層板のハンドリング性の低下は、銅張積層板およびフレキシブル回路基板製造における歩留まりの低下につながる。
【0009】
また、フレキシブル回路基板においても、柔軟性が高いとハンドリング性が低下するという問題が発生する。フレキシブル回路基板のハンドリング性の低下は、フレキシブル回路基板を用いた電子機器の製造作業の効率の低下につながる。
【0010】
このように、従来は、銅張積層板およびフレキシブル回路基板において、柔軟性および耐屈曲特性を高くすることと、ハンドリング性を向上させることを両立することは難しかった。
【0011】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、屈曲させられる部分における柔軟性および耐屈曲特性を高くしながら、ハンドリング性を向上させることができるようにしたフレキシブル回路基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明のフレキシブル回路基板は、互いに反対側に向いた第1および第2の面を有する絶縁層と、パターン化された導体よりなり絶縁層の第1の面上に配置された配線層とを含んでいる。配線層は、絶縁層の第1の面上の互いに異なる位置に存在する第1および第2の部分を含んでいる。第2の部分の縦弾性率は、第1の部分の縦弾性率よりも小さい。
【0013】
本発明のフレキシブル回路基板において、第2の部分の縦弾性率は、第1の部分の縦弾性率の0.5〜0.95倍の範囲内であってもよい。
【0014】
また、本発明のフレキシブル回路基板において、配線層は金属の多結晶体よりなり、第2の部分における金属の結晶粒の、配線層の厚み方向についての最大長の平均値は、第1の部分における金属の結晶粒の、配線層の厚み方向についての最大長の平均値よりも大きくてもよい。この場合、第2の部分における金属の結晶粒の、配線層の厚み方向についての最大長の平均値は、第1の部分における金属の結晶粒の、配線層の厚み方向についての最大長の平均値の1.1倍以上であって、配線層の厚み以下であってもよい。
【0015】
また、本発明のフレキシブル回路基板において、配線層を構成する金属は銅であってもよい。この場合、配線層は、圧延銅箔によって形成されたものであってもよい。また、絶縁層は、ポリイミド樹脂または液晶ポリマーよりなるものであってもよい。
【0016】
また、本発明のフレキシブル回路基板において、配線層の第2の部分は、フレキシブル回路基板において屈曲させられる部分に用いられてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明のフレキシブル回路基板において、配線層は第1および第2の部分を含み、第2の部分の縦弾性率は第1の部分の縦弾性率よりも小さい。これにより、フレキシブル回路基板において、配線層の第2の部分に対応する部分の柔軟性および耐屈曲特性を、配線層の第1の部分に対応する部分に比べて高くすることが可能になる。フレキシブル回路基板において、配線層の第2の部分に対応する部分は、屈曲させられる部分に適用することができる。また、本発明によれば、フレキシブル回路基板において、配線層の第1の部分に対応する部分の柔軟性を低くすることができる。これにより、配線層全体の縦弾性率を小さくしてフレキシブル回路基板全体の柔軟性および耐屈曲特性を高くする場合に比べて、フレキシブル回路基板のハンドリング性を向上させることができる。以上のことから、本発明のフレキシブル回路基板によれば、屈曲させられる部分における柔軟性および耐屈曲特性を高くしながら、ハンドリング性を向上させることが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す斜視図である。
【図2】図1に示したフレキシブル回路基板の一部を示す斜視図である。
【図3】図1に示したフレキシブル回路基板の使用時における第1の状態を示す斜視図である。
【図4】図1に示したフレキシブル回路基板の使用時における第2の状態を示す斜視図である。
【図5】図1に示したフレキシブル回路基板の使用時における第3の状態を示す斜視図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係るフレキシブル回路基板の製造方法における一工程を示す斜視図である。
【図7】図6に示した工程に続く工程を示す斜視図である。
【図8】図7に示した工程に続く工程を示す斜視図である。
【図9】本発明による効果を確認するための実験で使用した試料を示す平面図である。
【図10】実験で使用した試料1における配線層の断面を示す断面図である。
【図11】実験で使用した試料2における配線層の断面を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1および図2を参照して、本発明の一実施の形態に係るフレキシブル回路基板の構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板の概略の構成を示す斜視図である。図2は、図1に示したフレキシブル回路基板の一部を示す斜視図である。図2において、ハッチングを付した面は断面を表している。
【0020】
図2に示したように、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1は、絶縁材料よりなり柔軟性を有する絶縁層2と、配線層3とを含んでいる。絶縁層2は、互いに反対側に向いた第1の面2aと第2の面2bとを有している。配線層3は、パターン化された導体よりなり、絶縁層2の第1の面2a上に配置されている。図示しないが、フレキシブル回路基板1は、更に、絶縁材料よりなり柔軟性を有する保護層を含んでいてもよい。保護層は、第1の面2aおよび配線層3を覆うように配置される。また、フレキシブル回路基板1は、更に、パターン化された導体よりなり絶縁層2の第2の面2b上に配置された第2の配線層を含んでいてもよい。この場合、フレキシブル回路基板1は、更に、第2の面2bおよび第2の配線層を覆う第2の保護層を含んでいてもよい。
【0021】
図1は、フレキシブル回路基板1の全体形状の一例を示している。この例では、フレキシブル回路基板1は、第1の端部1Aと第2の端部1Bとを有している。第2の端部1Bは、第1の端部1Aよりも幅が大きい。図1には、配線層3のパターンを簡略化して示している。フレキシブル回路基板1は、全体が柔軟性を有しているが、特に、使用時において屈曲させられる部分(以下、屈曲部という。)1Cを有している。
【0022】
絶縁層2は、絶縁性樹脂よりなり、その中でも柔軟性および耐熱性が良好なポリイミド樹脂または液晶ポリマーよりなることが好ましい。絶縁層2は、単層であってもよいし、複数層からなるものであってもよい。絶縁層2は、例えば、後にパターニングされて配線層3となる銅箔等の金属箔上に、ポリイミド樹脂または液晶ポリマーの樹脂溶液を塗布し、これを乾燥させて形成してもよい。あるいは、上記金属箔上に、ポリイミド樹脂の前駆体溶液を塗布し、これを熱処理によって乾燥およびイミド化して、絶縁層2を形成してもよい。あるいは、市販されているポリイミド樹脂または液晶ポリマーよりなる絶縁フィルムを上記金属箔に接着して、絶縁層2を形成してもよい。この場合には、必要に応じて、エポキシ樹脂や熱可塑性ポリイミド樹脂等からなる接着剤を用いて、絶縁フィルムを金属箔に接着してもよい。
【0023】
絶縁層2の厚みは、特に限定されるものではないが、5〜100μmの範囲内であることが好ましい。フレキシブル回路基板1のうち特に高い屈曲性(柔軟性)が要求される部分における絶縁層2の厚みは、5〜30μmの範囲内であることが好ましい。絶縁層2の厚みが5μm未満であると、絶縁層2の絶縁性が十分に得られないおそれがある。一方、絶縁層2の厚みが大きくなると屈曲性が低下するため、絶縁層2の厚みの上限は、フレキシブル回路基板1が屈曲される程度等に応じて適宜、定められる。保護層の材料には、一般的に接着剤付きポリイミド樹脂が用いられ、保護層の厚みは、絶縁層2と同様に適宜、定められる。
【0024】
フレキシブル回路基板1は、絶縁層2と、この絶縁層2の第1の面2a上に配置された導体層とを含む積層体における導体層をエッチングによってパターニングすることによって製造される。導体層は、配線層3を構成する金属よりなる。導体層には、例えば金属箔、特に銅箔が用いられる。導体層に銅箔を用いた積層体は、銅張積層板と呼ばれる。導体層に用いられる銅箔には、圧延銅箔と電解銅箔がある。一般的に、圧延銅箔は、電解銅箔よりも耐屈曲特性が高い。そのため、導体層に用いられる銅箔としては、圧延銅箔を用いることが好ましい。導体層に用いられる銅箔の厚みは、5〜30μmの範囲内であることが好ましく、9〜15μmの範囲内であることがより好ましい。銅箔の厚みが5μm未満であると、銅張積層板の剛性が小さくなりすぎて、フレキシブル回路基板1の製造時における銅張積層板のハンドリング性が低下する。一方、銅箔の厚みが30μmを超えると、フレキシブル回路基板1の柔軟性および耐屈曲特性が低下すると共にコストが高くなる。
【0025】
次に、図3ないし図5を参照して、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1の使用例について説明する。図3ないし図5は、それぞれ、フレキシブル回路基板1の使用時における第1ないし第3の状態を示す斜視図である。この例では、フレキシブル回路基板1の第1の端部1Aにはコネクタ6が取り付けられ、第2の端部1Bには硬質プリント基板7が取り付けられている。フレキシブル回路基板1は、使用時には、必要に応じて、図1に示した屈曲部1Cにおいて任意の角度で屈曲させられる。
【0026】
図3は、フレキシブル回路基板1が屈曲部1Cにおいて屈曲していない状態(第1の状態)を示している。図4および図5は、それぞれ、フレキシブル回路基板1が屈曲部1Cにおいて屈曲している状態(第2および第3の状態)を示している。図4に示した第2の状態は、図3に示した状態から、フレキシブル回路基板1のうち、屈曲部1Cよりもコネクタ6(第1の端部1A)に近い部分が90度回転した状態である。図5に示した第3の状態は、図3に示した状態から、フレキシブル回路基板1のうち、屈曲部1Cよりもコネクタ6(第1の端部1A)に近い部分が180度回転した状態である。
【0027】
図2に示したように、本実施の形態における配線層3は、絶縁層2の第1の面2a上の互いに異なる位置に存在する第1の部分3Aと第2の部分3Bとを含んでいる。第2の部分3Bの縦弾性率は、第1の部分3Aの縦弾性率よりも小さい。第2の部分3Bは、配線層3のうち、少なくとも、図1に示した屈曲部1C内に存在する部分を含んでいる。第2の部分3Bの縦弾性率は、例えば、第1の部分3Aの縦弾性率の0.5〜0.95倍の範囲内である。
【0028】
本実施の形態では、特に、配線層3は、銅等の金属の多結晶体よりなる。第2の部分3Bにおける金属の結晶粒の、配線層3の厚み方向についての最大長の平均値は、第1の部分3Aにおける金属の結晶粒の、配線層3の厚み方向についての最大長の平均値よりも大きい。なお、配線層3の厚み方向とは、絶縁層2と配線層3が積層されている方向である。第2の部分3Bにおける金属の結晶粒の、配線層3の厚み方向についての最大長の平均値は、例えば、第1の部分3Aにおける金属の結晶粒の、配線層3の厚み方向についての最大長の平均値の1.1倍以上であって、配線層3の厚み以下である。以下、配線層3(第1の部分3A、第2の部分3B)における金属の結晶粒の、配線層3の厚み方向についての最大長の平均値を、平均結晶粒径と呼ぶ。平均結晶粒径は、配線層3の1個所以上、好ましくは複数個所の断面において、金属の複数の結晶粒の各々について、配線層3の厚み方向についての最大長を測定し、その平均値として算出される。
【0029】
次に、図6ないし図8を参照して、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1の製造方法について説明する。このフレキシブル回路基板1の製造方法では、始めに、図6に示したように、絶縁層2と、配線層3を構成する金属の多結晶体よりなり絶縁層2の第1の面2a上に配置された導体層30とを含む積層体10を作製する。絶縁層2と導体層30の形成方法は、既に説明した通りである。導体層30に銅箔を用いた積層体10は、銅張積層板である。次に、図7に示したように、導体層30をエッチングによってパターニングして予備配線層31を形成する。
【0030】
次に、図8に示したように、予備配線層31の一部における金属の結晶粒の、予備配線層31の厚み方向についての最大長の平均値が加熱前よりも大きくなって予備配線層31が配線層3になるように、予備配線層31の一部のみを加熱する。以下、この工程を熱処理工程と呼ぶ。また、配線層3の場合と同様に、予備配線層31における金属の結晶粒の、予備配線層31の厚み方向についての最大長の平均値も、平均結晶粒径と呼ぶ。予備配線層31の一部のみを加熱する方法としては、例えば、予備配線層31の一部のみに通電する方法がある。以下、この方法について図8を参照して説明する。図8には、予備配線層31を構成する複数のライン31aであって、加熱される部分を含む複数のライン31aを示している。この方法では、各ライン31aのうち、加熱される部分の両端にそれぞれ通電用の電極41,42を接触させる。電極41,42は、例えば、一方向に長い形状を有している。これにより、電極41,42を、それぞれ複数のライン31aに同時に接触させることができる。次に、電極41,42間に所定の電圧を印加して、各ライン31aの電極41,42間の部分に通電する。一方向に長い形状の電極41,42を用いることにより、複数のライン31aのそれぞれの一部に対して一括して通電することができる。各ライン31aのうちの通電された部分は、ジュール熱を発生し、このジュール熱によって加熱される。各ライン31aのうちの、電極41,42間以外の部分は、通電されないため、ジュール熱を発生しない。このようにして、予備配線層31の一部のみが加熱される。
【0031】
予備配線層31のうち、熱処理工程で加熱されない部分を第1の部分31Aと呼び、熱処理工程で加熱される部分を第2の部分31Bと呼ぶ。熱処理工程の前において、第1の部分31Aと第2の部分31Bにおける金属の平均結晶粒径は、実質的に等しい。熱処理工程では、予備配線層31のうち、第2の部分31Bのみが加熱され、加熱後の第2の部分31Bの平均結晶粒径は加熱前よりも大きくなる。その結果、熱処理工程により、第2の部分31Bにおける金属の平均結晶粒径は、第1の部分31Aにおける金属の平均結晶粒径よりも大きくなる。熱処理工程の後、予備配線層31の第1の部分31Aは配線層3の第1の部分3Aとなり、予備配線層31の第2の部分31Bは配線層3の第2の部分3Bとなる。従って、配線層3において、第2の部分3Bにおける金属の平均結晶粒径は、第1の部分3Aにおける金属の平均結晶粒径よりも大きい。
【0032】
また、熱処理工程の前において、第1の部分31Aと第2の部分31Bにおける縦弾性率、柔軟性および耐屈曲特性は、それぞれ実質的に等しい。熱処理工程により、加熱後の第2の部分31Bの平均結晶粒径が加熱前よりも大きくなることにより、加熱後の第2の部分31Bの縦弾性率は加熱前よりも小さくなり、加熱後の第2の部分31Bの柔軟性および耐屈曲特性は加熱前よりも高くなる。その結果、熱処理工程により、第2の部分31Bの縦弾性率は第1の部分31Aよりも小さくなり、第2の部分31Bの柔軟性および耐屈曲特性は第1の部分31Aよりも高くなる。従って、配線層3において、第2の部分3Bの縦弾性率は第1の部分3Aよりも小さく、第2の部分3Bの柔軟性および耐屈曲特性は第1の部分3Aよりも高い。
【0033】
なお、配線層3に用いられる銅等の金属の多結晶体において、加熱することによって、結晶粒径が大きくなり、縦弾性率が小さくなり、柔軟性および耐屈曲特性が高くなることは、フレキシブル回路基板の製造に関係する技術分野おける技術常識である。
【0034】
以上説明したように、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1において、配線層3は第1の部分3Aと第2の部分3Bを含み、第2の部分3Bの縦弾性率は第1の部分3Aの縦弾性率よりも小さい。これにより、フレキシブル回路基板1において、配線層3の第2の部分3Bに対応する部分の柔軟性および耐屈曲特性を、配線層3の第1の部分3Aに対応する部分に比べて高くすることが可能になる。フレキシブル回路基板1において、配線層3の第2の部分3Bに対応する部分は、屈曲部1Cにすることができる。また、本実施の形態によれば、フレキシブル回路基板1において、配線層3の第1の部分3Aに対応する部分の柔軟性を低くすることができる。これにより、配線層3全体の縦弾性率を小さくしてフレキシブル回路基板1全体の柔軟性および耐屈曲特性を高くする場合に比べて、フレキシブル回路基板1のハンドリング性を向上させることができる。以上のことから、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1によれば、屈曲部1Cにおける柔軟性および耐屈曲特性を高くしながら、フレキシブル回路基板1のハンドリング性を向上させることが可能になる。
【0035】
次に、本発明による効果を確認するために行った実験について説明する。図9は、実験で作製した複数の試料の外観を示す平面図である。試料は、フレキシブル回路基板1に対応する。試料は、ポリイミド樹脂よりなる絶縁層2と、パターン化された導体よりなり絶縁層2の第1の面2a上に配置された配線層13とを備えている。絶縁層2の第1の面2aの形状は、一方向(図9における左右方向)に長い矩形である。配線層13は、ミアンダ形状を有している。より詳しく説明すると、配線層13は、絶縁層2の第1の面2aの長手方向(図9における左右方向)に延びる複数の直線状部分13aと、配線層13の全体がミアンダ形状となるように、隣接する2つの直線状部分13aの端部同士を連結する連結部分13bとを有している。ここで、直線状部分13aの幅(図9における上下方向の寸法)を線幅LWと定義し、隣接する2つの直線状部分13aの間隔を線間幅SWと定義する。試料において、線幅LWと線間幅SWは、いずれも75μmである。また、絶縁層2の厚みは16μm、配線層13の厚みは12μmである。
【0036】
実験では、条件を変えて4つの試料、すなわち試料1、試料2、試料3および試料4を作製した。試料1ないし4は、具体的には、以下のようにして作製した。まず、絶縁層2と、この絶縁層2の第1の面2a上に配置された圧延銅箔よりなる導体層からなる積層体を作製した。なお、このような積層体は、新日鐵化学株式会社製のエスパネックス(登録商標)MシリーズMB12−16−12PRQ(製品名)としても販売されており、本実験では、その片面全面の銅箔をエッチングによって除去したものを用いた。次に、導体層をエッチングによってパターニングして、図9に示した配線層13と同じパターンの予備配線層を形成した。試料1に関しては、予備配線層を加熱する熱処理を行うことなく、予備配線層をそのまま配線層13として、試料1を完成させた。試料2ないし4を作製する際には、予備配線層を加熱する熱処理を行って配線層13を形成して、試料2ないし4を完成させた。予備配線層に対する熱処理は、予備配線層の両端に2つの通電用の電極を接触させ、2つの電極間に所定の電圧を印加して、予備配線層に通電することによって行った。これにより、ジュール熱によって予備配線層を加熱して、予備配線層を配線層13とした。
【0037】
試料2ないし4を作製する過程では、2つの電極間に印加する電圧を、0Vから30Vまで所定の時間(以下、30V到達時間という。)をかけて上昇させ、5分間だけ30Vに保持した。試料2、試料3、試料4を作製する際の30V到達時間は、それぞれ、86秒、24秒、76秒であった。また、試料2、試料3、試料4における予備配線層の加熱前の抵抗値は、それぞれ、61.49Ω、61.12Ω、62.18Ωであった。2つの電極間に30Vを印加しているときの試料2、試料3、試料4における予備配線層の温度は、いずれも約200℃前後であった。
【0038】
実験では、試料1ないし4について、配線層13の縦弾性率と、配線層13における金属の平均結晶粒径を測定した。平均結晶粒径は、配線層13の4個所の断面において、金属の複数の結晶粒の各々について、配線層13の厚み方向についての最大長を測定し、その平均値として算出した。
【0039】
また、実験では、試料1ないし4について、配線層13における単位断面積(75μm×12μm=900μm)あたりの金属の結晶粒の界面の長さ(以下、界面長さと記す。)を測定した。
【0040】
また、実験では、試料1ないし4について、MIT法による屈曲試験を行って、それぞれの屈曲寿命を測定した。MIT法による屈曲試験は、試料の長手方向の第1の端部を固定し、第1の端部との反対側の第2の端部を含む試料の一部を往復回動させて行われる。また、屈曲試験の際には、配線層13に通電されて、配線層13の抵抗値が検出される。そして、配線層13の抵抗値が所定値以上になったときに配線層13が破断したと判断される。屈曲試験では、試験の開始から、配線層13が破断するまで、すなわち配線層13の抵抗値が所定値以上になるまでの試料の一部の往復回動の回数が、屈曲寿命として測定される。
【0041】
実験の結果を、下記の表1に示す。表1において、縦弾性率、平均結晶粒径、界面長さ、屈曲寿命における「倍率」は、試料1におけるそれらの値に対する試料2ないし4におけるそれらの値の比率を表している。
【0042】
【表1】

【0043】
図10は、試料1における配線層13の断面を示している。図11は、試料2における配線層13の断面を示している。図10および図11における外縁以外の線は、結晶粒界を示している。図10に示した断面は、第1の部分3Aの断面の一例ならびに加熱前の第2の部分3Bの断面の一例と言える。また、図11に示した断面は、加熱後の第2の部分3Bの断面の一例と言える。
【0044】
表1に示されるように、予備配線層に熱処理を施して配線層13を形成した試料2ないし4では、予備配線層に熱処理を施すことなく配線層13を形成した試料1に比べて、縦弾性率および界面長さは小さく、平均結晶粒径および屈曲寿命は大きくなっている。実験結果から、平均結晶粒径が大きくなるほど、すなわち界面長さが小さくなるほど、縦弾性率は小さく、屈曲寿命は大きくなることが分かる。
【0045】
また、実験結果から、縦弾性率の倍率が0.95以下、平均結晶粒径の倍率が1.1以上、界面長さの倍率が0.79以下であれば、試料1に比べて屈曲寿命が有意に大きくなることが分かる。平均結晶粒径を大きくすることによって縦弾性率を小さくすることには限界があるが、実験結果から、少なくとも、縦弾性率の倍率を0.5まで小さくすることは可能であり、これにより、試料1に比べて屈曲寿命を大きくすることができることが分かる。このことから、第2の部分3Bの縦弾性率は、第1の部分3Aの縦弾性率の0.5〜0.95倍の範囲内であることが好ましいと言える。同様に、予備配線層31の第2の部分31Bにおける縦弾性率は、熱処理工程による加熱後は加熱前の0.5〜0.95倍の範囲内となることが好ましいと言える。
【0046】
また、平均結晶粒径の上限は、配線層3(予備配線層31)の厚みと等しい。従って、実験結果から、第2の部分3Bにおける金属の平均結晶粒径は、第1の部分3Aにおける金属の平均結晶粒径の1.1倍以上であって、配線層3の厚み以下であることが好ましいと言える。同様に、予備配線層31の第2の部分31Bにおける金属の平均結晶粒径は、熱処理工程による加熱後は加熱前の1.1倍以上であって、予備配線層31の厚み以下となることが好ましいと言える。
【0047】
また、実験結果から、第2の部分3Bにおける界面長さは、第1の部分3Aにおける界面長さの0.35〜0.79倍の範囲内であることが好ましいと言える。同様に、予備配線層31の第2の部分31Bにおける界面長さは、熱処理工程による加熱後は加熱前の0.35〜0.79倍の範囲内となることが好ましいと言える。
【0048】
以上説明した実験結果から、予備配線層31を加熱して配線層3を形成することにより、予備配線層31に比べて、配線層3における金属の平均結晶粒径を大きくすることができ、配線層3の縦弾性率を小さくすることができ、配線層3の柔軟性および耐屈曲特性を高くすることができることが分かる。
【0049】
本実施の形態では、前述のように、予備配線層31の一部のみを加熱して、予備配線層31のうちの加熱されなかった部分よりなる第1の部分3Aと予備配線層31のうちの加熱された部分よりなる第2の部分3Bとを含む配線層3を形成する。これにより、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1によれば、前述のように、配線層3の第2の部分3Bに対応する部分の柔軟性および耐屈曲特性を、配線層3の第1の部分3Aに対応する部分に比べて高くすることが可能になり、屈曲部1Cにおける柔軟性および耐屈曲特性を高くしながら、フレキシブル回路基板1のハンドリング性を向上させることが可能になる。
【0050】
また、本実施の形態に係るフレキシブル回路基板1の製造方法によれば、導体層30ならびにこれを含む積層体10(銅張積層板)の柔軟性を低くすることが可能になる。これにより、積層体10(銅張積層板)のハンドリング性を向上させることが可能になる。
【0051】
ところで、導体層30における金属の平均結晶粒径が十分に大きくなるように、導体層30に対する熱処理を十分に行って積層体10を製造すると、積層体10のコストが高くなる。これに対し、本実施の形態では、積層体10の柔軟性を低くするために、導体層30における金属の平均結晶粒径は小さい方が好ましい。そのため、本実施の形態によれば、導体層30に対する熱処理を十分に行う必要はなく、これにより、積層体10のコストを低減することが可能になる。
【0052】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、予備配線層31の一部のみを加熱する方法は、予備配線層31の一部のみに通電する方法に限らず、予備配線層31の一部のみにレーザ光等の高エネルギーの光を照射する方法等の他の方法であってもよい。
【符号の説明】
【0053】
1…フレキシブル回路基板、1C…屈曲部、2…絶縁層、3…配線層、3A…第1の部分、3B…第2の部分、10…積層体、30…導体層、31…予備配線層、41,42…電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに反対側に向いた第1および第2の面を有する絶縁層と、パターン化された導体よりなり前記絶縁層の第1の面上に配置された配線層とを含むフレキシブル回路基板であって、
前記配線層は、前記絶縁層の第1の面上の互いに異なる位置に存在する第1および第2の部分を含み、
前記第2の部分の縦弾性率は、前記第1の部分の縦弾性率よりも小さいことを特徴とするフレキシブル回路基板。
【請求項2】
前記第2の部分の縦弾性率は、前記第1の部分の縦弾性率の0.5〜0.95倍の範囲内であることを特徴とする請求項1記載のフレキシブル回路基板。
【請求項3】
前記配線層は金属の多結晶体よりなり、前記第2の部分における金属の結晶粒の、前記配線層の厚み方向についての最大長の平均値は、前記第1の部分における金属の結晶粒の、前記配線層の厚み方向についての最大長の平均値よりも大きいことを特徴とする請求項1または2記載のフレキシブル回路基板。
【請求項4】
前記第2の部分における金属の結晶粒の、前記配線層の厚み方向についての最大長の平均値は、前記第1の部分における金属の結晶粒の、前記配線層の厚み方向についての最大長の平均値の1.1倍以上であって、前記配線層の厚み以下であることを特徴とする請求項3記載のフレキシブル回路基板。
【請求項5】
前記配線層を構成する金属は銅であることを特徴とする請求項3または4記載のフレキシブル回路基板。
【請求項6】
前記配線層は、圧延銅箔によって形成されたものであることを特徴とする請求項5記載のフレキシブル回路基板。
【請求項7】
前記絶縁層は、ポリイミド樹脂または液晶ポリマーよりなることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載のフレキシブル回路基板。
【請求項8】
前記配線層の第2の部分は、前記フレキシブル回路基板において屈曲させられる部分に用いられることを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載のフレキシブル回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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