説明

フレキシブル磁気記録媒体

【課題】 高密度記録に適し、軟磁性層の厚膜が容易に作製できることから生産性が高く、平滑な表面性を付与することが可能な、垂直磁気記録方式によるフレキシブル磁気記録媒体を提供すること。
【解決手段】 可とう性高分子フィルムの少なくとも一方の面に、軟磁性微粒子を含有する塗布型軟磁性層、強磁性金属薄膜からなる垂直磁気記録層、および保護層をこの順に形成したことを特徴とするフレキシブル磁気記録媒体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル磁気記録媒体に関するものであり、詳しくは高密度記録に適し、軟磁性層の厚膜が容易に作製できることから生産性が高く、平滑な表面性を付与することが可能な、垂直磁気記録方式によるフレキシブル磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特にハードディスク分野において垂直磁気記録方式による磁気記録媒体の研究開発が盛んに行われている。垂直磁気記録方式で高密度記録を達成するために、記録能力に優れる単磁極ヘッドが有望視されている。この単磁極ヘッドと組み合わせて使用する磁気記録媒体ではヘッドの磁束をループさせるため、情報を記録する垂直磁気記録層の下方に裏打ち層と呼ばれる軟磁性層を形成する必要がある。しかも、この軟磁性層の機能を十分に発揮させるためには、軟磁性層の厚みとして100nm以上が必要となる。通常この軟磁性層はスパッタ法あるいはメッキ法で作製されるため、この厚みによる生産性の低下、表面性の劣化が大きな課題となっている。特にフレキシブル磁気記録媒体において、上記の方法で連続搬送方式によって可とう性高分子フィルム上に所望の厚みの軟磁性層を形成するには、搬送速度を十分に低下させる必要があるため、生産性の低下が著しく、表面性に関しても、軟磁性層の多層化、軟磁性層作製後研磨処理などのハードディスク特有の工程を使用することが難しい。
【0003】
なお、垂直磁気記録方式による磁気記録媒体は、例えば下記特許文献1に開示されている。
【特許文献1】特開平10−3643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって本発明の目的は、高密度記録に適し、軟磁性層の厚膜が容易に作製できることから生産性が高く、平滑な表面性を付与することが可能な、垂直磁気記録方式によるフレキシブル磁気記録媒体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のとおりである。
可とう性高分子フィルムの少なくとも一方の面に、軟磁性微粒子を含有する塗布型軟磁性層、強磁性金属薄膜からなる垂直磁気記録層、および保護層をこの順に形成したことを特徴とするフレキシブル磁気記録媒体。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、可とう性高分子フィルムの少なくとも一方の面に軟磁性層を塗布することにより設けているので、厚膜の軟磁性層を容易にかつ高い生産性で作製することができる。また、垂直磁気記録層(磁性層)を真空成膜方式で作製するため、高密度記録に適する。さらに、軟磁性層を塗布することにより設けているので、塗布型の磁気記録媒体の製造工程で一般的に用いられているカレンダー処理が可能であるため、可とう性高分子フィルム表面よりも大幅に平滑な表面を有する軟磁性層が得られ、平滑性に優れた磁気記録媒体を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
本発明のフレキシブル磁気記録媒体は、その種類についてとくに制限されないが、例えばフレキシブル磁気ディスクや磁気テープ等が挙げられる。
フレキシブル磁気ディスクとしては、中心部にセンターホールが形成された構造であり、金属やプラスチック等で形成されたカートリッジ内に格納されている。なお、カートリッジには、通常、金属性のシャッタで覆われたアクセス窓を備えており、このアクセス窓を介して磁気ヘッドが導入されることにより、ディスクへの信号記録や再生が行われる。
本発明のフレキシブル磁気ディスクは可とう性高分子フィルムからなるディスク状支持体の少なくとも一方の面に、塗布型軟磁性層、強磁性金属薄膜からなる垂直磁気記録層、および保護層を有するものである。高分子フィルムと軟磁性層間には密着性を高め、あるいは平滑性を高めるための下塗り層があっても良い。さらに軟磁性層上に、磁性層の磁気特性を改善するシード層あるいはガスバリア層、下地層があってもよく、保護層上には潤滑剤の付与により走行耐久性および耐食性を改善する潤滑層が、この順に積層されて構成されていることが好ましい。これらの層を形成した後、所定のディスクサイズに打ち抜いてフレキシブル磁気ディスクとする。直径は20mm〜150mmであって、フレキシブル磁気ディスクシステムのドライブサイズに応じて任意のサイズが選択できる。さらにその後、必要に応じてバーニッシュ加工や熱処理を施しても良い。
【0008】
フレキシブル磁気記録媒体が磁気テープの場合は、通常、片面に上記構成の層が設けられ、所定の幅にスリッティングし、開放リール、あるいはカートリッジ内に収納されたもののいずれの形態で用いることができる。
また、必要に応じて支持体の他方の面にカーボンブラック等を含むバックコート層を設けてもよい。
バックコート層におけるカーボンブラックは、平均粒子径の異なる二種類のものを組み合わせて使用することが好ましく、平均粒子径が10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと平均粒子径が230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックを組み合わせて使用することが好ましい。一般に、上記のような微粒子状のカーボンブラックの添加により、バックコート層の表面電気抵抗を低く設定でき、また光透過率も低く設定できる。磁気記録装置によっては、テープの光透過率を利用し、動作の信号に使用しているものが多くあるため、このような場合には特に微粒子状のカーボンブラックの添加は有効になる。また微粒子状カーボンブラックは一般に液体潤滑剤の保持力に優れ、潤滑剤併用時、摩擦係数の低減化に寄与する。バックコート層において、平均粒子径の異なる二種類のものを使用する場合、10〜20nmの微粒子状カーボンブラックと230〜300nmの粗粒子状カーボンブラックの含有比率(質量比)は、前者:後者=98:2〜75:25の範囲にあることが好ましく、更に好ましくは、95:5〜85:15の範囲である。
【0009】
支持体は、磁気ヘッドと磁気記録媒体とが接触した時の衝撃を回避するために、可とう性を備えた樹脂フィルム(可とう性高分子フィルム)で構成されている。このような樹脂フィルムとしては、芳香族ポリイミド、芳香族ポリアミド、芳香族ポリアミドイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルイミド、ポリサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、トリアセテートセルロース、フッ素樹脂等からなる樹脂フィルムが挙げられる。価格や表面性の観点からポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレートが特に好ましい。
また、支持体として樹脂フィルムを複数枚ラミネートしたものを用いてもよい。ラミネートフィルムを用いることにより、支持体自身に起因する反りやうねりを軽減することができ、磁気記録層の耐傷性を改善することがきる。
ラミネート手法としては、熱ローラによるロールラミネート、平板熱プレスによるラミネート、接着面に接着剤を塗布してラミネートするドライラミネート、予めシート状に成形された接着シートを用いるラミネート等が挙げられる。接着剤の種類は、特に限定されず、一般的なホットメルト接着剤、熱硬化性接着剤、UV硬化型接着剤、EB硬化型接着剤、粘着シート、嫌気性接着剤などを使用することがきる。
支持体の厚みは、磁気テープの場合で3〜20μm、好ましくは4〜10μmである。 支持体の厚みが薄すぎると機械特性が不足し、エッジダメージや切断などの故障を生じやすくなり、支持体の厚みが厚すぎると体積記録密度が低下してしまう。またフレキシブル磁気ディスクの場合は10μm〜200μm、好ましくは20μm〜100μm、さらに好ましくは30μm〜70μmである。支持体の厚みが薄いと、高速回転時の安定性が低下し、面ぶれが増加する。一方、支持体の厚みが厚いと、回転時の剛性が高くなり、接触時の衝撃を回避することが困難になり、磁気ヘッドの跳躍を招く。
支持体の表面は、可能な限り平滑であることが好ましい。支持体表面の凹凸が大きすぎる場合には下塗り層による平滑化を行っても、完全にレベリングすることが不可能となり、信号の記録再生特性を著しく低下させる。具体的には光学式の表面粗さ計で測定した表面粗さが平均中心線粗さRaで5nm以内、好ましくは2nm以内、触針式粗さ計で測定した突起高さが1μm以内、好ましくは0.1μm以内、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した10点平均粗さRzで500nm以内、好ましくは200nm以内である。
【0010】
高分子フィルム上に下塗り層を作製する場合には、例えば、ポリイミド樹脂(特開平9−204629号公報、特開2003−102914号公報等)、ポリアミドイミド樹脂(特開平11−120534号公報等)、シリコン樹脂(特開平10−255250号公報、特開平10−40542号公報等)、フッ素系樹脂、あるいは放射線硬化樹脂(特願2003−424780号公報等)、ポリエステル樹脂、アミド樹脂等を使用することができる。
【0011】
本発明における軟磁性層は、Hc(保磁力)が16kA/m以下、好ましくは0.008kA/m 以上8kA/m 以下、Bs(飽和磁束密度)は150mT以上で、好ましくは200mT以上1000mT以下である。Hcが上記値より大きいと、場合によって設けられる下地層に記録磁化が残留し磁性層内で磁化の位相ずれが発生し好ましくない。Bsが上記値より小さいと下地層を通る磁束が低下し好ましくない。なおここでのHcは長手および垂直方向での高い方の値を用いる。
【0012】
本発明の軟磁性層に使用する軟磁性微粒子としては、Fe粉、Ni粉、Co粉、マグネタイト粉、パ−マロイ粉、センダスト粉、Mn−Znフェライト粉、Ni−Znフェライト粉、Cu−Znフェライト粉などが挙げられる。これらの粉体は針状、粒状、板状、いずれでもかまわないが、Hcを小さくするためには粒状が好ましい。これらの軟磁性微粒子には所定の原子以外にAl、Si、S、Sc、Ti、V、Cr、Cu、Y、Mo、Rh、Pd、Ag、Sn、Sb、Te、Ba、Ta、W、Re、Au、Hg、Pb、Bi、La、Ce、Pr、Nd、P、Co、Mn、Zn、Ni、Sr、B、Ge、Nbなどの原子を含んでもかまわない。但し、軟磁性層中の非磁性成分は極力少ないことが好ましい。非磁性成分は軟磁性層の透磁率の低下につながるだけでなく、この上に形成する垂直磁気記録層にも影響を与える。従って、塗布工程においてハンドリングが可能である範囲で非磁性成分を低減させることが好ましい。非磁性成分は、軟磁性層中、1〜80質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。
【0013】
これらの軟磁性微粒子の比表面積をSBET で表せば10〜100m2 /gであり、好ましくは40〜70m2 /gである。10m2 /g未満および100m2 /g超では良好な表面性が得にくく好ましくない。平均粒子径は0.01μm以上、50μm以下、好ましくは0.1μm以上、20μm以下、かさ密度は0.4以上、1.5以下、吸着水分は0.1%以上、2%以下、DBPを用いた吸油量は5〜100ml/100g 、pHは3以上10以下が好ましい。これらの粉体の表面はAl23 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、SnO2 、Sb2 3 、ZnOで表面処理することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl2 3 、SiO2 、TiO2 、ZrO2 、であるが、更に好ましいのはAl2 3 、SiO2 、ZrO2 である。これらは組み合わせて使用しても良い。
【0014】
軟磁性層にカ−ボンブラックを混合させれば、表面電気抵抗Rsを下げ、光透過率を小さくすることができるとともに、所望のマイクロビッカース硬度を得ることができる。また、潤滑剤貯蔵の効果をもたらすことも可能である。カーボンブラックの種類はゴム用ファ−ネス、ゴム用サ−マル、カラ−用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。また軟磁性層には有機質粉末を目的に応じて、添加することもできる。例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法は特開昭62−18564号、特開昭60−255827号の各公報に記されているようなものが使用できる。
【0015】
本発明の軟磁性層に使用される結合剤としては従来公知の熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、反応型樹脂やこれらの混合物が使用される。熱可塑性樹脂としては、ガラス転移温度が−100〜150℃、数平均分子量が1000〜200000、好ましくは10000〜100000、重合度が約50〜1000程度のものである。このような例としては、塩化ビニル、酢酸ビニル、ビニルアルコ−ル、マレイン酸、アクルリ酸、アクリル酸エステル、塩化ビニリデン、アクリロニトリル、メタクリル酸、メタクリル酸エステル、スチレン、ブタジエン、エチレン、ビニルブチラ−ル、ビニルアセタ−ル、ビニルエ−テル、等を構成単位として含む重合体または共重合体、ポリウレタン樹脂、各種ゴム系樹脂がある。また、熱硬化性樹脂または反応型樹脂としてはフェノ−ル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン硬化型樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、アルキド樹脂、アクリル系反応樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、シリコ−ン樹脂、エポキシ−ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂とイソシアネ−トプレポリマ−の混合物、ポリエステルポリオ−ルとポリイソシアネ−トの混合物、ポリウレタンとポリイソシアネートの混合物等があげられる。これらの樹脂については朝倉書店発行の「プラスチックハンドブック」に詳細に記載されている。また、公知の電子線硬化型樹脂を各層に使用することも可能である。これらの例とその製造方法については特開昭62−256219号公報に詳細に記載されている。以上の樹脂は単独または組合せて使用できるが、好ましいものとして塩化ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニルビニルアルコ−ル共重合体、塩化ビニル酢酸ビニル無水マレイン酸共重合体、から選ばれる少なくとも1種とポリウレタン樹脂の組合せ、またはこれらにポリイソシアネ−トを組み合わせたものがあげられる。
【0016】
ポリウレタン樹脂の構造はポリエステルポリウレタン、ポリエ−テルポリウレタン、ポリエ−テルポリエステルポリウレタン、ポリカ−ボネ−トポリウレタン、ポリエステルポリカ−ボネ−トポリウレタン、ポリカプロラクトンポリウレタンなど公知のものが使用できる。ここに示したすべての結合剤について、より優れた分散性と耐久性を得るためには必要に応じ、COOM、SO3 M、OSO3M、P=O(OM)2 、O−P=O(OM)2 、(以上につきMは水素原子、またはアルカリ金属塩基)、OH、NR2 、N+ 3 (Rは炭化水素基)、エポキシ基、SH、CN、などから選ばれる少なくともひとつ以上の極性基を共重合または付加反応で導入したものをもちいることが好ましい。このような極性基の量は10-1〜10-8モル/gであり、好ましくは10-2〜10-6モル/gである。
本発明に用いられるこれらの結合剤の具体的な例としてはユニオンカ−バイト社製VAGH、VYHH、VMCH、VAGF、VAGD、VROH、VYES、VYNC,VMCC,XYHL,XYSG,PKHH,PKHJ,PKHC,PKFE,日信化学工業社製、MPR−TA、MPR−TA5,MPR−TAL,MPR−TSN,MPR−TMF,MPR−TS、MPR−TM、MPR−TAO、電気化学社製1000W、DX80,DX81,DX82,DX83、100FD、日本ゼオン社製MR−104、MR−105、MR110、MR100、MR555、400X−110A、日本ポリウレタン社製ニッポランN2301、N2302、N2304、大日本インキ社製パンデックスT−5105、T−R3080、T−5201、バ−ノックD−400、D−210−80、クリスボン6109,7209,東洋紡社製バイロンUR8200,UR8300、UR−8700、RV530,RV280、大日精化社製、ダイフェラミン4020,5020,5100,5300,9020,9022、7020,三菱化成社製、MX5004,三洋化成社製サンプレンSP−150、旭化成社製サランF310,F210などがあげられる。
【0017】
本発明に用いるポリイソシアネ−トとしては、トリレンジイソシアネ−ト、4,4'−ジフェニルメタンジイソシアネ−ト、ヘキサメチレンジイソシアネ−ト、キシリレンジイソシアネ−ト、ナフチレン−1,5−ジイソシアネ−ト、o−トルイジンジイソシアネ−ト、イソホロンジイソシアネ−ト、トリフェニルメタントリイソシアネ−ト等のイソシアネ−ト類、また、これらのイソシアネ−ト類とポリアルコールとの生成物、また、イソシアネート類の縮合によって生成したポリイソシアネ−ト等を使用することができる。これらのイソシアネート類の市販されている商品名としては、日本ポリウレタン社製、コロネートL、コロネ−トHL、コロネ−ト2030、コロネ−ト2031、ミリオネ−トMR、ミリオネ−トMTL、武田薬品社製、タケネ−トD−102,タケネ−トD−110N、タケネ−トD−200、タケネ−トD−202、住友バイエル社製、デスモジュ−ルL、デスモジュ−ルIL、デスモジュ−ルN、デスモジュ−ルHL、等がありこれらを単独または硬化反応性の差を利用して二つもしくはそれ以上の組合せで各層とももちいることができる。
【0018】
本発明の軟磁性層に用いられる結合剤は軟磁性微粒子に対し、5〜50質量%の範囲、好ましくは10〜30質量%の範囲で用いられる。塩化ビニル系樹脂を用いる場合は5〜30質量%、ポリウレタン樹脂を用いる場合は2〜20質量%、ポリイソシアネ−トは2〜20質量%の範囲でこれらを組み合わせて用いることが好ましいが、例えば、微量の脱塩素によりヘッド腐食が起こる場合は、ポリウレタンのみまたはポリウレタンとイソシアネートのみを使用することも可能である。本発明において、ポリウレタンを用いる場合はガラス転移温度が−50〜150℃、好ましくは0℃〜100℃、破断伸びが100〜2000%、破断応力は0.05〜10Kg/cm2 (4.9kPa〜0.98MPa)、降伏点は0.05〜10Kg/cm2(4.9kPa〜0.98MPa) が好ましい。
【0019】
本発明の軟磁性層に使用されるカ−ボンブラックは前述のように、ゴム用ファ−ネス、ゴム用サ−マル、カラ−用ブラック、アセチレンブラック、等を用いることができる。比表面積は5〜500m2 /g、DBP吸油量は10〜400ml/100g、粒子径は5nm〜300nm、pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/cc、が好ましい。本発明に用いられるカ−ボンブラックの具体的な例としてはキャボット社製、BLACKPEARLS 2000、1300、1000、900、905、800、700、VULCANXC−72、旭カ−ボン社製、#80、#60、#55、#50、#35、三菱化成工業社製、#2400B、#2300、#900、#1000、#30、#40、#10B、コロンビアンカ−ボン社製、CONDUCTEX SC、RAVEN 150、50、40、15、RAVEN−MT−P、日本EC社製、ケッチェンブラックEC、などがあげられる。カ−ボンブラックを分散剤などで表面処理したり、樹脂でグラフト化して使用しても、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもかまわない。また、カ−ボンブラックを添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカ−ボンブラックは単独、または組合せで使用することができる。カ−ボンブラックを使用する場合は軟磁性微粒子に対する量の10〜50質量%で用いることが好ましい。カ−ボンブラックは層の帯電防止、摩擦係数低減、遮光性付与、膜強度向上などの働きがあり、これらは用いるカ−ボンブラックにより異なる。従って本発明に使用されるこれらのカ−ボンブラックは目的に応じて使い分けるのが好ましい。本発明で使用できるカ−ボンブラックは例えば「カ−ボンブラック便覧」カ−ボンブラック協会編 を参考にすることができる。
【0020】
本発明の軟磁性層の添加剤としては潤滑効果、帯電防止効果、分散効果、可塑効果、などをもつものが使用される。二硫化モリブデン、二硫化タングステングラファイト、窒化ホウ素、フッ化黒鉛、シリコ−ンオイル、極性基をもつシリコ−ン、脂肪酸変性シリコ−ン、フッ素含有シリコ−ン、フッ素含有アルコ−ル、フッ素含有エステル、ポリオレフィン、ポリグリコ−ル、アルキル燐酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、ポリフェニルエ−テル、フェニルホスホン酸、アミノキノン類、各種シランカップリング剤、チタンカップリング剤、フッ素含有アルキル硫酸エステルおよびそのアルカリ金属塩、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、および、これらの金属塩(Li、Na、K、Cuなど)または、炭素数12〜22の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコ−ル、(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)、炭素数12〜22のアルコキシアルコ−ル、炭素数10〜24の一塩基性脂肪酸(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)と炭素数2〜12の一価、二価、三価、四価、五価、六価アルコ−ルのいずれか一つ(不飽和結合を含んでも、また分岐していてもかまわない)とからなるモノ脂肪酸エステルまたはジ脂肪酸エステルまたはトリ脂肪酸エステル、アルキレンオキシド重合物のモノアルキルエ−テルの脂肪酸エステル、炭素数8〜22の脂肪酸アミド、炭素数8〜22の脂肪族アミン、などが使用できる。
これらの具体例としては脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸、などが挙げられる。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2ーエチルヘキシルステアレート、2ーオクチルドデシルパルミテート、2ーヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、アルコール類ではオレイルアルコ−ル、ステアリルアルコール、ラウリルアルコ−ル、などがあげられる。また、アルキレンオキサイド系、グリセリン系、グリシド−ル系、アルキルフェノ−ルエチレンオキサイド付加体、等のノニオン界面活性剤、環状アミン、エステルアミド、第四級アンモニウム塩類、ヒダントイン誘導体、複素環類、ホスホニウムまたはスルホニウム類、等のカチオン系界面活性剤、カルボン酸、スルフォン酸、燐酸、硫酸エステル基、燐酸エステル基、などの酸性基を含むアニオン界面活性剤、アミノ酸類、アミノスルホン酸類、アミノアルコ−ルの硫酸または燐酸エステル類、アルキルベダイン型、等の両性界面活性剤等も使用できる。これらの界面活性剤については、「界面活性剤便覧」(産業図書(株)発行)に詳細に記載されている。これらの潤滑剤、帯電防止剤等は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。
本発明で使用されるこれらの潤滑剤、界面活性剤は個々に異なる物理的作用を有するものであり、その種類、量、および相乗的効果を生み出す潤滑剤の併用比率は目的に応じ最適に定められるべきものである。軟磁性層で融点の異なる脂肪酸を用い表面へのにじみ出しを制御する、沸点、融点や極性の異なるエステル類を用い表面へのにじみ出しを制御する、界面活性剤量を調節することで塗布の安定性を向上させる、潤滑剤の添加量を中間層で多くして潤滑効果を向上させるなど考えられ、無論ここに示した例のみに限られるものではない。一般には潤滑剤の総量として軟磁性微粒子に対し、0.1質量%〜50質量%、好ましくは2質量%〜25質量%の範囲で選択される。
【0021】
本発明で用いられる有機溶媒は任意の比率でアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、テトラヒドロフラン、等のケトン類、メタノ−ル、エタノ−ル、プロパノ−ル、ブタノ−ル、イソブチルアルコ−ル、イソプロピルアルコール、メチルシクロヘキサノール、などのアルコ−ル類、酢酸メチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸イソプロピル、乳酸エチル、酢酸グリコ−ル等のエステル類、グリコ−ルジメチルエーテル、グリコールモノエチルエーテル、ジオキサン、などのグリコールエーテル系、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、クロルベンゼン、などの芳香族炭化水素類、メチレンクロライド、エチレンクロライド、四塩化炭素、クロロホルム、エチレンクロルヒドリン、ジクロルベンゼン、等の塩素化炭化水素類、N,N−ジメチルホルムアミド、ヘキサン等のものが使用できる。これら有機溶媒は必ずしも100%純粋ではなく、主成分以外に異性体、未反応物、副反応物、分解物、酸化物、水分等の不純分が含まれてもかまわない。これらの不純分は30質量%以下が好ましく、さらに好ましくは10質量%以下である。本発明で用いる有機溶媒は表面張力の高い溶媒(シクロヘキサノン、ジオキサンなど)を用い塗布の安定性をあげることが好ましい。また、分散性を向上させるためにはある程度極性が強い方が好ましく、溶剤組成の内、誘電率が15以上の溶剤が50質量%以上含まれることが好ましい。また、溶解パラメ−タは8〜11であることが好ましい。
【0022】
軟磁性層形成用塗料を製造する工程は、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上にわかれていてもかまわない。本発明に使用する軟磁性微粒子、結合剤、カ−ボンブラック、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。本発明の目的を達成するためには、従来の公知の製造技術を一部の工程として用いることができる。混練工程ではオープンニーダ、連続ニ−ダ、加圧ニ−ダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。ニ−ダを用いる場合は軟磁性微粒子と結合剤のすべてまたはその一部(ただし全結合剤の30質量%以上が好ましい)および軟磁性微粒子100部に対し15〜500部の範囲で混練処理される。これらの混練処理の詳細については特願昭62−264722、特願昭62−236872号に記載されている。また、軟磁性層形成用塗料を分散させるにはガラスビーズを用いることができるが、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
軟磁性層の塗布は、公知のグラビア塗布、ロール塗布、ブレード塗布、エクストルージョン塗布装置等を用いて行うことができる。
軟磁性層の厚みは、0.1〜4.0μm、好ましくは0.2〜2.0μm、さらに好ましくは0.5〜1.5μmである。
【0023】
本発明では軟磁性層を塗布によって作製するので、塗布・乾燥工程の後、塗布型媒体では通常の工程であるカレンダー処理を行うことが可能であり、可とう性高分子フィルム表面よりも平滑な表面を形成することができる。軟磁性層の光学式粗さ計(日本ビーコ社製 WYKO)で測定した表面粗さRaは、1〜20nm、好ましくは1〜5nm、さらに好ましくは1〜2nmである。
尚、カレンダ処理ロ−ルとしてエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド等の耐熱性のあるプラスチックロ−ルまたは金属ロ−ルで処理するが、特に両面に軟磁性層を設ける場合は金属ロ−ル同志で処理することが好ましい。処理温度は、好ましくは50℃以上、さらに好ましくは100℃以上である。線圧力は好ましくは200Kg/cm以上、さらに好ましくは300Kg/cm以上である。
【0024】
軟磁性層と後述の下地層の間には、軟磁性層から発生するガス性分を遮蔽することを目的としたガスバリア層を設けることが好ましい。このガスバリア層は下地層の結晶配向性を高めるために用いられるシード層となる材料も使用することができる。このようなガスバリア層としてはC、ダイヤモンドライクカーボン、Ni−P、Ni−Al、Ti、Auやその合金、Agやその合金などを使用することができる。この厚みとしては2〜50nm、好ましくは3〜10nmである。薄すぎるとその効果が得られず、厚すぎると透磁率の低下につながる。
【0025】
軟磁性層あるいはガスバリア層と磁性層との間には、磁気記録層(磁性層)の結晶配向性を高めるための下地層を設けることが好ましい。下地層としてはCrまたはCrとTi、Si、W、Ta、Zr、Mo、Nb等から選ばれる金属との合金、Ruなどを挙げることができる。これらの物質は単独で用いてもよく、二層以上を組み合わせて用いてもよい。この様な下地層を用いることによって、磁性層の配向性を改善できるため、記録特性が向上する。下地層の厚みは2nm〜50nmが好ましく、5nm〜30nmが特に好ましい。薄すぎるとその効果が得られず、厚すぎると透磁率の低下につながる。
【0026】
下地層の結晶配向性向上・下地層結晶粒子サイズおよび分散性の制御、導電性付与、ガスバリヤ性等の目的で下地層の真下にシード層を設けても構わない。
このようなシード層としては、C、ダイヤモンドライクカーボン、Ni−P、Ni−Al、Ti、Auやその合金、Agやその合金などを使用することが望ましいが、それ以外の合金を用いても構わない。
シード層の厚みは、1nm〜30nmが好ましい。この範囲とすることにより生産性が確保されるとともに、結晶粒の肥大化が抑制されることにより、下地層ひいては磁性層中の磁性粒子サイズ低減が可能となる。また、例えばスパッタ時に高分子フィルムに含まれるガスが放出されるため、該シード層を設けることで、高分子フィルムからのガスを遮蔽することができるため、下地層の結晶性を向上させる効果を得ることができる。
シード層を形成する方法としては、真空蒸着法、スパッタ法などの真空成膜法が使用でき、中でもスパッタ法は良質な超薄膜が容易に成膜可能である。
【0027】
磁性層は、支持体平面に対して垂直方向に磁化容易軸を有するいわゆる垂直磁気記録膜である。磁性層は強磁性金属薄膜が使用できるが、好ましくはコバルトを含有する強磁性金属合金であり、特に好ましくはコバルトを含有する強磁性金属合金と非磁性酸化物の混合物からなる磁性層である。この磁性層では強磁性金属合金と非磁性酸化物はマクロ的には混合されているが、ミクロ的には強磁性金属合金微粒子を非磁性酸化物が被覆するような構造となっており、強磁性金属合金粒子の大きさは1nm〜50nm程度である。この様な構造となることで、高い保磁力を達成でき、また磁性粒子サイズの分散性が均一となるため、低ノイズ媒体を達成することができる。またこの様な構造は支持体を加熱することなく、作製可能であることから、本発明の様に可とう性高分子フィルムやその上の樹脂結合材を含んだ軟磁性層を支持体とする際には特に有効である。
コバルトを含有する強磁性金属合金としてはCoとCr、Ni、Fe、Pt、B、Si、Ta等の元素との合金が使用できるが、記録特性を考慮するCo−Pt、Co−Cr、Co−Pt−Cr、Co−Pt−Cr−Ta、Co−Pt−Cr−B等が特に好ましい。
コバルトを含有する強磁性金属合金と非磁性酸化物の混合物を用いる場合の非磁性酸化物としてはSi、Zr、Ta、B、Ti、Al等の酸化物が使用できるが、記録特性を考慮するとSiOxが最も好ましい。またこの酸化物を窒化物で置き換える、あるいは窒化物を添加することも可能である。
コバルトを含有する強磁性金属合金と非磁性酸化物の混合物を用いる場合の混合比は、強磁性金属合金:非磁性酸化物=95:5〜80:20(モル比)の範囲であることが好ましく、90:10〜85:15の範囲であることが特に好ましい。前記比率よりも強磁性金属合金が多くなると、磁性粒子間の分離が不十分となり、保磁力が低下してしまう。 逆にこれよりも少なくなると、磁化量が減少するため、信号出力が著しく低下してしまう。
磁性層の厚みとしては好ましくは5nm〜60nm、さらに好ましくは10nm〜25nmの範囲である。これよりも厚みが厚くなるとノイズが著しく増加してしまい、逆に厚みが薄くなると、出力が著しく減少してしまう。
【0028】
強磁性金属合金、あるいは強磁性金属合金と非磁性酸化物の混合物からなる磁性層を形成する方法としては真空蒸着法、スパッタ法などの真空成膜方式が使用できる。中でもスパッタ法は良質な超薄膜が容易に成膜可能であることから、本発明に好適である。スパッタ法としては公知のDCスパッタ法、DCパルススパッタ法、RFスパッタ法のいずれも使用可能である。スパッタ方式は連続フィルム上に連続して成膜するウェブスパッタ装置が好適であるが、ハードディスクの製造に使用されるような枚様式スパッタ装置や通過型スパッタ装置も使用可能である。ウェブスパッタ法では温度制御された成膜キャン(大型ロール)にウェブを密着させて成膜することが可能であるため、支持体として熱に弱い高分子フィルムを使用しても、成膜による熱ダメージを与えることなく、下地層や磁性層を形成することが可能である。成膜キャンは中空構造になっており、内部に水や冷媒を循環させることで温度を制御する。成膜キャンの表面温度としては−50℃〜100℃の範囲である。ポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレートを使用する場合には0℃〜50℃の範囲が好ましい。
スパッタ時のスパッタガスとしては一般的なアルゴンガスが使用できるが、その他の希ガスを使用しても良い。また強磁性金属合金の粒子分離を促進するため、あるいは非磁性酸化物の酸素含有率を調整するために微量の酸素ガスを導入してもかまわない。
スパッタ法で強磁性金属合金と非磁性酸化物の混合物からなる磁性層を形成するためには強磁性金属合金ターゲットと非磁性酸化物ターゲットの2種を用い、これらの共スパッタ法を使用することも可能であるが、磁性粒子サイズの分散性を改善し、均質な膜を作成するため、コバルトを含有する強磁性金属合金と非磁性酸化物の合金ターゲットを用いることが好ましい。この合金ターゲットはホットプレス法で作製することができる。
磁性層は、Hc(保磁力)が160〜480 kA/m、好ましくは240〜400 kA/m、Bs(飽和磁束密度)は150〜300 mT、好ましくは180〜250 mT、SQ(角型比)は0.8〜1、好ましくは0.9〜1である。
【0029】
保護層は、磁性層に含まれる金属材料の腐蝕を防止し、例えば磁気ヘッドと磁気ディスクとの擬似接触または接触摺動による摩耗を防止して、走行耐久性、耐食性を改善するために設けられる。保護層には、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化コバルト、酸化ニッケルなどの酸化物、窒化チタン、窒化ケイ素、窒化ホウ素などの窒化物、炭化ケイ素、炭化クロム、炭化ホウ素等の炭化物、グラファイト、無定型カーボンなどの炭素等の材料を使用することができる。
保護層としては、磁気ヘッド材質と同等またはそれ以上の硬度を有する硬質膜であり、摺動中に焼き付きを生じ難くその効果が安定して持続するものが、摺動耐久性に優れており好ましい。また、同時にピンホールが少ないものが、耐食性に優れておりより好ましい。このような保護膜としては、CVD法、反応性スパッタ法で作製されるDLC(ダイヤモンドライクカーボン)と呼ばれる硬質炭素膜が挙げられる。
保護層は、性質の異なる2種類以上の薄膜を積層した構成とすることができる。例えば、表面側に摺動特性を改善するための硬質炭素保護膜を設け、磁気記録層側に耐食性を改善するための窒化珪素などの窒化物保護膜を設けることで、耐食性と耐久性とを高い次元で両立することが可能となる。
保護層は、例えばイオンビームデポジション法により設けることが可能であり、その厚みは、2〜20nm、好ましくは3〜8nmがよい。
【0030】
保護層上には、走行耐久性および耐食性を改善するために、潤滑層が設けられる。潤滑層には、公知の炭化水素系潤滑剤、フッ素系潤滑剤、極圧添加剤等の潤滑剤が使用される。
炭化水素系潤滑剤としては、ステアリン酸、オレイン酸等のカルボン酸類、ステアリン酸ブチル等のエステル類、オクタデシルスルホン酸等のスルホン酸類、リン酸モノオクタデシル等のリン酸エステル類、ステアリルアルコール、オレイルアルコール等のアルコール類、ステアリン酸アミド等のカルボン酸アミド類、ステアリルアミン等のアミン類などが挙げられる。
フッ素系潤滑剤としては、上記炭化水素系潤滑剤のアルキル基の一部または全部をフルオロアルキル基もしくはパーフルオロポリエーテル基で置換した潤滑剤が挙げられる。パーフルオロポリエーテル基としては パーフルオロメチレンオキシド重合体、パーフルオロエチレンオキシド重合体、パーフルオロ−n−プロピレンオキシド重合体(CF2CF2CF2O)n、パーフルオロイソプロピレンオキシド重合体(CF(CF3)CF2O)n、またはこれらの共重合体等である。具体的には、分子量末端に水酸基を有するパーフルオロメチレン−パーフルオロエチレン共重合体(アウジモント社製、商品名FOMBLIN Z−DOL)等が挙げられる。
極圧添加剤としては、リン酸トリラウリル等のリン酸エステル類、亜リン酸トリラウリル等の亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸トリラウリル等のチオ亜リン酸エステルやチオリン酸エステル類、二硫化ジベンジル等の硫黄系極圧剤などが挙げられる。
上記の潤滑剤は単独もしくは複数を併用して使用することができ、潤滑剤を有機溶剤に溶解した溶液を、スピンコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、ディップコート法等で保護層表面に塗布するか、真空蒸着法により保護層表面に付着させればよい。潤滑剤の厚みとしては、0.1〜3nmが好ましく、0.5〜2nmが特に好ましい。
また、耐食性をさらに高めるために、防錆剤を併用することが好ましい。防錆剤としては、ベンゾトリアゾール、ベンズイミダゾール、プリン、ピリミジン等の窒素含有複素環類およびこれらの母核にアルキル側鎖等を導入した誘導体、ベンゾチアゾール、2−メルカプトンベンゾチアゾール、テトラザインデン環化合物、チオウラシル化合物等の窒素および硫黄含有複素環類およびこの誘導体等が挙げられる。これら防錆剤は、潤滑剤に混合して保護層上に塗布してもよく、潤滑剤を塗布する前に保護層上に塗布し、その上に潤滑剤を塗布してもよい。防錆剤量としては、前記潤滑剤への混合比として0.01〜100質量%が好ましく、0.1〜50質量%が特に好ましい。
【0031】
以上のような各層を形成することで磁気記録媒体用の原反とすることができる。磁気テープを作製する場合にはこの原反を所定の幅にスリッティングすればよいし、フレキシブル磁気ディスクの場合には所定のサイズに打ち抜けばよい。
上記の様な構成の強磁性金属薄膜を磁性層とするフレキシブル磁気記録媒体はそのままの状態では表面に付着したコンタミ成分、下塗り表面上に塗布した微粒子の凝集物が存在することがあり、実際に設計した突起よりも高い突起が存在することがある。この様な欠陥はMRヘッドやGMRヘッドなどの耐摩耗性が低い高感度ヘッドを使用する場合に、磁気信号のドロップアウトやエラーにつながるだけではなく、これらの磁気ヘッドを破壊してしまうことがある。
このような場合には研磨テープによるブレード加工あるいはバーニッシュ加工を用いることが好ましい。ハードディスク型磁気ディスクのバーニッシュ方法としてはバーニッシュヘッド、グライドヘッドを実際に磁気ディスク上を浮上走行させ、バーニッシュ加工を行うことが一般的であるが、この方法でフレキシブル磁気ディスクを加工しようとすると、バーニッシュヘッドの浮上量が安定しないため、ディスク全面を均一な精度で加工することが難しい。
したがって、フレキシブル磁気ディスクのバーニッシュ方法としては研磨テープをディスク表面に押し当て、加工する方法を用いることが好ましい。この際、研磨テープをディスク表面に押し当てるには研磨テープをバックアップロールやバックアップパッドに沿わせ、このバックアップローラーやバックアップパッドの規制力を利用してディスクと研磨テープを接触させれば良い。フレキシブル磁気ディスクは研磨テープの押し付けによって容易に変形するため、その反対面からも、同様に研磨テープを押し付けて加工すれば良い。また反対面からエアーでディスクを研磨テープに押し付けることもできるが、エアー流によって逆にコンタミネーションが付着することがあるため、好ましくない。
テープの押し付け圧としては50〜200gf/cmの範囲が好ましい。研磨テープの種類にも依存するが、これ以上圧力を高くするとディスクに加工キズが発生しやすく、逆に圧力を低くするとバーニッシュの効果が低くなる。
研磨テープの送り速度は10mm/min〜100mm/minの範囲が好ましく、これ以上遅くなると、研磨テープに付着した加工くずが原因となる加工キズが発生しやすく、逆に速くなると研磨テープの消費量が多くなるため、好ましくない。
ディスクの回転速度は500rpm〜3000rpmが好ましく、これ以上遅くなると加工キズが発生しやすく、逆に速くなるとディスクの回転が不安定となり、加工の均一性が得られ無くなる。
研磨テープ幅とディスクの加工幅が同じか、研磨テープの方が広い場合には、研磨テープとディスクは相対的に移動せずに加工が可能であるが、研磨テープ幅の法がディスク加工幅よりも狭い場合にはディスクに対して研磨テープ位置を移動させて加工幅を確保する。この際、加工位置の最内周から外周に研磨テープを引き抜く方法が最も好ましい。引き抜き速度は50〜700mm/secが好ましい。引き抜き速度が遅くなると、加工キズが発生しやすく、逆に速いとバーニッシュの効果が得られなくなる。加工方向を外周から内周に向けることも可能であるが、フレキシブル磁気ディスクの場合、回転が不安定になりやすく、好ましくない。
研磨テープとしては粒度が10000番以上の高精度加工用研磨テープが使用できる。 研磨テープに使用される研磨剤種としてはダイヤモンド、アルミナ、酸化クロム、酸化鉄などがあげられる。研磨テープはこれらの研磨剤を樹脂結合剤とともに溶剤中に分散させ、これを可とう性支持体上に塗布、乾燥させた後、必要な幅に裁断して使用する。この際、必要に応じて研磨剤と樹脂結合剤の他に、硬化剤、潤滑剤、分散剤等の添加剤を用いることができる。
【0032】
本発明のフレキシブル磁気媒体におけるHc(保磁力)は、700kA/m以下であることが好ましく、300kA/m以上500kA/m以下であることがより好ましい。また、光学式表面粗さ計で測定した表面粗さは、平均中心線粗さRaで3nm以内であることが好ましく、2nm以内であることがより好ましい。平均中心線粗さRaが3nmを超えると、スペーシング量増大による信号出力低下を生じるので、好ましくない。更には、原子間力顕微鏡(AFM)で測定した10点平均粗さRzで50nm以内であることが好ましく、30nm以内であることがより好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例によって制限されるものではない。
実施例1
幅150mm、厚み52μm、表面粗さRa=1.4nmのポリエチレンナフタレートフィルムをグラビアコーターに設置した。このフィルムを搬送させ、フィルムの両面に下記の軟磁性層用磁性塗料を塗布し、100℃の乾燥ゾーンを通過させ、乾燥させた。乾燥後、この原反を7段のカレンダで温度90℃、線圧300Kg/cmにて処理を行い、厚み1μmの軟磁性層を形成した。この段階で、後述の評価用サンプルの切り出しを行なった。軟磁性層のHc(保磁力)は7.2kA/mであり、Bs(飽和磁束密度)は450 mTであった。また、表面粗さRaは2.5nmであった。次にウェブスパッタ装置にこの原反を設置し、水冷したキャン上にフィルムを密着させながら搬送し、軟磁性層上に、DCマグネトロンスパッタ法でCからなるバリア層を20nm、Ruからなる下地層を25nm、(Co70−Pt20−Cr1088−(SiO212からなる磁性層を17nmの厚みで作製し、さらにCからなる保護層を5nmの厚みで形成した。この下地層、磁性層、保護層はフィルムの両面に成膜した。次にこの原反から2.5Inchφディスクサイズのディスクを打ち抜き、両面の保護層表面に分子末端に水酸基を有するパーフルオロポリエーテル系潤滑剤(モンテフルオス社製FOMBLIN Z−DOL)をフッ素系潤滑剤(住友スリーエム社製HFE−7200)に溶解した溶液をディップコート法で塗布し、厚み1nmの潤滑層を形成した。このディスクを1/2inch幅の30000番アルミナ研磨テープを用いて両面同時にバーニッシュ加工した後、金属製カートリッジに組み込んで、フレキシブル磁気ディスクを作製した。
【0034】
実施例1の軟磁性層用磁性塗料
粒状マグネタイト粉 100部
(平均一次粒径:0.2μm、Hc:8.0 kA/m)
カーボンブラック 25部
コンダクテックスSC−U(コロンビアンカーボン社製)
塩化ビニル共重合体 25部
MR104(日本ゼオン社製)
ポリウレタン樹脂 7部
UR5500(東洋紡社製)
イソセチルステアレート 6部
オレイン酸 1.3部
ステアリン酸 1.3部
メチルエチルケトン/シクロヘキサノン(8/2混合溶剤) 250部
【0035】
各成分をニーダで混練した後、サンドミルを用いて分散させた。得られた軟磁性塗料の分散液にポリイソシアネートを13部、さらにシクロヘキサノン30部を加え、1μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過し、軟磁性層用磁性塗料を調整した。
【0036】
実施例2
実施例1において、軟磁性層用磁性塗料の粒状マグネタイトをセンダスト粉(平均粒径:20μm、Hc:0.8 kA/m)に変更した以外は、実施例1と同様に試料を作製した。
【0037】
実施例3
実施例1において、軟磁性層用磁性塗料の粒状マグネタイトを、(NiZn)0.48(Fe240.52(平均粒径:0.05μm、Hc:1.6 kA/m))に変更した以外は、実施例1と同様に試料を作製した。
【0038】
比較例1
実施例1において軟磁性層をスパッタ法で作製した以外は実施例1と同様に試料を作製した。軟磁性層は、Fe65Co2510を用い、基板温度を室温に、膜厚を200nmとした。
【0039】
(評価)
(1)軟磁性層の磁気特性
軟磁性層のみを形成した状態で、その磁気特性を試料振動型磁力計(VSM)を用いて測定した。
(2)軟磁性層の表面粗さ
軟磁性層のみを形成した状態で、その表面粗さを光学式粗さ計(WYKO)を使用して測定した。測定面積は250μm×250μmとした。本発明の実施例では、Raが小さく、非常に平滑な軟磁性層を作製できた。一方、比較例1では表面が非常に粗くなった。 支持体の表面粗さが反映されたものと考えられる。
(3)メディアの磁気特性
作製したフレキシブルディスクの磁気特性をVSMで測定した。
(4)メディアの表面粗さ
作製したフレキシブルディスクの表面粗さを光学式粗さ計(WYKO)を使用して測定した。さらに、各実施例について、その表面粗さRzを、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。AFMの測定面積は30μm×30μmとし、測定ポイント3ヶ所の平均値とした。本発明の実施例では、Raが小さく、非常に平滑なフレキシブルディスクを作製できた。塗布型軟磁性層の表面粗さが非常に小さいことが、フレキシブルディスクの表面粗さに反映されたものと考えられる。一方、比較例1では表面が非常に粗くなった。支持体の表面粗さが反映されたことに加え、スパッタ粒子の粒子成長が生じたものと考えられる。
(5)外観、カール
各実施例について、外観の目視観察とレーザー変位計によるカール(変形量)測定を行なった。比較例1のフレキシブルディスクはカール測定ができないほど、変形が大きかった。軟磁性層の応力、および製膜中に支持体表面が長時間に渡ってプラズマによって加熱されたことが原因と考えられる。一方、本発明の実施例では、ひずみが無いフレキシブルディスクが作製でき、そのカールも小さかった。
【0040】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
可とう性高分子フィルムの少なくとも一方の面に、軟磁性微粒子を含有する塗布型軟磁性層、強磁性金属薄膜からなる垂直磁気記録層、および保護層をこの順に形成したことを特徴とするフレキシブル磁気記録媒体。

【公開番号】特開2006−40457(P2006−40457A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−221268(P2004−221268)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】