説明

フロック加工下地のフロック処理方法及びこの方法により得られる製品

【課題】処理後のフロック加工下地の柔らかで快適な手触りを保つことを可能にし、従来のオフセット印刷方法やホット・マーキングによる印刷方法の通常の実施条件において、特殊な調整も特別な原料の使用も必要とせずに、多色模様を写真品質で正確に再現することを可能にするフロック加工下地のフロックの処理方法及びこの方法により得られる製品を提案する。
【解決手段】フロック加工下地のフロックに水浴中でエマルジョン状態の少量のポリマー樹脂を含浸させ、こうして含浸させたフロック加工下地を乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロック加工下地のフロック処理方法に関するものであり、この下地はどのようなものであってもよく、例えば、紙、ボール紙、プラスチック、織物又は不織布製のものであってよい。また、本発明は、その後に印刷が行われるか否かにかかわらず、本方法によって得られる製品に関するものでもある。
【背景技術】
【0002】
フロック上に多色模様を印刷して、または、着色した若しくは金属被覆したフィルムの熱着(この後者の方法は一般的に「ギルディング」という名称で知られている)によりフロックにマーキングすることによりフロック加工下地を装飾することはよく行われていることである。このように、フロック加工下地は、多くの分野において、例えば、包装および梱包、装飾、衣服あるいは壁装の分野において装飾されている。
【0003】
フロック加工下地は、シルクスクリーン印刷によって装飾することができるが、このような印刷では、使用するシルクスクリーン枠がメッシュ寸法によって制限されるため、細かい中間調の4色刷りで模様を正確に再現することはできない。
【0004】
フロック加工下地は、写真製版印刷により装飾することもできるが、この種の印刷もグラフィック表現の質および細かさの点で限界があり、また、彫刻ローラーのような非常に高価な特殊印刷用具を予め製作する必要がある。
【0005】
さらに、シルクスクリーン印刷も写真製版印刷も、印刷する下地の種類を問わず、フロック上に大量のインクを堆積させる必要がある。
【0006】
また、オフセットあるいはフレキソ印刷法も知られているが、これらの方法は、下記の理由から、フロック加工された表面の装飾用に簡単に使用することができない。
【0007】
シルクスクリーンあるいは写真製版印刷法と異なり、オフセットあるいはフレキソ印刷機は、フロック加工下地上に常に多少とも存在する遊離フロックの影響を受けやすい。すなわち、フロック加工下地が印刷機を通る際にこれらの遊離フロックがフロック加工下地から離れて機械の様々な部分、たとえば駆動ローラーや版部分に固着し、この結果として、印刷の質を低下させ、頻繁な清掃が必要となり、従って、必要となる停止時間が多くなる。
【0008】
オフセット、フレキソあるいはインクジェット印刷は、装飾すべき下地上に少量のインクしか堆積させないため、このインク堆積物のかなりの量が、あらゆる織物の場合と同様にある程度の吸収能を有するフロック加工下地のフロックによって吸収される場合があり、これにより、その分だけ、印刷される色合いの強さが低下し、強調されたあるいは鮮やかな色合いの実現の可能性が制限される。
【0009】
いくつかの条件においては、着色したあるいは金属被覆したフィルムの熱着によるフロック加工下地のマーキングも可能である。このような方法においては、着色されたあるいは金属被覆された層を、一般的に透明のポリエステル・フィルム製の仮下地上に密着させ、その後、フロック加工下地のフロックに前述の層を短時間強く押し付けるパンチのような加熱具を用いてフロック加工下地のフロック上に部分的に転写する。この際、前述の層は、パンチによって押しつぶされた下地のフロック加工部分に転写される。
【0010】
しかしながら、フロック加工下地のマーキングは、フロック加工下地の織物的性状ならびに不規則な性状のため、紙あるいはボール紙のマーキングよりも難しく、このため、特定の密着条件、すなわち、フロック加工下地に適したホット・マーキング用フィルムの選択を正確に遵守する必要があり、また、極めて良好に調整された正確な機械上でマーキング条件を絶対的に遵守する必要がある。これらの条件を完全に遵守したとしても、非常に細かい図柄あるいは非常に小さいサイズの文章のマーキングは、良好な可読条件で実施することができなかったり、摩擦に弱いものとなったりする。
【0011】
フロック加工下地を上記のいくつかの方法で印刷可能にするために、圧力をかけた滑らかなあるいは凹凸模様のある加熱ローラーを用いたカレンダー加工または砂目立てによってフロックを押しつぶしてフロック加工下地を変化させることもできるが、この場合、このようにして押しつぶされたフロック加工下地の外観および手触りが悪化する。
【特許文献1】特開平11−314498号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、処理後のフロック加工下地の柔らかで快適な手触りを保つことを可能にし、従来のオフセット、フレキソ、インクジェットによる印刷方法または着色した若しくは金属被覆したフィルムを用いたホット・マーキングによる印刷方法の通常の実施条件において、特殊な調整も特別な原料の使用も必要とせずに、多色模様、とりわけ4色刷り模様を写真品質で正確に再現することを可能にしつつ、これらの印刷方法によって、このフロック加工下地に印刷することを可能にするようなフロック加工下地のフロックの処理方法及びこの方法により得られる製品を提案することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の課題は、フロック加工下地のフロックに少量のポリマー樹脂を含浸させ、このようにして含浸させたフロック加工下地を乾燥させ、前述の樹脂は、遊離状態のフロックが存在する場合にこれらを下地上に固定し、その後に印刷が行われる場合には、その印刷段階においてフロック内へのインクの浸透を制限するフロック加工下地のフロックの処理方法によって解決される。
【0014】
また、樹脂が、水浴内でエマルジョン状態であることが好ましく、また、この水浴中の樹脂含有率は、乾燥物質重量で2〜12%の範囲内であるのが有利であり、また、とりわけ6〜7%の範囲内であることが好ましいことによって解決される。
【0015】
また、密度が100g/m〜150g/mの範囲内の前述のエマルジョンをフロックに含浸させることによって解決される。
【0016】
また、湿潤、浸透、コーティングあるいは散布等のあらゆる方法により、下地のフロック加工表面側のみのフロック上に湿式環境で樹脂を堆積させることによって解決される。
【0017】
また、水中分散した樹脂をフロックに含浸させた後、こうして含浸させた前述のフロック加工下地を2本の加圧ローラーの間で絞って余分の樹脂を排出し樹脂の堆積を均一化することによって解決される。
【0018】
また、樹脂が、アクリル酸エステル、合成ラテックスおよびポリエステル−ポリウレタンの内から選んだ合成ポリマー樹脂であって、含浸させたフロック加工下地が、柔らかく、乾燥した、非粘着性の手触りを保つようにすることによって解決される。
【0019】
また、下地が、紙、ボール紙、プラスチック、織物あるいは不織布製下地の内から選ぶことによって解決される。
【0020】
また、前述の方法で得られ、密度が2〜12g/m(6〜7 g/mであることが好ましい)の乾燥樹脂を含浸したフロックを有するフロック加工下地によって解決される。
【0021】
また、前述の方法で得られたフロック加工下地に、オフセット、フレキソ、インクジェット又は着色された若しくは金属被覆されたフィルムの熱着による印刷方法によって、多色模様、例えば4色刷り模様が印刷されているフロック加工製品によって解決される。
【0022】
また、フロック加工下地の繊維が乾燥樹脂を含浸しており、この下地の表面が、印刷適性品質を変えることなしに、カレンダー加工または砂目立てによって変化させられているフロック加工製品によって解決される。
【発明の効果】
【0023】
フロック加工下地のフロックに水浴中でエマルジョン状態の少量のポリマー樹脂を含浸させ、こうして含浸させたフロック加工下地を乾燥させるフロック加工下地のフロックの処理方法により、前述の樹脂は、遊離状態のフロックが存在する場合にこれらのフロックを下地に固定し、また、その後に印刷する場合にはその印刷段階においてフロック内へのインクの浸透を制限できる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明に基づく方法の実施について説明する。
【0025】
フロック加工下地は、従来の織物繊維と、選択された下地にフロックを結合するための接着性ポリマー樹脂とを用いて自明の方法で製造される。本発明では、サイズの小さいフロック、たとえば、0.3〜2mmのフロックを用い、繊維は、天然繊維、ビスコースを主原料とするレーヨン繊維あるいは綿繊維の内から選んで、フロック加工された下地が柔らかく快適な手触りを有するようにするのが好ましい。
【0026】
次に、環境保護のために有機溶液内ではなく水浴中でエマルジョン状態の別のポリマー樹脂をフロック加工下地に含浸させる。
【0027】
この分散状態の樹脂を含む水浴を、なんらかの方法、たとえば、湿潤、浸透、コーティングあるいは散布により、フロック加工下地のフロックに均一に堆積させる。一方の塗布用ローラーが前述のエマルジョンを含浸させたフォーム層を含む2本のローラーの間にフロック加工下地を通して、フロック加工下地のフロック上にこのエマルジョンを堆積させるのが有利である。次に、こうして含浸させたフロックを、たとえば、一方が鋼製で他方がゴム製の2本の加圧ローラー間に通して、余分の樹脂を取り除き、樹脂の堆積を均一化する。これは、いわば、含浸させたフロック加工下地の絞り段階である。含浸浴の濃度は、柔らかく快適な手触りを保つようにするために、フロック加工下地上に非常に少量の樹脂を堆積させるように調整するが、樹脂量は、以下で説明するように、その後の印刷を可能にするのに十分なものでなければならない。
【0028】
含浸段階の後、処理浴内に含まれている水分を蒸発させるために、含浸させたフロック加工下地を熱処理炉に通して乾燥させる。次に、こうして処理された製品を巻き、下地の性状に適した条件でコンディショニングする。紙あるいはボール紙製の下地の場合には、コンディショニングの含水比は、下地の水分率に近いものでなければならない。最後に、こうして処理した製品を、希望する印刷の種類に適したサイズに切断するか、様々な印刷機に適した寸法の小さなロール形状に切断する。
【0029】
変形態様として、フロック加工下地をローラーとドクターブレードとの間に通してコーティングによる処理浴の塗布を行ってもよい。
【0030】
フロック内に樹脂が存在することにより、フロックの表面は、紙やボール紙のように、明らかにより規則的なものとなり、この結果として、特殊な調整を行わなくても、通常の実施条件で印刷が可能なことに注目することが重要である。とりわけ、フロック内に樹脂が存在することによりフロックによるインクの吸収が制限されるため、オフセットまたはフレキソ印刷あるいはインクジェットによる印刷を行うことができる。さらに、遊離状態のフロックは樹脂によって下地上に留められるため、これらのフロックが印刷機の部分に固着するおそれがなくなる。
【0031】
また、本発明の方法による処理後にはフロック加工下地のブラッシングまたはクリーニングは行わないほうが良いことにも注意する必要がある。
【0032】
さらに、処理後に、凹凸模様付きの加熱ローラーを用いてカレンダー加工または砂目付けによりフロックを押しつぶして表面を変化させることも完全に可能であることにも注目する必要がある。この場合には、こうして押しつぶされた下地の外観および手触りは変わるが、この処理によって予め与えられた印刷品質は変わらない。
【0033】
特定の実施例に関して本発明の説明を行ったが、言うまでもなく、本発明が、いかなる場合にも、これらに限定されるものではなく、また、本発明が、説明した手段のすべての同等技術ならびに本発明の枠内に入るこれらの同等技術の組み合わせを含むものであることは明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロック加工下地のフロックに水浴中でエマルジョン状態の少量のポリマー樹脂を含浸させ、こうして含浸させたフロック加工下地を乾燥させ、前記樹脂は、遊離状態のフロックが存在する場合には、これらのフロックを下地に固定し、また、その後に印刷する場合には、その印刷段階においてフロック内へのインクの浸透を制限するためのものであることを特徴とする、フロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項2】
水浴中の前記樹脂の含有率が乾燥物質重量で2〜12%の範囲内であって、有利には6〜7%の範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載のフロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項3】
密度が100g/m〜150g/mの範囲内の前記エマルジョンをフロックに含浸させることを特徴とする、請求項1に記載のフロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項4】
湿潤、浸透、コーティング又は散布等によって、前記フロック加工下地のフロック加工表面側のみのフロック上に湿式環境で前記樹脂を堆積させることを特徴とする、請求項1から3までのいずれか1項に記載のフロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項5】
水中分散した前記樹脂をフロックに含浸させた後、余分の樹脂を排出し樹脂の堆積を均一化するためにこうして含浸させた前記フロック加工下地を2本の加圧ローラー間で絞ることを特徴とする、請求項4に記載のフロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項6】
前記樹脂が、アクリル酸エステル、合成ラテックスおよびポリエステル−ポリウレタンの内から選んだ合成ポリマー樹脂であり、この結果として、こうして樹脂を含浸させたフロック加工下地が、柔らかく、乾燥した、非粘着性の手触りを保つことを特徴とする、請求項1から5までのいずれか1項に記載のフロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項7】
前記フロック加工下地の下地が、紙、ボール紙、プラスチック、織物または不織布製下地の内から選ばれた下地であることを特徴とする、請求項1から6までのいずれか1項に記載のフロック加工下地のフロックの処理方法。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法で処理したフロック加工下地であって、密度が2〜12g/m(有利には、6〜7 g/m)の範囲内の乾燥樹脂を含浸させたフロックを有することを特徴とするフロック加工下地。
【請求項9】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法で処理したフロック加工下地に、オフセット、フレキソ、インクジェット、又は着色された若しくは金属被覆されたフィルムの熱着による印刷法により、多色(有利には、4色)刷りの模様が印刷されていることを特徴とするフロック加工製品。
【請求項10】
請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法で処理したフロック加工下地の表面が、印刷適性品質を変えることなしに、カレンダー加工または砂目立てによって変化させられていることを特徴とするフロック加工製品。

【公開番号】特開2006−175335(P2006−175335A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369817(P2004−369817)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(504469640)ソシエテ ダンドゥクスィオン エ ド フロカージュ (1)
【Fターム(参考)】