説明

フロリジン誘導体ならびにその製造方法

【課題】フロリジンを適切な官能基をもつ水溶性高分子とスペーサーを介し結合させることにより、水溶性を向上させ、優れた血糖降下作用を有し、加えて、フロレチン部分を高分子鎖と結合させたことにより、フロリジンの加水分解が起こった場合にも、フロレチンが腸管内に吸収されることはなく、促進拡散型の糖輸送担体を全く阻害しない糖尿病の予防および治療が可能な水溶性ポリマー結合性経口フロリジン誘導体の提供。
【解決手段】一般式[1](式中、Aはスペーサー、−R−R’−は水溶性ポリマーでありR及びR’は各々ポリマーの1単位を意味する。R’はスペーサーAを介して又は介することなくフロリジンと結合している。水溶性ポリマーのスペーサーAを介した又は介することないフロリジンへの結合部位は4’,6’又は4位でありうる)で示されるフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、経口糖尿病治療剤ならびに予防剤として有用なフロリジン誘導体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
これまで、糖尿病の治療には、インスリン投与の他、経口糖尿病治療剤であるスルフォニル尿素系製剤、ビグアナイド系製剤等が用いられてきたが、いずれも副作用があるため、副作用のないより安全な糖尿病治療剤の開発が望まれている。他方、糖尿病の発症ならびに進展に高血糖状態が関与するという報告がなされ、血糖値を正常に維持しながら余分な糖を直接尿中に排泄させることにより、糖尿病の予防・治療が可能であると考えられてきた。
フロリジンは、リンゴ、ナシ等のバラ科植物の樹皮や根皮に含まれる配糖体であり、腸管及び腎臓の絨毛膜に存在するナトリウム-グルコース共輸送体を阻害することにより、腸管でのグルコースの吸収ならびに腎臓でのグルコースの再吸収を阻害し、血糖を降下させることができる。しかし、フロリジンを経口投与すると大部分はフロレチンとグルコースに加水分解され、フロリジンとして作用する割合は小さく血糖降下作用は非常に弱い。また、フロリジンの加水分解により生成するフロレチンは促進拡散型の糖輸送担体を強力に阻害することが知られており、例えば、フロレチンをラットに静脈投与すると脳内グルコース濃度が減少することが報告されている(非特許文献1)ので、長期にわたりこれを使用すると、様々な組織に悪影響を及ぼすと考えられる。そのためフロリジンを経口糖尿病薬として用いた例はない。
【0003】
このフロリジンの副作用を軽減するために誘導体の検討がされている(特許文献1)、(特許文献2)、(特許文献3)、(特許文献4)。しかし、未だ満足されるフロリジン誘導体の開発は完成していない。
【0004】
【非特許文献1】Stroke,14,p.388(1983)
【非特許文献2】J. Pharm. Pharmacol. 52, 303(2000).
【特許文献1】特開平9−124684号公報
【特許文献2】特開平9−124685号公報
【特許文献3】特表2003−238417号公報
【特許文献4】特表2004−018376号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、フロリジンの薬理効果を維持し、しかもフロレチン生成による副作用を除去する手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、フロリジンを適切な官能基をもつ水溶性高分子と結合させることにより、水溶性を向上させ、優れた血糖降下作用を有し、加えて、フロレチン部分を高分子鎖と結合させたことにより、フロリジンの加水分解が起こった場合にも、フロレチンが腸管内に吸収されることはなく、促進拡散型の糖輸送担体を全く阻害しないという特徴をもつフロリジン誘導体を提供する。つまり、本発明は、新規なフロリジン誘導体を提供し、又フロリジンの副作用の防御手段を提供するものである。
【0007】
本発明は、以下よりなる;
1. 一般式〔1〕
【化1】

(式中、Aはスペーサー、-R-R'-は水溶性ポリマーでありR及びR'は各々ポリマーの1単位を意味する。R'はスペーサーAを介して又は介することなくフロリジンと結合している。水溶性ポリマーのスペーサーAを介した又は介することないフロリジンへの結合部位は4'、6'又は4位でありうる)で示されるフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
2.
スペーサーが、エチレン、オリゴエチレン、ポリエチレン、オリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、オリゴエチレンイミン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(ヒドロキシブタン酸)、ポリカプロラクトン、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、単糖、オリゴ糖、多糖である前項1のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
3.
水溶性ポリマーが、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマーである前項1又は2のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
4.
水溶性ポリマー中へのフロリジンユニット(フロリジンとスペーサーAの結合物)又はフロリジンの導入率が、1〜50%である前項1〜3のいずれか一に記載のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
5.
水溶性ポリマーの分子量が、1,000〜1,000,000である前項1〜4のいずれか一に記載のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
6.
フロリジンユニット又はフロリジン自体を水溶性ポリマーの側鎖に結合させることを特徴にするフロリジン副作用の除去方法。
7.
水溶性ポリマーが、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマーである前項6の方法。
8.
フロリジン(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4位、4'位若しくは6'位のヒドロキシル基に対して、末端にアミノ基若しくはカルボキシル基を持つスペーサーを導入してフロリジンユニットを構築しこのユニット又はフロリジン自体を水溶性ポリマーのカルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基若しくはチオール基の部位に複数個結合させることを含むフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の製造方法。
9.
水溶性ポリマーが、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマーである前項8の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の新規なフロリジン誘導体は、優れた血糖降下作用を持ち、フロリジンを上回る血糖降下作用を示し、その上、経口投与でフロリジンが加水分解をおこした場合にも、フロレチン部分の腸管内への吸収が起こらず、促進拡散型の糖輸送担体に対する阻害効果は示さない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の新規なフロリジン誘導体は、一般式〔1〕で示される。
式〔1〕
【化2】

式中、Aはスペーサー、-R-R'-は水溶性ポリマーでありR及びR'はポリマーの1単位を意味する。R'はフロリジンと結合スペーサーAの結合物であるフロリジンユニット又はスペーサーAを介することなくフロリジン自体に直接結合している。フロリジンとスペーサーAを含めた単位をフロリジンユニットという。このフロリジンユニット又はフロリジン自体が水溶性ポリマーに複数個結合している。この結合部位は、フロリジン(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4'、6'又は4位でありうる。水溶性ポリマーは、分子量1,000〜1,000,000のものが使われ、特に好ましくは10,000〜200,000、より好ましくは30,000〜100,000のものが用いられる。この水溶性ポリマーの構成単位の1〜50%、好ましくは5〜30%、より好ましくは10〜20%(100構成単位の18単位にフロリジンユニット又はフロリジン自体が導入されている場合を18%という)の導入率でフロリジンユニット又はフロリジンが導入されている。水溶性ポリマーとしては、例えばアスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマー等が例示される。特に好適には、グルタミン酸の重合体〔式2〕が使われる。
式〔2〕
【化3】

【0010】
本発明でフロリジンと水溶性ポリマーの結合は、フロリジン自体と直接結合させてもよいが、その間にスペーサーAを有するフロリジンユニットとして用いることがより好ましい。スペーサーは特に限定されるものではないが、分子の融通性を保持するために、炭素数2〜50、好ましくは4〜20、より好ましくは5〜15ものが用いられる。例えば、エチレン、オリゴエチレン、ポリエチレン、オリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、オリゴエチレンイミン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(ヒドロキシブタン酸)、ポリカプロラクトン、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、単糖、オリゴ糖、多糖が例示されるが、簡便にはオリゴエチレングリコールあるいはポリエチレングリコールで十分である。
本発明でフロリジンと水溶性ポリマーの結合又はフロリジンとスペーサーの結合は、フロリジン(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4'、6'又は4位でありうるが、より好ましくは4'である。
【0011】
本発明の誘導体は、その薬理学的に許容される塩に調製することが可能である。塩は例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基等の酸性基に対し、アルカリ金属、アルカリ土類金属、アンモニウム、各種アミンの含窒素有機塩基等との塩が例示される。
【0012】
本発明の誘導体は、水溶性の性質を変えない限り、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、チオール基は、各基の保護基をもちうる。各保護基は、カルボキシル基の保護基、ヒドロキシル基の保護基、アミノ基の保護基、チオール基の保護基として公知のものが広く利用可能である。
【0013】
本発明の誘導体は、医薬として用いる場合、通常の製剤化に使用できる賦形剤、担体及び希釈剤等の製剤補助剤を適宜混合しても良く、これらは常法により、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、粉体製剤等の形態で、主に経口から投与することが好ましい。投与量、投与方法、投与回数は、患者の年齢、体重、症状に応じて適宜選択することができるが、通常成人に対しては経口投与により、1日、0.1〜1000mg/kgを1回から数回に分割して投与すればよい。
【0014】
本発明の誘導体を主成分とする医薬の適用対象は、糖尿病の予防・治療であり、血中への糖の移行を抑制し、血中の高血糖状態の抑制に効果がある。
【0015】
又、本発明は、フロリジンの副作用の除去手段を提供する。その手段は、フロリジンユニット又はフロリジン自体を水溶性ポリマーの側鎖に結合させてフロリジンの安定化を図ることを特徴とする。本発明でフロリジンユニットとは、前記の定義のとおりである。このフロリジン自体又はフロリジンユニットを一定の割合で、前記に定義した水溶性ポリマーに導入することで、フロリジンの副作用が除去されるのである。導入割合は前記のとおりである。また、フロリジンユニットは、(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4位あるいは4'位あるいは6'位のヒドロキシル基に末端にアミノ基あるいはカルボキシル基を持つスペーサーを導入してフロリジンユニットを構築する。スペーサーの定義は前記のとおりである。あるいは、(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4位あるいは4'位あるいは6'位のヒドロキシル基に直接水溶性ポリマーを結合させることによっても、フロリジンの副作用の除去を達成可能である。
【0016】
加えて、本発明は、フロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の製造方法であって、フロリジン(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4位あるいは4'位あるいは6'位のヒドロキシル基に、末端にアミノ基あるいはカルボキシル基を持つスペーサーを導入してフロリジンユニットを構築し、このユニットを水溶性ポリマーのカルボキシル基あるいはアミノ基あるいはヒドロキシル基あるいはチオール基の部位に複数個結合させることを含むフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の製造方法である。
また、本発明は、フロリジン(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4位あるいは4'位あるいは6'位のヒドロキシル基に、直接水溶性ポリマーのカルボキシル基あるいはアミノ基あるいはヒドロキシル基あるいはチオール基の部位に複数個結合させることを含むフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の製造方法である。
【実施例】
【0017】
以下で本発明のフロリジン誘導体の調製法を実施例で説明するが、これはフロリジン誘導体の代表例を示すもので本発明を限定するものではない。
実施例1
(フロリジンユニットの調製)
フロリジンユニット調製の概略は反応式〔1〕に示した。
反応式〔1〕
【化4】


1) N-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エチルフタルイミド の合成
トリエチレングリコールモノクロロヒドリン(2-[2-(2-クロロエトキシ)エトキシ]エタノール) 9.0 mL (61.9 mmol)、フタルイミドカリウム 12.5g (67.5 mmol) 、DMF 75 mL を混合し、100 ℃ で17時間撹拌した。不溶物をろ別後、DMFを留去し、ジクロロメタン75 mLと水 75mL で抽出した。ジクロロメタン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、減圧濃縮することで、N-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エチルフタルイミド (黄色透明油状液体14.7g、収率 85 %) を得た。
1H-NMR (CDCl3): δ 3.46 - 3.56 (m, 2H), 3.57 - 3.69 (m,6H), 3.70 - 3.81 (m, 2H), 3.83 - 3.96 (m, 2H), 7.62 - 7.78 (m, 2H), 7.78 - 7.91(m, 2H).

2) 2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタノールの合成
N-[2-(2-ヒドロキシエトキシ)エトキシ]エチルフタルイミド6.6 g (23.6 mmol)、ヒドラジン一水和物 2.0 mL (41.2 mmol)、エタノール120mL を混合し、78 ℃で2時間還流した。室温まで放冷後、不溶物をろ別し溶媒を減圧留去した。その後、ジクロロメタン 100 mL を加えて生じた不溶物をろ別し、ろ液を減圧濃縮することで、2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタノール(薄黄色透明液体 3.4 g、収率 96 %) を得た。
1H-NMR (CDCl3) : δ 2.39 - 2.76 (br, 4H), 2.83 - 2.92 (t,2H, J = 5.0 Hz), 3.47 - 3.58 (t, 2H, J = 5.2 Hz), 3.57 - 3.68 (m, 5H), 3.68 -3.79 (t, 2H, J = 4.4 Hz)

3) 2-{2-[2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)エトキシ]エトキシ}エタノールの合成
2-[2-(2-アミノエトキシ)エトキシ]エタノール4.97 g (33.3 mmol) 、炭酸水素ナトリウム 2.94 g (35.0 mmol)を、氷冷下50mL の脱イオン水に溶解させた。そこへ、ベンジルオキシカルボニルクロリドのトルエン溶液 17.4 mL (濃度 33 %) を加え、室温で一晩撹拌した。その後、酢酸エチル100 mL で抽出し、酢酸エチル層を飽和食塩水 80 mL で洗浄した。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥し、溶媒を減圧留去した。溶離液に酢酸エチル−ヘキサン混合溶液を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、2-{2-[2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-エトキシ]エトキシ}エタノール(無色透明油状液体 1.92 g、収率20%) を得た。
1H-NMR (CDCl3) : δ 3.30 - 3.47 (q, 2H, J = 5.2 Hz), 3.52- 3.61 (q, 3H J = 5.2 Hz), 3.61 - 3.67 (br, 4H), 3.68 - 3.79 (t, 2H, J = 4.4Hz), 5.10 (s, 2H), 7.27 - 7.45 (5H)
FAB-MS : 284.2 (M+1)+

4) 2-{2-[2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-エトキシ]エトキシ}エタノールのメタンスルホニル化反応
窒素雰囲気下、2-{2-[2-(ベンジルオキシカルボニルアミノ)-エトキシ]エトキシ}エタノール 0.67 g (2.36 mmol)、トリエチルアミン1.65 mL (11.8 mmol)、メタンスルホニルクロリド 0.37 mL (4.72 mmol)、ジクロロメタン 10 mL を混合し、氷冷下で1時間撹拌後、室温で一晩撹拌した。室温で溶媒を減圧留去し、ジクロロメタン20mL を加えて飽和食塩水30 mL で3回洗浄した。ジクロロメタン層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧濃縮することにより、目的物であるメタンスルホン酸エステル(褐色液体 0.56 g、収率66 %) を得た。
1H-NMR (CD3OD) : δ 3.06 (s, 3H), 3.46 - 3.55 (t, 2H, J =5.4 Hz), 3.55 - 3.67 (d, 4H, J = 6.4 Hz), 3.68 - 3.76 (m, 2H), 4.22 - 4.41 (m,2H), 5.06 (s, 2H), 7.18 - 7.44 (5H).

5) フロリジンとメタンスルホン酸エステルの反応
窒素雰囲気下、フロリジン 0.92 g (1.94 mmol)、炭酸カリウム 0.33 g (2.40 mmol) を DMSO 25 mL に溶解させた。そこへメタンスルホン酸エステルを0.87 g (2.40 mmol) 加え、50 ℃で一晩撹拌した。飽和塩化アンモニウム水溶液で中和後、酢酸エチル 80 mL で2回抽出を行った。酢酸エチル層を無水硫酸マグネシウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。溶離液にクロロホルム−メタノール混合溶媒を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することで、目的物であるフロリジン誘導体(Bn-PRZ) (黄色透明粘稠液体0.31 g、収率 25%) を得た。
1H-NMR (CD3OD) : δ 2.83 - 2.91 (t, 2H, J = 7.2 Hz), 3.32- 3.40 (m, 1H,), 3.42 - 3.50 (m, 5H), 3.50 - 3.56 (t, 2H, J = 5.4 Hz), 3.56 -3.64 (m, 2H), 3.64 - 3.71 (m, 3H), 3.77 - 3.84 (m, 2H), 3.85 - 3.91 (dd, 1H, J= 2.4, 2.4 Hz), 4.03 - 4.22 (t, 2H, J = 4.6 Hz), 4.97 - 5.17 (m, 3H), 6.10-6.14 (d, 1H, J = 2.0 Hz), 6.22 - 6.41 (d, 1H, J = 2.4 Hz), 6.56 - 6.76 (dt,2H, J = 9.0, 2.4 Hz),6.95 - 7.14 (dt, 2H, J = 9.0, 2.4 Hz), 7.17 - 7.45 (m,5H).
FAB-MS : 702.3 (M+1)+
Anal.Calcd (%) for C35H43NO14・2H2O:C,56.98; H, 6.42; N, 1.90
Found:C, 57.39; H, 6.05; N, 1.82

6) フロリジン誘導体 (Bn-PRZ) の脱ベンジルオキシカルボニル反応
試験管中、フロリジン誘導体 (Bn-PRZ) 157 mg (2.23×10-1 mmol) をエタノール 5 mL に溶解させた。そこへパラジウムカーボン(20 %) を83.0 mg 加え、水素加圧下(5気圧)で 一晩撹拌した。パラジウムカーボンをろ過により除去し、溶媒を減圧留去することで、目的物であるフロリジンユニット(Am-PRZ) (うす黄色透明粘稠液体 101 mg、収率 80 %) を得た。
1H-NMR (DMSO-d6) : δ 2.69 - 2.84 (t, 2H, J = 7.4 Hz),2.88 - 3.00 (t, 2H, J = 5.2 Hz), 3.06 - 3.20 (t, 1H, J = 8.4 Hz), 3.21 -3.51(m, 15H), 3.53 - 3.65 (m, 6H), 3.66 - 3.78 (m, 3H), 4.07 - 4.21 (t, 2H, J =4.8 Hz), 4.29 - 4.42 (br, 1H), 4.98 - 5.06 (d, 1H, J = 7.6 Hz), 5.07 - 5.25(br, 1H), 6.05 - 6.19 (d, 1H, J = 2.0 Hz), 6.20 - 6.34 (d, 1H, J = 2.4 Hz),6.54 - 6.76 (dt, 2H, J = 8.6, 2.4 Hz), 6.93 - 7.11 (dt, 2H, J = 8.6, 2.4 Hz).
FAB-MS : 568.2 (M+1)+
Anal.Calcd (%) for C27H37NO12・2H2O:C,53.72; H, 6.85; N, 2.32
Found:C, 53.63; H, 6.42; N, 2.72
【0018】
(実施例2)
(水溶性ポリマーへの導入)
フロリジンユニットの水溶性ポリマーへの導入の概略は反応式〔2〕に示した。
反応式〔2〕
【化5】


また、表1は、γ-PGA、EDC、Am-PRZの混合比を変えることによって、Am-PRZのPGA-PRZにおける導入率を制御できることを示す。なお、導入率は、次の式によった。プロトンの測定はNMRスペクトル測定によった。
導入率=
(芳香環のプロトン数/6 ÷ γ-PGAのメチレンプロトン数/4)x 100(%)
【表1】

氷冷下1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル) カルボジイミド (EDC) 27.8 mg (1.45×10-1 mmol)、γ-PGA (分子量 :60000) 18.7 mg (1.45×10-1 mmol) を脱イオン水 10 mLに溶解させ、30分撹拌した。そこへAm-PRZ27.4 mg (4.83×10-2 mmol)を加え、室温で一晩撹拌した。3日間透析後 (分子量分画:10,000) 凍結乾燥を行うことで、PGA-PRZ(白色固体16.2mg) を得た。
【実験例】
【0019】
以下で本発明のフロリジン誘導体をつかった代表的な実験を示す。
(実験例1)
インビトロ反転腸管法(非特許文献 2)を使って、本発明のフロリジン誘導体のグルコース吸収阻害能について検討をおこなった。インビトロ反転腸管法は、ラット(雄性、7〜8週齢 200グラム)の小腸を切り取り、反転させて、試験管に腸管をセットし調製した。腸管外液には、グルコース溶液90ml(3Hグルコースと試験化合物を添加:グルコース濃度20mM、試験化合物濃度1mM)を使った。腸管内液はpH7.8のリン酸緩衝液(750μl)を使った。試験中、外液に対し、酸素:二酸化炭素=95:5のガスを通気した。反応時間は、60分まで追跡し、各経過時間毎に腸管内液の20μlを採取し、放射活性を測定し、グルコース透過量を算出した。その結果は、図1に示した。フロリジンユニット(Am-PRZ)の導入率が15%、25%のいずれのPGA-PRZもグルコース吸収阻害効果を示した。特に、フロリジンユニット(Am-PRZ)の導入率15%のPGA-PRZは、フロリジンと同等の高いグルコース吸収阻害能を示した。なお、いずれのPGA-PRZもそのグルコース吸収阻害能は、フロリジンユニット(Am-PRZ)の阻害能を有意に上回った。なお、この系において、PGA-PRZ由来のフロリジン部分の腸管通過は確認されなかった。
【0020】
(実験例2)
ラット(雄性、7〜8週齢 200グラム 6匹)を使い、試験化合物の経口投与による血糖値変化への影響を検討した。試験化合物(PGA-PRZ:27mg/0.5mL)(フロリジン:24mg/0.5mL)をラットに経口投与し、投与10分後から20%グルコース水溶液0.5mLを経口投与した。このグルコース水溶液の経口投与から15,30,60,90,120分経過後に、ラットの尾静脈から5μL採血し、実験動物用血糖測定システム グルコース・パイロット(Aventir Biotech, LLC製) を用いて血糖値(グルコース濃度)を測定した。結果は図2に示した。その結果、PGA-PRZの水溶液を投与した時は、グルコース投与後も血糖値は、測定期間中を通じて殆ど上昇せず、フロリジンに比べて優れた血糖降下作用を示すことが確認できた。なお、本発明のPGA-PRZを投与した場合は、ラットにおいて異常は認められなかったし、死亡例もなかった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の新規なフロリジン誘導体は、高血糖状態を抑制し、副作用なく糖尿病の治療・予防に効果的に使用することができる。又、本発明の新規なフロリジン誘導体は健康補助食品的な使用も可能であり、特に糖尿病予備軍の人の食事療法の補助等にも利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】グルコース吸収阻害能評価試験の結果を示す図である。図中、コントロールは阻害剤無添加、Am-PRZはフロリジンユニット(水溶性ポリマーと結合前の物質)、PGA-PRZ25%はフロリジンユニットが25%導入された本願発明化合物、PGA-PRZ15%はフロリジンユニットが15%導入された本願発明化合物、Phloridzinはフロリジン、WithoutNa+はNa+無しの腸管外液を使った系である。
【図2】ラットに試験化合物を経口投与した後の血糖上昇値の経時変化を示す図である。図中、×は水、■はフロリジン、●は本発明化合物を意味する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式〔1〕
【化1】

(式中、Aはスペーサー、-R-R'-は水溶性ポリマーでありR及びR'は各々ポリマーの1単位を意味する。R'はスペーサーAを介して又は介することなくフロリジンと結合している。水溶性ポリマーのスペーサーAを介した又は介することないフロリジンへの結合部位は4'、6'又は4位でありうる)で示されるフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項2】
スペーサーが、エチレン、オリゴエチレン、ポリエチレン、オリゴエチレングリコール、ポリエチレングリコール、オリゴエチレンイミン、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリ(ヒドロキシブタン酸)、ポリカプロラクトン、アミノ酸、オリゴペプチド、ポリペプチド、単糖、オリゴ糖、多糖である請求項1のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項3】
水溶性ポリマーが、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマーである請求項1又は2のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項4】
水溶性ポリマー中へのフロリジンユニット(フロリジンとスペーサーAの結合物)又はフロリジンの導入率が、1〜50%である請求項1〜3のいずれか一に記載のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項5】
水溶性ポリマーの分子量が、1,000〜1,000,000である請求項1〜4のいずれか一に記載のフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩。
【請求項6】
フロリジンユニット又はフロリジン自体を水溶性ポリマーの側鎖に結合させることを特徴にするフロリジン副作用の除去方法。
【請求項7】
水溶性ポリマーが、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマーである請求項6の方法。
【請求項8】
フロリジン(1-[2'-(β-D-グルコピラノシルオキシ)-4',6'-ジヒドロキシフェニル]-3-(4-ヒドロキシフェニル)プロパン-1-オン)の4位、4'位若しくは6'位のヒドロキシル基に対して、末端にアミノ基若しくはカルボキシル基を持つスペーサーを導入してフロリジンユニットを構築しこのユニット又はフロリジン自体を水溶性ポリマーのカルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基若しくはチオール基の部位に複数個結合させることを含むフロリジン誘導体又はその薬理学的に許容される塩の製造方法。
【請求項9】
水溶性ポリマーが、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン、システイン、リシン、ビニルアルコール、ビニルアミン、アクリル酸、メタクリル酸、N-ビニルアミド、N-ビニルアルキルアミド、アクリルアミド、アルキルアクリルアミド、2-ヒドロキシエチルアクリレート、メタクリルアミド、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、グルコシルオキシエチルメタクリレートの重合体若しくはそれらの共重合体、アルギン酸、ペクチン、ヒアルロン酸、キチン、キトサン、アミロース、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン又は第1〜5世代のポリアミドアミン型デンドリマーである請求項8の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−120708(P2008−120708A)
【公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−304541(P2006−304541)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年5月10日 社団法人 高分子学会発行「第55回高分子学会年次大会」に発表、及び、平成18年5月25日 社団法人 高分子学会発行「第55回高分子学会年次大会 ポスター」をもって発表、及び、平成18年9月5日 社団法人 高分子学会発行「第55回高分子討論会」に発表、及び、平成18年9月21日 社団法人 高分子学会発行「第55回高分子討論会 ポスター」をもって発表
【出願人】(800000057)財団法人新産業創造研究機構 (99)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(599058442)
【出願人】(506376001)
【Fターム(参考)】