説明

フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法

【課題】フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を、フロン或いはフロン類似物質を大気中に放出させることなく確実に分解処理すると共に、該合成樹脂発泡体が有する熱エネルギーを資源として有効に利用し得る処理方法を提案すること。
【解決手段】フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wを破砕機6によって破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとを混合粉砕機9によって混合粉砕して合成樹脂発泡体Wが懸濁したスラリー状燃料WOとし、該スラリー状燃料WOの製造時に発生するフロン或いはフロン類似物質を破砕機6、供給設備7等から吸引して該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気として焼成炉1に導入すると共に、製造したスラリー状燃料WOをセメント焼成用の補助燃料として焼成炉1に投入するフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法に関し、詳しくは、発泡剤としてフロン或いはフロン類似物質を使用した、冷蔵庫等の家電機器の断熱材或いは建材用断熱材として使用されていたウレタンフォーム、スチレンフォーム等の合成樹脂発泡体の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、冷蔵庫等の家電機器の断熱材或いは建材用断熱材としては、ウレタンフォーム、スチレンフォーム等の合成樹脂発泡体が主に用いられてきた。特に、ウレタン樹脂は現場発泡成形ができるため広く用いられてきた。これらは独立気泡体を構成しているものが多く、気泡を形成する発泡剤として、発泡適性が良く熱伝導率の低いフロンが用いられ、優れた断熱発泡体が構成されてきた。
【0003】
しかし、フロンは、オゾン層破壊や地球温暖化等の地球環境問題によって、その生産が1996年に全廃されたために、代替フロン発泡剤の検討が進められている。代替フロン発泡剤としては、HCFC、HFC等のフロン類似物質が使用されているが、HCFCについては依然としてオゾン層破壊等の可能性があり、2020年までに原則的生産全廃が決まっている。また、HFCはオゾン層の破壊の危険はないものの、地球温暖化係数が140から11700(二酸化炭素=1)と大きく、その排出抑制が重要な課題となっている。
【0004】
ここで、オゾン層破壊や地球温暖化を防ぐためには、フロンやフロン類似物質の生産を中止するだけでは不十分で、これまでに生産され、使用されてきた大量のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の無害化のための処理が不可欠である。すなわち、フロンやフロン類似物質を発泡剤として含む合成樹脂発泡体をそのまま埋め立て処分した場合には、経時的にフロンやフロン類似物質が大気中に放出され、オゾン層破壊や地球温暖化を招くこととなる。そこで、フロンやフロン類似物質を発泡剤として含む合成樹脂発泡体の廃棄物を完全に分解する技術や制度化が検討されているところである。
【0005】
これらの合成樹脂発泡体に含有されるフロン等の処理に関しては、いくつかの方法が提案されている。
例えば、特許文献1には、合成樹脂発泡体から発泡剤を凝縮して回収する技術が開示されている。また、特許文献2には、発泡ウレタン樹脂中に含まれるフロンの回収法として、発泡ウレタン樹脂を乾留によってウレタンから分離させる方法が開示されている。しかし、これらの技術は、あくまでフロンの回収法に関するもので、回収したフロンの分解処理法については何ら示されていない。また、完全にフロンを合成樹脂発泡体から分離・回収するためにはかなりの時間とエネルギーを要し、効率が悪いと言う課題もあった。
【0006】
また、フロンの分解処理法については、例えば、特許文献3に、プラズマ放電による分解の技術が開示されており、また、特許文献4には、触媒法による分解の技術が開示されている。しかし、これらの技術は、あくまで回収された後のフロンの分解法に関するもので、固体廃棄物、すなわち合成樹脂発泡体からのフロンの分離をも含めた処理法については示されていなかった。従って、これら従来技術の単なる組合せで、廃棄物に含有されるフロンの分解処理を行なうと、フロンの回収に要するエネルギーが必要になり、処理費が嵩むと言う課題があった。
【0007】
一方、特許文献5には、発泡ウレタンからのフロンの回収、及び回収したフロンの破壊処理システムが開示されている。かかるフロンの破壊処理システムは、発泡ウレタンを含有する断熱材を破砕機中で破砕し、その時に発生したフロンガス及び/又は可燃性ガスを空気と一緒に吸引し、該フロンガス及び/又は可燃性ガスと空気とを、炭化水素化合物を少なくとも10重量%以上含み且つ排ガスの温度が850℃〜1000℃である焼却炉に送り込むことで、該フロンガス及び可燃性ガスを破壊・燃焼処理するものである。
【0008】
【特許文献1】特開平3−500857号公報
【特許文献2】特開平7−166352号公報
【特許文献3】特開平4−279179号公報
【特許文献4】特開平4−313344号公報
【特許文献5】特開2003−302031号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献5に開示されたシステムにあっては、破砕によってフロンを分離するものであるため、かなりの粒径まで発泡ウレタンを破砕しなければならず、その破砕コストは高騰する。また、微粉砕されたウレタン粉は粉塵爆発の危険性が高い上、発泡ウレタンに可燃性ガスが用いられている場合は、更に爆発の危険性が高くなる。更に、フロン或いはフロン類似物質には沸点が常温より低いものがあり、単に破砕しただけでは発泡ウレタン中に存在するフロンの全量を分離することは不可能と考えられるが、破砕機によって破砕した後の少なからずフロンが残存する発泡ウレタンの処理については、該特許文献5には何ら開示されておらず、破砕した発泡ウレタンの処理が課題となる。また、破砕した発泡ウレタン等の合成樹脂発泡体は、かさ密度が低く、そのままでは搬送が困難であると言う課題も有する。
【0010】
本発明は、上述した背景技術が有する実情に鑑みて成されたものであって、その目的は、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を、フロン或いはフロン類似物質を大気中に放出させることなく確実に分解処理すると共に、該合成樹脂発泡体が有する熱エネルギーを資源として有効に利用し得るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記した目的を達成するため、本発明は、次の〔1〕〜〔6〕のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法とした。
〔1〕フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料とを混合粉砕して合成樹脂発泡体が懸濁したスラリー状燃料とし、該スラリー状燃料の製造時に発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引して該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気として焼成炉に導入すると共に、製造したスラリー状燃料をセメント焼成用の補助燃料として焼成炉に投入することを特徴とする、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
〔2〕フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料とを混合して合成樹脂発泡体が懸濁したスラリー状燃料とし、該スラリー状燃料の製造時に発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引して該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気として焼成炉に導入すると共に、製造したスラリー状燃料をセメント焼成用の補助燃料として焼成炉に投入することを特徴とする、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
〔3〕上記スラリー状燃料中の合成樹脂発泡体の平均粒径が0.1mm以上3mm以下となるように、上記破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料との混合粉砕、或いは上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の破砕が行われることを特徴とする、上記〔1〕又は〔2〕に記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
〔4〕上記破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料との混合粉砕、或いは上記破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料との混合が、液状燃料100重量部に対し、合成樹脂発泡体1〜20重量部で行われることを特徴とする、上記〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
〔5〕上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体が、建材用断熱材であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
〔6〕上記液状燃料の粘度が、200cP以下であることを特徴とする、上記〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
【発明の効果】
【0012】
上記した本発明によれば、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を液状燃料に懸濁させてスラリー状燃料とし、該スラリー状燃料をセメント焼成用の補助燃料として焼成炉に投入するものであるため、固体燃料としての空気圧送と比較し、冷気の導入を最小限に抑えながら合成樹脂発泡体を焼成炉に投入することができ、該合成樹脂発泡体に含有されるフロン或いはフロン類似物質は1500℃以上の高温に曝されて確実に無害化される共に、合成樹脂発泡体は燃焼してその熱エネルギーはセメント焼成に利用される。よって、本発明によれば、従来においてはその大部分がそのまま或いは減容化されて埋め立て処分されていたフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を、既存の設備を利用して資源として有効に使用することが可能となり、フロンやフロン類似物質が大気中に放出されてオゾン層破壊や地球温暖化を招くことを効果的に防止することができると共に、化石燃料の使用量を削減できる効果がある。
【0013】
また、本発明によれば、上記スラリー状燃料の製造時、すなわちフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の破砕時、また合成樹脂発泡体と液状燃料との混合粉砕時或いは混合時等に発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引し、該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気として焼成炉に導入するものであるため、スラリー状燃料の製造時に発生したフロン或いはフロン類似物質は焼成炉において1500℃以上の高温に曝されることとなり、確実に分解処理される。そのため、このスラリー状燃料の製造時においても、フロン或いはフロン類似物質の大気中への放出を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、上記した本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法を、図面を示して詳細に説明する。
先ず、図1は、本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法を実施するセメント焼成設備の一実施の形態を概念的に示した図であって、該図において、1はセメント原料を焼成するロータリーキルン、2はロータリーキルン1の窯前に設けられたバーナー、3は同じくロータリーキルン1の窯前に設けられたフード、4は前記フード3の下方に設けられロータリーキルン1にて生成されたセメントクリンカを搬送しつつ空冷するクリンカクーラ、5a,5b,5c・・は冷却空気を前記クリンカクーラ4内に導入する吸気ブロアー、6はフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wを破砕する破砕機、7は破砕物Wcを移送し、貯留し、定量供給機に供給する一連の装置からなる供給設備、8は液状燃料Oを貯留するタンク、9は前記供給設備7から供給された破砕物Wcを後記する混合粉砕機に計量して供給する定量供給機、10は前記定量供給機9からの破砕物Wcと前記タンク8からの液状燃料Oとを混合粉砕するポンプ機能を有する混合粉砕機、11は破砕機6,供給設備7,及び定量供給機9から吸引したガスを除塵する集塵装置である。
【0015】
この図1に示した設備を用いた本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法は、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wを破砕機6によって破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとを混合粉砕機10によって混合粉砕し、合成樹脂発泡体Wが懸濁したスラリー状燃料WOを製造することとし、該スラリー状燃料WOの製造時に合成樹脂発泡体Wから発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引し、該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気としてロータリーキルン1に導入すると共に、製造したスラリー状燃料WOをセメント焼成用の補助燃料としてロータリーキルン1に投入するものである。
【0016】
ここで、本発明において言うフロンを例示すると、CFC11(CCl3F)、CFC12(CCl22)、CFC113(CCl2F−CClF2)、CFC114(CClF2−CClF2)、CFC115(CClF2−CF3)がある。また、本発明において言うフロン類似物質とは、ハロン(1211:CF2ClBr、1301:CF3Br、2402:CF2BrCF2Br)、代替フロンHCFC(22:CHF2Cl、123:CHCl2CF3、141b:CH3CCl2F)、代替フロンHFC(134a:CH2FCF3)、ハロゲン含有有機溶剤(四塩化炭素、1, 1, 1−トリクロロエタン、トリクロロエチレン等)等の、フロンと同様に地球環境への影響が懸念される発泡剤として用いられる物質を言う。
【0017】
本発明においては、上記フロン或いはフロン類似物質を発泡剤として用いた合成樹脂発泡体W、例えばウレタンフォーム、スチレンフォーム等の廃棄物が対象となる。特に、建材用断熱材として用いられたフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体は、今後、建築物の解体時等において大量に発生することが予想されると共に、合成樹脂発泡体が金属等の部材に内包されている家電製品と異なり、合成樹脂発泡体単体や、畳の一部材として排出されるため、破砕しやすく、破砕物が全てセメント焼成用補助燃料として利用できるため、本発明において好適に用いられる。
【0018】
上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wを破砕する破砕機6としては、例えば、カッターミル、シュレーダー、ディスインテグレータ、エッジライナー、ピンミル、スクリーンミル等を用いることができ、これらの破砕機6を用いた合成樹脂発泡体Wの破砕粒径は、該破砕物Wcを、後述する混合粉砕機10に投入し得る程度の粒径に破砕されていればよい。
【0019】
上記破砕された合成樹脂発泡体Wcと混合粉砕する液状燃料Oとしては、可燃性液状廃棄物や安価なリサイクル燃料が好ましく、特には、渦巻きポンプを用いて容易に搬送できる粘性の可燃性液状廃棄物、具体的には、20℃でB型粘度計にて測定した粘度が200cpを下回る可燃性液状廃棄物が好ましい。このような可燃性液状廃棄物としては、機械油、動植物油、廃アルコール類、水性或いは油性廃塗料、再生油、エマルジョン燃料等がある。
【0020】
上記合成樹脂発泡体の破砕物Wcと液状燃料Oとの混合割合は、液状燃料100重量部に対し、合成樹脂発泡体の破砕物1〜20重量部が好ましい。これは、合成樹脂発泡体の配合量が20重量部を超えると、液状燃料の割合が少な過ぎ、得られるスラリー状燃料WOの流動性がなくなりバーナー2からの吹き込みが困難となるために好ましくない。また、合成樹脂発泡体の配合量の下限は、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の効率的な無害化処理の観点から、1重量部以上とすることが好ましい。かかる観点から、合成樹脂発泡体の配合割合は、液状燃料100重量部に対し、合成樹脂発泡体の破砕物3〜15重量部が更に好ましい。
【0021】
また、上記合成樹脂発泡体の破砕物Wcと液状燃料Oとを混合粉砕する混合粉砕機10としては、ホモミキサー、インラインミキサ、コロイドミル、ボールミル等を挙げることができ、中でも、ミキサとしての機能だけでなく、ポンプとしての能力をも有するもの、例えば、インラインミキサ、パイプラインホモミキサ等を好適に用いることができる。
【0022】
上記混合粉砕機10による合成樹脂発泡体Wの目標破砕粒径は、平均粒径0.1mm以上3mm以下となるように行われることが好ましい。具体的には、粒径が大きすぎると破砕物Wcが大量のガスを含むことから、配管中で液体燃料Oと分離し、閉塞することがある。発明者は、粒径の影響を調査した結果、平均粒径を3mm以下とすることで閉塞の問題が大きく改善されることを確認した。一方、平均粒径を0.1mm未満にしてもハンドリング性に変化はみられないことが判明し、また、これ以上細かくすることは破砕効率を低下させることから、平均粒径は0.1mm以上とすることが望ましいことがわかった。すなわち、平均粒径0.1mm以上3mm以下に破砕されていればよい。
【0023】
本発明においては、上記スラリー状燃料WOの製造時、すなわち、上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wの破砕時、破砕した合成樹脂発泡体Wcの貯留時、更には必要に応じて該破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとの混合粉砕時等に発生するフロン或いはフロン類似物質を破砕機6、供給設備7、定量供給機9、及び混合粉砕機10(図示した実施の形態においては、混合粉砕機10として気体の放出の虞のないインラインミキサを使用したため、破砕機6、供給設備7、定量供給機9のみ)から吸引し、該吸引ガスを集塵装置11を介してセメント焼成用の燃焼空気としてロータリーキルン1に導入している。そのため、スラリー状燃料の製造設備である破砕機6、供給設備7等はセメント焼成設備の近傍に設置されている必要がある。また、ロータリーキルン1への吸引ガスの導入位置は、具体的には、ロータリーキルン1の窯前に設置されたクリンカクーラ4の第1室4a、或いは第2室4bより導入させる。
【0024】
これは、クリンカクーラ4の空気室は、ロータリーキルン1に近い方の空気室より順次第1室4a、第2室4b、第3室4c・・と称されており、第1室4a、第2室4bの空気室に導入された空気は燃焼空気としてロータリーキルン1に供給され、第3室4c以降の空気室に導入された空気は図示していない仮焼炉、石炭ミル等に供給される可能性があるためである。そのため、クリンカクーラ4の第1室4a、或いは第2室4bに冷却空気を導入する吸気ブロアー5a或いは5bに(図示の実施の形態では、吸気ブロアー5aに)、破砕機6、供給設備7等に連通する配管が集塵装置11を介して接続されている。また、集塵装置11により集塵されたガス中の固形分は供給設備7に戻される。なお、集塵装置11の排気は、集塵装置11に付属しているファンの圧力により、クリンカクーラ4の第1室4a、或いは第2室4bに直接導入してもよい。
【0025】
セメント焼成用の燃焼空気としてロータリーキルン1に導入されたフロン或いはフロン類似物質は、1500℃以上の高温に曝されることとなり、確実に分解処理される。そして、その際に生じる有害な塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等はセメント原料と反応してセメント原料中に取り込まれ、他に何らの特別な処理を施すことなく無害化処理される。
【0026】
また、本発明においては、上記破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとの混合粉砕物であるスラリー状燃料WOは、セメント焼成用の補助燃料としてロータリーキルン1に投入される。この際、破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとの混合粉砕物からなるスラリー状燃料WOは、合成樹脂発泡体Wが懸濁した流動性を有する液状物であるため、図示した実施の形態のように、混合粉砕機10としてポンプ機能を有するインラインミキサを使用した場合には、該インラインミキサの搬送力によってそのままバーナー2に補助燃料として投入することができる。
【0027】
補助燃料としてロータリーキルン1に投入されたスラリー状燃料WO中に懸濁した状態で存在する合成樹脂発泡体Wが含有するフロン或いはフロン類似物質は、1500℃以上の高温に曝されて瞬時に熱分解して確実に無害化されると共に、液状燃料O及び合成樹脂発泡体Wは燃焼し、その熱エネルギーがセメント焼成に利用されることとなり、熱資源として有効に使用される。
【0028】
次に、図2に基づいて、本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法の他の実施の形態を説明する。
この図2において、1〜9及び11は、図1と同様の装置をさす。すなわち、1はロータリーキルン、2はバーナー、3はフード、4はクリンカクーラ、5a,5b,5c・・は吸気ブロアー、6は破砕機、7は供給設備、8はタンク、9は定量供給機、11は集塵装置である。
一方、20は上記定量供給機9より供給された合成樹脂発泡体の破砕物Wcとタンク8より供給された液状燃料Oとを混合する混合機、21は混合されたスラリー状燃料WOをバーナー2に圧送するポンプである。
【0029】
この図2に示した設備を用いた本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法は、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wを破砕機6によって破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとを混合機20によって混合し、合成樹脂発泡体Wが懸濁したスラリー状燃料WOを製造することとし、該スラリー状燃料WOの製造時に合成樹脂発泡体Wから発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引し、該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気としてロータリーキルン1に導入すると共に、製造したスラリー状燃料WOをセメント焼成用の補助燃料としてロータリーキルン1に投入するものである。
【0030】
すなわち、図1の設備を用いた本発明と、図2の設備を用いた本発明とは、合成樹脂発泡体Wと液状燃料Ooとの混合を、混合粉砕機10で行うか、混合機20を用いて行うかの相違がある。
そのために、図1の設備を用いた場合においては、破砕機6による合成樹脂発泡体Wの破砕粒径は、後に混合粉砕機10による混合粉砕工程があるために、混合粉砕機10に投入し得る程度の粒径に破砕されていれば十分であったが、図2の設備を用いる場合には、破砕機6による合成樹脂発泡体Wの目標破砕粒径は、液状燃料Oとの混合性、混合により得られたスラリー状燃料WOの安定性及び圧送性、更には該破砕工程の経済性等の観点から、混合機20により得られるスラリー状燃料中の合成樹脂発泡体の平均粒径が0.1mm以上3mm以下となるように行われることが好ましい。
【0031】
また、上記合成樹脂発泡体Wを破砕する破砕機6としては、例えば、カッターミル、シュレーダー、ディスインテグレータ、エッジライナー、ピンミル、スクリーンミル等を用いることができ、これらの装置を単独で用いてもよく、また多段に構成し、例えば、先ずカッターミルで合成樹脂発泡体Wを粗砕した後、スクリーンミルで上記目標粒径まで破砕する構成としてもよい。
【0032】
破砕した合成樹脂発泡体の破砕物Wcと液状燃料Oとを混合する混合機20としては、例えばオムニミキサ、ナウタミキサ、V型ミキサ、二軸ミキサ等を用いればよく、その場合の混合割合は、上記した実施の形態の場合と同様に、液状燃料100重量部に対し、合成樹脂発泡体の破砕物1〜20重量部が好ましく、更には、液状燃料100重量部に対し、合成樹脂発泡体の破砕物3〜15重量部が好ましい。この合成樹脂発泡体の破砕物Wcと液状燃料Oとの混合工程は、混合機20を複数台並列に設置し、バッチを切り替えながら連続使用する構成としてもよい。
【0033】
この本発明においても、上記スラリー状燃料WOの製造時、すなわち、上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体Wの破砕時、破砕した合成樹脂発泡体Wcの貯留時、更には該破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとの混合時等に発生するフロン或いはフロン類似物質を破砕機6、供給設備7及び混合機20から吸引し、該吸引ガスを集塵装置11を介してセメント焼成用の燃焼空気としてロータリーキルン1に導入している。
【0034】
セメント焼成用の燃焼空気としてロータリーキルン1に導入されたフロン或いはフロン類似物質は、1500℃以上の高温に曝されることとなり、確実に分解処理される。そして、その際に生じる有害な塩化水素(HCl)、フッ化水素(HF)等はセメント原料と反応してセメント原料中に取り込まれ、他に何らの特別な処理を施すことなく無害化処理される。
【0035】
また、この本発明においても、上記破砕した合成樹脂発泡体Wcと液状燃料Oとの混合物であるスラリー状燃料WOは、ポンプ21によりセメント焼成用の補助燃料としてロータリーキルン1に投入される。
【0036】
補助燃料としてロータリーキルン1に投入されたスラリー状燃料WO中に懸濁した状態で存在する合成樹脂発泡体Wが含有するフロン或いはフロン類似物質は、1500℃以上の高温に曝されて瞬時に熱分解して確実に無害化されると共に、液状燃料O及び合成樹脂発泡体Wは燃焼し、その熱エネルギーがセメント焼成に利用されることとなり、熱資源として有効に使用される。
【0037】
以上、本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法の好適な実施の形態を説明したが、本発明は、何ら既述の実施の形態に限定させるものではなく、特許請求の範囲に記載した本発明の技術的思想の範囲内において、種々の変形及び変更が可能であることは当然である。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法を実施するセメント焼成設備の一実施の形態を概念的に示した図である。
【図2】本発明に係るフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法を実施するセメント焼成設備の他の実施の形態を概念的に示した図である。
【符号の説明】
【0039】
1 ロータリーキルン
2 バーナー
3 フード
4 クリンカクーラ
4a,4b,4c・・ クリンカクーラの第1室,第2室,第3室・・
5a,5b,5c 吸気ブロアー
6 破砕機
7 供給設備
8 タンク
9 定量供給機
10 混合粉砕機
11 集塵装置
20 混合機
21 ポンプ
W フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体
Wc 合成樹脂発泡体の破砕物
O 液状燃料
WO スラリー状燃料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料とを混合粉砕して合成樹脂発泡体が懸濁したスラリー状燃料とし、該スラリー状燃料の製造時に発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引して該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気として焼成炉に導入すると共に、製造したスラリー状燃料をセメント焼成用の補助燃料として焼成炉に投入することを特徴とする、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
【請求項2】
フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体を破砕し、該破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料とを混合して合成樹脂発泡体が懸濁したスラリー状燃料とし、該スラリー状燃料の製造時に発生するフロン或いはフロン類似物質を吸引して該吸引ガスをセメント焼成用の燃焼空気として焼成炉に導入すると共に、製造したスラリー状燃料をセメント焼成用の補助燃料として焼成炉に投入することを特徴とする、フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
【請求項3】
上記スラリー状燃料中の合成樹脂発泡体の平均粒径が0.1mm以上3mm以下となるように、上記破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料との混合粉砕、或いは上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の破砕が行われることを特徴とする、請求項1又は2に記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
【請求項4】
上記破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料との混合粉砕、或いは上記破砕した合成樹脂発泡体と液状燃料との混合が、液状燃料100重量部に対し、合成樹脂発泡体1〜20重量部で行われることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
【請求項5】
上記フロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体が、建材用断熱材であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。
【請求項6】
上記液状燃料の粘度が、200cP以下であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載のフロン或いはフロン類似物質を含有する合成樹脂発泡体の処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−89979(P2010−89979A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−260118(P2008−260118)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000000240)太平洋セメント株式会社 (1,449)
【Fターム(参考)】