説明

ブタノール、水および有機抽出剤の混合物からのブタノール回収

水不溶性有機抽出剤、水、ブタノール、および場合によっては非凝縮性気体を含んでなる混合物からブタノールを回収する方法を提供する。ブタノールは、1−ブタノール、イソブタノール、およびそれらの混合物から選択される。第一の蒸留塔からのオーバーヘッド流を、2液相にデカントする。湿性ブタノール相を第二の蒸留塔内で精製し;水相を第一の蒸留塔に戻す。デカンターからの湿性ブタノール相の一部もまた、第一の蒸留塔に戻す。抽出剤は、C〜C22の脂肪族アルコール類、C〜C22の脂肪酸類、C〜C22の脂肪酸エステル類、C〜C22の脂肪族アルデヒド類、およびそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含んでなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全体が参照により本明細書に援用されている2009年7月15日出願の米国仮特許出願第61/225,662号に対する優先権を請求する。
【0002】
抽出発酵法から得られたブタノール含有有機相からブタノールを回収する方法、特に、ブタノール、水、水不溶性有機抽出剤、任意に、非凝縮性気体を含んでなる混合物からブタノールを分離する方法が提供される。
【背景技術】
【0003】
ブタノールは、燃料添加物として、ジーゼル燃料に対する混合成分として、プラスチック工業における原料化学物質として、また、食品および調味料工業における食品用抽出剤としてなど、様々に応用される重要な工業用化学物質である。毎年、100〜120億ポンドのブタノールが石油化学的手段によって生産されている。ブタノール需要の増加が予想されるため、トウモロコシ、サトウキビ、またはセルロース飼料などの再生資源から、発酵により、ブタノールを生産することに対する関心が高まっている。
【0004】
ブタノールを生産する発酵法において、インサイチュ産物除去は、発酵ブロス中のブタノール濃度を制御することにより、微生物のブタノール阻害を有利に減少させ、発酵速度を向上させる。インサイチュ産物除去に関する技術には、ストリッピング、吸着、浸透気化法、膜溶媒抽出、および液−液抽出が含まれる。液−液抽出においては、抽出剤を発酵ブロスと接触させて、発酵ブロスと抽出剤相との間でブタノールを分離する。ブタノールと抽出剤は、分離法により、例えば、蒸留により回収される。回収工程において、ブタノールはまた、抽出剤の使用によって発酵ブロスから除去されたと考えられる任意の水、非凝縮性気体、および/または発酵副産物から分離することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
発酵ブロスからインサイチュ産物除去によって得られたブタノール含有抽出剤相からブタノールを回収する方法が求められている。実質的に水および抽出剤を含まないブタノールを回収する経済的な方法が求められている。また、抽出剤の分解を最少化する分離法も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水不溶性有機抽出剤、水、ブタノール、および場合によっては、非凝縮性気体を含んでなるフィードから、1−ブタノール、イソブタノール、およびそれらの混合物よりなる群から選択されるブタノールを分離する方法を提供する。
【0007】
一態様において、本発明は、以下のステップを含んでなる方法である:
a)
(i)水不溶性有機抽出剤、
(ii)水、
(iii)少なくとも1つのブタノール異性体、および
(iv)場合によっては非凝縮性気体
を含んでなるフィードを、第一の蒸留塔内に導入するステップであって、第一の蒸留塔は、ストリッピング区画、および任意にストリッピング区画上方の導入箇所に精留区画を含んでなり、第一の蒸留塔は、ストリッピング区画内の所定の箇所で操作温度Tおよび操作圧力Pを有し、TおよびPは、第一の底部流と第一のオーバーヘッド蒸気流を生じさせるために選択され、第一の底部流は、水不溶性有機抽出剤と水を含んでなり、実質的にブタノールを含まず、第一のオーバーヘッド蒸気流は、水、ブタノールおよび場合によっては、非凝縮性気体を含んでなるステップと;
b)第一のオーバーヘッド蒸気流を凝縮して、気相を生じさせ、第一の混合凝縮物を回収するステップであって、第一の混合凝縮物が、
(i)ブタノールと約30質量%未満の水とを含んでなるブタノール相;および
(ii)水と約10質量%未満のブタノールとを含んでなる水相
を含んでなるステップと;
c)水相の少なくとも一部を、第一の蒸留塔へ導入するステップと;
d)ブタノール相の第一の部分を、少なくとも1つのストリッピング区画を有する第二の蒸留塔内に導入するステップと;
e)第二の蒸留塔を操作して、ブタノールを含んでなり実質的に水を含まない第二の底部流、およびブタノールと水とを含んでなる第二のオーバーヘッド蒸気流を生じさせるステップ。
ここで、抽出剤は、(A)水よりもブタノールを優先的に溶解し、(B)蒸留によってブタノールから分離できるように選択される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の方法を実施するために有用なシステムの一実施形態を示している。
【図2】本発明の方法のモデリングに用いられた工程の略図を示している。
【発明を実施するための形態】
【0009】
出願者は、本開示において、引用された全ての参考文献の内容全体を具体的に援用している。また、量、濃度、または他の値またはパラメーターが範囲、好ましい範囲、または好ましい上値および好ましい下値として挙げられている場合、それらの範囲が別個に開示されているかどうかに関わらず、任意の上限値または好ましい値と任意の下限値または好ましい値との対から形成される全ての範囲を具体的に開示しているものとして理解すべきである。本明細書で数値の範囲が挙げられている場合、別に記述しない限り、その範囲は、その端点、ならびにその範囲内の全ての整数および小数を含むものとする。範囲を定義している場合、本発明の範囲を挙げられた特定の値に限定することは意図されていない。
【0010】
定義
本開示には、以下の定義を用いる。
本明細書に用いられる「ブタノール」は、特に、ブタノール異性体である1−ブタノール(1−BuOH)および/またはイソブタノール(iBuOHまたはI−BUOH)の個々を、または混合物を言う。2−ブタノールおよびtert−ブタノール(1,1−ジメチルエタノール)は、本発明から特に除外される。
【0011】
本明細書に用いられる「インサイチュ産物除去」とは、生物学的工程における産物濃度を制御するために、発酵などの生物学的工程から特定の発酵産物を選択的に除去することを意味する。
【0012】
本明細書に用いられる「発酵ブロス」とは、存在する微生物によってブタノール、水、および二酸化炭素(CO)への糖類の反応により産物ブタノールが作られている発酵器に保持されている水、糖類、溶解固体、懸濁固体、微生物生産ブタノール、産物ブタノール、および材料の他の全ての成分の混合物を意味する。発酵ブロスは、二相発酵抽出における水相である。時々、本明細書に用いられる用語「発行培地」を「発酵ブロス」と同義に用いることができる
【0013】
本明細書に用いられる「発酵器」は、糖類から産物ブタノールが作られる発酵反応が実施される容器を意味する。用語「発酵槽」は、本明細書において「発酵器」と同義に用いることができる。
【0014】
本明細書に用いられる用語「有効力価」とは、発酵培地1リットル当り、発酵によって生じるブタノールの総量のことである。ブタノールの総量には以下のものが含まれる:(i)発酵培地中のブタノール量;(ii)有機抽出剤から回収されたブタノール量;および(iii)気体ストリッピングが用いられる場合は、気相から回収されたブタノール量。
【0015】
本明細書に用いられる用語「水相力価」とは、発酵ブロス中のブタノール濃度のことである。
【0016】
本明細書に用いられる「ストリッピング」とは、液流からの揮発性成分の全部または一部を気体流内へ移す処置のことである。
【0017】
本明細書に用いられる「ストリッピング区画」とは、ストリッピング操作が行われる接触装置の部分を意味する。
【0018】
本明細書に用いられる「精留」とは、高沸点成分から低沸点成分を分離し精製するために、気体流から凝縮可能成分の全部または一部を、液流へ移す処置のことである。
【0019】
本明細書に用いられる「精留区画」とは、精留操作が行われる供給箇所上方の蒸留塔の区画、すなわち、塔に供給流が流入する箇所の上方に位置するトレイまたはパッキング物を意味する。
【0020】
本明細書に用いられる用語「分離」は、「回収」と同義であり、当初の混合物から化学化合物を除去して、当初の混合物におけるその化合物の純度または濃度よりも高い純度または濃度の化合物を得ることである。
【0021】
用語「水不溶性」とは、1つの液相を形成するような様式で発酵ブロスなどの水相と混合することができない抽出剤または溶媒などの化学的成分のことである。
【0022】
本明細書に用いられる用語「抽出剤」とは、発酵ブロスからブタノールを抽出するために用いられる1種または複数種の有機溶媒のことである。
【0023】
本明細書に用いられる用語「有機相」とは、発酵ブロスを水不溶性有機抽出剤と接触させることによって得られる二相混合物の非水相のことである。
【0024】
本明細書に用いられる用語「脂肪酸」とは、飽和または不飽和のC〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するカルボン酸のことである。
【0025】
本明細書に用いられる用語「脂肪族アルコール」とは、飽和または不飽和のC〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するアルコールのことである。
【0026】
本明細書に用いられる用語「脂肪族アルデヒド」とは、飽和または不飽和のC〜C22炭素原子の長い脂肪族鎖を有するアルデヒドのことである。
【0027】
非凝縮性気体とは、本明細書に記載されている方法の操作温度で凝縮されない気体のことである。
【0028】
本発明の方法における供給物として有用なブタノール含有抽出剤流には、発酵産物としてブタノールが生じる抽出発酵から得られた任意の有機相が含まれる。典型的なブタノール含有抽出剤流には、有機抽出剤による発酵ブロスの液−液抽出を用いてインサイチュ産物除去が実施される「乾式粉砕」または「湿式ミル」発酵法において生じるものが含まれる。抽出後の抽出剤流は一般に、ブタノール、水および抽出剤を含んでなる。抽出剤流は、本法の操作条件下で不活性であるか、または他の供給物成分と非反応性である気体であり得る非凝縮性気体を、場合によっては含む。このような気体は、例えば、二酸化炭素、窒素、水素、アルゴンなどの希ガス、またはこれらのいずれかの混合物よりなる群における気体から選択できる。抽出剤流はさらに、抽出相へと分画するのに十分な溶解度を有する発酵副産物を任意にさらに含み得る。本法における供給物として有用なブタノール含有抽出剤流は、供給物中、供給物の重量に基づいて、約0.1重量パーセント〜約40重量パーセント、例えば、約2重量パーセント〜約40重量パーセント、例えば、約5重量パーセント〜約35重量パーセントのブタノール濃度であることを特徴とする流れを含む。抽出の効率に依り、発酵ブロス中のブタノール水相力価は、例えば、約5g/L〜約85g/L、または約10g/L〜約40g/Lであり得る。
【0029】
抽出剤は、発酵ブロスからのブタノールの抽出を有用にする特性を有する水不溶性有機溶媒または溶媒混合物である。ブタノール水溶液の室温抽出で評価した場合、抽出剤相中のブタノール濃度が、水相中のブタノール濃度の少なくとも1.1倍であるように、抽出剤は、水相からブタノールを、例えば、少なくとも1.1:1の濃度比で優先的に分離する。好ましくは、ブタノール水溶液の室温抽出で評価した場合、抽出剤相中のブタノール濃度が、水相中のブタノール濃度の少なくとも2倍であるように、抽出剤は、水相からブタノールを、少なくとも2:1の濃度比で優先的に分離する。
【0030】
ブタノール回収工程において実際に用いる抽出剤は、大気圧下で、回収されるブタノールの沸点より少なくとも約30℃高い沸点、または例えば少なくとも約40℃高い沸点、または例えば少なくとも50℃高い沸点を有し、蒸留によってブタノールから分離できる。
【0031】
抽出剤は、C〜C22脂肪族アルコール類、C〜C22脂肪酸類、C〜C22脂肪酸エステル類、C〜C22脂肪族アルデヒド類、C〜C22脂肪族アミド類およびそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1種の溶媒を含んでなる。好適な抽出剤は、オレイルアルコール(CAS番号143−28−2)、ベヘニルアルコール(CAS番号661−19−8)、セチルアルコール(CAS番号36653−82−4)、ラウリルアルコール、1−ドデカノールとも呼ばれる(CAS番号112−53−8)、ミリスチルアルコール(112−72−1)、ステアリルアルコール(CAS番号112−92−5)、1−ウンデカノール(CAS番号112−42−5)、オレイン酸(CAS番号112−80−1)、ラウリン酸(CAS番号143−07−7)、ミリスチン酸(CAS 番号544−63−8)、ステアリン酸(CAS番号57−11−4)、ミリスチン酸メチル(CAS番号124−10−7)、オレイン酸メチル(CAS 番号112−62−9)、ウンデカナール(CAS番号112−44−7)、ラウリンアルデヒド(CAS番号112−54−9)、2−メチルウンデカナール(CAS 番号110−41−8)、オレアミド(CAS番号301−02−0)、リノールアミド(CAS番号3999−01−7)、パルミチンアミド(CAS番号629−54−9)ならびにステアリルアミド(CAS番号124−26−5)およびそれらの混合物よりなる群からさらに選択される。いくつかの態様において、抽出剤はオレイルアルコールを含んでなる。好適な溶媒は、米国特許出願公開第2009030537号明細書ならびに米国特許出願第12/759,283号明細書および第12/758,870号明細書(双方とも2010年4月13日出願)に記載されており、これらは全て、本明細書に参照として援用される。
【0032】
これらの有機抽出剤は、種々の銘柄で、Sigma−Aldrich(ミズーリ州セントルイス市)などの様々な供給元から市販品として入手でき、それらの多くは、ブタノールを生産または除去するために、抽出発酵における使用に好適であり得る。工業用銘柄は、所望の成分および高級ならびに低級の脂肪族成分を含む化合物の混合物を含有する。例えば、市販品として入手できるある工業用銘柄のオレイルアルコールは約65重量%のオレイルアルコールおよび高級ならびに低級の脂肪族アルコールの混合物を含有する。
【0033】
本発明は、水不溶性有機抽出剤、水、ブタノール、および場合によっては非凝縮性気体を含んでなる供給物からブタノールを分離または回収するための方法を提供する。
【0034】
供給物からのブタノールの分離は、蒸留とデカント法の組み合わせによって達成される。蒸留は、少なくとも2つの蒸留塔の使用を含む。デカント法と組み合わせて、第一の塔は、二酸化炭素などの任意の非凝縮性気体、抽出剤例えばオレイルアルコールからのブタノール、および水の分離を実施する。第一の塔からの冷却された塔頂流は、2つの液相へデカントされる。デカンターからの水相の少なくとも一部は、第一の塔に戻され;有機相の一部もまた第一の塔に戻される。第二の塔は、ブタノールと水の分離を実施し、実質的に水を含まないブタノール底部流を提供する。「実質的に水を含まない」とは、底部流に存在する水が、約0.01重量%未満であることを意味する。
【0035】
本発明の方法は、本発明の方法を実施するのに有用なシステムの一実施形態を例示している図1を参照することにより理解することができる。発酵抽出に関する工程における発酵器(示していない)および抽出器(示していない)から得られた供給流100は、第一の蒸留塔500内に導入され、第一の蒸留塔は、ストリッピング区画、および場合によっては、ストリッピング区画上方に供給箇所における精留区画を有する。供給流100を蒸留して、水、ブタノール、および供給物中に存在する場合の任意の非凝固縮性気体を含んでなる第一の底部流110および第一の塔頂蒸気流170を提供する。塔500のストリッピング区画内の所定の箇所における操作温度Tおよび操作圧力Pは、抽出剤と水を含んでなり実質的にブタノールを含まない第一の底部流110を提供するように選択される。「実質的にブタノールを含まない」とは、ブタノールが底部流110の0.01重量%以下を占めることを意味する。蒸留塔500は、少なくとも一つの供給物入口、塔頂蒸気出口、底部流出口、加熱手段、および抽出剤からのブタノールの分離を実施するのに十分な段数を有する任意の従来の塔でよい。流れ130におけるオレイルアルコールの損失が最少であることが望まれる場合、精留区画が必要であり、有機還流150の使用と組み合わせてもよく、または組み合わせなくてもよい。抽出剤がオレイルアルコールを含んでなる場合、蒸留塔500は、再沸器を含む少なくとも5つの段数を有する必要がある。
【0036】
第一の底部流110は、約3重量パーセント〜約12重量パーセントの水および約0.01重量パーセント未満のブタノールを含み得る。底部流110に実質的にブタノールを含まないことを確実にするために、共沸混合物の有機組成に対する水の比率よりも高い比率で水性還流(流れ160)が有機還流(流れ150)を超過するように、蒸留塔500への有機還流に対する水性還流の比率を選択する必要がある。本法は、第一の蒸留塔からの底部流110を、発酵器内に導入すること(示していない)をさらに含んでなる。あるいは、底部流110を分離して(示していない)、水を含んでなる底部水相および抽出剤を含んでなる底部有機相を得、底部有機相の少なくとも一部を発酵器に導入し、場合により底部水相の少なくとも一部を、同一の、または異なる発酵器に導入することができる。例えば、相分離が生じるまで底部流110を冷却することによって、分離を行うことができる。これらの選択肢により、ブタノール回収工程からの第一の底部流110を抽出発酵工程へとリサイクルする手段が提供される。
【0037】
場合により、塔に沿ったいずれかの箇所において、水、蒸気またはそれらの混合物を含んでなる追加流105を第一の蒸留塔500に導入してもよい。水が用いられる場合、水は、液体還流として戻される水性流160と共に供給されることが好ましい。蒸気が用いられる場合、蒸気は、ストリッピング区画内で、または塔の底部から供給されることが好ましい。流れ105の供給箇所は、供給流100の供給箇所と同一であってもよく、または異なっていてもよい。塔への全水性戻り分は、水性流160と任意の流れ105の総計であり、塔への全水性戻り分は、塔の全トレイを通して液体水を維持するのに十分であるように選択する必要がある。また、水性流160と合わせた塔への全水性戻り分が、共沸混合物の有機組成に対する水性組成の比率よりも大きい比率で、塔へ戻されたブタノール流150を超過するように、任意の追加の水、蒸気、またはそれらの混合物の量を選択する必要がある。
【0038】
第一の蒸留塔からの塔頂蒸気流170は、約65.6重量パーセントまでのブタノールおよび最低でも約32.5重量パーセントの水を含み得る。塔頂流は、供給物中に存在していたと考えられる非凝縮性気体を含む。流れ170は、凝縮器550内で凝縮されて、凝縮液体ブタノールおよび凝縮液体水を含んでなる第一の混合凝縮流175を生じさせる。流れ175はまた、供給物中に存在する任意の非凝縮性気体も含む。凝縮器550は任意の従来の設計のものでよい。
【0039】
混合凝縮流175をデカンター700内へ導入し、液体ブタノール相と液体水相とに分離させる。非凝縮性気体によってストリップされているブタノールと水の量を減少させるために、デカンターの温度は約40℃以下に維持することが好ましい。より軽い液体相(上部液体相)である液体ブタノール相は、約30重量%未満、または約16重量%〜約30重量%の水を含み得、さらに、塔500の塔頂に流入する残留抽出剤約0.001重量%未満を含み得る。ブタノール相の抽出剤画分は、塔500内の精留区画を使用することによって最少化することができる。液体水相は、約10重量%未満、または約3重量%〜約10重量%のブタノールを含む。デカンターは、任意の従来の設計のものでよい。
【0040】
供給物中に二酸化炭素などの非凝縮性気体が存在する場合、その非凝縮性気体は、流れ170および流れ175に存在する。非凝縮性気体を含んでなる気相の少なくとも一部は、図1に示すようにこの工程から除去することができる。図1には非凝縮性気体を含んでなる除去流210がデカンター700を出ていくのが示されている。
【0041】
デカンター700から、水相160の少なくとも一部を、第一の蒸留塔500に導入する。水相160は、還流として塔に導入でき、一般にデカンター内で分離された全ての水相を含む。流れ160を塔500へ導入することにより塔温度が低下し、水が底部流に存在することが確保される。このことが有利であるのは、特に、有機酸などの発酵副産物が存在し、抽出剤が、官能基、例えばオレイルアルコールの場合は不飽和炭素−炭素結合など、を含有する場合、高い塔温度により塔底部において抽出剤の分解が生じ得るためである。抽出剤の分解は、抽出発酵法において効率低下を引き起こし得るので回避する必要がある。
【0042】
本法はさらに、デカンターからの水相の少なくとも一部を発酵器に導入すること(示していない)を任意に含むことができる。このことにより、ブタノール回収工程からのいくらかの水を抽出発酵工程へ戻すリサイクルの手段を提供することができる。しかしながら、通常は、ブタノール含量がより低い流れ110を介して水を発酵器にリサイクルさせるのが好ましい。
【0043】
デカンターを出るブタノール相120は、2つの部分に分流される。ブタノール相の第一の部分である流れ130は、ストリッピング区画上方の供給箇所においてストリッピング区画を有する第二の蒸留塔800内に導入される。流れ130が蒸留されて、ブタノールを含んでなる第二の底部流420と、ブタノールと水とを含んでなる第二の塔頂蒸気流180とを提供する。第二の蒸留塔を操作して実質的に水を含まない底部流420を提供する。「実質的に水を含まない」とは、底部420が約0.01重量パーセント未満の水を含んでいることを意味する。蒸留塔800は、所望の分離を実施するために少なくとも1つの供給物入口、1つの塔頂蒸気出口、1つの底部流出口、1つの加熱手段、1つのストリッピング区画、および十分な段数を有するいずれかの従来の塔でよい。塔800は、再沸器を含む少なくとも6段を有する必要がある。
【0044】
ブタノール相の第二の部分である流れ150を、第一の蒸留塔500内に導入する。流れ150は、還流として塔に導入してもよい。流れ150を還流として塔500へ導入することにより、塔500の蒸気流170における抽出剤の損失が抑えられる。流れ120に対する流れ150の比率は、0.1重量パーセント〜50重量パーセントの範囲であり得る。
【0045】
第二の蒸留塔800からの塔頂蒸気流180は、約66.5重量パーセントのブタノールと約32.5重量パーセントの水とを含む。流れ180は、凝縮器850内で凝縮されてブタノールと水とを含んでなる第二の凝縮物流185を生じる。凝縮器850は、任意の従来の設計であってもよい。第二の凝縮物流185の少なくとも一部は、例えば、第二の凝縮物流185をデカンター700内へ供給することによって、第一の混合凝縮物流に導入してもよい。次に先に本明細書に上記したとおり、第一の混合凝縮物流と第二の凝縮物流とを合わせて、液体ブタノール相と液体水相とに分離させ、非凝縮性気体を除去することができる。
【0046】
塔頂蒸気流180はさらに、アセトアルデヒドなどの揮発性発酵副産物を含んでもよい。場合により、流れ180の少なくとも一部をこの工程から除去して(示していない)、揮発性発酵副産物をブタノール回収工程から除去してもよい。
【0047】
混合物の沸点または混合物の最低沸点溶媒の沸点が、水およびブタノールの沸点よりも有意に高い、例えば、少なくとも約30℃高いという条件で、高沸点抽出剤の混合物は、基本的には単一抽出剤と同様に挙動することが予想される。
【0048】
ブタノールの分離または回収に関する本法は、ガソリンと同様のエネルギー含量を有し、任意の化石燃料とブレンドできることが知られているブタノールを提供する。ブタノールは、標準的な内燃機関エンジンで燃焼させた際、COのみを生じ、SOまたはNOがほとんど生じないか、または全く生じないため燃料または燃料添加物として好ましい。また、ブタノールは、エタノールよりも腐食性が低く、今日、最も好ましい燃料添加物である。
【0049】
生物燃料または燃料添加物としての有用性に加えて、本法により回収されるブタノールは、新興燃料電池産業における水素流通問題に影響を与える可能性がある。今日燃料電池は、水素の輸送と流通に関連した安全性問題に悩まされている。ブタノールは、その水素含量に関して容易に改質することができ、また、燃料電池または車両に必要な純度で既存のガスステーションを通して流通させることができる。さらに、本法は、植物由来の炭素源から得られたブタノールを回収し、ブタノール生産のための標準的石油化学方法と関連した負の環境影響を回避する。
【0050】
ブタノールの分離または回収に関する本法の利点の一つは、デカンターから水相の一部を第一の塔に戻すことによって、第一の塔内の温度が比較的低く、例えば、いずれの条件下でも約140℃未満で、また大気圧での操作の場合は100℃近くに維持されることである。例えば、底部流に含まれる発酵副産物との反応またはそれらによる触媒作用を介して底部流中の抽出剤が分解する際に生じ得るような、塔に関連する熱交換器の汚損が、低温により回避されるか、または減少する。低い塔温度はまた、回収工程をより経済的にする。
【0051】
さらなる利点は、抽出剤を含んでなる第一の底部流に実質的にブタノール産物を含まないことが、回収工程において高収率に寄与することである。また、実質的にブタノールを含まないことにより、第一の底部流の発酵工程への任意のリサイクリングが可能になる。それはまた、リサイクルする必要がないとしてもその処理を単純化する。
【0052】
本発明の具体的な実施形態を、前記に説明したが、本発明の本質的な性質の趣旨から逸脱することなく、本発明に、多くの改変、置き換え、および再編成が可能であることは当業者に理解されるであろう。本発明の範囲を示すものとしては、先の明細書ではなく、添付の請求項を参照すべきである。
【0053】
本発明の方法は、この方法の計算モデルを用いて示すことができる。方法のモデリングは、複雑な化学方法をシミュレートするために技術者により使用される確立した方法論である。方法のモデリング用ソフトウェアは、多くの基本的な工業技術計算、例えば、質量とエネルギーバランス,蒸気/液体平衡および反応速度計算を実施する。特に蒸留塔のモデリングは十分に確立されている。実験的に測定された2成分の蒸気/液体平衡データおよび液体/液体平衡データに基づく計算は、多成分混合物の挙動を高い信頼性で予測することができる。この能力は拡張されて、マサセーチュッツ州バーリントン市のAspentechのJoseph Bostonにより開発された「インサイド−アウト」アルゴリズムのような厳密なアルゴリズムを用いて複雑な多段、多成分蒸留塔のモデリングを可能にしている。AspentechからのAspen Plus(登録商標)などの市販のモデリングソフトウェアを、ニューヨーク州ニューヨーク市のAmerican Institute of Chemical Engineersから入手できるDIPPRなどの物性データベースと連結して使用し、方法の正確なモデルおよび評価を開発することができる。
【実施例】
【0054】
本実施例は、ブタノール異性体としてイソブタノール、および抽出剤としてオレイルアルコールを用いた方法のモデリングにより得られた。イソブタノールと1−ブタノールに関する物性の類似性、および水とこれらのブタノール異性体との間の共沸混合物の異質性が類似しているため、1−ブタノールまたは1−ブタノールとイソブタノールとの混合物がブタノール異性体として選択される類似の場合にも同様の結果が予想されるであろう。
【0055】
表1は、抽出発酵から得られ、イソブタノール産物回収領域に流入してくる高濃度溶媒流の典型的な供給物組成を挙げている。これらの組成が、本発明の方法のモデリングに用いられた。実施例において、用語の「高濃度溶媒流」とは、上記で用いた用語「供給流」と同義である。
【0056】
【表1】

【0057】
高濃度溶媒流に関するこれらの組成値は、50MM gal/年のイソブタノールを生産する抽出インサイチュ産物除去技術、およびそれぞれ20g/Lと40g/Lの発酵槽ブロスの水相力価を用いた乾式粉砕設備のシミュレーションにより確立された。高濃度溶媒流は発酵ブロスと平衡にあり、溶媒流量は指定された年産能力に十分合致することが推測された。
【0058】
本発明の方法の実施形態をシミュレーションするためにインプットされた工程パラメータを表2に記載しており、続いて図2には工程の略図を示している。図2において、「QED10」とは、熱交換器52および54を介する溶媒塔供給物と底部産物との間の熱流表示の工程対工程の熱交換を表す。ブロック60は、2つの塔頂流17と18とを組合わせる混合機を表す。方法モデルから算出された特定の寸法および能率結果もまた、表2に記載してある。これらのパラメータは、物性パラメータ、収束および他の計算オプションまたは計算診断に関するパラメータを含まない。溶媒塔への有機還流は、デカンターからの有機相12の全流に基づいた分流画分によって表される。
【0059】
【表2】

【0060】
本発明の方法の操作要件を示すために2つのケースを実施した。各ケースに関して、高濃度溶媒供給流および2つの異なる水相力価が維持された抽出発酵法からの組成に対し特定の改変が成された。独立した各々のシミュレーションにおいて、供給物組成が変わるため、塔の輸送能率および熱交換器の能率が変わる。異なるケース間で生じる設備投資および操作コストを比較することによって、産物回収領域の性能に対する高濃度溶媒供給流および組成の影響を定量化した。しかしながら、これら2つの例は、本発明の方法の操作限界として見なすべきではない。
【0061】
用語の「溶媒塔」とは、上記で用いた用語「第一の蒸留塔」と同義である。用語の「BUOHCOL」とは、上記で用いた用語「第二の蒸留塔」と同義である。略語「OLEYLOH」とは、オレイルアルコールのことである。
【0062】
実施例1に関する流れの結果は、表3に記載してある。BUOHCOL塔輸送量および液体質量組成の概要は、表4に記載してある。溶媒塔輸送量および液体質量組成の概要は、表5に記載してある。
【0063】
実施例2に関する流れの結果は、表6に記載してある。BUOHCOL塔輸送量および液体質量組成の概要は、表7に記載してある。溶媒塔輸送量および液体質量組成の概要は、表8に記載してある。
【0064】
他の重要な方法パラメータには、以下が含まれる:1)溶媒塔における全理論段数および予熱された高濃度溶媒流の供給物位置設定;2)溶媒塔への有機還流の分流画分;および(3)溶媒塔へ供給する前の高濃度溶媒流の予熱程度。これらのパラメータを操作することにより、最適な分離性能を達成することができる。
【0065】
実施例1
本実施例において、11.44重量パーセントのイソブタノールを含有する157,778kg/hrの高濃度溶媒供給物(9)を、工程対工程の熱交換器により32.2℃から80.6℃に加熱し、生じた流れ(10)を3段での溶媒塔に供給する。この供給箇所により、溶媒塔は精留区画とストリッピング区画とに分かれている。この高濃度溶媒供給物の条件は、抽出発酵工程中に維持される発酵槽内の20g/Lの水相力価に相当する。この分離は、より大径の溶媒塔、溶媒塔再沸器と凝縮器のより高い能率により実現する。流れ(11)は、92.6重量パーセントのオレイルアルコールと7.4重量パーセントの水を含有する。流れ(42)は、99.96重量パーセントのイソブタノールである。
【0066】
実施例2
本実施例において、25.1重量パーセントのイソブタノールを含有する71,097kg/hrの高濃度溶媒供給物(9)を、工程対工程の熱交換器により32.2℃から73.2℃に加熱し、生じた流れ(10)を3段での溶媒塔に供給する。この供給箇所により、溶媒塔は精留区画とストリッピング区画とに分かれている。この高濃度溶媒供給物の条件は、抽出発酵工程中に維持される発酵槽内の40g/Lの水相力価に相当する。この分離は、より小径の溶媒塔、溶媒塔再沸器と凝縮器のより低い能率により実現する。流れ(11)は、88.9重量パーセントのオレイルアルコールと11.1重量パーセントの水を含有する。流れ(42)は、99.99重量パーセントのイソブタノールである。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
【表5】

【0070】
【表6】

【0071】
【表7】

【0072】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)
(i)水不溶性有機抽出剤、
(ii)水、
(iii)少なくとも1つのブタノールの異性体、および
(iv)場合によっては非凝縮性気体
を含んでなるフィードを第一の蒸留塔内に導入するステップであって、第一の蒸留塔は、ストリッピング区画、および任意にストリッピング区画上方の導入箇所に精留区画を含んでなり、第一の蒸留塔は、ストリッピング区画内の所定の箇所で操作温度Tおよび操作圧Pを有し、TおよびPは、第一の底部流および第一のオーバーヘッド蒸気流を生じさせるために選択され、第一の底部流は、水不溶性有機抽出剤と水とを含んでなり、実質的にブタノールを含まず、第一のオーバーヘッド蒸気流は、水、ブタノールおよび場合によっては非凝縮性気体を含んでなる、該ステップと;
b)第一のオーバーヘッド蒸気流を凝縮して気相を生じさせ、第一の混合凝縮物を回収するステップであって、第一の混合凝縮物は、
(i)ブタノールと約30質量%未満の水とを含んでなるブタノール相;および
(ii)水と約10質量%未満のブタノールとを含んでなる水相、
を含んでなる、該ステップと;
c)水相の少なくとも一部を第一の蒸留塔に導入するステップと;
d)ブタノール相の第一の部分を、少なくとも1つのストリッピング区画を有する第二の蒸留塔内に導入するステップと;
e)第二の蒸留塔を操作して、ブタノールを含んでなり実質的に水を含まない第二の底部流、およびブタノールと水とを含んでなる第二のオーバーヘッド蒸気流を生じさせるステップと、
を含んでなり、
抽出剤が、(A)水よりもブタノールを優先的に抽出し、(B)蒸留によりブタノールから分離できるように選択される、方法。
【請求項2】
f)ブタノール相の第二の部分を第一の蒸留塔内に導入するステップ;または
g)第二の蒸留塔からのオーバーヘッド蒸気流を凝縮し、第二の凝縮物流を得て、第二の凝縮物流の少なくとも一部を第一の混合凝縮物流中に導入するステップ;または
h)f)およびg)の双方のステップ、
のいずれか1つのステップを任意に含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項3】
水、蒸気、またはそれらの混合物を第一の蒸留塔内に加えるステップをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項4】
水相の少なくとも一部を発酵容器内に導入するステップをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項5】
第一の蒸留塔からの底部流を発酵容器内に導入するステップをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項6】
第一の蒸留塔から底部流を分離して水を含んでなる底部水相と抽出剤を含んでなる底部有機相とを得、底部有機相の少なくとも一部を発酵容器内に導入し、任意に底部水相の少なくとも一部を発酵容器内に導入するステップをさらに含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項7】
請求項1記載の方法であって、非凝縮性気体がフィード中に存在し、その方法からの非凝縮性気体を含んでなる気相の少なくとも一部をパージするステップをさらに含んでなる、上記方法。
【請求項8】
非凝縮性気体が二酸化炭素を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項9】
フィードが抽出発酵から得られた有機相を含んでなる請求項1に記載の方法。
【請求項10】
フィード中のブタノール濃度が、フィードの質量に基づいて約0.1質量パーセント〜約40質量パーセントである請求項1に記載の方法。
【請求項11】
ブタノールが、1−ブタノールとイソブタノールとの混合物ではない請求項1に記載の方法。
【請求項12】
ブタノールが、本質的にイソブタノールからなる請求項11に記載の方法。
【請求項13】
抽出剤が、C〜C22の脂肪族アルコール類、C〜C22の脂肪酸類、C〜C22の脂肪酸エステル類、C〜C22の脂肪族アルデヒド類、およびそれらの混合物よりなる群から選択される少なくとも1つの溶媒を含んでなる請求項4に記載の方法。
【請求項14】
抽出剤が、オレイルアルコールを含んでなる請求項13に記載の方法。
【請求項15】
ブタノールが、本質的に1−ブタノールまたはイソブタノールからなる請求項13に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−533556(P2012−533556A)
【公表日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−520772(P2012−520772)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際出願番号】PCT/US2010/042095
【国際公開番号】WO2011/008927
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(310011310)ビュータマックス・アドバンスド・バイオフューエルズ・エルエルシー (24)
【Fターム(参考)】