説明

ブラケットの製造方法

【課題】第1ブラケット板と第2ブラケット板の溶接固着や、第1ブラケット板と補強板の溶接固着の際の部材の溶け落ちを回避できるブラケットの製造方法を提供する。
【解決手段】 第2ブラケット板立設工程と補強板重合工程から成るブラケット100の製造方法であって、第2ブラケット板立設工程は、第2ブラケット板折曲工程と第1 51及び第2角部52溶接工程と第3角部53溶接工程とを有し、補強板重合工程は、第4角部54溶接工程と、第5角部溶接工程とを有し、第1及び第2角部溶接工程は、第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、第1角部用の第2溶接工程部分とから成り、第4角部溶接工程は、第4角部用の第1溶接工程部分と第4角部用の第2溶接工程部分とから成る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
第1連結部を備えた第1ブラケット板の一方の第1板面に、第2連結部を備えた第2ブラケット板の取付け部を溶接固着して、前記第1板面から前記第2ブラケット板を立ち上げる第2ブラケット板立設工程と、
前記取付け部が溶接固着された第1ブラケット板部分を補強する補強板を、前記第1ブラケット板の他方の第2板面に、前記第1ブラケット板部分に重なる状態に溶接固着する補強板重合工程とから成るブラケットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記の製造方法で製造されるブラケットの一例に、自動車のエンジンのトルク変動による振動を吸収する部品であるトルクロッドを支持するためのブラケットがある。このブラケットでは、補強板がエンジンの取付け面に重合して第1連結部がエンジンにボルト連結され、第2ブラケット板の第2連結部が、トルクロッドの一端側の第1防振ゴムブッシュの第1内筒にボルトを介して連結される。トルクロッドの他端側には第2防振ゴムブッシュが設けられており、第2防振ゴムブッシュの第2内筒が車体にボルトを介して連結されている。
【0003】
図12に従来のブラケット100の製造方法を示してある。図12はブラケット100の平面図である(ブラケット100の構造は本発明のブラケットの構造と同じであり、ブラケット100の正面図、底面図については、本発明のブラケットを示す図5、図6を参照)。図12における符号[1]〜[5]は溶接の順を示す符号であり、矢印は溶接が進められる方向を示し、三角波形の符号は溶接部を示している。図12に示すように、従来、ブラケット100を次の手段で製造していた。
(1) [第2ブラケット板12の折曲]
平板状の第2ブラケット板12の取付け部1を、長手方向一端側の第1取付け部分21と長手方向他端側の第2取付け部分22と、第1取付け部分21と第2取付け部分22の間の第3取付け部分23とに区分けして、第1取付け部分21を平板状の第2ブラケット板12の一方の第3板面の外方側に折曲するとともに、第2取付け部分22を平板状の第2ブラケット板12の他方の第4板面の外方側に折曲する(第2ブラケット板折曲工程)。
(2) [第4角部54の溶接固着]
補強板13の一方の第5板面65の一部分65Aを第3取付け部分23の第3板面の外方側で露出させて、第5板面65の一部分65Aと、第3取付け部分23に沿う第1ブラケット板11の端面とで形成される第4角部54を溶接固着する(第4角部溶接工程)。
(3) [第1角部51及び第2角部52の溶接固着]
第3取付け部分23の第3板面側の部位と第1板面とで形成される第1角部51、及び、折曲後の第2取付け部分22の第3板面側の部位と第1板面とで形成される第2角部52を溶接固着する(第1及び第2角部溶接工程)。
(4) [第3角部53及び第6角部56の溶接固着]
第3取付け部分23の第4板面側の部位と第1板面とで形成される第3角部53、及び、折曲後の第2取付け部分22の第4板面側の部位と第1板面とで形成される第6角部56を溶接固着する(第3及び第6角部溶接工程)。
(5) [第5角部の溶接固着]
第1ブラケット板11の第2板面と、第3取付け部分23の第4板面の外方に対応する側に位置した補強板13の端面とで形成される第5角部55のうち、補強板13の端面の長手方向で間隔を空けて位置する一対の第5角部分55A,55Bを溶接固着する(第5角部溶接工程)。
【0004】
上記の手段では上記の(1)〜(5)の順で溶接を行う。
また、上記の(2)の工程(図12における符号[1]に示す工程)では、前記第4角部54の長手方向の両端のうち、第1取付け部分21に近い側の第4角部54の一端を溶接の始点として、第4角部54の他端側に向かって第4角部54の全体の溶接固着を一挙に行う。
上記の(3)の工程(図12における符号[2]に示す工程)では、第1角部51の長手方向の両端のうち、第1取付け部分21に近い側の第1角部51の一端を溶接の始点として、第1角部51の他端側に向かって第1角部51の全体の溶接固着を一挙に行い、これに連続して、第2角部52の全体の溶接固着を一挙に行う。
上記の(4)の工程(図12における符号[3]に示す工程)では、第6角部56の両端のうち、第2取付け部分22の遊端側の第6角部56の一端を溶接の始点として、第6角部56の他端側に向かって溶接を進め、これに連続して、第3角部53の全体の溶接固着を一挙に行う。
上記の(5)の工程(図12における符号[4],[5]に示す工程)では、一対の第5角部分55A,55Bを同一方向に向かって溶接を進める。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
第1ブラケット板と第2ブラケット板を溶接固着する場合や、第1ブラケット板と補強板を溶接固着する場合、溶接が進むに伴って、溶接の進行方向前方側の、まだ溶接されていないブラケット板部分が溶接熱で熱せられて、溶接の進行方向後方側の、まだ溶接されていないブラケット板部分よりも熱の入りがよくなる。そのために、上記従来の手段のように、第4角部、第1角部、第2角部、第6角部、第3角部の全体を、それぞれ一挙に溶接固着する手段では、溶接の進行方向前方側の各角部分が溶接されるときに、その角部分の温度が上がり過ぎて角部分の溶け落ちが発生することがあり、改善の余地が残されていた。
【0006】
本発明の目的は、第1ブラケット板と第2ブラケット板の溶接固着や、第1ブラケット板と補強板の溶接固着の際の部材の溶け落ちを回避できるブラケットの製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の特徴は、
冒頭の[技術分野]の項に記載したブラケットの製造方法において、
前記第2ブラケット板立設工程は、
(A1) 平板状の前記第2ブラケット板の取付け部を、長手方向一端側の第1取付け部分と長手方向他端側の第2取付け部分と、前記第1取付け部分と第2取付け部分の間の第3取付け部分とに区分けして、前記第1取付け部分を平板状の前記第2ブラケット板の一方の第3板面の外方側に折曲するとともに、前記第2取付け部分を平板状の前記第2ブラケット板の他方の第4板面の外方側に折曲する第2ブラケット板折曲工程と、
(B1) 前記第3取付け部分の第3板面側の部位と前記第1板面とで形成される第1角部、及び、折曲後の前記第2取付け部分の第3板面側の部位と前記第1板面とで形成される第2角部を溶接固着する第1及び第2角部溶接工程と、
(C1) 前記第3取付け部分の第4板面側の部位と前記第1板面とで形成される第3角部のうち、前記第1取付け部分側寄りの第3角部分を溶接固着する第3角部溶接工程とを有し、
前記補強板重合工程は、
(A2) 前記補強板の一方の第5板面の一部分を前記第3取付け部分の第3板面の外方側で露出させて、前記第5板面の一部分と、前記第3取付け部分に沿う前記第1ブラケット板の端面とで形成される第4角部を溶接固着する第4角部溶接工程と、
(B2) 前記第2板面と、前記第3取付け部分の第4板面の外方に対応する側に位置した前記補強板の端面とで形成される第5角部のうち、前記補強板の端面の長手方向で間隔を空けて位置する一対の第5角部分を溶接固着する第5角部溶接工程とを有し、
前記第1及び第2角部溶接工程は、前記第1角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分から離れる方向に向かって前記第1角部の半分の部分の溶接固着を進めるとともに、前記第2角部側まで溶接固着を行う前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、前記第1角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分に近づく方向に向かって前記第1角部の残り半分の部分の溶接固着を進める前記第1角部用の第2溶接工程部分とから成り、
前記第4角部溶接工程は、前記第4角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分から離れる方向に向かって前記第4角部の半分の部分の溶接固着を進める第4角部用の第1溶接工程部分と、前記第4角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分に近づく方向に向かって前記第4角部の残り半分の部分の溶接固着を進める第4角部用の第2溶接工程部分とから成り、
前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、前記第1角部用の第2溶接工程部分と、前記第4角部用の第1溶接工程部分と、前記第4角部用の第2溶接工程部分とを別々の時間に行う点にある。
【0008】
この手段によれば、
第1及び第2角部溶接工程では、第1角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、第1取付け部分から離れる方向に向かって第1角部の半分の部分(以下、「第1角部の半分」と称する)の溶接固着を進めるとともに、第2角部側まで溶接固着を行い(第1及び第2角部用の第1溶接工程部分)、
第1角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、第1取付け部分に近づく方向に向かって第1角部の残り半分の部分(以下、「第1角部の残り半分」と称する)の溶接固着を進める(第1角部用の第2溶接工程部分)。
第4角部溶接工程では、第4角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、第1取付け部分から離れる方向に向かって第4角部の半分の部分(以下、「第4角部の半分」と称する)の溶接固着を進め(第4角部用の第1溶接工程部分)、
第4角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、第1取付け部分に近づく方向に向かって第4角部の残り半分の部分(以下、「第4角部の残り半分」と称する)の溶接固着を進める(第4角部用の第2溶接工程部分)。
そして、第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、前記第1角部用の第2溶接工程部分と、前記第4角部用の第1溶接工程部分と、前記第4角部用の第2溶接工程部分とを別々の時間に行う。
【0009】
これにより、
(イ1) 連続して行う各角部の溶接固着の長さを短くすることができる。
(ロ1) 第1角部の半分の溶接固着と第1角部の残り半分の溶接固着とは、第1角部の長手方向で互いに反対側に向かって進められるから、第1角部の半分が残り半分よりも先に溶接固着される場合、溶接の進行方向前方側に熱を逃がしながら溶接固着することになり、第1角部の半分の溶接固着の溶接熱で第1角部の残り半分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、第1角部の残り半分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。また、第1角部の残り半分が第1角部の半分よりも先に溶接固着される場合、溶接の進行方向前方側に熱を逃がしながら溶接固着することになり、第1角部の残り半分の溶接固着の溶接熱で第1角部の半分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、第1角部の半分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。
(ハ1) 第4角部の半分の溶接固着と第4角部の残り半分の溶接固着とは、第4角部の長手方向で互いに反対側に向かって進められるから、第4角部の半分が残り半分よりも先に溶接固着される場合、溶接の進行方向前方側に熱を逃がしながら溶接固着することになり、第4角部の半分の溶接固着の溶接熱で第4角部の残り半分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、第4角部の残り半分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。また、第4角部の残り半分が第4角部の半分よりも先に溶接固着される場合、溶接の進行方向前方側に熱を逃がしながら溶接固着することになり、第4角部の残り半分の溶接固着の溶接熱で第4角部の半分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、第4角部の半分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。
(ニ1)例えば第2ブラケット板の取付け部の全周を第1ブラケット板の第1板面に対して溶接固着すると、本ブラケットに過度の振動が入力したときに力が逃げにくくなってブラケットに亀裂が入る等の不具合が考えられるが、本発明では、前記第3角部のうち、第1取付け部分側寄りの第3角部分を溶接固着することで、残りの第3角部分が溶接固着されていないから、上記の溶接固着されていない部分から力を逃がすことができて、上記の不具合を回避することができる。
(ホ1) 第2ブラケット板の取付け部を上記の折曲形状にすることで、第2ブラケット板の強度を上げることができる。しかも、第2ブラケット板をプレス成形できて、プレス成形が不可能な断面H形の部材に比べると生産性を上げることができる。
【0010】
本発明において、
下記の(1)〜(6)の順に各工程を行うとともに、
前記第3角部溶接工程においては、前記第3角部分の長手方向の両端のうち、前記第3取付け部分の長手方向の中心との距離が短い側の前記第3角部分の一端を溶接の始点として、前記第3角部分の他端側に向かって前記第3角部分の溶接固着を進めることができる。
(1)前記第4角部用の第1溶接工程部分
(2)前記第4角部用の第2溶接工程部分
(3)前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分
(4)前記第3角部溶接工程
(5)前記第1角部用の第2溶接工程部分
(6)前記第5角部溶接工程
【0011】
この構成によれば、
(イ2) 第4角部の半分の溶接固着と、第4角部の残り半分の溶接固着とは、第4角部の長手方向で互いに反対側に向かって進められるから、溶接の進行方向前方側に熱を逃がしながら溶接固着することになり、第4角部の半分の溶接固着の溶接熱で第4角部の残り半分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、第4角部の残り半分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。
(ロ2) 上記(3)の第1及び第2角部用の第1溶接工程部分の前工程(上記(2)の工程部分)では、上記(3)の工程で溶接固着が行われる第1角部の半分と第2角部とから遠ざかる方向に向かって溶接が進められるから、前記前工程で、第1角部の半分と第2角部から遠ざかる方向に熱を逃がしながら溶接固着することになり、前記前工程の溶接固着の溶接熱で前記第1角部の半分と第2角部とが加熱されることに起因する不具合、すなわち、第1角部の半分と第2角部とが溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。
(ハ2) 上記(4)の第3角部溶接工程の前工程(上記(3)の工程部分)では、上記(4)の工程で溶接固着が行われる第3角部分から遠ざかる方向に向かって溶接が進められるから、前記前工程で、第3角部分から遠ざかる方向に熱を逃がしながら溶接固着することになり、前記前工程の溶接固着の溶接熱で前記第3角部分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、第3角部分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。また、上記(3)の工程で溶接固着される第1角部の半分と第2角部は第2ブラケット板の第3板面側に位置し、上記(4)の工程で溶接固着される第3角部分は第2ブラケット板の第4板面側に位置するから、上記(3)の工程とその後の上記(4)の工程で、取付け部の肉厚方向の両側に溶接固着部が設けられることになって、第1ブラケット板からの第2ブラケット板の立ち上がり姿勢を安定させることができる。
【0012】
本発明において、
前記一対の第5角部分は、前記第3取付け部分の長手方向における前記補強板の中心を挟んで位置し、前記第5角部分の長手方向における両端のうち、前記補強板の中心との距離が短い側の前記第5角部分の一端を溶接の始点として、前記第5角部分の他端側に向かって前記第5角部分の溶接固着を進め、前記第3取付け部分の長手方向で前記第2取付け部分との距離が長い方の第5角部分を、前記第2取付け部分との距離が短い方の第5角部分よりも先に溶接固着すると、次の作用を奏することができる。
【0013】
(イ3) 前記第2取付け部分との距離が長い方の第5角部分(以下、この欄で「一方の第5角部分」と称する)を溶接固着する工程では、第2取付け部分との距離が短い方の第5角部分(以下、この項で「他方の第5角部分」と称する)から遠ざかる方向に向かって溶接が進められて、他方の第5角部分から遠ざかる方向に熱を逃がしながら溶接固着することになるから、前記一方の第5角部分を溶接固着するときの溶接熱で他方の第5角部分が加熱されることに起因する不具合、すなわち、他方の第5角部分が溶接固着されるときに溶接熱の入りがよくなり過ぎる不具合を抑制できる。
【0014】
本発明において、
前記第3取付け部分の長手方向で前記取付け部を挟んで位置する一対のボルト挿通孔によって前記第1連結部を構成し、前記補強板として、前記一対のボルト挿通孔周りのブラケット板部分にも重合する補強板を用いると、次の作用を奏することができる。
【0015】
(イ4) 補強板で第1連結部を補強することができてブラケットの強度を強くすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、
第1ブラケット板と第2ブラケット板の溶接固着や、第1ブラケット板と補強板の溶接固着の際の部材の溶け落ちを回避できるブラケットの製造方法を提供することができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて説明する。図1〜図3に、本発明の製造方法によって製造されたブラケット100と、これに支持連結されたトルクロッド200とから成るトルクロッドの支持構造を示してある。トルクロッド200は、第1防振ゴムブッシュB1と、第2防振ゴムブッシュB2と、両者が両端部に各別に連結されたロッド部207とから成り、自動車のエンジンと車体の間に介在して自動車のエンジンのトルク変動による振動を吸収する。
【0018】
ブラケット100は第1ブラケット板11と第2ブラケット板12と補強板13とから成る。すなわち、図4〜図6にも示すように、第1連結部としての一対の第1ボルト挿通孔71を備えた第1ブラケット板11の一方の第1板面61に、第2連結部としての1個の第2ボルト挿通孔72を備えた第2ブラケット板12の取付け部1を溶接固着して、第1板面61から第2ブラケット板12を立ち上げてある。そして、前記取付け部1が溶接固着された第1ブラケット板部分14を補強する補強板13を、第1ブラケット板11の他方の第2板面62に、第1ブラケット板部分14に重なる状態に溶接固着してある。
【0019】
第1ブラケット板11は平面視で台形に形成され、平面視で互いに平行な長短二つの側部のうちの短い方の一側部に、第3ボルト挿通孔73を備えた正面視山形状の立ち上がり壁5が立設されている。また、平面視で傾斜した二つの側部に、高さ寸法が立ち上がり壁5よりも短いリブ状の補強壁6が立設されている。
【0020】
第2ブラケット板12は正面視で山形状に形成され、その取付け部1の長手方向J1の両端部が後述のようにプレス成形により折曲されている。
【0021】
補強板13は平面視で細長い台形に形成され、平面視で互いに平行な長短二つの側部うちの長い方の一側部を、第1ブラケット板11の長短二つの側部のうちの長い方の一側部に上下方向(第2ブラケット板12の立ち上がり方向)で重ね合わせてある。補強板13の他側部は、第1ブラケット板11の長短二つの側部間の中央に位置する。
【0022】
図1〜図3に示すように、上記のブラケット100は、補強板13及び第1ブラケット板11がエンジンの取付け面Sに重合し、一対の第1ボルト挿通孔71に一対の第1ボルト81が各別に挿通されて、補強板13及び第1ブラケット板11がエンジンに連結される。そして、前記第2ボルト挿通孔72と、トルクロッド200の一端側の第1防振ゴムブッシュB1の第1内筒201と、前記第3ボルト挿通孔73とに第2ボルト82が挿通されて、第2ボルト82が、第2ブラケット板12に溶接固着されたナットNに螺合される。
【0023】
トルクロッド200の他端側の第2防振ゴムブッシュB2の第2内筒202には第4ボルト(図示せず)が挿通されて車体に連結されている。符号205は第1防振ゴムブッシュB1の第1ゴム状弾性体、206は第2防振ゴムブッシュB2の第2ゴム状弾性体、208は第1防振ゴムブッシュB1の一対のすぐり孔である。
【0024】
上記のブラケット100の製造方法は第2ブラケット板立設工程と補強板重合工程から成る。第2ブラケット板立設工程は、第1ブラケット板11の第1板面61に、第2ブラケット板12の取付け部1を溶接固着して、第1板面61から第2ブラケット板12を立ち上げる工程である。また、補強板重合工程は、前記取付け部1が溶接固着された第1ブラケット板部分14を補強する補強板13を、第1ブラケット板11の他方の第2板面62に、第1ブラケット板部分14に重なる状態に溶接固着する工程である。
【0025】
上記の第2ブラケット板立設工程と補強板重合工程はそれぞれ後述の各工程又は各工程部分を有し、これらの各工程又は工程部分は後述の順で行われるが、最初に各工程又は各工程部分の内容を(工程の順ではなく)順不同に説明し、その後に各工程の順について説明する。
[第2ブラケット板立設工程]
この工程は、
(A1) 平板状の第2ブラケット板12の取付け部1を、長手方向一端側の第1取付け部分21と長手方向他端側の第2取付け部分22と、両者21,22の間の第3取付け部分23とに区分けして、第1取付け部分21を平板状の第2ブラケット板12の一方の第3板面63の外方側63Gに折曲するとともに、第2取付け部分22を平板状の第2ブラケット板12の他方の第4板面64の外方側64Gに折曲する第2ブラケット板折曲工程と、
(B1) 図7(a)に示すように、第3取付け部分23の第3板面63側の部位23Aと第1板面61とで形成される第1角部51、及び、図7(b)に示すように、折曲後の第2取付け部分22の第3板面63側の部位22Aと第1板面61とで形成される第2角部52を溶接固着する第1及び第2角部溶接工程(図9(a),図9(b)、図10(a),図10(b)参照)と、
(C1) 図7(c)に示すように、第3取付け部分23の第4板面64側の部位23Bと第1板面61とで形成される第3角部53のうち、第1取付け部分25側寄りの第3角部分53Aを溶接固着する第3角部溶接工程(図9(c),図9(d)参照)とを有している。
【0026】
[第2ブラケット板立設工程における第1及び第2角部溶接工程]
この工程は、
図9(a),図9(b)に示すように、前記第1角部51の長手方向の中央部51Cを溶接の始点として、第1取付け部分21から離れる方向21Hに向かって第1角部51の半分の部分51N(以下、「第1角部51の半分51N」と称する)の溶接固着を進めるとともに、第2角部52側まで溶接固着を行う第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、
図10(a),図10(b)に示すように、第1角部51の長手方向の中央部51Cを溶接の始点として、第1取付け部分21に近づく方向21Kに向かって第1角部51の残り半分の部分51M(以下、「第1角部51の残り半分51M」と称する)の溶接固着を進める第1角部用の第2溶接工程部分とから成る。
【0027】
[第2ブラケット板立設工程における第3角部溶接工程]
この工程においては、図9(c),図9(d)に示すように、第3角部分53Aの長手方向の両端57,58のうち、第3取付け部分23の長手方向の中心Pとの距離が短い側の前記第3角部分53Aの一端57を溶接の始点として、第3角部分23の他端58側に向かって第3角部分53Aの溶接固着を進める。
【0028】
[補強板重合工程]
この工程は、
(A2) 図4,図7(d)に示すように、補強板13の一方の第5板面65の一部分65Aを第3取付け部分23の第3板面63の外方側63Gで露出させて、第5板面の一部分65Aと、第3取付け部分23に沿う第1ブラケット板11の端面11Tとで形成される第4角部54を溶接固着する第4角部溶接工程(図8(a)〜図8(d))と、
(B2) 図4,図6,図7(e),図7(f)に示すように、第2板面62と、第3取付け部分23の第4板面64の外方に対応する側64Sに位置する補強板13の端面13Tとで形成される第5角部55のうち、補強板13の端面13Tの長手方向J2で間隔を空けて位置する一対の第5角部分55A,55Bを溶接固着する第5角部溶接工程(図11(a)〜図11(d))とを有している。
【0029】
[補強板重合工程における第4角部溶接工程]
この工程は、
図8(a),図8(b)に示すように、第4角部54の長手方向の中央部Cを溶接の始点として、第1取付け部分21から離れる方向21Hに向かって第4角部54の半分の部分54N(以下、「第4角部54の半分54N」と称する)の溶接固着を進める第4角部用の第1溶接工程部分と、
図8(c),図8(d)に示すように、第4角部54の長手方向の中央部Cを溶接の始点として、第1取付け部分21に近づく方向21Kに向かって第4角部54の残り半分の部分54M(以下、「第4角部54の残り半分54M」と称する)の溶接固着を進める第4角部用の第2溶接工程部分とから成る。
【0030】
[補強板重合工程における第5角部溶接工程]
前記一対の第5角部分55A,55Bは、第3取付け部分23の長手方向J1における補強板13の中心Fを挟んで位置する(図11(d)参照)。この工程においては、図11(a)〜図11(d)に示すように、第5角部分55A,55Bの長手方向における両端Q,Rのうち、補強板13の中心Fとの距離が短い側の第5角部分55A,55Bの一端Qを溶接の始点として、第5角部分55A,55Bの他端R側に向かって第5角部分55A,55Bの溶接固着を進める。
【0031】
上記の各工程(工程部分)を下記の(1)〜(6)の順に行う。
(1)前記第4角部用の第1溶接工程部分(図8(a),図8(b))
(2)前記第4角部用の第2溶接工程部分(図8(c),図8(d))
(3)前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分(図9(a),図9(b))
(4)前記第3角部溶接工程(図9(c),図9(d))
(5)前記第1角部用の第2溶接工程部分(図10(a),図10(b))
(6)前記第5角部溶接工程(図11(a)〜図11(d))
この第5角部溶接工程では、第3取付け部分23の長手方向J1で第2取付け部分22との距離が長い方の第5角部分55Aを、第2取付け部分22との距離が短い方の第5角部分55Bよりも先に溶接固着する。
【0032】
このように上記の各工程(工程部分)を別々の時間に行うが、本実施形態ではロボットで各工程(工程部分)の溶接を行い、前工程から後工程へはすぐに移行して生産性を上げる。各工程(工程部分)の溶接を、ロボットに換えて人為的に行ってもよい。前記一対のボルト挿通孔71は、第3取付け部分23の長手方向J1で取付け部1を挟んで位置しており、前述のように、一対のボルト挿通孔71によって第1連結部を構成している。また補強板13として、一対のボルト挿通孔71周りのブラケット板部分15にも重合する大きさの補強板を用いている。
【0033】
図1〜図6では他の図で示した溶接記号(三角波形等の符号)は省略してある。図7(a)〜図7(f)では、黒く塗りつぶされた三角印が溶接部を示している。本発明は、トルクロッド支持用以外のブラケットにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】トルクロッドの支持構造の平面図
【図2】トルクロッドの支持構造の正面図
【図3】トルクロッドの支持構造の側面図
【図4】ブラケットの平面図
【図5】ブラケットの正面図
【図6】ブラケットの底面図
【図7】(a)は図4のA1−A1断面図、(b)は図4のB1−B1断面図、(c)は図4のC1−C1断面図、(d)は図4のD1−D1断面図、(e)は図6のE1−E1断面図、(f)は図6のF1−F1断面図
【図8】補強板重合工程における第4角部溶接工程を示す図
【図9】第2ブラケット板立設工程における第1及び第2角部溶接工程等を示す図
【図10】第2ブラケット板立設工程における第1及び第2角部溶接工程を示す図
【図11】補強板重合工程における第5角部溶接工程を示す図
【図12】従来の技術を示す図
【符号の説明】
【0035】
1 取付け部
5 立ち上がり壁
6 補強壁
11 第1ブラケット板
11T 第3取付け部分に沿う第1ブラケット板の端面
12 第2ブラケット板
13 補強板
13T 補強板の端面
14 第1ブラケット板部分
15 一対のボルト挿通孔周りのブラケット板部分
21 長手方向一端側の第1取付け部分(第1取付け部分)
21H 第1取付け部分から離れる方向
21K 第1取付け部分に近づく方向
22 長手方向他端側の第2取付け部分(第2取付け部分)
22A 第2取付け部分の第3板面側の部位
23 第3取付け部分
23A 第3取付け部分の第3板面側の部位
23B 第3取付け部分の第4板面側の部位
51 第1角部
51C 第1角部の長手方向の中央部
51N 第1角部の半分の部分(第1角部の半分)
51M 第1角部の残り半分の部分(第1角部の残り半分)
52 第2角部
53 第3角部
53A 第3角部分
54 第4角部
54N 第4角部の半分の部分(第4角部の半分)
54M 第4角部の残りの半分(第4角部の残り半分)
55 第5角部
55A,55B 一対の第5角部分
55A 第2取付け部分との距離が長い方の第5角部分
55B 第2取付け部分との距離が短い方の第5角部分
56 第6角部
57,58 第3角部分の長手方向の両端
57 第3角部分の一端
58 第3角部分の他端
61 第1板面
62 第2板面
63 第3板面
63G 第3板面の外方側
64 第4板面
64G 第4板面の外方側
64S 第4板面の外方に対応する側
65 第5板面
65A 第5板面の一部分
71 第1連結部(第1ボルト挿通孔)
72 第2連結部(第2ボルト挿通孔)
73 第3ボルト挿通孔
81 第1ボルト
82 第2ボルト
100 ブラケット
200 トルクロッド
201 第1内筒
202 第2内筒
205 第1ゴム状弾性体
206 第2ゴム状弾性体
207 ロッド部
208 すぐり穴
B1 第1防振ゴムブッシュ
B2 第2防振ゴムブッシュ
C 第4角部の長手方向の中央部
S エンジンの取付け面
F 補強板の中心
J1 取付け部の長手方向(第3取付け部分の長手方向)
J2 補強板の端面の長手方向
N ナット
Q,R 第5角部分の長手方向における両端
Q 第5角部分の一端
R 第5角部分の他端
P 第3取付け部分の長手方向の中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1連結部を備えた第1ブラケット板の一方の第1板面に、第2連結部を備えた第2ブラケット板の取付け部を溶接固着して、前記第1板面から前記第2ブラケット板を立ち上げる第2ブラケット板立設工程と、
前記取付け部が溶接固着された第1ブラケット板部分を補強する補強板を、前記第1ブラケット板の他方の第2板面に、前記第1ブラケット板部分に重なる状態に溶接固着する補強板重合工程とから成るブラケットの製造方法であって、
前記第2ブラケット板立設工程は、
(A1) 平板状の前記第2ブラケット板の取付け部を、長手方向一端側の第1取付け部分と長手方向他端側の第2取付け部分と、前記第1取付け部分と第2取付け部分の間の第3取付け部分とに区分けして、前記第1取付け部分を平板状の前記第2ブラケット板の一方の第3板面の外方側に折曲するとともに、前記第2取付け部分を平板状の前記第2ブラケット板の他方の第4板面の外方側に折曲する第2ブラケット板折曲工程と、
(B1) 前記第3取付け部分の第3板面側の部位と前記第1板面とで形成される第1角部、及び、折曲後の前記第2取付け部分の第3板面側の部位と前記第1板面とで形成される第2角部を溶接固着する第1及び第2角部溶接工程と、
(C1) 前記第3取付け部分の第4板面側の部位と前記第1板面とで形成される第3角部のうち、前記第1取付け部分側寄りの第3角部分を溶接固着する第3角部溶接工程とを有し、
前記補強板重合工程は、
(A2) 前記補強板の一方の第5板面の一部分を前記第3取付け部分の第3板面の外方側で露出させて、前記第5板面の一部分と、前記第3取付け部分に沿う前記第1ブラケット板の端面とで形成される第4角部を溶接固着する第4角部溶接工程と、
(B2) 前記第2板面と、前記第3取付け部分の第4板面の外方に対応する側に位置した前記補強板の端面とで形成される第5角部のうち、前記補強板の端面の長手方向で間隔を空けて位置する一対の第5角部分を溶接固着する第5角部溶接工程とを有し、
前記第1及び第2角部溶接工程は、前記第1角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分から離れる方向に向かって前記第1角部の半分の部分の溶接固着を進めるとともに、前記第2角部側まで溶接固着を行う前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、前記第1角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分に近づく方向に向かって前記第1角部の残り半分の部分の溶接固着を進める前記第1角部用の第2溶接工程部分とから成り、
前記第4角部溶接工程は、前記第4角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分から離れる方向に向かって前記第4角部の半分の部分の溶接固着を進める第4角部用の第1溶接工程部分と、前記第4角部の長手方向の中央部を溶接の始点として、前記第1取付け部分に近づく方向に向かって前記第4角部の残り半分の部分の溶接固着を進める第4角部用の第2溶接工程部分とから成り、
前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分と、前記第1角部用の第2溶接工程部分と、前記第4角部用の第1溶接工程部分と、前記第4角部用の第2溶接工程部分とを別々の時間に行うブラケットの製造方法。
【請求項2】
下記の(1)〜(6)の順に各工程を行うとともに、
前記第3角部溶接工程においては、前記第3角部分の長手方向の両端のうち、前記第3取付け部分の長手方向の中心との距離が短い側の前記第3角部分の一端を溶接の始点として、前記第3角部分の他端側に向かって前記第3角部分の溶接固着を進める請求項1記載のブラケットの製造方法。
(1)前記第4角部用の第1溶接工程部分
(2)前記第4角部用の第2溶接工程部分
(3)前記第1及び第2角部用の第1溶接工程部分
(4)前記第3角部溶接工程
(5)前記第1角部用の第2溶接工程部分
(6)前記第5角部溶接工程
【請求項3】
前記一対の第5角部分は、前記第3取付け部分の長手方向における前記補強板の中心を挟んで位置し、前記第5角部分の長手方向における両端のうち、前記補強板の中心との距離が短い側の前記第5角部分の一端を溶接の始点として、前記第5角部分の他端側に向かって前記第5角部分の溶接固着を進め、前記第3取付け部分の長手方向で前記第2取付け部分との距離が長い方の第5角部分を、前記第2取付け部分との距離が短い方の第5角部分よりも先に溶接固着する請求項2記載のブラケットの製造方法。
【請求項4】
前記第3取付け部分の長手方向で前記取付け部を挟んで位置する一対のボルト挿通孔によって前記第1連結部を構成し、前記補強板として、前記一対のボルト挿通孔周りのブラケット板部分にも重合する補強板を用いる請求項1〜3のいずれか一つに記載のブラケットの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate


【公開番号】特開2007−167929(P2007−167929A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−371854(P2005−371854)
【出願日】平成17年12月26日(2005.12.26)
【出願人】(000003148)東洋ゴム工業株式会社 (2,711)
【Fターム(参考)】