説明

ブラシの製造法

【課題】 低抵抗層成形用粉体と高抵抗層成形用粉体との粉体同士の充填密度のバラツキが生ぜず、特性と各層の厚さをコントロールすることが容易で、かつ長寿命で電気的損失が小さいブラシの製造法を提供する。
【解決手段】 整流子と接触する摺動面が低抵抗層3及び高抵抗層2で形成されるブラシの製造法において、低抵抗層用粉体中にリード線1を埋設し、成形してリード線1を固定して低抵抗層3を形成した後、その上面に高抵抗層2を形成することを特徴とするブラシの製造法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直流電動機などに用いられるブラシの製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の直流電動機は、高速、高電流密度化を行って小型軽量化を図っている。
しかし、この種の電動機は、整流性能、出力特性等の低下が大きく、またブラシ摩耗も多くなり、耐久性が短くなっているのが現状である。これらを解決するためには、ブラシ素材の性能向上だけでは限界があるため、ブラシの構造を工夫して対応している。
【0003】
その一例として、特許文献1、2等に示されるように、ブラシ中に含有される黒鉛と金属との配合割合を調整した低抵抗層及び高抵抗層を有する多層構造のブラシが用いられるようになってきた。
【特許文献1】特公平06−066147号公報
【特許文献2】特公平06−007505号公報
【0004】
しかしながら上記に示す多層構造のブラシは、粉体成形金型に低抵抗層成形用粉体及び高抵抗層成形用粉体をそれぞれ層状に充填した後、一体成形を行うため、成形時に低抵抗層成形用粉体と高抵抗層成形用粉体との境界部分の粉体同士が混じりあい、粉体同士の充填密度のバラツキが生じ、特性と各層の厚さをコントロールすることが困難であった。
また、上記に示す多層構造のブラシでは摩耗が速く、電気的損失が大きい、特にリード線埋め込み部の電圧降下の増加が大きいという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、低抵抗層成形用粉体と高抵抗層成形用粉体との粉体同士の充填密度のバラツキが生ぜず、特性と各層の厚さをコントロールすることが容易で、かつ長寿命で電気的損失が小さいブラシの製造法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、整流子と接触する摺動面が低抵抗層及び高抵抗層で形成されるブラシの製造法において、低抵抗層用粉体中又は低抵抗層用ブラシ片中にリード線を埋設し、加圧してリード線を固定して低抵抗層を形成した後、その上面に高抵抗層を形成することを特徴とするブラシの製造法に関する。
また、本発明は、高抵抗層が、成形体のもので低抵抗層に接着したもの又は高抵抗層用粉体を低抵抗層上に成形して形成したものであるブラシの製造法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造法によって得られるブラシは、低抵抗層成形用粉体と高抵抗層成形用粉体との粉体同士の充填密度のバラツキが生ぜず、特性と各層の厚さをコントロールすることが容易で、かつ長寿命で電気的損失が小さく、工業的に極めて好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明になるブラシは、リード線、低抵抗層及び高抵抗層から構成されており、低抵抗層を先に成形し、その後、高抵抗層を形成することを特徴とするものである。
本発明において、高抵抗層を形成する方法については特に制限はないが、例えば、高抵抗層となるブラシ片を予め作製しておき、それを低抵抗層上に接着するか又は高抵抗層用粉体を低抵抗層上で成形して形成する方法がある。
【0009】
高抵抗層及び低抵抗層における抵抗率は、高抵抗層>低抵抗層の関係を満足していれば抵抗率に制約はないが、これらの抵抗率の関係を満足するには、例えば高抵抗層の抵抗率は低抵抗層の抵抗率の2〜20倍程度が好ましく、4〜16倍程度がより好ましく、8〜12倍程度がさらに好ましい。
【0010】
抵抗率は、使用される回転電機の要求特性に合わせて設定されるが、一般的には0.1〜30μΩ・m程度の値である。上記の抵抗率にするには、主に黒鉛を主成分としたブラシに含有される金属量を調整して適宜選定する。ブラシに含有させる金属としては、銅、銀等の粉末が挙げられる
【0011】
本発明において、低抵抗層と高抵抗層を接着する場合、接着に用いられる接着剤としては、導電性を有する接着剤、例えば、銀、銅、パラジウム等の金属粉を含むエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0012】
また、本発明においては、低抵抗層と高抵抗層を接着する場合、低抵抗層及び高抵抗層の接合面のいずれか一方に突起、他方に凹部を形成し、該突起と凹部を嵌め合わせて接着すれば接着強度にすぐれるので好ましい。
【実施例】
【0013】
以下、本発明の実施例を説明する。
実施例1
平均粒径が50μmの天然黒鉛粉(日本黒鉛工業(株)製、商品名CB−150)80重量%及びレゾール型フェノール樹脂(日立化成工業(株)製、商品名VP11N)20重量%を混練した後、65℃で16時間乾燥し、その後粉砕して平均粒径が150μmの樹脂処理黒鉛粉を得た。
【0014】
次に、この樹脂処理黒鉛粉45重量%及び平均粒径が35μmの電解銅粉(福田金属箔工業(株)製、商品名CE−25)55重量%を混合して低抵抗層成形用粉体を得た。一方、上記で得た樹脂処理黒鉛粉65重量%及び上記で用いた電解銅粉35重量%を混合して高抵抗層成形用粉体を得た。
【0015】
上記で得た高抵抗層成形用粉体を金型に充填し、成形プレスで392MPaの圧力で成形し、その後還元雰囲気中で700℃まで3時間で昇温し、700℃で1時間焼結し、次いで所定の形状に機械加工してリード線挿入孔を設けた寸法が16×15×2mmの高抵抗層用ブラシ片を得た。
【0016】
一方、上記で得た低抵抗層成形用粉体を金型に充填し、成形プレスで392MPaの圧力で成形し、その後還元雰囲気中で700℃まで3時間で昇温し、700℃で1時間焼結し、次いで所定の形状に機械加工してリード線の下端部を埋設するための凹みを設けた寸法が16×15×5mmの低抵抗層用ブラシ片を得た。
【0017】
次に、図1に示すように、リード線1の先端部を低抵抗層用ブラシ片に設けた凹みに挿入した後、リード線1の周囲に銀めっき銅粉(図示せず)を充填してリード線1を埋設し、さらにスタンピング作業により銀めっき銅粉を加圧して低抵抗層用ブラシ片にリード線1を固定した。
【0018】
この後、上記で得た高抵抗層用ブラシ片に設けたリード線挿入孔に、上記の低抵抗層用ブラシ片に固定したリード線1の露出部分を挿入し、次いで、高抵抗層用ブラシ片と低抵抗層用ブラシ片をエポキシ樹脂系接着剤(日立化成工業(株)製、商品名MP200V1)に銀粉を混合してペースト状にした導電性の接着剤4を用いて両者を接着して樹脂を硬化させ、高抵抗層2及び低抵抗層3を有するブラシを得た。
【0019】
得られたブラシの抵抗率を測定したところ、高抵抗層2は3.5μΩ・m及び低抵抗層3は0.2μΩ・mであった。
抵抗率の測定は、各々の粉体を単独で上記と同様の条件で成形、焼結後、機械加工して5×5×20mmの寸法に試験片を作製し、20mmの方向に1Aの電流を流した際の10mm間の電圧降下を測定し、次式により算出した。ここで、測定用試験片は20mm方向を成形加圧直角方向とした。
【0020】
【数1】

【0021】
実施例2
高抵抗層に突起を形成し、一方、低抵抗層に前記突起に嵌合するための凹部を形成し、前記突起と凹部を嵌め合わせて接着した以外は、実施例1と同様の工程を経てブラシを得た。
【0022】
比較例1
実施例1で得た高抵抗層成形用粉体及び低抵抗層成形用粉体を金型の所定の位置にそれぞれ別々に充填し、さらに所定の箇所にリード線を設置した後、成形プレスで392MPaの圧力で一体成形し、その後、還元雰囲気中で700℃まで3時間で昇温し、700℃で1時間焼結し、次いで所定の形状に機械加工して図2に示すように寸法が16×15×7mmの高抵抗層2及び低抵抗層3を有するブラシを得た。
【0023】
得られたブラシの高抵抗層2及び低抵抗層3を横切るように切断してその表面を観察したところ、高抵抗層2と低抵抗層3の境界部分がはっきりと確認することができず、粉体同士の充填密度にバラツキが生じていた。
【0024】
次に、実施例1、2で得たブラシと比較例1で得たブラシの製造直後(0時間のとき)のリード線埋め込み部の電圧降下値及び温度80℃、湿度90%の条件で250時間後の、リード線埋め込み部の電圧降下値の経時変化を調べた。その結果を図3に示すが、図3における0時間の値は、製造直後の値である。なお、リード線埋め込み部の電圧降下値は、図4に示すようにA−B間に200Aの電流を流したときのC−D間の電圧降下を測定した値である。
【0025】
図3に示されるように、本発明になる実施例1、2で得たブラシは、比較例1で得たブラシに比較してリード線埋め込み部の電圧降下値が低減していることが明らかである。
また、上記とは別に実施例1、2で得たブラシと比較例1で得たブラシの摩耗量を測定した。その結果、実施例1で得たブラシの摩耗量は1.4mm、実施例2で得たブラシの摩耗量は1.6mm及び比較例1で得たブラシの摩耗量は1.5mmであり、実施例1及び2で得たブラシは、比較例1で得たブラシとほぼ同等の摩耗量であった。
【0026】
なお、ブラシの摩耗量は、1.8リットルディーゼルエンジンにブラシを装着した1.4kWスタータモータを取付け、2秒間ON、28秒間OFFの操作を1サイクルとし、この操作を1万サイクル行い、サイクル(試験)前のブラシの寸法と1万サイクル後のブラシの寸法の差から求めた。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】実施例1で得たブラシの断面図である。
【図2】比較例1で得たブラシの断面図である。
【図3】放置時間とリード線埋め込み部の電圧降下との関係を示すグラフである。
【図4】リード線埋め込み部の電圧降下の測定法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0028】
1 リード線
2 高抵抗層
3 低抵抗層
4 接着剤



【特許請求の範囲】
【請求項1】
整流子と接触する摺動面が低抵抗層及び高抵抗層で形成されるブラシの製造法において、低抵抗層用粉体中又は低抵抗層用ブラシ片中にリード線を埋設し、加圧してリード線を固定して低抵抗層を形成した後、その上面に高抵抗層を形成することを特徴とするブラシの製造法。
【請求項2】
高抵抗層が、成形体のもので低抵抗層に接着したもの又は粉体のものを低抵抗層上に成形して形成したものである請求項1記載のブラシの製造法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−172867(P2007−172867A)
【公開日】平成19年7月5日(2007.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−364721(P2005−364721)
【出願日】平成17年12月19日(2005.12.19)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】