説明

ブラシノステロイド誘導体を含む抗癌剤

【課題】新規な抗癌剤を提供すること。
【解決手段】植物の生理活性物質であるブラシノステロイドの誘導体を有効成分として含む抗癌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシノステロイド誘導体を含む抗癌剤に関する。
【背景技術】
【0002】
癌の治療法としては、主として、外科手術、抗癌剤を用いた化学療法、及び放射線療法の3つが挙げられる。外科手術は初期の癌には有効であるが、転移を伴った癌に対する有効性は低い。放射線療法は浅部の癌には効果を示す場合があるが、深部の癌に対する効果が弱く、また放射線による正常部位への障害も無視できず、副作用の問題も大きい。一方、抗癌剤による化学療法も、効果が十分とは言えず、また副作用が強いことが多いため、未だ癌の治療における使用は限定されている。従って、新規の抗癌剤を開発することが求められている。
【0003】
ブラシノステロイドは、植物の発生、葉緑体制御、種子形成などに重要な役割を果たす植物に特有の生理活性物質である。ステロイド骨格を有する基本構造は動物のステロイドホルモンと同様であるが、水酸基に富む構造的特徴からステロイドホルモンとは異なる物性を示すと考えられている。実際に、ブラシノステロイドとステロイドホルモンとは受容体の分子構造や情報伝達機構が大きく異なっている。動物のステロイドホルモンは主に副腎や生殖腺などの内分泌器官で産生され、血流を通じて遠隔の標的器官に作用し、生殖、性分化、糖代謝、電解質代謝などに働く。ステロイドホルモンの受容体は標的細胞の細胞質内に存在する転写因子型の受容体であり、ホルモンが結合すると核内へ移行して直接標的遺伝子の転写に働く。これに対して、ブラシノステロイドの受容体は細胞膜上に存在する膜結合型受容体であり、細胞質ドメインのSer/Thrキナーゼが転写因子をリン酸化することにより、その情報を細胞内へと伝達する。従って、ブラシノステロイドは動物細胞に対しては生理作用を持たないと考えられてきた。また、非特許文献1には、24−エピブラシノライド、24−エピカスタステロンなどが抗癌活性を有することが報告されている。
【0004】
【非特許文献1】Jana Swaczynova et al., Polish J. Chem., 80, 629-635 (2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、新規な抗癌剤を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、植物の生理活性物質であるブラシノステロイドの誘導体が、ヒト由来のガン細胞に対して抗癌活性を示すことを実証し、本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明によれば、下記式(1)で示される化合物を含む抗癌剤が提供される。
【化1】

(式中、R1 は 、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び1-エチル-2-メチルプロピル基からなる群より選択される。R2〜R5 は独立して、水素、低級アルキル基、及びアシル基からなる群より選択される。X は、-(CH)2-、-(CH)3-、-(CH)4、-CO-(CH2)2-、-CO- (CH2)3-、-CH2-CO-CH2-、-CO-O-CH2- 、-CO-O-(CH2)2-、-O-CO-CH2-、-O-CO-(CH2)2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-(CH2)2-、-O-CH2-、-O-(CH2)2-、-O-(CH2)3-、-NHY-CO-CH2-、-NHY-CO-(CH2)2-、-CO-NHY-CH2-、及び-CO-NHY-(CH2)2-からなる群より選択される。Y は水素あるいは低級アルキル基を示す。)
【0008】
本発明の別の側面によれば、下記式(1)で示される化合物を含む、癌細胞増殖抑制剤が提供される。
【化2】

(式中、R1 は 、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び1-エチル-2-メチルプロピル基からなる群より選択される。R2〜R5 は独立して、水素、低級アルキル基、及びアシル基からなる群より選択される。X は、-(CH)2-、-(CH)3-、-(CH)4、-CO-(CH2)2-、-CO- (CH2)3-、-CH2-CO-CH2-、-CO-O-CH2- 、-CO-O-(CH2)2-、-O-CO-CH2-、-O-CO-(CH2)2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-(CH2)2-、-O-CH2-、-O-(CH2)2-、-O-(CH2)3-、-NHY-CO-CH2-、-NHY-CO-(CH2)2-、-CO-NHY-CH2-、及び-CO-NHY-(CH2)2-からなる群より選択される。Y は水素あるいは低級アルキル基を示す。)
【0009】
好ましくは、R1 は1,2-ジメチルプロピル基である。
好ましくは、R2〜R5 は水素原子である。
好ましくは、X は-CO- (CH2)2-、-CO- (CH2)3-、-O-CO-CH2-、又は-CH2-CO-CH2-である。
【0010】
好ましくは、式(1)で示される化合物は下記の何れかの化合物である。
【化3】

【0011】
好ましくは、本発明の薬剤は、健康食品又は食品添加物として用いることができる。
本発明の別の側面によれば、上記した本発明の抗癌剤を含む、健康食品又は食品添加物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明により植物の生理活性物質であるブラシノステロイドの誘導体が、ヒト由来の癌細胞に対して抗癌活性を示すことを明らかにした。ブラシノステロイドは、既存のステロイドホルモン剤で常に問題視されてきた副作用の問題がなく、ガンの予防、治療、健康増進への応用が期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態についてさらに詳細に説明する。
本明細書の実施例で用いた9種類のヒト由来のガン細胞のうち、合成グルココルチコイドであるデキサメタゾンによって抗癌作用が示されたのは、2種類(U937およびZR-75-1)のみであった。また、ヒト大腸ガン細胞、WiDr-CT細胞は、逆にデキサメタゾンによって増殖が促進された。一方、ブラシノステロイド誘導体は、用いた全9種類のヒト由来ガン細胞に対して抗癌作用を示した。またブラシノステロイド誘導体はグルココルチコイド受容体の活性化を誘導しないことが示された。従って、ブラシノステロイド誘導体による抗癌作用はグルココルチコイド受容体を介さないことが明らかになった。実際に、ブラシノステロイド誘導体は、活性型のグルココルチコイド受容体を欠損する2種類のガン細胞(JurkatおよびOVK18)に対しても、抗癌作用を示した。また、デキサメタゾンによる抗癌作用は細胞障害性作用であったのに対し、ブラシノステロイド誘導体による抗癌作用は細胞増殖抑制性作用であることが示された。これらの結果から、ブラシノステロイド誘導体は、既知のステロイドホルモンの受容体を介する情報伝達経路とは全く別の機構によって抗癌作用を発現することが明らかとなった。
【0014】
ステロイドホルモンの中でも、副腎皮質で産生されるグルココルチコイドは強力な抗炎症作用を示すことが知られており、デキサメタゾンやプレドニゾロンなどの合成グルココルチコイドは消炎剤や抗アレルギー剤として臨床応用されている。また、デキサメタゾンは、一部のガンに対して抗ガン作用を示すことが報告されている。しかし、ガンの種類によっては全く効果のないものもあり、本明細書の実施例の結果が示す通り、逆に増殖を促進してしまう場合もある。また糖代謝や骨代謝に及ぼす影響から、副作用として糖尿病や骨粗鬆症などを引き起こす、あるいは増悪させる点が問題視される。さらに、グルココルチコイドは免疫抑制作用を持つことから、宿主の腫瘍免疫自体も影響を受け、結果的にガンの増殖を助長してしまう可能性さえある。一方、ブラシノステロイド誘導体は、ステロイドホルモン受容体を活性化しないので、既存のステロイドホルモン剤で問題視される副作用は引き起こさない。また、ブラシノステロイド誘導体は、デキサメタゾンと異なり、マクロファージの活性化にともなうNOの産生やガン細胞に対する細胞障害活性を阻害しないことが示された。したがって、宿主の腫瘍免疫を抑制せずにガンの増殖を抑える効果が期待される。
【0015】
植物由来の成分の一部には、その立体構造上の類似性から、ステロイドホルモンの受容体に結合してその作用を模倣する物質が知られている。中でも大豆に含まれるイソフラボンは健康増進に効果があるとして広く知られている。イソフラボンは女性ホルモンであるエストロジェン(発情ホルモン)と類似の構造を示し、その作用を模倣すると考えられており、従って妊婦などが大量に摂取すると流産などの可能性があると指摘されている。またエストロジェンは、乳ガンや子宮ガンの原因物質としても知られており、やみくもに摂取することには危険がともなうことを認識する必要がある。一方、ブラシノステロイドは、ステロイドホルモンの受容体を活性化しない事から、イソフラボンなどのステロイド模倣物質(環境ホルモンと換言しうる)と異なり、副作用を心配する必要がない。したがって、ブラシノステロイド誘導体は、健康食品および治療薬として非常に有用である。
【0016】
植物由来の成分のうち、生薬成分の様に、特にヒトに対して効果を有する物質のほとんどは、植物生理学的には二次代謝化合物であり、植物の生長サイクルには全く重要な役割を果たしていない副次的な物質である。これに対してブラシノステロイドは、植物においても様々な植物生長サイクルに重要な役割を担う生理活性物質である。また、カテキンやポリフェノールなど、健康増進に効果があるとされる植物由来の成分は、一部の植物においてのみ大量に存在するものであるが、ブラシノステロイドはあらゆる植物に普遍的に存在する。この様な植物の生理活性物質が動物に対して効果を示す例は極めて珍しく、この点は他の植物成分の場合と大きく異なり、本発明の特徴でもある。
【0017】
本発明の抗癌剤及び癌細胞増殖抑制剤(本願ではこれらを総称して、本発明の薬剤とも称する)では、下記式(1)で示される化合物を有効成分として用いる。
【化4】

(式中、R1 は 、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び1-エチル-2-メチルプロピル基からなる群より選択される。R2〜R5 は独立して、水素、低級アルキル基、及びアシル基からなる群より選択される。X は、-(CH)2-、-(CH)3-、-(CH)4、-CO-(CH2)2-、-CO- (CH2)3-、-CH2-CO-CH2-、-CO-O-CH2- 、-CO-O-(CH2)2-、-O-CO-CH2-、-O-CO-(CH2)2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-(CH2)2-、-O-CH2-、-O-(CH2)2-、-O-(CH2)3-、-NHY-CO-CH2-、-NHY-CO-(CH2)2-、-CO-NHY-CH2-、及び-CO-NHY-(CH2)2-からなる群より選択される。Y は水素あるいは低級アルキル基を示す。)
【0018】
本発明で言う低級アルキル基は、炭素数1から6のアルキル基が好ましく、炭素数1から4のアルキル基がさらに好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基などが挙げられ、これらは直鎖でも分岐鎖でもよい。
【0019】
本発明で言うアシル基は、炭素数1から6のアシル基が好ましく、炭素数1から4のアシル基がさらに好ましく、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基などを挙げることができる。
【0020】
式(1)で示される化合物は、以下の通り、文献記載の公知の方法又はそれに準ずる方法に従って合成することができる。
【0021】
(a) R1 が1,2-ジメチルプロピル基であり、R2〜R5 が水素原子であり、Xが-CO-(CH2)2-、-CO-(CH2)3-、又は-CH2-CO-CH2-である式(1)の化合物は、Preparation, conformational analysis and biological evaluation of 6a-carbabrassinolide and related compounds: H. Seto, S. Hiranuma, S. Fujioka, H. Koshino, T. Suenaga and S. Yoshida, Tetrahedron, 58, 9741-9749 (2002)に記載の方法に準じて合成することができる。
【0022】
(b) R1 が水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び1-エチル-2-メチルプロピル基からなる群より選択され、R2〜R5 が水素原子であり、X が-CO-(CH2)2-あるいは -CO-O-(CH2)2-, -O-CO-(CH)2- からなる群より選択される式(1)の化合物は、以下の文献に記載の方法に準じて合成することができる。
(i) Synthesis of (24R)-28-homobrassinolide analogues and structure-activity relationships of brassinosteroids in the rice-lamina inclination test: S. Takatsuto, N. Yazawa, N. Ikekawa, T. Morishita and H. Abe, Phytochemistry, 22, 1393-1397 (1983)。
(ii) Synthesis and biological activity of brassinolide analogues, 26,27-bisnorbrassinolide and its 6-oxo analogue: S. Takatsuto, N. Yazawa and N. Ikekawa, Phyrochemistry, 23, 525-528 (1984).
(iii) Synthesis of brassinosteroids and relationship of structure to plant growth-promoting effects: M. J. Thompson, W. J. Meudt, N. B. Manava, S. R. Dutky, W. R. Lusby and D. W. Spaulding, Steroids, 39, 89-105 (1982)。
【0023】
(c) Xが- (CH)2-、-(CH)3-、-(CH)4、-CO-(CH2)2-、-CO-(CH2)3-、-CH2-CO-CH2-、-CO-O-CH2- 、-CO-O-(CH2)2-、-O-CO-CH2-、-O-CO-(CH2)2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-(CH2)2-、-O-CH2-、-O-(CH2)2-、-O-(CH2)3-、-NHY-CO-CH2-、-NHY-CO-(CH2)2-、-CO-NHY-CH2-、及び-CO-NHY-(CH2)2-からなる群より選択され、Y が水素あるいは低級アルキル基を示す、式(1)の化合物は、以下の文献に記載の方法に準じて合成することができる。
(i) structureアactivity studies of brassinolide B-ring analogues: D. L. Baron, W. Luo, L. Janzen, R. P. Pharis and T. G. Back, Phyrochemistry, 49, 1849-1858 (1998).
(ii) ブラシノライドB環部構造変換体のブラシノステロイド活性:平沼佐代子、瀬戸秀春、藤岡昭三、小林誠、吉田茂男、植物化学調節学会第36回大会研究発表記録集、pp. 13-14、2001.
【0024】
(d)R2〜R5 が独立して水素原子、アルキル基、及びアシル基からなる群より選択される式(1)の化合物は、以下の文献に記載の方法に準じて合成することができる。
(i) Bioactivity of brassinolide methyl esters: W. Luo, L. Janzen, R. P. Pharis and T. G. Back, Phyrochemistry, 49, 637-642 (1998).
(ii) Synthesis and bioactivity of C-2 and C-3 methyl ester derivatives of brassinolide: T. G. Back, L. Janzen, R. P. Pharis, Z. Yan, Phyrochemistry, 59, 627-634 (2002).
【0025】
本発明で投与の対象となる癌の具体例としては、悪性黒色腫、悪性リンパ腫、消化器癌、肺癌、食道癌、胃癌、大腸癌、直腸癌、結腸癌、尿管腫瘍、胆嚢癌、胆管癌、胆道癌、乳癌、肝臓癌、膵臓癌、睾丸腫瘍、上顎癌、舌癌、口唇癌、口腔癌、咽頭癌、喉頭癌、卵巣癌、子宮癌、子宮頸癌、前立腺癌、甲状腺癌、脳腫瘍、カポジ肉腫、血管腫、白血病、真性多血症、神経芽腫、網膜芽腫、骨髄腫、膀胱腫、肉腫、骨肉腫、筋肉腫、皮膚癌、基底細胞癌、皮膚付属器癌、皮膚転移癌、皮膚黒色腫などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。好ましくは、大腸癌、子宮頸癌などである。
【0026】
本発明の薬剤を患者に投与する場合の投与量は、患者の年齢、体重、癌の種類と進行度、症状等に応じて適宜設定することができるが、一般的には、成人一人一日当たり有効成分として0.1〜1000mg /kg体重、特に1〜100mg/kg体重を1〜数回に分けて投与することができる。
【0027】
本発明の薬剤の投与経路は、特に限定されず、例えば、経口投与、又は注射などの非経口投与により投与することができる。注射による投与を行う場合は、静脈注射、動脈注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射、筋肉内投与等を行うことができる。
【0028】
本発明の薬剤は、有効成分として含有する式(1)で示される化合物に加えて、医薬組成物で通常用いられている添加物を含有することができる。この様な任意の添加物としては、賦形剤、結合剤、崩壊剤、乳化剤、可溶化剤、分散剤、滑沢剤、コーティング剤、着色剤、安定剤、等張剤等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。腑形剤としては、乳糖、白糖、ブドウ糖などの糖類、デンプン、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム等の無機物、結晶セルロース、蒸留水、精製水、ゴマ油、ダイズ油、トウモロコシ油、オリーブ油、綿実油等の一般に使用されているものを例示することができる。本発明の薬剤は、これらの添加物を用いて常法によって製剤化することができる。また、本発明の薬剤は、他の医薬品(例えば、他の抗癌剤など)と混合して使用したり、併用することもできる。
【0029】
本発明の式(1)で示される化合物は、食品などに添加して使用することもできる。例えば、式(1)で示される化合物を食品に直接添加して健康章食品としてもよいし、食品の原料となる油脂に式(1)で示される化合物を添加し、この油脂を用いて健康食品を製造することもできる。
【0030】
健康食品の具体例としては、例えば、クッキーやヨーグルト等の菓子類、アイスクリーム等の冷菓類、茶、清涼飲料(ジュース、コーヒー、ココア等を含む)、栄養ドリンク剤、美容ドリンク剤等の飲料、パン、ハム、スープ、ジャム、スパゲティー、冷凍食品など任意の飲食品を挙げることができる。本発明の健康食品を摂取することにより抗癌効果が発揮することが期待できる。
【0031】
以下の実施例による本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(A)材料と方法
(1)細胞培養
本実施例では、Table.1およびSupplementary Figure 2Aに示した9種類のヒト由来ガン細胞を用いた。全ての細胞は、10%ウシ胎仔血清およびペニシリン(20 U/ml)、ストレプ
トマイシン(100 ug/ml)を含むDMEMまたはRPMI-1640培地中で、5%CO2存在下で37℃で培養した。
【0033】
(2)細胞増殖試験
癌細胞の増殖に対するブラシノステロイドの影響をMTTアッセイを用いてて検討した。ガン細胞を40 mMのブラシノライド、カスタステロンまたは合成グルココルチコイドであるデキサメタゾンの存在下で96-well-plate (1x104/well)で培養した。培養5日後、1 mg/mlのMTTを添加し、4時間後に培地を除去して04N 塩酸加イソプロパノールを加えてホルマザンを溶解し、OD595nmを測定した。
【0034】
(3)細胞障害試験
細胞障害試験は、Roche社製「細胞障害性検出キット」を用いて測定した。デキサメタゾン感受性株U937細胞および非感受性株HeLa細胞を40 mMのブラシノステロイドまたはデキサメタゾンの存在下で24時間培養し、培養上清中のLDH濃度を測定した。
【0035】
(4)レポーターアッセイ
グルココルチコイド受容体に応答するコンセンサス配列(gIucocorticoid receptor responsive element; GRE)の三回繰り返し配列をTATA-boxの上流に導入したルシフェラーゼレポーターベクターを作製した(Figure 2B)。このレポーターをRenilla(ウミシイタケ)レポーターベクター(プロメガ社製「phRL-SV40」)と共にそれぞれの細胞にQiagen社製「SuperFect transfection reagent」を用いて導入した。遺伝子導入36 時間後に40 mMのブラシノステロイドまたはデキサメタゾンを添加して、更に12時間培養後、細胞を溶解しルシフェラーゼ活性を測定し、Renillaルシフェラーゼ活性の値で補正した。
【0036】
(5)移植癌組織に対するブラシノステロイドの効果
in vivoにおけるブラシノステロイドの抗ガン作用を解析する目的で、ヌードマウス(BALB/c nu/nu)の皮下にHeLa細胞(2x106/mouse)を移植した。移植片の近傍皮下に天然型で最も活性の強いカスタステロンと合成類縁体の中で最も活性の強いiso-ブラシノライドを一日おきに投与(50 nmol/mouse)し、ガン体積の経時変化を比較した。ガン体積は長径 x 短径2 (mm2)として計算した。
【0037】
(6)マクロファージの腫瘍免疫活性に対するブラシノステロイドの効果
BALB/cマウスに3%チオグリコレート培地(Difco社製)を腹腔内投与し、3日後に腹腔内マクロファージを単離した。マクロファージによるNO産生に対するブラシノステロイドの影響を検討する目的で、40 mMのブラシノステロイドまたはデキサメタゾンの存在下でLPS刺激(100 ng/ml)し、培養24時間の上清中のNO2-濃度をプロメガ社製「Griess Reagent System」にて解析した。また、マクロファージの細胞障害活性に及ぼすブラシノステロイドの影響を検討するために、マクロファージ(2x106/ml)をブラシノステロイドまたはデキサメタゾン(40 mM)の存在下でIFN-g (100U/ml)で刺激した。24時間後に細胞を洗浄し、HeLa細胞(5x105)を添加して24時間培養し、細胞障害活性を培養上清中のLDH濃度を指標として測定した。
【0038】
(B)結果
(1)ヒト癌細胞株に対するブラシノステロイドの増殖抑制効果
植物ステロイドホルモンであるブラシノライド及びカスタステロンの化学構造と、合成グルココルチコイドであるデキサメタゾンの化学構造を図1のAに示す。表1に記載下8種類のヒト癌細胞を、40μMのブラシノライド(Bra)、カスタステロン(Cas)、デキサメタゾン(Dex)、又はビヒクル(対照)(Veh)と一緒に5日間培養し、細胞増殖をMTTアッセイで測定した。結果を図1のBに示す。データは、対照に対する平均%+SDで示す。*及び**は、p <0.01 及びp<0.001を示す。
【0039】
【表1】

【0040】
(2)細胞障害活性に対するブラシノステロイド及びデキサメタゾンの効果
デキサメタゾンによる増殖阻害に対して耐性の癌細胞(HeLa細胞)及び感受性の癌細胞(U937細胞)を、40μMのブラシノライド(Bra)、カスタステロン(Cas)、又はデキサメタゾン(Dex)と一緒に24時間培養した。細胞障害活性を、乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH)放出として測定し、ビヒクル対照(Veh)に対する倍率変化(Fold change)で示した。結果を図2に示す。データは、平均+SDで示す。*は、p <0.01を示す。
【0041】
(3)ブラシノステロイドは、グルココルチコイド受容体応答に影響しない。
ヒト癌細胞におけるGRαのmRNA発現をRT−PCRによって検出した。PCR産物を2%(w/v)アガロースゲルで泳動し、エチジウムブロミドで染色した。結果を図3のAに示す。陰性対照は、EBC-1 細胞のRTなしの対照 (noRT)である。
【0042】
GREレポーター構築物の模式図を図3のBに示す。ルシフェラーゼレポータは、TATAボックスの上流に3コピーのコンセンサスGREを含むように作製した。
【0043】
ヒト癌細胞におけるデキサメタゾンによるGRE媒介転写の活性化を示す実験結果を図3のCに示す。GREレポーター構築物を癌細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションの36時間後、細胞を40μMのデキサメタゾン(Dex)で12時間処理した。レポーターのルシフェラーゼ活性をRellinaルシフェラーゼ活性に標準化した。図3のCは、倍率変化(fold changes)を平均+SDで示す。
【0044】
図3のDは、GRシグナル伝達はブラシノステロイドでは誘導されないことを示す。HeLa細胞及びSaos-2細胞を、GREレポーターで一過性にトランスフェクションし、36時間培養した。細胞を、図中に示した濃度のブラシノライド(Bra)、カスタステロン(Cas)、デキサメタゾン(Dex)、又はビヒクル(対照)(Veh)でさらに12時間処理した。標準化したルシフェラーゼ活性の倍率変化(fold change)を平均+SDで示す。
【0045】
(4)ブラシノステロイドはヒト結腸癌WiDr-CT細胞の増殖を抑制し、デキサメタゾンは、この細胞の増殖を刺激する。WiDr-CT細胞の特徴を図4のAに示す。RT−PCRで検出したWiDr-CT細胞のGRαのmRNA発現を図4のAに示す。陰性対照は、WiDr-CT細胞のRTなしの対照である(noRT)。WiDr-CT細胞におけるデキサメタゾンによるGREに仲介された転写の活性化を図4のCに示す。WiDr-CT細胞の増殖に対するブラシノステライド及びデキサメタゾンの効果を図4のD及びEに示す。細胞を、図中に示した濃度のブラシノライド(Bra)、カスタステロン(Cas)、又はデキサメタゾン(Dex)と一緒に5日間培養し、細胞増殖をMTTアッセイで測定した。データは、対照(未処理)に対する平均%+SDで示す。*及び**は、p <0.01 及びp<0.001を示す。
【0046】
(5)子宮頸癌HeLa細胞に対するブラシノステロイド及びその誘導体の抗増殖効果
ブラシノステロイド誘導体の化学構造を図5のAに示す。HeLa細胞の増殖に対するブラシノステロイド誘導体の効果を図5のBに示す。HeLa細胞を、図中に示した濃度のブラシノステロイド又はその誘導体と一緒に5日間培養し、細胞増殖をMTTアッセイで測定した。データは、対照(未処理)に対する平均%で示す。標準偏差は10%程度である。
【0047】
(6)in vivoでの腫瘍増殖に対するブラシノステロイドの効果
HeLa細胞を接種し、ブラシノステロイドで処置したnu/nuマウスにおける腫瘍増殖を図6のAに示す。雌BALB/c nu/nu マウスに1x106 個のHeLa細胞をsc接種し、50nmoleのカスタステロン(Cas)、イソブラシノライド(iso−Bra)、又はビヒクル(Veh)で一日おきに処理した。腫瘍の大きさを図中に示した時点で測定し、平均腫瘍体積として示した。腫瘍投与後40日目における個々のマウスの腫瘍サイズを酢6のBに示す。横線は、各群の腫瘍体積の平均値を示す。腫瘍投与後50日目における各処置群における3匹の代表的マウスを図6のCに示す。
【0048】
(7)マクロファージの殺腫瘍活性に対するブラシノステロイドの効果
マウス腹膜マクロファージにおけるNO産生に対するブラシノステロイド及びデキサメタゾンの効果を図7のAに示す。TGC誘導腹膜マクロファージ(1x106細胞)を、20μMのブラシノライド(Bra)、カスタステロン(Cas)、又はデキサメタゾン(Dex)の存在下又は非存在下において48時間、LPS(100ng/ml)とともに培養した。培養上清中のNO2-をNO産生の指標として使用し、グリース(Griess)試薬を用いて測定した。マクロファージの細胞障害活性に対するブラシノステロイド及びデキサメタゾンの効果を図7のBに示す。マクロファージをIFN−γ(100U/ml)、及びブラシノステロイド又はデキサメタゾン(20μM)と一緒に48時間培養した。細胞を培地で3回洗浄し、HeLa細胞(1 x 105 細胞)と一緒に24時間共培養した。マクロファージの細胞障害活性は、培養上清中のLDH活性を測定することにより求めた。結果は、平均+SDで示す。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、ヒト癌細胞株に対するブラシノステロイドの増殖抑制効果を示す。
【図2】図2は、細胞障害活性に対するブラシノステロイド及びデキサメタゾンの効果を示す。
【図3】図3は、ブラシノステロイドは、グルココルチコイド受容体応答に影響しないことを示す。
【図4】図4は、ブラシノステロイドはヒト結腸癌WiDr-CT細胞の増殖を抑制し、デキサメタゾンは、この細胞の増殖を刺激することを示す。
【図5】図5は、子宮頸癌HeLa細胞に対するブラシノステロイド及びその誘導体の抗増殖効果を示す。
【図6】図6は、in vivoでの腫瘍増殖に対するブラシノステロイドの効果を示す。
【図7】図7は、マクロファージの殺腫瘍活性に対するブラシノステロイドの効果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で示される化合物を含む抗癌剤。
【化1】

(式中、R1 は 、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び1-エチル-2-メチルプロピル基からなる群より選択される。R2〜R5 は独立して、水素、低級アルキル基、及びアシル基からなる群より選択される。X は、-(CH)2-、-(CH)3-、-(CH)4、-CO-(CH2)2-、-CO-(CH2)3-、-CH2-CO-CH2-、-CO-O-CH2- 、-CO-O-(CH2)2-、-O-CO-CH2-、-O-CO-(CH2)2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-(CH2)2-、-O-CH2-、-O-(CH2)2-、-O-(CH2)3-、-NHY-CO-CH2-、-NHY-CO-(CH2)2-、-CO-NHY-CH2-、及び-CO-NHY-(CH2)2-からなる群より選択される。Y は水素あるいは低級アルキル基を示す。)
【請求項2】
下記式(1)で示される化合物を含む、癌細胞増殖抑制剤。
【化2】

(式中、R1 は 、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、2-メチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、及び1-エチル-2-メチルプロピル基からなる群より選択される。R2〜R5 は独立して、水素、低級アルキル基、及びアシル基からなる群より選択される。X は、-(CH)2-、-(CH)3-、-(CH)4、-CO-(CH2)2-、-CO- (CH2)3-、-CH2-CO-CH2-、-CO-O-CH2- 、-CO-O-(CH2)2-、-O-CO-CH2-、-O-CO-(CH2)2-、-CH2-O-CH2-、-CH2-O-(CH2)2-、-O-CH2-、-O-(CH2)2-、-O-(CH2)3-、-NHY-CO-CH2-、-NHY-CO-(CH2)2-、-CO-NHY-CH2-、及び-CO-NHY- (CH2)2-からなる群より選択される。Y は水素あるいは低級アルキル基を示す。)
【請求項3】
R1 が1,2-ジメチルプロピル基である、請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項4】
R2〜R5 が水素原子である、請求項1から3の何れかに記載の薬剤。
【請求項5】
X が-CO-(CH2)2-、-CO-(CH2)3-、-O-CO-CH2-、又は-CH2-CO-CH2-である、請求項1から4の何れかに記載の薬剤。
【請求項6】
式(1)で示される化合物が下記の何れかの化合物である、請求項1から5の何れかに記載の薬剤。
【化3】

【請求項7】
健康食品又は食品添加物として用いる請求項1又は2に記載の薬剤。
【請求項8】
請求項1に記載の抗癌剤を含む、健康食品又は食品添加物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−273866(P2008−273866A)
【公開日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−118269(P2007−118269)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【出願人】(503359821)独立行政法人理化学研究所 (1,056)
【Fターム(参考)】