説明

ブレンド米の混合比率判定方法及びその装置

【課題】わずか数十粒の抜き打ち検査で行われる定量検査を、母集団の混合比率に反映することを可能とする。
【解決手段】情報入力部2からの情報を基にして米1粒ごとの品種を判別し、その1粒の品種にあらかじめ測定した重量を記録する品種判別部6と、該品種判別部6により判別した各1粒の品種と重量とを集計し統計処理を行う統計処理部7と、該統計処理部7により算出した結果の検定を行う検定処理部8と、操作者が該検定処理部8に条件を設定する条件入力部9とを備え、粒数の計数により求めた混合比率を統計学的に検定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブレンド米に含まれる複数種の米の品種を判別し、その混合比率を判定する方法及びその装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一部の米穀販売業者において、高値で取り引きされる「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」及び「あきたこまち」に代表される良食味米品種に、良食味米以外の品種をブレンドした虚偽表示の米が販売されたことが問題となり、現在では、食糧法及び改正JAS法のもとで、米の包装の品種、産地、産年の表示が義務づけられるようになった。また、行政においてはブレンド米の虚偽表示の取り締まりを強化するため、米穀販売業者に対して、DNA鑑定、立入検査等の検査が実施されている。
【0003】
従来の「コシヒカリ」等の良質米に対する他の品種の混合の有無及び混合された品種をDNA鑑定する方法として、ある米に他の品種が混合しているか否かを、当該米粒若しくはその加工品から抽出したDNAを鋳型とするマルチプレックスPCR法を用いて判別するに際し、対象品種では識別バンドを発現せず、混合品種のみに選択的に発現するネガティブバンド識別用対合プライマー群を用いるものが知られている(特許文献1)。しかし、この技術は異品種が含まれているか否かを識別する定性検査の技術であって、当該品種の米の混合比率を算出する定量検査については正確さに欠けていた。
【0004】
すなわち、定量検査は米袋から無作為に数十粒の米粒を抽出し、この数十粒に対して1粒ずつDNA鑑定を行って品種名を判別し、その粒数を計数することで混合比率を算出する方法であり、正確さに欠ける原因としては、米穀販売業者が行っている混米工程においては重量比率で管理していたものを、定量検査の段階で粒数比率によって混合比率を算出することが挙げられる。
【0005】
図9は混米計量装置の一例を示す概略図であるが、この混米計量装置100は、異なる品種の米が貯留された複数のタンク101A〜Fと、各タンク下端に設けた排出バルブ102A〜Fと、床(図示せず)に敷設された走行レール103と、計量手段104を備えて走行レール103上を移動する計量台車105と、計量台車105上に載置されて前記複数のタンク101から排出される米を受ける容器106と、容器106内に蓄積された米を混合する混合装置107と、混合装置107によって混合された米を精品として排出する排出樋108とを備えたものである。
【0006】
この混米計量装置100において、例えば、販売員が10kg入りの米袋に「コシヒカリ」50%、「ひとめぼれ」50%のブレンド米を充填しようとする場合について説明する。まず、レール103上に移動可能に載置されている計量台車105を走行させて、「コシヒカリ」が貯留されているタンク101Bの下方位置に停止させる。そして、計量制御部などによりバルブ102Bを作動させて、「コシヒカリ」をタンク101Bから容器106に投入させる。そして、計量手段104にあらかじめ設定した重量(この場合、10[kg]×0.5=5.0[kg])の「コシヒカリ」が投入されるとバルブ102Bを停止させる制御を行う。次に、「ひとめぼれ」の計量を行うときは、タンク101Aが設けられている位置に計量台車105を移動させ、「ひとめぼれ」を計量手段104にあらかじめ設定した重量(この場合、10[kg]×0.5=5.0[kg])だけ計量するようにバルブ102Aを制御する。そして、計量が終了すると、計量台車105を混合装置107近傍に移動させ、容器106内の米を混合装置107に投入し、得られたブレンド米を精品排出樋108から取り出して米袋に充填する。
【0007】
上述のように、一般的な混米工程においては混米比率を重量比率で管理しており、混合装置107による撹拌・混合が十分に行われていない場合、精品米袋内で原料が偏在しているおそれがある。したがって、仮に無作為に抽出した48粒の米粒のうち、DNA鑑定によって25粒が「コシヒカリ」、23粒が「ひとめぼれ」と品種が判定されると、「コシヒカリ」対「ひとめぼれ」の混合比率は52%対48%と算出され、実際の混合比率50%対50%と比較すると誤差が生じるのである。
【0008】
すなわち、無作為に抽出した数十粒の粒数比率をもって、米袋全体の混合比率として断定することは危険であって、混米工程における撹拌・混合の程度のほか、品種ごとに個々の粒間に重量のバラツキがあることも混合比率の精度が劣る大きな要因になっている。
【特許文献1】特開2003−135082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点にかんがみ、わずか数十粒の抜き打ち検査で行われる定量検査を、母集団の混合比率に反映することができるブレンド米の混合比率判定方法及びその装置を提供することを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため本発明は、複数種の米を混合したブレンド米を母集団とみなし、該母集団から一定量の米をサンプル試料として複数組の抽出を行い、前記サンプル試料について米1粒ごとに重量を測定した後、米1粒ごとのDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型としてPCR法を用いて米1粒の品種判別を行い、米1粒ごとの重量、該重量に対応する品種及び該品種に基づいて計数した粒数から前記複数組のサンプル試料についてそれぞれの混合比率を算出し、該複数組の混合比率について前記母集団に反映するデータであるか否かを等分散の検定及び母平均の検定を用いて計算し、その後、二項分布の検定を用いて前記複数組の混合比率の出現確率を計算して当該混合比率が有効か否かを決定し、有効な混合比率を母集団の混合比率として再表示する、という技術的手段を講じた。
【0011】
また、前記複数組の混合比率の出現確率は、多項分布の検定を用いて計算するとよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数種の米を混合したブレンド米から抽出したわずか数十粒のサンプルにより、サンプルが等分散であるか否かを推定するとともに、母集団の分布の特徴を母平均により推定し、抽出したサンプルの信頼性を検定することが可能となる。そして、従来の粒数の計数によって得られた混合比率を、二項分布を用いて混合比率の算出をやり直すので、推定した混合比率がどの程度確率的に起こり得るのかを判定することができる。つまり、通常ではあり得ない混合比率が従来の粒数の計数によって求められた場合は、有意水準によってこれを排除することにより、混合比率をより精度よく再表示することができる。
【0013】
また、複数組の混合比率の出現確率は、多項分布の検定を用いて計算を行うと、3品種以上の米が混合されているブレンド米であっても検定が可能となり、その混合比率をより精度よく再表示することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明における米の対象品種としては、例えば「コシヒカリ」、「ひとめぼれ」、「あきたこまち」、「ササニシキ」等の良食味米をはじめとするうるち米、酒造好適米、もち米についての分析が可能である。
【0015】
これらの米の定量検査を行う工程について図1を参照して説明する。まず、「コシヒカリ」50%,「ひとめぼれ」50%の比率で混米した原料から適宜なサンプル抽出手段により、例えば、300g〜10kgを試料として抽出する(ステップ1)。次に、抽出した試料の分割と縮分を行う(ステップ2)。分割には、例えば、実公昭63-23377号公報に開示された分割器を使用して試料を1対1に分割するとよく、1対1の分割を繰り返して試料を48粒まで縮分する。分割器に投入した最初の試料が1kgであった場合、数十回の分割作業により48粒まで縮分することができる。そして、48粒にまで縮分した試料を母集団の混合比率を反映しているサンプルとし、分析天秤(島津製作所製、AW320)により1粒ずつ重量測定を行う(ステップ3)。
【0016】
次に、公知の方法によって1粒ごとにDNA品種判別を行う。まず、マイクロチューブ内に重量測定済みの米1粒と硬質ビーズとを投入し、サンプル粉砕装置(クラボウ製、SH-100)にセットし粉砕を行う(ステップ4)。粉砕後はCTAB法によってDNA抽出を行う(ステップ5)。例えば、マイクロチューブ内の試料にCTAB溶液(0.1M
トリス塩酸、2mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウム、1.4M NaCl(pH8.0))を加えて撹拌し、恒温槽に入れた後、再びCTAB溶液を加え、所定時間静置して抽出することにより、ゲノムDNAを得ることができる。
【0017】
次いで、プライマーの共存下に、上記ゲノムDNAを鋳型とするPCR法を行う(ステップ6)。これは、ゲノムDNAのうち、次のPCR用の対合プライマー設計の基となる品種間の識別性を有する塩基配列を増幅させるために行うものである。ここで本発明におけるPCR法とは、DNAポリメラーゼによるDNA複製の連鎖反応を指す。すなわち、鋳型となるDNAに耐熱性DNAポリメラーゼ及びプライマーの共存下で約90〜96℃の高温処理過程(変性)、約30〜70℃のプライマー・DNA結合過程(アニーリング)、約70〜75℃のDNA複製過程(伸長)の3過程を20〜60サイクル繰り返すことにより、約100万倍〜10億倍に増加させる(増幅)反応をいう。
【0018】
続いて、PCRで得られる増幅DNAの電気泳動を行う(ステップ7)。これは増幅産物のうち、目的とする対合プライマーを設計するための基となる、品種間の識別性の現れる塩基配列であることを示すバンドを検出するためである。ここで電気泳動とは、PCR法によって増幅されたDNAが、アガロースやポリアクリルアミドのゲル中を直流電荷に引かれて移動する際に、DNAの分子量の差によって分離され、臭化エチジウムによって帯状に染色されてバンドとして増幅DNAの相違が検出される操作をいう。
【0019】
上記電気泳動のバンドパターンを解析することにより、マイクロチューブ内に投入された米1粒の品種鑑定を行う(ステップ8)。
【0020】
上記ステップ1〜ステップ3の米1粒の重量測定及びステップ4〜ステップ8の品種鑑定は、図2に示す装置によって結果が表示される。
【0021】
図2は混合比率を判定する処理装置1であり、処理装置1内のコンピュータ2の情報入力部3には、米粒1粒ごとに重量を測定する重量測定装置4と、PCR法によって得られる増幅DNAの電気泳動を読み取る電気泳動読取装置5とが接続されている。また、コンピュータ2としては、情報入力部3からの情報を基にして米粒1粒ごとの品種を判別し、その1粒の品種にあらかじめ測定した重量を記録する品種判別部6と、該品種判別部6により判別した各1粒の品種と重量とを集計し統計処理を行う統計処理部7と、該統計処理部7により算出した結果の検定を行う検定処理部8と、操作者が該検定処理部8に条件を設定する条件入力部9とを備えている。また、コンピュータ2には、ハードディスクからなる記憶装置10と、キーボード及びマウスからなる操作装置11と、CRTモニタ又は液晶モニタからなる表示装置12とが接続されている。
【0022】
処理装置1の作用を説明する。処理装置1は、図1のステップ1からステップ2に基づいて試料を48粒に縮分した後、重量測定装置4から1粒ごとの重量情報及び電気泳動読取装置5から1粒ごとの品種情報が情報入力部3に入力され、品種判別部6ではこの情報を基に品種判別が行われる。そして、品種判別が行われた粒は統計処理部7において集計処理される。この処理は異なるロットで3回繰り返して実行され、その結果が表示装置12に表示される(表1参照)。
【表1】

【0023】
次に、検定処理部8では表1のデータの信頼性について検定が行われる。すなわち、検定処理部8では、等分散の検定、母平均の検定を行った後、二項分布検定又は多項分布検定が行われる。
【0024】
図3は等分散の検定実行処理を示すフローチャートである。まず、ステップ10において、検定したい2群について「分散に差がない」とする帰無仮説と、2群について「分散に差がある」とする対立仮説とを設定しておく。
【0025】
次に、比較するサンプルの平方和Sを算出し(ステップ11)、比較するサンプルの平均平方Vを算出し(ステップ12)、比較する平均平方Vの比F値を算出する(ステップ13)。
【0026】
検定したい2群について「分散に差がない」場合、F値は自由度(n−1,n−1)のF分布に従う。このF分布表の値と、ステップ13で算出したFとを比較する(ステップ14)。F分布表の値は帰無仮説の棄却域であり、Fの値がF分布表の値よりも大きければ帰無仮説は棄却されず、帰無仮説は否定されないことになる。
【0027】
ステップ14の判定の結果、表1のデータが「等分散に差がある」と判定された場合、検定作業を終了するとともに、図1のステップ1に戻ってサンプルの採取をやり直すことになる(ステップ15)。「等分散に差がない」と判定された場合、検定したい2群について、全ての検定項目が終了したか否かを判断する(ステップ16)。検定したい2群については、表1を参照すると、
(1).ロット1「コシヒカリ」とロット2「コシヒカリ」、
(2).ロット1「コシヒカリ」とロット3「コシヒカリ」、
(3).ロット2「コシヒカリ」とロット3「コシヒカリ」、
(4).ロット1「ひとめぼれ」とロット2「ひとめぼれ」、
(5).ロット1「ひとめぼれ」とロット3「ひとめぼれ」、
(6).ロット2「ひとめぼれ」とロット3「ひとめぼれ」、
(7).ロット1+2+3「コシヒカリ」とロット1+2+3「ひとめぼれ」、
の7項目を選択することができる。以上の7項目について等分散の検定が終了した場合は、次工程の母平均の検定に移行する。
【0028】
図4は母平均の検定実行処理を示すフローチャートである。まず、ステップ20において、検定したい2群について「母平均に差がない」とする帰無仮説と、2群について「母平均に差がある」とする対立仮説とを設定しておく。
【0029】
次に、比較するサンプルの質量平均、自由度及び母標準偏差から母標準偏差の推定値を算出し(ステップ21)、比較するサンプルのt値を算出する(ステップ22)。
【0030】
検定したい2群について「母平均に差がない」場合、t値は自由度φ=n+n−2)のt分布に従う。このt分布表からt(φ,0.05)のときの値と、ステップ22で算出したt絶対値とを比較する(ステップ14)。t分布表の値は帰無仮説の棄却域であり、tの値がt分布表の値よりも大きければ帰無仮説は棄却されず、帰無仮説は否定されないことになる。
【0031】
ステップ23の判定の結果、表1のデータが「母平均に差がある」と判定された場合、検定作業を終了するとともに、図1のステップ1に戻ってサンプルの採取をやり直すことになる(ステップ24)。「母平均に差がない」と判定された場合、検定したい2群について、全ての検定項目が終了したか否かを判断する(ステップ25)。検定したい2群については、前述と同様に、
(1).ロット1「コシヒカリ」とロット2「コシヒカリ」、
(2).ロット1「コシヒカリ」とロット3「コシヒカリ」、
(3).ロット2「コシヒカリ」とロット3「コシヒカリ」、
(4).ロット1「ひとめぼれ」とロット2「ひとめぼれ」、
(5).ロット1「ひとめぼれ」とロット3「ひとめぼれ」、
(6).ロット2「ひとめぼれ」とロット3「ひとめぼれ」、
(7).ロット1+2+3「コシヒカリ」とロット1+2+3「ひとめぼれ」、
の7項目を選択することができる。以上の7項目について母平均の検定が終了した場合は、次工程の二項分布の検定に移行する。
【0032】
二項分布とは、1回の試行において、ある事象Aの実現する確率がp(0<p<1)であるとき、試行を独立にn回繰り返し、この事象Aがx回実現する確率p(x)が、(1)式で定まる確率分布に従うときの分布をいい、この分布はnとpによって定まる。
【数1】

【0033】
この二項分布は、有限母集団の場合、サンプル抽出後、母集団に戻す復元抽出か母集団に戻さない非復元抽出かによって分布が異なるが、無限母集団の場合、復元抽出であっても非復元抽出であっても分布は一致する。本実施形態の母集団(すなわち、米袋に充填されている米の粒数)は本来有限であって、非復元抽出であるから超幾何分布を仮定しなければならないが、抽出粒数nと比較して母集団の粒数は非常に大きいので、無限母集団とみなし二項分布に従うと仮定する。
【0034】
無限母集団から米n粒を抽出したとき、A品種がx粒である確率は(2)式の二項分布に従う。
【数2】

【0035】
図5は二項分布の検定実行処理を示すフローチャートである。まず、米1粒あたりの重量比率が同じであると仮定し、ステップ30において、「A品種である確率は2分の1である」とする帰無仮説Hと、「A品種である確率は2分の1でない」とする対立仮説Hとを設定しておく。
【0036】
次に、表1に示すロットごとに検定を行う(ステップ31)。ロット1の場合、抽出した48粒中、A品種(コシヒカリ)が0粒〜20粒含まれる確率は(3)式で算出される。
【数3】

【0037】
p=1/2の場合、二項分布は平均に対して対称であるから、抽出した48粒中、A品種(コシヒカリ)が28粒〜48粒含まれる確率は(3)式と同じ確率となる。ゆえに、抽出した48粒中、A品種(コシヒカリ)が0粒〜20粒含まれる確率と、A品種(コシヒカリ)が28粒〜48粒含まれる確率とを加算した確率は(4)式となる。
【数4】

【0038】
次に、帰無仮説を棄却するかどうかを判定する基準有意水準5%で判断する(ステップ32)。ここで 有意水準5%とは同様の検定を行うと、20 回に 1 回は得られた結論が誤っていることを表す。図6は48粒についての二項分布を示すグラフであるが、斜線で示す有意水準5%以下の棄却領域は「A品種は50%で混ざっていることを否定」し、帰無仮説は成立しないことを示す。なお、ロット2の場合、抽出した48粒中、A品種(コシヒカリ)が0粒〜17粒含まれる確率と、A品種(コシヒカリ)が31粒〜48粒含まれる確率とを加算した確率は5.94%であり、かろうじて有意水準5%を上回っていることになる。有意水準5%以下の棄却領域となるA品種が抽出される粒数は以下の表2のとおりである。
【表2】

【0039】
ステップ32の判定の結果、確率が有意水準を下回る場合、検定作業を終了するとともに、図1のステップ1に戻ってサンプルの採取をやり直すことになる(ステップ33)。確率が有意水準を上回る場合、全てのロットで検定が終了したか否かを判断する(ステップ35)。
【0040】
以上のように、等分散、母平均及び二項分布の検定が終了すると、図2に示す表示装置12には、二項分布の検定結果から表1の結果を訂正し、「混合比率が「コシヒカリ」50%,「ひとめぼれ」50%となるのは非常に高い確率で起こり得る」と表示される。
【0041】
次に、3品種の混合を考える。品種A,B,Cの3品種の混合であるから、それぞれの品種の割合が、P,P,Pとなるように混合したとする。ただし、P+P+P=1である。n粒を調べたとき、それぞれn粒,n粒,n粒であり、合計n粒が測定されたとする。全部でn粒調べて、A品種がnA粒,B品種がnB粒,C品種がnC粒である確率は(5)式のようになる。
【数5】

【0042】
図7は3品種混合による検定実行処理を行うフローチャートである。まず、ステップ40において、初期データとして、帰無仮説HとなるA品種ブレンド比率、B品種ブレンド比率、C品種ブレンド比率を設定するとともに、実際の判定粒数であるA品種、B品種、C品種の粒数をそれぞれ入力する。
【0043】
次に、A品種、B品種、C品種の各ブレンド比率の和が100%か否か、A品種、B品種、C品種の各判定粒数の和が48粒か否かを判断する(ステップ41)。そして、ブレンド比率の和が100%でないか又は判定粒数の和が48粒でない場合はエラー表示を行う(ステップ42)。ブレンド比率の和が100%であり、判定粒数の和が48粒である場合は、全てのとりうる組み合わせ別に確率を算出し(ステップ43)、確率順での並び替え及び確率一覧のデータ出力が行われる(ステップ44)。その後、帰無仮説を棄却するかどうかを基準有意水準5%で判断する(ステップ45)。このときの確率分布のグラフを図8に示す。
【0044】
5%領域にいる場合、5%危険率で想定したブレンド比率(ステップ40)を否定できるので、検定作業を終了するとともに、図1のステップ1に戻ってサンプルの採取をやり直すことになる(ステップ46)。5%領域にいない場合、5%危険率で想定したブレンド比率を否定できないので、「ステップ40で想定したA品種、B品種、C品種の各ブレンド比率は、非常に高い確率で起こり得る」と表示される(ステップ47)。
【0045】
なお、図7は3品種混合による検定実行処理であるが、3品種以上の4品種混合、5品種混合、…、n品種混合であっても、品種のパラメータを追加するのみで検定処理が実行可能となる。
【0046】
以上のように、ブレンド米から抽出した48粒のサンプルの品種、粒数及び重量を計数し(表1参照)、この48粒のサンプルについてロットごとに等分散であるか否かを推定するとともに、ロットごとに母平均であるか否かを推定し、抽出したサンプルの信頼性を検定することが可能となる。そして、ロットごとに二項分布又は多項分布を用いて混合比率の算出をやり直すので、推定した混合比率がどの程度確率的に起こり得るのかを判定することができる。つまり、表1のような粒数の計数により、通常ではあり得ない混合比率が求められた場合は、有意水準によってこれを排除することができ、混合比率をより精度よく再表示することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ブレンド米の混合比率を判定する方法の工程を示すフロー図である。
【図2】ブレンド米の混合比率を判定する処理装置のブロック図である。
【図3】等分散の検定実行処理を示すフローチャートである。
【図4】母平均の検定実行処理を示すフローチャートである。
【図5】二項分布の検定実行処理を示すフローチャートである。
【図6】48粒についての二項分布を示すグラフである。
【図7】3品種混合による検定実行処理を行うフローチャートである。
【図8】3品種ブレンド米の確率分布を示すグラフである。
【図9】混米計量装置の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
【0048】
1 処理装置
2 コンピュータ
3 情報入力部
4 重量測定装置
5 電気泳動読取装置
6 品種判別部
7 統計処理部
8 検定処理部
9 条件入力部
10 記憶装置
11 操作装置
12 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数種の米を混合したブレンド米を母集団とみなし、該母集団から一定量の米をサンプル試料として複数組の抽出を行い、
前記サンプル試料について米1粒ごとに重量を測定した後、米1粒ごとのDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型としてPCR法を用いて米1粒の品種判別を行い、
米1粒ごとの重量、該重量に対応する品種及び該品種に基づいて計数した粒数から前記複数組のサンプル試料についてそれぞれの混合比率を算出し、
該複数組の混合比率について前記母集団に反映するデータであるか否かを等分散の検定及び母平均の検定を用いて計算し、
その後、二項分布の検定を用いて前記複数組の混合比率の出現確率を計算して当該混合比率が有効か否かを決定し、
有効な混合比率を母集団の混合比率として再表示することを特徴とするブレンド米の混合比率判定方法。
【請求項2】
前記複数組の混合比率の出現確率は、多項分布の検定を用いて計算してなる請求項1記載のブレンド米の混合比率判定方法。
【請求項3】
複数種の米を混合したブレンド米を母集団とみなし、該母集団から一定量の米をサンプル試料として複数組の抽出を行うサンプル抽出手段と、
前記サンプル試料について米1粒ごとに重量を測定する重量測定手段と、
米1粒ごとのDNAを抽出し、抽出したDNAを鋳型としてPCR法で得られる増幅DNAの電気泳動を読み取る電気泳動読取手段と、
前記品種情報から得られる電気泳動のバンドパターンを解析して米1粒の品種判別を行う品種判別手段と、
米1粒ごとの重量、該重量に対応する品種及び該品種に基づいて計数した粒数から前記複数組のサンプル試料についてそれぞれの混合比率を算出する統計処理手段と、
前記複数組の混合比率について前記母集団に反映するデータであるか否かを等分散の検定及び母平均の検定を用いて計算した後、二項分布の検定を用いて前記複数組の混合比率の出現確率を計算して当該混合比率が有効か否かを決定する検定処理手段と、
該検定処理手段により決定された有効な混合比率を母集団の混合比率として再表示する表示手段と、
を備えたことを特徴とするブレンド米の混合比率判定装置。
【請求項4】
前記検定処理手段は、前記複数組の混合比率の出現確率を多項分布の検定を用いて計算してなる請求項3記載のブレンド米の混合比率判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−101819(P2006−101819A)
【公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−295640(P2004−295640)
【出願日】平成16年10月8日(2004.10.8)
【出願人】(000001812)株式会社サタケ (223)
【Fターム(参考)】