説明

ブレーキディスクローター

【課題】摺動板上に設けられた溝と正対するブレーキパッドの磨耗量を均一化してブレーキパッドの寿命を増大させるとともに、ブレーキディスクローターとブレーキパッドの摺接部の面圧を均一化してブレーキ鳴きの発生を防止する。
【解決手段】摺動板の摺動面上に、曲線状の溝3を当該摺動板の回転方向に複数設け、この溝3の一点の接線が当該摺動板の回転方向の中心から当該溝3上の一点に向かって引いた直線と成す角度の余弦と、当該溝3上の一点と前記両摺動板の回転方向の中心との距離の二乗との積が、当該溝3上のどの点でも略一定になるように溝3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両その他で使用されるディスクブレーキ装置のブレーキディスクローターに関する。
【背景技術】
【0002】
ブレーキディスクローターは、車軸方向に離間して配設された円板状の内側用摺動板、外側用摺動板間に放射状の複数のフィンを形成し、各隔壁間に入口開口、出口開口および放射状のベンチホールを形成するものである。
【0003】
制動時のブレーキディスクローターとブレーキパッドとの摩擦摺動によって発生する種々の炭化物および異物がブレーキディスクローターとブレーキパッドとの間に介在することにより生ずる制動力の減少、ブレーキ鳴き等を防止するため、特許文献1に示すように円盤板状摺動板に種々の溝を設けることが公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−314597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来のブレーキディスクローターは、円板状摺動板の摺動面に満遍なく溝が掘られているのでブレーキパッドに対する溝の攻撃性は全面均一である一方、ブレーキディスクローターとブレーキパッドの摺接面はブレーキディスクローターの半径方向外側にいくほど周速度が速いので摺接部の磨耗が早く進み、ブレーキパッドが半径方向外側にいくほど磨耗量が大きくなるという問題があった。
【0006】
ブレーキディスクローターは、ブレーキパッドに比べて硬くて磨耗しにくい材料を使用しているので、半径方向外側と半径方向内側の磨耗量の差はさほどではないが、ブレーキパッドは磨耗しやすい材料を使用しているので、このブレーキパッドが半径方向外側に向かうほど磨耗量が大きくなる現象は、ブレーキディスクローターとブレーキパッドの摺接部の磨耗が進むにつれ、ブレーキキャリパの油圧ピストンがブレーキパッドを押圧する際に当該摺接部での面圧の不均一を招きブレーキ鳴きの一因になったり、当該油圧ピストンがブレーキパッドを押圧する時に油圧シリンダーとの勘合ガタ分だけ傾くのでブレーキ油圧徐荷後の油圧ピストンの原位置への戻り不良を起こす一因になっていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のブレーキディスクローターは、これらの問題を鑑みてなされたもので、請求項1に記載の本発明は、円板状摺動板の厚み方向に設けられた摺動面の曲線状の溝が前記摺動板の回転方向に複数設けてなり、この曲線状の溝上の一点の接線が前記円板状摺動板の回転方向の中心から当該溝上の一点に向かって引いた直線と成す角度の余弦と、当該溝上の一点と前記両摺動板の回転方向の中心との距離の二乗との積が当該溝上のどの点でも略一定になるように当該溝が形成されているものである。
【発明の効果】
【0008】
上記構成によりなる本発明のブレーキディスクローターは、円板状摺動板の厚み方向に設けられた摺動面の曲線状の溝が前記摺動板の回転方向に複数設けられててなり、この曲線状の溝上の一点の接線が前記円板状摺動板の回転方向の中心から当該溝上の一点に向かって引いた直線と成す角度の余弦と、当該溝上の一点と前記両摺動板の回転方向の中心との距離の二乗との積が当該溝上のどの点でも略一定になるように当該溝が形成されているので、当該溝の制動時におけるブレーキパッドに対する攻撃性が溝上のどの点でも等しくなり、ブレーキパッドの磨耗の不均一性が解消しブレーキパッドの寿命が向上するととも、ブレーキパッドの不均一磨耗の結果発生していたブレーキ鳴きや、ブレーキキャリパの油圧ピストンのブレーキ油圧徐荷後の原位置への戻り不良が発生しにくいという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の実施例を示すブレーキディスクローターの正面図
【図2】図1におけるA−A線に沿う断面図
【図3】図1における溝の作用を示す詳細図
【図4】従来のブレーキディスクローターを示す正面図
【図5】実施例のブレーキディスクローターが車両に搭載された状態を示す一部を省略した斜視図
【図6】実施例のブレーキディスクローターが車両に搭載された状態を示す断面図
【図7】本発明の別の実施例を示すブレーキディスクローターの正面図
【図8】従来のブレーキディスクローターの周辺部品の磨耗状態と作用を示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を図1乃至図8に基づいて説明する。
【実施例】
【0011】
図5に本発明を適用した自動車をリフトアップした状態で下から見たものを示す。各ディスクホィールDWの内側に配設したダストシールドDSの空気取入口ILより吸入した空気をブレーキディスクローター1の入口開口31からベンチホール4に導入することで制動により発生した摩擦熱を冷却するもので図1乃至図8を用いて詳細に説明する。
【0012】
実施例のブレーキディスクローターは図1の本発明の正面図および図2の本発明の断面図に示す部材構成で成立している。即ち、ブレーキディスクローター1の車両外側の摺動板12は、図2の車両内側の摺動板11とともに段部13を介して締付け用の穴を有する取付け部14と一体に形成されている。フィン2は、厚さ4から6mmで車両内側用摺動板11および外側摺動板12の間に半径110mmから半径170mmの範囲に放射状に一体形成されている。
【0013】
そして、ブレーキディスクローター1は、図6の車軸ASの軸方向に離間して配設された円板状の内側および外側の各摺動板11および12と、当該摺動板11および12の間に摺動板の半径方向に放射状に配設された隔壁を構成する複数のフィン2と、摺動板11および12の間において半径方向内方および外方に開口した複数の開口31および32と、各摺動板11および12と隣合うフィン2とによって形成される通路を構成する複数のベンチホール4と、各摺動板11および12に形成された溝3とから成る。
【0014】
図3に本発明の溝部の詳細図を示す。ブレーキディスクローター1の摺動板12の摺動面上には溝3が6個形成されている。溝3の任意の一点G1の接線T1と、摺動板の回転方向の中心Oと前記G1とを結んだ直線S1との成す角度θ1の余弦cosθ1と、G1とOとの距離R1の二乗との積(R1×R1×cosθ1)の値が、この溝3のどの点においても略一定になるように溝形状が形成されている。
【0015】
即ち、この溝3の別の任意の一点G2の接線T2と、摺動板の回転方向の中心Oと前記G2とを結んだ直線S2との成す角度θ2の余弦cosθ2と、G2とOとの距離R2の二乗との積(R2×R2×cosθ2)が略等しくなるように溝3が形成されている。これを式に表すと下記のようになる。
R1×R1×cosθ1≒R2×R2×cosθ2≒R3×R3×・・・。なお、摺動板11の摺動面上にも、図1に破線で一部を表示してあるとおり、摺動板12の摺動面上の溝3に対して回転方向に30度位相をずらした状態で溝3が6個形成されている。
【0016】
ブレーキパッド23に対する溝3の攻撃性即ち摩擦エネルギーは、溝3上の点の周速度(V)の二乗に比例して半径方向外側に近づくほど大きくなる。ブレーキディスクローター1の角速度(ω)は一定なので、当該攻撃性は溝3上の点の摺動板の回転方向の中心Oとの距離(R)の二乗に比例することになる。一方、溝3が摺動板の回転方向に対し角度θだけ傾いている場合のブレーキパッド23に対する溝3の攻撃性は、角度θの余弦に比例する。従って、溝3上の任意の点におけるブレーキパッド23に対する攻撃性はR×R×cosθで表せる。
【0017】
このR×R×cosθの値は任意に設定可能であるが、本発明の効果をより有効に発揮させるためには35から85の範囲が好ましく、実施例では65に設定してある。この単位はcmの二乗であり、数字が大きくなるほど当該溝3が放射状に近づきブレーキパッド23に対する攻撃性が強くなる。
【0018】
また、この溝3の曲線は任意に分割して摺動板の回転方向にずらして配置することが可能である。図7に本発明の別の実施例として当該溝を二分割した場合を示す。当該分割部分は摺動面の中央付近に位置しブレーキキャリパ21の油圧ピストン22の押圧力が直接印加される部分でなので、分割された溝同士を摺動板の半径方向で寸度δだけラップさせることにより、当該ラップ部分の円周上では溝個数が二倍の12個になるので溝個数を二倍に増やした場合に近い制動効果が得られる。一方、溝加工部の長さの合計は二分割する前に比べてわずかに増えただけなので加工費の増加を少なく抑えたまま二倍近い制動効果が得られるという効果を奏する。
【0019】
図4の従来のブレーキディスクローター1の場合は、溝上の点が半径方向外側に近づくにつれて前記の角度θが小さくなる。従って、R×R×cosθの値は半径方向外側に近づくにつれて大きくなり、ブレーキパッド23に対する攻撃性が増大する。これにより、ブレーキパッド23が半径方向内側に比べて半径方向外側での磨耗が大きくなる。
【0020】
その結果、図8に示すようにブレーキキャリパ21の油圧ピストン22がブレーキパッド23を押圧する際にブレーキディスクローター1とブレーキパッド23の摺接部の面圧の不均一を招きブレーキ鳴きが発生したり、当該油圧ピストン22がブレーキパッド23を押圧する時に、ブレーキキャリパ21に油圧ピストン22が入る油圧シリンダー穴と油圧ピストン22との勘合ガタ分の角度ψだけ傾くのでブレーキ油圧徐荷後の油圧ピストン22の原位置への戻り不良が起こたっりという不具合が発生していた。
【0021】
上述の実施例は、説明のため例示したもので、前記の車両内側と外側の複数の摺動板を具備したブレーキディスクローターに限定されるものではなく、1枚の摺動板に対しても有効である。また、本発明としてはそれらに限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から当業者が認識できる本発明の技術思想に反しない限り変更および付加が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明は、ブレーキディスクローターに限定されるものではなく、回転する円盤を有する産業用機器にも適用できる。
【符号の説明】
【0023】
1 ブレーキディスクローター
2 フィン
3 溝
4 ベンチホール
11 内側摺動板
12 外側摺動板
13 段部
14 取付部
21 ブレーキキャリパ
22 油圧ピストン
23 ブレーキパッド
31 入口開口
32 出口開口


【特許請求の範囲】
【請求項1】
車軸方向に離間して配設された円板状摺動板と、両摺動板間に配設された隔壁からなり、この隔壁が当該摺動板間に複数形成されることで半径方向内方から外方に向かって開口する複数の入口開口および出口開口が形成されてなるブレーキディスクローターであって、前記両摺動板は、摺動面上に曲線状の溝を当該摺動板の回転方向に複数有しており、この溝上の一点の接線が前記両摺動板の回転方向の中心から当該溝上の一点に向かって引いた直線と成す角度の余弦と、当該溝上の一点と前記両摺動板の回転方向の中心との距離の二乗との積が当該溝上のどの点でも略一定になるように当該溝を形成して成ることを特徴とするブレーキディスクローター。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−44342(P2013−44342A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−180472(P2011−180472)
【出願日】平成23年8月22日(2011.8.22)
【出願人】(310008147)株式会社クリエイトエンジニアリング (5)
【Fターム(参考)】